Tumgik
#七次元掲示板
ru-ruru527 · 3 months
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捨ててほしいんだ
僕以外の嘘なんか全部全部さ!
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rosysnow · 2 months
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ハニーライフ
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 たぶん、もう半年も残っていないでしょう。
 闘病してきたおばあちゃんの余命宣告は、あたしが一番最初に受けた。力が抜けて椅子を立てない。そんなあたしを、看護師さんが労わりながら立たせてくれた。
 廊下の長椅子に移っても、なおも茫然としていた。待合室の雑音と、消毒液の匂いに、意識がゆらゆらしている。
 おばあちゃんには、半年も残っていない。
 こみあげた涙をこらえる。両親に連絡しなくては、とやっと気がついた。一応、グループでなく個別のトークルームに、『おばあちゃんのことで話がある』とメッセを送る。でも、相変わらず仕事がいそがしいのか、だいぶ待ってみたけど既読すらつかない。
 こんな両親だから、あたしを育ててくれたのは、おばあちゃんだった。おじいちゃんは、あたしが生まれる前に亡くなっている。もう一方の父方の祖父母は、あたしが母方であるおばあちゃんにばかり懐くので、次第に疎遠になった。
 窓からの七月の夏陽がかたむき、病院のひんやりと白い壁は、暖かみのあるオレンジに染まっている。その夕射しにこもった熱に、軆は汗ばみかけている。
 入院生活が長くなったおばあちゃんは、最期の時間は、家で過ごしたいと言っていたっけ。「でも、玖鈴に介護なんかさせるのもねえ」と目をくしゃっとさせて苦笑していた。
 あたしはスニーカーの爪先を見つめていたけど、おばあちゃん本人に言わなきゃいけない、と思った。どうにか膝に力をこめて、その場を立ち上がる。そして、もう一度先生と話ができるか、通りかかった看護師さんを呼び止めた。
 おばあちゃんは、自分の余命宣告を飄々と受け止めた。「ホスピスでも行きますかねえ」なんて言うから、「何で? うちで過ごしなよ」とあたしは割って入った。おばあちゃんの痩せて皺だらけの顔に、わずかにとまどいが浮かんだ。
「でも、久里子も錫也くんも、おばあちゃんの介護なんて──」
「あたしがするよっ。大学なんて休学すればいい」
「……あのねえ、そんなこと簡単に、」
「あたしだって、おばあちゃんときちんと過ごしておきたい」
 おばあちゃんはあたしを見て、困ったようなため息をついた。例の女医の先生は、介護士さんや訪問サービスなどの力も借りながら、おばあちゃんが望むように過ごしていいと諭した。
「おばあちゃんは、あたしと過ごすの嫌かな」
 あたしがしゅんとうつむいてしまうと、「……バカなこと言って」とおばあちゃんの声が涙ぐむ。
「玖鈴がいいよ。最後は、玖鈴と過ごしたい」
 ──両親がおばあちゃんの余命を知ったのは、翌日になってからだった。おまけに、おばあちゃんの希望も聞かずに、ホーム行きにしようとした始末だ。あたしがおばあちゃんの意思を伝えると、「ほぼ寝たきりの人だぞ」「プロに任せたほうがいいわよ」と情のかけらもなく言った。
「ヘルパーさんの力を借りないとは言ってない。寝たきりになったら他人なの? 死ぬ前のお願いも聞いてあげないの?」
 あたしに睨めつけられ、両親は厄介そうな面持ちを隠さなかったけど、「おばあちゃんとも話そう」とようやく譲歩した。おばあちゃんは、昨日あたしには弱気だったくせに、両親には「私は帰りますよ、自分が選んだ場所で死にますから」と我を張っていた。
 そんなわけで、長らく病院生活だったおばあちゃんが、久々に一軒家の自宅に帰ってきた。ほとんどベッドに横たわっているけど、精神的にはゆったりできているようだ。
 大学に休学届を出したあたしは、おばあちゃんの食事、着替えやお風呂を手伝った。おむつもやる気だったけど、素人では手際が悪くて、ヘルパーさんに手伝ってもらった。
 おばあちゃんの病状は、当然ながら良くなかった。けれど、さいわい認知症は出ていなかったので、ベッドサイドに腰かけたあたしと、想い出話を楽しんでくれた。
 幼稚園の送り迎え。よく一緒に作ったホットケーキ。お互い気が強くて、わりと喧嘩もしたこと。
「ああ、大人になった玖鈴を見守れないのは寂しいね。どんな男を連れてくるか、楽しみにしてたのに」
 おばあちゃんは窓を向いて、目を細めた。カーテンが残暑の日射しを抑えていても、じゅうぶん明るい。
「玖鈴はいい母親になるよ。だから、元気な子さえ生めば大丈夫」
「……うん」
「今、本当に彼氏もいないの?」
「いないなあ」
「そっか……。こんなかわいい子を放っておくなんて、見る目がない男ばかりだねえ」
 あたしは曖昧に微笑んで、クーラーの風にそよぐ自分のロングヘアに、緩く視線を泳がせた。
 あたしのことを受け止めてくれる人は、本当は、ちゃんとそばにいる。でも、それは家族には、特におばあちゃんには、絶対に言えないと思っている。
 嘘つきだ、あたしは。大切なおばあちゃんに、大切な人の存在がいることを隠して。きっと、すごく罰当たりだ。
 だとしても、打ち明けることがすべてではない場合もあると思う。
 那由多は、あたし���おばあちゃんっ子であることを知っている。というか、那由多があたしのことで知らないことなんて、たぶんない。おばあちゃんの介護が始まって、日中はなかなか会えなくなったけど、夜にはしっかり会っている。那由多は無論おばあちゃんに会ったことはないけど、今、最期を過ごしているのを心配してくれている。
「おばあちゃん、やっぱり、ひ孫に会いたかったのかな」
 彼氏のことを言われた日の夜、那由多の肩に寄り添ったあたしは、そうつぶやいて、甘い桃のお酒に口をつけた。レモンサワーを飲む那由多はうつむき、「ごめんね」とあたしの髪を撫でる。
「え、何で」
「僕が女の軆だから」
 あたしは咲い、「男だったら、まずつきあってないから、那由多はこれでよかったよ」と那由多の白くて柔らかい頬に軽くキスをする。グリーンのメッシュが入ったボブショの那由多も小さく咲って、あたしに寄り添い返す。
 那由多はあたしの五歳年上で、二十五歳だ。社会人として働き、このワンルームを借りて暮らしている。室内は雑然としているけど、けして汚部屋ではなく、あたしにとっても居心地がいい。
 この部屋で、こうして那由多の温柔を感じていると、生きててもいい、とあたしは自分を許すことができる。
 那由多と知り合ったのは、六年前だ。あたしは十四歳、那由多は十九歳だった。知り合ったきっかけはネット。SNSではなく、近年ではめずらしく掲示板だった。
 お互いを「相手」に決めたのは、隣り合った町に住んでいて、合流しやすかったから。あたしと那由多がアクセスしていた掲示板が置かれていたのは、一緒に死んでくれる人を見つけるための場所、いわゆる自殺サークルのサイトだった。
 あたしたちは、一緒に死ぬつもりだった。メールを交わしながら、身の上話はしなかった。相手のことは、深く知らないほうがいいと最初に決めておいた。
 なのに、いざ顔を合わせて、那由多が裏ルートで購入した青酸カリの小瓶を取り出して、でも沈黙したままふたを開けられずにいるうち、死にたくなるほどの理由から、今までのろくでもない人生を、とめどなく吐き出し合っていた。
 あたしは、同性にしか恋ができなかった。男の子とは、どんなに仲良くなっても友達でしかない。親友だからと思ってカムした同級生の男の子は、あたしの話に表情をゆがめ、「俺は玖鈴が好きなのに」と言って無理やりのしかかってきた。
「エッチしたら、これが普通だって分かるから」
 セーラー服と学ランを着たまま、あたしをつらぬいた彼はそう言って、息を荒くして中に出した。内腿に血が流れて、どろりと白濁と絡みあって流れる。
「ね、俺のこと、好きになったでしょ?」
 彼は恬然とした笑顔で、そう問うてきた。あたしは急にせりあげた嫌悪感で、その頬を引っぱたいた。押しのけて逃げ出して、家まで走りながら、どうしよう、と泣き出した。
 あたし、妊娠したかもしれない。だとしたら、ひとりぼっちで生むより、誰かに話して堕ろすより、一刻も早く子供もろとも死ぬしかないと思った。
 那由多も女の子に惹かれる人だ。それと、自分の性別が分からない人だった。女じゃないなら男、なんて単純なものではないらしい。男女の中間でもないし、男であり女でもあるという感覚もない。しいて言えば、どちらでもないというのが一番しっくり来る。
 それは自分の正体がつかめないようで、ひどい恐怖をともなった。女の子とつきあっても、自然と自分が「男役」になっているのがすごく気持ち悪かった。服装はラフが好みで、フリルやレースは着たくないのだけど、「男」に分類されても違和感しかない。
 男じゃない。女でもない。性そのものがない。まるで幽霊みたい。そんな自己を抱えて過ごしていくなら、生きることをやめてしまおうと那由多は決めた。
 気づいたら、ふたりともしゃくりあげるほど泣いていて、強く手を握り合っていた。「もう生きたくないよ」と言いながらも、「このまま死にたくない」とも言っていて、すがりつくように抱きしめあった。那由多はあたしの頭を撫で、あたしは那由多の軆にしがみついた。
「初めて……こんなに、自分のこと話した」
「ん……僕もだよ」
「聞いてくれて、ありがと」
「ううん、こっちこそ」
 那由多の心臓の音が聴こえた。死んだらこの音がなくなってしまうんだと思うと、やっと自分たちが飛びこもうとしていた淵に恐ろしくなった。
「あたし……」
「うん?」
「あたし、那由多さんといられるなら、今までみたいに嘘ついて生きなくていいかもしれない……」
 那由多の服をぎゅっとつかみ、それに応じるように、那由多もあたしを抱く腕に力をこめた。
「僕も、玖鈴ちゃんがそばにいてくれるなら、まだ生きられるかもしれない」
 あたしはぐちゃぐちゃの泣き顔を上げて、「そばにいるよ」と誓うような気持ちで言った。那由多も泣き腫らした瞳であたしを見つめ、「じゃあ」と言葉を選ぶ。
「一緒に、生きてみる?」
 あたしはうなずき、何度もうなずき、那由多の胸に顔をうずめた。那由多はあたしの髪に、濡れた頬を当てる。
「……婦人科は、行かないとね。僕が付き添うよ」
「できてたらどうしよう」
「まだ、それって何日か前だよね。アフターピルあると思うから」
 那由多の柔らかくて温かい腕に守られ、あたしはびっしょりの睫毛を伏せる。優しい心音が、鼓膜からあたしの傷に染みこんでいく。この人があたしのものなら死ななくていい。もっともっと、いつまでも、抱きしめていたい。
 ろくな人生を歩まなかった。そう思ってきたけど、これからそれが変わるなら、あたしは生きられる。ううん、そんなふうに思わないように、あたしは生きていきたい。
 アフターピルも飲んだおかげか、あたしは妊娠しなかった。でも、セックスに対する恐怖心はどうしても残った。那由多は急かすように求めたりしなかった。おかげで、あたしはあたしが那由多が欲しいと思えたとき、やっと那由多と結ばれることができた。
 あたしたちのあいだで、その行為が子供を生み出すことはない。しかし、確かに愛を育んでいると思うのだ。もしもこの愛が老い、朽ちてしまったら、今度こそあたしは、この世を追い出されて土に還る。
 ──おばあちゃんが亡くなったのは、年越し前の冬だった。あたしは、何度か悩みつつも、自分のことを何も伝えなかった。年末におばあちゃんのベッドが撤去され、剥き出しになった青いたたみに寝転がると、これでよかったんだと天井を見つめた。
 受け入れてほしかったなんて、贅沢なことは思わない。いつかあたしが死んで、七色の虹を抜けたあとに、黒い針山を歩く罰を受けたとしても、やはり言わなくていいこともある。
 おばあちゃんの最期をかきみださず、穏やかに見送ることができた。あたしは、それでいい。
 男と結婚して、子を生むことが、「女の幸せ」なんて思わない。女として、しのごの言わずに生きろと言う人もいる。けれど、その声がどんなに大きくても、あたしは那由多と生きていく。それが、あたしにはかけがえのない蜜なのだ。
 おばあちゃんは、無垢な白昼夢に包まれて亡くなった。幸せに眠りつくことができるだろう。
 それを見送れたあたしは、もうこの家庭に未練はない。遅かれ早かれ、荷物をまとめて那由多の元に飛びこむ。
 生み出すことが生きる意味なら、あたしは那由多と愛を生み出そう。生み出すこということは、お腹を痛めて出産する子供だけではない。人によっては、パートナーがいなくてはならないわけでもない。
 ただ、ひとさじでも、甘い蜜がある人生であるように。
 カーテン越しに、窓で冬陽が透けている。おばあちゃんとの最期の日々をゆっくり思い返す。その時間は、白い光がきらきら広がっていて、巣箱から春に飛びこむための勇気になる気がした。
 FIN
【SPECIAL THANKS】 白昼夢/杉野淳子 『生きる』収録
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longgoodbye1992 · 2 years
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声からの出会い
川崎駅近くのビジネスホテルから駅へ向かいながら、会って最初の一言は「はじめまして」がいいだろうと考えていた。
向こうは俺の顔を知らない。ある有名バンドのボーカルに似ているとは話していたが、顔写真はいらないと断られた。反面、向こうは知り合いの猫の写真を送ってきた時に、その猫を抱いているのを自分と忘れており、思いがけない形で顔を見た。思ったよりも目鼻立ちがはっきりしていて可愛らしく、胸ポケットにマルボロが入っているのがその子らしかった。
駅のエスカレーターを上っているときに、待ちあわせ場所に着いたとLINEが入る。時刻はまだ予定より五分早い。女性と待ち合わせした中で自分が遅いのは初めてだった。
エスカレーターの途中で聴いていたAmazonミュージックから久保田利伸の「LA・LA・LA LOVE SONG」が流れてきて、何だか滑稽だった。
待ち合わせ場所の改札口が見えてきたとき、その子に通話をかけた。数コールして出た声は少し寝起きっぽい低い声だけど、その子らしい少年味のある少し鼻にかかった女の子の声だった。
「改札いるよ。どこいる?」
「俺もう少しで改札。黒い帽子被ってるよ」
「あっ、見つけた」
周りを見渡すと一人の女性が俺に向かってきた。
マスクをしているから写真の印象とは違った。そして思ったよりも背が高かった。
「エリちゃん?」
「うん、えっ、だよね?」
「あっ、よかった。はじめまして」
「はじめまして。じゃあ行こっ」
俺が歩いてきた方へエリは歩き始める。店は任せていた。
歩くスピードは男らしいくらい早かった。
「いつ東京着いたの?」
「今朝の七時くらい」
「はやっなにしてたの?」
「浅草行って船乗ってレインボーブリッジくぐってた」
「面白いことしてんね」
「さっきまで寝とったやろ」
「そう、モンハンやってたら夜遅くなったけど、ちゃんと起きたかんね」
通話なときと同じ会話のテンポで、ほんとにこの子なんだなと思った。
エリと出会ったのは通話アプリの掲示板だった。
五月半ばの初夏の日差しが暑くなってきた頃。
ボーイッシュで鼻にかかった声の音域が何とも魅力的だった。最初、アプリでの名前はシェリーだった。後から聞くのだが、シェリーは実際のあだ名で、本名のエリをもじって友人たちがつけたらしい。
話していくうちに出身が同じ県であること、高校の最寄り路線が同じということ、俺が大学時代に住んでいた市に今住んでいるということで、距離感が一気に縮まった。
バンドをやっていたということで、地元のライブハウスやスタジオの話題で盛り上がる。
歳は四つ下だから、後輩のような妹のようなそんな人懐っこさがどこか可愛らしくて、週に一度は話すようになった。
サバサバした口調や性格だが、アニメの話になると声色が変わり、一緒に「時をかける少女」を見たときは酔っていた事もあるんだろうが、普通の女の子の黄色い声になっていた。そのギャップが可笑しかった。
「来週東京行くから飲もうよ」
「いいよ」
エリの休みに合わせて東京へ着く日を調整した。
そしてその日を迎えた。
エリについていった先は早くからやってる居酒屋だった。
「ここでいい?」
「いいよ」
「ここ煙草吸えっからいいんだよね」
席に座る。
「お腹すいたー、何も食べてない」
「好きなのたくさん食べな。でも飲むときあんま食わんのやろ?」
「そう、だからちょっと食べてあとは飲む!生でいい?」
「いいよ」
俺がオーダーしようとするのよりも先に、エリは大きい声で店員さんを呼んでオーダーした。これもあまりない体験だった。
「嫌いなもんある?」
「ちょこちょこあるけど、エリちゃん好きなの選びなよ」 
「しめ鯖は?」
「大好き」
「じゃあしめ鯖」
「紅生姜天いいな」
「あたしも思った」
ビールを持ってきた店員さんに手早くオーダーを言う。牛タンとタコ唐もオーダーした。
乾杯してビールを飲む。美味かった。
「緊張しとるわ俺」 
「あたしもだよ」
「慣れてるやろ友達多いだろうし」
「そういうわけでもないよ」
「そうなんか、あっ、そういえば土産持ってきた」
「えっ、なに?」
前にエリと話した地元で有名なかぼちゃのパイとクラフトジンを持ってきていた。
「あー!そのパイ!」
「好きって言ってたからさ」
「ありがとうめっちゃ嬉しい」
「あとこのクラフトジンも飲んでみて」 
「ありがとう!」
これで少し緊張が解けた。
「帰りに渡すから持っとくよ」 
「うん!」
一気に声色に女性っぽさが出てきた。
あれこれと話した後。
エリがポケットからマルボロを取り出す。
「あっ、ライター忘った」
俺はリュックから同じマルボロとライターを出した。
