「ボボスカドガーン」漫才live
冗談かと思われそうですが、「エイ」さんとのコンビ「ボボスカドガーン」にて、M-1グランプリ2023、1回戦に出場します。
Rグループ、16:30以降の出演になります。「言語レス即興漫才」という形式(の予定)です。よろしくお願いします。
M-1 グランプリ 2023 1回戦(全10都市で順次開催)
開催日: 2023/10/3(火)
開催時間: 10:00(開場 09:45)
会場: [東京] シダックスカルチャーホール
MC どりあんず
チケット: 前売自由 500円 / 当日自由: 500円
再入場はできませんのでご了承ください。
前売券は下記「FANYチケット」にて販売します。
当日券は、会場にて「開場時間」より販売します。
※未就学児入場不可。
※お1人様につき1枚の販売です。
※入場時にのみ販売します。
チケット販売
FANYチケット
https://ty.funity.jp/ticket/show/page?clientid=yoshimoto&show=509809&sno=2&skb=1&showno=2
※販売ページの注意事項を必ずお読みください。
※9/17(日)10時より販売いたします。
備考 前売券完売の場合や場内満席の場合は、当日券を販売せず整理券を配布します。
整理券は開場時間の10分前から配布します。
熱中症や密集対策のため、整理券配布時間を早める場合があります。
整理券はお1人様につき1枚の配布となります。
整理券を受け取った後は、一時解散となります。会場での待機はできませんのでご了承ください。
空席が出た場合は、M-1グランプリ公式Twitterにてご案内可能な整理券番号をお知らせします。お手元の整理券番号をご確認の上、指定の時間までに会場へお戻り下さい。
https://www.m-1gp.com/schedule/detail.html?id=561
ボボスカドガーン | コンビ情報
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M-1 グランプリ
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SHIDAXカルチャーホール
〒150-0041
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TEL: 03-3770-1426
FAX: 03-3464-0645
Email:
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Website
https://shidax-culturehall.com/
M-1 グランプリ 2023
1回戦 10/3(火)[東京] シダックスカルチャーホール 出場者一覧
灰人間(フリー)
リパブリック(フリー)
お越しの方(アマチュア)
江ノ電(アマチュア)
爆笑宣言(ビー・エムコーポレーション)
序の口(アマチュア)
もじもじハイテンション(フリー)
嘘クラテス(フリー)
カオス1/2(アマチュア)
新宿ガンツ(タイタン)
友を失った夜(アマチュア)
ごぼうとにんじん(アマチュア)
エスケーツー(フリー)
トマトオロシー(アマチュア)
リンリン(ビクターミュージックアーツ)
プロテインハンバーグ(アマチュア)
三軒茶屋セレナーデ(フリー)
人力飛行機(アマチュア)
アウベス(SHUプロモーション/フリー)
ピンクベジータ(吉本興業/アマ)
放電(アマチュア)
リキショウ(アマチュア)
サブリミナル校歌(アマチュア)
てぃーヤ(アマチュア)
無人音楽(ワタナベエンターテインメント)
スイカ泥棒(アマチュア)
シモン(フリー)
コニチカ(アマチュア)
濡れマッチョ(吉本興業)
みちがえる(SMA)
怒り(フリー)
ノースリープ(アマチュア)
コヤド(アマチュア)
カスタード小籠包(アマチュア)
夏のまもの(アルテミス)
ぱやねぱやおき(アマチュア)
リベロジャム(アマチュア)
サリンジャー(フリー)
サワニシ(ショウガールズ)
もぐもぐピーナッツ(吉本興業)
極東ランデブー(吉本興業)
ベターズ(アマチュア)
ゆかんぬ岬(アマチュア)
タブララサ(アマチュア)
インディポップレッスン(フリー)
社長とじゃむ(SMA/フリー)
興鮫(アマチュア)
役所へ(アマチュア)
かしましペンタゴン(アマチュア)
四槓子(ワタナベエンターテインメント)
一向聴(アマチュア)
ロマネ(アマチュア)
ゲッタウェイ(アマチュア)
いつも海鮮丼(アマチュア)
優勝(吉本興業/K-PRO)
8番団地(アマチュア)
タケシ(アマチュア)
迷彩inTokyo(フリー)
マリリンズ(SMA/ワタナベエンターテインメント)
はがゆい季節(松竹芸能/タイタン)
ロイヤルタウン住民(アマチュア)
待って砂肝(アマチュア)
シャレード(アマチュア)
パニ丸(アマチュア)
ずるむけトランポリン(フリー/SHUプロモーション)
低空飛行(吉本興業)
ブルホーン(アマチュア)
アツシとヒロさん(トップ・カラー)
ぱぴーファット(ワタナベエンターテインメント)
夢見るマカロン(フリー)
蜂蜜どきっ(アマチュア)
かるポン(げんしじん事務所)
ねこまどう(ワタナベエンターテインメント)
最終号機(アマチュア)
オルカ(フリー)
あともどりできない(アマチュア)
リッチモン(株式会社TAP)
ギンピーギンピー(フリー)
22yotte denwa(アマチュア)
どきどき成仏(アマチュア)
スタイリッシュブラザーズ(アマチュア)
塩分(吉本興業)
味噌大根(フリー)
シモヘイヘ(フリー)
パルチザン(アマチュア)
ファウルチップ(アルテミス/アマチュア)
湯上がり夫婦(ラフィーネプロモーション/ライジングアップ)
ドギマギ☆ダイナマイト(アマチュア)
マングース(アマチュア)
チンチャマシケッタ(アマチュア)
ねむたい警備隊(TWIN PLANET/フリー)
チンピラライスバーガー(フリー)
Baby Baby (アマチュア)
ドンブランコ(アマチュア)
イェンダー(アマチュア)
ツンツクツン万博(グレープカンパニー)
ザ・ダッチライフ(フリー)
アイス珈琲(フリー)
ダウニー(フリー)
6年4組(アマチュア)
やましゅうとそーしとあべ(吉本興業/ホリプロコム/フリー)
かいShinE(アマチュア)
ハクジョウ(アマチュア)
獄中結婚(アマチュア)
ぴペンギンぴ(アマチュア)
ウーパーアッパー(グレープカンパニー)
わせら(アマチュア)
こんてぃにゅー(アマチュア)
明転ハーモニー(アマチュア)
おともだちーズ(アマチュア)
TKC越(ホリプロコム)
ベイキャント(アマチュア)
こくごとたいく(アマチュア)
ひなたでんわ(フリー)
パワー横歩き(アマチュア)
ジョンホプキンズ(アマチュア)
ナンセンス(アマチュア)
ちぐはぐぴーなっつ(アマチュア)
パドレス(ジンセイプロ/フリー)
みみみみ(アマチュア)
吉岡さん(アマチュア)
銀の雑談会(アマチュア)
マンゴープリン(アマチュア)
メシキラ(タイタン)
鳴く(アマチュア)
ジムストーン(アマチュア)
モラル(アマチュア)
ゾロメガネン(アマチュア)
ロリポップ(アマチュア)
日比谷ベイビーズ(アマチュア)
正中線(プロダクション人力舎/フリー)
オンリーラグーン(プリュ)
サンダー幸雄(吉本興業)
ドラゴンバッタ(アマチュア)
エンドレスドリーマー(アマチュア)
プラッツ(アマチュア)
トリプルアパート(SMA/フリー)
ヘンプライト(アマチュア)
根菜サマーソルト(アマチュア)
ずんだまん(アマチュア)
かもめ経済(アマチュア)
スミイチ(トゥインクル・コーポレーション)
