Tumgik
#水浸しの数え唄
electrosquash · 2 years
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Suddenly i'm being 12 year old and rocking out again
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kachoushi · 4 months
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各地句会報
花鳥誌 令和6年1月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和5年10月2日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
日本海見ゆる風車や小鳥来る 泰俊 駅近の闇市跡に後の月 同 山門を標とするや小鳥来る 同 師の墓の燭新涼のほむらかな 匠 渡り鳥バス停一人椅子一つ 啓子 紫に沈む山河を鳥渡る 希 ひらひらと行方知らずや秋の蝶 笑 なりはひの大方終了九月尽 数幸
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月4日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
朱の色に蝋涙たれし日蓮忌 ただし コスモスのたなびく道を稚児の列 洋子 抱かれて稚児は仏よ日蓮忌 同 めらめらと朱蝋のうねり日蓮忌 同 ピストルの音轟ける運動会 誠
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月5日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
友の墓秋空の下悠然と 喜代子 棟上げの終はりし実家や竹の春 由季子 菊人形幼き記憶そのまゝに さとみ 長き夜や楽し思ひ出たぐり寄せ 都 強持てに進められたる温め酒 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月6日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
蜜と恋どちらも欲しく秋の蝶 都 八幡の荘園かけて飛ぶばつた 美智子 彼岸花軍馬の像を昂らせ 都 露の手に一度限りの炙り文 宇太郎 杖の歩や振返るたび秋暮るる 悦子 露けしや既視感覚の病棟に 宇太郎 コスモスの乱れ見てゐて老いにけり 悦子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月7日 零の会 坊城俊樹選 特選句
天高く誇り高きは講談社 きみよ 華やかに滅びゆく香や秋の薔薇 和子 秋冷を暗くともして華燭の火 千種 白帝は白い梟従へて きみよ 薔薇は秋その夜会より咲き続け 順子 肘掛に秋思の腕を置いたまま 光子 爽やかや罅ひとつなきデスマスク 緋路 一族の椅子の手擦れや秋の声 昌文 邸宅の秋に遺りし旅鞄 いづみ 洋館に和簞笥置いて秋灯 荘吉
岡田順子選 特選句
栗の毬むけば貧しき実の二つ 瑠璃 流星を見ること永きデスマスク いづみ 正五位のまあるき墓を赤蜻蛉 小鳥 秋天の青は濃度を増すばかり 緋路 月光の鏡の中で逢ふ二人 きみよ 聖堂は銀に吹かるる鬼芒 いづみ 実石榴をロイヤルホストで渡されて 小鳥 石榴熟る女人の拳より重く 光子 秋の灯を落して永久のシャンデリア 俊樹 毬栗を踏み宰相の家を辞す 緋路
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月9日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
コスモスの島にひとつの小学校 修二 檸檬の香そは忘れざる恋なりき 美穂 嫁がせる朝檸檬をしぼりきる 朝子 母乳垂る月の雫のさながらに 睦子 タンゴ果て女は月へ反りかへる 同 護送車の窓には見えぬ草の花 成子 やはらかく眉をうごかし秋日傘 かおり 天と地を一瞬つなぐ桐一葉 朝子 流れ星太郎の家を通り過ぎ 修二 正面に馬の顔ある吾亦紅 朝子 傘たゝみ入る雨月のレイトショー かおり 幾千の白馬かけぬく芒原 成子 古備前に束ねてさびし白桔梗 睦子 糸芒戻れぬ日々を追ふやうに 愛 黒葡萄いつもの場所の占ひ師 修二
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月9日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
新生姜甘酢に浸り透き通り のりこ 風を掃き風に戻されむら芒 秋尚 足音にはたと止まりし虫の声 怜 朝露に草ひやひやと眩しかり 三無 出来たての色の重たき今日の月 秋尚 徒競走つい大声で叫びたり ことこ 秋落暉炎のごときビルの窓 あき子 秋祭り見知らぬ顔の担ぎ手に エイ子 秋霜や広がる花を沈ませて のりこ 面取ればあどけなき子や新松子 あき子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月9日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
万葉の歌碑一面に曼珠沙華 信子 金木犀優しき人の香りかな みす枝 昇る陽も沈む陽も秋深めゆく 三四郎 廃線の跡をうづめて草紅葉 信子 駅に待つ猫と帰りぬ夜寒かな 昭子 天の川下界に恋も諍ひも 同 ひらひらとバイクで走る盆の僧 同 蟋蟀の鳴く古里や母と歩す 時江
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月10日 萩花鳥会
夜鴨なく門川暗くひろごれり 祐子 サムライ衆ナントで決戦秋の陣 健雄 これ新酒五臓六腑のうめき声 俊文 露の身や感謝の祈り十字切る ゆかり 虫食ひのあとも絵になる柿落葉 恒雄 すり傷も勲章かけつこ天高し 美惠子
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令和5年10月14日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
魁の櫨紅葉の朱句碑の径 三無 花よりも人恋しくて秋の蝶 幸子 咲き初めし萩の風呼ぶ年尾句碑 秋尚 女人寺ひそと式部の実を寄せて 幸子 豊年の恵みを先づは仏壇へ 和代 篁を透かし二三個烏瓜 三無 日の色の波にうねりて豊の秋 秋尚 曼珠沙華に導かれゆく道狭し 白陶 二人居の暮しに適ふ豊の秋 亜栄子 林檎���き父と齧つたあの日から 三無
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月14日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
ガシャガシャと胡桃を洗ふ音なりし 紀子 秋日和小児科跡は交番に 光子 歩かねば年寄鵙に叱咤される 令子 稲の秋チンチン電車の風抜けて 実加 不作年新米届き合掌す みえこ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月15日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
街騒も葉擦れも消して秋の雨 三無 大寺の風を擽る榠櫨の実 幸風 尾を引きて鵯のひと声雨の句碑 秋尚 水煙に紅葉かつ散る結跏趺坐 幸風 菩提樹を雨の宿りの秋の蝶 千種
栗林圭魚選 特選句
観音の小さき御足やそぞろ寒 三無 絵手紙の文字の窮屈葉鶏頭 要 駐在も綱引き離島の運動会 経彦 小鳥飛び雨止みさうにやみさうに 千種 秋霖や庫裏よりもるる刀自の声 眞理子 句碑の辺に秋のささやき交はす声 白陶 秋黴雨だあれもゐない母の塔 亜栄子 梵鐘の撞木の先や秋湿り 眞理子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月16日 伊藤柏翠記念館句会 坊城俊樹選 特選句
考へる事に始まる端居かな 雪 おは黒を拝み蜻蛉と僧の云ふ 同 道草の一人は淋しゑのこ草 同 朝霧の緞帳上がる音も無く みす枝 秋灯火優しき母の形見分け 同 役目終へ畦に横たふ案山子かな 英美子 孫悟空のつてゐるやも秋の雲 清女 穴感ひ浮世うらうら楽しくて やす香 栗食めば妹のこと母のこと 同 天高し飛行機雲の先は西 嘉和 屋根人を照らし名月たる威厳 和子 秋深し生命線の嘘まこと 清女 蜩に傾きゆける落暉かな かづを
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月18日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
枯れて行く匂ひの中の秋ざくら 世詩明 一声は雲の中より渡り鳥 同 見えしもの見えて来しもの渡り鳥 同 菊まとひ紫式部像凜と 清女 越の空ゆつくり渡れ渡り鳥 和子 秋扇に残る暑さをもて余す 雪 山川に秋立つ声を聞かんとす 同 鳥渡る古墳の主は謎のまま 同 鳥渡る古墳は謎を秘めしまま 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月20日 さきたま花鳥句会
SLの汽笛を乗せて刈田風 月惑 寝ころびて稜線を追ふ草紅葉 八草 残る海猫立待岬の岩となる 裕章 大夕焼分け行く飛機の雲一本 紀花 曼珠沙華二体同座の石仏 孝江 白萩の花一色を散り重ね ふゆ子 秋の野や課外授業の声高に ふじ穂 秋寒し俄か仕立てのカーペット 恵美子 秋空や山肌動く雲の影 彩香 爽籟や赤子よく寝る昼下り 良江
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令和5年10月21日 鯖江花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
生身魂梃子でも動かざる構へ 雪 古団扇此処に置かねばならぬ訳 同 飾られて菊人形の顔となる 同 亭主運なき一枚の秋簾 一涓 菊の香に埋り眠る子守唄 同 叱りてもすり寄る猫や賢治の忌 同 友の家訪へば更地やそぞろ寒 みす枝 叱られて一人で帰るゑのこ草 同 朝霧が山から里に降りて来し やすえ 隣家より爺の一喝大くさめ 洋子 菊師にも判官贔屓あるらしき 昭子 人の秋煙となりて灰となる 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月27日 月例会 坊城俊樹選 特選句
靖国の秋蝶は黄を失ひて 愛 柿に黄をあづけ夕日の沈み行く 緋路 神池の何処かとぼけた鯉小春 雅春 細りゆく軍犬像や暮の秋 愛 うらがへり敗荷の海のなほ明し 千種 英霊の空はまだ薄紅葉かな 愛
岡田順子選 特選句
秋蝶に呼ばれ慰霊の泉かな 愛 鉢物はしづかに萎れ秋の路地 俊樹 年尾忌も近し小樽の坂の上 佑天 道幅は両手くらゐの秋の路地 俊樹 秋天へ引つ張られたる背骨かな 緋路 老幹の凸凹としてそぞろ寒 政江 板羽目の松鎮まれる秋の宮 軽象 御神樹の一枝揺らさず鳥渡る かおり
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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yuupsychedelic · 4 years
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詩集「ACID WAVE」
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詩集「ACID WAVE」
1.「ACID WAVE」 2.「FAKE MOVE」 3.「BLACK JOKE」 4.「SENTIMENTAL FUTURE」 5.「EMOTIONAL JAIL」 6.「無口な花束」 7.「DEMAGOG RHAPSODY」 8.「NOISY BOY」 9.「FLOWER JAM」 10.「APOSTROPHE」 11.「ROAD MOVIE 〜 ACID WAVE:EPILOGUE」
1.ACID WAVE
謂われもない 正しくない そんな言葉に縋り付く幻想 つまらない 逃げ出したい そんな怒りに縋り付く妄想
Ah 僕らは何のために生きるの? 幻想 妄想 空想 瞑想 惑わされないで
ACID WAVE こわれもの ACID WAVE はぐれもの 激しい風に吹かれた 今こそ君を見つめ直せ
ACID WAVE いたみわけ ACID WAVE のれんわけ 激しい風が変えてく この世界を洗いざらい “あたしが変える”
さりげなく とめどなく こんな言葉に立ち止まる若者 痛みもない 信じらんない こんな時代に立ち止まる旅人
Ah 僕らは誰のために迷うの? 群衆 観衆 聴衆 大衆 波に負けないで
ACID WAVE ふれるなよ ACID WAVE さけぶなよ 激しい風に吹かれても 何も言わぬ君がいる
ACID WAVE つらくても ACID WAVE さみしくても 激しい風に乗ってくの こんな世界にも愛がある だから! “あたしが変える”
こんなに叫んでも 誰も動いてはくれない なぜ なんで どうして ゆるせない 感じるパワー みなぎるエネルギー 君も一緒に行こう
ACID WAVE ほんとうを ACID WAVE しんじつを 激しい風が吹いてる あたしがこの世界を変えるの
ACID WAVE こわれもの ACID WAVE はぐれもの 激しい風に吹かれてる 今こそ君を見つめ直せ
ACID WAVE こんどこそ ACID WAVE はしりだせ 激しい風に乗っていけ あたしはもう一人じゃないんだ 激しい風と共にいけ 立ち止まってる暇はないよ だから! “あたしが変える”
2.FAKE MOVE
AとBの関係が AとCの関係になる 私が言いたいのは そんなことばっかじゃない
根も葉もない嘘に 世界は覆われ 君が何かを始めるとき その嘘が障害物(ゲート)に変わる
Fake Movement 嘘と言ってよ 私はそんな奴じゃないの Fake Moment なんとかしてよ 私の暮らしが毀(こわ)れてく 人は誰もが夜明けを求めて それぞれの明日を捜すもの
ある花の咲く時 薔薇が邪魔をする あなたの言いたいこと ぜんぶ代わりに述べてくれる
見聞きした声に 世間も騙され 薄っぺらの#とやらで 拡散される気分はどうよ?
Fake Movement 止まらぬ声に 私が私を殺してく Fake Moment 支配されて 私が私じゃなくなるの 作りかけのpersonality 粉々に砕けてく この夜
アイドルでいるのも 楽なことじゃない 君が君らしくいられるのは その嘘を代わりに繋ぐ誰かがいるから
Fake Movement 戻りたいわ 私がまだ“it”だったあの頃に Fake Moment もう十分よ 私に何も求めないで!
Fake Movement もうやめてよ 私がこんなに頼むのに Fake Moment 拡散されてく ほんとは全部嘘なんだ
Fake Movement 言われるがまま 私に出来ることはなに? Fake Moment 流されるがまま ただ生きてくしかないのね
3.BLACK JOKE
I hate a money… I hate a money… I hate a money… I hate a money…
顔も声も知らない奴が 今日も有名人を叩いてた どんなに声を遮っても どこからか お前は沸いてくる Uh-Oh 二言目には溜息さ
世界は正解を捜すけれど その世界が意外と狭いように もしも君が 何にも知らない 知らされない 鳥かごの中の生き物だったら?
憎しみの先に何がある 欺瞞と疑惑の世界の中で 僕らは生きていくのだから 一言目に許せる勇気を 黒い嘘 さあ放て Black Joke!!
努力や失敗も知らずに まるでヒーローを気取ってさ お前は何様なんだ? そもそも正義ってなんだ? Uh-Oh 少なくともお前は正義じゃない
I hate a money… I hate a money… I hate a money… I hate a money…
諦めの先に何がある 人々が現実に絶望して 無言で立ち去った痕には 一言目に愛しさを Oh baby さあ放て Black Joke!!
思想が思想とぶつかり合い 声を挙げることを躊躇う者たち そんな彼らを嘲笑う お前らも子羊の一匹だろ?
憎しみの先に何がある 欺瞞と疑惑の世界の中で 僕らは生きていくのだから 一言目に許せる勇気を 黒い嘘 さあ放て Black Joke!!
諦めの先に何がある 人々が現実に絶望して 無言で立ち去った痕には 一言目に愛しさを Oh baby さあ放て Black Joke!!
どいつもこいつも お前も貴様も いい子ぶってんじゃねえよ!!
4.SENTIMENTAL FUTURE
僕の馴染みのサ店が 日曜 店を畳むらしい 太陽の眩しい真夏日 レーコーがあまりに美味しかったんで 思わずマスターに駆け寄り 「ありがとう」と握手を求めると コーヒー豆を持たせてくれたよ
声を挙げるだけで すべて変わると信じた あの日々が懐かしい
僕が愛した御神酒(おみき)屋も 近々 店を畳むらしい 学友とアジった帰り道 日本酒があまりに美味しかったんで 思わずバーテンに駆け寄り 「この酒どこのですか?」と尋ねると 住所をメモに書いてくれたよ
声を挙げるだけで すべて変わると信じた あの日々が懐かしい
君との馴れ初め古書店まで 明日 店を畳むらしい 論文に追われた夏休み 黒髪があまりに美しすぎた 思い出は色褪せぬまま
声を挙げるだけで すべて変わると信じた あの日々が懐かしい
声を挙げるだけで すべて変わると信じてた あの青春の日々が 今はただ懐かしい
5.EMOTIONAL JAIL
ある日 パソコンを開くと 君が一面に映ってた 何故だか 僕はわからず 電話をかけてみると 全部話してくれた
大根がふつふつと煮えるように 時がすべてを変えるだろう 君は無邪気に語るけど なにも変わりはしなかった
ある朝 ウトウトと目覚めた 君は隣で笑ってた 何故だか 嫌な予感がして ぎゅっと抱きしめてみると 君は笑ってくれた
茶柱が幸福(しあわせ)を繋ぐように 時がすべてを変えるだろう 君は無邪気に語るけど なにも変わりはしなかった
ある夜 ニュースを観ると 君が白ヘルを被って 波と波 消えた幻が 僕らの終わりだった 全部終わりだった
数年後 僕たちは離れたまま 風の便りで今を知る 見出しに小さなイニシャル それは僕の名前だった
突然何かに追われるように 僕は再び帰京した 君がもういないと知りながら 青リボンをずっと捜し続けた Aの街に少女の声 聞こえた気がしたんだ
6.無口な花束
柱の落書き まばらな観客 毎週水曜 青春捜して さすらう愛を あなたへ囁く
哀しきセレナーデは 醒めた夢への餞別
誰もいないステージで ひとり悟った恋の限界(フィナーレ) 無口な花束 黄昏(ゆうひ)の約束 サヨナラは何も言わずに
時代は変わった ここは変わらない 小さな劇場 無限の未来へ 信じ続けた夢は何も語らず
群青は水性の儚さで あの夏を静かに溶かした
誰もいないステージで ひとり悟った恋の限界 無口な花束 永遠(とわ)への幕開け 倖せの唄をあなたと友に
フィルムに残された 涙と歓び 来週水曜 もうここにはいない 記憶は風と明日へ消えゆく
誰もいないステージで ひとり悟った恋の限界(フィナーレ) 無口な花束 無言の客席 サヨナラは誰にも言えずに
あなたのためにずっと ひとり狂った恋を謳い 夢への舟が来るんだと 私はひたむきに信じてた 無口な花束 「ファン一同より」の文字 サヨナラは夜に隠して
7.DEMAGOG RHAPSODY
幸せになりたくない人なんていない 優しくなりたくない人などいない 淋しいのがいいって人はいない 怒られるのが好きな人もいない
ああ 愚民たちよ なぜ君たちはそんなに愚かなのか? ああ 愚民たちよ どうして君たちはそんなに馬鹿なのか??
悲しいほど静かな街の中で ただ大好きなものを投げ捨て 俺はここまで歩いてきた 素直に夢を追いかけてきた
ラララ ラララララ ラララ ラララララ
文句を言う前に 君のやるべきことをやれよ 誰かをアジる前に 君のやるべきことをやれよ
言いたいことを言えば 風の噂で火は巻き上がり 還ってきた時には姿を爆弾に変え 俺の前で導火線が切れる
あきらめろ もう遅いぜ あきらめろ もう遅いぜ
声を挙げるのが遅すぎたのさ もう止まりはしないのさ
暴走電車にようこそ 華やかな宴にようこそ
怒れ 怒れ 怒れ 怒れ 怒れ 笑え 笑え 笑え 笑え 笑え ぴえん ぴえん ぴえん ぴえん ぴえん しくしく しくしく しくしく しくしく しくしく
自分がヒーロー気取りで 正しさの意味さえ知らずに 君は正しさを語るつもりなのか それならケチャップを丸呑みしてまで 苦労の道を歩むことはないだろう?
おかしいことはおかしいと言うのだ 違うものは違うと言うのだ 寂しいときは寂しいと言うのだ せつないときにはせつないと言うのだ
神がこの星を創り 俺たちがここに産み落とされた 宇宙の法則の中 流星群に乗り 飛びたて 夜が嵐に包まれて かつてない狂騒 明日は闇に覆われて かつてない競争 着せ替え人形のように お前も変わり身が得意だな!
壊してばかりじゃ何も始まらない 叩いてばかりじゃ何も産まれない 涙ばかりじゃ何処も渡れない 争いばかりじゃ夢も翔ばない
華やかな週末に 綺麗なドレスで着飾って 鏡の間 集結する若人よ
ひどく暑い夏に あの橋を駆け抜けてゆく 髪を束ねた 少女ランナー
黒雲に青空は見え 彼方には遥かなる山 その滾るような美しさ 忘れかけてたもの 子供たちのあどけない微笑み 淋しかったから 声をかけてみよう
ロックは死んだ ロックは死んだ ロックは死んだ サイレントマジョリティー 広場に人は集まり まだ終わってないと声を挙げる 意味がないと知っていても 変わる可能性がある限り 闘い続ける 走り続ける それが人の慣性
ダイスを振れば 転がる石のように 気まぐれに時代は変わる
誰かの声に揺られて 転がる石のように 気まぐれに世間は変わる
最高の詩があれば 世界も変わるはずさ
もう一度 信じてみたい もう一度 愛してみたい
愛する勇気をみんなで持てば きっと世界は良くなる
パンドラの函を開く前のように カオスのない世界 まだ物語は始まりすらしない 人間なんだもの 毎日 君も生まれ変われる 世界はもっと良くなる
8.NOISY BOY
あの店でウォッカを片手に 世間を語った青年 過ちは恐れずに 明日を見つめていた
最終電車が過ぎても 何にも気にすることはなく 怒りに震えながら 正義を語り続けた
あれから何年かして 少年の姿は見えなくなった 今どこで何をしてるのだろう そんな想いが浮かんだ
道を健やかに 君だけのために走れ 最高の想いがあるなら それをぶつければいい 君ならできる 君ならやれる ここから君へ叫ぶよ 諦めるな 投げ出すなと 真っ白な空へ唄う
僕らが親父になって あの日の青年を見つけた 白髪になって シワも増えて なんだかやつれていた
最終電車が近づき 時計を何度も気にして まるで達観したかのような表情で 山手線に乗り込んだ
あれから何十年か経って 少年の微笑みも無くなり 諦めかけたその眼に 勇気は消え失せていた
道を激しく 君だけのために走れ あの頃の想いがあるなら それをぶつければいい 君ならできる 君ならやれる いつまでも君へ叫ぶよ 諦めるな 投げ出すなと 肩を叩いて君へ唄う
帰り際に振り返り 「もう終わったのだ」と淋しそうに 髭を生やしてつぶやく老紳士は もはや別人のようだった
悲しいなら悲しいと言っていいよ 許せないなら許せないと言っていいよ
世界を的確に切り取っていた あの日の少年はどこへ?
道を泥臭く 君だけのために走れ 守るべき人がいるなら その人だけのために走れ
道を健やかに 君だけのために走れ 最高の想いがあるなら それをぶつければいい 君ならできる 君ならやれる ここから君へ叫ぶよ 諦めるな 投げ出すなと 真っ白な空へ唄う
まだ僕らは諦めるには早すぎる
虚しいほどの情熱で 君だけのために唄う あの日の Noisy Boyへ
9.FLOWER JAM
君が風に吹かれ 光を浴びていた頃 爽やかな暮らしを 無邪気に語っていたね
コーヒー豆にこだわり うんちくを僕に語る 追い風に乗って 淋しさを憂い 華やかな明日を信じた
少女よ あの場所で唄う ラブソングをもう一度
清らかな青春の日差しのように 思い出を書き記す夏
君に吹いた風が止み 光が闇に変わる 過去を捨てようとも 過去に縋るしかなく
都会を歩く 若者たちの叫びが 真夜中に駆け出す 切なさみたいに 憂鬱な明日を感じた
少女よ あの場所で唄った ラブソングをもう一度
艶やかな時代の声のように 熱く燃え上がった夏
少女よ あの場所で唄う ラブソングをもう一度
清らかな青春の日差しのように 思い出を書き記した夏 眩しすぎた夏
10.APOSTROPHE
まだ秘めた気持ちを 形に出来ぬまま 私は星になった
いいねの数ばかりが 話題になる世界で 私は星になった
百億分の一 不幸のナイフが傷になる 愛する意味を知らぬ者が 幸せ 殺しに来た
ひとりの声 混じり合い いつしか世代になった 心のフィルター くぐり抜けて 届くのは心無い声 ああ 私はここにいなくていかい? まだ 私はここにいるべきじゃなかったかい??
いつの間にか過ぎてく 時間は風のように 私も大人になる
右も左もわからず その声 波のように 私も大人になる
七十億分の一 誰かに愛された人たち あなたに誇りがあるなら 画面の向こう側を感じて
ひとりの声 重なり合い いつしか時代になった 正義のフィルター 回り道して 伝わるのは心無い声 ああ 私はもう何も言わなくていいかい? まだ 私はもう何もしない方がいいかい??
喜びも悲しみも 全部抱きしめて あなたに愛があるなら 傷つけ合うのはもう終わりにしよう?
ひとりの声 混じり合い いつしか世代になった 心のフィルター くぐり抜けて 届くのは心無い声 ああ 私はここにいなくていいかい? まだ 私はここにいるべきじゃなかったかい??
ひとりの声 たしかめあい いつしかナイフになった 最後のフィルター くぐり抜けて 届くのは心無い声 もう 世界は誰のものでもないんだ…… さあ 世界に絶望するのはやめよう……
雲ひとつない青空 幸せのエールを投げた 悲しみも 喜びも すべて 今��どうでもいいよ 愛する人たちへ 愛せなかった人たちへ 何者でもない少女の詩を
11.ROAD MOVIE
愛する意味も 夢見る意味も知らず ただ叫び続けていた ただ泣き続けていた 誰かに操られるがまま 私は何かを変えようとしていた 変わろうとしていた
しかし 何も変わらず 今日も世界は回っている 私たちの声を聞こうともせず 今日も世界は変わっていく 誰のために頑張ってきたのだろう 何のために声を上げてきたのだろう
気付いたとき すべてが空っぽになっていた 気付いたとき 誰も周りにいなかった 気付いたとき 私は独りになっていた
誰にも気付かれないように 早朝家を飛び出した 最寄駅から各停に乗り 始発電車で故郷を後にした 愛を捜すために 夢を探すために 私は旅に出たんだ 旅に出たんだ
流れる景色は見慣れたはずなのに 今日はなんだか美しく見えるね 流れるビル群と住宅街の調べ すっかり季節は変わってしまったけれど この街は何も変わっていない ぎゅっと抱きしめてくれた 不安だった私をそっと見送ってくれた ありがとう ありがとう 涙が止まらなくなる
それでも 私は旅に出なけりゃいけない 世界の意味を知るため 旅に出なけりゃいけない 知らない世界を知るため 今日旅に出なけりゃいけない
世界がさらに速いスピードで流れていく 私の探していたものは何だったのか だんだんわからなくなってきた でも これでいいんだ わからなくてもいいんだ 地図を広げて目的地を確認してみた 知らない土地へ行くのはいつも緊張する 受け入れてもらえないんじゃないかと怖くなる でも これでいいんだ 怖くてもいいんだ
なんでもない日に旅に出よう ありきたりでいいんだ 無計画でもいいんだ ロードムービーみたいな旅に出よう
何時間か電車に揺られると お腹が鳴り始める 次の駅には売店がある ここは牛肉が有名だから 思いっきり腹を満たしておこう
そんなこんなで駅をブラブラしてたら 目当ての電車を乗り過ごした ちょっぴり焦ってしまったけれど でも これでいいんだ 焦らなくていいんだ 時間とは一旦距離を置く そう決めたんだ 私は決めたんだ 紫陽花が咲く頃に こう決めたんだ 私が決めたんだ
なんでもない日に旅に出よう ありきたりでいいんだ 無計画でもいいんだ ロードムービーみたいな旅に出よう
太陽が沈み 深い夜が顔を出す ただ叫び続けていた 泣き続けていた 少女の頃を思い出して 懐かしさに浸りそうになったけれど もういいんだ 水に流すんだ
かつて 私はわんぱくだった もはやその面影すらなく ただ大人になりかけていた そんな私をある人が変えてくれた 私は声を上げることを覚えた これまで無関心だった世界に興味を覚えた
気付いたとき 私は輪の中心にいた 気付いたとき もう戻れなくなった 気付いたとき 誰も相手にしなくなった
見知らぬ声が怖くなり ついに私は旅に出た いつ帰るかもわからない そういう旅だ 行き先も決めずにぼんやりと 流れる景色を見つめてる 明日の宿とその日の下着 これさえあればどこへでも行ける そういう旅だ 私だけの旅なんだ
なんでもない日に旅に出よう ありきたりでいいんだ 無計画でもいいんだ ロードムービーみたいな旅に出よう
今日の宿は友達の家 ご両親の気づかいが嬉しかった 友達も優しかった カレーライスが美味しかった お風呂は気持ち良かった 当たり前のように見えて当たり前じゃない そんなふつうが嬉しかった 友達と居られるのが幸せだった
翌朝 私は再び電車に乗った 片道切符でどんどんいこうか 青空があまりにも眩しかった もうとっくに夏は終わったというのに なぜこんなに暑いんだろう だけど もういいんだ 気にしなくていいんだ いつか涼しくなるよね だから もういいんだ 気にしなくていいんだ
なんでもない日に旅に出よう ありきたりでいいんだ 無計画でもいいんだ ロードムービーみたいな旅に出よう
どこまでも行ければそれでいい 雨の日でも傘は差さない 世間の声などどうでもいい 制服なんていらない 友達気取りももういらない
何度か友達の家に流れ着き ありったけの愛を注いでもらった 友達は皆やさしかった 戸惑うこともあったけれど これが旅だと思うと心が軽くなった 好きな人のラジオが耳に届く度 もっと遠くへ行こうという気になった もっともっと旅がしたかった
なんでもない日に旅に出よう ありきたりでいいんだ 無計画でもいいんだ ロードムービーみたいな旅に出よう
行き先を決めなかったつもりだったけど 実は最初から決めていた あと数十キロで あと一回の乗り換えで カウントダウンが始まる
もうすぐ街に着く かつて夢にまで見た街だ もうすぐ旅が終わる いや始まりだ 私にとっての再始動
どうでもいいと言われた 君には期待していないと言われた 死ねとまで言われた そんな人たちを見返すために もう一度やり直す まだ愛とやさしさが残っているうちに この街でもう一度やり直す 私はまだ死んでいないから
なんでもない日に旅に出よう ありきたりでいいんだ 無計画でもいいんだ ロードムービーみたいな旅に出よう また数週間が経った やっと目的の人に逢えた 私は二度目の青春を始めた どんな瞬間よりも喜びを感じた 生きるってこんなに楽しいんだね 久々の感覚だった この街で生きられるのが嬉しかった 変わっていくのが楽しみだった
しかし変わらなかった そう簡単には変わってくれなかった まっすぐな笑顔 人間のぬくもり すべてあるのに なんにも変わってくれなかった だけど気付いた もう一度気付いた 私が変わろうとしなかったんだと 変わるために頑張れてい��かったんだと
自暴自棄になりそうだったある日 ある人が教えてくれた 「君の自由は当たり前のものじゃないんだよ」 未だ名前はわからない とにかくあったかい人だった 忘れかけていたものを三たび思い出した もっと純粋に夢を追いかけてもいいんだ もっともっと熱く世界を語ってもいいだと
だから もう一度旅に出ることにした あの旅に出た時の感覚を思い出すために もう一度旅に出ることにした
いつかまたやり直せる この街は私をぎゅっと抱きしめた 旅立ちの日は空があまりにも美しかった 今まで感じたことのない安らぎがそこにあった 見つめ合う自然の笑顔がやさしかった 「人は何度でもやり直せる」 そう感じさせてくれる空だった
なんでもない日に旅に出よう ありきたりでいいんだ 無計画でもいいんだ ロードムービーみたいな旅に出よう
今の私ならどこまでも行ける 行き方のわからない目的地がすべての目印 人生はみなロードムービー
Bonus.PROTEST SONG’20
やさしさの行進(ぬくもりの交信) はげしさの更新(かなしさの恒心)
さわやかな日々も ひそやかな日々も みんな同じだよ しあわせの価値は みんな同じだよ あいに生きる あいで生きよう あいを生きていこう きみが思うほど きみは愚かじゃない
さみしさの漸進(つよがりの染心) いとしさの全身(たのしさの前進) はなやかな日々も ありきたりな日々も みんな同じだよ しあわせの価値は みんな同じだよ
ゆめに生きる ゆめで生きよう ゆめを生きていこう あなたが思うほど あなたは弱くない
詩集「ACID WAVE」Staff Credit
All Produced by Yuu Sakaoka(坂岡 ユウ) Respect to Pink Floyd, THE ALFEE, BAKUFU-SLUMP and MORE... Special Thanks to My Family, my friends and all my fans!!
