【小説】フラミンゴガール
ミンゴスの右脚は太腿の途中から金属製で、そのメタリックなピンク色の輝きは、無機質な冷たさを宿しながらも生肉のようにグロテスクだった。
彼女は生まれつき片脚がないんだとか、子供の頃に交通事故で失くしたのだとか、ハンバーガーショップでバイト中にチキンナゲット製造機に巻き込まれたのだとか、酒を飲んでは暴力を振るう父親が、ある晩ついに肉切り包丁を振り上げたからなのだとか、その右脚についてはさまざまな噂や憶測があったけれど、真実を知る者は誰もいなかった。
ただひとつ確かなことは、この街に巣くう誰もが、彼女に初めて出会った時、彼女はすでに彼女であった――ミンゴスは最初から金属の右脚をまとって、我々の前に現れたということだ。
生身である左脚が描く曲線とはまるで違う、ただの棒きれのようなその右脚は、しかし決して貧相には見えず、夜明け前の路地裏を闊歩する足取りは力強かった。
脚の代わりでありながら、脚に擬態することをまったく放棄しているその義足は、白昼の大通りでは悪目立ちしてばかりいた。すれ違う人々は避けるように大きく迂回をするか、性質が悪い連中はわざとぶつかって来るかであったが、ミンゴスがそれにひるんだところを、少なくとも俺は見たことがない。
彼女は往来でどんな目に遭おうが、いつだって澄ました表情をしていた。道の反対側から小石を投げてきた小学生には、にっこりと笑って涼しげに手を振っていた。
彼女は強かった。義足同様に、心までも半分は金属でできているんじゃないかと、誰かが笑った。
夏でも冬でも甚平を着ている坊主崩れのフジマサは、ミンゴスはその芯の強さゆえに、神様がバランスをとる目的で脚を一本取り上げたのだ、というのが自論だった。
「ただ、神様というのはどうも手ぬるいことをなさる。どうせしてしまうのならば、両脚とももいでしまえばよかったものを」
そう言いながら赤提灯の下、チェ・レッドを吸うフジマサの隣で、ミンゴスはケラケラと笑い声を零しながら、「なにそれ、チョーウケる」と言って、片膝を立てたまま、すっかりぬるくなったビールをあおった。
彼女は座る時、生身である左脚の片膝を立てるのが癖だった。まるで抱かれているように、彼女の両腕の中に収まっている左脚を見ていると���奇抜な義足の右脚よりも、彼女にとって大切なのはその左脚のような気がした。それも当然のことなのかもしれなかった。
彼女も、彼女を取り巻いていた我々も、彼女が片脚しかないということを気にしていなかった。最初こそは誰しもが驚くものの、時が経てばそれは、サビの舌の先端がふたつに裂けていることや、ヤクザ上がりのキクスイの左手の指が足りていないこと、リリコの前歯がシンナーに溶けて半分もないこと、レンゲが真夏であっても長袖を着ていることなんかと同じように、ありふれた日常として受け入れられ、受け流されていくのだった。
「確かにさぁ、よく考えたら、ミンゴスってショーガイシャな訳じゃん?」
トリカワが、今日も焼き鳥の皮ばかりを注文したのを頬張ってそう言った。発音はほとんど「超外車」に近かった。
「ショーガイシャ?」
訊き返したミンゴスの発音は、限りなく「SHOW会社」だ。
「あたし障害者なの?」
「身体障害者とか、あるじゃん。電車で優先席座れるやつ」
「あー」
「えー、ミンゴスは障害者じゃないよ。だって、いっつも電車でおばあちゃんに席譲るじゃん」
キュウリの漬物を咥えたまま、リリコが言った。
「確かに」
「ミンゴスはババアには必ず席譲るよな、ジジイはシカトするのに」
「あたし、おばあちゃんっ子だったからさー」
「年寄りを男女差別すんのやめろよ」
「愚か者ども、少しはご老人を敬いなさいよ」
フジマサが呆れたように口を挟んで、大きな欠伸をひとつした。
「おばあちゃん、元気にしてんのかなー」
まるで独り言のように、ミンゴスはそう小さくつぶやいて、つられたように欠伸をする。
思えばそれが、彼女が家族について口にしたのを耳にした、最初で最後だった。
俺たちは、誰もろくに自分の家族について語ろうとしなかった。自分自身についてでさえ、訊かれなければ口にすることもなく、訊かれたところで、曖昧に笑って誤魔化してばかりいた。
それでも毎日のように顔を突き合わせ、特に理由もなく集まって酒を飲み、共に飯を食い、意味のない会話を繰り返した。
俺たちは何者でもなかった。何かを共に成し遂げる仲間でもなく、徒党を組んでいたというにはあまりにも希薄な関係で、友人同士だと言うにはただ他人行儀だった。
振り返ってみれば、俺がミンゴスや周りの連中と共に過ごした期間はほんの短い間に過ぎず、だから彼女のこと誰かに尋ねられる度、どう口にすればいいのかいつも悩んで、彼女との些細な思い出ばかりを想起してしまう。
ミンゴスは砂糖で水増ししたような甘くて怪しい錠剤を、イチゴ柄のタブレットケースに入れて持ち歩いていた。
彼女に初めて出会った夜のことは、今でも忘れられない。
俺は掃き溜めのようなこの街の、一日じゅう光が射さない裏路地で、吐瀉物まみれになって倒れていた。一体いつからうつ伏せになっているのか、重たい頭はひどく痛んで、思い出すのも困難だった。何度か、通りすがりの酔っ払いが俺の身体に躓いて転んだ。そのうちのひとりが悪態をつき、唾をかけ、脇腹を蹴り上げてきたので、もう何も嘔吐できるものなどないのに、胃がひっくり返りそうになった。
路地裏には俺のえづいている声だけが響き、それさえもやっと収まって静寂が戻った時、数人の楽しげな話し声が近付いて来るのに気が付いた。
今思えば、あの時先頭を切ってはしゃぎながら駆けて来たのはリリコで、その妙なハイテンションは間違いなく、なんらかの化学作用が及ぼした結果に違いなかった。
「こらこら、走ると転ぶぞ」
と、忠告するフジマサも足元がおぼつかない様子で、普段は一言も発しないレンゲでさえも、右に左にふらふらと身体を揺らしながら、何かぶつぶつとつぶやいていた。サビはにやにやと笑いながら、ラムネ菓子を噛み砕いているかのような音を口から立てて歩いていて、その後ろを、煙管を咥えて行くのがトリカワだった。そんな連中をまるで保護者のように見守りながら行くのがキクスイであったが、彼はどういう訳か額からたらたらと鮮血を流している有り様だった。
奇妙な連中は路地裏に転がる俺のことなど気にも留めず、よろけたフジマサが俺の左手を踏みつけたがまるで気付いた様子もなく、ただ、トリカワが煙管の灰を俺の頭の上めがけて振るい落としたことだけが、作為的に感じられた。
さっきの酔っ払いに蹴り飛ばされてすっかり戦意喪失していた俺は、文句を言う気もなければ連中を睨み返してやる気力もなく、ただ道に横たわっていた。このまま小石にでもなれればいいのに、とさえ思った。
「ねーえ、そこで何してんの?」
そんな俺に声をかけたのが、最後尾を歩いていたミンゴスだった。すぐ側にしゃがみ込んできて、その長い髪が俺の頬にまで垂れてくすぐったかった。
ネコ科の動物を思わせるような大きな吊り目が俺を見ていた。俺も彼女を見ていた。彼女は美しかった。今まで嗅いだことのない、不可思議な香水のにおいがした。その香りは、どこの店の女たちとも違った。俺は突然のことに圧倒された。
彼女は何も答えない俺に小首を傾げ、それからおもむろにコートのポケットに手を突っ込むと、そこから何かを取り出した。
「これ舐める? チョー美味しいよ」