すずきむら(アマチュア)
ロケットランチャー(フリー)
タラコ人参エリア51号店(フリー)
もりみち(アマチュア)
古時計(フリー)
ダーブリン(吉本興業/東村プロダクション)
東海道(アマチュア)
みたらしピーチ(アマチュア)
長髪とロン毛(ライジング・アップ)
ハウンドチョーカー(ケイダッシュステージ)
スリーエイト(アマチュア)
たまり醤油(アマチュア)
リケイバカ(フリー)
ヤマトカワ(アマチュア)
しおさい(ビクターミュージックアーツ)
ぽんちょ(アマチュア)
ダイナマイツサンライズ(アマチュア)
パラレル(アマチュア)
ジャンダラ(アマチュア)
いちばんかわいい(吉本興業)
ケイちゃんケンちゃん(フリー)
ダブルボギー(アマチュア)
小さい地球儀(アマチュア)
1120(松竹芸能/フリー)
しろくま(アマチュア)
リーマン兄弟(アマチュア)
ボボスカドガーン(アマチュア)
パトラッシュ(POPエンターテインメント)
地獄スクラッパー(ワタナベエンターテインメント)
イナミティー(アマチュア)
ミラクルロマンズ(フリー)
りおれウズ(アマチュア)
裏町トレモロ(アマチュア)
ベアナックル(ホリプロコム/フリー)
こっさり(アマチュア)
星を目指して進め(アマチュア)
イナキ(フリー)
モイマカ(アマチュア)
ユニークな雰囲気(ラフィーネプロモーション)
ペアチケット(アマチュア)
メキシカンチョップス(アマチュア)
スパシィーバだよ(アマチュア)
おしぼり(トゥインクル・コーポレーション)
110号室(アマチュア)
ねんりき(アマチュア)
ケルベロスの骨(アマチュア)
蒼式部(アマチュア)
やすと横澤さん(合同会社TOTONOU)
しゃとるず(アマチュア)
甘め唐辛子(アマチュア)
一緒ニ映画三るず(フリー)
回鍋肉半分あまり(アマチュア)
カウベル(吉本興業)
マクレーン(フリー)
チェリーココ(フリー)
ヒグラシ(アマチュア)
おんしらズ(ライジング・アップ/プライム)
メロディーオボコズ(フリー)
ヨハンセン(アマチュア)
止まれ響子さん(アマチュア)
シン・卒(アマチュア)
サンパチワルツ(フリー)
肥後製麺(アマチュア)
人力wikipedia(アマチュア)
オフサイド(アマチュア)
大黒天(フリー)
赤子と紙幣(プロダクション人力舎/シュー・プロモーション)
パラシオン(フリー)
イケメンズ(アマチュア)
ナスコイン(アマチュア)
あいみんLOVE(アマチュア)
クラッチセプター(フリー)
アリス川(アマチュア)
罰金おつり(アマチュア)
ランディング(アマチュア)
メントスココア(アマチュア)
まるちょう(吉本興業/フリー)
うつつ(フリー)
こはるバスケ(アマチュア)
東京アルプス(アマチュア)
研(アマチュア)
五式タイプR(フリー/アマ)
帯電シュガー(アマチュア)
キョウシャッ!!(SMA)
ヘドロ一家(吉本興業/アマ)
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online shop "清明" update 〜 「春」と「晴る」
こんばんは。
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昨日、暦は"春分"から"清明"へと移り変わった。
街を淡いピンクで染めた桜も、昨日、今日、そして明日の雨でかなり散ってしまい、見納めとなるだろう。
・
しかし、あたりを見渡すと、あちらこちらで彩り豊かに、様々な花が咲いている。
・
先週までは、上ばかり見ていたけど、今週からは少し視線を落として、足元にある春というのを楽しみたいなんて思っている。
「田舎の春は地面から感じる。都会にいた頃は��ばかり見ていた。」
なるほど。確かに。
都市で生活をしていると、春の象徴はやっぱり桜になるわけで、そんな春の訪れを上を見て感じているのだけど、田舎に行くと、畦道なんかでは、小さな野草が花をつけたり、土筆が顔を出したり、そういった小さなものから春の訪れを感じられる。
・
さて、中津はどうなのだろう。
確かに、畦道も無いし、田んぼや畑もない。
だけど、中津の多くの家庭では、軒先で園芸を楽しむ方が多い。
中津の街を歩いていると、各家庭の軒先では様々な色の花が咲き始めていて、歩きながらそう言った花が視界に入ってくるのも、また春の風景なのかもしれない。
大阪駅まで徒歩圏内ではあるものの、まだそう言った風景が楽しめるのも中津の面白さである。
いつもと違った路地などを抜けてくるとそう言った中津の風景を楽しめる。もし良かったら、そんな中津の春を楽しみながら、当店に遊びにきていただけると嬉しく思う。
・
さて、すっかり気候も春らしくなった。
日中、降り注ぐ陽射しも明るさを帯びている。
"清明"
「万物が生き生きとする頃」
確かに、花や植物、虫たちも、そして私たちも、春になると、急に活気に溢れる。
・
「春」
そもそもいつからこのように呼ぶようになったのだろうか。
日本に現存する最古の歌集「万葉集」にも、既に春という言葉が使われている。
まあ、それだけ古くから春というのは馴染み深いものなのだ。(春に限らずだけど。)
・
そんな「春」の語源には諸説あるとされている。
木の芽がふっくらと「張る」。
田畑を「墾る」。(これで"はる"と読む)
空が「晴る」。
・
この3つが春の語源とされている。
まあ、確かにどれも聞くとなるほどと思う。
そんなわけで、今回は、3つ目の、空が「晴る」を軸にアイテムを選んでみた。
晴れた春の日に降り注ぐ陽射しを通じて生まれる陰翳や奥行きのあるアイテム。
また、そう言った日差しが生み出す美しい光沢。
シンプルに、美しい青をベースにしたアイテム。
また、清々しい青空から感じる、清涼感をイメージしたアイテムなど。
どれも僕の主観ではあるけど、晴れた春の空をテーマに、彩りに満ちた世界を楽しんでいただければと思ってアイテムをピックしてみた。
桜は散ったけど、これから様々なイベントも開催される頃になるのだろうか。
春のお出かけやイベントを存分に楽しんでみてはいかがだろう。
・
そんな心地の良い春の日に、せっかくならちょっとおしゃれしてお出かけをしてみてはいかがだろう。
なお、オンラインショップは下記からご覧いただける。
ちなみに、僕は春になると青色の服をちょっと装いに取り入れるという個人的な楽しみがある。
なので、春の纏う青をテーマに、引き続き、この時期にオススメの青の服たちもご覧いただけるので、併せてご覧いただけると嬉しく思う。
それでは次回もお楽しみに。
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【QN】冒険者という選択
夕暮れ。
見渡す限りの草原を、牧舎へと帰る家畜の群れが歩いている。
そよ風が黄金色の小麦畑を揺らし、大地のさざ波を響かせている。
来週から収穫が始まるらしい。なんでも大豊作だそうだ。
一番景色の良い時期にやって来れた幸運に思わず笑みがこぼれた。このささやかな幸運は、いつだって味方している。
粒の大きく、色艶も良い小麦。これで作ったパンの味はもう保証されたようなもので、想像するだけで涎が湧き出した。
長閑な村だ。一回りすれば、それがこの村の総て。見知った顔ばかりの小さな世界。
自分の故郷もこんな感じだった。 両親、姉妹達、村の人々。 今でも一人ひとり、顔を鮮明に思い出すことができる。
毎日がゆっくりと過ぎ去り、これが永遠に続くようで、心地よくて。
冬が来れば次の春を、夏を、秋を――未来を家の中で語った。なんでもないシチューを家族と囲んで食べるのが、幸せな時間だった。
日が沈む。一日が、終わる。
日没を眺めていて、なぜだか感情が揺さぶられるようになったのは、何歳の時だっただろう?