2020.5.25 坂岡 ユウ
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hitodenashi · 5 years
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27/肚の内
(はるゆき)(のような何か)
(※CoCシナリオ「ストックホルムに愛を唄え」のネタバレがあります)
(一般的に不快を催すであろうような感じの描写があるかもしれない)
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 幼い頃から疑問だったのだ。
 どうして野獣が得なければならなかったのは、人間からの真実の愛だったのかと。
  初夏。午後の教室には、青葉の匂いが満ちている。気の早いあぶらぜみが、もう中庭で鳴き始めていた。遅い梅雨がようやく明けた六月の空は夜のように青い。再来週に期末テストが近づいていることも吹き飛んでしまうほど、一般的に良い空模様をしていた。  エアコンが稼働しているのに、教室はじんわりと暑かった。手扇でぱたぱたと首元を仰いでも、汗はなかなか引いてくれない。  五限開始のチャイムまで、あと一分三十秒。窓際の席の人たちは、あついあついと口々に言いながら、友達の席を囲んで談笑している。廊下側の席は直射日光が届かず、エアコンの冷風も程よく流れてくるので、ちょっとは居心地がよいけれど、教師たちはやれ空気が悪くなるだの、エアコンの使い過ぎは体に毒だので設定温度を高くしているし、常に教室の窓はどこかしらが換気のために開いているので、さほど教室が快適だとは言い難い。  廊下側でこうなのだから、窓側の席はもう少し不快なことだろう。外から吹き込んでくる生ぬるい風は、すでに気の早い夏の色をしている。  パンティングのような呼吸を一瞬だけして、すぐ咽頭の渇きを覚え、口を閉じた。そして、誰にもばれないようにそっと窓際の席に目を向ける。生成色のカーテンに隠れて、銀色の髪が陽に透けているのが見えた。静かに窓の外を見ている。夏服の白い襟に、首筋を伝った汗がすっと沁みて消えた。  本鈴のチャイムが鳴って先生が入ってくると、皆慌てて席に着いた。初老の国語教師のつまらない口上と、前回授業の振り返りを聞く。指定されたページは言われる前からもう開いている。中国のどこかで撮影されたらしい竹林の写真は、鬱蒼としてひどく涼しげだった。  ぼんやりと指先でシャープペンを回していると、頭上に微かな視線を感じていやな気持ちになった。 「じゃあ二十六ページ、始めから、二十八ページ八行目まで。誰か読んでくれる奴ー」  挙手を促しても、誰が進んで読みたがることなんかないだろうに、必ずこの教師はそうやって聞く。誰も彼も指名されたくなくて、いっそう息を潜めてしまうのが、少し面白かった。現文の時間って、挙手したらテスト悪くても内申上がるのかな。なんて、皆が嘲笑混じりに言っていることを彼が知っているかどうかはわからなかった。  再度、視線を感じる。薄らと、今度は四方から。  反応は返さず、藪の中で息を潜めるように呼吸を小さくする。教師は頭を掻きながら「誰もいないのかあ」なんて決まりきった言葉を吐く。いつもそう��自主性の無い奴は成績が上がらないぞ。それに続いて出る言葉を、私は良く知っている。 「じゃあ、鏡。十八ページから」  いつもの名指し。決まりきったこと。周囲のやっぱり、そうなるよね。という、安堵の呼気を聞いた。「はい」短く返事をする。みんなそんなに読みたくないのだろうか。別に、朗読しろって訳でもないのに、難しい漢字や、句読点の息継ぎがそんなに恥ずかしいものだろうか。  席に腰を下ろしたまま、段落の頭を指でなぞった。唇を舐める。唾液がねばついていた。暑さからだろうか。水が欲しい、生ぬるくてもいいから。 「“なぜこんな運命になったかわからぬと先刻は言ったが、しかし考えようによれば、思い当たることが全然ないでもない。”」  グラウンドから、体操の掛け声がこだましている。見て面白い光景でもないだろう。犬の吐息のように生ぬるい風が、開いた窓から吹き込んでいる。微かに汗ばんだ首筋に、髪が張り付いて鬱陶しかった。横髪を耳に掛ける。  そもそも、どうして髪を伸ばし始めたのだっけ。  ふと思い返したことだが、私は今まで、美容室へ行ったことがない。髪はいつも、母が大事に切ってくれるので、外で誰かに切ってもらうという習慣がなかった。  幼稚園のころ、お遊戯会で赤ずきんちゃんをやったことを覚えている。  私は赤ずきんちゃんをやりたかったのに、生まれの早い私は他の子と比べて背が高く、赤ずきんちゃんは似合わないという理由で、悪いオオカミの役になってしまった。当時の私はそれはそれは落胆して、練習の度に落ち込んでいたのだが、本番の舞台の時、母親が主役の子よりも綺麗に見えるようにと張り切って髪を整えてくれたので、不機嫌にならず演じ切れたことを覚えている。  髪を大きく切ったのは、恐らくその記憶が最後だ。  それ以来、なんで髪を切っていないんだったか。母親がそもそも、女の子は髪が長いほうが良いと夢見るように言っていたからだったような気もする。けれど、多分決定的なものは違う。  そうだ。確か、綺麗だねって、一言褒められたから、伸ばしていたのだ。  多分、そんなありきたりで下らない理由だ。  恐らく、言った本人は、きっともうそんなこと忘れている。それくらい、下らない一言だった筈だ。 「……“人間はだれでも猛獣使いであり、その猛獣にあたるのが各人の性情だという。おれの場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。”」  一つだけ、色合いの違う視線を感じた。窓側、私の左後方から。 「“虎だったのだ。”」  それが誰のものであるか、理解はした。それでも私の目線は、教科書体の黒いインキの上を見ている。俯いた頬に横髪が再び零れてきて、私は句読点の間に小さく唸り声を上げた。  がり。内側で、何かが私を引っ掻いた。  生成りのカーテンが風を孕んでゆったりと膨らむ。囁くような衣擦れ。まるで、下草がざわめくような。私の視界にはない青葉が、窓の向こうに揺れている。 「“ちょうど、人間だったころ、おれの傷つきやすい内心をだれも理解してくれなかったように。おれの毛皮のぬれたのは、夜露のためばかりではない。”」  俯いたまま文字を追う。横髪は、また音もなく滴り落ちてくる。  私は未だ、髪を伸ばし続けている。窓の外に垂らすことのできる日なんて、来るはずもないのに。  私は初めから、窓辺になんていない。
 じわじわじわじわ。
 籠もったような、あぶらぜみの声が耳について離れない。  微かなアンモニアの匂い。薄暗い女子トイレの個室の壁を爪で引っ掻くと、骨を齧ったような乾いた音がした。  放課後の校舎は、どこもかしこもじっとりと暑い。さっきまで涼しい図書室にいたのに、廊下を数歩歩いただけで、もうぶわりと汗が噴き出している。肌に薄い夏服がくっついている。怠い下腹部を抱えて、溜め息を吐いた。 「最悪……」  淀んだ、濃い血液の匂いが鼻についた。  道理で日中、思考がぐらぐらすると思ったのだ。経血にぬるついた下着を下げるだけで不快感が強くて、思わず眉を顰める。不運にも替えの下着を持ってきていないので、血の着いたクロッチ部分をふき取るだけに留める。咥えたサニタリーポーチから、ナプキンを取り出す。  月経血の生臭さは、腐敗した肉の生臭さによく似ていると思った。スカートの裾を引っ張って、後ろに血が滲んでいないことを確認して、一先ず胸をなでおろす。  暑さが纏わりついてくる。途端に全身が重く感じる。 「……帰ろう……」  図書当番を早引けするのは申し訳ないが、幸い今日当番にいるのは後輩の女の子たちばかりだったので、素直に話せば事情は汲んで貰えた。さっさと荷物を抱えて図書室を後にし、下駄箱のたたきにローファーを放り投げる。  気の早い午後の日差しは痛いほど強い。日光を避けて、軒をずるずると這うように歩いていると、ふと、剣道場から人の声がするのを聞いてしまった。  足が止まる。日影から足先が出る。  私の足が勝手に剣道場へ向かっていた。
 剣道場自体に足を運ぶことは、ほとんどない。体育の授業でも、部活棟の辺りは使わないからだ。  グラウンドの隅にある剣道場周辺にはとくに樹が少なくて、日影がない。立ち寄る生徒は運動部の子たちくらいだった。剥き出しの皮膚が、じりじりと焼かれて痛んだ。  道場の外壁には高窓しかついておらず、見上げて聳えるそれはまるで刑務所の壁のように見えた。果たして内側と、こちら側のどちらが閉じ込められているのか、私には判別ができなかった。  通用口と、グラウンド側に繋がる大きな出入口は空いているが、そこから中を覗くことは、とてもじゃないけれど私にはできない。  木目に擬態した道場の外壁に手を当てると、壁は日差しに焼かれて鉄板のように熱かった。内側からは、剣道部特有の咆哮が響いている。  私はたくさんの遠吠えの中から、彼の波形を探した。汗の匂い。くぐもった反響。壁の振動。声はすぐに見つかった。北西側、反対側の壁際、多分三列目。  沢山の気配の中に、彼が混ざっていた。  彼ではない気配の中に、紛れるように、しかし違和を残しながら、そこに溶けていた。水に落とされた、油みたいに。
 不意に、私はどうしたらいいかわからなくなってしまって、その場にただ立ち竦んだ。  人がいるのだ。この中には人がいる。  当たり前のことだ。ここは、学校なのだから。しかし、私ではない人間たちがいた。私が知らない彼を、知っている人間がいた。そうして、会話して、戦って、視線を交わすのだろう。私の知らない、触れあって。  知らないで、見ないで、触れないで。見るな。私の、 。
 喘いだ。  湿度の高い、熱せられた空気が喉に絡んで、小さく噎せた。自分を支えることが困難になって、鉄板のように熱い壁に額をつけて凭れる。壁は、焼けるように熱くて痛い。強く爪を立てると、ぎゃり、と不快な音がした。私の爪は鋭かった。そして、空しい音を立てるばかりだった。
 おとぎ話は、人間が夢を見る為にある。  幼い頃から、私は世界に王子様とお姫様がいることを、疑いはしなかった。本の世界にばかり、足を浸していたからだ。物語に主役がいるのであれば、邪な竜も、野獣もこの世界には存在することになる。役割は、必ずしも自分が望むとおりに振り分けられるわけではない。幼稚園のお遊戯会と一緒。誰も彼もが王子様やお姫様になれる訳じゃない。紡ぎ車も狼も、そうなりたくてなった訳ではないだろう。私が、悪いオオカミを演じたように。
 そうだ。だから、私だって、彼だって、例外じゃないことなんて。
 どうして野獣が得なければならなかったのは、人間からの真実の愛だったのか。  そうだ、小さい頃からずっと疑問だった。彼がたとえ野獣に身を窶しても、同じ野獣の番であれば、傷をなめ合うことのできるはずなのに、って。どうして彼は貶されて、傷を深められても、人間からの愛を得て、人間に戻りたいと思ったのだろう、って。
 おとぎ話は、人間が夢を見る為にある。  頭の中にある書物のページをいくら捲っても、化物と化物が結ばれた結末なんて、一つだってなかった。化物が化物のまま、幸せになる物語なんてなかったのだ。シルヴィアも、李徴も、グレゴールも、みんなみんな。  おとぎ話は人間しか幸せにしてくれない。幸せになりたいなら、人間になるしかない。それを私は知っていた。だから私は人間でいなければいけなかった。人間でいる必要があった。私��けでも、人間でいなければいけなかった。人間で居たかった、人間で居たかった、人間で居たかった。  そうでなければいけなかったのに。  おとぎ話の世界で、私は。
 月が零れる。  獣の匂いが、否応なく下腹部から立ち上る。つま先から皮膚がひっくり返っていく。全身の毛皮があわく月夜に煌めいたとして、たとえそれを千枚縫い合わせても、光り輝くドレスになんかならない。  私は全部、知っていた。最初から分かっていた。目を背けていただけだった。  足元で、ぽたぽたと水滴の垂れる音がした。それは異様に粘ついていて、腐肉の匂いがした。  私の中にいる私が、そっと耳元で囁いた。
 もうどうしようも無いんだったら、はやく喉に噛みついちゃえばいいじゃない。って。  
 ラ・ベッラなんて、最初からいなかった。  狼だったのだ。
 †
 意識は冷たくて、白濁していた。  そこで私は初めて、気を失った時に世界が真っ白になるということを知った。  全身はまんべんなくずきずきと痛んでいる。頭は特に割れるように痛む。焼けた火箸で頭蓋の内側をぐちゃぐちゃにかき混ぜられているような痛みだ。床の感触が冷たいのに、脇腹が異常に熱を持っている。  熱いから痛いのか、痛いから熱いのかわからなかった。全ての熱がそこに集まってしまったようで、事実、指先は凍えていて一切動かない。  私は薄らと目を開いた。  下水のような、饐えた汚物の匂いがする。そして血の匂い。地下室は、ひたすら暗い。髪を垂らす窓も無く、寝台もなく、ただ檻のような壁だけがあった。  晴。  名前を呼びたくても、舌が動かない。呼んで、どうなるというのだ。私が目を覚ましたことを、気付かせるだけではないのか。  床に投げ出された私の手のひらは、まだらな赤褐色に乾いていた。それからは、微かに甘い匂いがした。床がまだ新しい血で赤く濡れていて、それはひどく生臭かった。きっと狼の血なのだろう。  なんとか視界を広げようと瞼を上げると、部屋の中に晴が立っていることだけが解った。後ろ姿だけのそれを見るや否や、たちまち悔いと後ろめたさが燻った。後悔の念が尽きない。
 私が願わなければ、こんなことにならなかった。ましてや、晴が傷つくことなんて、望んでいなかった。
 私はただ、庭先に咲いた私だけの薔薇を誰にも盗られたくなかっただけ。ただ、それだけだった。  傷つけることを、望んでなんていなかった。  けれど、それを今誰が証明してくれるだろう。現に私は晴を閉じ込め、切り裂いて、頭から丸呑みにしようとした。きっと、またすぐに私は狼になってしまう。狼である証拠に、私は彼を酷く甘いものだと思い込んでいる。一体、これのどこが人間だと言うのだ。健常な意識ですら、獣性を否定できていないのだから。  私は目を閉じた。  目を覚ましたくなくて、冷たい眠気へ緩やかに身を任せる。  そうだ、このまま私が眠っていれば、少なくとも私が晴を傷つけることはない。目を覚ませば、私はたちまち狂気に取りつかれて、彼に牙を立てることしかできなくなってしまう。もう彼を傷つけるのも、怯えた瞳で名前を呼ばれるのも嫌だった。
 眠っていよう。  これ以上、晴を傷つけないように。いっそ、私が救われなくたっていい。茨の内側が暴かれなければ、私はいつまでもお姫様と誤認されたままでいられるでしょう。狼がお姫様を丸呑みにしてドレスを着て、精一杯着飾ったところで、大きな口と生臭い匂いですぐに狼だとばれてしまう。  そんな姿は、晴に見せることができない。彼がまだ、私を人間だと思っているうちに、朽ち果ててしまいたかった。  微睡みは心地よかった。  ふと、何か、喧騒のようなものが聞こえた。悲鳴か、怒号かわからない叫び声のように思った。ただ、晴の声ではないことだけは理解して、どうでもよくなった。それも私の意識が氷湖の底に沈んでいくうちに、ぼやけて遠くなっていった。  夜明けの笛の音も、白く光を亡くした月もなく、薔薇の花も無い。深い眠りの水底には、ただ長い静寂が横たわるだけだった。
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2ttf · 12 years
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kkagneta2 · 5 years
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陽昇(草稿)
タイトルの読み方は「ひのぼり」です。つまりサンライズです。
「十号車、十号車、十号車、…………あ、ここだよ、お兄ちゃん、ここ、ここ!」
「わ、わかったから、引っ張らないでくれ! 荷物が。………」
「-------でも、どっちから入ったらいいんだろ。…………ま、どっちからでもいっかな。」
数字の小さい車両側からホームを登ってきた初希は、乗り込み口にたどり着くとようやく歩みを止め、手を引いている倖希の方に振り向いた。
「って、お兄ちゃん大丈夫? 一体誰に右手をやられちゃったの?」
見ると、キャリーケースやらトートバッグやらコンビニ袋やらを全て持たされているというのに、家を出てからずっと左手を妹に取られ無理やり歩かされてきた兄が、少し不満そうな顔をこちらに向けつつぷ���ぷらと右手を振っている。
「まったく、すこしは落ち着いてくれ。手がちぎれるだろ」
「ごめんごめん。ちょっと盛り上がっちゃって。------でも、こんな時間に大阪駅にくるなんてはじめてだからしょうがないよ。お兄ちゃんだって、実は盛り上がってるでしょ?」
「いや、まぁ、………たしかにそうだけど、さぁ。…………」
倖希は未だに不満そうな顔をしているが、確かに初希の言う通りである。彼はこんな風に日が変わった頃合いになるまで大阪駅に居たことは何回かあるものの、やはり日中には感じないその独特な雰囲気にどこか興奮を禁じ得ないのであった。だがこの日ばかりはそういう幻想的な理由だけから興奮を感じていた訳ではない。と、云うのも、実家へと一週間ほど帰省していた彼は、これから香川県高松市の高松駅を数時間前に発った寝台列車に乗り込み、東京へ向かい、そして下宿先へと戻るつもりなのであるが、その道すがらずっと妹であり恋人である初希が着いてきて、しかもその後ほんの二三日ではあるが愛する彼女と、家族というしがらみを取っ払って過ごそうと、そういう計画を立てているのである。本当は一人で新幹線を利用する帰省の予定だったのが、友達の勧めで寝台特急に乗ることに変わり、その上なぜか初希がどうしても、どうしても一緒に着いていきたいと言うから仕方なく、仕方なく、本当に仕方なくバイト代を切り崩して連れてきたのであるが、これほどまでに嬉しそうな妹の顔は久しぶりで、これからそんな彼女とほんの数日間とは言え二人きりで過ごせると思うと、気をつけなければつい笑みがこぼれてしまうほどに、悦びが心の奥底から湧き出てくるのであった。
「------寒くない?」
「全然っ。むしろさっきの待合室の中が暑かったから、今がちょうどいいくらい。------お兄ちゃんは?」
「俺はめちゃくちゃ寒いんだが、ちょっとその元気を分けてくれ。…………」
「えー。………お兄ちゃんまだ二十歳なのに。-----」
そうやって呆れつつも初希がキュッと手に力を込めてくる。倖希はこんな、照れ隠しのような妹の優しさが好きで好きでたまらなく、毎度のことながら頬を赤く火照らせてしまい、彼女に悟られまいと壁にある広告に目を向けたのであるが、ふいに視線を感じて下を向くと、初希が眼鏡の奥から得意げな眼でこちらを見てきていた。--------本当に大人びてきたものである。いつも今日みたいに我儘を通したり、いつも今みたいにグッとくる仕草をしてきて、顔立ちも美人というよりは可愛いさの方が強いのだけれども、少しおっとりとした目元や、流れ落ちる水のやうに癖のない髪の毛や、真紅が横にすうっと伸びた薄い唇やらには、並の少女では身につけられぬ気品があり、ただただひたすらに麗しい。しかもその上、暗い紫色の眼鏡をかけているせいで知的な、…………いや実際にとんでもなく頭が良いので「見える」なんて言うとひどい状態にされそうだがとにかく、股が疼くほどの知的な雰囲気を身に纏っている。昔は何かあればすぐ泣きべそをかいて、お兄ちゃん、お兄ちゃん、と手を伸ばし抱っこをせがんでくる幼い(いとけない)女の子だったのに、気がついた時にはすでに可愛らしい少女となり、そして今では立派な淑女へと成長しようとしているのであろうか。自分にはいつまで経ってもあの、負けず嫌いで泣き虫で兄にすら牙を剥く面影がちらつくけれども、初希ももう高校二年生、それもあと二ヶ月しないうちに三年生へ上がる年齢なのだから、いつまでもそんな幻影を彼女に重ね続けてはいくら妹とは言え失礼であろう。いい加減、彼女の成長を認め、そして、いつかは離れていってしまうことに覚悟を決めなくては。……………そんなことを考えていると倖希は途方もなく寂しくなってしまい、つい右手を彼女の頭にやるとそのまま優しく撫でていた。
「うん? なに?」
「いや、大きくなったなって」
「ふふん、そりゃそうよ。もうKよK。----っていうか、お兄ちゃんに揉まれてから大きくなるの止まんないんだけど。………」
初希が空いている方の手で豊かに育ちつつある自身の胸元を撫でながら困ったようにそう言うので、倖希はどこか勘違いされた気がするのであるが訂正するのも面倒だし、昨夜も精を搾り取ってきたその膨らみに一度目を奪われてしまっては考えも何処かへ吹き飛んでしまい、何をするのでもなくただ妹の頭を撫で続けていた。ふと気になって見渡してみると、駅のホームにはまばらとは言え意外にも電車を待っている人がちらほらおり、そういえば先程の待合室の中は一つ二つしか座席が空いてないほど一杯であったことを思い出すと、恐らく自分たちと同じように寝台列車に乗ろうとしている人が沢山居るのであろう。よく考えれば今日は三連休前の金曜日、…………いや、もう日は過ぎたから三連休初日の土曜日なのだから当たり前と言えば当たり前である。が、それにしてもこんな時間から電車に乗るのには一種の違和感というか、躊躇というか、何かロマンティックな物語の主人公の気分というか、何か黄泉の国へ連れて行かされるような気分というか、そういう不思議な気持ちを起こさせる何かがあるような気がする。なるほど確かに、友人の言ったとおりこの感覚は癖になりそうだ。---------
「あっ、お兄ちゃん、そろそろだよ、-------」
初希がそう声を出すと間もなく、ホームにいつも聞くチャイムが鳴り響き、周りの者たちがざわざわと賑わい始めた。家族連れはぴょんぴょん飛び跳ねる子供の世話に追われ、男女の組は変わらず話し合い、カメラを片手に持っていた者は皆線路脇で構えている。
「お、やっとか。いまさら遅いけど、忘れ物してないよな?」
と、倖希はそう妹に聞こうとしたのであるが、間が悪くちょうど「忘れ物」あたりで寝台列車が、ゴォッ………!、という音を立てて入ってくる。しかし初希にはちゃんと聞こえていたのか、
「もちろんもちろん。お兄ちゃんこそなにか忘れ物してない? この前充電器忘れたー! って言って大騒ぎしてたけど」
「あぁ、うん。たぶん大丈夫、………なはず。-----ま、いいや、乗ろう乗ろう」
かなり訝しんだ目で見られているうちに列車の扉が開いたので、倖希は一向に離してくれる気配のない力強い手を引いて、でもやっぱり、忘れ物をしているような気がして足が止まりそうになったが、言うと初希にどれだけいじられるか分からないので、空に浮かんでいるであろう綺麗な三日月を一瞬間眺めてから、黙って列車の中に入った。
  寝台列車というものは大方どの車両も一階部分と二階部分に分かれており、彼らが乗り込んだ車両では一階に二人部屋が、二階に豪華な一人部屋があるのであるが、その二人部屋というものは小さなベッドが二つ、人がひとり通れるか通れないかの隙間を隔てて配置された、例えるならホテルの一室を限りなく小さく且つ余分なものを削ぎ落としたような部屋であった。二人は列車に乗り込むと、まず狭い階段を下りて、狭い廊下を渡って、開け放しにされている部屋を見つけて、これが俺たちの部屋じゃないだろうかと思って切符を確認すると、案の定そうだったので、荷物を半ば押し込むようにして入れつつ自分たちも入った。するとその時ちょうど列車が動き出したらしく、扉を閉める際に廊下にある窓をちょっと覗いてみると、駅のホームがゆっくりと動いていくのが見えたのであるが、それはそれでワクワクする光景だけどまずは、まずはと思い扉を閉める。ここでようやく初希が手を離してくれる気になってくれたのかその力が弱くなったので、名残惜しくなりつつ両手を自由にすると、コートやら何やらを壁に吊るしてとりあえずベッドに腰掛け一息ついた。そうやって、兄の方は束の間の休息に胸をなでおろしていたのであるが、同じようにベッドに座った妹の方は興味津々に、ベッドの頭側にある謎のスイッチやら何故か付いているラジオのつまみを、時々歓声を上げつつ弄って(いじくって)いる。と、急に結構大きめの窓を遮っていたカーテンが上がり始めたのを目にするや、今度はそっちに食いつき、徐々に見えてくる外の景色に感嘆の声を上げ始めた。
「お、お、お、………わお。…………」
そう言うと窓枠に手をかけてさらに車窓に見入る。
「すっごい。…………ええやん。………ええやん。…………」
そして初希は、カーテンが上がり切る頃になるともう声をも出さず、目を見開いて窓の外を眺めるようになったのであるが、しばらく無言であった倖希もまたその移り変わっていく景色、-------たった一台の車のために色を変える信号機、読む者も居ないのにぽつりと立つ標識、住宅街の上を駆け抜けている電線、淡く光るように街灯に照らされている道路、夜空に点々と輝き星座を描く星々、……………そしてそれらをどこか物悲しい顔つきで見入る妹、------などなどに心を揺さぶられ、やはり違う世界へ連れて行かれたのではないのかという気分になると、自身も妹と同じように窓辺に手をついて外の景色を眺めた。今見ている街並みは、まだ大阪のものであるのに、普段見慣れているはずなのに、二年前まではここで暮らしていたというのにいまいち現実味が湧かず、隣に居る初希の存在を感じていると本当に恋人とどこか遠くに駆け落ちしているような、そんな錯覚さえしてくる。果たしてそう思うのは、生まれ育ったこの地から離れようとしているからなのか、それとも儚い表情をしてをられる彼女の佇まいに当てられたのか、はたまたぼうっと辺りを照らしている街灯に哀愁というものを感じたのか、いずれにしてもいたく美しい光景が車窓には広がっている。--------
「確かにこれは、いいな。いいぞ。…………」
二人のあいだにはこの言葉を最後に、しばらく電車が線路を走る音のみが響いていたのであるが、倖希が咳払いをしたのをきっかけに手をもじもじさせ始めたので、それがどういうことを意味しているのか知っている初希は、一つ、くすっと笑うと、絡まり合っている手のうち自分に近い方を奪ってやる。すると案の定、隣に居る兄から力という力が抜けていき首もがっくりと項垂れていったけれども、気がついた時にはあの、苛めてほしそうな優しい顔でこちらを見てきていた。
「こ、--------」
が、初希が口を開けたその時、コンコンコン…………、と扉をノックする音が聞こえてきた。
「あっ、はーい!」
すかさず倖希が反応すると、ガラリと言う音と共に扉が開き、
「すみません、乗車券の方を、-------」
と、言いながら嫌に朗らかな笑顔をした乗務員が部屋に入ってくる。-------どうやら切符を見せないといけないらしい。そうは理解していても突然のことだったので、すっかり自分の世界に浸っていた初希は一瞬固まってしまい、そのうちに手を離されてしまった。
「はい、どうぞ~」
さっと財布を取り出し、その中から切符を抜き取った倖希が朗らかに言う。自分だってあんなに哀しそうな顔をしていたというのに、なんだその変わりようは、------と少しムッとする初希であったが、私も切符を見せないといけないんだろうな、………と思い、気持ちを切り替えてベッドに座ったまま自分の荷物に手を伸ばす。
「あ、もう大丈夫です。ではごゆっくりどうぞ。-------」
「へっ?」
私のは見なくていいんかい、と、初希は心の中で言ったのであるが、本当に見せなくても良かったらしく、手を空に迷わせているうちに扉はガラガラガラ…………トスン、という音を立てて閉まってしまった。---------
「びっくりしたなぁ。………」
「うーん。…………あー。………………」
「初希?」
「なんか、あれだね。あれ。そう、あれ。………………」
「あれ?」
「そう、あれ。うん。あれ」
初希は根本から折れたようにベッドに寝転がってしまっているのであるが、その返事は全くもって要領を得ていない。たぶん、雰囲気無くなっちゃったね、…………と、本当は言いたいのであろう。倖希はそんなことを思いながら、もう一度ベッドに座ろうと一歩踏み出したその時、ポキっと折れていた妹の体が突然跳ねるようにして起き上がった。
「うおっ! なんだなんだ、---------」
「お兄ちゃん、ちょっと探検しようよ、探検!!」
「えっ、………」
「行こう行こう。雰囲気無くなっちゃったし、それにさっきちらっと見えた向こう側の車両、めっちゃ良かったやん、なんか非日常的で。ねぇ、行こうよー。…………」
「えー。もうちょっとゆっくり、--------」
そう言いかけたところで、初希がこちらの手を取って引っ張り始めたので、こうなっては妹が止まらないことを知っている彼は、そろそろ開けようと思っていたお酒やらお菓子やらが入ったコンビニ袋をその辺に投げ捨てグイッとその手を引き、彼女を立たせてやる。
「お兄ちゃんのそういうところ、大好きだよ」
「はいはい、------それじゃあ、行きましょうか、お嬢様。」
「ふふっ、なにそれ。つまんない。--------」
と言いつつも、くすくすと笑う初希の手を引っ張って足を踏み出した倖希であったが、部屋を出る頃にはもう妹の背中を追いかけるようになっていた(そんなスペースは無いから微妙。もう少し現実に即するように書き直す?)。
  ぐいぐいと手を引かれて行くと車両の連結部に出て、そこにはこれと言った物が無かったためあまり特別な印象は抱かなかったのであるが、倖希はそんなことよりも妹が楽しそうでなりよりであった。なぜかと言って彼が実家へと帰省したのは、初希がしなびてるから元気づけてやってくれ、どうせあんたが原因やろ、と母親から連絡があったからなのである。しかしそうは言われても当初、普段から妹とはよく通話するし、何よりその日も彼女の元気な声を聞いていた倖希はいまいち実感が湧かず、母親には、濡れ衣や、とだけ返したのであった。が、今まで弱音らしい弱音を吐いてこなかった初希のことだから自分の前では強がっているかもしれないと思うと、どうしても気が気でなくなってしまい、試験という試験全て乗り越え、レポートというレポートを全て提出し終えたらすぐ実家に帰ろうと、そういう予定を割と早くから立てていたのである。それでどうやら悪いことに、倖希のこの読みは当たっていたらしく、日を追うごとに普段の通話から沈黙の時間が増えていったので、余りにも妹を心配した彼はレポートを一つ放棄してまでして、予定より一日早く実家へと帰省したのであった。で、帰ってきてみると笑顔の初希に抱きつかれ、お土産をぶんどられ、いつもの調子でコロコロと転がされ、なんや元気そうやないかと若干損した気分になったものの、こちらを見てははにかみ、こちらに引っ付いてきては撫でるような声を出す様子には、どこか上滑りしているような印象を受けた。それに何と言っても片時も離れないのには、さすがの倖希もうんざりとした。けれどもそうやって、いつも以上に引っ付いてくるということは、妹をえらい寂しがらせていたということに違いなく、申し訳無さと愛おしさから相手をしてやっていたのであるが、じきに日が変わりかけてきたのでそろそろ寝ようと思い、久しぶりの自室に行こうとしたところ、……やっぱり付いて来る。ほら、こんな時間だし初希ももう寝な、明日も学校あるんやろ、とやんわり催促しても、いい加減にしなさい、と少し怒ったように言いつつ部屋へ押し込んでも、ただ、お兄ちゃん、………と微醺を帯びたような目で倖希を見ながら言うばかり。で、結局、根負けしてしまったのであるが、そうやって甘やかしているとしまいには布団にまで潜り込んで来て、目が覚めた時には共に朝を迎えていた。と、そんな風な日を始まりに、この帰省中は初希とずっと一緒に居たような気がするのであるが、なぜかそのあいだ彼女はあまり哀しそうな表情をしなかった。だけれどもここ二三日ほどは急に二人きりで居たいと言ってきて、昼は逢瀬のために神戸に行ったり難波に行ったり京都に行ったり、夜は食事後すぐに部屋に引きこもってこちらが枯れ果てるまで体を求めてきたり、言うとまたバツの悪そうな顔をされるので声には出さないが、それはもう大変であった。恐らく初希は、いつまでもこんな寂しい感情に流されてはいけないと思って、兄が帰ってきたのが純粋に嬉しくって、そんな物悲しい顔を意図してしなかったのだろうが、けだし、やはり別れが近づいてくるに従って耐えられなくなったのであろう。だからと言って爆発させるくらいなら最初から素直になって欲しかったのであるが、その辺りに彼女の健気さを感じて倖希は胸に迫る思いをしているのであった。
彼がそういう思いを抱いているのには一つ大きな理由があって、もう妹もあと数ヶ月すると高校三年生、-----つまり受験生になろうとしているのである。そうで無かったら妹の甘える仕草にも、自信は無いが厳しく応えられたはずなのである。だがやはり、初希がそろそろ受験を控えるようになると思うと、そうも言ってられない。なぜかと言ってあの一年間は魔のような期間であり、どれだけ自分が自信を持っていようが、どれだけ自分が良い偏差値を叩き出そうが、たった小テスト一個、たった教師の一言で途方も無い不安に襲われてしまう。思い出してみると自分はあまり頭の出来が良くなかったから、模試を受ける度に全然問題が解けずへこんで、結果が返ってくる前にこの世の終わりみたいな顔をしていたから親に、あんた大丈夫なん? と言われ、担任に、このままだとあそこは難しいだろうから志望校を変えたほうが良い、と言われ、そういえば常に不安で不安で夜遅くまで勉強していざ床に就こうとすると眠れず、眠れたかと思ったら数時間後、びっくりしたように心臓をひどく脈打たせながら跳ね起きる。そういう生活を常に送っていた。そんな中で唯一、心の支えであったのが初希であることは言うまでもなかろう。中学三年生だった彼女は自身も高校受験のために忙しい日々を過ごしていたにも関わらず、目を充血させ���ボソボソと英語を読んでいる兄のために蒸らしたタオルを用意したり、たまに自暴自棄になってあちこちへ遊びに行こうとする兄に付いていき一緒になって騒いだりしてくれた。で、騒いだ後は必ず帰りに、こちらの耳が痛くなるようなことを言って諭してくるのであるが、決して不快な気分にはならなかった。どころか一つ一つの言葉に重みと言うか、言霊というか、とにかく彼女の思いが詰まっていて不覚にも涙することは少なくなかった。とは言え、帰りの道中まさか中学生の女の子に甘える訳にはいかないから何とか耐えて家まで辿り着き、自室で二人きりになった所でようやく弱音を吐いて、誘われるがまま頭を彼女の胸に埋める。するといつも決まって初希は子守唄のように兄の名前を呼びその頭を撫で、他の誰も認めないけど私だけはお兄ちゃんが頑張っているのをいつも見てるからね、一昨日もお母さんに、ぼーっとしてるなら勉強したら? って言われてたけど私は知ってるよ、あの時は手に単語カードを持ってたから頭の中で憶えたことを諳んじてたんだってこと。………ふふっ、だって本当にずっと見てるんだからすぐ分かるよ、散歩に行くのも休憩じゃなくて歩きながら数学の問題を考えたいんだよね? ………私にはお兄ちゃんの感じてる不安がどれぐらいなのか良くわからないけれど、やっぱりそこまで根を詰めるのは良くない気がするの。だからお願い、頑張らないでとは言わないけれど、今だけはお兄ちゃんの大好きな私の、……私の、その、………おっぱいのことだけを考えて。お兄ちゃんのおかげで先週Dになったんだよ? -----などと言って、こちらの頭をその豊かになりつつある胸元に押し付けてくるのであったが、なんという心地よさであったか。ひどい緊張で夜も眠れなかった自分の頭の中からあの地獄のような不安が無くなり、体が蝋のように溶けていき、何も考えられなくなったかと思えば次の瞬間には一時間か二時間程度は時が経っている。だが目が覚めたところですぐさま鼻孔に妹の匂いが漂って来て、クラクラしているうちに再び気を失い次の瞬間には彼女の柔らかい膝の上で頭を撫でられている。そして、そろそろちゃんとベッドで寝よ? と妹に言われるがまま布団の中へと一緒に潜り込み、今度はその体を胸に抱いて眠るのであったが、そうすると余りの安心感から三度、気絶するように眠ってしまい次の日が平日であろうが何だろうが昼まで目が覚めないのである。
倖希にはそんな苦いような甘いような記憶があるために、妹はもっと苦労するであろうと考えており、何も彼女に強く言えないのであった。自分には初希という存在が近くに居てくれたからこそ、辛さが募ればすぐに甘えられていたけれども、そうやって入試を乗り越えてしまったがゆえに東京で暮らすことになり、妹の近くに居られなくなってしまった。彼女にはもう甘えられる相手が近くには居ない。そんなことを言うと自惚れているように捉えられるかもしれないが、自分がどれだけ妹に助けられたかを思い出すとやはり、ただでさえ不安に押しつぶされそうになる受験期に、心を寄せている兄と会えないのは心細いはずである。あと一年経って、入試を終え、無事彼女が大学に合格すれば同棲可能、-----いや、すでに同棲をする予定を立てているけれども、その肝心の一年間が彼女にとってどれだけ苦しい一年間になるのであろう。恐らく初希が今回しなびたのはそういうことが原因で、何があったのか推測するに、高校二年生となりて春を過ぎ夏を過ぎ秋を過ぎとうとう寒くなってくるや、あの高校のことだから、-----自分の母校でもあるから分かるのであるが、口を開けば入試だの、受験だの、もうあと日も無いだのと耳にタコが出来るほど言われ不安になったのだろう。自分の時はかなりのんびりとしていたから大して影響は無かったが、案外真面目で頑固者な彼女は先生の言うことを真摯に受け止めてしまったに違いない。しかもその先生というのが、どういう訳か妙に生徒を煽ることに関しては上手くて、入学したときからすでに口を開けば良く出来た先輩の話だったり、定期試験があればほんの少しの凡ミスでもああだこうだ言って自信を失わせるのである。どうしてそんなことをするのか良くわからないが、恐らく不安とか悔しさが本当にバネになるとでも思っているのであろう。で、そういうことを真面目に受け止め続けてきた彼女はこれまでずっと将来の不安を燻らせていて、トドメに、-----自分の覚えている限りではこの時期確か、センター試験の過去問かそれに似せた問題を本番さながらに解く、という行事があったはずで、………たぶん、本当にたぶん、そこであんまり良い成績が取れなかったためにとうとうしなびてしまった。と、こういう経緯(いきさつ)なのであろう。実はこっそりとそのセンター試験の結果を聞いてみたところ、次聞いたらいくらお兄ちゃんでも容赦しないからね、いい? 分かった? と云われたので大方当たっているかと思われる。