彼女の爪は長方形でピンク色に塗られており、そこに金色の薔薇の飾りがいくつもくっついていた。小さな花が無数に咲いた指先が摘まんでいたのはタブレットケースで、それはコンビニで売られている清涼菓子のパッケージだった。彼女はイチゴ柄のケースから自分の手のひらに錠剤を三つほど転がすと、その手を俺の口元へと差し出した。
「おいミンゴス、そんな陰気臭いやつにやるのか?」
先を歩いていたサビが振り返って、怪訝そうな声でそう言った。
「それ、結構高いんだぜ」
「いーじゃん別に。あたしの分をどうしようと勝手じゃん」
彼女が振り向きもせずにそう言うと、サビは肩をすくめて踵を返した。連中はふらふらと歩き続け、どんどん遠ざかって行くが、彼女がそれを気にしている様子はなかった。
「ほら、舐めなよ」
差し出された彼女の手のひらに、俺は舌を突き出した。舌先ですくめとり、錠剤を口に含む。それは清涼菓子ではなかった。これはなんだ。
「ウケる、動物みたいじゃん」
からになった手を引っ込めながら、彼女は檻の中の猛獣に餌をあげた子供みたいに笑っていた。
口の中の錠剤は、溶けるとぬるい甘みがある。粉っぽい味は子供の頃に飲まされた薬を思わせ、しかし隠し切れないその苦味には覚えがあった。ああ、やはりそうか。落胆と安堵が入り混じったような感情が胃袋を絞め上げ、吐き出すか悩んで、しかし飲み込む。
「ほんとに食べてんだけど」
と、彼女はケラケラ笑った。その笑い声に、冗談だったのか、口にふくまないという選択肢が最良だったのだと思い知らされる。
それでも、目の前で楽しそうに笑っている彼女を見ていると、そんなことはどうでもよくなってくる。こんな風に誰かが喜んでいる様子を見るのは、いつ以来だろうか。笑われてもいい、蔑まれても構わない。それは確かに俺の存在証明で、みじめさばかりが増長される、しがない自己愛でしかなかった。
からかわれたのだと気付いた時には彼女は立ち上がっていて、俺を路地裏に残したまま、小さく手を振った。
「あたしミンゴス。またどっかで会お。バイバーイ」
そう言って歩き始めた彼女の、だんだん小さく、霞んでいく後ろ姿を見つめて、俺はようやく、彼女の右脚が金属製であることに気が付いたのだった。
人体の一部の代用としては不自然なまでに直線的で、機械的なシルエットをしたその奇妙な脚に興味が湧いたが、泥のように重たい俺の四肢は起き上がることを頑なに拒み、声を発する勇気の欠片も砕けきった後であった。飲み込んだ錠剤がその効用をみるみる発揮してきて、俺はその夜、虹色をした海に飲み込まれ、波の槍で身体を何度も何度も貫かれる幻覚にうなされながら眠りに落ちた。
その後、ミンゴスと名乗った彼女がこの街では有名人なのだと知るまでに、そんなに時間はかからなかった。
「片脚が義足の、全身ピンク色した娘だろ。あいつなら、よく高架下で飲んでるよ」
そう教えてくれたのは、ジャバラだった。ピアス屋を営んでいる彼は、身体のあちこちにピアスをあけていて、顔さえもピアスの見本市みたいだ。薄暗い路地裏では彼のスキンヘッドの白さはぼんやりと浮かび上がり、そこに彫り込まれた大蛇の刺青が俺を睨んでいた。
「高架下?」
「あそこ、焼き鳥屋の屋台が来るんだよ。簡単なつまみと、酒も出してる」
「へぇ、知らなかった」
そんな場所で商売をして儲かるんだろうか。そんなこと思いながら、ポケットを探る。ひしゃげた箱から煙草が一本出てくる。最後の一本だった。
「それにしても……お前、ひどい顔だな、その痣」
煙草に火を点けていると、ジャバラは俺の顔をしみじみと見て言った。
「……ジャバラさんみたいに顔にピアスあけてたら、大怪我になってたかもね」
「間違いないぞ」
彼はおかしそうに笑っている。
顔の痣は触れるとまだ鈍く痛む。最悪だ。子供の頃から暴力には慣れっこだったが、痛みに強くなることはなかった。無抵抗のまま、相手の感情が萎えるのを待つ方が早いだとか、倒れる時の上手な受け身の取り方だとか、暴力を受けることばかりが得意になった。痛い思いをしないで済むなら、それが最良に決まっている。しかしどうも、そうはいかない。
「もう、ヤクの売人からは足を洗ったんじゃないのか?」
「……その仕事はもう辞めた」
「なのに、まだそんなツラ晒してんのか。堅気への道のりは険しいな」
掠れて聞き取りづらいジャバラの声は、からかっているような口調だった。思わず俺も、自嘲気味に笑う。
学んだのは、手を汚すのをやめたところで、手についた汚れまで綺麗さっぱりなくなる訳ではない、ということだった。踏み込んでしまったら二度と戻れない底なし沼に、片脚を突っ込んでしまった、そんな気分だ。今ならまだ引き返せると踏んだが、それでも失った代償は大きく、今でもこうしてその制裁を受けている現状を鑑みれば、見通しが甘かったと言う他ない。
「手足があるだけ、まだマシかな……」
俺がそう言うと、ジャバラはただ黙って肩をすくめただけだった。それが少なからず同意を表していることを知っていた。
五体満足でいられるだけ、まだマシだ。特に、薄汚れた灰色で塗り潰された、部屋の隅に沈殿した埃みたいなこの街では。人間をゴミ屑のようにしか思えない、ゴミ屑みたいな人間ばかりのこの街では、ゴミ屑みたいに人が死ぬ。なんの力も後ろ盾も、寄る辺さえないままにこの街で生活を始めて、こうしてなんとか煙を吸ったり吐いたりできているうちは、まだ上出来の部類だ。
「せいぜい、生き延びられるように頑張るんだな」
半笑いのような声でそう言い残して、ジャバラは大通りへと出て行った。その後ろ姿を見送りながら、身体じゅうにニコチンが浸透していくのを脳味噌で感じる。
俺はミンゴスのことを考えていた。
右脚が義足の、ピンク色した天使みたいな彼女は、何者だったのだろう。これまでどんな人生を送り、その片脚をどんな経緯で失くしたのだろう。一体、その脚でなんの代償を支払ったのか。
もう一度、彼女に会ってみたい。吸い終えた煙草の火を靴底に擦りつけている時には、そう考えていた。それは彼女の片脚が義足であることとは関係なく、ただあの夜に、道端の石ころ同然の存在として路地裏に転がっているしかなかったあの夜に、わざわざ声をかけてくれた彼女をまた一目見たかった、それだけの理由だった。
教えてもらった高架下へ向かうと、そこには焼き鳥屋の���動式屋台が赤提灯をぶら下げていて、そして本当に、そこで彼女は飲んでいた。周りには数人が同じように腰を降ろして酒を飲んでいて、それはあの夜に彼女と同じように闊歩していたあの奇妙な連中だった。
最初に俺に気付いたのは、あの時、煙管の灰をわざと振り落としてきたトリカワで、彼はモヒカンヘアーが乱れるのも気にもせず、頭を掻きながら露骨に嫌そうな顔をした。
「あんた、あの時の…………」
トリカワはそう言って、決まり悪そうに焼き鳥の皮を頬張ったが、他の連中はきょとんとした表情をするだけだった。他は誰も、俺のことなど覚えていなかった。それどころか、あの夜、路地裏に人間が倒れていたことさえ、気付いていないのだった。それもそのはずで、あの晩は皆揃って錠剤の化学作用にすっかりやられてしまっていて、どこを通ってどうやってねぐらまで帰ったのかさえ定かではないのだと、あの夜俺の手を踏んづけたフジマサが飄々としてそう言った。
ミンゴスも、俺のことなど覚えていなかった。
「なにそれ、チョーウケる」
と、笑いながら俺の話を聞いていた。
「そうだ、思い出した。あんた、ヤクをそいつにあげてたんだよ」
サビにそう指摘されても、ミンゴスは大きな瞳をさらに真ん丸にするだけだった。
「え、マジ?」
「マジマジ。野良猫に餌やってるみたいに、ヤクあげてたよ」
「ミンゴス、猫好きだもんねー」