「好きに使っていいよ」
「ありがと!無くなったら煙草もらうわ」
「いいよ、他のも持ってきとるから」
二人で煙草を吸った。
仕事の話やら最近の休みが変わった話やらをしているうちに互いに酔いもまわってきた。
今の仕事は楽しいらしい。
ウーロンハイと緑茶ハイが好きなのは通話で知っていた。生ビールのあとはずっとウーロンハイだった。
エリは元々楽器屋で働いていたり音楽業界に精通していたから、話題は音楽の話になっていった。
ビートルズではイエローサブマリンが一番好き。
一番好きなバンドはHi-STANDARD。
仕事で横山健と撮った写真を見せてきて羨ましく思った。
「地元には戻ってこないんか?」
「うーん、仕事がなー。それにあたしまだまだやりたいことあるからさ」
「でも子供生みたいんだろ?」
「そうなんよ。今すぐでも欲しい。そしたら実家近いほうがママに頼れるからいいんよね」
「難しいとこやな」
「そうなんよねー」
エリは完全に酔っていて、顔の表情筋がやわやわだった。
俺がスマホを向けるとエリはポーズを取り出した。
「顔隠すポーズやめろー」
「えー、しゃあないなぁ」
おそらく俺は今までで一番いい表情の写真を撮った気がした。
屈託のない、エリの魅力が溢れていた。
「カラオケいくか」
「いく」
店を出てカラオケに行くことにした。
会計で俺が支払っていると、胸ポケットに千円の束を入れてきた。というよりも突っ込んできたという言い方が適当かもしれない。
「いらんよ、俺が誘ったんやから」
「いいって、いいって。ほらいこう」
店の斜め向かいにあるカラオケ館へ。
「なんかさ」
「なに」 
「思ったより似てたよ」
「ああ、あのボーカルに?」
「そう!」
また屈託のない笑い顔だった。
部屋に入る。
「はくび歌う」
「はくび?」
「あたしKing Gnuめっちゃ得意だから」 
「それさはくじつっていうんだよ」
「嘘、ずっとはくびはくびって言ってたけど」
「周りのやつも知らんかったんかな」
「めっちゃ恥ずい」
バンドでギター・ボーカルをやっていただけあって歌はうまかった。
「声が似てるって言われ大塚愛歌ってよ」
「いいよ」
黒毛和牛上塩タン焼680円を歌った。確かに声質はピッタリだった。本当は俺の好きな桃ノ花ビラを歌ってほしかったが次回に取っておこうと思った。
俺はというと、ワンナイトカーニバルやらミッシェル・ガン・エレファントを歌ったら声が潰れてしばらく歌えなくなった。
エリのオンステージだったけど、楽しそうな姿を見ているだけで幸せな気持ちになった。
煙草を吸いに喫煙室に行ったとき、酔ってフラフラのエリがしゃがみ込んだ。
少し躊躇ったあと、エリの頭を撫でた。
湿気でボサボサになっていた頭を何度も撫でた。
「今朝シャワー浴びてないから」
頭を振った。ポンポンと頭に触れた後に、手を元の場所に戻した。
可愛らしくてしょうがなかった。
それは妹を可愛がる兄の気持ちなのか、酔った後輩の面倒を見る先輩の気持ちなのか、それとも本気の気持ちなのかわからなかった。
ただ、その髪を撫でたい。それだけだった。
部屋に戻ってまた歌の時間。
今度はファジーネーブルをエリは飲み始めた。
ELLEGARDENの「make a wish」を一緒に歌った。ELLEは共通の趣味だった。
あっという間に三時間が終わった。
支払いのとき、一万円札をだした俺の上から、エリはクレジットカードを置いた。
「五千円ある」
「あるよ」
エリに渡した。
外は雨が降っていた。
エリは少し派手目な柄の傘を持ってきていて、開いて俺も入れてくれた。
エリから傘を受け取ってエリに雨がかからないように歩いた。
空いた左手でエリの頭をまた撫でた。エリは大人しかった。
「楽しかったよありがとね」
「うん、めっちゃ酔ったー」
「まだまだやなー」
「強いなー」
改札につく。
リュックから土産を取り出して渡した。
「ありがとう」
「また飲もうな」
「うん」
「また休み��日通話しよう」
「あたし連絡まめじゃないから連絡して」
「うん、わかったよ。気をつけてかえってな」
「ありがとう、そっちもね」
またエリの頭を撫でた。嫌がる様子はなかった。
エリは改札をくぐっていった。
足はふらふらだった。
ホテルへ戻りながらエリにLINEを打った。
ベッドでうとうとしてると返信が来た。
どうやらお風呂に入ってベッドに入ったらしい。
吐いてスッキリしたから明日はちゃんと仕事に行けると書いてあった。
飾らない性格ってこういう子を言うんだな。
そう思って眠りについた。
未だに答えはわからない。
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shi-kuwoyomu · 2 years
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◯七月の句◯
暗闇から来た押上行きに乗る
おくすり手帳ここに居たのか
もう居ないけどこっちから帰ろう
冷えたい部屋と温める腹
誰かの錠剤が落ちている沿線
ハンカチ忘れの常習犯がいる
文庫本から彼方の押し花
スーパーにうちの子自慢を見に行く
永遠の大好きだけがそこにある
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六月は書けずにおやすみしました
というか気づいたらひと月終わっていてメモに何もなかった
なのでいっそ書かなかった次第です
さて、もう8月ですが、7月の句です
7月はなんだかんだ書いていたみたい
適当な毎日が少しだけ記録に残っている感覚で面白いね
今回は加齢に抗えない句のお祭りです わはは
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先日帯状疱疹になって皮膚科へ行ったらストレスがあるか聞かれて、思い当たったことは、友達と出かけた日に怪我人はいないけれどひとの車にカーブミラーをぶつけるという事故を起こしてしまったことだった
自分が運転していたわけではないし、その後も解決し大丈夫だったのだが、自分が思うよりダメージくらっていたというか身体は正直というか
そんなこんなで帯状疱疹の薬を貰いに行った薬局で「おくすり手帳はありますか?」と聞かれて、元気よく「ないです!」と言ったけれど、
本棚の文庫本のところにしっかりあったのだった
ここに居たのかお前さん、シール貰わなかったよお前さん
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西荻窪のサミットに行く機会があった
帰り際に見た店内の掲示板には、地域の人々の自慢のワンちゃんニャンちゃんウサギちゃん鳥ちゃんなど、うちの子自慢がズラリ貼られていた
みな所狭しと指定の紙から大きくはみ出した写真がモリモリに貼られており、愛するうちの子たちの好きな食べ物や年齢や個性が書かれているのは圧巻だった
行ったのはパクチーを安く買うためだったが、パクチーが要らない場合にも通いたくなった
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最近は暑くて暑くて大変ですね
北極に新しい海路が出来るとか出来ないとか
私はというとなかなか決まらなかった家がやっと決まり、トントンとたんに引越しが決まりました
状況的にはこれは多分忙しいのだろうけれど、今のうちに東京で出来ること、行きたい場所、会いたい人、色々あるし、なんて思いつつ、暑さと生理痛で今はなーんにもやる気がしない今日は8/4です(もう8/10になっちゃった)
引っ越しはなんとかなる!なんとかする!の気持ちです 
大丈夫、私はどこへ行っても私だよ〜道も線路あるんだよ〜ってことを忘れないでいたいです
どんな人生が楽しいか、今は考えている時間です
シンプルな事かもしれない!
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おまけ 
🎨色の句🎨
あの子の爪の色どこにもない
この髪もだんだん私になってきた
箱推しなりの正装がある
何を着てても恥ずかしくない関係
上段二句は、今回もせきしろ句会で読んで頂きました
これからものんびりと精進したいです🦦
ではまた来月書けたら!
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shelieshelle · 5 years
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ファンシアン・メモリー
  PART.1
一人の女が煙草を燻らせている。彼女は土曜の夜のパーティにいて、賑わいに包まれている。白い指の間で生まれる煙から視線をそらして彼女はピンクのネオンに照らされた曇りガラスの方を見た。白いセーターを着た女が、��が積もってる!と興奮気味に声を出したからだ。すると二組のうちスミレ色のワンピースを着た女がピンキー・サワーの入ったグラスとは反対の空いた方の手でガラスの水蒸気を拭き取り、額を擦り寄せて向こう側を凝視した。ほんと!と振り返った彼女の頬は赤く染まっている。女は視線を煙に戻す。向かいの男はその間喋りっぱなしで、恐らく外の雪化粧に気が付いていないだろう。
「おい、どこ見てる?」
滔々とした言葉の流れが途切れていることに気が付いた。見上げると彼の眉間がごく僅かに狭まっているのが分かった。
「カスミ、俺の話聞いてた?」
彼女は意識的に小さく笑みを浮かべた。これは常日頃使い分けているいくつかの笑みの一つで、返事に困ったときや間が悪い場合に用いるものだった。すると男の顔に刻まれたしわは次第に解けていき、彼女の微笑を緩やかにそこへ写し取った。
「ぼうっとしちゃって。今なんて?」
カスミはもう一度煙草をくわえた。きっとこれが最後の一本になるだろうとふと思った。
「これからどうする?」
「これからって?」
カートリッジをインディ・ローズに染めた煙草を灰皿に置き、セヨンのグラスに手を伸ばそうとしたが、男がそれを遮った。彼女には男がなぜ自分の動作を遮ったのかまるで分からなかった。それが親密さを示しているのか、それともそうであることを装っているのか、もしくはまるでひと匙の意図も含んでいないのか。
「そろそろ君は身を固めたいとか思わないの?」
急になに、と彼女ははみ出した髪を耳の横にかけた。
「急な話じゃない。前にもこの話したことがあるじゃないか」
ここで一つ男は深呼吸をした。彼なりに表現を慎重に選んでいるに違いない。彼女は適切な言葉を見つけようと意識を巡らせる彼の眉間を見つめながら白い煙を吐き出した。銀縁のフレームから覗く彼の物憂げな瞳は間違いなく女性を惹きつける艶やかさを備えていたが、その思慮深さがセクシーだと彼自身が気づいていなければどれほど魅力的だろうかと彼女は思った。しかしそんなことは今更どうでも良いことだった。
「お前は今の仕事に満足してる?下着の広告とか、カラーコンタクトのモデルとか、そんな中途半端で誰がやっても変わらないような仕事で満足してるわけ?」
大きな手がセヨンのグラスから離れた。カスミはこのタイミングでそれを飲むべきか、飲まざるべきかを考えていた。
「自分の年齢を考えろよ。今はまだ若くてモデルが務まるけど、一気に仕事はなくなるぞ。お前がどれだけ老けずにいたとしても、若くて新しいティーネイジャーが出てくるとどうなる? 捨てられる前に手を打たないと」
グラスの底に残ったセヨンを傾けるとHAZY SHADOWのネオンサインが見えた。その光は心地よい眠りを誘うようにゆっくりと点滅した。冬の凍った空気を溶かしているみたい、と彼女は見惚れた。点いたり消えたりするその店名を見ると、いつもウォッカ&ライムの風味が口の中に広がった。そして同時にポール・サイモンの後ろ姿を思い浮かべた。季節の歩みに逆らえないもどかしさに耐えかねてアルコールに記憶を飛ばし、目覚めると未発表の歌詞が広がっているのだ。友人には希望を失うんじゃないと言うくせに、彼は希望に満ちてるふりをするのだから、彼はもう限界に近いに違いない。分からなくないな、と店内に意識を戻すと、いつの間にか音楽が変わっていることに気がついた。
さらにカスミを驚かせたのは、看板のネオンサインがこれまでとは違う光り方をしていることだった。それが聞こえてくる不思議な音楽のリズムに従って。
「いい加減にしろよ、お前のことを心配して言ってるんだぞ」
「あのネオンがさっき・・・」
テツロウ、と誰かが呼びかけた。男が振り返ると、ピンキー・サワーを持ったリエが立っていた。彼女は彼の仕事仲間だった。彼女がテツロウのシガレットケースから一本取り出した。彼が付けた火で焦がしながらリエは何かを考えるみたいに首を傾けた。ミディアムボブの形が崩れ、かすかにローズの香りが漂う。
「煙草の煙って白くてつまらないよね」
リエが煙を吐き出しながら呟いた。
「色がついていればいいのにね、自分の好きな色に」
「例えば?」とテツロウも煙草に火を付けた。
「赤とか?」リエは向き直った。
「カスミちゃんは何色がいいの?」
「紫かな、やっぱり」
あの歌を思い浮かべていた。あの曲を聴くといつも、空にどうやってキスするのだろうと考えてしまう。
テツロウがリエに何かを言いかけた時だった。
「ごめん、わたしもう行かなきゃ」
カスミは煙草の吸殻を灰皿に押し付けると、荷物をまとめ始めた。
「行くってどこに?」
 外の空気は澄んでいて、月光は雪の白さを際立たせた。
雪が降ってる、と彼は驚いたが、それを言い終える前に彼女はライダースのポケットから何かを取り出した。
「雪が降るともう要らなくなるの、これ持ってて」
それは雪景色にはあまりにも鮮やかな青で、中国土産を連想させる精密な柄が描かれていた。カスミはそれを彼の手のひらに無理やりねじ込むと、微塵の未練も感じさせない足取りで歩き始めた。
「もう終わりだね、付き合ってられない」
 立ち尽くした彼が小さくなって行く。彼女にしてみれば雪が降っていることなどとっくに知っていた。それはリエがはしゃいだからでもなく、テツロウの饒舌に退屈して窓の外を眺めていたからでもない。それは、今日が彼女の二三回目の誕生日で、企てていた「出発」の日には雪が降って然るべきだと彼女自身が心得ていたからなのだった。
 「少し煙っぽい気がします」
カスミは寒さを感じた。ガタガタと身体の芯から震えるような寒さではなく、隙間風が身体を撫でていくような寒さだ。目には見えないけれど、もしかしたら吐く息も白いのかもしれない。
「いい調子よ。あなたはもう別の場所に来ているの」
「別の場所?」
触れているクリスタルを彼女はより一層力を入れて握りしめた。
「そう。そこは、あなたの意識の中。普段生活している時には分からない、意識を超えた次元。ほら何か、特別なものを感じない?」
特別な場所・・・。わたしは確かにずっとここにいるのにな、と彼女は思った。目を瞑る前まで占い師と向かい合っていて(彼女の髪は増えるワカメみたいだ)、俯いて両手で三角を作ると、さあ目を瞑ってと言ったのだ。きっと彼女はそのままの状態なんだろう。それなのにどうして移動したと言えるのだろうか。
「何か、とは何ですか?」
「疑問を疑問で返すだなんて。それはあなたが見つけることよ、あなたが見ているのだから。些細なことでもいいから、何か言ってちょうだい」
占い師の口調はカスミを不安にさせた。ここへ来たのは確かに彼女自身が決断したからに間違いはなかったが、何も見えていないものについて説明を強いられるとは考えてもみなかったし、それほど主体的な姿勢を求められるとは思っていなかった。どんなに目を凝らしてもただ暗闇の中に青っぽいような赤っぽいような、あるいは白っぽいような粒子が伸びたり縮んだりしながら散っているだけだ。
「説明してと言われても、分からないんです。ただ何だか煙っぽくて、少し寒気を感じます」
占い師は呆れたようにため息をついて、じゃあもう一度ときびきびした口調で言った。彼女が目を開くと、やっぱりワカメの占い師が変わらずにそこにいた。唯一変わっていたのは、彼女の後ろに掛かっている時計の針の向きと、目の前の黒々とした髪が心持ち増量したように思えたことだった。
「二〇分コースで三〇〇〇円になります」
レジの女性スタッフは占い師の持っていたような異質な、あるいはどこか神秘を演出するような雰囲気を持っていなかった。化粧で目鼻立ちを整え、髪は艶やかで、ブラウンのカラーコンタクトをしていた。会計を済ませると、スタッフは気持ちのいい声で「またのご来店をお待ちしております」と言ってお辞儀をした。カスミは曖昧に会釈をしてエレベーターが登ってくるのを待った。
《あなたの中に眠っている本当のあなたに会える》
エレベーターの中に店の看板と同じ文句があった。この言葉が彼女を占いへと誘ったのだった。これまで占いなどジンクスのようなものでしかないと思っていたし、カスミの周りに占いに没頭している人もいなかった。女性向けの雑誌に毎月掲載されている星座占いだって、読み飛ばすこともあれば斜めに読んでおしまいにすることがほとんどだった。しかし今日、それは二〇一七年七月の終わりだったが、カスミはふとこの言葉に吸い寄せられ、そして他人ごとではないような、このまま通り過ぎてしまったら永遠に後悔をしてしまうような思いに囚われて入ったのだった。
 エレベーターを降りて外に出ても妙な違和感が捨てきれないことに不安を覚える。いつも見ていた渋谷の風景が、映画のワンシーンのために用意されたセットのような白々しさを持ってカスミの瞳に映った。遠くの方から吹いてくる夏の風の爽やかさだけが、唯一信じられるような気がした。
《あなたの中に眠っている本当のあなたに会える》
変なことではあるが、あの占い師がこの魔法のような約束を果たしたかどうかをカスミは少しも気にしていなかった。人によっては料金を騙し取られたと言って怒鳴り込んでもおかしくはないのだ。けれども彼女にとっては「自分の中に眠っている本当の自分」が誰なのかという問題よりも、どうして普段ならば反応しない言葉が妙に際立って見えたのかかが問題であった。だから、彼女はあの占い師が「本物」かどうかをもちろん知らないままだったし、後日確かめてみようとも思わなかった。その日の晩帰宅するとカスミはご飯も食べずにシャワーだけ浴びてベッドに潜り込んだ。隣のベッドは今日も空っぽだった。いつもより念入りに身体を洗ったはずなのに、あの部屋で感じた嫌な緊張感だけは洗い流せず身体の中に居座り続けていた。