そんな訳で、別にセンター試験など雀の涙ほどに圧縮されるから気にしなくても良いのにしなしなにしなびていた初希が、今朝方急に元気になって今ではこちらの手を引っ張り、でもしばしば歩みを緩やかにして後ろを振り向きニッコリと微笑むようになったので、倖希もまたかなり嬉しくなっているのであった。なぜかと言って、彼が妹を東京に連れて行くことにしたのは、先に述べた事情をだいたい全て予想していたからであって、もっと言うと初希が着いていきたいと我儘を言う前から、もっともっと言うと東京に住むことになった自分を送り届けてくれたあの日から、倖希は妹が受験生となる前にいつかは二人きりで過ごして数年後の自分たちの姿を想像しておいて欲しいと、そういう願いがあったからなのである。彼は建前では妹を仕方なく東京まで連れて行っていると言うし、自分の心の中でも二三日の爛れた日々のために手間もお金もかけた、と思っている折があるにはあるけれども、本当は妹を元気づけたい一心でいるのである。だから誰よりも、-------もしかしたら初希本人よりも彼の方が喜んでいるかもしれないのであるが、旅の始まりともあって少々盛り上がりすぎている妹に家を出る前からずっと手を引かれていると、やっぱり少しだけ呆れてもくるのであった。
寝台列車の中はあれほどホームに人が居たというにも関わらずひっそりと静まり返っていて、ただ部屋の取っ手と、木の模様をした壁と、ちょっとした照明だけが付いている狭い、本当に狭い、人とすれ違うこともできなさそうなほど狭い廊下を縦に並んで渡っていると、確かに初希の言う通り非日常的というか幻想的であると、倖希は感じた。よく考えれば時刻は午前一時をちょうど過ぎたくらいなので、皆部屋に引きこもって寝ているのかもしれない。相変わらず手を引かれながら歩いていると、恐らく一人用の寝台個室であろうか、左右対称に狭しく部屋が並んだ車両にたどり着いた際に、初希がふと歩みを止めた。
「なんか、ステイサムの映画みたいだね……」
「どれ?」
「ほら、あの退役軍人なステイサムがマフィアだかなんだかをボコボコにするやつ」
「…………どれもそうだから分からん」
「んー、………ほら、あれ。こないだ見たやつ! ………の、ダンボールに押し込められた出稼ぎ中国人をステイサムがトラックの中で数えるシーン、あれみたい」
「あぁ、なるほど、分かった分かった。………確かにそれっぽいけど、例え��えげつなくない?」
「せやな。………」
そう言うと初希は、手に持っていたスマホを片手で器用に扱い、カシャッと、この一件面白くなさそうな光景を写真に収めた。が、微妙に薄暗いせいで光がぼんやりとしてしまい上手く撮れなかったのであろう、云々唸って何回も取り直している。倖希はそんな妹を多少愉快に思いながら改めて車両内を見渡すのであったが、案の定何にも面白い物が無く、それに窓が無いために今しがた感動した夜景も見ることが出来ず、ひどい閉塞感に包まれてしまった。それでも殊の外ワクワクして仕方がないのは、そんな閉塞感を感じているからこそ秘密基地に入っているような、言わば少年時代に戻ったような感じがするからであろうか。たぶん少し違っていて、先程ちらりと見えた一階へ降りる小さな階段を思い出すと、ホラー映画というか、SF映画というか、何やら入ってはいけない場所へ迷い込んだような、そういう気分になっているからなのであろう。なるほど確かに初希の言う通り「探検」である。そう合点すると彼は、いまだぴょこぴょこと細かく動いては写真を撮っている初希のことが映画のヒロインのように見えてきて、こんな風にとりあえず動いてみる女性がまず最初に謎を解き明かしたりするんだよな、…………と映画の世界に入り込みそうになり、なんだかおかしくなってきて、ふいに笑みがこぼれてしまって、それを見た少女にニヤニヤと見つめられて、顔を無理やり引き締めて、けれどやっぱりその様子を笑われて、心が痛くなりながらも笑い返して、ごまかすように、
「そういえば、確か展望室みたいなのが逆の方向にあるよ。たぶん」
「ほんと? 行こう行こう!」
倖希は妹がスマホを手の中に丸め込んだのを見て、今度は自分が彼女を引っ張って行こうと足を踏み出したのであるが、壁伝いに無理無理こちらの前に出て来る体に気を取られていると、またもや引っ張られていく形で再び廊下を渡り歩いていった。
  「そういえば、今どの辺なんやろか。-------」
展望車、もといミニラウンジは意外にも二人の部屋がある車両のすぐ一つ隣にあって、車両の縦半分ほどの空間がちょうど左右対称に分かれており、床に固定された回らない椅子に座って、壁に固定された奥行きのない机に肘を乗せて、割と広めの窓から外が見えるようになっていた。彼らの他には妙齢の女性が三人、その椅子に掛け窓の外を時折眺めつつヒソヒソと静かに話をしているようで、それ意外の雰囲気は今までと変わりない、強いて言うなら自販機の色が少し賑やかなくらいである。で、その自販機に飲み物を買いに行った倖希がココアを袖に丸めて戻ってくると、頬杖をついてうっとりと窓の外を見つめていた初希がボソッとそう聞いてきたので、そういえば部屋を出る前に高槻の文字が見えた気がするからそろそろ京都に入ったんじゃなかろうか、と彼女の隣に座りつつ確かめてみたら意外なことにもう長岡京の辺りまで来ている。だが外を見ても消えかかる街明かりがぽつぽつと見えるばかりで、一体ここがどこなのかさっぱり分からない。
「うわー、…………ここ京都なんだ。全っ然気が付かなかった。…………」
「まぁ、夜だし、それにさっきまで窓がなかった車両に居たからね、山崎のウヰスキイ工場とか、チヨコレエトとか見えなかったんだろう。あといつも阪急に乗ってるから微妙に景色も違うだろうしね」
「だねー。…………」
「いやぁ、面白いなぁ、一昨日も初希と一緒に伏見稲荷まで行ったから通ったはずなんだけど、面白いなぁ、………あの時は、--------」
倖希はそれからも、こんな感じで現在地を地図アプリで追いかけ回してはその都度感想を述べるので非常にうるさかったのであろう、五分と経たず初希はその頬を手から離しキッと兄の顔を睨みつけ、
「お兄ちゃん」
「はい」
「静かに」
「はい」
元来妹に至極弱い兄である、倖希はその一言ですっかり静かになり、パキッ…………、という音を立ててココアの缶を開けて一口飲むと、もう何も言わずに変わらぬ速度で流れて行く京都の街明かりを見始めた。そしてほとんど目も瞑って電車の走る心地よい音に身を任せながらココアの缶を手持ち無沙汰に親指で撫でていたのであるが、しばらくすると横からぬっ、と細くしなやかな指が伸びてきて、カチリと、綺麗に切り揃えられた爪とその缶とが当たったと思ったら、次の瞬間にはココアは彼女の手に収まっていた。
「まったく、一声くらいかけてくれ」
「あ、ココアちょうだい。-----」
「遅いわっ」
澄ませた顔でココアの蓋を開けた初希は、濡れたように艶かしく光る唇を軽く突き出すと、下唇を缶の口へ柔らかく当て、人肌程度に温くなったココアをそっと舌の先に触れさせる。そしてその甘味やら、苦味やら、独特の舌触りやら、鼻孔に広がる香ばしい香りやらに顔をなごませてから、コクリ、コクリと気管の膨らみが薄っすらと見える魅惑的な喉を蠢かせ、その優しい味わいを体の中へ入れていく。倖希はその、ある意味口淫を思わせる仕草につい見惚れてしまっていたのであるが、いつしか窓に映る景色は景色とは言えないほど明るくなっており、とうとう背の高い建物も姿を現し始めていた。
「あゝ、この殺風景な感じ、…………京都駅だなぁ。…………」
「ふふっ、お兄ちゃんさっきから何か変。大丈夫? 変なもの拾って食べたりしてない?」
「いやだって、こんな人の居ない京都駅って珍しいやん? それに、-----」
----こうして素通りするのも珍しいし、と言いかけたところで、寝台特急は速度を落として、しかしそれでも案内板やらロッカーやらが掠れて見えない程度の速度で駅のホームを通過していく。
「あれ? 京都は通過するだけなのん?」
「らしい。意外だよね、残念?」
「いや全然。一昨日も来たから。………」
「そういえば、その時の写真さ、意外と綺麗に撮れてたから東京に着いたら見せてあげるよ」
「ほんとに? ---------それは楽しみなんだけどお兄ちゃん、私のことを私が気がついてないうちに撮ってたりしてないよね?」
「いやいや、そんなことは、…………実は一枚だけあります、ありますから。そんな目をしないで、ごめんって」
「もう、………」
「いやでも、あの一枚も綺麗に撮れてたから初希も気にいると思う、…………たぶん」
「そりゃ、被写体が良いんだもの、どう撮ろうと綺麗になるよ。---------」
ふふん、と胸を反らし、とうとう倖希の手の平でも収まらなくなってしまった二つの大きな実を、そのおおらかで男の心を惹きつけて離さない蠱惑的な曲線で持って強調するのであったが、ちょうどその時、たまたま後ろを通りかかった男性の視線が突き刺さるのに気がつくと、慌てて自分の体を抱え込んだ。そして恥ずかしさを紛らわせるためなのか、憂さ晴らしのためなのか、ココアを雑に掴んでまたもやコクリ、コクリ、コクリ、…………と飲んでいく。やはりその豊満な胸は自慢ではあるけれども、他人には見られたくないのであろう。
「ここは人が行ったり来たりするから落ち着かないな。部屋に戻ろうか」
「だねー。………」
コトリ…、と音がしたので下を見ると、ココアが帰ってきていた。
「………あっ、うわっ、もうほとんど残ってへんやん! 」
「ふふっ、ココアありがと、お兄ちゃん。-------」
久しく聞いてなかった兄の驚く声に満足した初希は、立ち上がってぐいっと背伸びをすると、まだ一口しか飲んでなかったのに、…………と文句を言いながらほとんど最後の一滴となったココアを飲む兄を、密かに赤らめた顔で見守るのであった。
  倖希は、お花を摘みに行ってきますわと、至極お上品に言いそのまま車両を通り過ぎて行く初希の後姿を送り届けた後、部屋の中に入りコンビニ袋を拡げたのであるが、こんな時間にお菓子はあまりよろしく無いだろうと思ってお酒だけを取り出し、一人ベッドの上に座って移ろいで行く景色を、どこか物足りなさを感じながら見ていた。だがちょっとすると明かりがうるさくなってきたので、一口お酒を口に含んでから窓辺にその瓶を置き、電灯を消して再びあぐらをかいたところで、ゴロゴロ……、と云ふ音を立てながら扉が開いた。
「おにいちゃん?」
「あっ、ごめん。今点け直すから」
「いや、大丈夫大丈夫。-------それにしても、いいね、やっぱり」
「だよね。-------」
初希は部屋へ入ってきた時こそゴソゴソと自分の荷物を漁っていたものの、しばらくして用が済んだのか靴を脱いで倖希の真横に座り、少々ずり落ちていた眼鏡を指で上げるとさらに彼の元へすり寄った。そして倖希の差し出した手をそっと取って、肩に頭を乗せ体を預けると、それに呼応してなのかこちらの手を握ってくる力がほのかに強くなり、続いて向こうからも気持ち程度に体重をこちらにかけてくる。が、本当に気持ち程度なので、昔みたいに甘えていいんだよと声に出す代わりに、ぐしぐしと頭をその首元に押し付けてやる。するとしばらくは鬱陶しそうにしていたが、ようやくダラリとその体をこちらに預けてきてくれるようになったので、ふっふ……と、ちょっと笑ってから兄が見ているであろう寂しく道路を照らしている街灯を眺め初めた。そうやって、二人の兄妹は互いに言葉も交わしていないのにも関わらず、まるで示し合わせたかのように肩を並べ合い手を取り合い体を支え合い、二人して二人とも明かりが少くなり行く夜景を、どこか儚げな表情で見つめるのである(この一文要る?削るか、もう少し上手く書くか)。
京都を抜けたばかりなので明かりはまだぼうぼうとしているにはしているものの、時刻はもう午前二時を回っているために、目に見える民家はもぬけの殻のように真暗で、四車線ある広い道路もたまに通る車の光が賑やかに感じるほどに静まり返っており、倖希はまるで人が突然居なくなった後の世界のようだと、またもやワクワクしかけたのであったが、やはり虚しい。ラウンジに居た時までは京都市内を駆け抜けているせいもあって、窓から外を眺めると高い建物がそびえていたり、車も信号待ちで並ぶほど居たり、それに人の歩く姿も時たま見えていたのに、急に物寂しくなったものである。トイレに行くまでは兄にああだこうだと言っていた初希も、さすがに口を閉じて流れて行く景色を見守っている。彼女もまた、この光が無くなっていく様子を見て何かを感じ空想に耽っているのであろうか、それともぼんやりとただこの物寂しさに心を任せているのであろうか。兄である自分が想像するに恐らく後者であろうと思うが、しかしそれにしても得も言われぬ美しい横顔である。時折窓から入ってくる光にぼんやり照らされて輪郭はあいまいになり、目のまぶたや鼻の頭やなだらかな頬の山によってところどころ深い闇が出来、その闇の〝つや〟となめらかな白い肌とが見事に調和して、------なるほどこれが陰翳の美しさというものなのであろう。恐らく昼間の明るさではこうは見えまい。彼女の顔立ちは決して派手とは言えないが、その肌ははなはだ陶器のように光を跳ね返すほどの色艶をしており、人によっては好きと言うかもしれないけれども、自分には少々眩しすぎると思っていた。だがこうして闇に溶け込ますと余計なものが全て削ぎ落とされ、こちらが見ていることに気が付き恥ずかしそうに笑う表情すら、閑寂のうちに活けられた慎ましい花のよう。自分は彼女の美しさというものを分かっているつもりであったが、上辺だけを攫っていたのかもしれない。------
と、倖希は三度、妹の顔を見て惚れ惚れとしていたのであるが、そのうちに妙な懐かしさを感じる取るとそちらにすっかり気を取られてしまった。眼の前に居る少女はそこに居るだけで目を奪われてしまうほど美しいのに、なぜかその過去の姿がチラついて仕方がない。どうしてこんなにも気になるのであろう。初希とこうして一緒に静かに何も声を出さずじっとして体を寄せ合ったことなんていくらでもあるのに、なぜこんなにもあの、五六年前のとある冬の日、------もう記憶もおぼろげなあの日、田舎にある祖母の家へ遊びに行��たあの日のことを思い出してしまうのであろう。その時自分はさつま芋を焼こうと、その辺(あたり)から適当に拾ってきた落ち葉や木の枝や竹の幹などをちょっとした山にして、その中にアルミホイルで包んだ芋を放り込んで、火を点けて、ゴロゴロと転がしてきた丸太に座って、…………たかどうかは忘れたがとにかく何かに座って山の中でひっそりと、ほんのり���焼けに照らされる木々を目の隅に留めつつまだまだ生まれたばかりの小さな炎を見ていた。-----あゝ、思い出してきた。確か、焼き芋焼こう焼こうと言ってきたご本人様は、そうやって火を点けてから案外すぐにやって来たのだけれども、一言二言話しているうちにとうとう歩くのも危ないほどに辺りが暗くなってきた上に、風でなびいた竹や木がさわさわ言い出したので、ひどく怖がるようになってしまったのだった。何せあの辺りは「出る」という話を前の晩に聞かされていたのである、いくら冗談めかして言われてもいつ木の陰からぬうっと出てくるのか分からない。だからあの時は自分も怖くなってきて立ち上がると、その小さく縮こまってしまった体を後ろから抱きしめてやった。そしてパチパチと暗闇の中へ飛び散っていく火花を一緒に目で追いかけながら話を、…………いや、話などしていない。自分たち兄妹は、あのおどろおどろしい闇の中で互いに互いの手を取り合って、ただただゆらゆらとはためく火の穂を眺めていただけだった。会話など無くても、自分たちは相手の手から伝わる力加減や汗や体温などの微妙な違いだけで、お互い何を思っているのか知り得るのだから当然である。そのうちに風が止んでずいぶんと静かになり、恐怖心もそれに次いで紛れていったが、結局手だけは離さなかった。もうその頃になると、炎の中心部分から燃えるものが少なくなり、頬を刺してくる暖かさもほとんど無くなりはしていたけれども、それに、焚き火の中へ入れていた芋もすっかり煮えきってしまっていたけれども、二人の兄妹はただ静かに灰になって崩れ行く木々を、心配して様子を見に来た両親が声をかけるまで見つめ続けた。--------まだ彼女の事を本当に「妹」だと思っていた頃の懐かしい記憶である。なぜ、今になって急に。………………
--------あゝ、そうか、だからか。まだ初希とはキスの一つもしていない時に、ちょうど今と同じような気味合いでぼんやりと焚き火を、そして、それによってほのかに照らされた彼女の顔を見守っていたからこんなにも気になったのか。それが今やどうだ。彼女がまだ中学生の時分に求められるがまま誘われるがまま、唇を重ね体を重ねたのをきっかけに、いつか終わらせなければ、そしていつか終わると知りながら、ぐだぐだと肉体関係が続いてしまっている。これがただの体だけの関係ならば、初希ももう十七歳という年齢なのだから、同じ教室に居る男子でも捕まえて兄の事など忘れることができよう。しかしもうすでに、引き返せぬほど彼女は自分を愛してしまっているし、それに負けじと自分も彼女のことを愛してしまっている。その上両親も、息子・娘が夜な夜な猥りがましい行いをしていることに、とっくの昔から気がついているにも関わらず、ただほのめかすだけで何もはっきりと言ってこない。そんなだから背徳感に膝を震わせたあの、-------妹の処女を奪ったあの日の感覚が消え失せるほどに何度も何度も、それこそこの一週間は毎日毎日、いつ誰が見てるのか、自分たちが何をしているのかも忘れて彼女と体を重ねていたのである。
もちろん、初希との関係を終わらせようとしたことなんて何回もあったが、彼女には話を切り出す前の顔つきから分かるのであろう、至極悲しい顔をしてこちらに向き直るので結局言えずじまいに終わり、最近ではもうその気も起きなくなってしまった。どころか、初希への思いが募りに募りすぎて、どうすれば彼女と人生を添い遂げられるのかを真剣に考えるようになってしまった。それは進んではいけない方向に舵を切ったということだけれども、なぜか自分には、止まっていた歯車がぐるぐると回り始めたような、そんな気がしてならない。つまり、間違った道の方が本来選択すべき正しい道だと、今ようやくその道を選んだのだと、自分は思っているようなのである。それでこれまでの半生をよくよく振り返ってみると、自分には彼女との関係を終わらせようという気持ちなど、さらさら無かったとしか言いようがなく、自分がやったことと言えば、そういういい加減な気持ちで別れを切り出したり、思わせぶりな態度を取ったりして、ただ彼女の心を弄んでいただけなのである。結局、初希と離れられないのは他の誰のせいでもなく自分のせいであり、けれどもこのまま共に添い遂げる方が正しい道だと信じて突き進むあたり、この鈍感で外道な男はずっと昔から手遅れだったのであろう。--------だが、終わる。初希との関係は確実に終わる。どれだけ愛し合おうとも、どれだけ手を尽くそうとも、血を分かち合った兄妹なのだからいつかは離れ離れにならなくてはならない。それは兄妹で性行為に至っていたと世に知られ無理やり仲を引き裂かれるか、それとも自然にどちらからともなく離れていくか分からないが、その時は確実に近づいてきている。自分たち兄妹に残された時間はあと僅か数年ほどであろう。血の繋がりがあるだけなのに、たったそれだけなのに、心も体も繋がった今ではその血の繋がりゆえに雑多なカップルよりも強く結び付きあっているというのに、兄妹の関係とは余りにも残酷なものである。本来ならば、こうして妹と二人きりで旅行することさえおかしいと思われるのかもしれない。……………
思い返してみると自分はこれまで生きてきて初希以上に気立てよく、一緒に居て心地よく、自分を理解している女性には会ったことがないし、それに、これからも会うことなんて無い気がするのである。今回の帰省の初日にもそれを実感した。自分が実家の門をくぐったのはちょうど夕食時であったから、お土産をぶんどられるやすぐにテーブルへ座るよう促されたのであるが、なぜかキッチンで料理を用意してくれたのは初希であった。とは言っても彼女は元々よく母親を手伝う子であったので、懐かしい気持ちで食卓に並んでいく生姜焼きや味噌汁、里芋の煮っころがし、そして小松菜とちりめんじゃこの和え物を眺めていた。最後の小松菜は意外であったけれども、どれも自分の好物である。早速いただきますと言い、青々としたネギの乗った味噌汁がたまらない香りを漂わせていたのでお椀を手に取ったところ、初希がエプロンを外しながら先程ぶんどったお土産を片手に隣へ座ってくる。そしてお土産を開けるのかと思いつつ味噌汁をすすっていたら、なぜか畏まった姿勢でこちらをじーっ、と見てくるので何事かと思いこちらからも見つめ返すと、おいしい? と聞いてくるのである。もちろん文句なしに美味しいのでそう返すと、ふにゃりと笑って、よかった、よかった、と言う。そこでようやく、この料理たちが彼女の手によって作られたものだと合点したのであるが、そう気がついて見てみると、なんと細部まで兄好みに仕立てられていたか。それまで飲んでいた味噌汁一つ取っても、自分の好きな薄めの味付けがなされていたし、具には自分の好きな豆腐と油揚げと玉ねぎが、ゴロゴロと自分の好きな大きさになって使われていたし、それに余りにも匂いが良いので聞いてみるとしっかり鰹節と昆布から出汁が取られていたし、そもそも先程のネギだって自分がかつてふりかけていた分量と全く一緒なのである。あともう少し述べておくと、あの時出てきた里芋は、先日に自分で食べたいと言っておきながらすっかり忘れていたものなのであるが、彼女はちゃんと憶えて献立に加えてくれたのであろう。結局自分は、ほとんど初めてと言っていい妹の手料理一つですっかり胃袋を鷲掴みにされてしまった。
そう思い出してみると、初希のことを紹介する時には、妹と言うより妻と言った方が正しいのである。先程だって、こちらがコートを脱ごうとするとさりげなく後ろから手を伸ばして来たので、ハンガーのある位置が逆ならばきっとコートを取られ吊りかけられたことだろう。それは事実、十年以上生活を共にしてきたからこそ会得し得た初希の心づかいであろうが、けだしそういう細かい身の回りの世話は長い時間をかけて少しずつ醸成されるものである。もっとも、自分が彼女の事を妻として見るようになったのは目であるから、そういった行動は副次的なものでしか無い。あの目はもうとっくの昔から兄を見るような目ではなく、夫を見つめる新妻のそれであって、殊に矢で射抜かれるような色気があるのである。一体全体いつからそんな目をしてきたのかはもう分からなくなってしまったが、自分が彼女のことを思い初めた頃、------彼女が中学一二生の頃にはすでに、ああいう媚びたような、哀愁を湛えたような目をしていた。いや、中学生の女の子に、しかも実の妹に恋をするなど存外な変態じゃないかと思われるだろうけれど、初希はその時もう十分人を惚れさせる魅力を備えていたのだから仕方がない。そもそも考えてみると、男は高校生になっても大学生になってもアホはアホのままであるが、女は中学生になる頃にはすっかり色づいているのである。彼女もあんな我儘で自分勝手な性格をしているけれども、案外体の成長は早く、ときどき見ることになった水々しい裸体には今思い出しても心臓が動悸を打ってしまう。そんな女性と当時高校生だった自分がかなりの時間を共にしたのである、こんなことになってしまったのも頷けよう。
ならば今はどうなのかと問われると、それはそれはもう、背も少し高くなって胸も大きくなって顔に深みが出て、--------あゝ、美しい。………………こんな美しい少女を独り占めに出来るなんて自分はなんと幸せ者なのだろう、絶対に離したくない、もういっそのことこのまま駆け落ちしたい。だが、あと一年経てば初希と二人っきりの時間がどっと増えるのだから、今は辛抱しておく方が懸命であろう。センター模試があんまり出来なかったとて、今まで何度もその天才とも言える知力で二年歳の離れた兄を脅かしてきた彼女のことだ、恐らく九割以上を狙っていたのにぴったりだったとか、惜しくも十点二十点足りなかったとか、今ですらそのくらいの学力はあるはずなので、大学へは少なくとも自分より余裕を持って行けてしまうに違いない。そうなればもはやこちらのものである、誰にも邪魔のされない同棲生活をしばらく送ることが出来る。が、その後、つまり、自分が大学を卒業して就職した後はどうなる? 籍を入れられなければ子供も生むことが出来ない上に、異母でも異父でもない実の妹と事実上の夫婦生活を営むなど社会は許してくれまい。かと言って隠し通すのも、いつ何時ひょっと誰かに手を繋いでいるところを見られるのか分からないし、ひょっと酒の場などで口を滑らせてしまうか分からないし、ひょっと不審な点を怪しまれでもしたら、------そういう話が好まれる昨今の事情である、一気に付け込まれて初希との関係を暴かれてしまうであろう。そもそも、そんなことを考えながらビクビク怯えて日々を過ごしていると、バレるバレない以前に、夫婦仲に亀裂が走りそうである。ならばむしろ堂々としているのも手かもしれないけれども、どれほど公にすれば自然に見えるのか分からないし、そんなことをして初希を傷つけでもしたら、………と思うと足が止まってしまう。一体どうすれば。…………………
--------だが、そうやって悩むよりは、今は今を目一杯大切に生きるほうが良いのではないだろうか。まだあと数年しか無いとは言え、まだあと数年も残っているのである。それほど時間があれば自ずと考えもまとまり、自分たちの向かうべき方向が定まってくるであろう。よく考えれば、まだ彼女と添い遂げようと決意してから日が浅く、それに今までは自分一人でうじうじと考えていたのである。恐らく初希は、優柔不断な兄がそうそう早く決断を下せるなどとは微塵も思っておらず、それなら二人きりで生活するようになってから考えても遅くは無い、と云うよりお兄ちゃんに任せていたら何時まで経っても結論なんて出ないのだから、私に全部任せてその辺でお茶でも飲んでいなよ、などと思っているのではないだろうか。だから話題にも出さず、今日のようにひどい盛り上がり方をして今を楽しもうとしているのではないだろうか。ならば自分が取れる行動は一つしか無いのではないだろうか。駆け落ちの判断は数年後の自分とその妻に任せるとして、今日、明日、明後日は目一杯彼女を楽しませなければいけないのではないだろうか。ならこんな憂鬱な気持ちに負けている暇など無いのではないだろうか。------------
「こーき。…………」
ふいに、すっかり頭を首に埋めていた初希が、体勢はそのままに倖希の名前をそっと呟いた。かと思いきや、くるりと上半身を回して彼と向き直ると、肩に手をかけて体を押し倒し、自身もまたふわりとその上に倒れ込む。
「お、おい、はつき、こんなことする場所じゃないだろ。…………」
「んふふ、………そんなことは言っても、こーきの心臓は正直だね。もう、ドキドキしちゃってる。…………」
「はつき、落ち着けって。あと名前で呼ぶんじゃない」
「えー? だって、外だと名前で呼べって言ったのはこーきだったじゃん。私はちゃんと、こーきの言いつけを守ってるだけだよ?」
確かにそう言ったことはあるものの、それはかつて友人と自分と初希とで遊��だ際に、余りにもいちゃついてくるものだから彼女が妹だと言おうにも言えなくなってしまい、ついつい、今日だけは名前で呼んでくれ、と耳打ちしたのであって、決して、「外では『お兄ちゃん』と呼ぶな」、とは言ってないのである。だからどういうことかと言うと、今初希は、昨夜のように押し倒した彼の股に座り、昨夜のようにその手を片っぽずつ握り、そして昨夜のようにとろんとしたした目で見下ろしているのである。
「------だから言ってな、…………こら、そういう顔で見るんじゃない」
「それにさぁ、………こんな狭い部屋の中で男女が二人きりでいるなんて、何も起きないほうがおかしいと思わない?」
「いや、男女って言っても、俺たち兄妹だから、-------」
「んーん? いまさらこーきは何を言ってるのん? 昨日だって、私の下であんなに可愛くあえいでいたくせに。…………」
初希がこちらの目をまっすぐに見据えてくる。
「ちょ、ちょ、ちょっと。待って、はつき、まだ満足じゃないのか?-----」
「あれで十分? こーきは本当にそう思ってるのん? あと三日しか無いんだよ? 私達の時間は。もうそれだけなんだよ? ------あっ、でも、こーきがこのまま攫ってくれるなら話は別だけどね」
「それは、…………」
窓の外に映る景色はいよいよ明かりという明かりが無くなり、壁と天井の境界さえ分からないほど部屋は真暗であったが、倖希は自分を見据えてくる目が潤んでいるのを確かに感じ取った。
「ねっ、こーき、このまま向こうで過ごそうよ。過ごしてさ、---------」
-------と、初希が何かを言いかけた時、扉からガチャガチャと言う音が聞こえてきた。その音に、もう鼻と鼻が触れ合うほど顔を近づけてきていた初希もびっくりして体を起こしたが、まだガチャガチャと言っている。
「あ、あれ? なんで鍵が、………」
程なくして、そんな女性の声が聞こえてきた。あゝ、なるほど、もしかして、部屋を間違えた別の乗客がこの部屋を開けようとしているのか、--------と二人は合点して静かに扉を見つめる。
「うん? あ、しまった。ここじゃない。…………」
「ふっふっふ。………」
「-----こーき、趣味悪いよ」
「せやな。……………」
「あ、あの! ごめんなさい!」
見知らぬ誰かはその声を発するや、どこかへ走り去ったのであろう、もうその気配も伺えなくなってしまった。
「………やっぱり間違えてたんだな」
「ふふっ、私もさっき間違えそうになったから、仕方ないよね」
「なんだ、はつきも間違えそうになったのか」
「まぁ、ね。…………」
一瞬だけ晴れやかになった初希の顔が、どうしてだか再び沈んでいく、-----見えないが口調からそんな気がした。
「はつき、はつき、ちょっと重くなってきたからどいて、-------」
だから、せめてこれだけは、………と思ったのである。
「えっ、あっ、ごめん。………っていうか、こんな純粋無垢で可愛い女子高生に重いってどういうこ、--------」
「------ごめんな、今はこれだけで許してくれ」
「…………えへへ、やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんだ。……………」
「…………どういうことだよ」
「んへへ、………いいのいいの。お兄ちゃんに意気地が無いのは分かってたし、あと一年だし、あと一年耐えればいいだけだし。…………そう、一年だけ。---------お兄ちゃん、頑張るよ、私。そしたらたくさん思い出作ろうね。終わっちゃう前にたくさん、たくさん。…………………」
「あぁ、そうだな。色んな事しような。……………」
「ん。--------あーあー、…………なんだか眠くなってきちゃった。このまま寝ていい?」
いいよ、と返事をして初希の顔から眼鏡を外し窓枠に置くと、すぐさまこちらの胸元にぐいぐいその顔を埋めてきたので、とりあえず後髪を撫でてやる。
「おやすみ、はつき」
「おやすみ、こーき。……………」
そうしてそのまま頭を撫で続けていると、すー、すー、という可愛らしい寝息が列車の走る音に紛れて微かに、でも確かに聞こえてくるようになったので、倖希は一つため息をつくと、少しだけ酒を口に含んだ。時刻を確かめてみるともう午前三時である。窓の外には名古屋に近づいてきたのか、点々と煌めく街の灯が、水平線の向こう側まで広がっている。彼はそれを酒の肴にしようと予てから画策していたのであるが、胸の中に感じる言いようのない心地よさに一瞬眠気を感じたと思ったらもうそれまで、後はうとうとと船を漕ぐばかりになり、頭を撫でる手も止めてしまった。
  ハッと、倖希が気がついた時にはもう窓の外は白くなっていて、朝日こそは黒みを帯びた雲で見えなかったものの、ずっと遠くにある住宅地まで見渡せるほどには晴れやかな空気が漂っているようである。だが付近の道路やしまうたやに目を落としてみると、そこはかとなくどんよりとしているので、やはり雲行きは怪しいらしい。それよりもこの薄暗いのはその雲のせいだとすると、もしかしたら停車駅をいくつか逃してしまったかもしれず、倖希は今列車がどこを走っているのか気になったのであるが、いまいち頭がぼうっとするので雨の気配を心配しつつ車窓を眺めていた。と、ちょっとして、
「次は横浜、横浜、-------」
という車内放送が流れてくる。ということは、次の駅は終点の東京なのか、意外と時間が経ってしまっていた。ならそろそろ、この胸に抱きついて一向に起きる気配の無いお姫様を起こさねば。…………そうは思ったもののもう少しだけ、愛しい彼女の温もりというものを感じていたかったから、二三回ゆっくりと頭を撫でた後に背中をポンポンと叩いてやる。
「んんぁ、-----なに、なに。…………」
「そろそろ着くよ。初希、起きな」
「-----ああぁ、…………おはよ、お兄ちゃん。…………」
のっそりと体を起こすと初希は、まだまだ寝たり無いのかひどく眠そうな目を手でゴシゴシと拭っている。
「んぁー、…………だめ、ねむい。…………ついたらおこして。………………」
そう言って再び倒れ込もうとしてくるので、倖希はそれをやんわりと拒否した。
「うちに着いたら好きなだけ寝ていいから、今は頑張って。…………」
だがやっぱり眠気が勝るのか、ほとんど正座に近い状態であるのにしっかりと体を倖希に寄り掛けつつ眠るので、彼はすっかり諦めてしまうと、結局東京駅に着くまでそのままの体勢を保ち続けたのであった。
駅に着いてみると、相変わらず天気はどんよりとしているどころか、霧がかかったように建物という建物がぼんやりと佇んでおり、これなら今直ぐに降り出してもおかしくないな、と思いつつホームに降り立った倖希であったが、初希と手を繋いでいるせいで心持ちは穏やかと言えば穏やかであった。ところが、まだ飲みきっていない酒の瓶を捨てているうちに、さぁさぁと、小雨が降り出したかと思いきやそれは段々と大降りになり、しまいには風を伴って駅の壁に打ち付け初めてしまった。周りを見ると、素知らぬ顔で歩いている人も居れば、頭を抱えて外をじっと見つめている人も居る。
「ん? どうしたの、お兄ちゃん?」
「-------いや、なんでもない。行こう」
「ん、……………お兄ちゃん」
「あん?」
「手、手だよ!」
倖希は、酒の瓶を捨てる時に手を離してしまったのだった。
「おう、……すまんすまん」
と、言って再び初希の手を取ったのであるが、そういえば実家に傘を忘れていることに気がつくと、ついつい足が止まってしまった。
 (おわり)
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keikoshiga · 12 days
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木庭撫子監督作品 映画「骨なし灯籠」のオリジナル・サウンドトラック。志娥慶香が書き下ろした音楽や、山鹿民謡など挿入曲を収録した映画の世界観を味わえる内容となっています。
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1. 骨なしさんのかばん 2. オードブルを囲んで 3. ゆかりへの想い 4. 想起 I 5. 想起 Ⅱ 6. 灯籠師 I 7. お父さんのカメラ 8. ゆかりの好きなもの 9. 疑念 10. あかりの想い 11. 骨なし灯籠 12. 灯籠師 Ⅱ 13. おもいでのアルバム 14. 蘇峰 -骨なし灯籠バージョン 15. おもいでのアルバム -ピアノバージョン- 16. よへほ節 17. 米原長者くどき唄 18. 鹿北茶山唄 19. 山鹿灯籠盆踊り
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志娥慶香 作曲・演奏の「蘇峰」ピアノソロバージョン。エフエム・クマモトの長寿番組「朗読〜声の贈りもの」メインテーマとして親しまれています。音源(WAVまたはmp3)とPDF楽譜のデータファイルのセット販売です。楽譜は表紙を含めて全3ページあります。ご自身でプリントアウトしてご利用ください。YouTubeにてご視聴できます。 《曲について》 わたしのふるさと熊本の、阿蘇の山々にそよぐ風をイメージして創りました。阿蘇山は、世界でも有数の大型カルデラと雄大な外輪山を持ち「火の国」熊本のシンボルとして親しまれています。その豊かで穏やかな山々の峰と包容力はまるで母なる大地のよう。一面に広がるススキの草原に吹く風がシンフォニーを奏でます。美しいこの風景がいつまでも続きますように。
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【アルトサックス&ピアノ用の楽譜】
蘇峰(1,100円税込)
志娥慶香 作曲・演奏の「蘇峰」アルトサックス&ピアノバージョン。上記のピアノソロバージョンとは曲アレンジが違うバージョンです。PDF楽譜ファイルです。(音源は含まれません。)表紙を含めて全5ページの実音スコア譜と2ページのアルトサックス用のパート譜をお届けします。ご自身でプリントアウトしてご利用ください。下記リンクよりご試聴と音源のダウンロードができます。https://ryoichiyamaki.bandcamp.com/track/sohou
《曲について》 大編成のオーケストラやJazz Big Band からソロ演奏まで、美しいサウンドを目指して演奏活動をするサックス奏者、八巻綾一。大自然からのインスパイアによってその心象風景を音楽で描く作曲家、志娥慶香。この「蘇峰」のデュオバージョンは2020年のコロナ禍において、それぞれの住む東京と熊本で制作されました。この音楽が風に乗って遠く離れた大切な人へ届きますように。
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【CD】