どこか的外れな調子でそう言ったリリコは、またしても妙なハイテンションで、すでに酔っているのか、何か回っているとしか思えない目付きをしている。
「ってか、ふたりともよく覚えてるよね」
「トリカワは、ほら、あんまヤクやんないじゃん。ビビリだから」
「チキンだからね」
「おい、チキンって言うな」
「サビは、ほら、やりすぎて、あんま効かない的な」
「この中でいちばんのジャンキーだもんね」
「ジャンキーっつうか、ジャンク?」
「サビだけに?」
「お、上手い」
終始無言のレンゲが軽い拍手をした。
「え、どういうこと?」
「それで、お前、」
大きな音を立てて、キクスイがビールのジョッキをテーブルに置いた。ジョッキを持っていた左手は、薬指と小指が欠損していた。
「ここに何しに来た?」
その声には敵意が含まれていた。その一言で、他の連中も一瞬で目の色を変える。巣穴に自ら飛び込んできた獲物を見るような目で、射抜かれるように見つめられる。
トリカワはさりげなく焼き鳥の串を持ち変え、サビはカップ酒を置いて右手を空ける。フジマサは、そこに拳銃でも隠しているのか、片手を甚平の懐へと忍ばせている。ミンゴスはその脚ゆえか、誰よりも早く椅子から腰を半分浮かし、反対に、レンゲはテーブルに頬杖を突いて半身を低くする。ただリリコだけは能天気に、半分溶けてなくなった前歯を見せて、豪快に笑う。
「ねぇ皆、違うよ、この子はミンゴスに会いに来たんだよ」
再びきょとんとした顔をして、ミンゴスが訊き返す。
「あたしに?」
「そうだよ」
大きく頷いてから、リリコは俺に向き直り、どこか焦点の定まらない虚ろな瞳で、しかし幸福そうににっこりと笑って、
「ね? そうなんだよね? ミンゴスに、会いたかったんでしょ」
と、言った。
「あー、またあのヤクが欲しいってこと? でもあたし、今持ち合わせがないんだよね」
「もー、ミンゴスの馬鹿!」
突然、リリコがミンゴスを平手打ちにした。その威力で、ミンゴスは座っていた椅子ごと倒れる。金属製の義足が派手な音を立て、トリカワが慌てて立ち上がって椅子から落ちた彼女を抱えて起こした。
「そーゆーことじゃなくて!」
そう言うリリコは悪びれた様子もなく、まるでミンゴスが倒れたことなど気付いてもいないようだったが、ミンゴスも何もなかったかのようにけろりとして椅子に座り直した。
「この子はミンゴスラブなんだよ。ラブ。愛だよ、愛」
「あー、そーゆー」
「そうそう、そーゆー」
一同はそれで納得したのか、警戒態勢を解いた。キクスイだけは用心深く、「……本当に、そうなのか?」と尋ねてきたが、ここで「違う」と答えるほど、俺も間抜けではない。また会いたいと思ってここまで来たのも真実だ。俺が小さく頷いてみせると、サビが再びカップ酒を手に取り、
「じゃー、そーゆーことで、こいつのミンゴスへのラブに、」
「ラブに」
「愛に」
「乾杯!」
がちゃんと連中の手元にあったジョッキやらグラスやらがぶつかって、
「おいおい愚か者ども、当の本人が何も飲んでないだろうよ」
フジマサがやれやれと首を横に振りながら、空いていたお猪口にすっかりぬるくなっていた熱燗を注いで俺に差し出し、
「歓迎しよう、見知らぬ愚か者よ。貴殿に、神のご加護があらんことを」
「おめーは仏にすがれ、この坊主崩れが」
トリカワがそう毒づきながら、焼き鳥の皮をひと串、俺に手渡して、
「マジでウケるね」
ミンゴスが笑って、そうして俺は、彼らの末席に加わったのだ。
ミンゴスはピンク色のウェーブがかった髪を腰まで伸ばしていて、そして背中一面に、同じ色をした翼の刺青が彫られていた。
本当に羽毛が生えているんじゃないかと思うほど精緻に彫り込まれたその刺青に、俺は幾度となく手を伸ばし、そして指先が撫でた皮膚が吸いつくように滑らかであることに、いつも少なからず驚かされた。
腰の辺りが性感帯なのか、俺がそうする度に彼女は息を詰めたような声を出して身体を震わせ、それが俺のちっぽけな嗜虐心を刺激するには充分だった。彼女が快楽の海で溺れるように喘ぐ姿はただただ扇情的で、そしていつも、彼女を抱いた後、子供のような寝顔で眠るその横顔を見ては後悔した。
安いだけが取り柄のホテルの狭い一室で、シャワーを浴びる前に外されたミンゴスの右脚は、脱ぎ捨てられたブーツのように絨毯の上に転がっていた。義足を身に着けていない時のミンゴスは、人目を気にも留めず街を闊歩している姿とは違って、弱々しく薄汚い、惨めな女のように見えた。
太腿の途中から失われている彼女の右脚は、傷跡も目立たず、奇妙な丸みを帯びていて、手のひらで撫で回している時になんとも不可思議な感情になった。義足姿は見慣れていて、改めて気に留めることもないのだが、義足をしていないありのままのその右脚は、直視していいものか悩み、しかし、いつの間にか目で追ってしまう。
ベッドの上に膝立ちしようにも、できずにぷらんと浮いているしかないその右脚は、ただ非力で無様に見えた。ミンゴスが義足を外したところは、彼女を抱いた男しか見ることができないというのが当時囁かれていた噂であったが、俺は初めて彼女を抱いた夜、何かが粉々に砕け散ったような、「なんだ、こんなもんか」という喪失感だけを得た。
ミンゴスは誰とでも寝る女だった。フジマサも、キクスイも、サビもトリカワも、連中は皆、一度は彼女を抱いたことがあり、それは彼らの口から言わせるならば、一度どころか、もう飽き飽きするほど抱いていて、だから近頃はご無沙汰なのだそうだった。
彼らが彼女の義足を外した姿を見て、一体どんな感情を抱いたのかが気になった。その奇妙な脚を見て、背中の翼の刺青を見て、ピアスのあいた乳首を見て、彼らは欲情したのだろうか。強くしたたかに生きているように見えた彼女が、こんなにもひ弱そうなただの女に成り下がった姿を見て、落胆しなかったのだろうか。しかし、連中の間では、ミンゴスを抱いた話や、お互いの性癖については口にしないというのが暗黙の了解なのだった。
「あんたは、アレに惚れてんのかい」
いつだったか、偶然ふたりきりになった時、フジマサがチェ・レッドに火を点けながら、俺にそう尋ねてきたことがあった。
「アレは、空っぽな女だ。あんた、あいつの義足を覗いたかい。ぽっかり穴が空いてたろう。あれと同じだ。つまらん、下種の女だよ」
フジマサは煙をふかしながら、吐き捨てるようにそう言った。俺はその時、彼に何も言い返さなかった。まったくもって、この坊主崩れの言うことが真であるように思えた。
ミンゴスは決して無口ではなかったが、自分から口を開くことはあまりなく、他の連中と同様に、自身のことを語ることはなかった。話題が面白かろうが面白くなかろうが、相槌はたいてい「チョーウケる」でしかなく、話し上手でも聞き上手でもなかった。
風俗店で働いている日があるというリリコとは違って、ミンゴスが何をして生計を立てているのかはよくわからず、そのくせ、身に着けているものや持ちものはブランドもののまっピンクなものばかりだった。連中はときおり、ヤクの転売めいた仕事に片脚を突っ込んで日銭を稼いでいたが、そういった時もミンゴスは別段やる気も見せず、それでも生活に困らないのは、貢いでくれる男が数人いるからだろう、という噂だけがあった。
もともと田舎の大金持ちの娘なんだとか、事故で片脚を失って以来毎月、多額の慰謝料をもらい続けているんだとか、彼女にはそんな具合で嘘か真実かわからない噂ばかりで、そもそもその片脚を失くした理由さえ、本当のところは誰も知らない。訊いたところではぐらかされるか、訊く度に答えが変わっていて、連中も今さら改まって尋ねることはなく、彼女もまた、自分から真実を語ろうとは決してしない。