 「「決して起こらなかった記憶を呼び起こして!!」」
 落ちる!と衝撃と共に目覚めた。汗をかいていて、うなされていたようだ。付けっ放しのテレビが誰のためでもなくだらしなくバラエティ番組を映し出していた。その時カスミは、録画する番組を間違えていたことを思い出した。その番組はテツロウに録画を頼まれていたもので、家にいることの多いカスミが彼の代わりにすることになっていた。彼女にしてみれば録画できようができまいがそれは同じことだった。問題なのは、見るはずのなかったその番組を試しに見てみると案外興味深かったが、重要だと思われる場面を正確に思い出せないことだった。記憶を頼りにリモコンを手にとって巻き戻す。
 テツロウとは二年近く同棲していたが、彼は転職を経てカルチャー雑誌の出版社に四年勤めていた。彼は彼女よりもいくつか年上だった。彼���が彼に出会ったのは彼が若くして編集長を務める雑誌のあるコーナーがきっかけだった。そこでは「知られざるクリエイティブ女子」というテーマで何人かの学生がインタビューされ、そのうちの一人にカスミが掲載されることになったのだった。彼女は当時学生で、渋谷のライブハウスでアルバイトをしつつ趣味で音楽を作っていた。そのライブハウスは小さかったけれど雑誌に取り上げられることが度々あり、知る人は知っている場所だった。そこで初めて二人は出会い、偶然にも彼がそのテーマを担当することになり、彼女にその話を持ちかけたのだった。それはカスミにとって大きな出来事になるはずだったが、運悪くそのコーナーは出番が来る前に打ち切られてしまったのだった。
それ以来彼女は顔の広い彼を通じてちょっとしたモデルや広告の仕事をもらうことが度々あったが、定職に就くことはなかった。いくつかアルバイトをして、長く続けて社員を目指そうとも思ったけれどいつも何か些細なことで挫折して辞めてしまった。彼女の両親は焦らなくていいと毎月仕送りを送っていたし、テツロウは編集者としての力量を兼ねそなえ会社でも重宝がられていたから差し迫って生活に困ることはなかった。ただ漠然とどうやって暮らそうかというぼんやりしたものが忘れた頃に押し寄せて来るのだった。
 テツロウに頼まれていた番組はスポーツ番組で、「今度サッカー選手のインタビューがあるから」とラインを寄越したのだった。一方間違えて録画してしまったのはこれまでに見たことも聞いたこともない番組だった。それは流行りの芸能人が出るわけでもなく、昔からやっているわけでもない、ただその放送枠が余ってしまったから穴埋めに、という粗末な雰囲気をしていた。録画を再生すると途中から始まった。それはとある場所の「呼出音研究所」を取り上げていた。
ナレーション:
呼出音は昭和六〇年になると、事業用電気通信設備規則により、そのトーンを四〇〇 ヘルツに一五 – 二〇ヘルツの変調をかけることが定められた。当時を振り返って研究員の橋本は、呼出音についてこう語っている。
(当時の黒電話から橋本の研究場面に切り替わる)
橋本:
「今となっては一秒オン、二秒オフの繰り返しが定着していますが、これは日本スタンダードなんですね。
(〜♬ 日本の呼出音)
イギリス連邦だと〇・四秒オン、〇・二秒オフ、〇・四秒オン、〇・二秒オフの繰り返しで出来ています。
(〜♬イギリス連邦の呼出音)
北米やヨーロッパにも、もちろんそれぞれの呼出音があるわけです」
(ここで世界中で電話が使用されていることをほのめかすイメージ映像から橋本の父の映像に切り替わる)
ナレーション:
橋本の父は呼出音の研究に三〇年以上の月日を捧げていた。彼の研究こそが、日本スタンダードの呼出音を生み出し、今日の生活をより快適なものにしてきたのである。
橋本:
「この呼出音はあらゆることを想定して作られました。日本の生活空間、日本人の耳の形、日本人の手の長さなど、他にもちょっとやそっとじゃ思いつかないようなありとあらゆる事です。父はこの呼出音が完成したとき、日本の将来は約束されたと確信したようです。なぜなら、この呼出音こそが我々日本人の生活を、人生を、そして日本の行く末を切り拓いていく扉になるのですから」
(研究室から学会の場面に切り替わる)
ナレーション:
2017年5月。日本橋のとある会場で学会が行われた。
橋本:
「可聴音に関する学閥ですか? それは根強いですね。我々の他に、着信音研究所、発信音研究所、話中音研究所が存在しますが、ここ数年の学会では前進が見られないですね。議論が活発なことは良いことですが、お互いの揚げ足を取り合っている姿は醜いです」
ナレーション:
橋本には譲二という息子がいた。彼は埒のあかない学会の希望の星となるはずだった。
(橋本の息子、譲二の少年時代〜青年時代の映像が流れる)
橋本:
「譲二は非常に優秀な息子でした。確かな音感を持ち、人に呼びかけるという行為に対して私以上の深い理解を持っていたのです。しかし、彼が音楽に出会って以来、その『呼びかけ』に対して造詣をあまりにも深め過ぎてしまったのです。息子は今年の三月に、作業着を着たまま研究室を・・・」
録画はここで終わっていた。テレビは再び能無しに戻り、使い古された展開を平気で持ってくるバラエティ番組を垂れ流した。カスミはしばらく動けず、言葉さえ思い浮かばなかった。テツロウが帰宅するまで、テレビ画面の向こう側、ずっと奥にある青年時代の譲二を思い浮かべ、そのまま横になった。
…PART.2 へ続く…
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xf-2 · 5 years
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毛沢東はソ連と仲違いした時、長年にわたって途方もない予算と将兵の養成が必要な通常兵器より、短期間に決定的な抑止力を高める核・ミサイルが効果的であると認識した。
 そこで人民の半分が餓死してでも「両弾一星」(原・水爆と人工衛星)を完遂するという決断をした。
 その根底には、中国という国家は人民(約8億人)の半分、4億人を犠牲にしても国家は生き残れるという意識であった。
 また、「政権は銃口より生まれる」と喝破したように、国共合作で国民党軍を日本軍と戦わせ、共産党軍は後方にいて増勢につなげ、続く内戦で勝利して政権奪取につなげる考えがあった。
 実際、430万人いた国民党軍は150万人となり、120万人しかいなかった共産党軍は400万人となり、累次の内戦で約800万人が戦死したとも言われる。
中華人民共和国の建国後の犠牲者
 毛沢東は建国10年後の1958年から61年までの3年間、人民公社を地方ごとに造って自給自足で生き延びることができるように大躍進運動を行う。
 しかし、公社間の競争精神は実体の伴わない過大報告となり、結果的には約2300万人が餓死したと言われる。
 毛は失敗を認めて国家主席を辞任。1962年1月の中央工作会議で劉少奇国家主席が「三分の天災、七分の人災」と述べて大躍進を批判する。
 しかし、建国以来続けてきた反右派闘争に勝利して1964年に復権する。この15年間に約950万人を虐殺したとされる。
 1966年からは10年に及ぶ文化大革命が続く。この間の政治的な痛めつけでの死亡(約2000万人)や餓死者はほぼ1億人にも上ったとみられている。
 3度の批判を生き残った鄧小平は毛の死去(1976年)後の78年末に「改革開放」の大号令をかけ、今日の大発展につながっていく。
 しかし、どこまでも社会主義市場経済で、共産主義体制の維持が前提であった。
 胡耀邦が総書記に就任(1980年2月)してチベットの惨憺たる有様に衝撃を受け、失政の責任は共産党にあるとして、政治犯の釈放や信教の自由と僧院の再建などの自由化政策を進めるが、共産党幹部の批判を受け87年1月解任される。
 続く趙紫陽も学生たちの民主化要求に柔軟な対応を示し、天安門広場に出かけ学生を説得するが失敗に終わる。
鄧小平は共産党政権維持への懸念を深め、中国人民解放軍による武力弾圧を決断し、民主的な抵抗を戦車で粉砕する(「天安門事件」、「6・4事件」とも呼称)。
 趙は3週間後(6月23日)に解任され、上海市委員会書記であった江沢民が抜擢される。
 天安門事件の死者は発表されていないが、米国の秘密文書によると、死者は1万454人、死傷者は4万人以上となっている(方政・釈量子対談「生き証人が語る 血塗られた天安門の虐殺」、『WiLL』2016.7号所収)。
 改革開放後の経済的発展は貧富の差を拡大させ、犯罪や暴動も頻発した。400万人の死刑囚収容施設は不足する状況で、死刑免除と引き換えに外国への労働者として派遣しているとも言われる。
すべてにおいてスケールが違う中国
 列挙すればきりがないが、広大な領土と巨大な人口、困難な統一、近代化の遅れ、そして何よりも言論の自由がない共産党独裁の強権政治で「物言えば唇寒し」だ。
 他方、愛国無罪が大きな「虚言」を蔓延らせる。
 日本では厚生労働省の為体で統計の信頼性が揺れているが、中国は国家ぐるみで、GDP(国内総生産)さえ疑問視されている。
 内乱や自然災害、イナゴの異常発生による蝗害などが絶え間なく起き、その都度100万単位の死者・餓死者を出してきたとされるが、何一つ正確な数字の公表はない。
 秦の始皇帝が即位したBC221年から共産党結成の直前1920年までの2140年間に160回の内乱があり、累計年数は896年で、13年おきに約6年間の戦闘が起きてきたとされる。
 また、この間に5150回の天災、うち1035回の旱魃、1037回の水害が発生。旱魃や水害は2年に1回、蝗害も含めた天災は5カ月に1回の頻度で発生してきたことになる。
 施政が行き届かない広大な領土ゆえに、何か起きれば大飢饉に直面した。1810年900万人、1811年2000万人、1849年1375万人、1876~78年1300万人の死者を出す大飢饉が発生している。
 20世紀に入ってからも、1928~30年の大飢饉では西安市のある陝西省で200万人が流民となり、1930~32年には1000万人が餓死している。
 なお、支那事変で日本軍が開封を占領した1938年、蒋介石軍が日本軍の追撃阻止のため、黄河の堤防を決壊させ、下流域(河南省・安徽省・江蘇省にまたがる54000平方キロ、北海道の6割)の水没で100万人死亡、被害者は600万人に上ったとされる(『郭沫若自伝』は日本軍の無差別爆撃と対外宣伝した)。
 このため、3省の農地が農作物ごと破壊され、河南省では1942年に凶作、続く翌年は蝗の大群発生で、300万人が餓死したという。
 こうした餓死者が出ると、得体の知れない茸も食し、子供を交換して食すこともあったとされる(易子而食…子を替えて食らう)。
中国人による中国人の斬殺
 問題は人為的な残虐行為で、『揚州十日記』がある。
 明朝滅亡時、満清の軍隊が南下して勢力を南京に及ぼそうとした時、南京政府の要所、揚州城の攻防で王秀楚という人物が家族や兄弟と逃げ回る間に体験した記録である。
 わずか10日間の出来事であるが、中国社会で昔から蔓延るあらゆる慣習が見て取れる。
 指揮官の逃亡、兵士の略奪・強姦・放火・惨殺などの暴虐、金品の強要や強奪などが展開される。
 2人の女性が逃げ回り、足が泥の中にぬかって脛まで没している。「1人が女の子を抱いていたのを、兵卒は鞭で叩いてその子を泥の中に捨てさせ、そのまますぐ追い立てて行った」。
 数十人のものは牛か羊かのように駆り立てられて「少しでも進まぬと直ちに笞を加えられ、あるいはただちに殺された。女たちは長い綱で数珠を通したように頸をつながれ、一足ごとに躓き転んで、全身泥まみれになった」。
 「どこにもかしこにも幼児が馬の蹄にかけられ、人の足に踏まれて、臓腑は泥にまみれ、その泣き声は曠野に満ち満ちていた」
 「途中の溝や池には死骸がうず高く積み上げられ、手と足が重なり合っていた。池はそのために平らになっていた」
 逃げ回った挙げ句、通りに出た。
 「通りには人の首が重なりあって横たわっていたが、真っ暗で誰が誰やら見分けがつかなかった」
 「(中略)城壁の下には死骸が積み上げてあるため、歩くのに難渋した。何度つまづいては起き上がったか知れなかった。何かに驚かされるたびに、地面に倒れて死骸の真似をした」
 彼らは掠奪や強姦ばかりでなく、火災も起こす。四方に火事が起こり、「こっそり戸外に出て見ると、畑の中には死骸が積み重なっていて、中には息絶え絶えにまだ生きているのもあった」。
 男(兵士)は幼女と男児を連れた婦人を捕えた。
 「男の児が母を呼んで食べ物をねだった。その男は怒って一撃すると、脳が砕けて男の児は死んだ。男は婦人と幼女を引いて行った」
 隠れていた場所に「数人の兵卒がやって来て引き出されたことが二度ほどあったが、その都度少しばかりの金を握らせると行ってしまった」。
 こうして10日間で80万人が清軍の刀下で虐殺されるという血腥い「大屠殺」が展開され、繁華の揚州は凄惨な生き地獄と化したという。
揚州を落とした清軍は騎虎の勢で数日後に南京に入る。南京王朝の福王や陪臣はいち早く逃亡し、文武百官はみな薙髪して清軍に降伏する。
 余談であるが、清軍豫王とまみえた揚州督鎮は「史可法ここに在り!」と大呼するが、武運拙く、ついに捕えられる。
 豫王は「降れば則ち富貴ならん」と諭すが、史可法は「われは天朝の重臣なり。あにいやしくも生を偸(ぬす)みて万世の罪人となるべけんや。わが頭(こうべ)、断つべし、身屈すべからず」と断る。
 豫王は3日間説得し続けるが、最後は涙を揮って部下に斬らせたという。
中国の極刑さまざま
 手元に『図説 中国酷刑史』(尾鷲卓彦著、徳間書店)がある。
 酷刑とは残酷極まりない刑罰のことで、中国の酷刑を可能な範囲で紹介したものである。
 「彼らは手足を釘で打ちつけられ、鮮血をしたたらせて架刑(はりつけ)にされている劫賊(ごうとう)に、これっぽちの憐みすら寄せないどころか、その“五花斬人(きりきざみ)”のさまを観賞するという奇怪な光景まで演じた」
 「街頭や横丁において、首が切り落とされた様子を微に入り細をうがって、活き活きとしゃべりたてるかと思えば、われ先に鮮血にまみれた人頭や半裸の女性の屍体を覗き込む。なかには饅頭に血を吸いこませ、それを食べて肺結核を治そうとする者さえあった」などの記述もある。
 酷刑には官刑と私刑の別があり、官刑では「拷問・斬首・絞縊・首枷・足枷・站籠(立った姿勢で首枷)・抽腸・鞭打ち・凌遅(寸刻みで切り裂く)・銃殺・見せしめ」が列挙されている。
 私刑では「吊り下げ・熱湯あびせ・目えぐり・耳削ぎ・活き埋め・舌抜き・火あぶり・沈め殺し・釜ゆで・圧殺・宮刑・人喰い・足ぜめ・頭髪そり・入れ墨・首切断・バラバラ屍体」などが記されている。
 読んでいて、「心胆を寒からしめる」どころか、こんな国家・社会があるのかと恐ろしくなってくる。日本人には想像を絶する奇想天外な国家・社会のようだ。
 本多勝一著『中国の旅』にも、「飢えた軍用犬の餌」にした話(文庫本p20)や「電線にコウモリのようにぶらさげ火あぶり」にした話(同p231)、「腹をたち割り、心臓と肝臓を抜き取って食う」話(同)などがある。
 臓器を煮て食したのは日本兵ということになっているが、筆者には日本人の行動様式とは思えない。読者はどう思われるだろうか。
 月刊誌『SAPIO』(2015年7月号)は、「毛沢東は『資治通鑑』を17回も読み、ライバル抹殺の手本としていた」とのリードで、「『人ブタ』『食人』『生きたまま肉を削ぐ』 歴史書に描かれた中国4千年『残虐の伝統』」の表題を付けた一文を掲げた。
 その中で、「人ブタ(手足を切断し丸裸で厠に放る)」「凌遅」「大量虐殺(一族の公開処刑や赤ん坊を空中に投げ槍で刺す)」「人食い」「ムチ打ち・炮烙(銅製円柱に罪人を縛り付けて焼き殺す)」「站籠」などを挿絵入りで説明している。
中国人による日本人大虐殺
 拙論の本題は中国人が日本の軍民に暴行を加え、また惨殺・虐殺した事件の検討である。いくつもあるが、ここでは3つを取り上げたい。
(1)旅順猟奇虐殺事件
 日清戦争(1894.8~95.5)間の11月21日に起きた事件である。
 近代化に邁進中の日本は、戦争においては勝利することと国際法を順守する文明国家であることを強調する必要があり、戦場に国際法の専門家を同道し、第2軍司令官大山巌大将は「我軍は仁義を以て動き、文明に由て戦ふものなり」と訓示していた。
 勝利の報が続々と届いていた矢先の惨事に、影響を最小限にする方策で伊藤博文首相と陸奥宗光外相は振り回される。
 旅順市街に突入した日本軍兵士は、3日前に生け捕りされた3人の生首が、道路わきの柳の木につるされているのを見る。鼻はそがれ、耳もなくなっていた。さらに進むと、家屋の軒先に針金でつるされた2つの生首があった。
 米国人記者も「ワールド」紙で、「日本軍が旅順になだれ込んだ時、鼻と耳がなくなった仲間の首が、紐でつるされているのを見た。また、表通りには、血の滴る日本人の首で飾られた恐ろしい門があった。その後、大規模な殺戮が起った。激怒した兵士たちは、見るものすべてを殺した」と書いている。
 清国兵は残酷を極めた方法で傷をつけ、第2軍兵士の死体を放置した。
 死者、あるいは負傷者に対して、首を刎ね、腹部を切り裂き石を詰め、左腕を切り取り、さらに睾丸などまで切り取り、その死体を路傍に放置した。これは捕虜の扱いではなく、猟奇事件でしかない。
 この残酷さが日本軍に復讐心を燃え上がらせ、生首が兵士たちの激昂を誘ったとされる。
 攻撃の包囲網を狭められた清国兵は「袋の鼠」同然となり、軍服を脱ぎ捨て便衣兵となって民家に逃げ込んだ。