Piano Works Vol. 01(¥1,100 税込)
ピアノソロ5曲入りCDアルバム。四季を感じ、自然や人間の営みから多大なインスピレーションを得て長年あたためていた志娥慶香ピアノソロ作品集。「穀雨」は映画「NOT LONG, AT NIGHT 夜はながくないサウンドトラック」の別テイクバージョン。YouTubeにて全曲ご試聴できます。 【収録曲】(すべて志娥慶香作曲) 1. Evergreen  2. Kokuu (穀雨)  3. Thawing (雪解け)  4. The Moon and Pierrot (月とピエロ)  5. Komorebi (木漏れ日)
【ピアノソロ楽譜】
Evergreen(¥1,100 税込)
上記のピアノソロ5曲入りアルバム「Piano Works Vol.01」に収録されている「Evergreen」のピアノソロ用楽譜のPDFファイルです。表紙を含めて全6ページあります。ご自身でプリントアウトしてご利用ください。 《曲について》 エバーグリーンには、ずっと美しいままで、という願いがあります。命の讃歌。大切な人が天国へ旅立ったとき、わたしの心の中にこのメロディーがおりてきました。透きとおった綺麗な緑色の風と共に。生まれたての美しい心で、わたしたちの魂はワルツを踊ります。
Komorebi(¥1,100 税込)
上記のピアノソロ5曲入りアルバム「Piano Works Vol.01」に収録されている曲「Komorebi」のピアノソロ用楽譜PDFファイルです。表紙を含めて全7ページあります。ご自身でプリントアウトしてご利用ください。 《曲について》 木漏れ日の織りなす光と影の戯れからインスパイアされました。幻想的な影の動きを見つめていると、いつのまにか夢のようなことをとりとめもなく思う瞬間が訪れます。ペダルをたっぷり使って弾いてみてください。
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【音源と三部合唱楽譜のセット】
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志娥慶香 作詞作曲・演奏の「みずのうた」。歌入り音源とカラオケ音源(WAVまたはmp3)の2種類・三部合唱楽譜PDFファイルのデータファイルのセット販売です。楽譜は、簡易ピアノ伴奏つきスコア譜・歌パート譜(3パート)、簡易ピアノ伴奏譜のPDFファイルをお届けします。ご自身でプリントアウトしてご利用ください。歌入り音源は、YouTubeにてご視聴できます。 《曲について》 みずはめぐる いのちはめぐる 生きている今 それは奇跡 たったひとつのこの地球で お母さんから生まれてきた 僕も魚も鳥も虫も 同じ喜び分けあっている (歌詞より抜粋) ある日、私は江津湖(熊本県熊本市)のほとりを本当に久しぶりに歩きました。あちこちから聞こえる水と戯れる子どもたちの声、ボートを漕ぐ恋人たち、掃除をするおじさん、湖に住んでいる魚や鳥や虫、そして植物。目の前の癒しの風景と懐かしい記憶が交差する中、風が水面を揺らすように、私の心が揺り動かされました。「この美しい風景を守りたい・・・」天から降りてきた言葉とメロディを書きとめ、「みずのうた」という曲ができました。 2009年にリリースされた「みずのうた」。歌っていただいたのは「音の和」をテーマに全国でライブ活動を展開している川原一紗さん。そして、国際的にご活躍中の21絃箏奏者・藤川いずみさんに雅な水の表現を奏でていただきました。リリース時には、水と命の尊さを讃えた歌のメッセージをより多くの市民に伝えたいことから、CDを熊本市長に寄贈したことは地元紙でも取り上げられた他、環境新聞や月刊下水道、熊本市水道局便りなどの多くのメディアで紹介していただきました。様々な県内外での環境イベントのBGMやテレビCM、熊本市役所の終業時の音楽などにも使用されています。みなさまにこの歌のメッセージが浸透し、水へのいのちへの意識が高まりますよう願っています。
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【CD】
歳月の旋律(劉福君)(¥3,000 税込)
【全曲の伴奏作編曲と伴奏音源制作を担当しています】 中国二胡奏者の劉福君さん、来日30年記念オリジナルCD楽曲アルバムを共同制作させていただきました。今までにない本格的な伴奏カラオケCDとの2枚組。
【収録曲】 1. 郷の風 2. 江南小景 3. 秋雨 4. 秋葉 5. 晩秋 6. 雲海 7. 春風楊柳 8. 湖畔の朝 9. 雨中泪 10. 孤独の日々 11. 在哪里 12. 再会 13. 島の風 14. 流水如情 15. 草原情
【発売元・お問い合わせ】劉福君
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【CD】
こもりうた3~世界のうた 日本のうた~(音の和music)(¥2,000 税込)
【2曲のアレンジとピアノ演奏で参加しています】 「音の和」をテーマに全国でライブ活動を展開している夫婦ユニット、音の和music 川原一紗さん◎藤川潤司さんの歌い継ぎたいこもりうたの3作品目に、参加させていただきました。志娥慶香は、②「我が故郷スオミ」(フィンランド民謡)と、③「カレリアの丘」(フィンランド民謡)のアレンジとピアノ演奏で参加しています。YouTubeにて全曲ご視聴できます。   ���                        【収録曲】 1. 世上只有媽媽好 2. 我が故郷スオミ(志娥慶香/編曲・ピアノ) 3. カレリアの丘(志娥慶香/編曲・ピアノ) 4. 五木の子守唄 5. Suo Gun 6. The Rose 7. 月桃 8. 野菊 9. Mama Africa 10. Amazing Grace 11. ふるさと 12. 森のようちえん朝のうた 13. 森のようちえん帰りのうた
【発売元・お問い合わせ】音の和music
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【DVD】
短編映画「冬の蝶」完成版DVD(¥1,500 税込)
遠山昇司監督作品「冬の蝶」(2016) の全編の音楽を作曲・演奏した作品のDVDです。映像特典:特別予告編。
収録時間:本編19分。
第33回テヘラン国際短編映画祭 アジア・コンペティション部門 グランプリ受賞 九州の秘境、熊本県五家荘を舞台に描かれる美しくも儚い命の物語。 【CAST】 Una 五十嵐靖晃 岩崎幸代 大西靖子 【発売元・お問い合わせ】 「冬の蝶」製作委員会
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【CD】
映画「NOT LONG, AT NIGHT -夜はながくない-」オリジナル・サウンドトラック(¥2,500 税込)
遠山昇司監督作品「NOT LONG, AT NIGHT -夜はながくない- 」(2012)の全編の音楽を作曲・演奏。ピアノの音色と旋律は主人公の女の心情を表しており、序盤の音色と旋律が、終盤にはどのように変化していくか、ストーリーとともにどうぞお楽しみください。 【収録曲】 1. ユートピア  2. 落下する心  3. 残夢  4. 指輪のあと  5. 少しだけ近づいて 6. 二人でみる夢 7. 夢の重さ  8. 海からきたのか。海に向かうのか。 9. どこかへ 10. 海のまち 11. ノアの方舟  12. かさなる心、波に包まれて 13. 私がみた夢 14. 目覚め  15. 夜はながくない 16. 希望の記憶 17. 穀雨 
【発売元・お問い合わせ】「NOT LONG AT NIGHT」製作委員会
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【DVD】
映画「NOT LONG, AT NIGHT -夜はながくない-」完成版DVD(¥3,000 税込)
遠山昇司監督作品「NOT LONG, AT NIGHT -夜はながくない- 」(2012) の全編の音楽を作曲・演奏した作品のDVDです。映像特典:予告編。
収録時間:本編95分。
第25回東京国際映画祭 日本映画・ある視点部門正式出品 欲しかったのはしあわせよりも、希望。 朝を探しに女は旅に出た。 「生と死」「希望と絶望」が入り交じる彼女の物語が今、生まれる。 熊本の海を舞台に描くピアニッシモなロードムー ビー。 【キャスト】 玉井夕海「千と千尋の神隠し」「もんしぇん」 和田周  米村亮太朗  島ゆいか  古家優里  加藤笑平  宮部修平  瀬畑奈津子 【発売元・お問い合わせ】「NOT LONG AT NIGHT」製作委員会
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hummingintherain · 3 years
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『とあるねじれたせかいのものがたり』
 一
 歪んでる、それが正しい、あの子の世界。
 その女の子は、一面が銀色に輝く雪原のはじっこに住んでいる。剛毛の赤毛に、とろりと溶けるような垂れた黒色の目に短く切り揃えられたような睫毛。同年代の子供で背の順に並べば一番前を陣取るようなこじんまりとした背丈。決して美人とは言えないその女の子は、毎日大きな書庫の隅に置かれた机で本を読んでいた。書庫は壁全体に張り付いているような巨大な本棚をいくつも揃えている。無論壁だけでなく部屋全体に美しく並べられ、その一つ一つが様々な書物でびっしりと埋まっている。思わず前のめりになってしまう胸が躍る冒険譚も、大人でも読むのに苦労するだろう分厚い辞書のような物語も、どこかに住む見たことのない生物���全頁に描かれている図鑑も、幼子も心をときめかせるカラフルな絵本も、彼女の望む全ての本が揃っていた。そこで年がら年中四六時中読書に耽っていた。  女の子はたった一人でその家に住んでいた。丸太で頑丈に造られたその家は、人間だって簡単に吹き飛ばされてしまいそうな猛烈な吹雪にあてられてもびくともしない。数か所に設けられた窓も三重構造になっているから、寒さにも風にも強い。ただ、換気をしようとするときに不便なだけ。  お腹が空いたら彼女は台所へ向かう。冷蔵庫の中身は誰かがこっそり補充しているかのように常に満杯だった。それを女の子は不思議に思ったことはない。今日もまっしろで雪玉みたいな卵を二つ。慣れた手つきで殻を割って、ボウルに落とされるは二つの黄色いまる。いくつかの調味料を目分量で加えてかき混ぜる。これで準備は万端。長方形のフライパンにフライ返しと取り皿を乗せて右手に、ボウルを左手に。小さな両手でたくさんの荷物を引きつれて、煌々と燃える居間の暖炉へと。煉瓦で囲まれた大きな暖炉にフライパンを翳して温めたら、卵を流す。じゅう、と耳に心地良い音。静寂を掻き分けるようなこの音が女の子は好きだった。火力が強いために加減が難しいが、上手く溶き卵をひっくり返していく。慣れた手つきで、あっという間にふっくらふんわり卵焼きのできあがり。まだ熱い間にいただきます。暖炉の前のテーブルに卵焼きと箸を並べて、彼女は手を合わせる。それから箸で卵焼きを裂く。その隙間から、冬に吐きだす白い息のような湯気がもくもくもくと溢れだしてきて、女の子はにんまり笑みを浮かべる。美しい断面図、黄色の層。一口サイズにして口の中に放り込む。控えめな味付けだけど、甘い卵の味がしっかりと口の中いっぱいに染み渡っていった。はふはふと熱さに口の中で卵焼きを転がしながら、それでも我慢できなくて噛んでいく。そのたびに味が広がっていく。卵焼きは彼女が大好きで大得意な料理だった。  満たされたらまた書庫へと戻る。書庫は居間よりも何倍も大きくて、まるで家に図書館が併設されているかのようだった。部屋には真っ赤な絨毯が敷かれ、女の子の平凡な容姿とは裏腹の、どこか高級な気風を兼ね備えている。木製の本棚に並べられた本は乱雑で、高さもまったく揃っていない。それを彼女は気にしなかった。むしろそのざわめいているような雰囲気が彼女にとっては心地良かった。まるで、一人きりじゃないみたいだったから。一冊一冊無造作に読み進めている感覚がたまらなく愛おしかったから。  食事をとる前に読了して机に置きっぱなしにしていた本を手に取り、適当な隙間に押し込める。こうしてまた仲間の元に戻っていく。溢れんばかりの物語の渦に引き込まれて、一つになる。おかえり、ただいま。そんな言葉が聞こえてきそうだった。さよなら、またね。女の子は愛しげに細い指で背表紙をなぞる。心を動かす物語を、ありがとう。  次に読む本を決めていないのが女の子の特徴だ。棚いっぱいに広がっている背表紙の森を眺めて、呼ばれるように一冊の本に指をかける。今日もそうして一つの本棚の前に立ち、黒い瞳で無数の題名を受け止めていく。と、視線の動きが止まる。すぐに書庫の大きな扉の傍まで戻ると、自分の何倍もの背丈のハシゴを手に取った。幼い身体に対してあまりに長く、運びづらい。本棚に這わせるようにゆっくりゆっくり連れて行くと、目的の場所に立てかけた。ハシゴは天井まで突き刺さりそうな高さだった。実際、本棚は丁度天井まで届いているため、そのくらいの高さが無いと意味が無い。女の子はハシゴが安定していることを何度も確認すると、意を決して登っていく。一段一段、丁寧に手をかけ、足をかけていく。いくつもの本を横目にひたすら上へと向かっていき、一番上の段までやってくる。おはよう、よろしくね。手を伸ばして、蜂蜜色のハードカバーの一冊を取り出す。いってきます、いってらっしゃい。そうして森の中で一輪の花を摘む。脇に挟み込むと、行きよりも慎重に降りていく。幸運なことに未だ落ちたことは一度も無いが、足を滑らせれば、ハシゴがバランスを崩せば、小さな命の灯など一瞬で吹き飛ばされてしまうのだろう。それが女の子はどうしようもなく怖かった。油断すると足を掬われる。本が教えてくれたことだ。石橋を叩いて渡るように緊張を保っていくと、気付いたら床に足がついていた。やれやれ、今日も無事に乗り越えられたようだ。女の子は本を両腕で包み込みながら安堵の息をついた。  ハシゴを定位置に戻し、すぐに机へと向かう。窓の向こう側から差し込んでくる白い光を明かりにして、本を前にする。『麦』という余計なものを全て削ぎ取ったような端的な題名。本を開くと、古びた一ページ目が顔を出す。あなたはどんなものをわたしに与えてくれるの、楽しみにしているね。  文字の一つ一つを撫でるように読み進めていく。紙を捲る乾いた音が、大聖堂で楽器を鳴らすように書庫に響く。外界の音は厳重なガラス戸が一寸の漏れなく遮断しているため、その音だけが唯一この家に残された光のようだった。他には何も無い、無音の世界。女の子はそれに寂しさを覚えない。別の世界に心を委ねているから、気にも留めない。  小さな窓の外からの明かりは何時の間にかおとなしくなっていき、文字が読めないほどに暗くなってきた頃に息を吹き返したかのように顔を上げた。架空の世界から現実の世界へと戻ってきた彼女は、余韻に脳が痺れたまま徐に立ち上がる。『麦』に薄い木片の栞を挟み込んで閉じると、机の上に残して彼女は書庫を後にする。  書庫と居間は短く真っ直ぐとした廊下で繋がれている。この家にある部屋は、ベッドが置かれただけの寝室と、台所を取り込んだ居間と、書庫のたった三つだけだった。それだけで彼女には十分だった。  居間の暖炉の前の椅子に腰かけると、女の子は一日を戦いきった後のように長い溜息をついた。息を吐くと同時に、空腹感も増幅してくる。また卵焼きでも作ろうか、それとも別のものを作るかと思案する。妙な倦怠感が全身に覆いかぶさって、なされるがままに彼女はテーブルに伏せる。なんだか、とても疲れていた。『麦』は一人の女の子の生き様を描いている物語なのだが、まるで筆者が直接書いた自伝のような生々しさがあった。他の本とは何か違う。うまく言葉で形容できないのが彼女は非常にもどかしかったのだが、とにかく違う、そんな引力のある書物だった。だからか、いつもよりも余計に力を吸い取られていた。  疲労の海に抵抗なく浸かっていると、彼女はいつの間にか目を閉じ、夢の世界へと旅立ってしまっていた。
 二
 女の子は、聞き覚えの無い音に目を覚ました。こんこん、と何かを叩いている音だ。硬いその音は小さなものだったが、沈黙を当然とする家を揺らすように響いている。眠気まなこを擦りつつ、女の子は震源を探ろうと周りを見渡す。が、いつも通り暖炉で火が燃えているだけ。部屋の中に特に異変は無い。不思議に思いながら椅子から立ち上がって、耳からの情報を分析して少しでも音が大きく感じる方向へと歩いていく。そうすると彼女は一度として開けたことのない形ばかりの外への扉の前に辿り着いていた。明らかにここから――正しく言えばこのすぐ外から音は発信されている。彼女は木の重い扉の取っ手をとり、力いっぱい引く。びゅおう、と猛烈な風が部屋に吹き込んできて、まだ夢の中にいるような浮遊感が走り去っていった。細めた視界に入ったのは、扉の向こうにいたのは、彼女が初めて見る、彼女によく似た形をした生物だった。 「え……」  一体いつ以来、彼女は声帯をこれだけ震わせたのだろう。小さな感嘆符が零れ落ちて、目の前にいる人物に穴を開けんとしているかのように見上げていた。自分よりずっと大きな体つき。がっしりと肩が広く、闇夜から生まれたかのような真っ黒に染まった服を身に纏っている。男のひとだ、と彼女ははっきりと断言した。何度か見たことがある――それは本が由来だった。本の挿絵で見たような男性像が目の前にリアルな姿として存在している。  男性は女の子より一回り歳を取ったような、しかしまだ活力が十分に身に余っているそんな若者だった。扉が開けられたことに驚いたのか目を見開きながら、雪崩れ込むように女の子の横を擦り抜け、居間へと突入していった。というよりも、倒れ込んでいった。女の子は息を呑む。本を落とすよりもずっと重量感のある音が床を揺らす。女の子は顔を硬直させながら、恐る恐る目の前にいる若者の目を閉じた顔に指先で触れた。まるで雪のような冷たさに指が痙攣する。と、若者の眉間がぐっと歪む。些細な変化にも驚いて女の子は仰け反るが、若者には身体を動かす力も殆ど残されていないらしい。  とりあえず、扉を締めなければ家の中にまで雪が積もってきてしまいそうだった。女の子は若者の足を無理矢理引き摺って家の中に押し込めると、扉を閉める。ずっと使われておらず形式上のものであった外と中の境界線は、錆び付いたように重い。  若者は今にも凍え死んでしまいそうなことは、幼い女の子でもすぐに理解できた。すぐに暖炉の前に連れていて、温めてあげなければ。女の子は小さな身体で若者の体を引こうとするが、びくともしない。彼女が考えていたより人間の身体というのは重い。それでも、何もしないわけにはいかない。彼女はまず吹雪に晒されてしまい彼にかかった雪を叩き落とし、近くにあったタオルで濡れた部分をゆっくりと拭いていく。死人のように青白い顔をしているが、まだ息はしている。彼女は何度も何度も彼の顔を優しく拭いた。目を覚ますのを、じっと待っていた。  その甲斐あってか、しばらくしてから彼の目が薄らと姿を現す。女の子は息を呑み、身を乗り出した。自分と同じ黒い瞳をしている。改めて見ると、逞しいというよりは、優しくおっとりとした印象を持たせる。けれど鼻がぴんと美しいラインを描いており、整っている顔つきだった。若者は現状を理解できず、相変わらず生気が抜けた表情で固まっていた。  女の子は一度その場を離れ、台所へと向かう。慣れた手つきでティーポットとティーカップ、それからハーブを一枚用意する。小鍋に水を注ぐと、暖炉の前へと移動しその火を利用して沸騰を待つ。その間積極的に後ろを振り返り、若者の様子を伺っていた。若者は一応は目を覚ましたものの、凍り付いたような体を動かすことができないでいた。珍しいものを見る目で眺めているうちに、手元のお湯は沸騰する。慌てて台所へと戻ると、ポットの中にハーブを落とし、湯を注ぐ。ハーブの香りが彼女の鼻腔を刺激し、充満していく。心が穏やかになる爽やかな香りだ。ハーブの成分が浸透するのを待つ間に、女の子は若者の傍に戻る。 「……ごめん……ありがとう……」  若者は女の子を視界にいれるや否や、そう彼女に声をかけた。女の子は肩を跳ねさせ、直立する。相手は人間なのだ、喋るのは当然だ。そうと解っていても、胸がどきどきとして、一気に緊張してくる。  凍ったような体を無理に動かそうとする若者を見て我に返った女の子は、急いでその傍に寄る。彼女のか弱い体で若者を支えられようもないが、その健気さに若者は微笑みを取り戻した。力が湧いてきたように、体を引き摺るようにして暖炉のもとへと向かう。ゆっくりゆっくり、時間をかけて、歯をがちがちと鳴らしながら息を切らしながら体の痛みに耐え、炎の前に辿り着いた。そこでようやく、若者は安堵の息をついた。同時に女の子も胸を撫で下ろす。  ふと、ハーブティーのことを思い出し、一目散に女の子は台所に入る。ティーポットからハーブを取り出すと、ティーカップと共に暖炉の前へ戻る。まさか、二つのティーカップを同時に使うときがやってこようとは夢にも思わなかった。床にカップを並べると、ゆっくりとハーブティーを注いでいく。白銀の湯気が空気に溶けていき、同時に昇ってくるハーブの香りに若者の固まった頬は綻んだ。手をついてそこに体重をかけながら上半身を起き上がらせ、彼女からカップが渡されるのを待つ。  女の子は恐る恐るハーブティーを彼に差し出す。 「ありがとう」  先程よりもはっきりとした口調で律儀に若者は対応し、震える両手でティーカップを包み込む。掌から感じられる温もりは癒しそのもの。水面に映る若者の顔は揺れている。端に唇をつけ、少しずつ喉に流し込んでいく。冷えた歯に熱々の紅茶は痛みを呼び起こしたが、すぐにそれは打ち消される。さっぱりとした味わいだった。濃さもちょうどよく、飲みやすい。芯まで冷え込んだ身体に心地良く熱が浸透していくのを感じる。ふと視線を女の子にやると、彼女は黒い目を大きく開けて若者を凝視していた。何故そんなに見てくるのか不思議だったが、やがて気付いたように若者は口を開く。 「……とても、美味しい。とっても」  女の子はぱっと表情を明るくさせた。年相応の愛くるしい笑顔に、若者の心も和らぐ。  それから女の子は思いついたように立ち上がり、台所に戻る。不思議そうに取り残された若者は、きょろきょろと居間の様子を見回す。木造のあたたかい色合いの壁に床。部屋の中心に赤い絨毯が敷かれ、その上にはテーブルに椅子が置かれている。そして、彼の目の前にある暖炉。��れだけしかそこには無かった。随分と広いのに、場所を持て余しているようだった。やがて、女の子が戻ってきたのに気が付く。彼女は卵焼きを作る体勢でいた。若者には調理用具の意味が分からず、不審気に眉を顰める。しかし次の瞬間、目の前で繰り広げられる料理に驚嘆せざるを得なかった。自分よりも一回りも小さい女の子が、いとも簡単に美しい卵焼きを作り上げていく。あっという間だった。黄金の輝きと出来たての湯気を放つそれは、若者の萎えていた食欲を刺激した。女の子は箸で一口分に切ると、彼の口の前に持っていった。それは予想だにしていなかった若者だったが、生憎彼の手は箸を器用に扱えるほど回復していない。幼い子供に「あーん」をされるなんて恥ずかしい以外の何物でもなかったが、相手の輝く瞳を見ていては断ることもできない。仕方なく口を開けると、卵焼きが放り込まれる。紅茶のおかげで温もっている口内に、とろりと染み出る素材の甘さ。調味の加減も控えめながら、卵本来の味を引き立てているようだった。たかが卵焼き、されど卵焼き。特に体が弱った彼にとってはどんな高級料理よりも絶品だと断言できた。 「美味しい!」  我慢できず、嬉しそうな声が彼から飛び出していた。一気に元気が湧いてきたかのようだった。  女の子は喜び、次々と彼の口の大きさに合うよう卵焼きを切っていく。 「君は、小さいのにしっかりしているね……お母さんはいないの?」  ようやく思考がはっきりとしてきたのだろう、若者はそう尋ねる。  対する女の子はぽかんと目を丸くする。お母さん、という言葉を噛み砕き、本で読んできた母親像を思い出す。子供を産み、育てる女性。気付いた頃には――最初から一人だった女の子には関係の無い存在だった。結果、彼女は首を横に振る。 「お父さんは?」  彼女の行動は変わらない。 「一人でこんなところに住んでいるの?」  そこでようやく彼女は大きく頷いた。すごいなあ、と感嘆の声をあげる。女の子にとっては当然のことであったから、何をそんなに驚かれるのかよくわからない。 「……俺は柊っていうんだ。外の吹雪に巻き込まれちゃってね……本当に助かったよ、君が出てくれて」  ひいらぎ。女の子は心の中で繰り返した。文字はきっと、柊。木へんに、冬。ひいらぎ。女の子はこの言葉を何度か本で見てきたが、微風が流れるような穏やかな音の響きが快くて、好きな言葉の一つだった。  同時に、優しい声だな、と女の子は思った。低くてしっかりとしているのだけど、鼓膜を撫でるような綿みたいに優しい声だ。きっと、ずっと聴いていても飽きないのだろう。子守唄でも歌われたら、どんなに目が覚めていてもすぐに眠ることができそうだ。それか、聴いていようと夢中になって無理矢理起きているかの、どっちか。 「君の名前は?」  不意に問われて、女の子は思考を停止させる。彼女には名前というものが存在しない。一人で生活し他人とまったく出会うことのない彼女には、必要無いものである。けれど、名乗ったら、名乗り返す。物語ではよくあるパターンだ。このタイミングで言わないのもおかしいだろう。あまり、変な子だと思われたくない。どうしようと考え始めて、最初に出てきた単語をいつのまにか口に出していた。 「……む、ぎ」 「麦?」  拙い声を彼は聞き取ってくれたらしい。女の子は――麦は、大きく縦に頷いた。  麦かあ、麦。いいね、麦かあ。何が嬉しいのか、柊は頬を綻ばせた。本当は先程まで読んでいた本のタイトルから引用しただけの偽りの名前だが、そうやって何度も繰り返されると何故かとても唇のあたりがむず痒くなる。  そこで沈黙が訪れる。柊はハーブティーを口にし、麦は彼の口が落ち着いた頃に卵焼きを差し出した。僅かずつではあるが、彼の胃は満たされていく。幸せを具現化したようなその味に、逐一柊は美味しいと感想を述べた。そのたびに麦は嬉しくなって、他にも御馳走してあげたい気持ちに駆られる。けれどそれ以上に、麦は今、この瞬間を柊と過ごしていたいと思うのだった。初めて出会った人間。心優しい大人。読書からは感じたことのない楽しさに胸が躍っていた。  麦はうまく喋れない子だと柊はすぐに理解した。だから会話といっても基本的に彼から喋り、麦はそれに身振り手振りで返すといった風である。言葉を発するのは不得意だけど、しかし麦は読書で培ってきたおかげなのか頭がいい。柊の言葉をほとんど理解することができたため、不器用なようで、しかし円滑にコミュニケーションがとることができたのである。 「卵焼き、好きなの?」  こくりと頷く。 「俺もまあ、好きだけど、普通って感じかな。でもさ、麦の卵焼きは特別だなあ。俺の母さんが作るものよりずっと美味しいよ」  唇を噛んで、恥ずかしげに顔を俯かせる。 「というか、こんなところに住んでるのによく食材なんて調達できるね。外、かなり雪が積もってるけど」  ふるふると横に振る。 「ん? 雪、得意なの?」  ふるふる。 「んーと……そっか。まあ、どうにかしてるんだよね」  こくり。柊は苦笑を浮かべた。初対面であるおかげでもあるだろうが、無闇に踏み込んでこないのも麦には丁度良かった。  先程の柊の言葉にどう答えたらいいのか、麦には分からない。冷蔵庫に詰め込まれた食材は常に補充されていて、困ることが無い。それが普通だと思っていた。でも、そういえば本の中でも食材を買いに出かけている描写はいくつも見てきた。そういうものなのかもしれない。自分の方が、不思議なのかもしれない。けれど、それを柊に説明しようもない。それに柊はあまり気にしない風にいてくれるから、まあいいや、と流すことができる。 「吹雪、やまないね」  柊は三重に守られた窓の外を見ながら、ぼんやりと呟く。 「今夜中はずっとああなんだろうな」  こくり。 「ごめんね。急に入ってきちゃって」  ふるふる。 「麦は優しい子だな」  ふるふる。  自分よりも、こうして構ってくれる柊の方がずっと優しい。美味しい美味しいと言ってくれる柊の方がずっとずっと優しい。そう言いたかった。 「そこにつけこむようでなんだか悪いんだけど、今夜はここに泊まっていってもいいか?」  こくりこくり、こくり。  勿論です。  力強く何度も頷いた麦に、柊は思わず噴き出した。 「ありがとう。なに、なんか嬉しそうだね」  見透かされたみたいで、麦は隠れるように自分に淹れたハーブティーを口にした。不思議。いつもと同じハーブでいつもと同じくらいの時間だけ浸けたのに、なんだかいつもよりずっと、おいしい。卵焼きはいつの間にか無くなってしまっていた。全部柊がたいらげてくれた。自分の作った料理を誰かが幸せそうにたいらげてくれるのは、こんなにも快いものなんだと麦は知る。  それからもいくつか会話は続いていく。いつもならとっくに夕食を済ませて書庫に戻って読書に耽っている頃だが、麦の頭に読書のことはまるで蝋燭の火が消えてしまったように無くなっていた。夢中になっているといつのまにか時間が過ぎていってしまうのは、読書と同じだった。本が好きなことも、柊に告げた。どんなことが好きか、という問いに対し、ほん、という単語は言いやすいのか、すらりと言うことが出来た。その年で読書家かあ、と柊は笑った。誇らしげな顔で何度も頷く。本当に好きなんだね。その言葉に、強い肯定を示した。どこか誇らしげな顔をしていたのが、柊の瞳に焼き付いた。  本に関する柊からの質問攻めが終わった後、ふと、思い出すように柊は声をあげた。 「そういえば、今日って十月三十一日だっけ」  じゅうがつさんじゅういちにち。何の暗号かと思考を巡らせる。と、思い至る。日付だ。今日という日を定める記号。本の中では時間の動きを明確にするために記しているものもある。麦には日付感覚というものが存在しない。日々同じ時間を同じようにを繰り返すだけなのだ。けれど麦はきっとそうなんだ、今日は十月三十一日なんだと思い込み、彼の言葉を肯定する。そうだよね、うんうん、ああ、でも。柊は顔を顰めた。些細な表情変化にすら、何か悪いことをしただろうかと麦は怯えてしまう。返答が良くなかっただろうか。肯定してはいけなかっただろうか。 柊には麦の動揺が伝わったらしい。 「いやさ、折角のハロウィンだっていうのに、俺お菓子もなんにも持ってないなーって思って、なんか申し訳ないや」  ハロウィン?  麦は光の速さで頭の中の辞書を捲っていく。が、その単語は彼女の聞き知らぬものであった。本でもそんなものを題材にしたものがあっただろうか? 忘れただけだろうか。いくら卓越した読書量を誇る麦でも、読んできた本以上に読んでいない本がまだ途方も無いくらい多いのだから、知らないものがあってもおかしくはない。そう自分に言い聞かせながらも、やはり気になる。 「というか、今回の場合俺が家に訪問してるし、なんか何もかもかっこつかないなあ。うーん情けない大人だ」  柊が何を言っているか、さっぱり解らない。必死に理解しようと脳をフル回転するものの、結果は良くない。白旗だ。お手上げだ。  そんな麦の様子を敏感に察した柊は、首を傾げた。 「ハロウィン。……Trick or treat」  流暢な英語が彼の口から滑るが、彼女は顔をぽかんとさせたままである。今までなんらかの返答をしてきた麦が、初めて見せた「わからない」だった。 「トリックオアトリート。知らないのか?」 「とり……」 「トリック、オア、トリート。お菓子をくれなきゃいたずらするぞ、っていう意味」  麦の表情は相変わらずである。  本当に分かってないんだなあ、と柊は微笑を浮かべる。 「子供は今日、十月三十一日――ハロウィンの夜、一軒一軒家を回って大人にそう言ってお菓子をねだるんだ。愉しいお祭りだよ。子供の持てる小さな鞄いっぱいに美味しいお菓子を詰めるから、その後毎日お菓子を食べられる。やっぱりお菓子って、子供にとっちゃ宝みたいなものでしょ」  麦は頬を紅潮させて、やや興奮気味に頷く。なんだかよく分からないけど、しかしとても魅力的な話だった。あまーいお菓子を貰いに、人々に出会っていく。そしてきっと、後で毎日大切に大切に消費していくのだ。お祭りというその言葉の響きだけでもわくわくさせられる。 「とり、あー……」  麦は頑張って発音しようとするが、理解してもいない単語を放出するのは、彼女にはあまりにも難しい。 「トリック、オア、トリート」 「とり、おあ」 「トリック、オア」 「とりっく、おあ」 「そうそう。トリック、オア、トリート」 「とりっく、おあ、とりーと」 「おおっいけたね! でもごめん俺、お菓子が無いんだよ。いたずら確定だ」  けらけらと笑う柊だったが、麦は慌てて否定する。いたずらなんて、できっこない。根気強く自分のペースに合わせてくれるこの人に、危害なんて与えられるわけがない。麦の必死な様子を見ていると、柊は穢れなき穏やかな気持ちでいられた。 「……もう俺はそんなのをする歳じゃないけど、麦なら余裕だなあ」  しみじみと、水が布に浸透していくような静かな言い方。  淋しそうな表情だな、と麦は思った。きっとこの人は、大人になってしまい、戻れない子供だった時代に恋い焦がれるような思いに晒されているのだ。懐古の思いにとらわれて苦しむ人の物語を、麦はいくつか目にしてきた。この人もきっと、同じなんだ。 「……麦は外にはいかないのか?」  その問いに麦は首を横に振って応える。そっか、と柊は目を俯かせた。 「そっか。それならハロウィンを知らないのも納得かな……でもさ、それって、淋しくはないか?」  少し間を置いて、再び麦は首を横に振った。淋しくはない。いつも彼女の傍には身に余る本がある。本が友達のようなものだったから、飽きることも淋しくなることもない。そういった感情をまったく持ち合わせたことが無かった。 「でもやっぱり、勿体ないよ。こんなとこにたった一人で住んでるなんて、可哀そうだ」  可哀そう? 何が可哀そうだというのだろう。彼女はここでの生活を受け入れ、満足していた。その気持ちは真実そのものである。それなのに柊はなんだか憐れむような目で麦を見つめてくるのだ。ハロウィンを知らない彼女を、他人という存在に疎い彼女を、本に囲まれ幸せである彼女を、可哀そうだと。 「俺さ、今の吹雪が止んだらここを出ていくから、試しでさ、一緒に外に出てみないか?」  誘い。  一瞬だけ、ほんの少しだけ、彼女の心が揺らいだ。彼は、いずれこの家を発つ身。ここに留まってほしいなんて、彼女は言えない。幸せな時間は終わってしまう。それはきっとそう遠くない。でも、行ってほしくない。なら、彼についていくという案はひどく魅力的なように思えた。  その瞬間、脳を突き刺す痛みに顔を歪めた。だめ、と強く叩かれたかのようだった。だめ、ダメ、駄目。そんな声が聞こえてきそうだった。麦はまた首を横に振る。否定。拒絶。行かない。行っちゃいけない。理由は解らないけど、自分はここに居なくちゃいけないから。誰にも教えられていないけど、それは使命であり運命であるかのように麦の中に元来根付いていた。 「……麦?」  優しい声。麦を癒してくれる音。 「大丈夫か、なんだか顔色が急に悪くなったけど」  平気だと返事しようとしたが、秒を��うごとに痛みが酷くなっていくようで、麦は頭を抱え込んだ。頭のはじっこが、熱い。ずきんずきんと痛んで、苦しい。耐えられなくなって、遂に前のめりに倒れ込んだところを、柊の温かくなった身体が難なく受け止めた。なんて力強く頑丈な胸板だろうか。ひ弱で幼い自分の体とはまるで別物だった。麦は彼の大きな腕の中から、恐る恐る彼の顔を覗き込んだ。さっきよりずっと近いところで、柊は変わらぬ笑顔を浮かべていた。 「疲れたんだね。ごめん、変なこと言って。今日はもう休んだ方がいい。寝室はどこ?」  嫌だ、もう少し、話していたい。麦の本音はそうだったが、その欲がはっきりと彼女の心に浮かびあったとたんに、打ち消すように大きな響きが頭を支配する。痛い。やめて。益々苦痛に歪んでいる様子は、柊を戸惑わせる。その顔が、決定打だった。もう終わりだ。困っているのに、我儘は言えない。  麦は項垂れ、暖炉の左奥にある扉を指差した。寝室のある部屋なのだと理解し、柊はぐったりとしている麦をおぶると、彼女の寝室だという部屋へ入る。扉を開くと出窓に置かれた蝋燭が部屋を照らしている。一見あまりにも儚く不十分な光のようだが、この部屋はとても狭く、ベッドしか置かれていない。読書灯としての役割を果たせていれば十分なのだろう。柊は皺無く整えられた布団を捲りあげ、頭痛に苦しむ麦をあまり揺らさないようにゆっくりとベッドに座らせる。頭に手を当てたまま人形のように動かない麦を見て、柊は仕方なさそうに腕を伸ばす。麦はとても、軽い。いとも簡単に持ち上げることができる。背中と足を包み込むように持ち上げて、麦の身体を布団の下へと滑らせる。ようやく横になった麦にふかふかの布団をそうっとかけると、彼女の臆病な顔だけがよく見えた。愛玩動物を扱うのと同じような要領で柔らかい赤毛を骨ばった大きな手で撫でると、麦の表情は不意に綻んだ。 「……ひい、らぎ」  あまりにも拙い声だ。言葉を口にするというその行為自体に慣れていないことがあまりにも分かりやすい。 「ひいらぎ」  彼の名前を呼ぶ。 「ひいらぎ、ひいらぎ」  何度も呼ぶ。 「ひいらぎ、ひいらぎ、……柊」  何度も、何度も呼ぶ。  どうして名前を連呼するのか、それになんの意味があるのか読み取れず、ただ単純に恥ずかしくなって柊は目を逸らす。それは、先程自己紹介をして、柊が何度も彼女の名前を呼んだ時と同じような光景だった。 「ほら、頭痛いんだろ。ゆっくり休んで、明日も本を読むんだろ」  柊は身を乗り出し、出窓にある蝋燭を吹き消す。居間から零れてくる光だけが寝室を照らしているが、麦の視界では一気に柊の顔は逆光で闇に塗りつぶされてしまった。それでもなんとなく感じ取れるのだ。暗闇の中で、彼が穏やかな笑みを浮かべている。彼女の目には鮮明に柊の表情が映っていた。 「おやすみ」  軽くそう声をかけると、柊は麦に背を向ける。居間に足を踏み入れると、音を立てないようにそうっと慎重に扉を閉めていく。光の線がどんどん狭まっていく。完全に消えて無くなってしまうその瞬間まで惜しむように、麦は瞬きもせずに目を凝らし続けていた。