しかし、自身の過去について触れようとしないのは彼女に限った話ではなく、それは坊主崩れのフジマサも、ヤクザ上りのキクスイも、自殺未遂を繰り返し続けているレンゲも、義務教育すら受けていたのか怪しいリリコも、皆同じようなもので、つまりは彼らが、己の過去を詮索されない環境を求めて流れ着いたのが、この面子という具合だった。
連中はいつだって互いに妙な距離を取り、必要以上に相手に踏み込まない。見えないがそこに明確な線が引かれているのを誰しもが理解し、その線に触れることを極端に避けた。一見、頭のネジが外れているんだとしか思えないリリコでさえも、いつも器用にその線を見極めていた。だから彼らは妙に冷めていて、親切ではあるが薄情でもあった。
「昨日、キクスイが死んだそうだ」
赤提灯の下、そうフジマサが告げた時、トリカワはいつものように焼き鳥の皮を頬張ったまま、「へぇ」と返事をしただけだった。
「ドブに遺体が捨てられてるのが見つかったそうだよ。額に、銃痕がひとつ」
「ヤクの転売なんかしてるから、元の組から目ぇ付けられたのか?」
サビが半笑いでそう言って、レンゲは昨日も睡眠薬を飲み過ぎたのか、テーブルに突っ伏したまま顔を上げようともしない。
「いいひとだったのにねー」
ケラケラと笑い出しそうな妙なテンションのままでリリコがそう言って、ミンゴスはいつものように、椅子に立てた片膝を抱くような姿勢のまま、
「チョーウケるね」
と、言った。
俺はいつだったか、路地裏で制裁を食らった日のことを思い出していた。初めてミンゴスと出会った日。あの日、俺が命までをも奪われずに済んだのは、奇跡だったのかもしれない。この街では、そんな風に人が死ぬのが普通なのだ。あんなに用心深かったキクスイでさえも、抗えずに死んでしまう。
キクスイが死んでから、連中の日々は変化していった。それを顔に出すことはなく、飄々とした表情を取り繕っていたが、まるで見えない何かに追われているかのように彼らは怯え、逃げ惑った。
最初にこの街を出て行ったのはサビだった。彼は転売したヤクの金が手元に来たところで、一夜のうちに姿をくらました。行方がわからなくなって二週間くらい経った頃、キクスイが捨てられていたドブに、舌先がふたつに裂けたベロだけが捨てられていたという話をフジマサが教えてくれた。しかしそれがサビの舌なのか、サビの命がどうなったのかは、誰もわからなかった。
次に出て行ったのはトリカワだった。彼は付き合っていた女が妊娠したのを機に、故郷に帰って家業を継いで漁師になるのだと告げて去って行った。きっとサビがここにいたならば、「お前の船の網に、お前の死体が引っ掛かるんじゃねぇの?」くらいは言っただろうが、とうとう最後まで、フジマサがそんな情報を俺たちに伝えることはなかった。
その後、レンゲが姿を見せなくなり、彼女の人生における数十回目の自殺に成功したのか、はたまたそれ以外の理由で姿をくらましたのかはわからないが、俺は今でも、その後の彼女に一度も会っていない。
そして、その次はミンゴスだった。彼女は唐突に、俺の前から姿を消した。
「なんかぁ、田舎に戻って、おばあちゃんの介護するんだって」
リリコがつまらなそうに唇を尖らせてそう言った。
「ミンゴスの故郷って、どこなの?」
「んー、秋田」
「秋田。へぇ、そうなんだ」
「そ、秋田。これはマジだよ。ミンゴスが教えてくれたんだもん」
得意げにそう言うリリコは、まるで幼稚園児のようだった。
フジマサは、誰にも何も告げずに煙のように姿を消した。
リリコは最後までこの街に残ったが、ある日、手癖の悪い風俗の客に殴られて死んだ。
「お前、鍵屋で働く気ない? 知り合いが、店番がひとり欲しいんだってさ」
俺は変わらず、この灰色の街でゴミの残滓のような生活を送っていたが、ジャバラにそう声をかけられ、錠前屋でアルバイトをするようになった。店の奥の物置きになっていたひと部屋も貸してもらい、久しぶりに壁と屋根と布団がある住み家を得た。
錠前屋の主人はひどく無口な無骨な男で、あまり熱心には仕事を教えてはくれなかったが、客もほとんど来ない店番中に点けっぱなしの小型テレビを眺めていることを、俺に許した。
ただ単調な日々を繰り返し、そうして一年が過ぎた頃、埃っぽいテレビ画面に「秋田県で殺人 介護に疲れた孫の犯行か」という字幕が出た時、俺の目は何故かそちらに釘付けになった。
田舎の街で、��とりの老婆が殴られて死んだ。足腰が悪く、認知症も患っていた老婆は、孫娘の介護を受けながら生活していたが、その孫に殺された。孫娘は自ら通報し、駆けつけた警察に逮捕された。彼女は容疑を認めており、「祖母の介護に疲れたので殺した」のだという旨の供述をしているのだという。
なんてことのない、ただのニュースだった。明日には忘れてしまいそうな、この世界の日常の、ありふれたひとコマだ。しかし俺は、それでも画面から目を逸らすことができない。
テレビ画面に、犯人である孫娘が警察の車両に乗り込もうとする映像が流れた。長い髪は黒く、表情は硬い。化粧っ気のない、地味な顔。うつむきがちのまま車に乗り込む彼女はロングスカートを穿いていて、どんなに画面を食い入るように見つめても、その脚がどんな脚かなんてわかりはしない。そこにあるのは、人間の、生身の二本の脚なのか、それとも。
彼女の名前と年齢も画面には表示されていたが、それは当然、俺の知りもしない人間のプロフィールに過ぎなかった。
彼女に限らない。俺は連中の本名を、本当の年齢を、誰ひとりとして知らない。連絡先も、住所も、今までの職業も、家族構成も、出身地も、肝心なことは何ひとつ。
考えてもしょうがない事柄だった。調べればいずれわかるのかもしれないが、調べる気にもならなかった。もしも本当にそうだったとして、だからなんだ。
だから、その事件の犯人はミンゴスだったのかもしれないし、まったくなんの関係もない、赤の他人なのかもしれない。
その答えを、俺は今も知らない。
ミンゴスの右脚は太腿の途中から金属製で、そのメタリックなピンク色の輝きは、無機質な冷たさを宿しながらも生肉のようにグロテスクだった。
「そう言えば、サビってなんでサビってあだ名になったんだっけ」
「ほら、あれじゃん、頭が錆びついてるから……」
「誰が錆びついてるじゃボケ。そう言うトリカワは、皮ばっか食ってるからだろ」
「焼き鳥は皮が一番美味ぇんだよ」
「一番美味しいのは、ぼんじりだよね?」
「えー、あたしはせせりが好き」
「鶏の話はいいわ、愚か者ども」
「サビはあれだよ、前にカラオケでさ、どの歌でもサビになるとマイク奪って乱入してきたじゃん、それで」
「なにそれ、チョーウケる。そんなことあったっけ?」
「あったよ、ミンゴスは酔っ払いすぎて覚えてないだけでしょ」
「え、俺って、それでサビになったの?」
「本人も覚えてないのかよ」
「リリコがリリコなのはぁ、芸能人のリリコに似てるからだよ」
「似てない、似てない」
「ミンゴスは?」
「え?」
「ミンゴスはなんでミンゴスなの?」
「そう言えば、そうだな。お前は初対面の時から、自分でそう名乗っていたもんな」
「あたしは、フラミンゴだから」
「フラミンゴ?」
「そう。ピンクだし、片脚じゃん。ね?」
「あー、フラミンゴで、ミンゴス?」
「ミンゴはともかく、スはどっからきたんだよ」
「あれじゃん? バルサミコ酢的な」
「フラミンゴ酢?」