 復讐心は便衣兵の徹底捜査となる。また、市民の中には武器をもつ者もいた関係から、彼らも加害者とみなされた。
 歩兵第2連隊の加部東常七上等兵は「旅順市街に闖入するや、戸々軒々、家中を捜りて、(略)小暗き家の片隅に潜む一人の敵兵。オノレッ!とばかり・・・。直突一閃! 胸板深く突き通せば、彼、苦しさの余り、我剣刃を握れり。コワ・・・仕損じたり。と力を極めて引けば、四指を落としてがくりと倒るる所を亦一刺。魂、天涯に飛んで骸のみ」と手記に記している。
 この連隊では清国兵28人を斬殺した一等兵を筆頭に、21人、17人など、11人で166人の清国兵を屠ったという(以上、井上晴樹著『旅順虐殺事件』)。
 旅順郊外の萬忠墓には被難者計1万8百余名(かなりが便衣兵か)と明記されているそうである。数はともかく、事件は両国の将兵が確認し、内外の記者数名が報道し確認している。
 しかし、非は我に有りとのことか、中国は旅順の猟奇・虐殺をほとんど報道してこなかった。
(2)昭和2年の「南京事件」
 「長江(注:揚子江の上流域)流域上下二千浬(カイリ)に亘り、三千余名の在留邦人が暴徒の迫害から遁れて、財産を捨て地盤を棄てて内地への引揚げを断行したことは、我日本としては空前の史実であり世界的にも希有の事変である」
 「彼らの我邦人に対する嫌悪と軽侮の念は、十数年来の排日によりて遺憾なきまでに蓄養された。その今日あるはむしろ予想されていなければならなかったはずだ」と悔しさを隠さない。
 これは、合法的に南京・蘇州・漢口・重慶などに居留していた日本人が昭和2年の春、中国人によって襲われ、引揚げざるを得なかった日本人襲撃事件の実相を、直後に結成した「中支被難者連合会」が証言や公文書を用いて再現した『南京漢口事件真相 揚子江流域邦人遭難実記』の「序」である。
 少し説明が必要であろう。事件発生時までの3年間、外務大臣は幣原喜重郎であった。
 上海などで中国の横暴がしばしばあり、英米などは軍艦を出動させて鎮圧してきた。しかし、幣原外相は話し合い解決を主張し、軟弱外交と批判されていた。
 こうしたことから、南京の日本領事は「北伐軍を刺激しない」「無抵抗主義で対応する方が効果的」として、荒木海軍大尉らが準備した領事館前の土嚢を撤去し、機関銃は倉庫に隠した。
 そこに事件が起き、兵士と暴徒の侵入を許し、婦人までが凌辱・強姦の「忍ブベカラザル検査」(「検査」は領事の表現)を受けたのだ。
 中国が事件を起こしても、武力対処は一切斥けた。こうした日本外交に対する思いが「今日あるはむしろ予想されて」の謂いであり、悔しさが滲んでいる。
 これこそが「南京事件(昭和2年)」と呼ばれるもので、今日、「南京大虐殺」(昭和12年)として非難されているものは、事件でなく追撃戦であった。
(3)通州虐殺事件
 北京の東方約20キロのところに通州がある。「冀東(きとう)防共自治政府」の管理下にある通州保安隊に守られて日本人居留民は生活していた。
 盧溝橋事件から3週間後の29日(1937年7月)から翌30日未明の間に、保安隊は国民党軍と示し合わせたかのように警備を解き、女子供を含む邦人257人(日本の警備隊32人を含む)が惨殺された。
 居留民たちの救援活動を取材するために、たまたま来ていた同盟通信社の安藤利男記者も襲撃を受けるが九死に一生のチャンスを得て脱出��成功し、後に『虐殺の通州脱出記』を書いている。
 午前2時半ごろ保安隊の動きが怪しいとの電話があり、その後は不通。4時頃からは銃声も聞こえる。7時ごろになると市街南方辺りで白煙や黒煙が上がり、銃砲声も激しくなる。
 8時になると、記者たちが泊まっていた近水楼の支那人ボーイが他所から口も利けない状態で駆け込んできて、「特務機関付近の通りの邦人商家、カフェー辺りで、日本人が多勢殺されてゐる。太変です・・・」の第一報をくれたという。
 また、奇跡的に生き残った人たちも、色々と証言しており、虐殺事件の状況はかなり正確に伝わっている。
 1か月後には『主婦の友』が人気作家吉屋信子をカメラマンともども派遣。その時も証拠は至る所に残っており、女性の目で子細に記録している。
 しかし、平成28(2016)年7月、現地を訪ね『慟哭の通州―昭和12年夏の虐殺事件』を上梓した加藤康男氏によると、通州市は北京市に吸収されて、「もはやこのあたり一帯に通州虐殺事件に関連した建物は何一つ残されていない。旧城内は、90年代ごろから徹底的に破壊し尽くされてきた」という。
 事件から5カ月経った12月下旬(日本軍が南京で入城式を行った1週間後)、冀東防共自治政府と日本側との間で弔意賠償金の支払いや慰霊碑建立の決着が図られた。
 都合の悪い慰霊碑はいつしか地下に埋め隠されたが、再開発で偶然に発見された。
 その状況を「北京日報」(2001.8.24付)は、「日本軍が中国を侵略した証拠、通州区で慰霊碑が見つかる」との見出しで報じたという。
 「1938年日本軍のもので、我が国の抗戦軍民が倒した日寇のいわゆる『慰霊碑』だった。・・・文字はいずれもひどくかすれているが、『大東亜共栄』など日本の侵略理論も記されている」
 「通州区の文物所所長によれば、・・・1937年7月29日早朝に通州の2万人余が蜂起、この偽政府(注:冀東防共自治政府)を占領した上、日本人五百人余りを撃ち殺した。翌日、日本軍は大規模な報復を行い、偽政府に二つの慰霊塔を立てることを要求、塔の前には慰霊碑も立てた」
 殺害者二百数十人を「五百人余」に倍増し〝抗日の成果″を誇っているし、また5か月後の話し合い決着を「翌日」として日本の傲慢な要求に見せかける中国一流の誤魔化しがある。
 加藤氏は、「南京や盧溝橋はもとより、満州各地にある旧大和ホテルに至るまでが『対日歴史戦』の遺跡として宣伝利用されていることを考えると、雲泥の差である。『通州虐殺事件』の痕跡は極めて都合が悪いので、完膚なきまでに消し去ったものとしか考えられなかった」と述べる。
おわりに
 通州虐殺事件について、「東京日日新聞」(昭和12年8月6日付、毎日新聞の前身)は、「敵は第29軍の首脳部の命を受け26日頃から通州襲撃の保安隊及び正規兵と連絡をとり、北清事変議定書によって正規兵は天津市内に入るを得ざるを以て便服に着替へて大胆にもトラックを以て続々天津付近に侵入。機関銃、迫撃砲、小銃、青竜刀などを蔬菜や貨物の下に隠して運び込み、時の到るのを待って居た」と報道している。
 天津では中国軍から攻撃を受けるや否や、日本軍が反撃に出て撃滅したため大事に至らなかったが、通州虐殺事件は天津の日本租界・軍関係機関、その他の邦人多数居留区域と共に、2年前から襲撃計画が練られていた同時多発テロであったのだ。
 同紙は「約1万5千人を虐殺し、掠奪を恣にしたうえ、日本租界を占領しここに青天白日旗を翻して天津から邦人を一掃する」ことになっていたかもしれないと書いている。
 加藤氏によると、中国共産党は、通州事件を「反正」(過ちを正すこと、即ち冀東防共自治政府の消滅)として評価し公認しているという。それなのに、「なぜ痕跡を抹殺しようとするのだろうか」と疑問が沸く。
 筆者は次のように思う。旅順猟奇虐殺事件や通州虐殺事件は、虐殺現場の目撃者があり、「事件の存在」が証明される。これらの事件を大きく取り上げると、「南京大虐殺」についても「事件存在」の「明確な証明」が求められる。
 しかし、習近平さえ英国女王の晩餐会で「存在の証明」で「友好のプレイアップ」を図ったが、逆に「非存在」の暴露になってしまい、“はい それまでよッ!”となりかねなかった。
 南京事件は大虐殺の「状況証拠」から離れていくばかりだ。いかがであろうか。
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#076 ナビゲーター(袋小路でやぶから棒に)
 あの、すみません。まずは、あの、はい。お、お、落ち着いて。あ、すみますみすみすみません。とりあえずは、まずは、なにをおいても、こういう時は、ええ、絶対的、可及的、速やかに、落ち着くことが大前提かつ大事ですから。はい。とにかくまずは、深く、ふかく、ふか……げええっほんえふんげふんごめんなさいんんんっ。はい。深呼吸から……はあ、深呼吸から始めましょう。それから、すべてはそれからです。息をすう〜、はあ。すう〜、はあ、して。……そう、そーうですはいはい。はい。はい。よくできました〜。あっすみませんすみません。怒らないでください。馬鹿にしているわけではないんです。けっして、断じて、誓って、そんな失礼なこと、あなたにするわけないじゃありませんか。そう思いません? 思いますよね? よかったよかった。それでですね、まずはそのー。あっ、挨拶がまだでしたね。えと、おはようございます。あ違うか違いますね。はじめましてですねこういうときは。人と人がはじめて、こう、顔面を合わせると言いますか。初対面。そう、初対面、ですよね? 満員電車の中ですとか、信号待ちの間ですとか、もしかしたらもしかすると、偶然ばったり出会っていたのかもしれませんけど。あ、こういう場合――つまり、まだちゃんとした初対面の挨拶を交わすより以前に、あなたを見かけていた場合――も、ばったり、とか、偶然、って、使うんですかね? そこんところ、ちょっとよくわかんないんですけども。でも、そうですね、とりあえずは、はじめましてにしておきましょうか。しておいてください。どうか。どうか……。  えと、それでですね。あなたの頭には今、たくさんのハテナが浮かんでは消え浮かんでは消え――あ、消えてはいないですか。それは失礼しました――、していると思うんですよ。そりゃ思いますよ。思うことでしょう。誰だってこんな、非常時にはそういう思考回路が働くものです。誰だこいつら、と。なんでこんなに腰が低いんだ、と。そもそもなんで部屋にいるんだ、と。こんな早朝に、と。まだアラームが鳴る二時間も前なのに、と。得体の知れない輩に安眠を妨げられたぞ、と。今日は祝日なのに、と。小鳥のさえずりしか聴こえないくらい早朝じゃないか、と。チュンチュク鳴いてるあの小鳥はスズメだろうか、と。そうですおそらくスズメです。それにしても最近、スズメを見かけなくなりましたよね。なんでも年々スズメの数が減っているらしいですよ。ええ。ええ。本当ですとも。こんな所で嘘なんかついてなんになるんですか。こんな、高層ビルの裏の、袋小路の、ゴミ臭い、陽の当たらない場所で。……そうですとも、まだ寝ぼけてますね。大丈夫ですか? もう一度深呼吸しますか? コンコンコン、おーるーすーでーすーかー? いえいえ冗談ですってすみませんってばふふふ。ああ失礼。とにかく、今一度、辺りを見回してください。たっぷり、首を左右上下に、三往復くらい、動かしてみてください。首の運動には眠気をふきとばす効果もあります。そうしたら、けっして慌てずに、まずはこの文章に目線を戻しましょう。  これでようやくお分かりになりましたでしょうか。ああ、よかった。ホッとしました。とりあえず、ホッ、とさせてください。この仕事も、いろいろと気苦労が絶えないのです。ほら、その、あなたのように、イレギュラーな状況で浮空期に突入した場合、パニック障害を併発することもめずらしくないのです。ええ、ええ、ここだけの話。そうなんですよ。  まさか俺が。そう思ってますか? ついにきたか。そう思ってますか? なんでまたこんな時期に……。そう思ってますか? まあ、災難ですね、としか言いようがないですね。五年間、学生のころから付き合っている人と別れて、しかもその人には二年前から別の恋人がいて、つまりあなたは二年間浮気をされていて、しかも付き合っている人的にはあなたより浮気相手のほうが本命で要するにあなたは浮気されていたと言うよりあなたが付き合っている人にとっては浮気相手のようなもので、お荷物で、ただのヒモ野郎で、ノータリンで、……みたいなことを昨日の夜付き合っている人と付き合っている人の浮気相手に一方的にまくし立てられて、あなたは驚きすぎてなにも言い返せなくて、むしろ驚きを通り越してなにも感じなくて、なにも感じないのだから当然言うべき言葉も言いたい言葉もなにも浮かばずただあなたは「ふうん」という心持ちで冷蔵庫から缶チューハイ――夏みかん味の五〇〇ml――を取り出してグビグビ飲んで、飲んでいるうちにやっぱりなんだかムシャクシャするなあとぼんやり思い始めて、特に暴れもせず泣きわめきもせずに、無表情のまま付き合っている人の浮気相手の頭頂部に残りの缶チューハイをダバダバと注いで、付き合っている人も付き合っている人の浮気相手もなぜだかまったく動じずに「なにこいつ」といった眼をあなたに向けるだけで、缶チューハイを注ぎきったあなたは「ほいじゃ、俺はこれで」とでも言い出しかねないくらい気さくな身のこなしで玄関の百円ショップで買ったオレンジ色のサンダルを履いて、行きつけの、駅前のおでんの屋台にでも行こうかなと足を動かしはじめたはいいものの、途中でそっか今日日曜日だわおでん屋やってねーわってことに気づいてしばらく迷いながら歩いた結果駅前のカラオケ館に足が進んで、人生初の一人カラオケというものでもしてみようかという気持ちにだんだんなってきて、「一名で」なんて少しぶっきらぼうに、顔を横にぷいっとそむけそうなくらいそれはそれはぶっきらぼうな「一名で」を店員に向かって投げ捨てて、二〇一の札を笑顔の店員に渡されてあなたは仏頂面のまま二〇一号室までペチペチ――サンダル履いてますからね――歩いて、着いて、固いんだか柔らかいんだかはっきりしないソファーに体を沈めたあとに「別に俺、歌いたい曲ねえや」ってことに気づいてその言葉を実際に口に出して、何回か舌打ちしながらメニュー表をめくって少し迷った末にあなたは生ビールを頼んで、パリパリという音と共に今にも剥がれ落ちそうなくらい乾いた笑顔で店員がそれを運んできて、あなたは痙攣のような会釈だけして店員が去るのを待っ��、一息で飲んで、頼んで、飲んで、頼んで……、午前三時――つまり日付的には今日、ですね――の退出コールギリギリまでそれを繰り返して、千鳥足で、階段で二、三度転けそうになりながら、爪先立ちみたいな体勢で一階のレジまで歩いて、店員に番号札を渡してから「そういや俺財布持ってきてねーじゃん」ってことに気がついて、「やべ」と口から出かけて、千鳥足のまま操り人形みたいなぎこちない動きで右向け右をして、そのままダッシュで逃げて――お客様! おい! お客様! という声を後ろで聞きながら――この路地裏まで逃げて逃げて逃げて、倒れ込んで、眼を閉じて、そして眼を開けたら見知らぬタキシード姿のおっさんがいて、こんなあなたのプライベートな情報をペラペラと喋られているんですからね。ほんと、災難でした。いや、現在進行形で、残念ですね。ご愁傷さまです。あ、死んでないですね。しかしながらですね、もうちょっとクサい言い方をさせていただきますとあなた、あなたの心はもう死んでいるようなものです。あなたの半分、半身は、ご愁傷さまって感じですね。ほんと。ところでご愁傷さまってあなた、実生活で言われたことあります? 初めて言われたんじゃありませんか?  とりあえず、あなたは今、立ち上がっています。いますよね? まあ、地に足は着いていませんが――いえいえあなたの生き方がというわけではありません、ですからどうか、その握りこぶしを解いてください……そう、そう、ゆっくり、ゆっくりね――、とりえあず、〈立ち〉上がってはいます。ね。そうでしょう?  あなたみたいなケースはわりかしめずらしいのです。ですから、ええ、さきほどから再三、口をこれ以上ないというほどすっぱくして申し上げておりますが、どうか、落ち着いて、冷静に、行動なさることが肝要なのです。浮空期の初期段階に不慮の事故等で死亡してしまうケースはままあります。ですから、あなたのこれまでの人生の、常識の枠は一旦、外していただいて、どうか、説明委員会の言葉に耳を傾けていただきたい。いいですね? はい。いい返事です。そうしましたらまずは、説明委員会の名に恥じぬよう、簡単かつ簡潔に、ご説明のほう、させていただきます。  まずはそう、あなたの足元、ゆっくりと、再度確認してみましょう。はい、そうです。そうですね。浮いています。宙に浮かんでいますね。重力から解き放たれて。歩こうとしても足がスカスカッと空を切って歩けませんね。ええ。そうです。浮空期の間、通常の方法で――つまり、左右の足を交互に、前後に動かして体全体を前に押し進めるという方法のことですね――歩くことができません。ええ、ええ、仰りたいことはわかります。不便ですね。とーっても不便です。エスカレーターに乗ってもあなたの足の下で段差が動くだけです。エレベーターは……、ふふ……、ああ、いえ失敬。すべてを説明してしまっては興も冷めるというもの。わたくしども説明委員会は、過剰な説明は過剰な愛、を社訓――委員会の場合も社訓って言うんでしょうか――に掲げて日々浮空期の方々へのツボを押さえた適切かつ適度な説明――そう、それはほとんど愛――を心がけております。ああっ、そこそこ、その説明。あーちょうどいい、いやあいいわあ。きもちいい……。という声をいただくこともままあります。というわけで、あなたには、肝心要の部分のみ、ご説明させていただきます。あなたもこの宇宙の、この地球の、つまり、宇宙船地球号の乗組員である人間ならば、今、ご自分の体に起こっている現象、そしてその現象の名称、ある程度は理解しているはずです。なにしろ今は朝の七時。人間の脳みそが一番活発に動く時間帯です。もっとも、その三〇分前までに朝ごはんを食べていればの話ですが。あっ、そういえばタキシードの右ポケットに、あなたに会う前にコンビニで購入したおにぎり――焼きたらこ――が入っています。説明と、あなたの練習がてら、このタキシードの右ポケットから、自力で、おにぎりを取ってみてください。安心してください。取って食おうってんじゃないんですから――それに、取って食おうとしているのはあなたですよ――。さあ、指示通りに、体を動かしてみてください。まずはお尻の穴……肛門付近に力を入れてください。なかなか出てこないイケズな大便をひり出すように――もちろん、本当にひり出してはいけませんよ。