 三
 柊の足はこの家において一番の面積を占める書庫へと向かっていた。他人の家を詮索するのはよくないと分かっていながらも、明日にでも発つ身だ。その前に、麦の生活の全てだという読書の間を一目見てみたかった。居間から続く廊下を歩くとすぐに突き当りに辿り着く。そこに佇んでいる重い扉を開くと、柊は思わず息を止めた。  点けたままにして放置されていたのか、待ち受けていたように淡い黄金の電灯が照らしている中で、二階分に相当するだろう天井の高さまで伸びた本棚が数十と並べられ、それを余すことなく本が埋め尽くしている。書物が生み出す独特の渇いた匂いで部屋が満ち満ちており、明らかに居間や寝室とは別格のものであると確信した。扉を閉めると、柊は一人穴に突き落とされたような気分にさせられた。圧倒されているのだ。シックな色合いの真っ赤な絨毯は柔らかく、足音はいとも簡単に吸収される。どこか高級感を思わせる厳格な色合いの部屋だが、柊は同時に不気味さも抱える。これだけ大量の書物がどうして周りに何も無い雪原にあるのだろう。いくら一日の大半を読書に費やしているといっても、一生かかっても全てを読破するのは無理ではないだろうか。  柊は棚に並べられた本の群を眺める。高さがまったく揃っていない様子は、整理整頓に関しては麦が無頓着であることをそのまま示している。殆ど物が置かれていない居間や皺のまったく無かったベッドの置いてある寝室を思い返すと、どこかが僅かにずれた不協和音のようだった。何か知っている本でもないものかと探してみるが、彼の知らないタイトルばかりだった。読むのが億劫になりそうな固い雰囲気のものもあり、自分よりずっと小さな麦がこのような本と日々向き合っているのかと思うとただ圧巻されるばかりである。言葉を知らない幼子のように見えていたが、実は途方もない量の知識を溜め込んでいるのではないだろうか。むしろ何故ハロウィンを知らなかったのかが益々疑問である。  ぼんやりとした調子でいると、やがて窓に面した古い机に辿り着いた。机の上には、小さなランプといくつかの辞書、そして栞を挟んでいるところから読みかけであると思われる蜂蜜色のハードカバーの本が一冊、椅子の前に置かれていた。薄らいだ表紙の文字に目をやると、『麦』と書かれていた。彼女と同じ名前の題名だとまず思った。だから彼女は手に取ったのかもしれない。自分の名前と同じ作家はそれだけで何故か親近感が湧いたり、気になったりするのと同じことだ。なかなか可愛らしい人間味のある麦の一面をこっそり垣間見て、まるで夜の学校にでも忍び込んでいるような不思議な緊張と高揚で満たされる。  しかし、そこで柊は気が付いた。この本には著者名が明記されていないのだ。表紙にも、背表紙にも、そして表紙を捲った一ページ目にも無い。当然のように『麦』というその一文字だけが印刷されているだけ。不審に思った柊は、『麦』を手に取ったまま、周囲の本棚にしまってある本を確認する。さすがにハシゴを使って上まで確認しようという勇気は湧いてこなかったが、歩き回ったところ、殆どは著者がはっきりと書いてある。殆どは、だ。片手で数えられるほどだが、『麦』と同じように著者名が載っていない本も存在していた。そしてそれらは決まって蜂蜜色のハードカバーの本であった。そういうシリーズなんだろうかと考えるものの、なんとなく納得がいかない。何故だろう、気味が悪い。得体の知れない空気がこの図書館のような書庫全体に漂っていた。誤魔化そうとしていても拭い切れず鼻につく臭いのよう。  そうして『麦』に視線を落としている時。  唐突に、書庫を照らしていた光が、全て消え去る。  柊はハッと視線を上げた。しかし一点の光も無く真っ黒に塗りつぶされた視界では何も捉えることはできないし理解することもできない。急に奈落の底に連れて行かれたかのようだが、手を伸ばすと傍に本棚があり、場所は変わっていないことを確認する。  が。  ふわり、と、薄いシルクの布のようなものが、本棚についたその彼の左手に覆いかぶさる。  ぞわりと柊の全身に猛烈な寒気が迸り、反射的に腕を引いた。今のは一体なんだった? 一体自分の身に何が降りかかった? 真っ暗闇の視界では皆目見当がつかず、恐怖が一気に増幅されていった。本棚に触れてはいけないとそれだけは把握し、柊は逃げるようにその場を離れる。方向感覚はまったく正常でないが、立ち止まっていられるほど悠長で鈍感な精神を持ち合わせてはいない。もがくように動き回っていなければ誤魔化せない。とにかくまずは明かりを点けなければ。入ってきた扉は、どこだ。本棚と本棚の間を走り抜けていくと、彼は出入り口ではなく麦の机の前に辿り着いていた。夜中だが、窓から零れてくるのは雪の光か、ほんの僅かだが青白い光が注がれていた。時を経て暗順応が機能してきたこともあり、闇の中でも視界が安定してくる。彼は焦燥に肩を激しく上下したまま、ゆっくりとその場で振り向いた。  身体が固まる。  塗りつぶされた暗闇の中で、更に濃い影が、黒い本棚から染み出るように蠢いている。ふわりふわり、海月のように、微風に揺れるカーテンのように、生きているように、湧き出ている。異形が、異様な風景を作り上げ、彼を闇の底へと誘う。それが一体なんなのか、柊にはまったく理解することができない。動揺に眼が眩んでいるが、彼の頭に響く危険信号が戻ってはいけないと叫んでいる。単純な生理的拒絶。あれは、触れてはいけない。そう確信した瞬間、足が竦み、いよいよ彼は身動きがとれなくなってしまった。  と、さわ、と何かが鼓膜を擦る。耳元で吐息を吹きかけられたようなこそばゆさに、神経が極限まで逆立っていた柊の体は反射的に仰け反った。あの影がすぐ近くまで音も立てずに忍び寄ったのかと危惧したが、少なくとも自分の手の届く範囲には見当たらない。なら、なんだったのか。柊は耳を守るように手を翳して、震える息で耳をすました。戸の隙間からそっと暗室を窺うように、心の準備をしながら感覚をとぎらせてみる。さわ、さわ。さわ、ざわ。鼓膜が揺らぐ。全身に鳥肌が立っていくようだった。囁くように鳴いているような何かは、誰かの声。  にん、げんだ。ふふ。さわざわ。に、んげん。ふふ、ひい、ぎ、ら、ひい、らぎ、うふふ。まよ、って、あは。ひいらぎ。  靄のような雑音が混ざったたどたどしい言葉。何かに引っかかっているような、壊れたレコードのような音。柊は無意識に、あまりにも不器用でたどたどしい麦の声を連想した。違う。彼は即座に否定する。これは麦の声じゃない。彼女はもっとあたたかい色を帯びている。浅はかな自らの想像力に感じるのは、麦に対する後ろめたさ。  ――ニンゲン。  霧雨のようなざわめきに圧し掛かるようにあまりにも唐突に、どこからか、ぐんと低く鉛のように重い脅すような声が響く。  耳を包み震えていた柊の手が、萎縮のあまり硬直する。  ――人間……人の魂。  ――僅かな綻びから穢れた足で踏み入った、愚かな人の魂。  何かがこそこそと発している囁きと違い、この低い声は投げかけてきているのか明確に聞きとることができた。しかし、その声が何を暗示しているのか、やはり柊にはすぐに理解できなかった。少なくとも分かるのは、脳内に直接語りかけてくるその声は、はっきりと聞き取れる代わりに頭を痺れさせるような残響を以て抉ってくるということだ。  ゆらりゆらり本棚を揺蕩う影。段々と成長しているかのように伸びている。まるで深海で揺れる海藻のようだった。  ――此処は唯一であり、何とも交わらぬ世界。貴様のような者の踏み入れて良い領域ではない。故に排除する。  突如として突き出された宣告を柊は瞬時に反芻し、大きく目を見開いた。 「!? 排除って……どういう……!」  動揺と畏怖が混ざり合った震えた声で、柊はどこから発しているかも分からない声に向かって戸惑いをぶつける。 「なんなんだ、さっきからわけがわからないことばかり……ここは麦の家だろう。俺は吹雪で迷い込んできただけで……!」  ――ならば貴様に問う。貴様、何故ここに入った。 「何故って」  すぐに言い返すために柊は自分という存在を顧みようとした。しかし彼の脳内に浮かんできたのは、いつしかの思い出でもここに至る映像でもなく、新品のノートのように美しくまっさらでまっしろな記憶だけだった。  あれ。  そういえば、俺はどこから来たんだ。  俺は、どうして吹雪の中にいたんだ。  卵焼きを作ってくれた、母さんってどんな顔だったんだ。  ハロウィンの記憶は、一体どこで誰と紡いだ記憶なんだ。  何も覚えていない。  まっさらでまっしろで、なにもない。  俺は一体、なんだ。  ――貴様は迷い彷徨い続け、最早藻屑に等しい魂。それ故にこの世界に繋がる僅かな隙間を抜けてきたのだろう。自分でも気が付いていないとは、なんと滑稽で愚劣なことか。  呆れたような声が収束するや否やくすくす、と嗤う声が大きくなった。子供や、女や、男、或いは全く別の生き物の、様々な声が折り重なって、柊に降り注いでくる。全身の毛を逆立てる、声の群集。耳元から聞こえてくるようにも、遠くから聞こえてくるようにも思われる。  明らかに自分の感覚がおかしくなってきている。柊は塞ごうとしても使い物にならない手を胸に当て、振動する深呼吸をした。とりっく、おあ、とりーと。極限状態で、麦の言葉が蘇る。まったく、これはいたずらどころの話ではない。なんてハロウィンだ。  ここは、危ない。逃げなくてはならない。しかし、どうしたらいい。外は夜、加えて荒れ狂う猛吹雪。窓を開けて外に出たところで、逃げることはできるかもしれないが別の危険が牙を向けて立ちはだかっている。そもそも、厳重な三重の窓を悠長に一つ一つ開けていられるような余裕などない。ならば、この道をまっすぐ走り抜けるか。出入り口に向かって影に捕まらず逃げ切ることができるか。彼は速まる鼓動を胸に、なるべく冷静になれと自分に言い聞かせる。パニックになってはいけない。先程まで自分の歩いていた書庫の道を本棚の配置を頭の中に描け。最初来てから、この机に至るまでの道順、方向。思い出せ。組み立てるんだ。  ――塵如きが神体に触れるなど、余計な知識を与えるなど、決して許されぬ。  神体? なんの話だろうか。  惑わせられてはならない、耳を傾けてはならないと思いつつも自然と柊の思考は傾いていく。だが、塵という単語が自分を指しているのは流れで汲み取れたが、そうなれば自分が触れたという神体というのは、人間とは相容れぬ存在であろう存在というのは、まさか。  ――身を以てその愚行を恥ずべし。 「待て! 麦が……麦が神様って、どういうことだ!?」  思い当たった答えはほぼ確信。しかし麦という幼い少女と神の称号はあまりにも彼には不釣り合いなように思われ、当たって砕けろとも言わんばかりに叫んでいた。同時に、自分を殺そうとする相手を引き留める、時間稼ぎでもあった。なんでもいい、生き延びるために、崖に手で掴まっているようなぎりぎりの状態を少しでも延ばすしかない。 「麦……麦は……」  狼狽えた声で、場を繋ごうとする。その最中、彼の中で渦巻いていたものがゆっくりと顔を出す。短時間にして、麦と、麦の家に対する抱いた謎、疑念。これは、この声は、恐らくこの家の鍵となる何か。麦を取り巻く異変の理由を知る何か。いや、もしかしたら、真実そのもの。そう考えたら、止まらなくなる。  自身の記憶には無くとも、彼は、元来好奇心に魅せられると、夢中になって身を捧げる性をもっていた。純粋な、真実への拘り。それが柊という魂の性であり、本質であった。自分で気付かぬほど既に柊自身がひどく歪んでいても、揺らぐことなく彼の中に在り続けていた。  それが彼を、突き動かしていく。 「というか、麦はどうしてこんな人里離れた雪原に住んでいるんだ。たった一人で、あんなに小さい子供がどうして生活できている」 「外に出たことがないというのに、どうして切らすことなく食べ物が用意されているんだ」 「汚い話だけど、便所も無かった。風呂も無い。居間と、寝室と、この書庫。この家自体、広い割に生活するには決定的に欠けている」 「どこから電気が通っている。どうして暖炉の炎は消えない」 「一生かかっても読み切れないだろう大量の本は、一体誰が、どうやってここに押し込めたんだ」 「麦はこの家からどうして外に出たことがないんだ」 「一体ここはなんなんだ。麦は一体――なんなんだ」  柊の口からは、短時間にして溢れ出てきた疑問――この空間、麦の世界の歪みを問う言葉が自然と溢れ出ていた。おかしい。何もかもが、おかしい。得体の知れない、理由が見えない歪に柊は気付かぬはずが無かった。ただそれを、麦に直接言及することが躊躇われただけで。  歯を食い縛り、影の返答を持つ。その沈黙が、切迫した環境下にある彼には異様に長く感じられた。  ――神は、此処に存在している、其れこそが力。其れこそが世界。  ――外界に触れること、あってはならない。他に意志を向けてはならない。  静寂。  まともな返答にもなっていない。ただぼやかしているだけ。 『麦』が彼の手から滑り落ちる。挿まれていた栞は衝撃のままに飛び出し絨毯の上に転がり、乱雑に開かれたまま本は静止する。未だ止まらない嗤い声と誰とも知らぬ低い声を遮る音は、絨毯でも吸収しきれない。  柊の拳は震えていた。恐怖とは異質の、胸の奥から競り上がってくるどろどろと混濁した感情だった。麦の淹れてくれた心も体も温まるハーブティーの味が、ふんわりと甘い卵焼きの味が、まだ口の中に残っている。ハロウィンの話を身を前のめりにして耳を傾けている映像はまだ新しい。外に出ようと試しに誘ってみたものの、拒絶と共に苦しげに歪めた表情は切実で、痛みが直に伝わってくるようだった。あまりにも軽い身体を持ち上げた時の感覚は忘れない。自分の名前を何度も何度も呼ぶ、嬉しそうに呼ぶ、その声が、耳に残っている。最後に見せた精一杯の微笑みが、目に焼き付いて離れない。麦は良い子だった。可愛らしく愛らしい、不器用な女の子だった。吹雪で荒んだ自分の体と心を一瞬で溶かしてしまう、そんな力があった。  彼女は何か理不尽なものに捕われているのではないのだろうか。ここに閉じ込められ、それに本人すら気が付かぬまま、時を過ごしている。この家で彼女を見張る、この得体の知れない影が、彼女を縛っているのではないだろうか。  だとしたら、なんて歪みだろう。 「そんなの、間違っている」  正しさを望む柊は断言した。影を真っ向から否定した。 「外を知ってはいけない? そんなの、ただの監禁じゃないか。あんな小さな女の子を閉じ込めて、一体どうしようっていうんだ」  ――つい先程迷い込んできた歪み如きが、解ったような口をきくか。貴様は何も理解していない。実に愚かしい。 「何が理解だ。そっちの都合なんて最初から解ってやるつもりもない」  ――余程魅せられ心を奪われたか……仮にも魔除けの力を持つ名を持っているというのに。貴様のような者の身勝手な甘言が神体を壊すことに繋がるとも知らないで、平和なことよ。 「壊す……? 麦を苦しめているのは、あの子の世界を歪めているのは、お前達だろう!?」  ――嗚呼、実に憐れ。強情は若さ故か。貴様の言うかの苦しみは貴様等のような者が生み出すのだと、解らぬとは。  影の声が明らかに増幅し、苛立ちを部屋中に吹雪の如く降り注いだ。  本棚から溢れる影の成長速度が突如加速する。恐怖が一抹も無いというわけではない。だが、柊の中にある柊の正義が、勇気が、怒りが、拘りが、彼を奮い立たせる。怖がってはいけない。麦を連れて今すぐにでもここから出ていこう。外の世界に連れ出そう。一刻も早く、彼女を呪縛から解き放たないと。こんな危険で歪な場所に彼女一人を置いていけるはずがない。  柊は遂に走り出した。頭に描き抜いた地図を信じ、唯一の光源である背後の窓から離れ、真っ赤な絨毯を勢いよく蹴り、真っ直ぐ本棚と本棚の間の道を抜けていく。瞬間、見逃すはずもなく影が彼を掴みとろうと一気に手を伸ばす。彼は自分の中から湧き出てくる力に驚きすら感じていた。今なら全てを弾き飛ばせそうだった。肌に一瞬で鳥肌を立たせるような気味の悪い影が触れようとしても、まるで何かが柊を守っているかのように弾き返す。擦り抜けていく。行ける。逃げ切る。逃げ切って、麦のあの細い手をとる。この家を飛び出て、彼女を解放する。きっとそのために自分はここに迷い込んできたのだ。  途中で道を左に曲がる。そして真っ直ぐいけば出入り口が待っている。鍵がかけられるような仕組みにはなっていなかったはず。このまま突入するのみ。この書庫から出ることさえできれば、恐らく勝ち。  しかしその直後のことだ。彼のその数歩先で、とてつもない雪崩れが転がり込んできたかのような壮絶な音が響いた。柊は目を見開き、急ブレーキをかけた。暗闇の中でも分かる。あまりに背の高い本棚に詰め込まれた大小色とりどりの本が濁流の如く彼の前で転がり落ちたのだ。いっちゃだめ、いっちゃだめ。そう言っているかのように。茫然とその様子を柊の瞳は捉える。彼は大量の本が無造作に積み重なっていく様子を見守る他無かった。彼女の拠り所である本ですら敵と化すのか。文字通り本の山に行く手を一瞬で阻まれた柊に残されるのは、勇気でも、怒りでも、恐怖でもなく、何も無くなり、絶望が顔を出す。  動揺は停止を呼んだ。柊の思考は鈍り、その隙に彼の身体を掬うように影が纏わりついてきた。我に返りそれを解こうと身を振るった柊だったが、次々に容赦なく襲い掛かってくる影の布は、最早小さな彼ひとりで対処できるレベルを超えていた。柊を守っていた何かは、もう息を引き取ったかのように機能しない。隙間無く柊を蝕もうとするように影は巻き付いていく。豪速で体中の隙間から柊の体内に侵入して、息の音を止めていく。筋肉は痙攣して、ぴくりとも動けなくなる。形すら残すまいとするように、外から内から喰われていく。黒に蝕まれていく。暗闇に取り込まれていく。影に成り果てていく。  圧倒的な力を前に、成す術もない。  声は聞こえない。  在るのは、沈黙のみ。
 四
 朝。麦は平凡な一日の始まりに、すぐに異変を察知した。  彼が居ない。昨夜ここに訪れた、柊が居ない。本来なら柊の方が異変であったはずなのに、麦にとっては今のこの状況の方が非日常であるかのようだった。  いつもと変わらないはずの居間はやけに静かだった。やはり柊の姿は見当たらない。まるで昨夜のことが全て物語のように架空の世界で、自分の妄想が創り出した嘘の産物のように思えたが、それにしてはあまりにも実感として強く彼女の中に残っている。彼の声も彼の力強い腕も、麦自身がよく覚えている。麦は真ん中のテーブルに目を留め、唾を呑んだ。二つのティーカップと小皿。嘘なんかじゃない。確かに柊はここに居た。ここでハーブティーを飲み、卵焼きを食べたんだ。美味しいって何度も笑ってくれたんだ。  柊の姿を求めて、彼女はこの家のもう一つの部屋である書庫へと向かった。黄金の光に照らされた本の森は、いつものように高さの揃っていないまま佇んでいる。日常そのものの形を保っている。歩いて見回ってみたものの、柊の姿は塵も見当たらない。読書の定位置である机の近くまでいくと、ふと外の吹雪が止んでいることに気が付いた。吹雪がやんだら出ていくと言っていた。もしかしたら、直接別れを告げるのが気恥ずかしくて、麦に何も言わずに勝手に出ていったのかもしれない。今まで読んできた文章の中で、あのくらいの年頃の男性がそうやって一人で旅に出ていこうとする描写があった。所詮、数時間だけの付き合いだ。そのくらい呆気ないものでも仕方が無いかもしれない。けれど麦は淋しかった。……そう、とても、淋しかった。彼女は自分で自分に驚愕する。そうか、これが淋しいという感覚なんだ。理解し、痛む胸を手で押さえる。柊は、ひどい。私を置いて、さっさとどこかに行ってしまった。もっと沢山お話をしたかったのに。もっと一緒に居たかったのに。  と、麦は足元に『麦』が落ちていることに気が付いた。栞が飛び出して、どこまで読んだか分からなくなってしまっている。そっと拾い上げてぱらぱらとページを捲るものの、まるで情報が頭に入ってこない。こんな感覚は抱いたことがなかった。こんな風に文字をぞんざいに扱ったことは、一度も無かった。麦は『麦』を閉じる。栞を机の上に置き去りにして、出入り口へと向かった。『麦』を取ったときと同じように本を脇に挟んで、ハシゴを移動させる。頭痛からは解放されていたが、身体がやたらと怠い。のろのろととある本棚に立てかける。それは『麦』の入っていた棚だった。読み切っていないが、とても今は続きを読もうと思う気分じゃなかった。どんなに難易度の高い本でも辞書を駆使して何日もかけて読破するのが信条であったのに、それを覆す行為である。この二日で、彼女にはあまりにも「初めて」が多すぎた。きっと麦は自分の心を制御できないでいるのだろう。  ハシゴを一段ずつ登っていく。自分の体重に震えるハシゴを伝い、確実に上へと向かっていく。麦の瞳はぼんやりとしていて、何かをきっかけに落ちてしまいそうな足取りだった。やがて『麦』があったところまできて、彼女は蜂蜜色のその本を適当に戻した。ごめんね。彼女は謝るしかなかった。ごめんね、ごめんね。なんだか涙が出てきそうだった。経験したことのない感情、途中で投げ出してしまった後ろめたさ、柊の声。いろんなものが彼女の中で渦巻いて、いつもなら耳に届いてくる本の声もそっぽを向いたかのように聞こえなくて、まったく訳が分からなくなる。  彼女はまた少しずつ降りていく。  荷物が無い分、帰りの方が楽だ。  それで視界が広がっていたのだろうか、彼女の目に、とある蜂蜜色のハードカバーが映る。  テンポ良く動かしていた足を彼女はふと止めた。  その本から目を離せなくなった。心が奪われてしまった。  題名を――『柊』。  著者名は、無し。  麦は無意識に手を伸ばしていた。そうすれば、届く距離だった。  指先に本が触れる。古くなった『麦』と違って、まだ真新しい触感だった。それを引き抜こうと、体重を寄せる。  バランスが崩れる。  身体が空中に投げ出される。  油断をすれば、足を掬われる。  本と共に、『柊』と共に、落ちていく。
 赤毛が更に紅く染まっている。色鮮やかな赤ずきんを被っているように頭は真っ赤。頭だけじゃない、全身が強く打ちつけられ、止めどなく血が彼女の体から抜けていく。  真っ赤な絨毯とまったく同じ色。  柔らかな毛は麦の鮮血を吸っていく。色は上塗りされていく。
 書庫に潜むそれは思った。  ――嗚呼、これで、幾度目だろうか。  と。
『柊』から影が伸びる。  優しく、柔らかく、彼女を抱きしめた。
 五
 朝。女の子は目を覚ました。  彼女は毎日読書をしていた。居間に並列している図書館のような書庫は、天井まで突き抜けんとする本棚がいくつも並んでいて、その一つ一つに本が所狭しと並んで���る。無数にある物語に身を委ねるのが好きだった。彼女はそれだけで満足できた。他には何も望んでいないし、望もうともしていない。ただ、目の前にある、この大量の書物を読み進めていくことこそ、生き甲斐そのものだった。  ずっと読み続けてもきっと永遠に読み切ることができないその本の森が、彼女を縛り続ける。彼女をここに留まらせ続ける。
 ここに存在することこそが力。ここに留まることで、世界を保つことができる神様。外へ出ていけば、世界は消えてしまう。同時に神様も消えてしまう。神様が世界であり、世界は神様そのもの。だから、彼女はここに生きる。害をなす可能性は全て淘汰された世界で、自分でも理解せぬままにページをめくる。たとえ死んでも、また生まれる、神様の入った仮初めの身体で。  そうして世界は永遠に保たれるのだ。
 歪んでる、それが正しい、あの子の世界。
 歪んでも、それに気付かぬ、あの子の世界。
 彼女は今日もその世界で、本を読む。
 了
お題:本の高さが揃ってない本棚、ハーブティー、卵焼き、ハシゴ、ハロウィン、赤ずきん
作成:2014年10月
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kkagtate2 · 5 years
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陽昇
サンライズ瀬戸に乗った兄妹の話です。えっちなし、ただイチャイチャしてるだけ。一応カクヨム投稿用
「十号車、十号車、十号車、…………あ、ここだよ、お兄ちゃん、ここ、ここ!」
「わ、わかったから、引っ張らないでくれ! 荷物が。………」
「-------でも、どっちから入ったらいいんだろ。…………ま、どっちからでもいっかな。」
数字の小さい車両側からホームを登ってきた初希は、乗り込み口にたどり着くとようやく歩みを止め、ようやく手を引いている倖希の方を振り向いた。
「って、お兄ちゃん大丈夫? 一体誰に右手をやられちゃったの?」
見ると、キャリーケースやらトートバッグやらコンビニ袋やらを全て持たされているというのに、家を出てからずっと左手を妹に取られ無理やり歩かされてきた兄が、少し不満そうな顔をこちらに向けつゝぷら〳〵と右手を振っている。
「まったく、すこしは落ち着いてくれ。手がちぎれるだろ」
「ごめんごめん。ちょっと盛り上がっちゃって。------でも、こんな時間に大阪駅にくるなんてはじめてだからしょうがないよ。お兄ちゃんだって、実は盛り上がってるでしょ?」
「いや、まぁ、………たしかにそうだけど、さぁ。…………」
倖希は未だに不満そうな顔をしているが、確かに初希の言う通りである。彼はこんな風に日が変わった頃合いになるまで大阪駅に居たことは何回かあるも のゝ 、やはり日中には感じないその独特な雰囲気にどこか興奮を禁じ得ないのであった。だがこの日ばかりはそういう幻想的な理由だけから興奮を感じていた訳ではない。と、云うのも、実家へと一週間ほど帰省していた彼は、これから数時間前に香川県高松市の意味分からん顔をした駅を発った寝台列車に乗り込み、東京へ向かい、そして下宿先へと戻るつもりなのであるが、その道すがらずっと妹であり恋人である初希が着いてきて、しかもその後ほんの二三日ではあるが愛する彼女と、家族というしがらみを取っ払って過ごそうと、そういう計画を立てているのである。本当は一人で新幹線を利用する帰省の予定だったのが、友達の勧めで寝台特急に乗ることに変わり、その上なぜか初希がどうしても、どうしても一緒に着いていきたいと言うから仕方なく、仕方なく、本当に仕方なくバイト代を切り崩して連れてきたのであるが、これほどまでに嬉しそうな妹の顔は久しぶりで、これからそんな彼女とほんの数日間とは言え二人きりで過ごせると思うと、気をつけなければつい笑みがこぼれてしまうほどに悦びが心の奥底から湧き出てくるのであった。
「------寒くない?」
「全然っ。むしろさっきの待合室の中が暑かったから、今がちょうどいいくらい。------お兄ちゃんは?」
「俺はめちゃくちゃ寒いんだが、ちょっとその元気を分けてくれ。…………」
「えー。………お兄ちゃんまだ二十歳なのに。-----」
そうやって呆れつつも初希がキュッと手に力を込めてくる。倖希はこんな、照れ隠しのような妹の優しさが好きで 〳〵 たまらなく、毎度のことながら頬を赤く火照らせてしまい、彼女に悟られまいと壁にある広告に目を向けたのであるが、ふいに視線を感じて下を向くと、初希が眼鏡の奥から得意げな眼でこちらを見てきていた。--------本当に大人びてきたものである。いつも今日みたいに我儘を通したり、いつも今みたいにグッとくる仕草をしてきて、顔立ちも美人というよりは可愛いさの方が強いのだけれども、少しおっとりとした目元や、流れ落ちる水のやうに癖のない髪の毛や、真紅が横にすうっと伸びた薄い唇やらには、並の少女では身につけられぬ気品があり、ただただひたすらに麗しい。しかもその上、暗い紫色の眼鏡をかけているせいで知的な、…………いや実際にとんでもなく頭が良いので「見える」なんて言うとひどい状態にされそうだがとにかく、股が疼くほどの知的な雰囲気を身に纏っている。昔は何かあればすぐ泣きべそをかいて、お兄ちゃん、お兄ちゃん、と手を伸ばし抱っこをせがんでくる幼い(いとけない)女の子だったのに、気がついた時にはすでに可愛らしい少女となり、そして今では立派な淑女へと成長しようとしているのであろうか。自分にはいつまで経ってもあの、負けず嫌いで泣き虫で兄にすら牙を剥く面影がちらつくけれども、初希ももう高校二年生、それもあと二ヶ月しないうちに三年生へ上がる年齢なのだから、いつまでもそんな幻影を彼女に重ね続けてはいくら妹とは言え失礼であろう。いい加減、彼女の成長を認め、そして、いつかは離れていってしまうことに覚悟を決めなくては。……………そんなことを考えていると倖希は途方もなく寂しくなってしまい、つい右手を彼女の頭にやるとそのまま優しく撫でていた。
「うん? なに?」
「いや、大きくなったなって」
「ふふん、そりゃそうよ。もうKよK。----っていうか、お兄ちゃんに揉まれてから大きくなるの止まんないんだけど。………」
初希が空いている方の手で豊かに育ちつつある自身の胸元を撫でながら困ったようにそう言うので、倖希はどこか勘違いされた気がするのであるが訂正するのも面倒だし、昨夜も精を搾り取ってきたその膨らみに一度目を奪われてしまっては考えも何処かへ吹き飛んでしまい、何をするのでもなくただ妹の頭を撫で続けていた。ふと気になって見渡してみると、駅のホームにはまばらとは言え意外にも電車を待っている人がちらほらおり、そういえば先程の待合室の中は一つ二つしか座席が空いてないほど一杯であったことを思い出すと、恐らく自分たちと同じように寝台列車に乗ろうとしている人が沢山居るのであろう。よく考えれば今日は三連休前の金曜日、…………いや、もう日は過ぎたから三連休初日の土曜日なのだから当たり前と言えば当たり前である。が、それにしてもこんな時間から電車に乗るのには一種の違和感というか、躊躇というか、何かロマンティックな物語の主人公の気分というか、何か黄泉の国へ連れて行かされるような気分というか、そういう不思議な気持ちを起こさせる何かがあるような気がする。なるほど確かに、友人の言ったとおりこの感覚は癖になりそうだ。---------
「あっ、お兄ちゃん、そろそろだよ、-------」
初希がそう声を出すと間もなく、ホームにいつも聞くチャイムが鳴り響き、周りの者たちがざわ 〴 〵 と賑わい始めた。家族連れはぴょん 〳〵 飛び跳ねる子供の世話に追われ、男女の組は変わらず話し合い、カメラを片手に持っていた者は皆線路脇で構えている。
「お、やっとか。いまさら遅いけど、忘れ物してないよな?」
と、倖希はそう妹に聞こうとしたのであるが、間が悪くちょうど「忘れ物」あたりで寝台列車が、ゴォッ………!、という音を立てて入ってくる。しかし初希にはちゃんと聞こえていたのか、
「もちろんもちろん。お兄ちゃんこそなにか忘れ物してない? この前充電器忘れたー! って言って大騒ぎしてたけど」
「あぁ、うん。たぶん大丈夫、………なはず。-----ま、いいや、乗ろう乗ろう」
かなり訝しんだ目で見られているうちに列車の扉が開いたので、倖希は一向に離してくれる気配のない力強い手を引いて、でもやっぱり忘れ物をしているような気がして足が止まりそうになったが、言うと初希にどれだけいじられるか分からないので、空に浮かんでいるであろう綺麗な三日月を一瞬間眺めてから、黙って列車の中に入った。
  寝台列車というものは大方どの車両も一階部分と二階部分に分かれており、彼らが乗り込んだ車両では一階に二人部屋が、二階に豪華な一人部屋があるのであるが、その二人部屋というものは小さなベッドが二つ、人がひとり通れるか通れないかの隙間を隔てて配置された、例えるならホテルの一室を限りなく小さく且つ余分なものを削ぎ落としたような部屋であった。二人は列車に乗り込むと、まず狭い階段を下りて、狭い廊下を渡って、開け放しにされている部屋を見つけて、これが俺たちの部屋じゃないだろうかと思って切符を確認すると、案の定そうだったので、荷物を半ば押し込むようにして入れつつ自分たちも入った。するとその時ちょうど列車が動き出したらしく、扉を閉める際に廊下にある窓をちょっと覗いてみると、駅のホームがゆっくりと動いていくのが見えたのであるが、それはそれでワク 〳〵 する光景だけどまずは〳〵 と思い扉を閉める。ここでようやく初希が手を離してくれる気になってくれたのかその力が弱くなったので、名残惜しくなりつつ両手を自由にすると、コートやら何やらを壁に吊るしてとりあえずベッドに腰掛け一息ついた。そうやって、兄の方は束の間の休息に胸をなでおろしていたのであるが、同じようにベッドに座った妹の方は興味津々に、ベッドの頭側にある謎のスイッチやら何故か付いているラジオのつまみを、時々歓声を上げつつ弄って(いじくって)いる。と、急に結構大きめの窓を遮っていたカーテンが上がり始めたのを目にするや、今度はそっちに食いつき、徐々に見えてくる外の景色に感嘆の声を上げ始めた。
「お、お、お、………わお。…………」
そう言うと窓枠に手をかけてさらに車窓に見入る。
「すっごい。…………ええやん。………ええやん。…………」
そして初希は、カーテンが上がり切る頃になるともう声をも出さず、目を見開いて窓の外を眺めるようになったのであるが、しばらく無言であった倖希もまたその移り変わっていく景色、-------たった一台の車のために色を変える信号機、読む者も居ないのにぽつりと立つ標識、住宅街の上を駆��抜けている電線、淡く光るように街灯に照らされている道路、夜空に点々と輝き星座を描く星々、……………そしてそれらをどこか物悲しい顔つきで見入る妹、------などなどに心を揺さぶられ、やはり違う世界へ連れて行かれたのではないのかという気分になると、自身も妹と同じように窓辺に手をついて外の景色を眺めた。今見ている街並みは、まだ大阪のものであるのに、普段見慣れているはずなのに、二年前まではここで暮らしていたというのにいまいち現実味が湧かず、隣に居る初希の存在を感じていると本当に恋人とどこか遠くに駆け落ちしているような、そんな錯覚さえしてくる。果たしてそう思うのは、生まれ育ったこの地から離れようとしているからなのか、それとも儚い表情をしてをられる彼女の佇まいに当てられたのか、はたまたぼうっと辺りを照らしている街灯に哀愁というものを感じたのか、いずれにしてもいたく美しい光景が車窓には広がっている。--------
「確かにこれは、いいな。いいぞ。…………」
二人のあいだにはこの言葉を最後に、しばらく電車が線路を走る音のみが響いていたのであるが、倖希が咳払いをしたのをきっかけに手をもじ 〳〵 させ始めたので、それがどういうことを意味しているのか知っている初希は、一つ、くすっと笑うと、絡まり合っている手のうち自分に近い方を奪ってやる。すると案の定、隣に居る兄から力という力が抜けていき首もがっくりと項垂れていったけれども、気がついた時にはあの、苛めてほしそうな優しい顔でこちらを見てきていた。
「こ、--------」
が、初希が口を開けたその時、コンコンコン…………、と扉をノックする音が聞こえてきた。
「あっ、はーい!」
すかさず倖希が反応すると、ガラリと言う音と共に扉が開き、
「すみません、乗車券の方を、-------」
と、言いながら嫌に朗らかな笑顔をした乗務員が部屋に入ってくる。-------どうやら切符を見せないといけないらしい。そうは理解していても突然のことだったので、すっかり自分の世界に浸っていた初希は一瞬固まってしまい、そのうちに手を離されてしまった。
「はい、どうぞ~」
さっと財布を取り出し、その中から切符を抜き取った倖希が朗らかに言う。自分だってあんなに哀しそうな顔をしていたというのに、なんだその変わりようは、------と少しムッとする初希であったが、私も切符を見せないといけないんだろうな、………と思い、気持ちを切り替えてベッドに座ったまま自分の荷物に手を伸ばす。
「あ、もう大丈夫です。ではごゆっくりどうぞ。-------」
「へっ?」
私のは見なくていいんかい、と、初希は心の中で言ったのであるが、本当に見せなくても良かったらしく、手を空に迷わせているうちに扉はガラガラガラ…………トスン、という音を立てて閉まってしまった。---------
「びっくりしたなぁ。………」
「うーん。…………あー。………………」
「初希?」
「なんか、あれだね。あれ。そう、あれ。………………」
「あれ?」
「そう、あれ。うん。あれ」
初希は根本から折れたようにベッドに寝転がってしまっているのであるが、その返事は全くもって要領を得ていない。たぶん、雰囲気無くなっちゃったね、…………と、本当は言いたいのであろう。倖希はそんなことを思いながら、もう一度ベッドに座ろうと一歩踏み出したその時、ポキっと折れていた妹の体が突然跳ねるようにして起き上がった。
「うおっ! なんだなんだ、---------」
「お兄ちゃん、ちょっと探検しようよ、探検!!」
「えっ、………」
「行こう行こう。雰囲気無くなっちゃったし、それにさっきちらっと見えた向こう側の車両、めっちゃ良かったやん、なんか非日常的で。ねぇ、行こうよー。…………」
「えー。もうちょっとゆっくり、--------」
そう言いかけたところで、初希がこちらの手を取って引っ張り始めたので、こうなっては妹が止まらないことを知っている彼は、そろそろ開けようと思っていたお酒やらお菓子やらが入ったコンビニ袋をその辺に投げ捨てグイッとその手を引き、彼女を立たせてやる。
「お兄ちゃんのそういうところ、大好きだよ」
「はいはい、------それじゃあ、行きましょうか、お嬢様。」
「ふふっ、なにそれ。つまんない。--------」
と言いつつも、くす 〳〵 と笑う初希の手を引っ張って足を踏み出した倖希であったが、部屋を出る頃にはもう妹の背中を追いかけるようになっていた(そんなスペースは無いから微妙。もう少し現実に即するように書き直す?)。