それが平凡な暮らしをよしとせず、広大な世界を、大空を羽ばたき見てみたいという欲求だったのにはっきりと気づいたのは13歳の時だった。だから、それより前の筈だ。
大家族の四女、パティリッタという自分は、村という小さな世界で我慢できなくなっていたのだ。
「ラクトー!」
今日の宿を世話になる村長の家、母親であろう女性が大きな声をどこか遠くへ投げかけたのを耳にして、意識を戻した。
見れば一人の少年がこちらへ歩いてきている。この家に住む子供なのだとすぐにわかった。
「お客さんがいらっしゃったから、ラクトも挨拶なさい」
家の扉が開いて、一人の少年が入ってくる。
「おぉ、戻ったか」
彼の父親、つまりこの村の長が少年に挨拶を促している。
ラクトと呼ばれた少年は、こちらを見ると怪訝な顔をしていた。こんな時期に客が来るなんて珍しい、と表情が物語っている。
旅装束の自分はさぞ奇妙に見えているのだろう。尤もな反応だ。
「こいつはうちの倅、ラクトと言います」
どこにでもいそうな素朴な雰囲気の少年だった。自分より一回りほど幼い。
栗毛に丸いおっとりとした印象を持たせる瞳がこちらを見つめている。
“はじめまして”と挨拶して、今日はこの家でお世話になることなどを伝えると彼は納得してくれたようだった。
この村に来たのは全くの偶然だ。
仕事を引き受けた帰りに道に迷ってしまい、たまたまこの村を見つけただけだった。
道を尋ねるだけにしようかとも思ったが、夜に空を飛ぶのは慣れていないし、危険なものになる。
多少路銀もあることだし、対価を示せば泊めてくれるだろうという安易な考えから滞在を決めた。なにより腹が空いていた。
この村は雰囲気もいいし、ついでに冒険で疲れた躰をじっくり休めるのに、今日だけの宿ではなく明日の宿も頼んだところ快諾してもらえたのが嬉しかった。
「何もないところですが、ゆっくりしていってください」
歓迎の言葉を改めて口にした村長が続ける。
「本当ならめったにこない客人ということで歓迎したいところですが、明日からは収穫で手が空いておりません。もし何かあれば、ラクトを呼びつけてください」
その収穫を手伝おうかと申し出ようかと考えたが、一日限りの客人だ。よそ者には違いない。あえて言葉に甘えたほうが、妙な角を立てることもないだろうと思い直した。
「自分の故郷の村だと思って、ゆっくりなさってください」
突然の来客にここまで手厚くしてもらえて少し申し訳なくも思う。それに村長は対価はいらぬと言っていた。
本当に対価は必要ないのかと問うと、彼は改めて首をゆっくりと横に振った。
「あぁ、お礼はいりません。どうしてもお礼がしたいというのなら、この村の人々はとても親切で、美味しい小麦を作る村だったと話してもらえでもしたら十分です」
こうして一時、冒険者稼業を忘れ、思い切り羽根を伸ばす休暇が始まった。
翌日、日の昇る前に起きた。
故郷によく似たこの村で、故郷で生活していた時のように目を覚ます。
一瞬時間が巻き戻ったように感じるが、そばに放り出していた冒険用具を見れば、すぐに自分が冒険者であることを自覚した。
そういえば道具の手入れをサボっていたなと思い出し、朝の静かな時間を手入れに充てる。
しばらくするとラクトが起こしに来てくれた。そして、朝の仕事の前に軽い食事があるのだと教えてくれた。
季節の野菜と、豚の脂身と、古くて固くなったパンを放り込んだ農家のシチュー。冒険者となり世界を見て回った今、それはひどく質素なものだと知っている。
けれども、これ以上心が安らぐものもない。これが故郷の味、少し郷愁に駆られる味なのだ。
食事が終われば、村長達は収穫のために畑へ出かける。あとに残されたラクトは、なにか自分にできることはあるかと尋ねてきた。
難しい注文はできない。ならばと考えたのは、村の案内だった。
既に一通り見て回ったが、村人であるラクトの目線から見て紹介されるこの村の風景は、また違って見えるのかもしれないから。
古びた風車、広がる畑、脇を流れる小さな川。
最後に見晴らしのいい丘まで登ってみると、やっぱり見て回るのはあっという間で、ラクトはここからどう案内したものかと頭を悩ませているようだった。
“お礼になにかできることはない?”と、助け舟を出してみるとラクトは畑の向こうに目をやる。
その先には街道が見える。あれをたどればどこか街に辿り着くことができるだろう。この村とは違う、もっと活気があって、忙しなくて、文化に彩られた街だ。
更に街道をたどれば、その街よりもっと大きな都市があって、更に回れば、都市が集まり形成される国家というものを知ることができる筈だ。
ラクトの表情は、どこか憧れのようなものが見えていた。その発見に、少しドキリとした。――かつての自分にそっくりだ。
彼は予想通り、こんなお願いをしてくれた。
――じゃあ、色んな旅の話を聞かせてもらえませんか?
喜んで、その“依頼”に応じるこ��にした。
華々しい大成功とまではいかないが、それなりに胸踊り手に汗握る冒険を繰り広げてきたつもりだ。
普段は酒場で酒を片手に、同じ冒険者達へ話すその冒険譚を村の少年に話すというのは、新鮮な気持ちがした。
「じゃあ、ここに来る前の出来事から……」
遠い地の話をした。
異国の文化を語り、想像だにしない絶景を想起しながら言葉に起こした。
まだ見ぬ人々の物語をした。
噂でしか聞いたことのない、雲の上のような人々、本当に存在するのかどうか、霞のような人々を紹介した。
笑ってしまうような冒険もあれば、今でも答えの出せない不思議な冒険、物悲しい背景を知り涙した冒険を、時間の許す限り伝えた。
食い入るように聞き入ってくれるラクトに、普段以上に舌が回っていたように思う。
気がつけば、今日という太陽はすっかり傾き始めていた。教会の鐘の音が響いた。
あっという間の時間が過ぎ去り、ラクトはまだ冒険譚を聞いていたいと残念そうな顔をし��が、夕餉が始まるからと言い率先して家へと足を向けていた。
一日楽しい時間が過ごせたと夕食の場で改めて村長らに礼を述べると、彼らも嬉しそうだった。ラクトは少し、残念そうだったけれど。
そうして、また一日が終わった。
次の日の朝、支度を整え泊めてくれた礼を述べ、街へと発とうとした時だった。
「僕、あの丘まで冒険者さんを送っていくよ」
ラクトがそう申し出た。それはとっさに考えついたように少し早口で、頬が紅潮していた。
彼はなにか、決めたのだと思った。かつての自分がそうだったから、よくわかった。
けれど、あえて何も言わずに彼の見送りをただ受けることにした。
そうして丘を登り終えた時、いよいよ彼はその心の内を口にする。
収穫祭が終われば、自分は村の長になる準備を始める。
そうして村を支える立場になれば、もうこの村からは離れることはできない。世界は、この村で閉じることになる。
暖かくて平穏で、何も問題がない穏やかな生活。だけどそれがとても怖いと彼は言った。
世界は広く、この村は狭い。それに気づいた今はもう。
「広い世界を見たい」
彼はその先をどう紡ぐか長い間考え、そして口にした。
「だからお願いです」
決心を宿した瞳がこちらを見据えている。
「僕を村から連れだしてくれませんか?」
勇気を振り絞ったのだろう、その声と手は震えていた。顔は俯き、直視することができなくなったらしい。
考える時間は十分にあった。何度もはじめから考えて、そして一つの答えを出した。
――連れて行ってもいい。
そう答えた。ラクトの顔が跳ね上がり、明るいものへと変わっていく。
けれどそれを見ながら、胸中は複雑なままだった。
同じ思いを抱き、そして本当に冒険者になったからこそ、その選択がいかに重たく辛いものかを自分はよく知っている。
昨日、この丘で彼に話した輝かしい冒険譚の陰に潜む闇を、知っている。
死の恐怖に怯え、飢えに恨めしげに空を仰ぎ、後悔を繰り返し、平穏な生活を渇望する、その辛さを語った。
あなたはとても恵まれた場所にいる。家族がいて、家があり、温かい食事があり、未来が約束されている。
――それでも、それを捨て冒険者になるのか?