「えー、なにそれ、まずそー」
「それやばいね、チョーウケる」
赤提灯が揺れる下で、彼女は笑っていた。
ピンク色の髪を腰まで伸ばし、背中にピンク色の翼の刺青を彫り、これでもかというくらい全身をピンクで包んで、金属製の片脚で、街角で、裏路地で、高架下で、彼女は笑っていた。
それが、俺の知る彼女のすべてだ。
俺はここ一年ほど、彼女の話を耳にしていない。
色褪せ、埃を被っては、そうやって少しずつ忘れ去られていくのだろう。
この灰色の街ではあまりにも鮮やかだった、あのフラミンゴ娘は。
了
0 notes
引越し
僕は、昭和の後期、東京に育ちました。坂を下ればすぐそこに東京湾があるエリアで、古い木造アパートが多く立ち並び、路地とも呼べないほど細い路地を、目を閉じても歩けるほど熟知していました。
そこに暮らした幼少期、僕は幸せでした。母子家庭で育った僕には、母と暮らす小さなアパートがあり、迷い込んできて子どもを産んで大所帯になった猫たちがいて、一緒に育った幼馴染たちがいました。家から徒歩5分ほどの距離には、春になれば様々な花が咲き、夏にはむせ返るような緑が生い茂り、秋には葉が色をつける大きめの公園がありました。自転車で10分ほどの距離には商店街がいくつかあり、僕にとって宝島のような存在だった本屋や文房具屋、駄菓子屋、小さなデパートがありました。六畳一間ほどのアパートは二階にあり、奥にある窓を開けると、そこには目の高さに東海道線の線路が、見上げると東海道新幹線の線路が、道を挟んですぐの距離に走っていました。線路脇には完全な壁や柵もなく、高さ3メートルほどの壁を登れば誰でもそこへ上ることができました。坂の多い地区だったこともあり、この壁も、沿ってつたって歩けば低くなっているスポットがあり、僕と友だちは頻繁にこれを上り、線路脇の草むらで遊びました。家で飼っていたメダカが命尽きるとそこに埋め、鳥の死体を見つければそこにお墓を作りました。入り組んだ高架の向こうに見た空には、春の薄曇りから梅雨時の灰色、夏の入道雲、秋の高く深い青、冬の透明な青まで、実にたくさんの記憶があります。
僕が地元を離れたのは、13歳のときのこと。引越し先は電車で1時間半ほどの場所で、そこには祖父母が暮らしていました。
祖父は中年期に糖尿病をはじめ多くの生活習慣病を患い、ついには白内障でほぼ盲目の状態でした。そこへ、祖父に献身的に付き添ってきた祖母が胃がんを患い、「お互いを看病することのできないふたりと誰かが一緒に住まなければ」と、僕の母が同居を買って出たのです。
母から祖父母との同居の決断を言い渡されたとき、僕はとても悲しい気持ちになりました。母は若くして僕を生み、容姿も心も若い女性でした。僕たちは仲が良く、僕は母に反抗することなどほとんどなく育ちました。でも、このとき、僕は引越しという案に対し、強い反発をおぼえました。僕は祖父母のことが好きでした。小旅行とも呼べないほどの距離であることから、幼少期よりしょっちゅう遊びに行っていたし、祖父も祖母もとても優しい人たちだったからです。しかし、祖父母に対する気持ちよりも、母親に対する気持ちよりも、「ここから離れたくない」という気持ちはずっと強かった——それまで目の前にあって当たり前だった風景や友達が、突如として自分のものではなくなってしまう可能性を前に、僕はとても悲しく、そして寂しくなりました。
しかし、引越しは提案ではなく、ほとんど決定した計画でした。母も祖父母も、渋っている僕を見て苛立っているようでした。そこで僕は、越境通学を提案しました。いとこの家が同じ中学の学区内にあったため、そこに住民票を移せば同じ中学に通い続けられるだろうと考えたのです。
引っ越したくない理由、百歩譲って越境通学をさせてほしい理由を、たくさん挙げたように記憶しています。ほとんどは忘れてしまいましたが、ひとつ、言葉にしたことを鮮明に覚えている理由��あります。それは、「なにかしらの形であ���土地と自分を繋いでくれるものが欲しい」というものでした。
もっと的確な言葉選びがあったと、今は思います。しかし、当時の僕にはそれが精一杯の言葉でした。
引越しに対して、強い、そしてとてもリアルな不安をおぼえた理由には、国鉄の分割民営化に伴う個人的な体験がありました。母から引越しについて話があったとき、僕は中学2年生になったばかり。国鉄が分割民営化されJRになった年度のことです。
僕がもともと暮らしていた地域には国鉄の社宅団地があり、クラスメイトの多くが旧国鉄社員の子どもたちでした。国鉄分割民営化は、僕にとってテレビの中の出来事でしかなかった社会情勢を、その余波で実際に体感した初めてのできごとになりました。後に学んだところによると、国鉄の民営化は、当時の中曽根政権が、政治介入をする国鉄労働組合の解体を目的に行なわれたものだったそうです。国鉄労働組合に所属して政府に対し声を上げたひとびとの多くは、民営化されるにあたりJRへの再就職が認められませんでした。彼らは転職を余儀なくされました。どのような仕事に就くにしろ、旧国鉄・現JRの社員でなくなるということは、JRの社宅に住む権限を失うということです。また、おそらく分割民営化されたJRで遠方のグループ会社へと左遷された人々もたくさんいたにちがいありません。その結果、旧国鉄職員の親を持つ子どもたちが、僕の中学校からたくさん転校していきました。僕のクラスだけでも4〜5人が、年度末に教室の前に立ち、残るクラスメイトたちにお別れの挨拶をしました。クラスメイトたちは一様に泣きました。
しかし、新学期が始まり、新しいクラス編成になると、転校していった旧友たちがあたかも元々そこに存在しなかったかのように現実は進んでいきました。残った者には残った者の現実があり、転校していった旧友たちのいない空間も急激に普通の景色になっていきました。
母から引越しの決定を告げられたとき、そして越境通学を祖父母に強く反対されたとき、僕は転校していった旧友たちのことをまず考えました。そこに存在していなければ、その環境内での存在感は急激に薄れていく——僕はみんなの心から薄れていきたくないと強く思いました。正直なところ、みんなの心や地元の景色から自分の存在が消え失せていくと同時に僕自身の現実が病気の祖父母との暮らしになっていくというのも、同じだけイヤでした。
越境通学は、今になって思い出すと大変なものでした。まず、当時の公立中学校は越境通学など許されていませんでしたから、どんな事情であれ、越境通学の事実が知られるところとなれば生徒は転校を余儀なくされました。僕は学校に越境の事実が知られることのないよう細心の注意を払いました。先生たちと同じ電車に乗らないようにするには、朝早くに通学すればよかったわけですが、陸上部に所属していた僕には朝練があり、よってこれはそれほど難しいことではありませんでした。しかし、朝練に参加するためには7時前に学校へ到着していなければならず、単純計算でも5時半までに電車に乗っていなければなりませんでした。ということは、5時には朝食を済ませていなければならず、起床は午前4時過ぎでした。放課後の練習もあり、大会を控えた時期だと練習は午後7時過ぎまで続きました。電車に乗るのは7時半、遅ければ8時。祖父母の家に着くのは9時半ごろになりました。そこから晩御飯を食べて風呂に入り、10時半には就寝しても、翌朝はまた4時に起きなければなりません。