そういう人、案外多いんです――。そして右人差し指の爪を甘咬みしてください。それが体を動かす方法です。車に例えると、肛門に力を入れることが、エンジンを吹かす行為、右人差し指の甘咬みが、エンジンとハンドルを操作する行為です。甘咬みしたまま手首を左右に動かすと、その動きに連動して……おお、そうそうそうです! その調子です! そのように、体が左右に回転します。そのまま手首を動かして、こちらに体を向けるようにして、はいはいその調子ですよ、そして、その状態で肛門に力を……そーうです! これで前進はわかりましたね。ちなみに後進――バック、ですね――したい場合は、おヘソの辺りに力を込めてください。腹筋を鍛えるような感じで……おおー、いいですね、いいですよ。はい、では、もう一度、前進して、近づいてみましょう。ちなみに力を入れれば入れるほど、スピードは速くなります。はい、これであなたとタキシードの距離は限りなくゼロになりました。ちょっと、その、気まずい距離感ですね。吐息がかかる距離、と、言いますか。恋人でないと許されない距離、と、言いますか。あっ、いえ、別にその気はありませんのでご安心を。では、右ポケットからおにぎりを取ってみてください。はい、よくできました〜! 何度も言うようですがバカにしているわけではありませんよ。なので、どうかその、怒髪天を衝くかのような肩の上下運動を辞めてくれませんか。ちなみにですね、浮空期の間は、自分の体重、身長以下の物なら、一度触れれば宙に浮かせる事ができます。ですから、その、おにぎりを口いっぱいに頬張るのを一旦中断していただいて――ええ、ええ、ほんと、すみません。お願いですからそんな怖い顔しないでください――その練習も、一応、やっておきましょう。万が一、ということがありますからね。その力が誰かの命を救う。なんてことが、無いとも限らないですから。例えばこの、二五階建てのビルが火事になって、逃げ遅れた人が外に面した窓ガラスに追いやられていたら、窓ガラスを割ってもらって、あなたはそこら辺にある――ああ、あそこにちょうどいいベニヤ板がありますね――ベニヤ板を触って、逃げ遅れた人がいる階まで浮かせて、エレベーターの要領でサラリーマンやOLの方々を救い出すことが出来ます。素晴らしいじゃありませんか。浮空期の特権です。もちろん多くの人から感謝されます。ありがとう。ありがとう。君がたまたまこんな路地裏で、酔いつぶれて寝ていたおかげで助かったよ。助かりました。握手。握手。さらに固い握手。そして感謝状の授与。嗅ぎつけたマスコミがあなたをネタに記事を書く。あなたは一躍有名人。街中でサインなんか求められたりして。ああ、はい。そうです。ええっ、サインですか。いやいやそんな。サインするほどの人間じゃあ……、ああ、そうですか……? じゃあ、まあ、はい。えっと、ここに? はい。はい。サラサラサラ、っと。あ、ちょっと、カメラはちょっと。恥ずかしいっていうかなんていうか。いやはは、まいったなこりゃ。そしていそいそと人混みをかき分けて目的の場所へ進むあなた。目的の場所――川沿いに最近オープンした小洒落たヴィーガンレストラン――には、ビル火災の中、果敢にも人々を救ったあなたのことが書かれている記事を読んだ元恋人。再会を喜ぶ二人。微笑みを交わす二人。まずはグラスワインで乾杯をしようではないか。注文をしようと手を上げたあなたを元恋人は優しく止める。ワインはちょっと。だって、私のお腹には、もう……。あなたの耳には聴こえないはずの、命の、微かだけれど確かな鼓動が聴こえてくる。そう、あなたと元恋人の――現、伴侶の――。……なんてことにもなるかもしれないのです。あ痛い。いたた。ごめんなさいごめんなさい。まだ一応、正式には、面と向かって、別れを告げられてはいなかったですね。元恋人ではありませんでしたすみません。すみませんってば。  えと、それで、なんでしたっけ。ああ、説明がまだ途中でしたね。触れた物を浮かせたい場合は、左人差し指の爪を甘咬みします。はい。そうです。甘咬みした瞬間から、物は浮きます。あとは、基本的な動作は先程の、体の操作と同じです。肛門に力を入れると前へ、おヘソに力を入れると後ろへ進みます。上へ上へと浮かせたい場合は、甘咬みしたまま腕を上げてください。上げている間、物は上昇し続けます。落下させたい場合は甘咬みをやめるか、腕を下げてください。その他、細かい動きはすべて、甘咬みしている間、左腕の動きと連動します。簡単でしょう? 最初のうちは微調整が難しいでしょうが、すぐに慣れるはずです。あなた、なかなか筋がいい。いや、本当ですよ。浮かせることすらままならない人も、最近は多いのです。……ああ、そうそう言い忘れていました。浮かせることができる物は、最後に触った物だけです。複数の物を同時に操作することは出来ません。気をつけてください。くれぐれも。  そうそう、これは最初に説明しておくべきでしたが――いやほんと、説明委員会失格ですね――。男性の生理と言われるくらいですから、女性同様、浮空期の前後、浮空期の間で心身に様々な変化が起こります。顕著に現れるのは性欲の減退ですね。浮空期の間、睾丸の機能は著しく低下します。常に射精直後のような状態になる、と言ったら、わかりやすいでしょうか。浮空期の間は女性を――ゲイセクシャルの場合ですと男性を――見るだけで苦痛に感じる人もいるそうです。いやはや、そこまでいくとちょっと理解し難いですね。とにかく、どんなにお盛んな人でも、浮空期の間は射精することが困難になります。ま、大体の人は射精をする気も起こらないので、大丈夫でしょう。  先程、常に射精直後のような状態になる、と説明しましたが、浮空期が近づいてくるにつれて、段々とそういった精神状態になっていきます。落ち着いて、冷静に、物事を判断できるようになる、ということですね。あなたは昨日、元――……失礼――恋人とその浮気相手に散々ひどいことを言われたにも関わらず、ある程度は平静を保てていました。今になって考えてみると、それは浮空期直前特有の症状だったのかもしれませんね。そして、安定した精神状態に移行してから大体三日後、夢精を合図に浮空期が始まります。……ええ。ええ。そうです。あ、気づいていませんでした? あなた、夢精したんですよ。この、高層ビルの裏の、袋小路の、ゴミ臭い、陽の当たらない場所で。あ、ちょっと、ごめんなさい、ごめんなさいってば。  ちなみに浮空期は、月一回ペースでやってきて、およそ一週間で終わります。終わる時は夢精も何も起こりません。目が覚めたとき、体が地面にピッタリくっついていれば、それが終了の合図です。性欲も、精神状態も、通常に戻ります。もう、ビンビンの、グングンです。その、あなたの、スカイツリーに負けじとそそり勃つイチモツを、存分に振り回していただきたい! まあでも、今はとりあえず、精子が乾いてカピカピにならないうちに、ティッシュ――あ、ポケットティッシュ、持ってたんでさしあげます――で綺麗に拭き取ってください。大丈夫です。後ろを向いておきますから。どうかお気になさらずに、あなたのペースで、慌てることなく、精子と、そのぬめり気のあるパンツを処理してください。ここにはあなた以外誰もいない、誰も来ない。袋小路なのですから。栗の花の匂いが染み付いたパンツの一つや二つ、ポイ捨てしてしまっても何ら問題ありません。ええ、ええ。本当ですとも。さあ、一刻も早く――されどあなたのペースは乱さずに――その青いチェック柄の、ゴムが伸びきっていて、歩くと少しづつずり落ちてしまう、三年前に――そう、恋人と付き合い始めたころ、ユニクロで――買ったトランクスを、どうぞ、地面に叩きつけてください。そして、彼がトランクスを力の限り地面に叩きつけたのとほとんど同時に、今までピーチクパーチクしゃべり続けていたタキシード姿の男の隣にただただ突っ立っていただけのもう一人の男――もう一人の男は、ジーパンに半袖シャツというラフな格好だった――が、やぶから棒に、口を開いた。川城さん、も、いっすかね僕しゃべっても。いっすかね。やっぱり〈あなた〉とか言われたってピンと来ないっすよ正直言って。えっと、矢野さんでしたっけ? わかんないっすよね。いやいや、誰だよ。みたいな。そう思いません? ……あ、ちなみに自分、宇城っす。ままま、川城さん、ちょっとここからは、もうちょいわかりやすく、僕が説明しますんで。だ〜いじょぶっすよ川城さ〜ん。これでも自分、説明の成績はトップなんで。川城さんは僕の隣で、ドシンと構えてくれてればいっすから。はい。はい。  矢野は自分の体の感覚を取り戻しつつあった。この袋小路で、怪しげな説明委員会の男二人組に揺り起こされて、ついに自分が浮空期になったということ��知らされてから、ずっと、自分の体を見知らぬ誰かに操られているような気分だった。歩く動作をしているのに、前に進まない。体の向きを変えることもできない。これが浮空期か。タキシード姿の男、川城の説明を聞きながら、矢野は昨日の出来事や恋人の浮気相手のこと、サンダルで家を出たのに今は裸足だということ、雨が振りそうな雲行き、何枚も溜まっている公共料金の請求書のこと、などなど、とりあえず現時点でわかる限りの問題や不安、悩みを頭の中でリストアップしようとしてすぐにやめた。そんなこと考えてなんになるというのだろう。自分だって、恋人との生活に限界を感じていたはずだろ。職だってそろそろ本気で探さなくてはいけない。バイトでも内職でも、コンビニでも工事現場でもディーラーでも汚染処理でもなんでもいい、恋人とすっぱり縁を切るからには――やはり、そうするしかないのだろうか――、自分の時間を売ってお金に替える方法を、早いとこ見つけるしかない。それ以外のことを考えるのはやめよう。やめよう。  川城の説明通り、今の矢野には性欲がまったく無かった。まるで最初から存在していないみたいに、きれいさっぱり、消え去っていた。なるほどこれが生理か。矢野は、二八歳という、あまりにも遅咲き過ぎる自分の心身の変化を、戸惑いつつも楽しんでいた。浮空期は女性の生理と違い、始まる時期が人によって大きく異なる。五歳で浮空期が始まった宇城――今、川城の隣でしゃべり続け、言葉を書き連ね続けているジーパン姿の男――のような人もいれば、矢野のように成人してから浮空期が始まる人もいる。死ぬ間際、病院のベッドなどで始まるようなケースも極稀にだが、存在する。その点だけ見ると、生理というよりむしろ水疱瘡やおたふく風邪に近い。矢野は宙に浮かせっぱなしだったおにぎりを口に投げ入れ、というより口の中まで移動させ、ゆっくりと咀嚼した。  携帯を見ると不在通知が何件も届いていた。知らない番号だ。おそらく昨日行ったカラオケ館からだろう。なんでてきとうな番号をでっちあげなかったんだ。名前も、きっちり矢野とバカ正直に書いてしまった。いや、それよりも、なんであのとき逃げてしまったんだ。いやいや、そもそも、なんで恋人の部屋で自分はあんなに落ち着いているかのようにふるまってしまったんだ。なんで外に出たんだ。なんで財布を忘れたんだ。これもすべて浮空期の前兆がもたらした行動なのか。考えてもきりがない。どうせもう身元はわれているのだ。説明委員会の二人ですら知っている情報ばかりだ。自分があれこれ案じても何も変わらないのだ。矢野は携帯で一週間の天気を調べた。次に晴れるのは四日後か。ふん。  矢野は左人差し指を甘咬みし、携帯を宙に浮かせた。左腕を思い切り上げると携帯は物凄いスピードで上へ上へとグングン昇っていく。このまま昇り続けるとどうなるんですかね。甘咬みした状態で矢野が宇城に話しかける。まあ、大気圏は余裕で越えるっす。それでもさらに昇り続けたら、どうなりますかね。だんだん、空気が無くなっていくんじゃないっすか、詳しくは知らないっすけど。空気が無くなっても、さらにさらに、昇り続けたら、どうなりますか。宇宙まで行きますね。宇宙を進み続けたら、どうなりますかね。あーそれ、たしか、どっかで読んだか聞いたかしたんすけど、それで、どんどんどんどん進み続けて、何光年も先の宇宙まで進み続けて、そうやって浮空期の人たちが飛ばした物が星になって、星と星を人が繋げて星座にして、だから僕らがこうして星空を見て、おうし座だとかふたご座だとか言っているものは元々遠い昔の人々が宇宙に飛ばした貝殻とか、お椀とか、槍とか、弓とか、筆記具とか、パンケーキとか、ガラス瓶とか、綿棒とか、お相撲さんのマゲとか、レコードとか、煙草とか、パピルス紙とか、羊の毛とか、豆電球とか、画鋲とか、死んだ人の骨とか、貞操帯とか、トランペットとかで、だから、死んだ人がお星様になるっていうのはあながち間違いじゃないと思うんすよね。あれ、なんか、語っちゃいましたね。つまり、俺が今操作している携帯も、いずれは星になるんですね。あー、多分、そっすね、なると思います。矢野の左人差し指は唾液でふやけはじめていた。身元がわれているということは、きっと今頃、警察にも連絡がいっているだろう。早くも捜索が始まっているかもしれない。恋人の家に連絡が行っているかもしれない。いや、連絡では飽き足らず、実際に警察官が恋人の家に押し入っているのかもしれない。別れの瀬戸際でも迷惑をかけてばかりだ。昨日は恋人と恋人の浮気相手にひどい仕打ちをされたが、付き合い始めてから今までの五年間、ずいぶん恋人にひどい仕打ちをしてきた。喧嘩ではすぐに手をあげてしまうし、お金は勝手におろすし、酔って暴れて食器を割った数なんて数え切れない。もう恋人の部屋には戻れないし、戻りたくないし、警察から逃げ続けなければならない以上、職を見つけることすらままならない。財布も携帯も身分を証明するものもなにもない。あるのはポケットでくしゃくしゃになっている煙草とライターだけ。矢野はポケットから煙草を取り出し、火をつけた。吸って、吐いて、一呼吸置いてから甘咬みをやめてしまったことに気づいたが、遥か彼方まで昇っていった携帯は一向に落ちてこなかった。灰が落ちそうになっていることに気づいた宇城は矢野に素早く携帯灰皿を差し出す。ああ、悪いね。いいんすよ。心中、お察しするっす。煙草はまだ充分吸えるだけの長さで燃え続けていたが、矢野はそれを無理やり携帯灰皿に押し込んで、宇城に返した。宇城は渡された携帯灰皿を、また矢野の手のひらに戻す。いいっすよいいっすよ、その携帯灰皿はあげますんで。その灰皿見るたびに、なんとなくでいいんで、僕のこと、思い出してください。って、気持ち悪いっすね自分。よく言われるんすよ、お前は説明対象に情が移りやす過ぎる、って。ま、僕、携帯灰皿何個も持ってるんで、大丈夫っすから。矢野は口元を緩めて、ありがと、とぼそぼそ声でお礼を言った。携帯は落ちてこなかった。おそらく大気圏を越えて、地球の周回軌道にでも乗ったのだろう。それとも周回軌道すら超えて、いずれどこかの惑星にたどり着くであろう隕石やスペースデブリの一つとして宇宙空間を漂っているのだろうか。矢野にも、もちろん宇城にも川城にも、それは分からなかった。ぽつりぽつりと降り出してきた小雨に、傘をさすか否か、三人はそのことばかり考えていた。傘なんてないのに。  同時刻、矢野の恋人は住処である二階建ての軽量鉄骨アパートの部屋で、浮気相手と二人で、穏やかな寝息をたてていた。いや、眠っていたのは浮気相手だけで、恋人は一時間ほど前に目が覚めてから、どうにも寝付けずに、浮気相手の寝息を自分の前髪に当てたり、脇腹をくすぐったりして、再び眠気がやってくるのを待っていた。マヌケそうに口をぼんやりとあけて眠る浮気相手を見つめる恋人の表情は柔らかく、その表情からは、矢野と接するときの冷たさや無感情さをうかがい知ることは困難である。今夜はなにか好きなものを食べに行こう。朝目覚めた時にベッドの中で今日の夜のことを考えるのは恋人の幼少期からの癖みたいなもので、それが、二四時間のうちでもっとも愛おしい時間なのだと、以前、恋人は矢野に言ったことがあった。眠気は一向にやってこない。二度寝を諦めて、恋人は台所で細かく刻んだベーコンとタマネギを炒めた。昨日、矢野が部屋を出ていってから作り置いてあったなめこのみそ汁を温めている間、恋人は矢野が買い置きしていた煙草一カートンをまるまるゴミ袋に捨てて、灰で底が見えなくなった灰皿を捨てて、毛先が開いた矢野の歯ブラシを捨てて、LOFTで買ったペアのマグカップを捨てて、ここぞというときに食べようと思っていた矢野のエクレアを食べて袋を捨てて、捨てて捨てて捨てて、ゴミ袋を二重固結びできつく結んで、玄関の隅に置いた。ベッドでは、浮気相手がフワフワと宙に浮いていた。ああ、今月もきたか。いっつも症状重いみたいだし、大丈夫かな。みそ汁からは湯気がもうもうとたちこめている。恋人はコンロの火を消してお椀にみそ汁を入れ、ベーコンとタマネギの炒めものを小皿によそい、ラップにくるんで冷凍保存してあったご飯をレンジで解凍して、一人きりの朝ごはんを堪能した。今日の夜はなにを食べに行こう。脂っこいものが食べたいかも。チキン南蛮とかいいかもしれない。かつ吉のトンカツもいいかもしれない。いやいやそれより、脂とかいいから、少し足を伸ばして、川沿いに最近オープンした小洒落たヴィーガンチレストランに二人で行くのもいいかもしれない。考えながら箸を動かしているうちにお椀も小皿もお茶碗もキレイに空になり、満足そうに唇の周りを舌で舐めてから、恋人は洗い物を始めた。  どこかで誰かと誰かが話している声がする。向かいの公園から犬の鳴き声が聞こえる。通り沿いにある中学校から野球部の掛け声と吹奏楽部がホルンやユーフォニウムやサックスやフルートを吹く音が聞こえる。携帯がさっきからずっと震え続けているけど私はそれを無視し続けている。冷蔵庫の稼働音がわからないくらい微かに部屋を揺らしている。数分前についたばかりの脂を洗い流す水の音が規則的に聞こえてくる。油は泡と共に水で洗い流され、食器棚に置かれていたときより綺麗になったお椀と小皿とお茶碗の、キュイキュイっという、清潔さの証明のような音が部屋に響く。私はベッドで浮かぶ木下が起きたらまずなにを話そうか、考えている。ヴィーガンレストランなんて、かっこつけ過ぎだ。今日の夜は、近所のスーパーで豆乳でも買って、豆乳鍋にしようか。私も木下も湯葉が大好きなのだ。脂っこいものが食べたいのかも、という気持ちは不思議と消えていた。台所のまな板置き場のそばに、矢野の携帯灰皿が置いてあるのを見つけて、私はそれをからにしたばかりのゴミ箱にシュートした。  木下の寝息は聞こえてこない。  洗い物を終えた私は濡れた手を拭くのも億劫になって、ポタポタと指から水が滴っている状態のまま、ベッドにもう一度もぐった。手についた水は布団やまくらに吸収されて私の手は潤いを失っていく。叩いても突っついても木下は起きる気配すら見せない。私はすぐにまた起き上がり、ベッドの上で体育座りをして、自分の膝に顔をうずめながら、隣で、空中で、ゆりかごに揺られているように漂いながら眠っている木下の、静かな寝息に耳を傾ける。  五年後、矢野の携帯は地球の周回軌道を外れ、凄まじいスピードで大気圏に突入し、地表にたどり着く前に跡形もなく燃え尽きてしまう。