  ぐい 〳〵 と手を引かれて行くと車両の連結部に出て、そこにはこれと言った物が無かったためあまり特別な印象は抱かなかったのであるが、倖希はそんなことよりも妹が楽しそうでなりよりであった。なぜかと言って彼が実家へと帰省したのは、初希がしなびてるから元気づけてやってくれ、どうせあんたが原因やろ、と母親から連絡があったからなのである。しかしそうは言われても当初、普段から妹とはよく通話するし、何よりその日も彼女の元気な声を聞いていた倖希はいまいち実感が湧かず、母親には、濡れ衣や、とだけ返したのであった。が、今まで弱音らしい弱音を吐いてこなかった初希のことだから自分の前では強がっているかもしれないと思うと、どうしても気が気でなくなってしまい、試験という試験全て乗り越え、レポートというレポートを全て提出し終えたらすぐ実家に帰ろうと、そういう予定を割と早くから立てていたのである。それでどうやら悪いことに、倖希のこの読みは当たっていたらしく、日を追うごとに普段の通話から沈黙の時間が増えていったので、余りにも妹を心配した彼はレポートを一つ放棄してまでして、予定より一日早く実家へと帰省したのであった。で、帰ってきてみると笑顔の初希に抱きつかれ、お土産をぶんどられ、いつもの調子でコロ 〳〵 と転がされて、なんや元気そうやないかと若干損した気分になったものの、こちらを見てははにかみ、こちらに引っ付いてきては撫でるような声を出す様子には、どこか上滑りしているような印象を受けた。それに何と言っても片時も離れないのには、さすがの倖希もうんざりとした。けれどもそうやって、いつも以上に引っ付いてくるということは、妹をえらい寂しがらせていたということに違いはなく、申し訳無さと愛おしさから相手をしてやったのであるが、じきに日が変わりかけてきたので、そろそろ寝ようと久しぶりの自室に行こうとしたところ、……やっぱり付いて来る。ほら、こんな時間だし初希ももう寝な、とやんわり催促しても、いい加減にしなさい、と少し怒ったように言いつつ部屋へ押し込んでも、ただ、お兄ちゃん、………と微醺を帯びたような目で倖希を見ながら言うばかり。で、結局、根負けしてしまったのであるが、そうやって甘やかしているとしまいには布団にまで潜り込んで来て、目が覚めた時には共に朝を迎えていた。と、そんな風な日を始まりに、この帰省中は初希とずっと一緒に居たような気がするのであるが、なぜかそのあいだ彼女はあまり哀しそうな表情をしなかった。だけれどもここ二三日ほどは急に二人きりで居たいと言ってきて、昼は逢瀬のために神戸に行ったり難波に行ったり京都に行ったり、夜は食事後すぐに部屋に引きこもってこちらが枯れ果てるまで体を求めてきたり、言うとまたバツの悪そうな顔をされるので声には出さないが、それはもう大変であった。恐らく初希は、いつまでもこんな寂しい感情に流されてはいけないと思って、兄が帰ってきたのが純粋に嬉しくって、そんな物悲しい顔を意図してしなかったのだろうが、けだし、やはり別れが近づいてくるに従って耐えられなくなったのであろう。だからと言って爆発させるくらいなら最初から素直になって欲しかったのであるが、その辺りに彼女の健気さを感じて倖希は胸に迫る思いをしているのであった。
彼がそういう思いを抱いているのには一つ大きな理由があって、もう妹もあと数ヶ月すると高校三年生、-----つまり受験生になろうとしているのである。そうで無かったら妹の甘える仕草にも、自信は無いが厳しく応えられたはずなのである。が、やはり初希がそろそろ受験を控えるようになると思うと、そうも言ってられない。なぜかと言ってあの一年間は魔のような期間であり、どれだけ自分が自信を持っていようが、どれだけ自分が良い偏差値を叩き出そうが、たった小テスト一個、たった教師の一言で途方も無い不安に襲われてしまう。思い出してみると自分はあまり頭の出来が良くなかったから、模試を受ける度に全然問題が解けずへこんで、結果が返ってくる前にこの世の終わりみたいな顔をしていたから親に、あんた大丈夫なん? と言われ、担任に、このままだとあそこは難しいだろうから志望校を変えたほうが良い、と言われ、そういえば常に不安で不安で夜遅くまで勉強していざ床に就こうとすると眠れず、眠れたかと思ったら数時間後、びっくりしたように心臓をひどく脈打たせながら跳ね起きる。そういう生活を常に送っていた。そんな中で唯一、心の支えであったのが初希であることは言うまでもなかろう。中学三年生だった彼女は自身も高校受験のために忙しい日々を過ごしていたにも関わらず、目を充血させてボソボソと英語を読んでいる兄のために蒸らしたタオルを用意したり、たまに自暴自棄になってあちこちへ遊びに行こうとする兄に付いていき一緒になって騒いだりしてくれた。で、騒いだ後は必ず帰りに、こちらの耳が痛くなるようなことを言って諭してくるのであるが、決して不快な気分にはならなかった。どころか一つ 〳〵 の言葉に重みと言うか、言霊というか、とにかく彼女の思いが詰まっていて不覚にも涙することは少なくなかった。とは言え、帰りの道中まさか中学生の女の子に甘える訳にはいかないから何とか耐えて家まで辿り着き、自室で二人きりになった所でようやく弱音を吐いて、誘われるがまま頭を彼女の胸に埋める。するといつも決まって初希は子守唄のように兄の名前を呼びその頭を撫で、他の誰も認めないけど私だけはお兄ちゃんが頑張っているのをいつも見てるからね、一昨日もお母さんに、ぼーっとしてるなら勉強したら? って言われてたけど私は知ってるよ、あの時は手に単語カードを持ってたから頭の中で憶えたことを諳んじてたんだってこと。………ふふっ、だって本当にずっと見てるんだからすぐ分かるよ、散歩に行くのも休憩じゃなくて歩きながら数学の問題を考えたいんだよね? ………私にはお兄ちゃんの感じてる不安がどれぐらいなのか良くわからないけれど、やっぱりそこまで根を詰めるのは良くない気がするの。だからお願い、頑張らないでとは言わないけれど、今だけはお兄ちゃんの大好きな私の、……私の、その、………おっぱいのことだけを考えて。お兄ちゃんのおかげで先週Dになったんだよ? -----などと言って、こちらの頭をその豊かになりつつある胸元に押し付けてくるのであったが、なんという心地よさであったか。ひどい緊張で夜も眠れなかった自分の頭の中からあの地獄のような不安が無くなり、体が蝋のように溶けていき何も考えられなくなったかと思えば次の瞬間には一時間か二時間程度は時が経っている。だが目が覚めたところですぐさま鼻孔に妹の匂いが漂って来て、クラ 〳〵 しているうちに再び気を失い次の瞬間には彼女の柔らかい膝の上で頭を撫でられている。そして、そろそろちゃんとベッドで寝よ? と妹に言われるがまま布団の中へと一緒に潜り込み、今度はその体を胸に抱いて眠るのであったが、そうすると余りの安心感から三度、気絶するように眠ってしまい次の日が平日であろうが何だろうが昼まで目が覚めないのである。
倖希にはそんな苦いような甘いような記憶があるために、妹はもっと苦労するであろうと考えており、何も彼女に強く言えないのであった。自分には初希という存在が近くに居てくれたからこそ、辛さが募ればすぐに甘えられていたけれども、そうやって入試を乗り越えてしまったがゆえに東京で暮らすことになり、妹の近くに居られなくなってしまった。彼女にはもう甘えられる相手が近くには居ない。そんなことを言うと自惚れているように捉えられるかもしれないが、自分がどれだけ妹に助けられたかを思い出すとやはり、ただでさえ不安に押しつぶされそうになる受験期に、心を寄せている兄と会えないのは心細いはずである。あと一年経って、入試を終え、無事彼女が大学に合格すれば同棲可能、-----いや、すでに同棲をする予定を立てているけれども、その肝心の一年間が彼女にとってどれだけ苦しい一年間になるのであろう。恐らく初希が今回しなびたのはそういうことが原因で、何があったのか推測するに、高校二年生となりて春を過ぎ夏を過ぎ秋を��ぎとうとう寒くなってくるや、あの高校のことだから、-----自分の母校でもあるから分かるのであるが、口を開けば入試だの、受験だの、もうあと日も無いだのと耳にタコが出来るほど言われ不安になったのだろう。自分の時はかなりのんびりとしていたから大して影響は無かったが、案外真面目で頑固者な彼女は先生の言うことを真摯に受け止めてしまったに違いない。しかもその先生というのが、どういう訳か妙に生徒を煽ることに関しては上手くて、入学したときからすでに口を開けば良く出来た先輩の話だったり、定期試験があればほんの少しの凡ミスでもああだこうだ言って自信を失わせるのである。どうしてそんなことをするのか良くわからないが、恐らく不安とか悔しさが本当にバネになるとでも思っているのであろう。で、そういうことを真面目に受け止め続けてきた彼女はこれまでずっと将来の不安を燻らせていて、トドメに、-----自分の覚えている限りではこの時期確か、センター試験の過去問かそれに似せた問題を本番さながらに解く、という行事があったはずで、………たぶん、本当にたぶん、そこであんまり良い成績が取れなかったためにとうとうしなびてしまった。と、こういう経緯(いきさつ)なのであろう。実はこっそりとそのセンター試験の結果を聞いてみたところ、次聞いたらいくらお兄ちゃんでも容赦しないからね、いい? 分かった? と云われたので大方当たっているかと思われる。
そんな訳で、別にセンター試験など雀の涙ほどに圧縮されるから気にしなくても良いのにしな 〳〵 にしなびていた初希が、今朝方急に元気になって今ではこちらの手を引っ張り、でもしば 〳〵 歩みを緩やかにして後ろを振り向きニッコリと微笑むようになったので、倖希もまたかなり嬉しくなっているのであった。なぜかと言って、彼が妹を東京に連れて行くことにしたのは、先に述べた事情をだいたい全て予想していたからであって、もっと言うと初希が着いていきたいと我儘を言う前から、もっと 〳〵 言うと東京に住むことになった自分を送り届けてくれたあの日から、倖希は妹が受験生となる前にいつかは二人きりで過ごして数年後の自分たちの姿を想像しておいて欲しいと、そういう願いがあったからなのである。彼は建前では妹を仕方なく東京まで連れて行っていると言うし、自分の心の中でも二三日の爛れた日々のために手間もお金もかけた、と思っている折があるにはあるけれども、本当は妹を元気づけたい一心でいるのである。だから誰よりも、-------もしかしたら初希本人よりも彼の方が喜んでいるかもしれないのであるが、旅の始まりともあって少々盛り上がりすぎている妹に家を出る前からずっと手を引かれていると、やっぱり少しだけ呆れてもくるのであった。
寝台列車の中はあれほどホームに人が居たというにも関わらずひっそりと静まり返っていて、ただ部屋の取っ手と、木の模様をした壁と、ちょっとした照明だけが付いている狭い、本当に狭い、人とすれ違うこともできなさそうなほど狭い廊下を縦に並んで渡っていると、確かに初希の言う通り非日常的というか幻想的であると、倖希は感じた。よく考えれば時刻は午前一時をちょうど過ぎたくらいなので、皆部屋に引きこもって寝ているのかもしれない。相変わらず手を引かれながら歩いていると、恐らく一人用の寝台個室であろうか、左右対称に狭しく部屋が並んだ車両にたどり着いた際に、初希がふと歩みを止めた。
「なんか、ステイサムの映画みたいだね……」
「どれ?」
「ほら、あの退役軍人なステイサムがマフィアだかなんだかをボコボコにするやつ」
「…………どれもそうだから分からん」
「んー、………ほら、あれ。こないだ見たやつ! ………の、ダンボールに押し込められた出稼ぎ中国人をステイサムがトラックの中で数えるシーン、あれみたい」
「あぁ、なるほど、分かった分かった。………確かにそれっぽいけど、例えがえげつなくない?」
「せやな。………」
そう言うと初希は、手に持っていたスマホを片手で器用に扱い、カシャッと、この一件面白くなさそうな光景を写真に収めた。が、微妙に薄暗いせいで光がぼんやりとしてしまい上手く撮れなかったのであろう、云々唸って何回も取り直している。倖希はそんな妹を多少愉快に思いながら改めて車両内を見渡すのであったが、案の定何にも面白い物が無く、それに窓が無いために今しがた感動した夜景も見ることが出来ず、ひどい閉塞感に包まれてしまった。それでも殊の外ワク 〳〵 して仕方がないのは、そんな閉塞感を感じているからこそ秘密基地に入っているような、言わば少年時代に戻ったような感じがするからであろうか。たぶん少し違っていて、先程ちらりと見えた一階へ降りる小さな階段を思い出すと、ホラー映画というか、SF映画というか、何やら入ってはいけない場所へ迷い込んだような、そういう気分になっているからなのであろう。なるほど確かに初希の言う通り「探検」である。そう合点すると彼は、いまだぴょこ 〳〵 と細かく動いては写真を撮っている初希のことが映画のヒロインのように見えてきて、こんな風にとりあえず動いてみる女性がまず最初に謎を解き明かしたりするんだよな、…………と映画の世界に入り込みそうになるのであった。
「そういえば、確か展望室みたいなのが逆の方向にあるよ。たぶん」
「ほんと? 行こう行こう!」
倖希は妹がスマホを手の中に丸め込んだのを見て、今度は自分が彼女を引っ張って行こうと足を踏み出したのであるが、壁伝いに無理無理こちらの前に出て来る体に気を取られていると、またもや引っ張られていく形で再び廊下を渡り歩いていった。
  「そういえば、今どの辺なんやろか。-------」
展望車、もといミニラウンジは意外にも二人の部屋がある車両のすぐ一つ隣にあって、車両の縦半分ほどの空間がちょうど左右対称に分かれており、床に固定された回らない椅子に座って、壁に固定された奥行きのない机に肘を乗せて、割と広めの窓から外が見えるようになっていた。彼らの他には女が三人だけその椅子に掛け窓の外を時折眺めつつヒソ 〳〵 と静かに話をしているようで、それ意外の雰囲気は今までと変わりない、強いて言うなら自販機の色が少し賑やかなくらいである。で、その自販機に飲み物を買いに行った倖希がココアを袖に丸めて戻ってくると、頬杖をついてうっとりと窓の外を見つめていた初希がボソッとそう聞いてきたので、そういえば部屋を出る前に高槻の文字が見えた気がするからそろそろ京都に入ったんじゃなかろうか、と彼女の隣に座りつつ確かめてみたら意外なことにもう長岡京の辺りまで来ている。だが外を見ても消えかかる街明かりがぽつぽつと見えるばかりで、一体ここがどこなのかさっぱり分からない。
「うわー、…………ここ京都なんだ。全っ然気が付かなかった。…………」
「まぁ、夜だし、それにさっきまで窓がなかった車両に居たからね、山崎のウヰスキイ工場とか、チヨコレエトとか見えなかったんだろう。あといつも阪急に乗ってるから微妙に景色も違うだろうしね」
「だねー。…………」
「いやぁ、面白いなぁ、一昨日も初希と一緒に伏見稲荷まで行ったから通ったはずなんだけど、面白いなぁ、………あの時は、--------」
倖希はそれからも、こんな感じで現在地を地図アプリで追いかけ回してはその都度感想を述べるので非常にうるさかったのであろう、五分と経たず初希はその頬を手から離しキッと兄の顔を睨みつけ、
「お兄ちゃん」
「はい」
「静かに」
「はい」
元来妹に至極弱い兄である、倖希はその一言ですっかり静かになり、パキッ…………、という音を立ててココアの缶を開けて一口飲むと、もう何も言わずに変わらぬ速度で流れて行く京都の街明かりを見始めた。そしてほとんど目も瞑って電車の走る心地よい音に身を任せながらココアの缶を手持ち無沙汰に親指で撫でていたのであるが、しばらくすると横からぬっ、と細くしなやかな指が伸びてきて、カチリと、綺麗に切り揃えられた爪とその缶とが当たったと思ったら、次の瞬間にココアは彼女の手に収まっていた。
「まったく、一声くらいかけてくれ」
「あ、ココアちょうだい。-----」
「遅いわっ」
澄ませた顔でココアの蓋を開けた初希は、濡れたように艶かしく光る唇を軽く突き出すと、下唇を缶の口へ柔らかく当て、人肌程度に温くなったココアをそっと舌の先に触れさせる。そしてその甘味やら、苦味やら、独特の舌触りやら、鼻孔に広がる香ばしい香りやらに顔をなごませてから、コクリ、コクリと気管の膨らみが薄っすらと見える魅惑的な喉を蠢かせ、その優しい味わいを体の中へ入れていく。倖希はその、ある意味口淫を思わせる仕草につい見惚れてしまっていたのであるが、いつしか窓に映る景色は景色とは言えないほど明るくなってをり、とうとう背の高い建物も姿を現し始めていた。
「あゝ、この殺風景な感じ、…………京都駅だなぁ。…………」
「ふふっ、お兄ちゃんさっきから何か変。大丈夫? 変なもの拾って食べたりしてない?」
「いやだって、こんな人の居ない京都駅って珍しいやん? それに、-----」
----こうして素通りするのも珍しいし、と言いかけたところで、寝台特急は速度を落として、しかしそれでも案内板やらロッカーやらが掠れて見えない程度の速度で駅のホームを通過していく。
「あれ? 京都は通過するだけなのん?」
「らしい。意外だよね、残念?」
「いや全然。一昨日も来たから。………」
「そういえば、その時の写真さ、意外と綺麗に撮れてたから東京に着いたら見せてあげるよ」
「ほんとに? ---------それは楽しみなんだけどお兄ちゃん、私のことを私が気がついてないうちに撮ってたりしてないよね?」
「いやいや、そんなことは、…………実は一枚だけあります、ありますから。そんな目をしないで、ごめんって」
「もう、………」
「いやでも、あの一枚も綺麗に撮れてたから初希も気にいると思う、…………たぶん」
「そりゃ、被写体が良いんだもの、どう撮ろうと綺麗になるよ。---------」
ふふん、と胸を反らし、とう 〳〵 倖希の手の平でも収まらなくなってしまった二つの大きな実を、そのおおらかで男の心を惹きつけて離さない蠱惑的な曲線で持って強調するのであったが、ちょうどその時、たまたま後ろを通りかかった男性の視線が突き刺さるのに気がつくと、慌てて自分の体を抱え込んだ。そして恥ずかしさを紛らわせるためなのか、憂さ晴らしのためなのか、ココアを雑に掴んでまたもやコクリ、コクリ、コクリ、…………と飲んでいく。やはりその豊満な胸は自慢ではあるけれども、他人には見られたくないのであろう。
「ここは人が行ったり来たりするから落ち着かないな。部屋に戻ろうか」
「だねー。………」
コトリ…、と音がしたので下を見ると、ココアが帰ってきていた。
「………あっ、うわっ、もうほとんど残ってへんやん! 」
「ふふっ、ココアありがと、お兄ちゃん。-------」
久しく聞いてなかった兄の驚く声に満足した初希は、立ち上がってぐいっと背伸びをすると、まだ一口しか飲んでなかったのに、…………と文句を言いながらほとんど最後の一滴となったココアを飲む兄を、密かに赤らめた顔で見守るのであった。
  倖希は、お花を摘みに行ってきますわと、至極お上品に言いそのまま車両を通り過ぎて行く初希の後姿を送り届けた後、部屋の中に入りコンビニ袋を拡げたのであるが、こんな時間にお菓子はあまりよろしく無いだろうと思ってお酒だけを取り出し、一人ベッドの上に座って移ろいで行く景色を、どこか物足りなさを感じながら見ていた。だがちょっとすると明かりがうるさくなってきたので、一口お酒を口に含んでから窓辺にその瓶を置き、電灯を消して再びあぐらをかいたところで、ゴロゴロ……、と云ふ音を立てながら扉が開いた。
「おにいちゃん?」
「あっ、ごめん。今点け直すから」
「いや、大丈夫大丈夫。-------それにしても、いいね、やっぱり」
「だよね。-------」
初希は部屋へ入ってきた時こそゴソ 〳〵 と自分の荷物を漁っていたものの、しばらくして用が済んだのか靴を脱いで倖希の真横に座り、少々ずり落ちていた眼鏡を指で上げるとさらに彼の元へすり寄った。そして倖希の差し出した手をそっと取って、肩に頭を乗せ体を預��ると、それに呼応してなのかこちらの手を握ってくる力がほのかに強くなり、続いて向こうからも気持ち程度に体重をこちらにかけてくる。が、本当に気持ち程度なので、昔みたいに甘えていいんだよと声に出す代わりに、ぐし 〳〵 と頭をその首元に押し付けてやる。するとしばらくは鬱陶しそうにしていたが、ようやくダラリとその体をこちらに預けてきてくれるようになったので、ふっふ……と、ちょっと笑ってから兄が見ているであろう寂しく道路を照らしている街灯を眺め初めた。そうやって、二人の兄妹は互いに言葉も交わしていないのにも関わらず、まるで示し合わせたかのように肩を並べ合い手を取り合い体を支え合い、二人して二人とも明かりが少くなり行く夜景を、どこか儚げな表情で見つめるのである(この一文要る?削るか、もう少し上手く書くか)。
京都を抜けたばかりなので明かりはまだぼう 〳〵 としているにはしているものの、時刻はもう午前二時を回っているために、目に見える民家はもぬけの殻のように真暗で、四車線ある広い道路もたまに通る車の光が賑やかに感じるほどに静まり返っており、倖希はまるで人が突然居なくなった後の世界のようだと、またもやワク 〳〵 しかけたのであったが、やはり虚しい。ラウンジに居た時までは京都市内を駆け抜けているせいもあって、窓から外を眺めると高い建物がそびえていたり、車も信号待ちで並ぶほど居たり、それに人の歩く姿も時たま見えていたのに、急に物寂しくなったものである。トイレに行くまでは兄にああだこうだと言っていた初希も、さすがに口を閉じて流れて行く景色を見守っている。彼女もまた、この光が無くなっていく様子を見て何かを感じ空想に耽っているのであろうか、それともぼんやりとただこの物寂しさに心を任せているのであろうか。兄である自分が想像するに恐らく後者であろうと思うが、しかしそれにしても得も言われぬ美しい横顔である。時折窓から入ってくる光にぼんやり照らされて輪郭はあいまいになり、目のまぶたや鼻の頭やなだらかな頬の山によってところどころ深い闇が出来、その闇の〝つや〟となめらかな白い肌とが見事に調和して、------なるほどこれが陰翳の美しさというものなのであろう。恐らく昼間の明るさではこうは見えまい。彼女の顔立ちは決して派手とは言えないが、その肌ははなはだ陶器のように光を跳ね返すほどの色艶をしており、人によっては好きと言うかもしれないけれども、自分には少々眩しすぎると思っていた。だがこうして闇に溶け込ますと余計なものが全て削ぎ落とされ、こちらが見ていることに気が付き恥ずかしそうに笑う表情すら、閑寂のうちに活けられた慎ましい花のよう。自分は彼女の美しさというものを分かっているつもりであったが、上辺だけを攫っていたのかもしれない。------
と、倖希は三度、妹の顔を見て惚れ惚れとしていたのであるが、そのうちに妙な懐かしさを感じる取るとそちらにすっかり気を取られてしまった。眼の前に居る少女はそこに居るだけで目を奪われてしまうほど美しいのに、なぜかその過去の姿がチラついて仕方がない。どうしてこんなにも気になるのであろう。初希とこうして一緒に静かに何も声を出さずじっとして体を寄せ合ったことなんていくらでもあるのに、なぜこんなにもあの、五六年前のとある冬の日、------もう記憶もおぼろげなあの日、田舎にある祖母の家へ遊びに行ったあの日のことを思い出してしまうのであろう。その時自分はさつま芋を焼こうと、その辺(あたり)から適当に拾ってきた落ち葉や木の枝や竹の幹などをちょっとした山にして、その中にアルミホイルで包んだ芋を放り込んで、火を点けて、ゴロゴロと転がしてきた丸太に座って、…………たかどうかは忘れたがとにかく何かに座って山の中でひっそりと、ほんのり夕焼けに照らされる木々を目の隅に留めつつまだ 〳〵 生まれたばかりの小さな炎を見ていた。-----あゝ、思い出してきた。確か、焼き芋焼こう焼こうと言ってきたご本人様は、そうやって火を点けてから案外すぐにやって来たのだけれども、一言二言話しているうちにとうとう歩くのも危ないほどに辺りが暗くなってきた上に、風でなびいた竹や木がさわさわ言い出したので、ひどく怖がるようになってしまったのだった。何せあの辺りは「出る」という話を前の晩に聞かされていたのである、いくら冗談めかして言われてもいつ木の陰からぬうっと出てくるのか分からない。だからあの時は自分も怖くなってきて立ち上がると、その小さく縮こまってしまった体を後ろから抱きしめてやった。そしてパチ 〳〵 と暗闇の中へ飛び散っていく火花を一緒に目で追いかけながら話を、…………いや、話などしていない。自分たち兄妹は、あのおどろ 〳〵 しい闇の中で互いに互いの手を取り合って、ただ 〳〵 ゆら 〳〵 とはためく火の穂を眺めていただけだった。会話など無くても、自分たちは相手の手から伝わる力加減や汗や体温などの微妙な違いだけで、お互い何を思っているのか知り得るのだから当然である。そのうちに風が止んでずいぶんと静かになり、恐怖心もそれに次いで紛れていったが、結局手だけは離さなかった。もうその頃になると、炎の中心部分から燃えるものが少なくなり、頬を刺してくる暖かさもほとんど無くなりはしていたけれども、それに、焚き火の中へ入れていた芋もすっかり煮えきってしまっていたけれども、二人の兄妹はただ静かに灰になって崩れ行く木々を、心配して様子を見に来た両親が声をかけるまで見つめ続けた。--------まだ彼女の事を本当に「妹」だと思っていた頃の懐かしい記憶である。なぜ、今になって急に。………………
--------あゝ、そうか、だからか。まだ初希とはキスの一つもしていない時に、ちょうど今と同じような気味合いでぼんやりと焚き火を、そして、それによって鮮やかに照らされた彼女の顔を見守っていたからこんなにも気になったのか。それが今やどうだ。彼女がまだ中学生の時分に求められるがまま誘われるがまま、唇を重ね体を重ねたのをきっかけに、いつか終わらせなければ、そしていつか終わると知りながら、ぐだ 〳〵 と肉体関係が続いてしまっている。これがただの体だけの関係ならば、初希ももう十七歳という年齢なのだから、同じ教室に居る男子でも捕まえて兄の事など忘れることができよう。しかしもうすでに、引き返せぬほど彼女は自分を愛してしまっているし、それに負けじと自分も彼女のことを愛してしまっている。その上両親も、息子・娘が夜な夜な猥りがましい行いをしていることに、とっくの昔から気がついているにも関わらず、ただほのめかすだけで何もはっきりと言ってこない。そんなだから背徳感に膝を震わせたあの、-------妹の処女を奪ったあの日の感覚が消え失せるほどに何度も何度も、それこそこの一週間は毎日毎日、いつ誰が見てるのか、自分たちが何をしているのかも忘れて彼女と体を重ねていたのである。
もちろん、初希との関係を終わらせようとしたことなんて何回もあったが、彼女には話を切り出す前の顔つきから分かるのであろう、至極悲しい顔をしてこちらに向き直るので結局言えずじまいに終わり、最近ではもうその気も起きなくなってしまった。どころか、初希への思いが募りに募りすぎて、どうすれば彼女と人生を添い遂げられるのかを真剣に考えるようになってしまった。それは進んではいけない方向に舵を切ったということだけれども、なぜか自分には、止まっていた歯車がぐるぐると回り始めたような、そんな気がしてならない。つまり、間違った道の方が本来選択すべき正しい道だと、今ようやくその道を選んだのだと、自分は思っているようなのである。それでこれまでの半生をよくよく振り返ってみると、自分には彼女との関係を終わらせようという気持ちなど、さらさら無かったとしか言いようがなく、自分がやったことと言えば、そういういい加減な気持ちで別れを切り出したり、思わせぶりな態度を取ったりして、ただ彼女の心を弄んでいただけなのである。結局、初希と離れられないのは他の誰のせいでもなく自分のせいであり、けれどもこのまま共に添い遂げる方が正しい道だと信じて突き進むあたり、この鈍感で外道な男はずっと昔から手遅れだったのであろう。--------だが、終わる。初希との関係は確実に終わる。どれだけ愛し合おうとも、どれだけ手を尽くそうとも、血を分かち合った兄妹なのだからいつかは離れ離れにならなくてはならない。それは兄妹で性行為に至っていたと世に知られ無理やり仲を引き裂かれるか、それとも自然にどちらからともなく離れていくか分からないが、その時は確実に近づいてきている。自分たち兄妹に残された時間はあと僅か数年ほどであろう。血の繋がりがあるだけなのに、たったそれだけなのに、心も体も繋がった今ではその血の繋がりゆえに雑多なカップルよりも強く結び付きあっているというのに、兄妹の関係とは余りにも残酷なものである。本来ならば、こうして妹と二人きりで旅行することさえおかしいと思われるのかもしれない。……………
思い返してみると自分はこれまで生きてきて初希以上に気立てよく、一緒に居て心地よく、自分を理解している女性には会ったことがないし、それに、これからも会うことなんて無い気がするのである。今回の帰省の初日にもそれを実感した。自分が実家の門をくぐったのはちょうど夕食時であったから、お土産をぶんどられるやすぐにテーブルへ座るよう促されたのであるが、なぜかキッチンで料理を用意してくれたのは初希であった。とは言っても彼女は元々よく母親を手伝う子であったので、懐かしい気持ちで食卓に並んでいく生姜焼きや味噌汁、里芋の煮っころがし、そして小松菜とちりめんじゃこの和え物を眺めていた。最後の小松菜は意外であったけれども、どれも自分の好物である。早速いただきますと言い、青々としたネギの乗った味噌汁がたまらない香りを漂わせていたのでお椀を手に取ったところ、初希がエプロンを外しながら先程ぶんどったお土産を片手に隣へ座ってくる。そしてお土産を開けるのかと思いつつ味噌汁をすすっていたら、なぜか畏まった姿勢でこちらをじーっ、と見てくるので何事かと思いこちらからも見つめ返すと、おいしい? と聞いてくるのである。もちろん文句なしに美味しいのでそう返すと、ふにゃりと笑って、よかった、よかった、と言う。そこでようやく、この料理たちが彼女の手によって作られたものだと合点したのであるが、そう気がついて見てみると、なんと細部まで兄好みに仕立てられていたか。それまで飲んでいた味噌汁一つ取っても、自分の好きな薄めの味付けがなされていたし、具には自分の好きな豆腐と油揚げと玉ねぎが、ゴロゴロと自分の好きな大きさになって使われていたし、それに余りにも匂いが良いので聞いてみるとしっかり鰹節と昆布から出汁が取られていたし、そも 〳〵 先程のネギだってかつて自分がふりかけていた分量と全く一緒なのである。あともう少し述べておくと、あの時出てきた里芋は、先日に自分で食べたいと言っておきながらすっかり忘れていたものなのであるが、彼女はちゃんと憶えて献立に加えてくれたのであろう。結局自分は、ほとんど初めてと言っていい妹の手料理一つですっかり胃袋を鷲掴みにされてしまった。
そう思い出してみると、初希のことを紹介する時には、妹と言うより妻と言った方が正しいのである。先程だって、こちらがコートを脱ごうとするとさりげなく後ろから手を伸ばして来たので、ハンガーのある位置が逆ならばきっとコートを取られ吊りかけられたことだろう。それは事実、十年以上生活を共にしてきたからこそ会得し得た初希の心づかいであろうが、けだしそういう細かい身の回りの世話は長い時間をかけて少しずつ醸成されるものである。もっとも、自分が彼女の事を妻として見るようになったのは目であるから、そういった行動は副次的なものでしか無い。あの目はもうとっくの昔から兄を見るような目ではなく、夫を見つめる新妻のそれであって、殊に矢で射抜かれるような色気があるのである。一体全体いつからそんな目をしてきたのかはもう分からなくなってしまったが、自分が彼女のことを思い初めた頃、------彼女が中学一二生の頃にはすでに、ああいう媚びたような、哀愁を湛えたような目をしていた。いや、中学生の女の子に、しかも実の妹に恋をするなど存外な変態じゃないかと思われるだろうけれど、初希はその時もう十分人を惚れさせる魅力を備えていたのだから仕方がない。そも 〳〵 考えてみると、男は高校生になっても大学生になってもアホはアホのままであるが、女は中学生になる頃にはすっかり色づいているのである。彼女もあんな我儘で自分勝手な性格をしているけれども、案外体の成長は早く、ときどき見ることになった瑞々しい裸体には今思い出しても心臓が動悸を打ってしまう。そんな女性と当時高校生だった自分がかなりの時間を共にしたのである、こんなことになってしまったのも頷けよう。
ならば今はどうなのかと問われると、それはそれはもう、背も少し高くなって胸も大きくなって顔に深みが出て、--------あゝ、美しい。………………こんな美しい少女を独り占めに出��るなんて自分はなんと幸せ者なのだろう、絶対に離したくない、もういっそのことこのまま駆け落ちしたい。だが、あと一年経てば初希と二人っきりの時間がどっと増えるのだから、今は辛抱しておく方が懸命であろう。センター模試があんまり出来なかったとて、今まで何度もその天才とも言える知力で二年歳の離れた兄を脅かしてきた彼女のことだ、恐らく九割以上を狙っていたのにぴったりだったとか、惜しくも十点二十点足りなかったとか、今ですらそのくらいの学力はあるはずなので、大学へは少なくとも自分より余裕を持って行けてしまうに違いない。そうなればもはやこちらのものである、誰にも邪魔のされない同棲生活をしばらく送ることが出来る。が、その後、つまり、自分が大学を卒業して就職した後はどうなる? 籍を入れられなければ子供も生むことが出来ない上に、異母でも異父でもない実の妹と事実上の夫婦生活を営むなど社会は許してくれまい。かと言って隠し通すのも、いつ何時ひょっと誰かに手を繋いでいるところを見られるのか分からないし、ひょっと酒の場などで口を滑らせてしまうか分からないし、ひょっと不審な点を怪しまれでもしたら、------そういう話が好まれる昨今の事情である、一気に付け込まれて初希との関係を暴かれてしまうであろう。そも 〳〵 、そんなことを考えながらビク 〳〵 怯えて日々を過ごしていると、バレるバレない以前に、夫婦仲に亀裂が走りそうである。ならばむしろ堂々としているのも手かもしれないけれども、どれほど公にすれば自然に見えるのか分からないし、そんなことをして初希を傷つけでもしたら、………と思うと足が止まってしまう。一体どうすれば。…………………
--------だが、こうやって悩むよりは、今は今を目一杯大切に生きるほうが良いのではないだろうか。まだあと数年しか無いとは言え、まだあと数年も残っているのである。それほど時間があれば自ずと考えもまとまり、自分たちの向かうべき方向が定まってくるであろう。よく考えれば、まだ彼女と添い遂げようと決意してから日が浅く、それに今までは自分一人でうじ 〳〵 と考えていたのである。恐らく初希は、優柔不断な兄がそう 〳〵 早く決断を下せるなどとは微塵も思っておらず、それなら二人ぎりで生活するようになってから考えても遅くは無い、と云うよりお兄ちゃんに任せていたら何時まで経っても結論なんて出ないのだから、私に全部任せてその辺でお茶でも飲んでいなよ、などと思っているのではないだろうか。だから話題にも出さず、今日のようにひどい盛り上がり方をして今を楽しもうとしているのではないだろうか。ならば自分が取れる行動は一つしか無いのではないだろうか。駆け落ちの判断は数年後の自分とその妻に任せるとして、今日、明日、明後日は目一杯彼女を楽しませなければいけないのではないだろうか。ならこんな憂鬱な気持ちに負けている暇など無いのではないだろうか。------------
「こーき。…………」
ふいに、すっかり頭を首に埋めていた初希が、体勢はそのままに倖希の名前をそっと呟いた。かと思いきや、くるりと上半身を回して彼と向き直ると、肩に手をかけて体を押し倒し、自身もまたふわりとその上に倒れ込む。
「お、おい、はつき、こんなことする場所じゃないだろ。…………」
「んふふ、………そんなことは言っても、こーきの心臓は正直だね。もう、ドキドキしちゃってる。…………」
「はつき、落ち着けって。あと名前で呼ぶんじゃない」
「えー? だって、外だと名前で呼べって言ったのはこーきだったじゃん。私はちゃんと、こーきの言いつけを守ってるだけだよ?」
確かにそう言ったことはあるものの、それはかつて友人と自分と初希とで遊んだ際に、余りにもいちゃついてくるものだから彼女が妹だと言おうにも言えなくなってしまい、つい 〳〵 、今日だけは名前で呼んでくれ、と耳打ちしたのであって、決して、「外では『お兄ちゃん』と呼ぶな」、とは言ってないのである。だからどういうことかと言うと、今初希は、昨夜のように押し倒した彼の股に座り、昨夜のようにその手を片っぽずつ握り、そして昨夜のようにとろんとしたした目で見下ろしているのである。
「------だから言ってな、…………こら、そういう顔で見るんじゃない」
「それにさぁ、………こんな狭い部屋の中で男女が二人きりでいるなんて、何も起きないほうがおかしいと思わない?」
「いや、男女って言っても、俺たち兄妹だから、-------」
「んーん? いまさらこーきは何を言ってるのん? 昨日だって、私の下であんなに可愛くあえいでいたくせに。…………」
初希がこちらの目をまっすぐに見据えてくる。
「ちょ、ちょ、ちょっと。待って、はつき、まだ満足じゃないのか?-----」
「あれで十分? こーきは本当にそう思ってるのん? あと三日しか無いんだよ? 私達の時間は。もうそれだけなんだよ? ------あっ、でも、こーきがこのまま攫ってくれるなら話は別だけどね」
「それは、…………」
窓の外に映る景色はいよいよ明かりという明かりが無くなり、壁と天井の境界さえ分からないほど部屋は真暗であったが、倖希は自分を見据えてくる目が潤んでいるのを確かに感じ取った。
「ねっ、こーき、このまま向こうで過ごそうよ。過ごしてさ、---------」
-------と、初希が何かを言いかけた時、扉からガチャ 〳〵 と言う音が聞こえてきた。その音に、もう鼻と鼻が触れ合うほど顔を近づけてきていた初希もびっくりして体を起こしたが、まだガチャ 〳〵 と言っている。
「あ、あれ? なんで鍵が、………」
程なくして、そんな女性の声が聞こえてきた。あゝ、なるほど、もしかして、部屋を間違えた別の乗客がこの部屋を開けようとしているのか、--------と二人は合点して静かに扉を見つめる。
「うん? あ、しまった。ここじゃない。…………」
「ふっふっふ。………」
「-----こーき、趣味悪いよ」
「せやな。……………」
「あ、あの! ごめんなさい!」
見知らぬ誰かはその声を発するや、どこかへ走り去ったのであろう、もうその気配も伺えなくなってしまった。
「………やっぱり間違えてたんだな」
「ふふっ、私もさっき間違えそうになったから、仕方ないよね」
「なんだ、はつきも間違えそうになったのか」
「まぁ、ね。…………」
一瞬だけ晴れやかになった初希の顔が、どうしてだか再び沈んでいく、-----見えないが口調からそんな気がした。