とはいえ、僕にとってそんな生活サイクルはそれほど苦しいものではありませんでした。僕にとっての現実世界は地元の学校生活にあり、電車や祖父母宅での時間は単なる「その前後」でしかなかったからです。
しかし、生活サイクルこそ苦しくなかったものの、実際にはそこに暮らしていないことで生じてくる「よそ者感」のようなものが徐々に大きくなりました。引っ越す前には、ちょっとコンビニにと外に出れば道すがら友達に偶然出くわしたりしましたが、そんな日常がないだけで、僕は急激にクラスメイトたちの会話について行けなくなりました。また、以前は用がなければ行かなかった公園やデパート、神社などに、わざわざ行くようになりました。その地域に帰れる場所がもうないわけですから、たとえば友達が一度家に帰ってから出直してくるなど待ち合わせの場合、時間を潰す場所が必要だったわけです。夏休みが明けると、一緒に行った繁華街での出来事だの、祭りに行ったときの出来事だのの、クラスメイトたちには共通の思い出ができていました。なぜ誘ってくれなかったのかと聞けば、皆が一様に「お前は遠くに住んでるから」と口を揃えました。
「繋いでくれるもの」「つながっていたい」——そう思えば思うほど自分と地元のつながりは薄れていくように感じられました。実際にそこに暮らしている人は、その空間とのつながりなど意識しないものだからです。つながっていたいとあまりに強く思うあまり、そのつながりを意識すらする必要のないクラスメイトたちに対して、僕は強く嫉妬しました。怒りっぽくなり、しかし「嫌われては元も子もない」と思い直して、普通を装うよう努めました。
地元とのつながりをなんとか実感したいと試行錯誤する学校生活の前後、つまり祖父母と母との暮らしは、みるみるうちに悪化していきました。引っ越した当初こそ娘と孫が一緒にいるという環境の新鮮さから明るく嬉しそうだった祖父母は、険悪な関係を隠さなくなりました。母は、病気の両親��育ち盛りの息子を養うため朝早くから夜遅くまで外で働いていたため、食卓を囲むのは祖父母と僕の3人という夜が多かったように記憶しています。心臓と腎臓が悪く、糖尿に白内障もあった祖父は、祖母が食事療法を完璧に考慮した晩御飯に毎回不平不満をもらしました。「胃がん」と聞いて「これまでの結婚生活と看病のストレス」と腑に落ちた祖母は、祖父に対し当然の冷たい態度をとりつづけました。祖父は言葉にならない感情を金切り声に代えて表し、祖母はそれを無視しました。たまに夜の食卓を一緒にする母もこれに参り、いつもとてもイライラしていました。
祖父は、僕が中学を卒業した後、高校に入学する前の3月31日に自らの命を絶ちました。
その前日、僕は中学のクラスメイトたちと皆で地元のボウリング場へ行く予定でした。しかし祖父に「どうしてもお使いを頼まれてくれ」と頼まれ、ボウリングを断りました。断るぐらいでつながりが消えてしまうわけがないと信じたい、そしてそれを自分自身に証明したいという気持ちが半分、すでに情けで誘ってもらえているのだろうとひねくれていじけた気持ちが半分でした。あるいは、卒業して区外の高校に進学したことで、もうすでにつながりはなくなってしまったのだと諦めていたのかもしれません。単に現実のすべてに疲れていたのかもしれません。僕は大して抗うことなく、祖父の頼みに応じました。
祖父は、通帳を出して、「ここから3,000円を引き出して、残高を記帳してきてくれ。3,000円で、帰り道の八百屋に寄って林檎の王林をひとつ買ってこい」と言いました。わかった、と僕は通帳を手にして立ち上がり、スニーカーを履いて外へ出て、銀行へと向かいました。
銀行で記帳を済ませ、八百屋に寄ると、王林が2つセットになって売られていました。無理を言ってひとつだけ譲ってもらい、帰り道、「無理を聞き入れてもらうまでの店主とのやりとりを聞かせたら、祖父は笑うだろうか?」と考えたのを覚えています。リンゴを入れたビニール袋を振り回しながら歩いていたら、袋のハンドル部分が手から離れてしまい、リンゴを落としてしまいましたが、黄色い皮に痣のように残った茶色い円を眺めて、「目も見えないし、気づかないだろ」と考えました。
記帳した通帳と買った王林を渡し、店主とのやりとりを伝えると、祖父は笑いました。そして、もちろんりんごについた痣には気づきませんでした。
「果糖があるから食べられませんよ」と鋭く低い声で小言を言う祖母に、祖父は「短冊切りにして水に浸けておいてくれ」と穏やかな声で言いました。そして、「残りの金はお前にやる。お駄賃だ」と言いました。お年玉にも、10円玉、5円玉、1円玉を一枚ずつ、計6円で通していた祖父から、2,700円ほどをもらえるなど、普通ではない出来事でした。
自殺の方法は、住んでいた都営住宅の7階、家のドアの脇に突き出た吹き抜けの部分からの飛び降りでした。家で警察が僕に事情聴取をしているとき、取り乱した様子の祖母が台所から僕の横に駆け寄り、「水に浮かせておいた短冊切りのリンゴがひとつかみ分なくなってる」と泣きながら言いました。「あのリンゴを食べてから飛び降りたのよ」と。聴取をしていた警察官ふたりが「どうぞ」というジェスチャーを見せ、祖母に引っ張られるままに台所に行くと、ステンレスのボウルに短冊切りの白いリンゴが数十本残っていました。痣が残った果肉は見受けられませんでした。
祖母はその三年後に亡くなりました。「おばあちゃん、もういよいよだそうだから、今すぐ病院に」と親戚からの電話を受けたとき、僕は家で生まれて初めてのピアスを耳に開けていました。耳にジンジンと熱を感じながら病室に入ると、祖母は薄く、しかし実に楽しそうな笑顔を浮かべて「またバカなことして」と僕に言いました。それが最期でした。最後の3年間は、得意の裁縫に太極拳にと趣味に生き、とにかく笑っていた印象が強く残っています。それが、祖父の看病やわがままからの解放から来る楽しい余生だったのか、それとも、夫の自殺という事実を受け止めきれず、考えることを放棄してのことさら明るい笑顔だったのか、あるいは復讐のような死に方をした夫に対する復讐として余生を謳歌しての姿勢だったのか、それはわかりません。
母は、心のバランスを崩したように思います。恋人を作ったり、着飾ったり、ことさら楽しく生きようとする姿には、どこかギクシャクした違和感がありました。
僕は結局、地元に戻ることはできませんでした。祖父が亡くなったときも、祖母が亡くなったときも、「これが地元に帰る良いタイミングだ」と僕は思いましたが、母は僕の「帰りたい」という声を黙殺し続けました。僕にとっては悪いことばかりが起こった土地でしたが、母にとっては地元であり、良くも悪くも両親の人生の最後の日々を共にした大切な場所だったのでしょう。また、引越しにお金がかかるという現実もあったでしょう。年頃の息子に、何もかも思い通りにはならないと教えたかったのかもしれません。地元へ帰りたいと訴え続ける僕に、母は、「親戚の◯◯も、なんて自分勝手なことを言う子どもなんだって言ってたよ」と言いました。親戚も僕に直接「わがままだ」と諭し、僕の地元を「あんなところの何が良いのか」と言いました。言葉にある真意が「地元などいずれ誰もが巣立っていくものなのだから、もう前を向いて進め」というものだと理解できるだけに、もう僕は黙るしかありませんでした。大人には大人で大切にすべきものがあります。親だからといって、追い求めるべきはやはり自分自身の幸せです。そう考えられるだけの理解があったからこそ、僕には訴えれば訴えるほど徒労感が募りました。どうにも動かしようのないものは、無理に動かそうとしても動かないのだと。