彼は一瞬怯みそうになったが、それでも自分の意志は変わらないとはっきりと顔を見て答えてくれた。
彼の返事に、頷く。そして言った。
「答えが出ているなら、その決断を誰かに委ねちゃいけません。あなた一人が決めるんです。他の誰でもない、あなたが、です」
「もし困難が立ちふさがるなら、力を貸しましょう。けれどあなたの前に道はあるし、歩ける足も持っている」
「冒険者になりたいなら、なればいいんだと思います。けれどそれは自分が選び、すべての責任を取る。……それができるのが冒険者なんじゃないかとあたしは思います」
彼は驚いたように目を見開いた。それから、少し落ち込んだような様子を見せた。
彼はどんな決断をするだろう。自分と同じように、世界へと羽ばたくのだろうか。
何れにせよ、それを決めさせるのは役目ではない。できるのは、ここまでだ。
「もし、それでも冒険者を選ぶなら。きっとあなたはいい冒険者になれると思います! ……また、何処かで逢えるといいですね。それでは!」
背を向けて、人の手を翼に戻し、飛び立とうとしたその瞬間だった。
「待って、ください」
振り返れば唇をキュッと結んで、こちらを見るラクトの姿。
「最後に一つだけ聞かせてください」
彼の表情に見える決意と、憧れ。それらがない混ぜになった物を見て、思わず微笑む。
「冒険者さんは、なんで冒険者になったんですか?」
とても簡単な質問だ。
あたしはこう答えて、今度こそ、空へと羽ばたいた。
「世界を――知るためですよ!」
これは名もなき村で起きた、何処にでも居る冒険者と、何処にでも居る憧れを持った少年の物語。
――冒険者という選択。
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ひとみに映る影シーズン2 第五話「大妖怪合戦」
☆プロトタイプ版☆
こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。
最低限の確認作業しかしていないため、
誤字脱字誤植誤用等々あしからずご了承下さい。
尚、正式書籍版はシーズン2終了時にリリース予定です。
(シーズン2あらすじ)
私はファッションモデルの紅一美。
旅番組ロケで訪れた島は怪物だらけ!?
霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった!
実は私も霊感あるけど、知られたくないなあ……
なんて言っている場合じゃない。
諸悪の根源は恩師の仇、金剛有明団だったんだ!
憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!!
pixiv版 (※内容は一緒です。)
☆キャラソン企画第五弾 後女津親子「KAZUSA」はこちら!☆
དང་པོ་
河童信者に手を引かれ、私達は表に出る。小学校は休み時間にも関わらず、校庭に子供達が一人もいない。代わりに何故か、島の屈強そうな男達が待ち構えていた。
「いたぞ! 救済を!」「救済を!」
「え、何……わあぁっ何を!?」
島民達は異様な目つきで青木さんを襲撃! 青木さんは咄嗟に振り払い逃走。しかし校外からどんどん島民が押し寄せる。人一倍大柄な彼も、多勢に組み付かれれば為���術もないだろう!
「助けて! とと、止まってください!!」
「「救済を……救済を……!」」
ゾンビのようにうわ言を呟きながら青木さんを追う島民達。見た限り明確な悪霊はいないようだけど、昨晩の一件然り。彼らが何らかの理由で正気を失っている可能性は高い! このままでは捕まってしまう……その時タナカDが佳奈さんにカメラを預け、荒れ狂う島民達と青木さんの間に入った!
「志多田さん、紅さん、先に行って下さい! ここは僕が食い止めゴハアァ!!」
タナカDに漁師風島民のチョークタックルが炸裂!
「タナカDーっ!」
「と……ともかく行け! 音はカメラマイクでいいから、ばっちり心霊収めてきて下さいよッ……!」
「い、行きましょう! ともかく大師が大変なんです!!」
河童信者に急かされ、私と佳奈さんは月蔵小学校を離れた。傾斜が急な亡目坂を息絶えだえに駆け上がると、案内された先は再び御戌神社。嫌な予感が募る。牛久大師は……いた。大散減を封印していた祠にだらりと寄りかかり、足を投げ出して座っている。しかも、祠の護符が剥がされている!
「んあー……まぁま、まぁまぁ……」
牛久大師は赤子のように指を咥え、私を見るなりママと呼び始めた。
「う……牛久大師?」
「この通りなのです。大師は除霊のために祠の御札を剥がして、そうしたら……き、急に赤ちゃんに……」
河童信者は指先が震えている。大師は四つん這いで私ににじり寄った。
「え、あの……」
「エヘヘ、まんまー! ぱいぱい! ぱいぱいチュッチュ!!」
大師が口をすぼめて更ににじり寄る。息が臭い。大師のひん剥いた唇の裏側にはビッシリと毛穴ような細孔が空いていて、その一粒一粒にキャビアみたいな黒い汚れが詰まっている。その余りにも気色悪い裏唇が大師の顔の皮を裏返すように広がっていき……って、これはまさか!
「ヒィィィッ! 寄るな、化け物!!」
私は咄嗟に牛久大師を蹴り飛ばしてしまった。今のは御戌神社や倶利伽羅と同じ、金剛の者に見える穢れた幻視!? という事は、大師は既に……
「……ふっふっふっふ。かーっぱっぱっぱっぱっぱ!!」
突然大師は赤子の振りを止め、すくっと立ち上がった。その顔は既に平常時に戻っている。
「ドッキリ大成功ー! 河童の家でーす!」
「かーっぱっぱ!」「かっぱっぱっぱ!」
先程まで俯いていた河童信者も、堰を切ったように笑い出す。
「いやぁパッパッパ。一度でいいから、紅一美君を騙してみたかったのだ! 本気で心配してくれたかね?」
「かっぱっぱ!!」「かっぱっぱっぱぁーっ!!」
私が絶句していると、河童の家は殊更大きく笑い声を上げた。けどよく見ると、目が怯えている? 更には何故か地面に倒れたまま動かない信者や、声がかすれて笑う事すらままならない信者もいるようだ。すると大師はピタリと笑顔を止め、その笑っていない信者を睨んだ。
「……おん? なんだお前、どうした。面白くないか?」
大師と目が合った信者はビクリと後ずさり、泣きそうな声で笑おうと努力する。
「かかッ……かっぱ……かぱぱ……」
「面、白、く、ないのか???」
大師は更に高圧的に声を荒らげた。
「お前は普段きちんと勤行してるのか? 笑顔に勝る力無し。教祖の俺が面白い事を言ったら笑う。教義以前に人として当たり前のマナーだろ、エエッ!?」
「ひゃいぁ!! そそ、そ、その通りです! メッチャおもろかったです!!」
「面白かったんなら笑えよ!! はぁ、空気悪くしやがって」
すると大師は信者を指さし、「バーン」と銃を撃つ真似をする。
「ひいっ……え?」
「『ひいっ……え?』じゃねえだろ? 人が『バーン』っつったら傷口を抑えて『なんじゃカパあぁぁ!?』。常識だろ!?」
「あっあっ、すいません、すいません……」
「わかったか」
「はい」
「本当にわかったか? もっかい撃つぞ!」
「はい!」
「ほら【バーン】!」
「なんじゃッ……エッ……え……!?」
信者は大師が期待するリアクションを取らず、口から一筋の血を垂らして倒れた。数秒後、彼の腹部から血溜まりが静かに広がっていく。他の信者達は顔面蒼白、一方佳奈さんは何が起きたか理解できず唖然としている。彼は……牛久大師の脳力、声による衝撃波で実際に『銃殺』されたんだ。
「ああもう、下手糞」
「……うわああぁぁ!」「助けてくれーーっ!!」
信者達は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。すると大師は深くため息をつき、
「はあぁぁぁ……そこは笑う所だろうが……【カーッパッパァ】!!!」
再び特殊な声を発した。すると祠から大量の散減がワサワサと吹き出し、信者達を襲撃する!
「ボゴゴボーーッ!」「やめ、やめて大師、やめアバーーッ!」
信者達は散減に体を食い荒らされ、口に汚染母乳を注ぎこまれ、まさに虫に寄生された動物のようにもんどり打つ!