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monqu1y · 4 years
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索引
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 NHKは,2017年8月13日,恒例の日本軍悪玉論にのっとった番組のひとつとしてNHKスペシャル「731部隊の真実~エリート医学者と人体実験」(五十分)を放送した.それにとどまらず「大きな反響があった」として五ヵ月後の今年一月二十一日,二倍の長さに再編集してBS1スペシャル「731部隊 人体実験はこうして拡大した/隊員たちの素顔」(百分)を放送した  七三一部隊とは関東軍防疫給水部の通称である.防疫給水部は日本陸軍に置かれた疫病対策を目的とした医務と浄水を行う部隊だ.七三一部隊が細菌戦の研究も行っていたのは事実だが,細菌兵器の人体実験や中国での実地使用については見方が分かれている  これらの番組では,今回NHKがロシア国立音声記録アーカイブで発見した,「ハバロフスク裁判」における被告と証人の音声テープを証拠として関東軍による細菌兵器の人体実験と実地使用を事実として報道した  なぜ今ごろ六十八年も前のハバロフスク裁判なのか.私は「死人に口なし」の故人被告を当時の音声テープを持ち出して一方的に裁く「第二のハバロフスク裁判」(今度は欠席裁判)を意図したと見ている.ふたたび極悪非道な犯罪者として断罪したのである  ハバロフスク裁判とは,ソ連極東のハバロフスクで一九四九年十二月二十五日から十二月三十日までの六日間,主に関特演(関東軍特種演習)や関東軍防疫給水部,いわゆる七三一部隊などに関して抑留日本将兵を裁いた軍事裁判のことである.ハバロフスク地方は十五万人以上の日本人を抑留した最大の抑留地であり,かつ最後に日本人「戦犯」を集結させた収容所もあったし,日本人向けの宣伝新聞「日本新聞」を編集発行した場所でもあるから象徴的な意味を持っていた
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 NHKはこのハバロフスク裁判が公正な取調べに基いた公正な裁判であるとの前提で,音声テープをあたかも鬼の首を取ったかのように放送した.しかし,ソ連における「戦犯」裁判に公正な取調べも公正な裁判もなかったことはとうに明らかなのだ.この番組には共産主義独裁国家の司法制度に対する理解がまったく欠けているといわざるをえない  まず日本兵のシベリア抑留が国際法(ジュネーヴ条約)とポツダム宣言の「日本兵は速やかに帰国させるべし」との規定に違反する不法な長期抑留であった.加えて,「戦犯」裁判は,弁護士の接見など容疑者の正当な権利などかけらもない密室での強要,拷問などを伴う長期の尋問によってでっちあげられた尋問調書を証拠として,まともな審理も弁護もないままあらかじめ決めた判決を言い渡すだけの形骸化した裁判だった.私はかねて日本人「戦犯」受刑者は無実の囚人だと論証してきた
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 その「戦犯」裁判のひとつであるハバロフスク裁判も後述するようにフェイク(偽)裁判,もしくは暗黒裁判である.それゆえ,この裁判での被告の供述と証人の証言は,たとえ当人の肉声テープであっても真実を証明する証拠と認めることはできない.言い換えれば,このテープには裁判での証拠能力がない  念のために申せば,音声テープの証言内容がすべて嘘だといっているわけではない.ハバロフスク裁判の虚妄性を踏まえた上で,個々の証言が真実なのか真実でないのか,厳密かつ公正に検証すべきなのである  まずNHKは大好きな日本国憲法の第三十八条第二項をよく噛みしめてみるべきだろう  《強制,拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は,これを証拠とすることができない》  これは近代法の大原則である.国内の冤罪裁判には過敏なほど反応をするNHKなのだからこの条項の重要性はもとより承知のはずだ.仮に強制,拷問,脅迫はなかったと仮定しても,ソ連で四年の長きにわたって抑留・拘禁されたなかでの供述というだけで法廷での証拠能力は否定されるであろう  ソ連はシベリア抑留の当初から捕虜にした日本人軍民のなかから「戦犯」を捜し出して裁くという行動を意図的に取った.満洲,北朝鮮,樺太,千島に侵攻したソ連軍は,悪名高い「スメルシュ(防諜特別管理局)」を使って日本人軍民の「戦犯」容疑者を摘発し拘束した.摘発の対象となったのは山田乙三関東軍総司令官などの高級将校,憲兵,特務機関員だけでなく警察官,司法関係者,行政幹部,満洲国協和会関係者,民間会社の役員などの「前職者」も含まれた.もちろん七三一部隊の隊員もターゲットになっていた  ソ連内務省捕虜抑留者管理総局の昭和二十四年三月二十二日付の資料によれば,八八七〇人もの日本人が「戦犯」容疑者として登録され,うち二〇六人が七三一部隊員となっている.このなかからソ連当局が公開裁判に出廷させるのにふさわしいと認定した人が東京裁判とハバロフスク裁判に被告や証人として出廷させられ,二六〇〇人余りが二十年,二十五年といった長期刑を宣告された  ソ連では逮捕―取調べ―裁判―判決という形式は一応あった.しかしそれらの内実は西側の司法制度とは大きくかけ離れたものだったのだ.若槻泰雄の『シベリア捕虜収容所』などによれば,密告が奨励され,拷問が常套手段として使われ,自白が偏重され,裁判ではまともな弁護が行われず,実行行為ではなく企図や思想や職務が裁かれ,欠席裁判が横行し,銃殺や過重な長期刑が科されたのである  容疑者は監獄か収容所で取調べられるのだが,夕方から始まって深夜や明け方に及ぶのが常だった.寝静まった夜更け,薄暗い電灯の下で尋問されるだけで恐怖を覚えさせる.不眠と疲労で意識がもうろうとするなか自白を迫るのは一種の拷問だった.取調官が拳銃をちらつかせて脅すこともよくあった.このほか絶食,減食,水攻め,寒冷攻め,脅迫,暴力などがあった
以下はNHKによる捏造虚報情宣 731部隊の真実~エリート医学者と人体実験~  戦時中,細菌兵器の開発を行った日本軍の秘密部隊,関東軍防疫給水部,通称731部隊.この組織の全貌を知る手がかりがロシアのモスクワで発見された.命を守るべき医学者が,なぜ人体実験に手を染めたのか.70年の時を経て明らかになるその真実とは 人体実験を主導したエリート医学者  当事者たちの肉声を記録した22時間に及ぶ音声テープ.終戦から4年後,731部隊の幹部らを裁くために旧ソ連で開かれた軍事裁判の音声記録だ.細菌兵器開発のために,生きた人間を実験の材料として使ったと証言されていた  
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「秘密中の秘密というのは,細菌戦をもって攻撃をやるという研究をやったということと.それから人体実験を行ったという2つの点であります」(関東軍 梶塚軍医部長の証言)  731部隊が実験を行っていたのは,中国東北部の旧満洲にある秘���研究所.実験材料とされ,亡くなった人は3,000人に上るとも言われている.NHKが収集した国内外の数百点に及ぶ資料から,軍人だけでなく,東大や京大などから集められたエリート医学者たちも,人体実験を主導していた実態が浮かび上がった.専門知識を持った医学者が集められ,組織されたことで,実験が大規模に進められていったのだ  中国東北部ハルビンの郊外20キロに,今も731部隊の本部跡が残る.部隊は,周囲数キロに及ぶ広大な敷地で極秘に研究を進めていた.四角い3階建てのビルには最先端の研究室が並び,その中央には周囲から見えない形で牢獄が設置され,実験材料とされた人々がとらわれていたという
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 731部隊が編成されたのは1936年.当時,日本は旧満州に進出し,軍事的脅威となっていたソ連に対抗するため細菌兵器を開発していた.細菌兵器は当時,国際条約で使用が禁止されていたが,部隊を率いていた軍医 石井四郎は,防衛目的の研究はできるとして開発を進めた.部隊の人数は最大3,000人.石井は細菌兵器開発のため,全国の大学から医学者を集めていた  極秘だった731部隊の研究活動を公にしたのが,終戦の4年後に旧ソ連が開いた軍事裁判,ハバロフスク裁判.今回見つかった音声記録では,部隊の中枢メンバーが,人体実験の詳細を証言していた  Q 人体実験はどのように行われたのか,できる限り詳しく話してください  「昭和18年の末だと記憶しています.ワクチンの効力検定をやるために,中国人,それから満人(満州人)を約50名余り人体実験に使用しました.砂糖水を作って,砂糖水の中にチブス菌を入れて,そしてそれを強制的に飲ませて細菌に感染をさせて,そして,その人体実験によって亡くなった人は,12~13名だと記憶しています」(731部隊 衛生兵 古都証人)  医学者たちの指示の元で,致死率の高い細菌を使って人体実験を繰り返したと語られた  「ペストノミ(ペストに感染させたのみ)の実験をする建物があります.その建物の中に約4~5名の囚人を入れまして,その家の中にペストノミを散布させて,そうしてその後,その実験に使った囚人は全部,ペストにかかったと言いました」(731部隊 軍医 西俊英)
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 当時,日本軍は日本に反発する中国やソ連の人を匪賊(ひぞく)と呼び,スパイや思想犯としてとらえていた.ロシアで発見された資料には,逆スパイにするなどの利用価値がないと軍が判断した人は,裁判を経ずに部隊に送られたと記されている.その中には,女性や子どもも含まれていたと裁判で証言されていた  こうした人体実験に,大学から集められた医学者たちは,どう関わっていたのか.当時を知る元部隊員,三角武さんは事実を知ってほしいと今回初めて取材に応じた.部隊が保有する飛行機の整備に携わった三角さんは,医学者の実験のため,囚人が演習場へ運ばれたときに立ち会っていた.囚人は頭を丸坊主に刈られ,「マルタ」と呼ばれていたという  「杭を打ってね,ずーっと杭を打って,そこにマルタをつないどくんです.実験の計画に沿って憲兵が連れて行って,“何番の杭に誰を縛る”とかって,“つなぐ”とかっていう,やるわけね」(三角さん)  三角さんたちは少年隊員と呼ばれ,1年間,細菌学などの教育を受けた.指導したのは全国の大学から集められた優秀な医学者だった  「薬学博士だとか,理学博士,医学博士なんてえのが,いっぱいいますからね.だから『731部隊』って言えば,そういった各界の権威が集まってましたよ.」(三角さん)  元少年隊員の1人,須永鬼久太さんは,731部隊の戦友会が戦後まとめた名簿を保管していた.載っていたのは731部隊に集められていた医学者たちの出身大学と名前.こうした人々は軍に所属し,技師と呼ばれていた  NHKはこの資料のほか,現存する部隊名簿や論文から技師の経歴を洗い出した.その結果,最も多くの研究者を出していたのは京都大学,次いで東京大学だったことが明らかになった.少なくとも10の大学や研究機関から,あわせて40人の研究者が731部隊に集められていた
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 「技師」となった医学者たちは,軍医と並ぶ将校クラスとして位置づけられ,731部隊の中枢にいた.エリート医学者が部隊の研究を主導していた 大学と731部隊の知られざる関係
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 なぜ,これほど多くの医学者が731部隊に関わることになったのか.取材を進めるうち,部隊と大学の知られざる関係が浮かび上がってきた.最も多い11人の技師が確認された京都大学.京都大学大学文書館で,731部隊と大学の金銭のやりとりを示す文書が初めて見つかった  細菌研究の報酬として1,600円,現在の金額で500万円近い金額を受け取っていたのは,医学部助教授だった田部井和(たべい・かなう).致死率の高いチフス菌を研究していた田部井は,731部隊設立後まもなく赴任し,研究班の責任者になった  田部井がそこでどんな実験をしていたのか,部下が証言している  731部隊 衛生兵 古都証人:チブス菌を注射器でもってスイカ,マクワ(うり)に注射しました.そしてそれを研究室へ持って帰って,菌がどのように繁殖したか,または減ったか等を検査しました.そして完全に菌が増殖してるのを確かめてから,それを満州人と支那人に,約5~6名の人間に対して食べさせました  通訳:果物を食べた哀れな人間は,どうなったんですか  古都証人:全員感染しました  同じ時期,京大からは医学者7人が部隊に赴任.取材を進めると,教え子たちを部隊へ送ったとみられる教授たちの存在が浮かび上がってきた.大きな影響力を持っていたのが,京都帝国大学の医学部長を2度務めた戸田正三.戸田は軍と結びつくことで多額の研究費を集めていた 戸田の研究報告書には,陸軍などから委託された防寒服の研究で8,000円.軍の進出先での衛生状態の研究で7,000円.現在の額で合わせて2億5,000万円にのぼる研究費を得ていたことが記されていた
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 軍と戸田が関係を深めるきっかけとなったのが,満州事変だ.傀儡国家・満州国が建国されると,国民はそれを支持.こうした世論の中で,大学は満洲の病院などに医師を派遣.現地の人々を病気から守る防疫活動のためとして,ポスト争いを始める.東大や慶応大などと競いながら,京大は派遣する医師の数を急増させていく  こうした中,大学への影響力を拡大したのが731部隊だ.部隊内で石井に次ぐ部長を歴任した川島清は,731部隊には,昭和15年度だけでも今の金額で300億円の国家予算が与えられていたとハバロフスク裁判で証言している.巨額の予算を動かしていたのが731部隊の部隊長,石井四郎だ.京大医学部出身の石井は,母校の指導教官の1人だった戸田と関係を深めていた  教え子が書いた回顧録(雑誌「国民衛生」)には,戸田が中国の731部隊の関連施設を繰り返し訪れていたことが記されている.戸田と関係が深い教授の研究室からは8人の医学者が,京大全体では11人が731部隊へ赴任したことが分かっている  京大に次いで,多くの研究者が731部隊に集められた東京大学.取材に対し「組織として,積極的に関わったとは認識していない」と回答している.その東大の幹部が石井と交流していた事実が,取材から明らかになった.医学者で東大の総長を務めた長與又郎だ  遺族の許可を得て入手した長與の日記には,総長時代から石井と接点があったこと.そして退任後の昭和15年,731部隊の本部を長與が視察した際,水炊きを囲んだ歓迎会が開かれ,石井や東大出身の部隊員らが同席していたことが記されていた
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 東大からは戦時中,少なくとも6人が集められたことが分かっている  石井が大学の幹部と結びつく中で,集められていった医学者たち.医学者の中には,731部隊に送られた経緯を詳細に書き残していた人もいた.京大医学部の講師だった吉村寿人は,基礎医学の研究で多くの命を救いたいと医学者を志したという.国内で研究を続けたいと思いながらも,教授の命令には抗えなかったと回想している  「軍の方と既に約束済みのような様子であった.先生は突然,満州の陸軍の技術援助をせよと命令された.せっかく熱を上げてきた研究を捨てることは,身を切られるほどつらいことであるから,私は即座に断った.ところが先生は『今の日本の現状からこれを断るのは,もってのほかである.もし軍に入らねば破門するから出て行け』と言われた」(吉村の回想「喜寿回顧」より)  生理学が専門だった吉村は,731部隊で凍傷の研究を命じられた.当時,関東軍の兵士たちは,寒さによる凍傷に悩まされていた.その症例と対策を探る目的で人体実験を行っていた様子が,裁判で語られていた  「���村技師から聞きましたところによりますと,極寒期において約,零下20度ぐらいのところに監獄におります人間を外に出しまして,そこに大きな扇風機をかけまして風を送って,その囚人の手を凍らして凍傷を人工的に作って研究しておるということを言いました.」(731部隊 軍医 西俊英)  「人体実験を自分で見たのは,1940年の確か12月頃だったと思います.まず,その研究室に入りますと,長い椅子に5名の中国人のその囚人が腰を掛けておりました.それで,その中国人の手を見ますと,3人は手の指がもう全部黒くなって落ちておりました.残りの2人は指がやはり黒くなって,ただ骨だけ残っておりました.吉村技師のそのときの説明によりますと凍傷実験の結果,こういうことになったということを聞きました.」(731部隊憲兵班 倉員証人)  吉村は部隊で凍傷研究を進めながら,満洲の医学会で論文も発表していた.論文には様々な条件に人体をおいて,実験していたことが記されていた.絶食3日,一昼夜不眠などの状態においてから,零度の氷水に指を30分浸けて観察していた  部隊から高額の報酬を受け取っていた京大の田部井は,実験室での研究から実戦使用の段階へと進んでいく.開発していたのは細菌爆弾.大量感染を引き起こす研究を始めていたのだ.一度に10人以上の囚人を使い,効果を確かめたと部下が証言している