僕が、個人レベルで求めていたのは、単に悪夢を悪夢として明確な終止符を打ち、過去に押し流すことでした。僕にとっての悪夢は、地元からの別離そのものよりも、祖父の自殺そのものよりも、誰にとっても自分は必要ですらない存在なんだという考えが増大していく一連の現実の流れでした。誰かとつながっている・どこかに属しているという感覚の喪失は、僕の心に渇望として大きな空洞のように残ることとなりました。地元とも、親とも、誰ともつながっていないという圧倒的な実感は、ブラックホールのように他のすべての感情を飲み込んでしまうほど絶対的な威力を持っていました。
今では、そんな過去の思い出とも距離感を持てるに至っています。親や親戚との関係に対しても、胸をえぐられるような思いを伴わずに向き合えるようになりました。元地元に行っても、自分がよそ者だと強く認識させられて胸が締め付けられるようなことはもうありません。
どのようにして現在のような心境に至ったのかはよく分かりません。ただ大人になったということなのかもしれないし、それに対して無感情になっただけなのかもしれません。あるいは、自分も、親や親戚、果ては地元の友達や、地元そのものが知らず知らずのうちに僕の存在をを振り落としていった姿を、その後の自分自身の行動や心理にも見とめる機会が少なからずあり、「ああ、こういうことだったのか」と知ったことで、過去の出来事とわだかまりを相殺できたのかもしれません。
いずれにしても、一連のことを痛みを伴って思い出すことはもうなくなりました。しかし、やはり胸には「なぜ?」という疑問が残っています。これは、関係していたすべての当事者にもきっと説明のできないことです。それぞれに、さまざまな事情や状況があったからとしか言いようがないことなのでしょう。
「人生には少なからずこういうことがあるものだ」と、すでに40代後半に差し掛かった私は思います。仕方のないことはある。でも、どれだけ納得のいかないことが起こったとしても、それでも人間は前に前に進んでいかなければならず、また、自分の人生は自分にしか生きることのできないものなのだから、どんな苦難を与えられても、それを生き抜いて自分の幸せに向かって歩みを続けなければならないのだ、と。
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突然ですが、皆さまにはお気に入りのダイスはありますでしょうか?
ここ1番の勝負はこのダイス!というのが決まっていらっしゃる方、多いように思います。
今回は、オリジナルデザインのダイスを製作販売していらっしゃる珠工房さんを皆さまにご紹介したいと思います!
珠工房とは
2016年11月に、女の子がファッション雑貨を選ぶ感覚で、ダイスを選んでもらえたら・・・というコンセプトで、オープンした工房です。
女性のゲーマーさんをターゲットに見据えつつ、でもそのデザインは男性が使っても遜色なく、カッコいいものがそろっております。
珠工房オープンのきっかけ
これには、運命が働いた、としか言いようがないくらい、素敵なエピソードがあります。
ご友人が結婚するに当たり、結婚披露宴パーティのプロデュースと司会を引き受けたところ、新婦さんから「ゲームが好きな夫婦なので、プチギフトはダイスにしようかと思っているのだけど・・・」とご相談を受けました。
そこで、「折角なのでオリジナルデザインで作ってみましょう」と提案したことと、同時期にグランクレストというTRPGのキャンペーンを遊んでいらっしゃり、それぞれのキャラクターのイメージダイスを作って贈ったら喜ばれるのでは?と考え、サプライズで制作したことで、オンリーワンのダイスが作れることを試すことができ、これならお仕事が出来るとお考えになったのがきっかけでした。
結婚披露宴パーティのプチギフトは、招待した皆さまもゲームで遊ばれる方が多く、大変喜ばれたそうです。
また、サプライズプレゼントも大成功で、セッション中にそのダイスで判定をするときは大変盛り上がったそうです。
拘ったコンセプト
TRPGで遊ぶとき、ダイスにこだわる人は多いと思います。
プレイヤーとしてのマイダイス以上に、「このシステムならこのダイス」「このキャラクターだからこのダイス」というように、着替えるような感覚でダイスを選べたら楽しいのではないかと考え、オープンに踏み切った珠工房さん。
女の子がファッション雑貨を選ぶ感覚でダイスを選んでもらえたら・・・という思いがあったそうですが、ここには強いこだわりがあります。
珠工房さんから、直接お話を伺いました。
『多くの女性は装うことが好きだと思っています。
TRPGにおいてもイラストやロールプレイによって、自らのキャラクターを装う方が多いと思います。私もその一人です。
「勝負服」という言い方をするように、いざというときには女性には特に力を入れた服装を選びますよね?
TRPGにおいては、いざ勝負というときには必ずダイスを使います。そんなゲーマー最大の武器であるダイスを、自分の好きな色や質感でそろえることができたら、勝負の際にもテンションがあがるのではないでしょうか。
また、自分のプレイヤーキャラクターが大好きな人も女性ゲーマーに多いように思います。自身のキャラクターにプレゼント、というニーズもあるのではと思ったりしています。
出かける前にピアスやシュシュを選ぶように、セッションに出かける前に、今日の勝負ダイスを選んで持っていく・・・なんて、実に女性らしいのではないかと。
男性が多いゲーム業界ですが、あえてファッション感覚で楽しめるモノをそろえてみようと思っています。』
デザインについて
女性にアピールしている珠工房さんのオリジナルデザインダイスですが、デザインもこだわって作っています。
例えば、16mmの平面になるため、あまり複雑なデザインをしても目立たないので、シンプルかつファッショナブルなものを心がけてらっしゃいます。
現在発売中なのは、6面ダイスの家紋ダイスシリーズ、ポーンになるダイスシリーズと、10面ダイスの砂糖菓子シリーズ。
家紋は戦国時代の武将の家紋を中心に、11種類。
(基本的に1の目が家紋になっておりますが、赤いダイス、真田六文銭は6の目が家紋になっています)
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ポーンになるダイスは、「仲裁者」「癒し手」「盾兵」「狂戦士」「騎兵」「暗殺者」「剣士」「槍兵」「弓兵」「魔術師」の10種類。
(下の画像では「剣士」のダイスが白1色ですが、黒地に金のダイスも取り扱っております)
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砂糖菓子は暖色系の「パープル」「レッド」「ピンク」「ホワイト」と寒色系の「ブルー」「ライトブルー」「ティール」「スモーク」の8種類。
また、現在開発中の「歯車」「雪」「桜」「フクロウ」が今後の新商品として、販売予定となっています。
オリジナルデザインの受け付けも
珠工房さんでは、オリジナルデザインの受け付けもしていらっしゃいます。
送料や納期等の詳しいお話がありますので、そのお値段はここでは一概に明言できませんが、最少ロットは10個からオーダーが可能です!
以下の画像は、なるねこはうすさんのオリジナルデザインダイスですが、あなただけのオリジナルデザインダイス、作ってみませんか?
どこで売ってるの?