「どうだ、これが笑顔の力よ。かっぱっぱ!」
「牛久舎登大師! 封印を解いて、どうなるかわかってるんですか!?」
私は大師を睨みつける。すると大師は首をぐるりと傾け、私に醜悪な笑みを浮かべた。
「ん? 除霊を依頼された俺が札を剥がすのに何の問題がある? 最も、俺は最初(ハナ)からそうするつもりで千里が島に来たのだ」
「何ですって!?」
「コンペに参加する前から、千里が島には大散減という怪物がいると聞いていた……もし俺がそいつを除霊できれば、河童の家は全国、いや世界規模に拡大する! そう思っていたのだがな。封印を解いてみたら、少しだけ気が変わったよ……」
大師は祠を愛おしそうに撫で回す。
「大散減は俺を攻撃するどころか、法力を授けてくれた。この俺の特殊脳力『ホーミー』の音圧は更に強力になり、もはや信者の助けなどなくとも声で他人を殺せるほどにだ!」
信者達は絶望的な顔で大師を見ている。この男、どうやら大散減に縁を食われたようだ。怪物の悪縁に操られているとも気付かず、与えられた力に陶酔してしまったのだろう。
「もう除霊なんかやめだ、やめ。俺は大散減を河童総本山に連れて帰り、生き神として君臨してやる! だがその前に、お前と一戦交えてみたかったのだ……ワヤン不動よ!」
「!」
彼は再び私を『ワヤン不動』と呼んだ。しかもよりによって、佳奈さんの目の前で。
「え、一美ちゃん……牛久大師と知り合いなの……?」
「いいえ……い、一体、何の話ですか?」
「とぼけるな、紅一美君! 知っているぞ、お前の正体はワヤン不動。背中に影でできた漆黒の炎を纏い、脚まで届く長い腕で燃え盛る龍の剣を振るう半人半仏の影人間(シャドーパーソン)だ! 当然そこいらの霊能者とは比べ物にならない猛者だろう。しかも大いなる神仏に楯突く悪霊の眷属だと聞くが」
「和尚様を愚弄するな!」
あっ、しまった!
「一美ちゃん……?」
もう、全てを明かすしかないのか……私はついに、プルパに手をかけた。しかしその時、佳奈さんが私の腕を掴む。
「わかった、一美ちゃん逃げよう。今この人に関わっちゃダメ! 河童信者も苦しそうだし、きっと祠のせいで錯乱してるんだよ!」
「佳奈さん……」
佳奈さんは私を連れて鳥居に走った。けど鳥居周辺には何匹もの散減が待ち構えている!
「かぁーっぱっぱ、何も知らぬカラキシ小娘め! その女の本性を見よ!」
このままでは散減に襲われるか正体がばれるかの二択。それなら私の取るべき行動は、決まりきっている!
「佳奈さん、止まって!」
私は佳奈さんを抱き止め、足元から二人分の影を持ち上げた! 念力で光の屈折を強め、影表面の明暗コントラストを極限まで高めてから……一気に放出する!
「マバーッ!」「ンマウゥーッ!」
今は昨晩とは打って変わって快晴。強烈な光と影の熱エネルギーを浴びた散減はたちまち集団炎上! けど、これでついに……
「かーっぱぱぱ!! ワヤン不動、正体暴いたり! さあ、これで心置き無く戦え「どうやら間に合ったようですね」
その時、鳥居の外から牛久大師の言葉を遮る声。そして、ぽん、ぽこぽん、と小気味よい小太鼓のような音。
「誰だ!?」
ぽんぽこ、ぽんぽこ、ぽん……それは化け狸の腹鼓。鳥居をくぐり現れた後女津親子は、私達と牛久大師の間に立ちはだかった!
「『ラスタな狸』が知らせてくれたんですよ。牛久舎登大師が大散減に取り憑かれて錯乱し、したたびさんに難癖をつけているとね。だが、この方々には指一本触れさせない」
「約束通り、手柄は奪わせてもらったよ。ぽんぽこぽーん!」
万狸ちゃんが私にウインクし、斉二さんはお腹をぽんと叩いてみせる。
「ええい、退け雑魚め! お前などに興味は【なあぁいッ】!!」
大師の声が響くと、祠がズルリと傾き倒れた。そこから今までで最大級のおぞましい瘴気が上がり、大師を飲み込んでいく!
「クアァーーッパッパッパァ! 力が……力がみなぎってくるくるクルクルグゥルゥゥゥアアアアア!!!!」
バキン、ボキン! 大師の胸部から肋骨が一本ずつ飛び出し、毛の生えた大脚に成長していく!
「な……なっ……!?」
それは霊感のない者にも見える物理的光景だ。佳奈さんは初めて目の当たりにした心霊現象に、ただただ腰を抜かす。しかし後女津親子は怯まない!
「逃げて下さい、と言いたいところですが……この島に、私の背中よりも安全な場所はなさそうだ」
གཉིས་པ་
斉一さんはトレードマークである狸マントの裾から、琵琶に似た弦楽器を取り出した。同時に彼の臀部には超自然の尻尾が生え、万狸ちゃんと斉二さんも臨戦態勢に入る。病院で加賀繍さんのおばさまを守っている斉三さんは不在だ。一方ついさっきまで牛久大師だった怪獣は、毛むくじゃらの細長い八本足に八つの顔。頂上にそびえる胴体は河童の名残の禿頭。巨大ザトウムシ、大散減だ!
【【退け、雑魚が! 化け狸なんぞに興味はない! クァーッパッパァアア!!!】】
縦横五メートル級の巨体から放たれる衝撃音! 同時に斉一さんもシャラランと弦楽器を鳴らす。すると弦の音色は爆音に呑み込まれる事無く神秘的に響き、私達の周囲のみ衝撃を打ち消した!
【何ィ!?】
「その言葉、そのままお返し致します。河童なんぞに負けたら妖怪の沽券に関わるのでね」
【貴様アァァ!!】
チャン、チャン、チャン、チャン……爪弾かれる根色で気枯地が浄化されていくように、彼の周囲の景色が色鮮やかになっていく。よく見るとその不思議な弦は、斉一さんの尻尾から伸びる極彩色の糸が張られていた。レゲエめいたリズムに合わせて万狸ちゃんがぽんぽこと腹鼓を打ち、斉二さんは尻尾から糸を周囲の木々や屋根に伝わせる。
【ウヌゥゥゥーッ!】
大散減は斉一さんに足払いを仕掛けた。砂利が撒き上がり、すわ斉一さんのマントがフワリと浮く……と思いきや、ドロン! 次の瞬間、私達の目の前では狸妖怪と化した斉一さんが、涼しい顔のまま弦をかき鳴らし続けている。幽体離脱で物理攻撃無効!
「どこ見てんだ、ノロマ!」
大散減の遥か後方、後女津斉一の肉体を回しているのは斉二さんだ! 木々に伝わせた糸を掴み、ターザンの如くサッサと飛び移っていく。そのスピードとテクニックは斉一さんや斉三さんには無い、彼だけの力のようだ。大散減は癇癪を起こしたように突進、しかし追いつけない! すると一方、腹鼓を打っていた万狸ちゃんが大散減に牙を剥く!
「準備オッケー。ぽーん、ぽっこ……どぉーーーん!!」
ドコドコドコドコドコドォン!!!! 張り巡らされた糸の上で器用に身を翻した万狸ちゃんは、無数の茶釜に妖怪変化し大散減に降り注ぐ! 恐竜も泣いて絶滅する大破壊隕石群、ブンブクメテオバーストだ!!
【ドワーーーッ!!!】
大散減はギャグ漫画的なリアクションと共に吹っ飛んだ! 樹齢百年はあろう立派な椎木に叩きつけられ、足が一本メコリとへし折れる。その傷口から穢れた縁母乳が噴出すると、大散減はグルグルと身を回転し飛沫を撒き散らした! 椎木枯死!