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 「安達の演習場で自分の参加した実験はチフス菌であります.それは瀬戸物で作った大砲の弾と同じ形をした細菌弾であります.空中でもって爆破して,地上に噴霧状態になって,その菌が落ちるようになってました.そして菌が地上に落ちたところを,被実験者を通過させたのと,それから杭に強制的に縛り付けておいて,その上でもって爆破して,頭の上から菌をかぶせたのと2通りの方法が行われました.大部分の者が感染して,4人か5人か亡くなりました」(731部隊 衛生兵 古都証人) 医学者は なぜ一線を越えたのか  本来,人の命を守るべき医学者は,なぜ一線を越えたのか.それを後押ししたとみられるのが日本国内の世論だ
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 1937年,日中戦争が勃発.中国側の激しい抗戦で日本側の犠牲も増えていった.日本軍は反発する中国人らを匪賊と呼び,掃討作戦を行った.政府もメディアも日本の犠牲を強調する中,匪賊に対する敵意が高まり,世論は軍による処罰を支持した  そうした時代の空気と研究者は,無縁ではなかった.731部隊以外でも学術界では匪賊を蔑視する感情が広がっていた.それを示す資料が北海道大学で見つかっている.当時の厚生省が主催する研究会が発行した雑誌「民族衛生資料」だ.染色体を研究する大学教授の講演の記録には,軍に捕らえられた匪賊を,生きたまま研究材料としたことが,公に語られていた  「匪賊が人間を殺すならば,その報復ではないが,その匪賊を材料にしてはどうかと思いついた.死んだものは絶対にだめである…染色体の状態が著しく悪くなる.匪賊一人を犠牲にしたことは,決して無意義ではありません.これほど立派な材料は従来断じてないということだけはできます.」(「民族衛生資料」 北海道帝国大学教授 講演録) 14歳の時に731部隊に入隊した三角さんは,匪賊は死刑囚だから実験材料として利用して良いと教えられたという  「『こういう時代なんだから,そうしなきゃ,俺たちがやられるんだよ』と.そういった考えでしたね.口には出せないです.かわいそうだとかなんとかということを見ても,口に出せない.出したら,非国民だとやられちゃう.そういった雰囲気というか,そういった一般的な風潮がそうだったんです」(三角さん)  戦争が泥沼化していった1940年代.731部隊は中国中部の複数の都市で少なくとも3回,細菌を散布.細菌兵器での攻撃は国際条約で禁止されていたが,日本は批准しないまま秘かに使用した  「私がおりました間のことを申しますと,昭和16年に第1回,それから昭和17年に1回,中支において第731部隊の派遣隊は,中国の軍隊に対して細菌武器を使用しました.」(731部隊第一部(細菌研究)部長 川島清)  さらに民間人にまで感染を広げる目的で,中国の集落に細菌をまいたと証言されていた  使われる細菌は,主としてペスト菌,コレラ菌,パラチフス菌であることが決定しました.ペスト菌は主としてペストノミの形で使われました.その他のものはそのまま水源とか井戸とか貯水池というようなところに散布されたのであります」(731部隊第一部(細菌研究)部長 川島清)  そして戦争末期の1945年8月9日,ソ連が満州に侵攻,731部隊はただちに撤退を始める.部隊は証拠隠滅のため,全囚人を殺害.実験施設を徹底的に破壊し,箝口令をしいた.少年隊員の三角さんは,このとき死体の処理を命じられた  「その死体の処理に『少年隊,来い』って言って引っ張られて行って,死体の処理を各独房から引っ張り出して,中庭で鉄骨で井桁組んでガソリンぶっかけて焼いたわけ.焼いて全部焼き殺して骨だけにして,今度骨を拾うの.『いや,戦争っていうのがこんなものか』と.戦争ってのは絶対するもんじゃないと.つくづくそう思いましたね.ほんとにね,1人で泣いた」(三角さん)  人体実験を主導した医学者たちは,ソ連の侵攻前に,特別列車でいち早く日本に帰国.戦後,その行為について罪に問われることはなかった.アメリカは人体実験のデータ提供と引き替えに,隊員の責任を免除したのだ  多くの教え子を部隊に送ったと見られる戸田正三は,金沢大学の学長に就任.部隊との関わりは語らないまま,医学界の重鎮となった.チフス菌の爆弾を開発していた田部井和は,京都大学の教授となり,細菌学の権威に.凍傷研究の吉村寿人も教授に就任.「自分は非人道的な実験は行っていない」と生涯否定し続けた  「私は軍隊内において,凍傷や凍死から兵隊をいかにして守るかについて,部隊長の命令に従って研究したのであって,決して良心を失った悪魔になったわけではない」(吉村の回想「喜寿回顧」)  今回発見された音声記録.その最後には,被告たちが自らの心情を語った発言が残っていた.731部隊の軍医,柄沢十三夫は人体実験に使われた細菌を培養した責任者だった.戦争が終わってから初めて,罪の重さに気づいたと語っている  「自分は現在平凡な人間といたしまして,自分の実際の心の中に思っていることを少し申してみたいと思います.私には現在日本に,82になります母と,妻並びに2名の子どもがございます.なお,私は自分の犯した罪の非常に大なることを自覚しております.そうして終始懺悔をし,後悔をしております.私は将来生まれ変わって,もし余生がありましたらば,自分の行いました悪事に対しまして,生まれ変わった人間として人類のために尽くしたいと思っております」(731部隊 軍医 柄沢十三夫)  柄沢は刑に服した後,帰国直前に自殺したと伝えられている  今,私たちに問いかける医学者と731部隊の真実.それは日本が戦争へと突き進む中で,いつのまにか人として守るべき一線を越えていった,この国の姿だった  この記事は,2017年8月13日に放送した 「NHKスペシャル 731部隊の真実~エリート医学者と人体実験~」 を基に制作しています  この番組は  nhk-ondemand  で配信中 上記はNHKによる捏造虚報情宣
ご批判,ご指摘を歓迎します 掲示板 に  新規投稿  してくだされば幸いです.言論封殺勢力に抗する決意新たに!
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forbethcooper · 4 years
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2020.11.07
 この記事は約3分で読めます。
 ある程度(という「お塩少々」並に判然としない曖昧模糊で主観的な判断基準ではあるけれど、蓋し国際規格の一般論——莫迦捨て山こと治外法権市区町村のひとつである、ファベーラ・オカザキでは浸透し得ない、論旨になり得ない論理から大きく逸れはしないであろう度合い)の品性すら持ち合わせない人間(666の刻印持ちの正しく獣が如き)に対し、途方もない倦み疲れを覚えると、憫殺を決め込むことが最良の選択だったのだと気づく機会になります。節操のない、説法の甲斐もない母国語すら危うい輩は、一体全体どうして「ファック」という言葉を呆気なくあけらかんと、片仮名の発音で吐くのでしょうか。  僕自身がこのゲットーに住まう、ぽんこつ且つちゃんがらな存在であることが何よりの証明となることでしょう。  嗚呼、岡崎市。市長が謳った市民への給付金、一律五万円。財源も碌に足らんままに豪語したマニフェスト。低脳地区代表の僕にはそれの是非については杳としてわかりませんが、誰用か知れない駅前の繁華化開発と、該当地までの公共交通機関は不整備のままに、滅多矢鱈な護岸工事や歩道に重点を置いたインフラ整備ばかりが目立ちます。岡崎市という街のどこがOKなのか分からないので、NGAZAKI市と呼びたくなる愛すべき郷里です。状況的にはザキというよりもザラキですか? クリフト的にはオールOKですか?  演繹的に考えれば、この街が魅力の詰まった汲み取り式の厠であると誰もが気づくことでしょう。  一度はお越しになって、サイボーグ城を眺めてから、銘菓『手風琴』を手土産にそそくさとお帰りいただければ僥倖です。
 どうも、皆さんこんばんみ。御器齧宜しくに中々しぶとく無駄生きし、厭世家風を吹かすキッチュの顕現体こと僕です。世捨て人って何だかデカダンで格好よさげだけど、結局二の足踏み抜いて俗世人のまま死んでいくんだろうなぁ。僕です。  先日、夢を見ました。ディテールやイメージに関しての記憶はごっそりと抜け落ちておりますが、なんだかやけに馬の合う女性とそれはもういい雰囲気でした。ただそれだけです。
 やって参りました、自己陶酔の頃合いです。  どうせ世の中、四面楚歌てなもんでして。僕にとっての仇敵がわんさかと、えっさほいさと、娑婆中で跳梁跋扈だか横行闊歩だかしているのだから、僕くらいは僕という豆もやしを褒めそやし、肥え腐らせていかないでどうするのでしょう? そうでしょう、そうでしょう。どうでしょう。  自己陶酔というより、自己憐憫? はたまた自己愛恤? そんなこたぁどうだっていいですね。恥部の露呈に忙しなかったジャン=ジャックと何ら差異がないんですから。  変態の所業ですよ、こりゃあ。  兎角、どんな些細なものでありましても、感想をいただければ快哉を叫びながら、ご近所に平身低頭謝罪行脚を回覧板とともにお配りします用意はできております。奮ってご参加ください。
 古錆びた要らぬ敷衍ばかりの冗長なアバンを持ち味にして、殊更に冗長で支離滅裂な本編へ参ります。  前回の更新で、『色覚異常』、『現代日本縮図』の楽曲について諸々の所感をさらりと書かせていただきました。今回は僕自身への感想なので、一瀉千里に書き殴り、超絶怒涛の仔細があります。まずは『SUCKER PUNCH 2 : FATALITY』を聴いてみてください。以下は読まなくても大丈夫です。  フォロー・ミー!
01. Vice Is Beautiful
SUCKER PUNCH 2:FATALITY by ベス・クーパーに
 “Vice Is Beautiful”などと、大仰も大仰に「悪徳こそ素晴らしい!」と闇属性に憧憬をする中学生並みの痛々しい題名を読み上げると、今になって顔から火が出る思いで、同時に一斗缶満ち満ち請け合いの汗顔が迅速な消火活動に当たる思いでもあります。当たり前ですが、ピカレスクはピカレスクであるから素晴らしく、すべからく遏悪揚善すべきであろう、そう考えております。悪人正機でいうところの「悪人」の範疇がどうとかはこの際度外視で、僕という歩く超偏見型色眼鏡刑法書野郎の視点に於ける「悪人」は普く極刑であり、地獄に落ちることさえ生温いと思う訳です。願わくばファラリスの雄牛の中でモウモウと喚き続けていただければ有り難いとか云々カンヌン……。ただ僕は不可知論が信条ですので、地獄というのは表現の一環です。しかしながら途方もない腹痛に苦しめられている時だけは、神仏に縋ろうとするオポチュニストである自身の軽薄さに忸怩ってしまうところですが、正直なところどうでもいいなぁとも考えてしまいます。こういった僕のような人間を英語でなんて呼ぶかご存知でしょうか? “Japanese”です。横道に逸れ過ぎました。  閑話休題。  この曲、通称「VIB」。今からそう呼びます。ジャン=クロード・ヴァン・ダムを「JCVD」と呼んだり、マイケル・ジェイ・ホワイトを「MJW」と呼んだりのアノ感じが粋だと思うからです。  ジャンルはJ-POPです。僕は常にポップでありたいのです。アンディ・ウォーホルとか好きですし。付け焼き刃な例示なので、何が好きとかはないです。MJが“King of Pop”なら、YGは“Pawn of Pop”です。ほら、POPじゃないですか? じゃ、ないですか。  キーは知りません。BPMは196。曲展開は「イントロ1→イントロ2→A1→A2→B→C→間奏1→D→E→間奏2(ギター・ソロ)→C2→C3→F」となっております。  イントロ1でEなんたらのコード・バッキングからぬるり始まります。音作りに難航、してはおりませんが迷走しており、僕の三文鼓膜ではヨシアシが今でもわかっておりません。困るとドラムをズンドコと氷川きよしさせておけば何とかなると思っている節が聴き取れます。  A1、2共にコード・チェンジが忙しないです。Gなんとかとかいうコードとか、F#うんちゃらとかいうコードとか、後は6,5弦を弾いていないのでルート音とかもわからないのとか。「3x443x xx222x xx233x 2x233x 5x56xx 6x56xx」とかの流れで弾きましたが、どうかコード名教えてください。リフ・プレイも忙しないです。作曲に重要なのは引き算だと、偉い人が仰っておりました。全くもってその通りだと思います。その後のBがなんか転調してませんか? あんまりそういうのわからないんですけれど、元々のコード進行に引き戻せなくて懊悩した記憶があります。  C1は僕の悪い癖が出に出まくっています。4小節毎に変化するんですけれど、如何に多種多様なリフを生み出せるか(パイオニアだか傾奇者だか気取りたいという気持ちを汲み取っていただきたいです)に妄執しています。三回し目のリフが弦飛びしてて難しかったです。二度と弾きたくない。  奇天烈風を装いたくて3/4のDをぶち込み、曲中最ポップなEです。こちらのベース・ラインが気に入っております。もっと目立てる演奏力や音作り、ミックス技量があればと自身の矮小さに辟易としながら、開き直っております。  ギター・ソロでは似非速弾きが聴きどころです。  再び再帰するC2。前述の通り悪い癖が出ております。ネタ切れか、はたまた単に引き出しが少ないだけか、同一のフレーズを弾いております。C3ではてんやわんやの大盛り上がりです。頭打ちのドラムになり、ベース・ラインは「デデ↑デデ↓デデ↑デデ↓」と動きます。強迫観念なのかそういうフレーズを弾かざるを得ない体に、ゾル大佐によって生物改造人間にされています。  最終Fでは5/4があったりと僕なりの冒険心で取り組んだ努力が見て取れました。8分の〜とかになると対応できません。ギター・リフが格好よくないですか? 僕的には満足なんですけれど……。  全体的に楽器は何を弾いていたかわかりません。大抵が朦朧とした意識の中で録音していたので、記憶からずるり抜け落ちています。俯瞰から幽体離脱した状態で、白眼ひん剥いて必死に爪弾いていた僕を見ていたような気がします。  ここから僕のモニャモニャとした歌詞です。  全編通して日影者としての卑屈さがドバドバと分泌されておりましょう。本領発揮です。僕のようなペシミスト崩れがこうやって憂さを晴らすことでしか、自身の瓦解を防げないのです。本当に嫌な奴ですね。友達いなさそう。  可能な限り似た語感や韻、掛詞を意識しております。とどの詰まり、これは和歌です。と言いたいところですが、秀句と比べるにはあまりにも稚拙でございます。何せあの頃の修辞技術といったらオーパーツですし、即興性すら兼ね備えていると来ました。そして、何より読み人は貴族貴族貴族、もうひとつ貴族。僕なんて教養のない賎民でございますから、足りない頭を捏ねくり回して、やっとこと拵えた艱難辛苦の産物です。しかしながら、乾坤一擲の気概で綴った言詞たちではございますから、どうか冷ややかに、僕の一世一代ギャグを解説する様をお楽しみください。  冒頭のAのブロックでは押韻の意識を��くしております。各ブロックで頭韻を揃えながら、「掃射か/お釈迦」「淫靡で性〜/インヴィテイション」と中核を作ったつもりです。開口一番から延々と悪態塗れの陰気なアンチクショーです。鷸蚌を狙う気概、そんなものがあればよかったのに、という感傷的なシーンでございます。  Bでは掛詞が光ります。「擒奸」とはアルカホルの別称だそうで、「酩酊した奸物が容易く擒えられた」的なお話が漢文だかなんだかであるそうでございます。詳しくは知りませんが。「さ丹、体を蝕めば〜」では、アセトアルデヒドの影響で皮膚が変色する様と同時に、「“sanity”を蝕めば〜」と読めば身体、精神ともに変貌していくことを示唆していることに気づきます。  所謂サビの様相のCですが、可能な限り同じことを綴らないようにしております。繰り返し縷述する程に伝えたい内容がないのですが、言いたいことは四方山積みにあります。お喋りに飢えております。そんなC1は愛する岡崎市の縮図と現状、原風景とも呼べる花鳥風月が流れ去るドブ川のような薄汚い景観美の言及に心血を注いでおります。諸兄諸姉がご存知かはわかりませんが、徳川家康という征夷大将軍が400年ちょっと前におられたそうでして。その家康公(a.k.a 竹千代)が生まれた岡崎の一等デカいバラックから西に下ったところ、以前は『やんちゃ貴族』なる逆さ海月の助平御用達ホテルがありました。そして城下の北には『アミューズメント茶屋 徳川』なる股座用の射的場があるそうです。「城下、公卿の遊技場」というフレーズに秘められた情感ぷりたつの景観が想起されるのではないでしょうか。因む訳ではありませんが、『アミューズメント茶屋 徳川』の隣には『亀屋』という喫茶店があります。粋で鯔背ですよね。  Dでは、何処となくサンチマンタリスムが滲んでおります。何もなせないままに過ぎ去る今日という日の重圧と、それから逃げようとする怯懦心の肥大があります。  Eに入ると気が触れたのか、資本主義の礼賛です。情緒不安定です。そして麻雀用語でお茶を濁しております。  再びのC2です。自身の滑稽さが爆笑の旋風を吹き荒らします。非常にシンプルな隠喩表現があります。続くC3では、家康公の馬印からの引用をしております。C1では自身の有用性のなさ、無力さを嗟嘆。C2では開き直るも、C3で再び打ち拉がれるという情緒がひっちゃかめっちゃかです。  最終、Fでは曲の終わりと共に事切れる姿が描かれております。衒学者でも意味がわかるようにとても平易な内容だと、締め括られます。  始め、僕の全身全霊の圧縮保存の「Vice Is Beautiful.zip」を紐解く予定でしたが、既にご存知の通り冗長どころか蛇足々々々くらいのヒュドラ状態です。僕の意識下で綴られた拙筆なる修辞技法のアレソレコレドレは毎行に置き捨てたので、よろしければお探しください。全て見つけられる御仁がおられましたら、最早僕ではなく、そちらが八木です。