「はつき、はつき、ちょっと重くなってきたからどいて、-------」
だから、せめてこれだけは、………と思ったのである。
「えっ、あっ、ごめん。………っていうか、こんな純粋無垢で可愛い女子高生に重いってどういうこ、--------」
「------ごめんな、今はこれだけで許してくれ」
「…………えへへ、やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんだ。……………」
「…………どういうことだよ」
「んへへ、………いいのいいの。お兄ちゃんに意気地が無いのは分かってたし、あと一年だし、あと一年耐えればいいだけだし。…………そう、一年だけ。---------お兄ちゃん、頑張るよ、私。そしたらたくさん思い出作ろうね。終わっちゃう前にたくさん、たくさん。…………………」
「あぁ、そうだな。色んな事しような。……………」
「ん。--------あーあー、…………なんだか眠くなってきちゃった。このまま寝ていい?」
いいよ、と返事をして初希の顔から眼鏡を外し窓枠に置くと、すぐさまこちらの胸元にぐいぐいその顔を埋めてきたので、とりあえず後髪を撫でてやる。
「おやすみ、はつき」
「おやすみ、こーき。……………」
そうしてそのまま頭を撫で続けていると、すー、すー、という可愛らしい寝息が列車の走る音に紛れて微かに、でも確かに聞こえてくるようになったので、倖希は一つため息をつくと、少しだけ酒を口に含んだ。時刻を確かめてみるともう午前三時である。窓の外には名古屋に近づいてきたのか、点々と煌めく街の灯が、水平線の向こう側まで広がっている。彼はそれを酒の肴にしようと予てから画策していたのであるが、胸の中に感じる言いようのない心地よさに一瞬眠気を感じたと思ったらもうそれまで、後はうと 〳〵 と船を漕ぐばかりになり、頭を撫でる手も止めてしまった。
  ハッと、倖希が気がついた時にはもう窓の外は白くなっていて、朝日こそは黒みを帯びた雲で見えなかったものの、ずっと遠くにある住宅地まで見渡せるほどには晴れやかな空気が漂っているようである。だが付近の道路やしまうたやに目を落としてみると、そこはかとなくどんよりとしているので、やはり雲行きは怪しいらしい。それよりもこの薄暗いのはその雲のせいだとすると、もしかしたら停車駅をいくつか逃してしまったかもしれず、倖希は今列車がどこを走っているのか気になったのであるが、いまいち頭がぼうっとするので雨の気配を心配しつつ車窓を眺めていた。と、ちょっとして、
「次は横浜、横浜、-------」
という車内放送が流れてくる。ということは、次の駅は終点の東京なのか、意外と時間が経ってしまっていた。ならそろ 〳〵 、この胸に抱きついて一向に起きる気配の無いお姫様を起こさねば。…………そうは思ったもののもう少しだけ、愛しい彼女の温もりというものを感じていたかったから、二三回ゆっくりと頭を撫でた後に背中をポンポンと叩いてやる。
「んんぁ、-----なに、なに。…………」
「そろそろ着くよ。初希、起きな」
「-----ああぁ、…………おはよ、お兄ちゃん。…………」
のっそりと体を起こすと初希は、まだまだ寝たり無いのかひどく眠そうな目を手でゴシ 〳〵 と拭っている。
「んぁー、…………だめ、ねむい。…………ついたらおこして。………………」
そう言って再び倒れ込もうとしてくるので、倖希はそれをやんわりと拒否した。
「うちに着いたら好きなだけ寝ていいから、今は頑張って。…………」
だがやっぱり眠気が勝るのか、ほとんど正座に近い状態であるのにしっかりと体を倖希に寄り掛けつつ眠るので、彼はすっかり諦めてしまうと、結局東京駅に着くまでそのままの体勢を保ち続けたのであった。
駅に着いてみると、相変わらず天気はどんよりとしているどころか、霧がかかったように建物という建物がぼんやりと佇んでおり、これなら今直ぐに降り出してもおかしくないな、と思いつつホームに降り立った倖希であったが、初希と手を繋いでいるせいで心持ちは穏やかと言えば穏やかであった。ところが、まだ飲みきっていない酒の瓶を捨てているうちに、さぁ 〳〵 と、小雨が降り出したかと思いきやそれは段々と大降りになり、しまいには風を伴って駅の壁に打ち付け初めてしまった。周りを見ると、素知らぬ顔で歩いている人も居れば、頭を抱えて外をじっと見つめている人も居る。
「ん? どうしたの、お兄ちゃん?」
「-------いや、なんでもない。行こう」
「ん、……………お兄ちゃん」
「あん?」
「手、手だよ!」
「おう、……すまんすまん」
と、言って初希の手を取ったのであるが、そういえば実家に傘を忘れていることに気がつくと、つい 〳〵 足が止まってしまった。
 (おわり)
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pinoconoco · 7 years
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空座第七女子寮物語 10
貴枝にオーナーから渡せと言われた箱を渡せば、ちらりと俺を上目遣いに見てきた。 それには気づかない振りをした。 というより、貴枝の行動全てに出来る限り気がつかない振りをしていた。 冷たくされることでスイッチの入る女もいるから、極力普通に。ひたすら余計な事はは言わない聞かないを貫いていた。 貴枝と何処かに出掛けたい訳でもないが、この日は貴枝が一護の家がいいと言った。自分の部屋で助かった、と一護は思う。 話をするのも面倒だ、テレビをつけて貴枝との時間をやり過ごそうと思っていた。 「ねぇ、明日アタシね、アラモナ製薬の会長の孫と同伴なの。店でも馬鹿みたく甘えてピンドンのタワーでも作るから。楽しみにしてて?」 「最初から飛ばしたら逃げられっぞ?」 「ばぁか。もう掴んでるもん。あの馬鹿アナル舐めてあげるとすんげぇよがるの。あたしの舐めるのも好きみたいだけど」 一護にもしてあげよっか? と耳元で囁かれれ、ぞくりとするのは間違いなく気持ちの悪さからだった。 あの若ハゲのケツ舐めた舌で俺も舐められるなんて気持ちわりーんだけど、と余計な事を吐き捨てるように言ってやったのに、何故か貴枝は嬉しそうにはしゃいだ。 その姿は不気味で、やっぱコイツかなりやばいなと一護は眉をしかめた。 「明日ぁ、一護にお小遣いあげるから明日は1時頃迎えにきて?」 「アフターはいいのかよ」 「先にしてから店に連れてく。いーっぱいサービスしてあげて店で金落とさせる。キャバ界のレインメーカーって言うの?あたし」 そう言ってまた1人でケタケタ笑いながら服を脱ぎ出した。 「今日やんねーよ?」 「だめ、やる」 「俺の勃たねえって。さっきララとホテル行ったばっかだもん」 「大丈夫、あたしの好きにさせてくれたらいいってぇ」 「勃たねぇちんちんなんかおまえ嫌いだろ」 「一護のならこのふにゃふにゃのも好き。大好き」 そう言って嬉しそうに一護の下着を下ろして口に含んだ。 気持ち悪…… 多分今の俺の顔は腐った魚みたいな目をしてんだろうなと一護は思う。 なんで、こんなことしてんだろ いつまでしてんだとろうかと いっそ泣きたくなる。 泣きたい できればルキアに抱かれて泣いてみたい 謝りたい反省したい 人生全てをやり直したい 素直にそれを言葉にして 泣いてみたいと一護は思う。 そして叶うなら 泣く自分をルキアが抱き締めてくれないだろうかと願う そんな都合のいい話などあるわけないのに 「泣いてんの……?」 貴枝の声に、一護は自分が泣いていた事に驚いて声が出なかった。 貴枝は身体をくねらせながら一護の下半身に自分を擦り付けて一護の顔を両手だ包んだ。 「可愛い一護。大丈夫、あたしがいるじゃない」 「おまえなんかいらない」 「もっと言って?」 「きもい、うざい、蹴りたい、シネ」 「あははぁ」 貴枝が昂ってきたことに涙と一緒に胃の中のものもぶちまけたくなる。 「アタシが一護の言葉で感じるのわかってて一護も言ってんでしょぉ?」 まじできもい 「もっと、虐めて……」 貴枝はそう言ってぐちゃぐちゃに濡れた股を一護のものに擦り付け始めた。 それでも勃たない自分に少し驚く。 もっと、もっととだらしなく顔を歪める貴枝を醜い、と一護は眺めていた。 「俺、好きな女いる。そいつとやりたい」 唐突にそう、呟いた。 貴枝の動きは一瞬に止まり、顔も一瞬で能面のようになった。 何言ってんだ俺、と思いながらも 貴枝のその反応に、なんだ簡単なことだったんだと一護は渇いた笑いを漏らした。 「すんげー、惚れてんの。その子が欲しくて欲しくてどうしていいかわかんなくてさ。もう、心も身体も全部俺のモンにしたくて」 素直な言葉をどんどん口にすれば一護の気持ちは軽くなり、貴枝の顔は能面から般若のように変化していく。 頭悪いなぁ、俺 素直になるだけで 言葉にしただけでこんなにも。この部屋の空気までかわるんじゃねぇか すげぇ気持ちいい 泣いているのに笑いが込み上げてきた。 笑いながら涙も止まらない自分は狂っているのだろうかと一護は笑った。 貴枝が俺から離れるのも、素直になればいいだけだったなんて、それで自分の気持ちも軽くなるなんて、そう思った時 貴枝が例の箱から小さな袋を出して、中身をテーブルに拡げていた。ストローすら使わず、そのまま慣れた手つきで啜った 「やめろ……」 「やめない。ねえ……一護も一緒に」 甦る過去の映像と目の前の貴枝の行動に一護は奇声をあげた。 うわぁぁぁと貴枝に飛び付くとそのまま玄関から外まで引き摺り追い出した。 「ちょっと!一護!?ねえ!」 玄関先ではだけた服のまま下着もつけていない貴枝に衣類と下着、鞄を投げつけて一護は思い切り扉を閉めた。鍵をかけ部屋に戻り、テーブルの上のそれを目にした瞬間 突如冷静になる。 開けてぇ!ごめんね、一護!もうやらないからぁ! 扉を叩く貴枝は完全無視をしながらも、一護は静かにテーブルの上のものをゴミ箱に捨て、タオルを濡らして机を拭き続けた。泣きわめく貴枝の声が怒声に変わり扉を蹴りあげて去って行ってもそれでも一護はテーブルと床を拭き続けていた。 何も残らぬようにしつこく丁寧に。 それからゴミ箱を持ち上げ風呂場の排水溝にそれを流し、いつまでもシャワーで流し続けた。 母が、そうしていたように。 ◾ ◾ ◾ 一護の様子が変だ とルキアは思っていた。 とはいえ、ルキアにはどうすればいいのかわからない。 店の前では、おはよ、さみぃなといつものように声を掛けてきた。でも今日の一護は何か変だとルキアは思った。 元気がないような気がした。 こんな時どうしてあげればいいのか 織姫なら桃ならどうするだろうか ルキアは考える。 きっと優しく聞いてきてくれる。もしくは何も言わなくても傍にいてくれるだろうと思った。 だからルキアは、特に目をつけた台でもなかったのだが自分から一護の隣に腰をおろした。 「ん?おまえ今日はバジじゃねぇの?」 「うん、なんか、久々にな、エヴァの一確見たいなって」 はぁ?一護が眉間に皺を寄せてルキアを見る。 「……おまえが演出見たさに台なんか座らねぇだろ?」 「……た、たまには、あるんだ」 「ふーん……」 一護は訝しげに唇を歪めながら、自分の台に顔を戻した。 ……なんで自分はこんな風にしかできないのだ、とルキアは悶々としていた。 元気ないから傍にいてやる、そう言えばいいのか?いや、そんな事言われて嬉しいわけないよな?じゃあ、この間の一護みたく、お昼奢ってやるから元気だせ!とか? でもそれでは何も言ってこない一護に元気ないと言ってるようだし。 はぁ、と知らず溜め息を落とす。 自分は人とコミュニケーションをとるのが本当に下手だ。 それは傷つけられたといえ、自分も心を塞いでしまったからに他ならない。 こんなんじゃ、何処にいこうと自分はいつまでも1人だー そう思うとルキアは少し悲しくなった。 「どした?」 気がつけば一護がルキアの異変に気がついて顔を覗きこんでいた。 「……なんでもない」 「一確狙いの癖に、狙って打ってねぇし」 あ、しまったとルキアは密かに慌てた。適当な事を言うとこうしてすぐぼろが出てしまう、とルキアは頭をフルに回転させる。 「赤7じゃなくてだな……青でも黄でもいいかな、なんて……」 頑張って言い訳をするルキアを一護がじっと見つめていた。恥ずかしくなりルキアは顔を背けた。 「貴様が……」 「ん?」 「貴様が、なんか今日つまらなそうだから」 もういい、とルキアは素直に言葉にすることにした。 「隣で打とうかと、思って……」 そう言いきると頬が熱く熱を持つのがわかった。やばい、これじゃあ何だか恥ずかしい!これでは自分が一護の傍にいたいみたいではないか!こんな事言ったら一護はまた調子にのる、馬鹿にしてくる。俺に惚れてんだろとか言ってくるに違いないー 「ルキア」 だが、ルキアを呼ぶ一護の声に、馬鹿にした色もはしゃぐ色もなかった。ルキアが思わず顔を向ければ、一護はみたことのない顔をしてルキアを見ていた。 「……な、なんだ!いつもみたく俺に惚れてるとか、言うのだろ?!」 「……惚れてんのは俺だろ、知ってんだろ」 「は?!」 なんなのだ!?コイツ! 不可解な一護にルキアは何故かどんどんいたたまれなくなり居心地が悪くなる。 お構いなしに一護は見たことのない真面目な顔でー そのくせ獣のような真剣な瞳でルキアを見ていた。そして頬に手を伸ばされ触れられた時、ルキアは身体が熱くておかしくなりそうだと、熱いのに震えてしまう 「何してんの君達」 醒めた声にびくぅとルキアが振り返れば、声同様醒めた目をした石田がいた。今度はさっきと違う熱を身体が発した。 それでも一護は石田を振り返りもせず、ルキアの頬から手を離さない。その手は頬を触りながら緩やかに、指はルキアの耳を撫で始めた。 「や、やめろ、一護!」 「……無理。このままルキア抱きたい。なぁ、だめ?」 「?!?!?!?」 漫画ならば、ルキアの頭は活火山となって爆発を起こしたようだった。実際ルキアは一護の言葉に腰を浮かす。さすがの石田も、はぁぁ?気持ち悪いな!と腕を擦ってひいている。 そんな漫画みたいな動きをする二人に、漸く一護はくすりと笑って 「ばーか」 とルキアの頭を軽く叩いた。 「お前が俺を落とそーなんて10年早ぇよばぁか。でもお前は今の俺でまた落ちんだろ?なぁ?惚れた?」 「な、なんだとぉ?!」 心配してやったのに、なんだこいつ! とルキアは頭に血が昇るのを抑えられない。もうやめた!誰がAタイプなんて打つか馬鹿!やめたやめた!やっぱバジ打つ!ばーか!一護のばーか!! そう言うとルキアはプンプン怒って、席を立つとバジリスクのコーナーへと行ってしまった。 そんなルキアを一護は幸せそうに笑って見つめている。 それなのに 笑っているのに泣きそうだなこの男、と石田は思った。 「朽木さんあんまりからかわないでよ」 石田は一護にそう言うと、ルキアの退いた台にすっと腰を下ろした。 「……何だよ」 「君と朽木さんは、違う世界の住人だと思って。彼女は純粋だ。君は君の世界の女とよろしくやれば?」 殺されるー 石田は身体が震えた。 前を向いてリーチの演出を見ていた石田は、これはプレミアだと気がついていたから だから、貰ったとぞくりとしたのだと 思おうとした。 勿論違う。 獣の本能のような殺気を自分に向けられているのだ隣から。 「ばかじゃねぇの」 でもその殺気に殺されることはなかった。しかも軽い声が帰って来た。 「俺があのちんちくりんに構うのは、おもしれーからだよ。ほっとけばぁーか」 ヘラヘラと笑いながら言う一護を 石田は薄気味悪く感じた。 この男は何なんだ 「ならいいけど。毎日いれば、ぼくも情がわくんだよ。……彼女にそう言っておくさ、君の事ちんちくりんのブスって言ってたよって」 「誰がブスって言ったよ」 「そう聞こえたけど?」 「なんなの、おまえ」 「なにが?」 「ルキアのこと、お前が考える必要なんてどこにもねぇんだよばぁか。てめぇが余計な事気にしたり言ったりしてんじゃねえよ」 「じゃあ君もだろ」 「……なにが」 最早二人はスロットなぞ打ってはいなかった。膝を付き合わせて睨みあっている。 一触即発な空気に、周りから客も消える。 それでも石田も一護も目を逸らさなかった。 「君は女を扱うのが得意らしいけど、免疫のない朽木さんをからかうのはやめて欲しいなと思っただけだ。それに友達の僕が彼女を心配するのを、彼氏でもない君に文句言われる筋合いはないね」 「口の減らねえ野郎だなクソ眼鏡」 「そんな幼稚な悪口しか言えないの?」 「……てめぇ、」 「あ!ふたりでいるう~」 まさに一護が石田を殴りかかる一歩手前で、織姫がフワリと現れた。二人は無言で台の方に身体を向けた。 「ねぇ聞いて聞いて!あのね、GOD引いてね消化中にまたGODきてねすぐ後に赤7引いたの!あのねあのね、ストックいくつあると思います!?」 「……神かよ、織姫ちゃん……」 「もう数えられないんじゃないの……?」 「じゃじゃーん!なんとストック20個でーす!キャー!」 織姫はすごいでしょー?とぴょんぴょん跳ねた。跳ねるとその大きな胸が漫画のように跳ねる。 あり得ない織姫の引きの強さに、さすがに一護と石田の険悪な空気もそっちに流れた。 「というわけでぇ、今日は皆でごはん食べに行こうね!それからあたしは今日神なので 神様のいうことを聞いてもらいますぞ!」 「「 はぁ? 」」 ハモってしまい、お互い気まずそうに顔を反らす一護と石田に織姫は笑った。 「ではでは、井上織姫!張り切って稼いできまーす!じゃあまたあとでねぇ~」 そう言って織姫はたたたっと足取り軽く、二人の元から行ってしまった。 「……」 「……」 二人は無言で台に向かう。お互い足を反対側に組み、隣り同士で背を向けるようにして、もう何も話さず打ち続けた。 ◾ ◾ ◾ 結局、それからもどんどん織姫の台は上乗せを続け、これでは終わらないのではという危機感から、途中で一護が代打ちをお願いされた。 「ご飯の前に、行きたいとこあるのね。で、その準備に行ってきます!」 織姫はそう言うと何故か店から鼻唄を歌いながら出て行った。 途中、大学に行っていたルキアが戻ってきて石田に経緯を聞き、朝の事など忘れ一護の台を見て目を大きく開いて驚いた。 「なんだ、これは……」 「多分、これ2万枚いきそうだな」 「織姫はなんでこんなに引きが強いのだ?」 「さぁな」 普通に会話をできることに、一護は内心ほっとしていた。 つい、嬉しくてー ルキアが自分の異変に気づいただけでなく、励まそうとしてくれたことが、一護はたまらなく嬉しかったのだ。 本当にあのとき 頬を触れただけで赤くなり目を泳がすルキアを抱き締めたくてたまらなかった。 口説こうとかそんなことを思うことなく、言葉にしていたのだ。 でもメガネのせいで、結局いい雰囲気になるどころか怒らせちまった。あのクソ眼鏡、と一護は思い出して舌打ちをする。 言ってくれるじゃねえか 俺とルキアは違う世界の住人だなんて わかってる 知っている でも誰かに言われると、そのルキアの世界を壊してでもルキアが欲しいと狂暴な考えになってしまうのだった。 10時前にとうとう連チャンが止まった。 結果21000枚という、そこにいた石田もルキアも一護も見たことも聞いたことも無い結果だった。 そこにものすごく大きな黄色い袋を4つ抱えた織姫が戻ってきた。 「何処に行ってたのだ、なぁ、織姫の台2万枚超えたぞ!」 「えええー?すごいねぇ」 「すごいねぇって、貴様の台だ!」 「あ、そぉかぁ~そぉでしたぁ」 楽しそうに笑いながら織姫は大きな袋を覗いて 「はいこれ、ルキアちゃん」 と袋の1つをルキアに渡してきた。 「ん?」 覗くと何故かスエット上下にベンチコートが入っている。 「はい、ふたりもこれ!」 「な、なにこれ?」 石田が不思議そうに聞くと、織姫はお着替えだよ!と笑った。 「今から皆でお風呂やさん行くの!それからご飯ね」 は? 「街の銭湯、ずーっと行って見たかったんだぁ。ねぇルキアちゃん、お風呂あがったらコーヒー牛乳飲もうね!」 「そ、それは構わぬが、このスエットは……」 「お風呂上がりに煙草臭い服なんて着たくないもーん!えへへ、色違いのお揃いだよ!?寒いからベンチコートもつけてみました」 「な?そんな、」 「なぁに?勝ったんだからこのぐらいはいいでしょ!それにスエットもベンチコートもドンキで格安のだから。プレゼントでーす」 最早ノリノリの織姫には逆らえず、4人は銭湯に行き、織姫セレクトのお揃いのスエット姿で銭湯の前でまた顔を合わせた。 「お風呂浸かって、石田さんと一護君は少しは仲良くなれた?」 「「 全然 」」 「ハモっておる!」 ルキアが楽しそうに笑ってるのを、一護は直視できないでいた。 風呂あがりの半乾きの髪の毛にすっぴんでも何も変わらない顔 自分と同じスエットを着ているルキアが新鮮だったのだ。 最も石田も織姫も同じスエットだが。 「焼き鳥食べたいなぁ」 「どうでもいいけど、君お店入れるかな」 「?なんでだ」 「だって、すっぴんでその格好だから中学生にしか見えなくないか?」 真剣にそう言う石田をルキアは思い切り蹴りあげた。痛いよ!と怒る石田と貴様なんか嫌いだとやはり怒るルキアは、織姫と一護の少し前を歩いている。 「もう。あの二人がああしてても、焼きもちはやかないの?」 織姫が少しだけからかうように一護に聞いた。 「焼きもちなんて、別に関係ないし」 「そうでしたか、失礼しました」 「なぁ、織姫ちゃんも、違う世界の人間だよな」 「違う世界?」 「全員、ちがうじゃねえかよなぁ……」 風呂に入ったことで、ワックスのとれた一護は前髪がさらりとしていた。 幼く見えるなぁと織姫は一護を見ていた。 いや、幼い気がした。 「ねぇ、一護くん」 「ん?」 「この間ルキアちゃんと飲みに行ったんでしょう?」 「あ、あぁ」 「ルキアちゃんて、一護君を少しずつ意識し始めてるよ?」 「……」 「だからね」 と、その時一護と織姫にチェーンのついた鞄が飛んで来た。 危ない!と咄嗟に一護が腕をだしたことで、織姫にはぶつからないですんだ。 「その女?」 鞄を投げたのは貴枝だった。 咄嗟に守るように一護は織姫背中に隠した。でも前にはルキアがいる。貴枝にはルキアの存在だけは絶対に知られたくないと一護は頭を巡らせていた。 「ねえ、聞いてんの。あんたが、一護が泣くほど欲しいのはその女なんだ」 一護の前に貴枝は鬼の形相で向かってくる。石田がルキアを掴まえているのを一護は左目で捉え、その瞬間だけは石田に感謝をした。 「テメーに関係ないし。危ねぇから鞄投げんじゃねえよ」 そう言って足許の貴枝のシャネルを蹴飛ばした。 貴枝はそんなのはどうでもいいと言わんばかりに一護に詰め寄った。 「女前に出せよ! どんな女だよ!」 「やめろっ!!」 「一護が泣くぐらいの女の顔見なきゃ諦めらんねーんだよ!」 「うるせぇよ!」 一護の後ろにいる織姫を掴まえようとむきになって手を伸ばす貴枝の腕を一護が押さえる。それでも貴枝は暴れ続ける。 「おまえら、行け!」 一護は前にいる石田とルキアに、それから後ろにいる織姫に怒鳴るように言った。 一護!とルキアの声が聞こえる 最低だ、こんな修羅場をルキアの前で 石田がルキアを引き摺るように去ってこうとしていた時、織姫が後ろから前に出てきた。 「貴女は何がしたいの?」 「はぁ?なんだてめぇ、てめぇが一護のこと弄んでる女かよ!」 「そうだと言ったら?」 「一護泣いてんだよ、最っ低な女だな!」 「うるせぇだまれよ!」 「大丈夫です」 そう言うと織姫は、貴枝の腕を押さえて身動きの取れない一護の頬を両手で挟んで 一護に口づけた。 「!?」 「な、」 含むように唇を押し付け、ゆっくりと唇から離れてから 「私も一護君が大好きなの。泣いたのは昨日喧嘩したからかな?とにかく貴女に関係ないよ?」 織姫とは思えない妖艶な顔を、貴枝に向けた。 貴枝は一護が驚いた一瞬の隙に、腕を振り切り、一護に平手打ちを食らわせると 「ばかやろう!」 と怒鳴るように言って、唖然としているルキアと石田の間を振り切り走って行ってしまった。 何が起きた? 同じく唖然としている一護を見上げ、 それから二人揃って泣きそうな顔の石田とルキアに向かって 「驚いた?」 と、織姫は笑った。
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kachoushi · 5 months
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各地句会報
花鳥誌 令和5年12月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和5年9月2日 零の会 坊城俊樹選 特選句
売られゆく親子達磨の秋思かな 三郎 初秋の六区へ向かふ荷風かな 佑天 浅草にもの食ふ匂ひして厄日 和子 秋の風六区をふけばあちやらかに 光子 蟬一つ堕つ混沌の日溜りに 昌文 中国語英語独逸語みな暑し 美紀 神谷バーにはバッカスとこほろぎと 順子
岡田順子選 特選句
ましら酒六区あたりで商はれ 久 レプリカのカレーライスの傾ぐ秋 緋路 鉄橋をごくゆつくりと赤とんぼ 小鳥 ぺらぺらの服をまとひて竜田姫 久 橋に立てば風に微量の秋の粒 緋路 秋江を並びてのぞく吾妻橋 久 提灯は秋暑に重く雷門 佑天 浅草の淡島さまへ菊灯し いづみ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年9月2日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
さざなみの落暉の中の帰燕かな 睦子 流木を手に引き潮の夏終る 同 無干渉装ふ子等や生身魂 久美子 秋暑し右も左も行き止まり 愛 秋の虹までのバス来る五号線 同 バスを降りれば露草の街青し 同 投げやりな吹かれやうなり秋風鈴 美穂 先頭の提灯は兄地蔵盆 睦子 なりたしや銀河の恋の渡守 たかし 指で拭くグラスの紅や月の秋 久美子 くちびるに桃の確かさ恋微動 朝子 法師蟬死にゆく人へ仏吐く たかし 息づきを深め白露の香を聞く かおり 燕帰るサファイアの瞳を運ぶため 愛
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年9月4日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
恐ろしき事をさらりと秋扇 雪 美しき古りし虹屋の秋扇 同 秋扇想ひ出重ね仕舞ひけり 千加江 秋扇静かに風を聞ゐてみる 同 鵙高音落暉の一乗谷の曼珠沙華 かづを 秋夕焼記憶に遠き戦の日 匠 補聴器にペン走る音聞く残暑 清女 夕闇の迫りし背戸の虫を聞く 笑 秋扇閉ぢて暫く想ふこと 泰俊 曼珠沙華情熱といふ花言葉 天空
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年9月6日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
片足を隣郷に入れて溝浚へ 世詩明 野分中近松像の小さかり ただし 吹く風の中にかすかに匂ふ秋 洋子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年9月7日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
何事も暑さの業と髪洗ふ 由季子 染みしわの深くなり行く残暑かな 都 膝抱き色なき風にゆだ��たり 同 秋の灯を手元に引き��パズル解く 同 のど元へ水流し込む残暑かな 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年9月9日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
枯蟷螂武士の貌して句碑に沿ふ 三無 籠に挿す秋海棠の朱の寂し 百合子 一山の樹木呑み込み葛咲けり 三無 風少し碑文を撫でて涼新た 百合子 守り継ぐ媼味見の梨を剥く 多美女 葛覆ふ風筋さへも閉ぢ込めて 百合子 かぶりつく梨の滴り落ちにけり 和代 秋雨の音の静かに句碑包む 秋尚 梨剥いて母看取り居ゐる弟と 百合子 たわわなる桐の実背ナに陽子墓所 三無
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年9月11日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
登り来て峙つ霧を見渡せり エイ子 太鼓岩霧に包まれ夫と待ち のりこ 秋茄子の天麩羅旨し一周忌 エイ子 秋茄子の紺きっぱりと水弾き 三無 散歩道貰ふ秋茄子日の温み 怜 朝の日の磨き上げたる秋茄子 秋尚 山の端は未だ日の色や夕月夜 怜 砂浜に人声のあり夕月夜 和魚 四百段上る里宮霧晴るる 貴薫
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年9月11日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
星月夜庭石いまだ陽の温み 時江 サングラス危険な香り放ちけり 昭子 団子虫触れれば丸く菊日和 三四郎 羅の服に真珠の首飾り 世詩明 無花果や授乳の胸に安らぐ児 みす枝 蜩に戸を開け放つ厨窓 時江 秋立つやこおろぎ橋の下駄の音 ただし 曼珠沙華好きも嫌ひも女偏 みす枝 長き夜を会話の出来ぬ犬と居て 英美子 妹に母をとられて猫じやらし 昭子 長き夜や夫とは別の灯をともす 信子 蝗とり犇めく袋なだめつつ 昭子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年9月12日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
鳳仙花見知らぬ人の住む生家 令子 秋の灯や活字を追ひし二十二時 裕子 露草の青靴下に散らしたる 紀子 父からの裾分け貰ふ芋の秋 裕子 かなかなや女人高野の深きより みえこ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年9月12日 萩花鳥会
秋の旅ぶんぶく茶􄽂の茂林寺に 祐子 胡弓弾くおわら地唄の風の盆 健雄 大木の陰に潜むや秋の風 俊文 月今宵窓辺で人生思ひけり ゆかり 天に月地に花南瓜一ついろ 恒雄 月白や山頂二基のテレビ塔 美恵子
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令和5年9月12日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
蜩や五百羅漢の声明に 宇太郎 我が庭は露草の原湖の底 佐代子 水晶体濁りし吾に水澄める 美智子 手作りの数珠で拜む地蔵盆 すみ子 蝗追ふ戦終りし練兵場 同 病院を抜け出し父の鯊釣りに 栄子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年9月15日 さきたま花鳥句会
虫しぐれ東郷艦の砲弾碑 月惑 熱帯夜北斗の杓の宵涼み 八草 兵の斃れし丘や萩の月 裕章 夕刊の行間うめる残暑かな 紀花 校庭に声もどりをりカンナ燃ゆ 孝江 八十路にもやる事数多天高し ふゆ子 子供らの去り噴水の音もどる ふじ穂 杉襖霧襖越え修験道 とし江 耳底に浸みる二胡の音秋めけり 康子 敬老日いよよ糠漬け旨くなり 恵美子 重陽の花の迎へる夜話の客 みのり 新涼の風に目覚める日の出五時 彩香 鵙鳴けり先立ちし子の箸茶碗 良江
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令和5年9月17日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
昼の星遺跡の森を抜けて来て 久子 曼珠沙華もの思ふ翳ありにけり 三無 いにしへの子らも吹かれし秋の風 軽象 明け六つの鯨音とよむ芒原 幸風 秋の蟬さらにはるけき声重ね 千種
栗林圭魚選 特選句
朝涼の白樫の森香の甘し 三無 莟まだ多きを高く藤袴 秋尚 艶艶と店先飾る笊の栗 れい 榛の木の根方に抱かれ曼珠沙華 久子 揉みし葉のはつかの香り秋涼し 秋尚 風に揺れなぞへ彩る女郎花 幸風 秋海棠群がるところ風の道 要 秋の蟬さらにはるけき声重ね 千種
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年9月20日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
江戸生れ浅草育ち柏翠忌 世詩明 神谷バーもつと聞きたし柏翠忌 令子 柏翠忌句会横目に女車夫 同 旅立たれはやも四年となる秋に 淳子 桐一葉大きく落ちて柏翠忌 笑子 虹屋へと秋潮うねる柏翠忌 同 言霊をマイクの前に柏翠忌 隆司 若き日のバイク姿の柏翠忌 同 一絵巻ひもとく如く柏翠忌 雪 柏翠忌旅に仰ぎし虹いくつ 同 柏翠忌虹物語り常しなへ 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年9月24日 月例句会 坊城俊樹選 特選句
秋天を統ぶ徳川の男松 昌文 秋の水濁して太る神の鯉 要 眼裏の兄の口元吾亦紅 昌文 秋冷の隅に影おく能楽堂 政江 群るるほど禁裏きはむる曼珠沙華 順子
岡田順子選 特選句
身のどこか疵を榠櫨の肥りゆく 昌文 カルメンのルージュみたいなカンナの緋 俊樹 口開けは青まはし勝つ相撲かな 佑天 光分け小鳥来る朝武道館 て津子 蓮の実の飛んで日の丸翩翻と 要
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年8月2日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
炎天下被るものなき墓の石 世詩明 夫恋ひの白扇簞笥に古り 清女 野ざらしの地蔵の頭蟬の殻 ただし 一瞬の大シャンデリア大花火 洋子 三階は風千両の涼しさよ 同 素粒子の飛び交ふ宇宙天の川 誠
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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yuupsychedelic · 3 years
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詩集「Gemini -Evergreen Story-」
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詩集「Gemini -Evergreen Story-」
1.ジェミニは風の中 2.太陽の踊り子 3.雨やどり 4.アイビー・ボーイも恋をしたい 5.嵐の夜に 6.時違い 7.21 8.心唄 9.愛のバラッド 10.サマーシャワー 11.ピュラスの独唱 12.Evergreen Story
(セクション表記:A〜G=Aメロ,Bメロetc…, S=サビ, I=導入, +=応用 )
ジェミニは風の中
街角ですれ違う 麗しき人よ その名はジェミニ
時を越える記憶 涙を駆ける愛 いくつもの日々を越えて 君に風が吹くのさ
ピントを合わすまで 気付かぬ世界よ 君を知るまで すべてはモノクロだった
ジェミニは風の中 永遠(とわ)に輝く 後悔よ 憂鬱よ 昨日に置いてゆけ
まだ見ぬ未来へ…… アクセル
刹那に星は流れて 突然愛が終わる 時の魔法 消えぬうちに 風に乗り絆繋げ
視線を合わすまで 交わらぬ世界よ 君に逢うまで すべてはモノクロだった
ジェミニに恋をして いつしか別れた セピア色 問いかける 恋の行方は
どんなに辛くても…… アクセル
既読が付かぬまま 言葉は闇へ消えてく 青春色のセンチメンタル 衝動を塗り替えよ
涙を交わすまで 見えない真意よ 君と離れて すべてはモノクロになった
ジェミニが置いてった 解けないパズル まるで解れた後の愛みたいさ
悲しい時こそ…… アクセル
①【I・A・B・S・SⅡ】 - ②【A・B・S・SⅡ】-③【C・B・S・SⅡ】
太陽の踊り子
太陽の踊り子 麗しき若者 真夏に照らされて 最初の恋をした
チェリオの自販機 貝殻に頬赤らめた 幼少の僕が 今や懐かしい
突然の通り雨 家路へ急ぐ君が なんだか眩しくて 自然に追いかける眼
太陽の踊り子 麗しき若者 真夏に照らされて 最初の恋をした
でも届かぬ想いよ ふと我に帰る時 遥かなる愛の果てに 僕は大人になった
ウィンナコーヒー ココアシガレット…… 涙に暮れた夜こそ 生まれ変わるチャンスさ
太陽の踊り子 麗しき若者 真夏に照らされて 最初の恋をした
部活の仲間と 一緒に笑い合ってた 何も疑わず 好奇の対象だった
でも気づいたら独り 子供に取り残された 過ぎ去りし時の中で 繋がらない記憶の渦
愛なき抱擁に 何も感じない 夢なき接吻に 明日は見えない
過去から未来へ 太陽が昇るとき 永遠の詩口遊み 大人であること 放棄する
太陽の踊り子 麗しき若者 真夏に照らされて 最初の恋をした
僕らは大人になり ふと我に帰る時
あの時の僕は 何をしてたのかと 後悔の渦に襲われたなら 子供時代を振り切った証さ
未知との遭遇に 不安を覚えた夕立ち 出逢いと別れを重ねながら この人生をまっすぐに往くのさ
太陽の踊り子 麗しき若者 真夏に照らされて 最初の恋をした
でも届かぬ想いよ ふと我に帰る時 遥かなる愛の果てに 僕は大人になった
①【S・A・B・S・SⅡ】 - ②【A+・S・SⅢ・SⅡ】-③【C・D・S・E・SⅢ・SⅡ・S・SⅡ】
雨やどり
傘を忘れた 気持ちは憂鬱 走って帰る 道の途中で
いつも君に逢う 何故なのか?
声を交わす non no no no 同じクラス non no no no 別の世界で生きてくはずの 二人の運命が繋がって Uh…
雨やどり 命取り 君モドリ ハッピー・モード
雲の隙間に虹が見え 手を振り別れた瞬間 恋が芽生えた さよならの影に疼く青春
傘を忘れた 予報は雨模様 肩で息をして 君に逢いにゆく
もうここにいない わかってても
雨が運ぶ non no no no 時弄ぶ non no no no 同じ世界になった瞬間 二人の運命は離れ離れ Uh…
雨やどり 渡り鳥 君は去り アンハッピー・モード
晴れ渡る空が切なく眩しく 君を思い出す度 止まらない涙 言葉なき別れに嘆く青春
雨やどり 記憶辿り 君愛し マイユース
青空に再び雨雲を架け 虹の彼方へ 君を呼ぶ 人生は別れるために…… あるのだろうか?