「ッうおぁ!」
飛び石が当たって墜落した斉二さんの後頭部に穢れ母乳がかかる。付着部位はまるで硫酸のように焼け、鼻につく激臭を放つ。
「斉二さん!」
「イテテ、マントがなかったら禿げるところだった」
【なんだとッ!? 貴様ァ! 河童ヘアを愚弄するなアアァ!】
再び起き上がる大散減。また何か音波攻撃を仕掛けようとしている!?
「おい斉一、まだか!」
「まだ……いや、行っちまうか」
ジャカジャランッ!! 弦楽器が一際強いストロークで奏でられると、御戌神社が極彩色に包まれた! 草花は季節感を無視して咲き乱れ、虫や動物が飛び出し、あらゆる動物霊やエクトプラズムが宙を舞う。斉一さんは側転しながら本体に戻り、万狸ちゃんも次の妖怪変化に先駆けて腹鼓を強打する!
「縁亡き哀れな怪物よ、とくと見ろ。この気枯地で生ける命の縁を!」
ジャカン!! ザワワワワ、ピィーッギャァギャァーッ! 弦の一弾きで森羅万象が後女津親子に味方し、花鳥風月が大散減を襲う! 千里が島の全ての命を踊らせる狸囃子、これが地相鑑定士の戦い方だ!
【【しゃらくせェェェェェエエエ!!】】
キイィィーーーーィィン! 耳をつんざく超音波! 満ち満ちていた動植物はパタパタと倒れ、霊魂達は分解霧散! 再び気枯た世界で、大散��の一足がニタリと笑い顔を上げると……目の前には依然として生い茂る竹藪の群青、そして大鎌に化けた万狸ちゃん!
「竹の生命力なめんなあああぁぁ!!!」
大鎌万狸ちゃんは竹藪をスパンスパンとぶった斬り、妖力で大散減に投げつける。竹伐狸(たけきりだぬき)の竹槍千本ノックだ!
【ドヘェーーー!!】
針山にされた大散減は昭和のコメディ番組のようにひっくり返る! シャンパン栓が抜かれるように足が三本吹き飛び、穢れ母乳の噴水が宙に螺旋を描いた!
「一美ちゃん、一瞬パパ頼んでいい?」
万狸ちゃんに声をかけられると、斉一さんが再び私達の前に戻ってきた。目で合図し合い、私は影を伸ばして斉一さんの肉体に重ねる。念力を送りこんで彼に半憑依すると同時に、斉一さんは化け狸になって飛び出した。
【【何が縁だクソが! 雑魚はさっさと死んで分解霧散して強者の養分になればいい、最後に笑うのは俺だけでいいんだよ! 弱肉強食、それ以外の余計な縁はいらねぇだろうがああァーーッ!!!】】
大散減は残った四本足で立ち上がろうとするが、何故かその場から動けない。よく見ると、大散減の足元に河童信者達がしがみついている!
「大師、もうやめてくれ!」
「私達の好きだった貴方は、こんなつまらない怪物じゃなかった!」
「やってくれ、狸さん。みんなの笑顔の為にやってくれーーーッ!!」
【やめろ、お前ら……死に損ないが!!】
大散減はかつての仲間達を振り飛ばした。この怪物にもはや人間との縁は微塵も残っていないんだ!
「大散減、許さない!」
ドォンッ! 心臓に響くような強い腹鼓を合図に、万狸ちゃんに斉一さんと斉二さんが合体する。すると全ての霊魂や動植物を取り込むような竜巻が起こり、やがて巨大な生命力の塊を形成した。あれは日本最大級の狸妖怪変化、大(おっ)かむろだ!
「どおおぉぉぉおおん!!!」
大かむろが大散減目掛けて垂直落下! 衝撃で地が揺れ、草花が舞い、カラフルな光の糸が空を染める!!
【【やめろーーっ! 俺の身体が……力がァァァーーーッ!!!】】
質量とエーテル体の塊にのしかかられた大散減はブチブチと音を立て全身崩壊! 残った足が一本、二本と次々に潰れていく。
【【【ズコオオォォォォーーーーー!!!!】】】
極彩色の嵐が炸裂し、私は爆風から佳奈さんを庇うように抱きしめる。轟音と光が収まって顔を上げると、そこには元通りに分かれた後女津親子、血や汚れにまみれた河童信者、そして幾つもの命が佇んでいた。
གསུམ་པ་
「一美ちゃーーん!」
戦いを終えた万狸ちゃんが私に飛びついた。支えきれず、尻餅をつく。
「きゃっ!」
「ねえねえ、見た? 私の妖術凄かったでしょ!?」
「こら、万狸! 紅さんに今そんな事したら……」
斉一さんがちらっと佳奈さんに視線を向けた。万狸ちゃんは慌てて私から離れ、「はわわぁ! 危ない危ない~」と可愛く腹鼓を叩いた。私も横を見ると、幸い佳奈さんは目を閉じて何か考えているようだった。
「佳奈さん?」
「……そうだよ、怪物は『五十尺』……気をつけて、大散減まだ死んでないかも!」
「え!?」
その時、ズガガガガガ! 地面が激しく揺れだす。後女津親子は三人背中合わせになり周囲を警戒。佳奈さんがバランスを崩して転倒しそうになる。抱きとめて辺りを見渡すと、祠と反対側の手洗い場に煙突のように巨大な柱が天高く突き上がった! 柱は元牛久大師だったご遺体をかっさらって飲み込む。咀嚼しながらぐにゃりと曲がり、その先端には目のない顔。まさか、これは……
「大散減の……足!」
「ちょっと待って下さい。志多田さん……『大散減は五十尺』と仰いましたか!?」
斉一さんが血相を変えて聞く。言われてみれば、青木さんもそんな事を言っていた気がする。
「あの、こんな時にすいません。五十尺ってどれくらいなんですか?」
「「十五メートルだよ!!」」
「どえええぇぇ!?」
恥ずかしい事に知らないのは私とタナカDだけだったようだ。にわかには信じ難いけど、体長十五メートルの怪物大散減は、地中にずっと潜んでいたんだ! その寸法によると、牛久大師が取り込んでいた力は大散減の足一本程度にも満たない事になる。ところが、大師を飲み込んだ大散減の足はそのまま動かなくなった。
「あ……あれ?」
万狸ちゃんは恐る恐る足に近付き観察する。
「……消化不良かな。封印するなら今がチャンスみたい」
斉一さんと斉二さんは尻尾の糸の残量を確認する。ところがさっきの戦闘で殆ど使い果たしてしまっていたようた。
「参ったな……これじゃ仮止めの結界すら張れないぞ」
「斉三さんを呼んでくるよ、パパ。ちょっと待ってて!」
万狸ちゃんが亡目坂へ向かう。すると突然斉一さんが呼び止めた。
「止まれ、万狸!」
「え?」
ボタッ。振り向いた万狸ちゃんの背後で何かが落下した。見るとそれは……まだ赤い血に濡れた人骨。それも肋骨だ!
「ンマアアアァァゥゥゥ!!!」
「ち、散減!?」
肋骨は金切り声を上げ散減に変化! 万狸ちゃんが慌てて飛び退くも、散減は彼女を一瞥もせず大散減のもとへ向かう。そしてまだ穢れていない母乳を口角から零しながら、自ら大散減の口の中へ飛びこんでいった。
「一美ちゃん、狸おじさん、あれ!」
佳奈さんが上空を指す。見上げるとそこには、宙に浮かぶ謎の獣。チベタンマスティフを彷彿とさせる超大型犬で、毛並みはガス火のように青白く輝いている。ライオンに似たたてがみがあり、額には星型の中央に一本線を引いたような記号の霊符。首には首輪めいて注連縄が巻かれていて、そこに幾つか人間の頭蓋骨があしらわれている。目は白目がなく、代わりにまるで皆既日蝕のような光輪が黒い眼孔内で燦然と輝く。その獣が鮮血滴る肋骨を幾つも溢れるほど口に咥え、グルグルと唸っているんだ。私と佳奈さんの脳裏に、同じ歌が思い浮かぶ。
「誰かが絵筆を落としたら……」
「お空で見下ろす二つの目……月と太陽……」
今ようやく、あの民謡の全ての意味が明らかになった。一本線を足した星型の記号、そして大散減に危害を加えると現れる、日蝕の目を持つ獣。そうだ。千里が島にいる怪物は散減だけじゃない。江戸時代に縁を失い邪神となった哀れな少年、徳川徳松……御戌神!