現在は、公式ホームページからの通信販売がメインになっています。
また、東京都豊島区の池袋にあるゲームスペース「なるねこはうす」では委託販売もしていますので、実際にお手に取ってご覧いただくことが可能です。
更に、5月のゲームマーケットではブースを出すことが決定しております!
新作ダイスもそちらで販売予定ですので、要チェックですよ!
皆さまに、珠工房からのメッセージ
珠工房さんから、皆さまにメッセージを頂きました。
『自分の気持ちをあげてくれるダイスに出会えたら、きっとゲームでダイスを振るときも、自信たっぷりに楽しく判定ができるはず。
自分に似合う服を選ぶように、ゲームライフを楽しく装う、自分のためのダイスを選ぶ際の選択肢に、珠工房を加えていただけたら、うれしいです。』
せっかくのセッションですから、お気に入りのダイスは持ちたいですよね!
是非1度、珠工房さんのダイスをご覧になってください。
最後に
今回、珠工房さんをご紹介出来ましたのは、先にご紹介しましたゲームスペース「なるねこはうす」さんのご縁があったからこそです。
珠工房さんをご紹介くださいましたなるねこさん、ありがとうございました。
珠工房さんにおかれましては、この度記事に取り上げさせてくださったことを快諾下さり、心より御礼申し上げますと共に、今後益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。
また、最後までお付き合いくださいました皆さまにも、ありがとうございました!
珠工房 公式ホームページはこちら
珠工房 Twetter @tama_koubou
お気に入りのデザインを見つけよう! オリジナルダイス制作販売「珠工房」 突然ですが、皆さまにはお気に入りのダイスはありますでしょうか? ここ1番の勝負はこのダイス!というのが決まっていらっしゃる方、多いように思います。 今回は、オリジナルデザインのダイスを製作販売していらっしゃる珠工房さんを皆さまにご紹介したいと思います! 珠工房とは 2016年11月に、女の子がファッション雑貨を選ぶ感覚で、ダイスを選んでもらえたら・・・というコンセプトで、オープンした工房です。 女性のゲーマーさんをターゲットに見据えつつ、でもそのデザインは男性が使っても遜色なく、カッコいいものがそろっております。 珠工房オープンのきっかけ これには、運命が働いた、としか言いようがないくらい、素敵なエピソードがあります。 ご友人が結婚するに当たり、結婚披露宴パーティのプロデュースと司会を引き受けたところ、新婦さんから「ゲームが好きな夫婦なので、プチギフトはダイスにしようかと思っているのだけど・・・」とご相談を受けました。 そこで、「折角なのでオリジナルデザインで作ってみましょう」と提案したことと、同時期にグランクレストというTRPGのキャンペーンを遊んでいらっしゃり、それぞれのキャラクターのイメージダイスを作って贈ったら喜ばれるのでは?と考え、サプライズで制作したことで、オンリーワンのダイスが作れることを試すことができ、これならお仕事が出来るとお考えになったのがきっかけでした。 結婚披露宴パーティのプチギフトは、招待した皆さまもゲームで遊ばれる方が多く、大変喜ばれたそうです。 また、サプライズプレゼントも大成功で、セッション中にそのダイスで判定をするときは大変盛り上がったそうです。 拘ったコンセプト TRPGで遊ぶとき、ダイスにこだわる人は多いと思います。 プレイヤーとしてのマイダイス以上に、「このシステムならこのダイス」「このキャラクターだからこのダイス」というように、着替えるような感覚でダイスを選べたら楽しいのではないかと考え、オープンに踏み切った珠工房さん。 女の子がファッション雑貨を選ぶ感覚でダイスを選んでもらえたら・・・という思いがあったそうですが、ここには強いこだわりがあります。 珠工房さんから、直接お話を伺いました。 『多くの女性は装うことが好きだと思っています。 TRPGにおいてもイラストやロールプレイによって、自らのキャラクターを装う方が多いと思います。私もその一人です。 「勝負服」という言い方をするように、いざというときには女性には特に力を入れた服装を選びますよね? TRPGにおいては、いざ勝負というときには必ずダイスを使います。そんなゲーマー最大の武器であるダイスを、自分の好きな色や質感でそろえることができたら、勝負の際にもテンションがあがるのではないでしょうか。 また、自分のプレイヤーキャラクターが大好きな人も女性ゲーマーに多いように思います。自身のキャラクターにプレゼント、というニーズもあるのではと思ったりしています。 出かける前にピアスやシュシュを選ぶように、セッションに出かける前に、今日の勝負ダイスを選んで持っていく・・・なんて、実に女性らしいのではないかと。 男性が多いゲーム業界ですが、あえてファッション感覚で楽しめるモノをそろえてみようと思っています。』 デザインについて 女性にアピールしている珠工房さんのオリジナルデザインダイスですが、デザインもこだわって作っています。 例えば、16mmの平面になるため、あまり複雑なデザインをしても目立たないので、シンプルかつファッショナブルなものを心がけてらっしゃいます。 現在発売中なのは、6面ダイスの家紋ダイスシリーズ、ポーンになるダイスシリーズと、10面ダイスの砂糖菓子シリーズ。 家紋は戦国時代の武将の家紋を中心に、11種類。 (基本的に1の目が家紋になっておりますが、赤いダイス、真田六文銭は6の目が家紋になっています) ポーンになるダイスは、「仲裁者」「癒し手」「盾兵」「狂戦士」「騎兵」「暗殺者」「剣士」「槍兵」「弓兵」「魔術師」の10種類。 (下の画像では「剣士」のダイスが白1色ですが、黒地に金のダイスも取り扱っております) 砂糖菓子は暖色系の「パープル」「レッド」「ピンク」「ホワイト」と寒色系の「ブルー」「ライトブルー」「ティール」「スモーク」の8種類。 また、現在開発中の「歯車」「雪」「桜」「フクロウ」が今後の新商品として、販売予定となっています。 オリジナルデザインの受け付けも 珠工房さんでは、オリジナルデザインの受け付けもしていらっしゃいます。 送料や納期等の詳しいお話がありますので、そのお値段はここでは一概に明言できませんが、最少ロットは10個からオーダーが可能です! 以下の画像は、なるねこはうすさんのオリジナルデザインダイスですが、あなただけのオリジナルデザインダイス、作ってみませんか? どこで売ってるの? 現在は、公式ホームページからの通信販売がメインになっています。 また、東京都豊島区の池袋にあるゲームスペース「なるねこはうす」では委託販売もしていますので、実際にお手に取ってご覧いただくことが可能です。 更に、5月のゲームマーケットではブースを出すことが決定しております! 新作ダイスもそちらで販売予定ですので、要チェックですよ! 皆さまに、珠工房からのメッセージ 珠工房さんから、皆さまにメッセージを頂きました。 『自分の気持ちをあげてくれるダイスに出会えたら、きっとゲームでダイスを振るときも、自信たっぷりに楽しく判定ができるはず。 自分に似合う服を選ぶように、ゲームライフを楽しく装う、自分のためのダイスを選ぶ際の選択肢に、珠工房を加えていただけたら、うれしいです。』 せっかくのセッションですから、お気に入りのダイスは持ちたいですよね! 是非1度、珠工房さんのダイスをご覧になってください。 最後に 今回、珠工房さんをご紹介出来ましたのは、先にご紹介しましたゲームスペース「なるねこはうす」さんのご縁があったからこそです。 珠工房さんをご紹介くださいましたなるねこさん、ありがとうございました。 珠工房さんにおかれましては、この度記事に取り上げさせてくださったことを快諾下さり、心より御礼申し上げますと共に、今後益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。 また、最後までお付き合いくださいました皆さまにも、ありがとうございました! 珠工房 公式ホームページはこちら 珠工房 Twetter @tama_koubou
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