①【A・B・C・S・SⅡ】-②【A・B・C・S・SⅡ】-③【S・SⅡ+】
アイビー・ボーイも恋をしたい
東京へ出た時 皆が大人に見えた 同じ学部の仲間も ひとつ先輩に見えた
お洒落なんか興味ないけど 今のままではダメだ なんとなく街へ出かけて 服と靴を選んでみた
悲しいほどに似合わない その姿に驚いた お洒落って難しいんだと 俺は俺なりに知った
アイビー・ボーイも恋したい 今は見習いでも
地元へ帰った時 「少し垢抜けたね」と言われた クラスメイトに会う度 並ぶのは似たような言葉
若すぎたから気付けなかったけど その言葉に秘められた意味 何度思い出しても 頬が赤く染まる
まるで熱に浮かされたみたく ふと我に帰った この街は人を変える そんな力があるんだと
東京生まれの君は気付かない 魔性の大東京
人の目なんか気にしたことない そんな僕だけど いつの間にか人の目気にして 大切なもの忘れてた
自分に合う姿 いちばん良い自分 お洒落って難しいんだと 俺は俺なりに知った
どんな街でも自分らしさ 忘れちゃいけないよね 恋をするならまず自分から 愛せる人になるのさ
アイビー・ボーイも恋したい 今は見習いでも
①【A・B・S・SⅡ】-②【A・B・S・SⅡ】-③【C・D・S・SⅡ】
嵐の夜に
ふたりきりガールズトーク 抱き枕 Hold me tight!! 雷鳴に怯えて眠れぬ夜は 秘密の話をしようよ
気になるあの人 あいつの点数 好きなアイドル ほしいものリスト
もちろん自分のこと 悩みも打ち明けよう 秘密基地みたいだ ドキドキが止まらない
嵐の夜に 朝まで喋ろう 眠気が来るまで 話し尽くそう ……プチョヘンザ!
何気ない会話が 今夜の主役になる 芝居は要らない ありのままでいい
もちろん眠くなる でも聞き逃したくない 身体には悪いけどさ 始まったら終われない
嵐の夜に 朝まで喋ろう 寝坊してもいい 話し尽くそう ……プチョヘンザ!
修学旅行の夜を思い出してほしい 今しか出来ないこと 全部やろうよ
嵐の夜に 朝まで喋ろう 眠気が来る前に 話し尽くそう ……プチョヘンザ!
夜明けまで待つから ふたりきりガールズトーク
①【A・B・C・S】-②【B・C・S】-③【D・S・E】
時違い
若葉が色づく頃 君はまだ若かった 冬服の袖を捲り 街を歩く五月の朝
いつものバス停で 偶然隣になった ���日見かけていたから 顔を覚えていた
どうして話をしたか 今も思い出せない ひとつだけ確実なのは きっかけが僕からじゃないこと
時は流れて 季節も移ろい この街に君はいないよ それぞれの人生 君の行方は知らない
夏服に着替えた頃 少しだけ近づく距離 お互いの話をして たまに寄り道もした それが倖せだった……
夏休みが始まる前に 一度だけ遅刻した時 明日も逢えると信じていたけど 次の日は逢えなかった
想い溢れて 涙流れる この街に君はいないよ 男と女の友情 君の行方は知らない
永遠なんてないこと 僕は学んだよ 誓いの明日繋ぐために 今を生きてる
時は流れて 季節も移ろい この街に君はいないよ それぞれの人生 君の行方は知らない
忘れられぬ青春 ふたりの時違い
①【A・B・C・S】-②【A+・C・S】-③【C・S・D】
21
もうすぐ五年になるよね 君と出逢ってから 恋もした ケンカもした
いまの僕らなら いちばん合う気がする
共に歩いてるだけで 僕は倖せだった 愛を確かめなくとも 未来は輝いてた
今でも思い出す度 君が恋しくなる よく話した 夜も明かした
いまの僕で もう一度巡り逢えるなら
共に夢を見ていた 日々が倖せだった 息を確かめなくとも 明日に時めいてた
いまなら僕も 君の言葉がわかる 共に風に吹かれた 僕らは倖せだった
波に追われなくとも 青春を感じてた 共に明日を追いかけた 時代が倖せだった
嘘を確かめなくとも その言葉が総てだった
いまの僕で もう一度巡り逢えるなら
①【A・B・C】-②【A・B・C】-③【B・C・C+・B】
心唄
君と僕の関係 もう長い関係 不思議な関係 どうでもいい関係
ほどほどの関係 恋する関係 ケンカした関係 泣き明かした関係
腐れ縁の関係 最高の関係 一生続く関係 大切な関係
凹凸関係 おしゃれな関係 羨む関係 みんなが知ってる関係
昨日出逢った関係 今日知り合った関係 最近友達になった関係 生まれて初めて恋をした関係
関係ない関係 関係ある関係 これからもよろしくの関係 ありがとうの関係
All【A・A・A・A・A・A+】
愛のバラッド
悲しみの夜が 今日もやって来た 君との時間だけは 終わらないと信じてた
あの頃の俺達は ずっと若かったね 君が傍にいる 意味もわからなかった
夕陽に照らされて 自転車を押して帰った日 アヤメの花を握ってさ 約束したこと
今も覚えてるよ 忘れたフリをしたけど 些細なすれ違いが いつしか大きな傷になった
今だから言える 後悔してると 別れてもいいと言って ごめんね
安らぎの夜が 今宵も明けてゆく 君と共に過ごした日々が 無性に恋しくなる
思い出話に 浸りたくはないが 夜が深くなる程に 後悔が止まらないよ
泣き明かした夜は ずっと電話し��よね アヤメの花は枯れたまま 月の光を浴びて
今も覚えてるよ 無かったことにしたけど 些細な嘘が 心のかさぶたを開く
今だから言える あの言葉の意味を 別れてもいいと言って ごめんね
君のことだから 新たな恋を育むだろう 俺なんかよりずっと立派な恋人 でも忘れられない 忘れてはいけないんだ 忘れてはいけない気がする 過去に縋るなんて こんなの俺じゃないけど 自尊心……
今も覚えてるよ 忘れたフリをしたけど 些細なすれ違いが いつしか大きな傷になった
今だから言える 後悔してると 別れてもいいと言って ごめんね
今だから言える あの言葉の意味を 別れてもいいと言って ごめんね 愛のバラッド
①【A・B・C・S・SⅡ】-②【A+・B・C・S・SⅡ】-③【D・S・SⅡ・SⅡ+】
サマーシャワー
Summer Shower…… Summer Shower……
今年の夏はやけに寒い どうしたものかと考えたら 別れたばかりの君の顔が浮かぶ
その場凌ぎの言い訳がバレた 君の髪に光る赤いバレッタ
気付かれなきゃいいだろ 軽い気持ちで I Love You…… 感じなきゃいいだろ 週末ホテルで rendez-vous……
すべてが甘すぎた 恋の終わり
Summer Shower…… Summer Shower…… 頬の傷が沁みる
今日はなぜだか胸が火照るぜ 君と別れて一年 今夜も知らぬ女(ひと)を抱く
仲間は「やめとけ」と言うけど 棄てられたままの理性
恋にならなきゃいいだろ 朝になればサヨナラ 見つめなきゃいいだろ その日だけ Instant Love
すべてが甘すぎた 若き日の過ち
Summer Shower…… Summer Shower…… 自暴自棄になる
愛の尊さも知らぬまま 知ってしまった別れの傷
気付かれなきゃいいだろ 軽い気持ちで I Love You…… 感じなきゃいいだろ 週末ホテルで rendez-vous……
恋にならなきゃいいだろ 朝になればサヨナラ 見つめなきゃいいだろ その日だけ Instant Love
すべてが稚すぎて すべてが未熟だった 最初で最後の恋夏(コイナツ)
①【I・A・B・S・SⅡ】-②【I+・A・B・S・SⅡ】-③【I+・B+・S・SⅡ・C】
ピュラスの独唱
何も知らない子供達 その夢は純粋無垢 世を知り尽くした大人達 醒めないでと祈る
真夜中のエチュード 無題のドラマ 悲しいほどの静寂が 涙の矢を撃つ
本当にやりたいことはなんだろう? 一体なんのために生きるんだろう??
そこに憂いはなく もっとも優雅なメディテーション
嗚呼 夜明けまで待っておくれ 嗚呼 目を覚ますな 涙を流すな
あなたは僕らの愛しい天使だ だから小悪魔のように笑わないでおくれ
蒼い星に生まれし希望よ 時代に抗う勇気はあるか あなたが大人になる頃に まだ希望を胸に抱けるか
嗚呼 夜明けまで待っておくれ 嗚呼 目を覚ますな 涙を流すな
純白の雨が降る 汚れなき命の息吹 何かを愛することも知らぬまま ぐっすり眠れよ
あなたは僕らの愛しい天使だ だから小悪魔のように笑わないでおくれ
地球が産まれた時 誰に想像できたか 七十七億人の星屑 今壊れ逝く運命を
嗚呼 夜明けまで待っておくれ 嗚呼 目を覚ますな 涙を流すな
神よ時を止めろ! あなたには見えるだろう 淀みなきユートピア さあ現実を見る前に 眠れよ 眠れよ 眠れよ 眠れよ
①【A・B・C・D・S・SⅡ】-②【E・S・F・SⅡ】-③【A・S・SⅢ】
Evergreen Story
Baby, Green…… いつまでも色褪せぬ恋 最初で最後のロマンスさ
織姫と彦星が 七夕を待つように セレネの恋に 応える男(ひと)のように
何にもなかった十代 二十代は星に消えた
明日なき青春の日々は とうに過ぎ去り 自由の旗を掲げて ようやく掴んだ平穏
そんな日に君を見つけてしまったのだ これが一目惚れなんだと 気付いた瞬間 戸惑いの嵐……
遅れてきた夢 僕のEvergreen Story 君に届け!
太陽と月が 重ならぬように 王妃と青年が 巡り逢わぬように
風を追いかけた三十代 四十代は何処へ消えた?
誰かに追われ続けて 忘れかけた純情 自由の日々を手にして ようやく気付いた恋情
忘れかけてたことを今日から取り戻す 今からだって跳べるのだ 気付いた瞬間 戸惑いの嵐……
遅れてきた夢 僕のEvergreen Story 恋よ叶え!
宇宙の法則に従うならば もう長くはない僕の人生
誰かに流されたまま 終わりたくはないよ 誰も守れぬまま 終わりたくはないよ
誠実に生きてきた 不器用に生きてきた この人生の最後に やっと夢を見たのだ ……完全燃焼!
涙も愛も知らずに ここまで来てしまった だから今こそ僕は 全力で恋をする
六十になった頃から 身体が軽くなった 恋するウキウキも やっとわかってきた
かつて軽蔑したコトの 魅力に気付いた瞬間
遅れてきた夢 僕のEvergreen Story 君に届け!
遅れてきた夢 僕のEvergreen Story 明日を繋げ!
Baby, Green…… 永遠に色褪せぬ恋 一度きりの青春 最初で最後のロマンスさ
①【I・A・B・S・SⅡ・SⅢ】・②【A・B・S・SⅡ・SⅢ】・③【C・S・SⅡ+・D・B+・C・SⅢ・SⅢ・I+】
Bonus1:モノレール
夢の痕が今も 淋しく微笑む 愛を知らぬ人が それを見て微笑む
黄金色の未来を 思い描いてた かつてこの国が 豊かだった頃
埃を被れど まだ走れると こちらを見ている 君が切ない
役目を終えても まだやれると こちらを見ている 君が悲しい
夢の痕が今にも 消え去りそうだ 愛も消え失せて 終りを待つのみ
今日も人目付かず 静かに生きている 最期を待つだけの 君でいいのか
Bonus 2:期末テスト
まずは名前を書きましょう クラスと名前 忘れずに
つぎは問題 見渡そう 出来る出来ない 見分けよう
最初の問題 解けたなら テストの傾向 見えてくる
出来ない問題 気にしない 出来る問題 確実に
これが私の必勝法 よければみんな真似してね♪
まずは答案見渡そう イージーミス 誤字ってない?
つぎは躓いた場所を まだ行ける 大丈夫
最初に上手く行かずとも まだ諦めちゃダメさ
残り十分 ケアレスミス 残り五分 総仕上げ
これが私の必勝法 よければみんな真似してね♪
最後に答案ズレてない? 不安 出来ない チェックしよう
チャイムがなったら伸びてみて おつかれ おつかれ ごくろうさま
これが私の必勝法 よければみんな真似してね♪ ……って、みんなやってるか!笑
Bonus3:I'm a Creater
あなたが生まれる少し前に ひとつ跨いだ Century 生まれてすぐで知らないが みんな騒いだ Millennium
時は緩やかに流れ 色々あった 2001 やっと私が歩き始めて 言葉を喋った 2002
青色の星が流れ 最後に夢を見た 2003 手のひらを太陽に掲げ 友と橋を渡った 2004
ひらがなを書き始め 言葉がわかった 2005 看板の漢字を読み 友に自慢した 2006
いついつまでも夢を見る 青春と怪獣の表現者 私だけの世界創るのさ
とにかく落ち着きがなく 走り回った 2007 ピアノと水泳で 水泳を選んだ 2008
野球に出逢い とにかく遊んだ 2009 野球を始め 沈黙を知った 2010
信じられない光景 友よ生きろ 2011 明日はどこだ 人生考える 2012
いついつまでも夢を見る 青春と怪獣の表現者 私だけの世界創るのさ
まだ見ぬ世界 夜明けを求めた 2013 アルフィー出逢う きっかけはウルトラの風 2014
小説家になる 道はここだ 2015 詩を描き始める 未来が見えない 2016
青春の味 永遠信じた 2017 夢破れ 風が変わった 2018
いついつまでも夢を見る 青春と怪獣の表現者 私だけの世界創るのさ
すべてが壊れた 何もわからぬ 2019 すべてが変わった 何をしようか 2020
さあここからだ 強くあれ 2021 いくつになっても まっすぐ生きたい 20XX
風に吹かれても 時に流されても この根だけは絶やさずに
いついつまでも夢を見る 青春と怪獣の表現者 私だけの世界創るのさ
私は創作家 言葉と共に生きるひと
詩集「Gemini -Evergreen Story-」
(Yuu Sakaoka Project / YSSP-006)
All Produced / Written by Yuu Sakaoka Respect to 浜田省吾, ラッツ&スター, BEAT BOYS, 鈴木雅之, チェッカーズ, 高橋みなみ, 八木莉可子, ENNE, 爆風スランプ, 沢田研二, 高見沢俊彦, 井上陽水, 雪見撫子, 小坂菜緒, グレゴリオ聖歌, PINK FLOYD, ボブ・ディラン, 加山雄三(永遠の若大将), 姫路市営モノレール, スバル・ワールドラリーチーム, ウルトラマン, 北島康介, すべてのチブル星人, クレイグ・ブラゼル, すべての創作者のみなさま, 大滝詠一 with All My Loving. Designed, Directed, Commercial by Yuu Sakaoka
Special Thanks to My Family, my friends and all my fans!!
2021.6.18 Yuu Sakaoka
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madormir-nano · 6 years
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音楽遍歴
音楽遍歴を書くやつをにげるにやれと言われたのでゆっくりとやって行きます。 リンク貼るの面倒なので「あ、知ってる」「ふーん」って気持ちで見ていってください。 名義調べが面倒なのでキャラクター名義の奴は声優の名前を書きます。 ・幼少期(小学生まで) ヨハンシュトラウス-ラデッキーマーチ ヨハンシュトラウス-雷鳴と稲妻 P.デュカス-魔法使いの弟子 松本梨香-タイプワイルド(ポケモン) 梅垣ルナ-Party Room(チョロQ3) 元合唱部の両親の元に産まれる。ちなみに両親共に同じ高校に通っていたらしく合唱部では一緒だったと言う。そう言うのクソ羨ましいんだけど。 そんな影響もあってか教養良さそうな曲聞いて育った。5歳から10歳までピアノやってた。(バイエルン卒業程度)とは言えがっつりポケモン世代なのでポケモンも見てたし曲好きだった。 5歳からプレステやる。チョロQの曲が大好きで親父に車の中でサントラ流してもらってた。シンセフュージョンに目覚めたのは間違いなくこの辺(はやい) ・小学校低学年 寺田創一-True Ending(サルゲッチュ) 田辺文雄-cosmo speed(チョロQワンダフォー!) 飯塚雅弓-ラプラスに乗って 犬山イヌコ-ニャースのパーティー ポケモンキッズ-たんけんたいをつくろう!(3つポケモン) 引き続きアニメとゲームに引き込まれて行く。この時の僕に言いたいのはもっと外で遊べ、それだけ。本当にチョロQとサルゲッチュの曲が好きだったなぁとしみじみ。ラプラスに乗っては名曲なので一聴の価値アリ。初聴が小学生だったかは不明だが、多分ハマってたのはこの時期。 ・小学校高学年 Flow-GO!! BUMP OF CHICKEN-天体観測 BUMP OF CHICKEN-ハルジオン BUMP OF CHICKEN-sailing day BUMP OF CHICKEN-車輪の唄 サン=サーンス-動物の謝肉祭 第14章「終曲」 あべにゅうぷろじぇくと-きまぐれ☆しゅがー ‪麻帆良学園中等部2-A‬-ハッピー☆マテリアル 小坂りゆ-CANDY❤︎ ORANGENOISE SHORTCUT-Homesick Pt.2&3 OSTER project-piano forte OSTER project-A lunar CAT 52 the GAL∀XY ocean OSTER project-twilight jewel まどろみはここでロックに出会う。バンプから入ったと言っても過言ではないだろう。実はこの時期にすでにFlowに出会っていたのだが、当時はFlowの楽曲である意識はなかった。この辺でブラボーミュージックというオーケストラを指揮するゲームをやる。その中でも一番好きだったのが動物の謝肉祭のフィナーレ。その下4曲はツッコミどころなのだが、3つ上のアニキ的友達が中1にしてエロゲ100タイトルこなすガチオタだった為にあべにゅうが降ってきた。ハピマテはクラスメイトのVIPPER君が流してたの聞いて心の中で良いなぁって思ってた。音ゲー2曲は地元のスーパーの上の小さいゲーセンで3ボタンVSやってた時特に好きだった2曲。今でも大好き。こんな早く渋谷系に目覚めていたとは、まぁ後から知るわけだが… OSTER projectを聴いていたのは間違いなくダンシングおにぎりの影響。やっぱフュージョン好きなんね僕は。 ・中学校 ここからは吹奏楽部に入ったり深夜アニメを見たりボカロにハマったりで音楽の世界が広がり、時系列も微妙なのでジャンルごとに紹介する 【バンド系】 BUMP OF CHICKEN-fly by RAD WIMPS-ふたりごと RAD WIMPS-有心論 flumpool-MW(サブタイ略) みんなが通りそうな道を順調に歩んでいるので特に言うこともない。RADは妹が教えてくれた。多分初期のセカオワもこの辺の時に妹が教えてくれた。妹は優秀。 【吹奏楽】 樽屋雅徳-民衆を導く自由の女神 真島俊夫-出港の時 D.Gillingham-With Heart and Voice B.J.Thomas-Raindrops Keep Fallin' On My Head 吹奏楽部に入部。パーカッションに配属される。 好きな曲死ぬほどあるのでこんな感じ。樽谷さんは外せない。めちゃくちゃカッコいい。基本的に金管を殺しにくるスタイル、故にカッコいい。実はパーカッションも鬼。 一番好きなのがWith Heart and Voice。これは本当に間違いない。調べればyoutubeで聴けるのでどうぞ。マジでカッコいいから。 Raindrops Keep Fallin' On My Headは昔の映画音楽なんだけど吹奏楽で出会ったからここに書く。とても良いアメリカンポップスです。 【ボカロ編】 cosMo@暴走P-ミクとピアノのファンタジィ cosMo@暴走P-θ cosMo@暴走P-ミヤコワスレ cosMo@暴走P-空想庭園依存症 ジミーサムP-The 9th ジミーサムP-Pierrot ジミーサムP-from Y to Y ジミーサムP-Calc. ジミーサムP-Birth in Heaven sasakure.UK-ワンダーラスト sasakure.UK-アドレッセンチメートル livetune-Last night,Good night ヤスオP-透明水彩 こすもささくれにどっぷりハマっていた時期。後からこれは全てwacへの尊敬だったと気付くが遠回りした。こすも曲は基本的にリンが歌っているのが好きだった。ささくれ曲これ両方とも好きなんだけど多分一番明るい曲と一番暗い曲だと思う。 ジミサムはただただ普通に好き。歌詞がちょっと面倒臭いセンチ感あって共感してた。from Y to Y聴いてた時期に初カノと別れたし別れの曲だし正直聞きたくない。好きだけど。livetuneは聞いてたけどめっちゃ流行った曲よりラストナイトがめちゃめちゃ好きだった。サビで爆発する感じが。その辺はBirth in Heavenにも共通するところがある。透明水彩は一言でしか言えない、神。 【アニメ エロゲ 東方】 KOTOKO-Imaginary affair 霜月はるか-恋獄 榊原ゆい-片翼のイカロス COOL&CREATE-シアワセうさぎ 茅原実里-SELECT? 一曲一曲に思い入れが深いと言えば深いが何から喋って良いかわからないので、まぁなんとなく雰囲気でこういう曲好きだったんだよってわかって欲しい。恋獄は神。涼宮ハルヒブーム真っ只中でGod knows…とか雪、無音、窓辺にて。が流行った頃、僕は長門有希のキャラソンのB面の曲が大好きだった。ちなみに僕はみくるさんのおっぱいが大好きだったけどイジメられたくなくて言い出せなかった。よく考えたら思春期としてはシャナでシコってた奴の方が異常だったかもしれない。 ・高校生 吹奏楽部へは進まず合唱部へ 合唱曲は聴くほど好きと言う部類ではなく歌う事がメインなので趣味としては割愛。でも歌うのはめっちゃ好き。学指揮やってたけど途中でドロップアウトした。 【バンド編】 RAD WIMPS-蛍 RAD WIMPS-DADA BUMP OF CHICKEN-三ツ星カルテット BUMP OF CHICKEN-66号線 東京事変-群青日和 東京事変-キラーチューン 東京事変-透明人間 東京事変-雨天決行 東京事変-閃光少女 椎名林檎-メロウ ほとんど引き続き聴き漁っていたんだと思うが、この時割と音楽の幅を広げる友達との出会いがある。東京事変は昔はキワいって思ってて食わず嫌いしていたが、きいたら物の見事にハマった。メロウは、the椎名林檎のヤバい奴って感じでとても好き。この時期にバンプがロックンロールから御伽噺に変わっていった。なんか自分まで大人になった気がした。藤原基央すげぇ。 【ジャズ スカ ファンク編】 SOIL&"PIMP" SESSIONS-Memai SOIL&"PIMP"SESSIONS-SUMMER GODDNESS The Baker Brothers-chance and fly 東京スカパラダイスオーケストラ-Walk Between Raindrops 東京スカパラダイスオーケストラ-Pride of Lions Chace Long Beach-We've Got Pockets Like Nobody's Business ジャズ、スカにあたる趣味の片鱗。と言ってもそう言うのの現代版がめっちゃ好きで、割と現役アーティストの曲を追ってた。吹奏楽が好きって言うのもあるしそりゃスカとかファンク好きになるよねってハナシ。 【ボカロ編】 トーマ-エンヴィキャットウォーク 164-天ノ弱 ハチ-WORLD'S END UMBRELLA ナタP-1000001colors 古川本舗-ガールフレンド 古川本舗feat.クワガタP-グリグリメガネと月光蟲 Treow-Blindness 上三曲はどちらかと言うとボカロっぽくガチャガチャしてる気がする。世界観推しがウケてたのもボカロの良いとこだったなって当時の自分の精神年齢からすると感じる。やっぱり10代後半だし浸りたかったんだよな。うってかわってその下二曲は救いというか綺麗な世界観でとにかく良し。その下は死にそうな曲。Treowさんは初めて聞いた時の衝撃がヤバかった。この頃から歌い手さんの歌を聴き始めたので、エンヴィキャットウォークはりぶ、天ノ弱は蛇足、ガールフレンド 1000001colorsはF9のやつが大好きだった。 【アニメ】 水樹奈々-cosmic love 斎藤千和-staple stable 豊崎愛生-ギー太に首ったけ ClariS-コネクト 多分見て貰えば分かる当時の流行り。cosmic loveはこの時期に出会った(アニメ見てないけど)多分今後も変わらないレベルのアニソン5本指に入るオキニ。 ・高校卒業してから 卒業してから何もせずに今まで生きてきた訳で、堂々と語れるもんでもないが音楽は聴いてきたので書く。特筆する事と言えばこの時期に初めてKOTONOHOSEに出会い音ゲーをちゃんと始めた。キリがないので音楽を始めるまでの趣味を書く。(それなりに近くなった人も居るけど敬称略) 【ロックとか編】 school food punishment-after laughter school food punishment-Y/N 東京事変-新しい文明開化 THE RiCECOOKERS-波のゆくさき 椎名林檎-自由へ道連れ WEAVER-2次元銀河 Fear, and Loathing in Las Vegas-Jump Around Cymbals-Rarry お待たせしましたみんな大好きschool food punishment。特に明るい曲調の奴が抜けて好きだった。東京事変も突き抜けて明るい感じのを聴いてた。そろそろ解散が見えてくる頃。波のゆくさきはSPECってドラマのEDで、SPEC自体は高校の時やってて好きだったんだけど曲にハマったのはこの辺。WEAVERは多分ユニゾンっぽいバンド探してたら出会った。ラスベガスはカッコいい、以上!Cymbalsは言うまでもなく渋谷系の好きな奴。 【アニメ編】 ChouCho-優しさの理由 UNISON SQUARE GARDEN-オリオンをなぞる ROUND TABLE-Let Me Be With You 中川翔子-続く世界 中川翔子-snow tears μ's-snow halation 作曲始めるまで真面目にアニメ見まくってた訳ではないので強烈に印象に残った5曲を。 僕はここで人生の根幹を揺るがす氷菓と言う作品に出会う。間違いなく僕の人生で最高のアニメだしそれ自体も10年に一度の名作なんだと本気で信じている。ユニゾンは田淵が好き。好きなベーシストは田淵智也と沖井礼二と亀田誠治でベーシスト面と言うより曲が好き。ROUND TABLEも渋谷系の中で屈指に好き。続く世界はグレンラガンの紅蓮編EDだった。上映中に映画館で見たから中高の時なんだけど、ぶり返してすげぇ聞いてた。中川翔子ええやんってなってsnow tearsに出会った。そしてバカみたいにハマったラブライブの一番最初にハマった曲。スクフェスが音ゲーらしいと言う話で始め、スノハレに出会わなければこんな東條希との悲恋に泣き咽ぶ現在の僕は居なかっただろう。 【音ゲー編】 ここも多分死ぬほど曲があるので厳選して行きたい。 少年ラジオ-neu djw-smile djw-mur mur twins DJ YOSHITAKA-MANA 星野奏子-D.A.N.C.E.! Creative Life-I'm Screaming Love Kors K-7colors Kors K-sig sig Ryu☆-Be Quiet 猫叉Master-おおきなこえで 猫叉Master-Rainbow after snow sota fujimori-Fly Above Zektbach-L'avide Zektbach-ZETA(サブタイ) Zektbach-meme galderia-Almagest Dormir-Cookie Bouquets Dormir-魔法のたまご 多分忘れちゃってる曲もあるけどこの辺が特に好き。多過ぎるので思い入れが強いものだけ加筆する。 DJ YOSHITAKAはハウスが最高。ハードルネッサンスの中だと圧倒的にMANAが好き。 猫叉Masterは歌入りが特に良い。そしてwac、語るまでもなく好き。 【同人音楽編】 ボルテ筆頭にBMSの曲など xi-Wish Upon Twin Stars xi-Ascension to Heaven パイタン-LEMON SUMMER kamome sano-流れ星と君の歌 Ryuwitty-The world of sound ginkiha-EOS colate-Strobe♡Girl Ayatsugu_Otowa.-超爽快☆パッショネイト・フィーバー この部門、本当に多いので本当に好きな奴だけ。多分cytusでxiさんを知り、カッコいいなーって思ってたら明るい曲来てWish Uponに完全にハマった。カッコイイ系の中ではAscension to Heavenがピカイチ。これに影響を受けてアートコア作ってた時期アリ。日本っぽいハピコアだとかなり好きなのがLEMON SUMMER。キャッチーなメロが最高。カモメさんは今でも尊敬して止まない。多彩な作品の中でもどこか寂しさを明るく歌い上げるような流れ星と君の歌はすごく好き。The world of soundは初めて聞いた時なんで綺麗なんだ!ってゲームどころではなくなってしまった曲。譜面には苦しめられました。トリル嫌い…。EOSはキハさんの曲の中で一番好きなんだけど、多分ボーカルカットアップを初めて意識して聞いたのがこの曲。受けた影響はバカデカい。Strobe Girlはなんて可愛い曲なんだ!って一発で好きになった曲。 長かったです。疲れました。もうやりたくないです。でもなんか楽しかったです。見た人はやって下さい。 曲作り始めてから今に至るまでは夥しいので割愛。最近ハマってる曲を数曲紹介する。 Pink Slip-2 U Carpainter-Rainydrops Virtual Riot-Never Let Me Go myrne-Brand New Trivecta-Break Me VALENTINE-American Boy Slushii- LUV U NEED U この辺は言うまでもないけど最近はfuture bassとかチルい元代アメリカンポップスみたいなのが好き。 それではまた
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chairhouseclub · 7 years
Audio
日めくりピアノ万葉集:ピアノ単価作品番号1290: Look I'll stay here if you want..本日の曲が降りて来てくれましたのでアップさせて頂きます。あなたに気に入って頂ければ幸いです。
https://soundcloud.com/chairhouse/look-ill-stay-here-if-you-want-1290-by-chair-house-06272017
◆創作ノート:
最初の音楽の記憶はどこにあるのか。残っている記憶の前にたくさんの根源的記憶が多数積み重ねられているのだろう。子守唄なのか、それともあやしの声なのか。もっと遡れば母親の胎内での音体験。心臓の鼓動や外界音の変換聴音。やはりここがその人の原点であり、愛されるという状態の根源がある。
ではでは..☆☆☆☆☆
(雑談)音楽:BABYMETAL研究:最後の公演が終了しました。KORNのメンバーが神バンド扮装でギミチョコ乱入もあり楽しいステージで終了しました。大変に暑い中での厳しいスケジュールでの前座ツアーでしたが無事に終了してなによりです。さて、次は国内パフォーマンスです。サマソニも来��したし、9月の巨大キツネ祭りも期待です。先日はファンクラブ先行予約が落選しましたが本日は通常の先行予約に応募しました。こりないやつですがまあ出しておきます。7月8日(土)が当落確認日となります。期待せずに待ちましょう。上海サマソニはどうなるのでしょうかね。
美術:お休み
歴史:お休み中。
ドラマ・映画:「貴族探偵」つまらないのはわかっているのだけど設定が好きなので最終回も一応みた。筒井康孝先生の「富豪刑事」のインパクトがすごかったからですね。それにしてもつまらないドラマでした。最終回で少し面白い謎解きがあるかと思いましたがつまらない。美しき女優達を完全使い捨てです。本当に残念でした。ただ、武井咲さんは本当に美しいです。今が最も輝いているときなので良い作品に出逢って頂きたいものです。
水泳:12.5mで速度アップ研究。手の回転が速くならない。ここを研究予定。
Unity:まあなんだか進む。さっさと完成にもっていく必要がある。
読書:「蜂蜜と遠雷」は数ページは見た。
その他:藤井四段の将棋をamebaで見た。そこで良くわかったことは、解説の人には見えていないということ。藤井四段の指すであろう手を恐れて断定的な解説ができていない。「ちょっと難しい見えていない状況なのですが、なんか出てくるのかも知れない」の感じの解説ばかり。勝利した後で時間が経過して全体を見通した上での分析が出始めるとようやく桂馬のダブルジャンプとか桂馬打ちとかが強烈な手であったことが見えてくる。まあこんなものなのか。ひふみんによれば解説にもさまざまなレベルの方がいますから..とは言っていましたが。まあ適切に解説ができるなら100連勝できることを意味するのでしかたないか。
■■■■■□□□□□ Chair House ストリーミングサービスの紹介■■■■■□□□□□ ■■■■■
★お知らせ: 
AWA(サイバーエージェントの音楽配信サービスですね)で"CALINA"さんという方が素晴らしいプレイリストを創ってくれました。既に4000再生もしてもらっています。CALINAさん、ありがとうございます。
AWAは無料でも楽しめるようになったのですね。短い時間のハイライト再生という形となりますが無料で聴けるのです。chair houseの曲は基本短いですから、無料でも十二分に気持ちに浸れますので、iPhoneとかAndroidをお持ちの方は無料アプリのAWAをダウンロード頂いて挑戦してみて下さい。 アーティストでchair houseを検索頂ければたくさん出てくるはずです。プレイリストは8曲までという制限がありますが、逆にそれが個性的な部分でもあります。
https://s.awa.fm/playlist/l6nxcm5lpnbunpexy7ewsq2vtm/?playtype=copy_playlist&t=1496967349
ピアノ万葉集第8選集が公開されました。
◆ピアノ万葉集8選集の情報:No.601からNo.650までから16曲を選抜した8枚目のアルバムです。この選抜による濃縮作業は結構良いのではないかと自画自賛してますが、皆様に楽しんで頂ければ幸いです。是非聴いてやって下さい。
==========================================================■AWA: 
https://s.awa.fm/album/e7b5223e7ebdcc26c858/?playtype=copy_album&t=1496851863
■spotify:
 https://open.spotify.com/album/5Xy9WOPIM1ewOWxPu8rXIP
■apple music:
https://itun.es/jp/SKBnkb
==========================================================下記の日本ストリーミングでも好評再生頂いております。chair house で検索願います。- dミュージック  - dヒッツ powered by レコチョク  - ひかりTVミュージック  - Music Store powered by レコチョク  - レコチョク Best - Primeミュージック
◆すべての選集の曲をまとめたプレイリスト:
105曲4時間15分の連続再生が可能です。すべての外部からの刺激をシャットアウトして、あなただけの静かで穏やかで優しい世界を実現する曲達ですので是非試してみて下さい。chair houseのオンラインストリーミングは全世界で100万再生を超え、世界中のリスナーの皆さんに愛されています。
spotify:user:chairhouse:playlist:6osqP2ygXyp0TiL3nBYb6o
◆それとAmazon Musicのプレイリストです。プレミア会員の方はそのまま聴くことができます。
https://music.amazon.co.jp/user-playlists/394d40cd077346d1b5efcb5e86b1f533jajp?ref=dm_sh_nZwsTFgd8j0ej9FkhZaLITGma
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dogonodog · 7 years
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2017年 マストでチェックな邦アーティスト10 part1
初めまして。
1.テンテンコ
元BISというアイドルグループに所属していたアイドルのソロ・プロジェクト。BIS時代からも、もはやアイドルとは思えないほどのアグレッシブな楽曲制作や活動をされていたらしく(あまりアイドルは詳しくない)、BIS解散後も精力的に活動をしているテンテンコのニューシングル「くるま」。安易な表現をするならば、工場音×きゃりーぱみゅぱみゅといったところでしょうか。とにかくアイドルという枠ではもう括れない程のクオリティーであり、僕自身、アイドルを軽視していたけれど、「くるま」を一聴し、直ちにそんな浅薄な考えを改めました。2017年も一際異彩を放ち、注目されること間違いなしでしょう。
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2.NOT WONK
平均年齢22歳の北海道は苫小牧出身の3ピース、パンク・ロックバンド、NOT WONK 。彼らの楽曲は、現在の邦ロックシーンに唾を吐き捨てるような、尖ったパンキッシュサウンドに、心をギュッと掴まれるような 青く感情が迸るメロディーが魅力的で気づけば何度もリピートしてしまいます。そしてライブが熱い。
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3. リーガルリリー
大都会東京で生まれ育った、平均年齢19歳の3ピースバンド、リーガルリリー。未確認フェスティバル(元閃光ライオット)という、大規模な十代限定の音楽コンテストで見事準グランプリ(2015)に輝いた、ガールズバンド。その素晴らしい名誉を裏付けるハイクオリティーなメロディーセンスと、微かにスモーキーで少女のように可愛らしい声から発せられる、少しでも触れれば壊れてしまいそうな脆く、しかし、確固たる独自な世界観を持っている詞に脱帽です。それもまだ十代という若さで、それをものにしているのだから、2017年も彼女たちの成長に目が離せません。
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4.Age Factory
2017年日本の最重要ロックバンド(と勝手に思っている)ことAge Factory。ハードコアでグランジでオルタナで、そして優しい。特筆すべきは、 ​清水エイスケ(Gt&Vo)氏の声なんですけど、個人的には泥臭さではなくセクシーだと感じます。音楽を聴く人も聴かない人も、たくさんの人に聴いてほしいです。1stフルアルバムのタイトルを「LOVE」と名付けるセンスもクール。
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5. And Protector
静岡県は三島市の4人組ハードコア/エモバンド、and protector。フロントマンであるつとむ(Ba&Vo)氏が様々な音楽に影響されてきたということもあり、ハードコアなサウンドにメロディックなパンクサウンドやエモがない交ぜになり、そして心を搔きむしられるが如く、青く、淡い日本詞がそのメロディーと共に疾走し、叫び唄われ、聴き手の心臓を震わせてくれます。 The Wonder Yearsや basementといった数々の海外バンドの来日公演のサポートも務めていたりと、徐々に話題になってきているので、2017年に彼らの名前がより世間に浸透していくでしょう。
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続きます。
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