「ガォォォ!!」
御戌神が吠え、肋骨をガラガラと落とした。肋骨が散減になると同時に御戌神も垂直降下し万狸ちゃんを狙う!
「万狸!」
すかさず斉二さんが残り僅かな糸を伸ばし、近くの椎木の幹に空中ブランコをかけ万狸ちゃんを救出。但しこれで、後女津親子の妖力残量が尽きてしまった。一方御戌神は、今度は斉一さんを狙い走りだす! 一目散に逃走しても、巨犬に人間が追いつけるわけもなし。斉一さんは呆気なく押し倒されてしまった。
「うわあぁ!」
「パパ!!」
斉一さんを羽交い締めにした御戌神は大口を開く! 今まさに肋骨を食いちぎろうとした、その時……御戌神の視界を突如闇が覆う!
「グァ!?」
御戌神は両目を抑えてよろめく。その隙に斉一さんは脱出。佳奈さんが驚愕した顔で私を見る……。
「斉一さん、斉二さん、万狸ちゃん。今までお気遣い頂いたのに、すみません……でももう、緊急事態だから」
私の影は右手部分でスッパリと切れている。御戌神に目くらましをするために、切り取って投げたんだ。
「じゃ、じゃあ一美ちゃんって、本当に……」
「グルアァァ!!」
佳奈さんが言いかけた途中、私は影を介して静電気のような痛みを受ける。御戌神は自力で目の影を剥がしたようだ。それが出来るという事は、彼も私と同じような力を持っているのか?
「……大師の言ったことは、三分の一ぐらい本当です」
御戌神が私に牙を剥く! 私はさっき大師の前でやった時と同じように、影表面の光の屈折率を上げる。表面は銀色の光沢を帯び、瞬く間に鏡のようになる。
「ガルル……!」
この『影鏡』で御戌神を取り囲み撹乱しつつ、ひとまず佳奈さん達から離れる。けど御戌神はすぐに追ってくるだろう。
「ワヤンの力は影の炎。魂を燃やして、悪霊を焼くんです」
逃げながら木や物の影を私の姿に整形、『タルパ』という法力で最低限動き回れるだけの自立した魂を与える。
「けど、その力は本当に許してはいけない、滅ぼさなきゃいけない相手にしか使いません。だぶか私には、そうでもしなきゃいけない敵がいるって事です」
ヴァンッと電流のような音がして、御戌神が影鏡を突破した。私は既に自分にも影を纏い、傍目には影分身と見分けがつかなくなっている。けど御戌神は一切迷いなく、私目掛けて走ってきた。
「霊感がある事、黙っていてすみませんでした。けど私に僅かでも力がある事が公になったら、きっと余計な災いを招いてしまう」
それは想定内だ。走ってくる御戌神の前に影分身達が立ちはだかり、全員同時自爆! 無論それは神様にとって微々たるダメージ。でも隙を作るには十分な火力だ。御戌神の背後を取り、『影踏み』で完全に身動きを封じる!
「佳奈さんは特に、巻き込みたくなかったんです……きゃっ!?」
突然御戌神が激しく発光し、影踏みの術をかき消した。影と心身を繋いでいた私も後方に吹き飛ばされる。ドラマや舞台出演で鍛えたアクションで何とか受身を取るも、顔を上げると既に御戌神は目の前!
「……え?」
私はこの時初めてちゃんと目が合った御戌神に、一瞬だけ子犬のように切なげな表情を見た。この戌……いや、この人は、まさか……
「ガルルル!」
「くっ」
牙を剥かれて慌てて影を持ち上げ、気休めにもならないバリアを張る。ところが御戌神は意外にも、そんな脆弱なバリアにぶち当たって停止してしまった。私の方には殆ど負荷がかかっていない。よく見ると御戌神とバリアの間にもう一層、光の壁のようなものがあるのが見える。やっぱり彼は私と同じ……いや、逆。光にまつわる力を持っているようだ。
「あなた、ひょっとして……本当は戦いたくないんですか?」
「!」
一瞬私の話に気を取られた御戌神は、光の壁に押し戻されて後ずさった。日蝕の瞳をよく見ると、月部分に覆われた裏側で太陽の瞳孔が物言いたげに燻っている。
「やっぱり、大散減の悪縁に操られているだけなんですね」
私も彼と戦いたくない。だからまだプルパは鞄の中だ。代わりに首にかけていたお守り、キョンジャクのペンダントを取った。御戌神は自らの光に苦しむように、唸りながら地面を転がり回る。
「グルル……ゥウウウ、ガオォォ!!」
光を振り払い、御戌神は再び私に突進! 私も御戌神目掛けてキョンジャクを投げる。ペンダントヘッドからエクトプラズム環が膨張し、投げ縄のように御戌神を捕らえた!
「ギャウッ!」
御戌神はキョンジャクに縛られ転倒、ジタバタともがく。しかし数秒のうちに、憑き物が取れたように大人しくなった。これは気が乱れてしまった魂を正常に戻す、私にキョンジャクをくれた友達の霊能力によるものだ。隣にしゃがんで背中を撫でると、御戌神の目は日蝕が終わるように輝きを増していく。そこからゆっくりと、煤色に濁った涙が一筋流れた。
「ごめんなさい、苦しいですよね。ちょっと大散減を封印してくるので、このまま少し我慢できますか?」
御戌神は「クゥン」と弱々しく鳴き、微かに頷いた。私は御戌神の傍を離れ、地面から突き出た大散減の足に向かう。
「ひ、一美ちゃん!」
突然佳奈さんが叫ぶ。次の瞬間、背後でパシュン! と破裂音が鳴った。何事かと思い振り向くと、御戌神を拘束していたキョンジャクが割れている。御戌神は黒い煙に纏わりつかれ、息苦しそうに体をよじりながら宙に浮き始めた。
「カッ……ガァ……!」
御戌神の顔色がみるみる紅潮し、足をバタつかせて苦悶する。救出に戻ろうと踵を返すと、御戌神を包む黒煙がみるみる人型に固まっていき……
「躾が足りなかったか? 生贄は生贄の所業を全うしなければならんぞ」
そこには黒い煙の本体が、人間の皮膚から顔と局部だけくり抜いた肉襦袢を着て立っていた。それを見た瞬間、血中にタールが循環するような不快感が私の全身を巡った。
「え、ひょっとしてまた何か出てきたの!?」
「……佳奈さん、斉一さんと一緒に逃げて下さい。噂をすれば、何とやらです」
佳奈さんに見えないのも無理はない。厳密にはその肉襦袢は、死体そのものじゃなくて故人から奪い取った霊力でできている。亡布録(なぶろく)、金剛有明団の冒涜的エーテル法具。
「噂をすればってまさか、一美ちゃんが『絶対に滅ぼさなきゃいけない相手』がそこに……っ!?」
圧。悪いが佳奈さんは視線で黙らせた。これからこの神社は、灼熱地獄と化すのだから。
「い、行こう、志多田さん!」
斉一さん達は佳奈さんや数人の生き残った河童信者を率いて神社から退散した。これで境内に残ったのは、私と御戌神と黒煙のみ。しかし……
「……どうして黒人なんだ?」
私は黒煙に問いかけた。
「ん?」
「どうして肉襦袢の人種が変わったのかと聞いているんだ。二十二年前、お前はアジア人だっただろう。前の死体はどうした」
「……随分と昔の話をするな、裏切り者の巫女よ。貴様はファッションモデルになったと聞くが、二十年以上一度もコーディネートを変えた事がないのかね?」
煙はさも当���といった反応を返す。この調子なら、こいつは服を買い換える感覚で何人もの肉体や魂を利用していたに違いない。私の、和尚様も。この男が……悪霊の分際で自らを『如来』と名乗り、これまで数え切れない悪行を犯してきた外道野郎が!
「金剛愛輪珠如来(こんごうあいわずにょらい)ィィィーーーッ!!!!」
オム・アムリトドバヴァ・フム・パット! 駆け出しながら心中に真言が響き渡り、私はついに鞄からプルパを取り出す! 憤怒相を湛える馬頭観音が熱を持ち、ヴァンと電磁波を発し炎上! 暗黒の影炎が倶利伽羅龍王を貫く刃渡り四十センチのグルカナイフに変化。完成、倶利伽羅龍王剣!
「私は神影不動明王。憤怒の炎で全てを影に還す……ワヤン不動だ!」
今度こそ、本気の神影繰り(ワヤン・クリ)が始まる。
བཞི་པ་
殺意煮えくり返る憤怒の化身は周囲の散減を手当り次第龍王剣で焼却! 引火に引火が重なり肥大化した影の炎を愛輪珠に叩き込む!
「一生日の当たらない体にしてやる!!」
「愚かな」
愛輪珠は業火を片手で易々と受け止め、くり抜かれた顔面から黒煙を吐出。たちまち周囲の空気が穢れに包まれ、炎が弱まって……いく前に愛輪珠周辺の一帯を焼き尽くす!
「ぐわあぁぁ、やめろ、ギャアアァアガーーーッ!!!」
猛り狂う業火に晒され龍王剣が激痛に叫んだ! しかし宿敵を前にした暴走特急は草の根一本残さない!
「かぁーーっはっはっはァ! ここで会ったがお前の運の尽きよ。滅べ、ほおぉろべえええぇーーーっ!!!」
殺意、憎悪、義憤ンンンンッ! しかし燃え盛る炎の中、
「まるで癇癪を起こした子供だ」
愛輪珠は平然と棒立ちしている。
「どの口が言うか、外道よ! お前が犯してきた罪の数々を鑑みれば癇癪すら生ぬるい。切り刻んだ上で煙も出ないほど焼却してくれようぞおぉぉ!!」
炎をたなびかせ、愛輪珠を何度も叩き斬る! しかし愛輪珠は身動ぎ一つせず、私の攻撃を硬化した煙で防いでしまう。だから何だ、一回で斬れないなら千回斬ればいい! 人生最大の宿敵を何度も斬撃できるなんて、こんなに愉快な事が他にあるだろうか!?
「かぁーはははは! もっと防げ、もっとその煙を浪費するがいい! かぁーはっはっはァ!!」
「やれやれ、そんなにこの私と戯れたいか」
ゴォッ! 顔の無い亡布録から煙が吹き出す。漆黒に燃えていた視界が一瞬にして濁った灰色で染まった。私はたちまち息が出来なくなる。
「ぐ、ァッ……」
酸欠か。これで炎が弱まるかと思ったか? 私の炎は影、酸素など不要だ!
「造作なし!」
意地の再炎上! だぶか島もろとも焼き尽くしてやる……
「ん?」
シュゴオォォン、ドカカカカァン!! 炎が突然黄土色に変わり、化学反応のように爆ぜた!
「な……カハッ……」
「そのような稚拙な戦い方しか知らずに、よく金剛の楽園に楯突こうと思ったな。哀れな裏切り者の眷族よ」
「だ、黙れ……くあううぅっ!」
炎とはまるで異なる、染みるような激痛が私の体内外を撫で上げる。地面に叩きつけられ、影がビリビリと痙攣した。かくなる上は、更なる火力で黄土色の炎を上書きしないと……
「っ!? ……がああぁぁーーっ!!」
迂闊だった。新たな炎も汚染されている!
「ようやく大人しくなったか」
愛輪珠が歩み寄り、瀕死の私の頭に恋人のようにぽんぽんと触れる。
「やめろ……やめろおぉ……!」
全身で行き場のない憤怒が渦巻く。
「巫女よ。お前は我々金剛を邪道だとのたまうが、我々金剛の民が自らの手で殺生を犯した事はないぞ」
「ほざけ……自分の手を汚さなければ殺生ではないだと……? だからお前達は邪道なんだ……!」
煮えくり返った血液が、この身に炎を蘇らせる。
「何の罪もない衆生に試練と称して呪いをかけ、頼んでもいないのに霊能力を与え……そうしてお前達が造り出した怪物は、娑婆で幾つもの命を奪う。幾つもの人生を狂わせる! これを邪道と言わずして何と言えようか、卑怯者!」
「それは誤解だ。我々は衆生の為に、来たる金剛の楽園を築き上げ……」
「それが邪道だと言っているんだ!」
心から溢れた憤怒はタールのような影になって噴出する! 汚染によって動かなくなった体が再び立ち上がる!
「そこで倒れている河童信者達を見ろ。彼らは牛久大師を敬愛していた。大師が大散減に魅了されたのは、確かに自己責任だったかもしれない。だがそもそも、お前達があんな怪獣を生み出していなければこんな事にはならなかった。徳川家の少年が祟り神になる事だってなかった!!」
思い返せば思い返すほど、影はグラグラと湧き出る!
「かつてお前に法具を植え付けられた少年は大量殺人鬼になり、村を一つ壊滅させた。お前に試練を課せられた少女は、生まれた時から何度も命の危機に晒され続けた。それに……それに、私の和尚様は……」
「和尚? ……ああ。あの……」
再点火完了! 影は歪に穢れを孕んだまま、火柱となり愛輪珠を封印する! たとえ我が身が消し炭になろうと、こいつだけは滅ぼさなければならないんだ! くたばれ! くたばれえええぇぇぇえええ!!!
「……あの邪尊(じゃそん)教徒の若造か」
「え?」
一瞬何を言われたか理解できないまま、気がつくと私は黄土色の爆風に吹き飛ばされていた。影と内臓が煙になって体から離脱する感覚。無限に溢れる悔恨で心が塗り固められる感覚。それはどこか懐かしく、まるで何百年も前から続く業のように思えた。
「ぐあっ!!」
私は壊れかけの御戌塚に叩きつけられる。耳の中に全身が砕ける音が響いた。
「ほら見ろ、殺生に『手を汚さなかった』だろう? それにしてもその顔は、奴から何も聞かされていないようだな」
「かっ……ぁ……」
黙れ。これ以上和尚様を愚弄するな。そう言いたかったのに、もはや声は出ない。それでも冷めやらぬ怒りで、さっきまで自分の体だった抜け殻がモソモソと蠢くのみ。
「あの男は……金剛観世音菩薩はな……」
言うな。やめろ。そんなはずはないんだ。だから……
「……チベットの邪神、ドマル・イダムを崇拝する邪教の信者だ」
嘘だ。……うそだ。
「あっ……」
「これは金剛の法具だ。返して貰うぞ」
愛輪珠に龍王剣を奪われた。次第に薄れていく僅かな影と意識の中、愛輪珠が気絶した御戌神を掴んで去っていく姿を懸命に目で追う。すると視野角外から……誰かが……
「一美ちゃん、一美ちゃーん!」
「ダメだ志多田さん、危険すぎる!」
佳奈さん……斉二……さん……
「ん? 無知なる衆生が何故ここに……? どれ、一つ金剛の法力を施してやろうか」
逃……げ……
「ヒッ……いぎっ……うぷ……」
「成人がこれを飲み込むのは痛かろう。だが衆生よ、これでそなたも金剛の巫女になれるのだ」
や…………ろ…………
「その子を離せ、悪霊……ぐッ!? がああぁぁああああッ!!!!」
「げほ、オエッ……え……? ラスタな、狸さん……?」
………………
「畜生霊による邪魔が入ったか。衆生の法力が中��半端になってしまった、これではこの娘に金剛の有明は訪れん」
「嘘��しょ……私を、かばってくれたの……!?」
「それにしてもこの狸、いい毛皮だな。ここで着替えていこう」
「な、何するの!? やめてよ! やめてえぇーーーっ!!」
………………もう、ダメだ……。
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