 続けて次へと進みたいのですが、長過ぎませんか? 擱筆した方がいいですか? 次回にしましょうか。いや、このまま行きましょう。友達がいないので語り足りません。  最早、末筆なのではと自分自身に問いかけたいくらいにダバダバとした作文をしております。僕は頑張ったんだよって、僕が僕を認めるために。これくらいの自己愛やらナルシシズムがなきゃ曲なんか拵えないですよ。「誰かに届け!」とかそんな思いは毛頭ないです。申し訳ないです。  はてさて、世に蔓延るウェブログの弥終で管を巻き続けること数千文字ですが、続きます。
06. Catch You If I Can
SUCKER PUNCH 2:FATALITY by ベス・クーパーに
 Manoさんが「90秒の覚醒剤」と評していただきました。嬉しかったです。  こちらの捩りは何ンク・某グネイル氏の半生を描いたアレです。美しき相貌のドデカ・プリオの演技が光ります。“Catch You If I Can”と題名の通りですが、実のところ僕はヴィジランテです。私刑を執行すべく、尻を蹴り上げるか、ガイ・フォークスの面を着けるか、視界を遮り棍棒を装備したりと、日中日夜イマジナリー・エネミーとの戦いに明け暮れております。クロエ・グレース・モレッツやナタリー・ポートマンやエロディ・ユンが側にいないところ以外は一緒です。僕自身が阿羅漢ぶった言い分ではございますが、僕もタブラ・ラサでイノセントな存在であると、大口で宣える程の聖人君子ではないです。「罪のない者だけが石を投げよ」なんて言葉もありますので、僕は持ち前の当て勘で截拳道由来の全力ストレート・リードを打ち込みます。己やれ!  こちら『SUCKER PUNCH 2 : FATALITY』のラスト・ナンバーを飾らせていただきました。締め切りを延ばしていただき、さらにその締め切りの後に提出しました。その件につきましては謝罪のしようもございません。  駆け抜ける清涼感、爽やかでポップでラブ&ピースな楽曲に仕上がったと思いますが、いかがでしょう?  ジャンルは勿論、J-POPです。理由は前述の通りでございます。キーは勿論、知りません。ドレミファソラシドってどれがどれなんですかね。『おジャ魔女どれみ』世代なんで、ファ以降を知らないです。BPMは232です。曲展開は「イントロ→A1→A2→B→C1→C2→D→アウトロ」となっております。僕は映画でいうCパートが好物でして、そう言った部分を作ろうとしています。嘘です、たまたまです。勢い任せの一方通行な展開ですね。まるで乙川のようです。  イントロからハイ・テンションですね。押っ取り刀にサッカー・パンチ。今回カポタストを装着し、1音半上げでやっていきました。バッキング・パートは「x3x400 x3x200 x2x000 x2x200 | (1~3)x01000 x1x200(4)x222xx」と16分刻みで弾いてみてください。容易く弾けます。リフは知らないです。  A1はカッティングが効いてます。効いてます? 右手のフレーズが活き活きしています。悪態に拍車を掛けておりますし、ベースがブリブリと弾けたのも満足です。A2で困った時のお助けアイテム、三連符でコータローばりに罷り通っていこうとします。  Bがお気に入りでして。メロディと共にふんわりモコモコなドリーム・ポップ風です。サンバ・チックなリズムがよいアクセントではないでしょうか。ドラム・ソロを挟み加速度は自重で二乗といった気分です。BPMは変わりませんけれど。  C1は「C→B→E」ルートですが、ちょこちょこと変な音足してるので詳しくはわかりません。TAB譜作ったら貰ってくれる人いるのかしら? 要らないかしら? 自分用に作ろうかしら? ふた回し目にあるパワー・コードの「E→G→A#→B」みたいものを使いがちです。ギター・リフは半ばこんがりウンチ<©︎ダ・サイダー(CV.矢尾一樹)>——自棄くそ——気味で愉快ですね。0:47辺りに左前方で鳴る「ピョロロロー!」というお間抜けハッピー・サウンドですが、ワーミー踏みました。C2ではハーフ・テンポで落ちサビを作り、J-POPの体裁を取り繕うことに挑戦しております。リフはプリング・アンド・プリングです。プリプリですね。『Diamonds』のB面が『M』って知ってました? 度肝抜かれました。世界でいちばん寒い部屋で、心拍止まりそうです。頭抜けのブレイクが大好きです。演奏する時に思わずギターを振り上げてしまいたくなりますよね。  最終Dでは、バッキングのコードがなんか違った気がします。ここで浮遊感というか、シンガロングな雰囲気が作りたかったんですけれど、どうでしょう。ここを沢山の人々と合唱したいです。  続いて歌詞について掘り下げるようなそうでもないようなことをしていきます。筆がノリノリでして、一日で書けました。普段は、数日くらいあーでもないこーでもないと懊悩煩悶七転八倒五体投地に考えるんですけれど、勢いってありますよね。  青っ白い顔をした雀子宜しくの矮小存在が、邪魔者扱いされ、どうにも魔が差して刺傷でも企てそうな、風雲急を告げるといった面持ちのAです。三連符の誹謗で締めます。  掛詞の中傷で抽象な街を少しでも掘り下げるBですが、綴りたい文句が有り過ぎて並列表記してしまいました。お好きな方でご理解ください。「治水」は深読みしてください。  C1ではギリギリガールズに愛を込めたアレゴリーに着目していただければ嬉しいです。それ以外は珍しくストレートな歌詞ですね。読み返して恥ずかしくなっちゃいました。赤顔の余り、赤シートで消えそうです。「イエス・グッド」とはNGの対義語です。「やる気ゼロゼロコブラ」と共に流行らせたい言葉です。C2、「陰嚢の〜」の下りは語呂がお気に入っております。僕にとってのマリリン・モンローは現れるのでしょうか。  締め括りにDで僕のヴィジランテ精神を書き綴っております。「足りない」のはきっと音域です。  他にも修辞表現がございますので、お探しください。ウォーリーよりは簡単に見つかると思います。  全体的にムッツリ助平をひた隠すために労力を注ぎましたが、通しで読み返すとそれなりに一本の流れがあるように感じます。芥川龍之介すらもまともに読んだことありませんが、努力をせずに文豪になりたい、そう思っております。一人ぼっち善がりなエチュード・ソング、そう解釈してください。
 カモン緞帳!
 くぅ疲。
 もしも、僕のウェブログを眺め、「こいつは何を言っているんだ、気持ち悪い」と論旨について一考する間もなく、脳味噌無回転に匙の投擲大会に興じたとすれば、それは人としての思考力の欠如に他ならず、僕としてはしたり顔をするより他がない訳です。  僕も読み返してみたところ、何を言っているのかさっぱりわかりませんでした。思考力など何の役にも立たないのです。重要なのは大事な時に熱り勃てるかどうかなのです。  フィグ・サインを掲げていきましょう。  ファック!
 追啓 この度、空飛ぶスパゲッティ・モンスター教に入信することと相成りました。
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rearq · 4 years
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【原神】助かりツイート個人用まとめ
メモです 有識者感謝
素材集めツアー
海外掲示板で見つけた宝箱周回ルート 作成者様に感謝して使います#原神 pic.twitter.com/kanE3JNW3A
— ACE (@ACExGenShin)
October 14, 2020
毎日やってるモンド地方の素材集めルートです。ご査収ください。地方特産素材を集めながら鉱石多めポイントに寄りつつモンスター素材も集められます。(大体1時間)(手作業チェックなので抜けもあります) #原神 https://t.co/ynqIbld6Lh pic.twitter.com/gdC5KCWEm0
— polka (@polkatrusty)
October 12, 2020
ネームドモンスターツアー、璃月編の作成と試行運用が終わりました。試行中の録画データは2時間57分… 終了目安時間は3時間です。 個人で違ってくると思うので…、前回のモンドツアーが経験済みの方は、それでかかった時間を3倍してください。 体力が残っている日や休日にやってください。#原神 pic.twitter.com/hOGR6XBih9
— polka (@polkatrusty)
October 14, 2020
3日検証してほぼ確定! 「1日1回!10分で大量の聖遺物回収ルート」 (あくまで現環境下での話なので今後仕様変更などで入手できなくなる可能性があります) 聖遺物強化や売ってモラに変えるなどお役に立てば光栄です👍#原神 pic.twitter.com/LnI6hKXT30
— YuYa (@YuYa00398442)
October 23, 2020
毎日獲得できる聖遺物(現状把握できている範囲で再度獲得可能なもの)を最短で周回する経路です 経路が特殊で判りにくいところ、実況者がよく見落としていたところを3か所ピックアップしてます 軽策莊を始点にする利点はリポップのタイミングを計りやすい+ワープポイントから近いためです#原神 pic.twitter.com/qhw2jyBdV0
— 幻桂漢@原神 (@genkeikan_gs)
October 25, 2020
【原神情報】 聖遺物を落とすモンスターの場所一覧です。 周回しやすいところをまとめました ・ワープポイントから近い ・次々と倒しに行ける ・高低差が少ない#原神 pic.twitter.com/G0QW30wUsl
— あいすおじ3 (@ice_oji22)
October 13, 2020
鉱石の纏まりとワープポイントからの距離をもとに選んだ、武器経験値が必要な旅人向けの水晶採掘マップです。 鉱石が洞窟その他の内部にあるものは、その入り口に赤点を置いています。 全て周った場合、20分くらい?でおよそ90-110水晶。 再出現の目安は72hほど。#原神 pic.twitter.com/c2zRZm5QB5
— ozen (@ozen_river)
October 18, 2020
雑多
🍖『獣肉』『鳥肉』を売ってる場所🥩 ■清泉町にいるNPC「ドゥラフ」 ■値段:240モラ ■それぞれ10個限定(12時間で更新) ■6時~19時に出現(ゲーム内時間)#原神 #Genshin pic.twitter.com/NPtW7ryRHq
— 原神ニュース (@GenshinNews)
October 13, 2020
@TakamiyaRion 琥牢山近辺の石珀 pic.twitter.com/gGDqeXgApU
— 🦅 (@204_61_123)
October 21, 2020
清泉町の慕風のマッシュルーム pic.twitter.com/HxeNJ4FPMY
— 🦅 (@204_61_123)
October 21, 2020
ヴァルベリー・セシリアの花 pic.twitter.com/9VszmSL6z5
— 🦅 (@204_61_123)
October 22, 2020
世界ランク6 秘境一覧表作成しましたー! 武器素材の秘境に関してはランク5と内容が変わりませんが それ以上の難易度が存在しない為記載してあります🍀 世界ランク5以下の秘境に関してはリプに引用しますので 良かったら参考にしてください😆#原神#原神攻略 pic.twitter.com/LFFdQDEiwZ
— ucha (@mei_rnc) November 16, 2020
必要素材まとめ
自分で確認用にキャラ強化素材表作ってみましたー! 良かったら参考にしていただければ😆#原神#原神攻略#GenshinImpact pic.twitter.com/KOu0ZO975N
— ucha (@mei_rnc)
October 18, 2020
クレーも含めた総まとめ置いておきますね 次ピックアップの武器狙う方も是非3枚目の画像参考に素材集め頑張ってください 天賦素材・キャラクター突破素材・武器突破素材です〜#原神 pic.twitter.com/gfoi0jTHtl
— だれか (@gomadareka)
October 18, 2020
◆全キャラの育成素材一覧 必要個数も追加されたバージョンアップ版です! 海外有志が有能すぎる😭 ※凝光、刻晴、七七、ショウの天賦素材だけ銅と銀の順序が逆になっていますが、誤りのようです。 修正版(キャラ別)画像はこちら→https://t.co/QY0hDCNorn 引用元:https://t.co/ylAgLTcQPT#原神 pic.twitter.com/00uuNuFNWU
— 原神ニュースまとめ!@ラピゲー (@genshin_rapige)
October 25, 2020
クレーも含めた総まとめ置いておきますね 次ピックアップの武器狙う方も是非3枚目の画像参考に素材集め頑張ってください 天賦素材・キャラクター突破素材・武器突破素材です〜#原神 pic.twitter.com/gfoi0jTHtl
— だれか (@gomadareka)
October 18, 2020
【変わったヒルチャール討伐 マルチ用ルート(4人用・3人用)】 進め方:  ①担当ルートを巡り、ポップ有無を確認  ②見つけ次第、集合し撃破(※)  ③担当ルートを巡り(最初から)、ポップ有無を確認  ④「②」と同様  ⑤次のワールドへ  ※ アチーブメントが残っている人は一撃は入れること pic.twitter.com/OBSKO8toCx
— ネモ (@Nemo_0410) November 18, 2020
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魔女の霊薬 種村季弘
十六世紀ドイツの画家ハンス・バルドゥングス・グリーンに、「魔女たち」と題して、数人の魔女が恍惚状態で飛翔したり、そのための準備をしているらしい場景を描いた一幅の銅板画がある。後方に水平に浮遊している老婆が片方の手に尖の二股状になった杖を持ち、もう一方の手で、なかば浮き上った若い娘の腰を抱えて何処(いずこ)かへ拉し去ろうとしている。前景右手には、片手にもうもうと煙を上げる魔香の器を掲げて今にも地を離れんばかりのエクスタシーに浸っている女がいる。
注目すべきはしかし、それよりさらに前景左手の女である。彼女は左の手に何やら呪文のようなものを記入した紙片を持ち、もう一方の手を股間に押入して(後方にぐつぐつ煮えている釜から取り出したものであろう)塗膏(ぬりあぶら)らしきものを陰部に塗布しているのである。呪文と見えたのは、あるいは塗膏の製法または用法を書きとめた処方箋でもあろうか。仔細に見ると、この銅版画は映画的な連続場面で構成されていて、最前景の塗膏を塗布している魔女が遠景に退くのにつれて、徐々にエクスタシーに陥りながら催眠状態で飛翔する(も���くは飛行感覚に襲われる)過程を刻明に記述していることがわかる。
バルドゥングス・グリーンばかりではない。ゴヤも(「サバトへの道」)、アントワーヌ・ヴィルツもレオノール・フィニーも、古来魔女を描いたほとんどの画家が、箒にまたがって空中を飛行する魔女を描いた。魔女は飛ぶのである。しかも股間にあやしげな塗膏をなすり込むことによって。これこそが悪名高い「魔女の塗膏」であった。
ところで、一体、魔女の塗膏の成分はどんなものだったのだろうか。血やグロテスクな小動物のような、さまざまの呪術的成分を混じてはいるけれども、主成分はおおむね幻覚剤的な薬用植物であったようだ。ゲッチンゲン大学の精神病理学学者H・ロイナー教授は魔女の塗膏の成分を分析して、混合されたアルカロイドの種類をおよそ五種に大別した。
一、      イヌホオズキ属のアトロパ・べラドンナから抽出されるアトロビン。
二、      ヒヨスから抽出したヒヨスキアミン。
三、      トリカブトのアコニチン。
四、      ダトゥラ・ストニモニウムから取ったスコポラミン。
五、      オランダぱせりからのアフォディシアクム。
これらの各成分から醸し出される効果はまず深い昏睡状態であり、ついで、しばしば性的に儀式化された夢幻的幻視、飛行体験などである。おそらく媚薬(アフロディシアクム)として常用されたオランダぱせりは性的狂宴効果を高めたであろう。魔女審問の記録(十六、七世紀)には、実際におこなわれたものか、それともたんなる幻覚であったの定めではないか、ソドミー、ぺデラスティー、近親相姦のような倒錯性愛の告白がいたるところに見られる。告白された淫行のなかには悪魔の肛門接吻(アナル・キス)のように入社儀式化されているものもあった。アコニチンによる動悸不全はおそらく飛翔からの失墜感覚を惹起した。またベラドンナによる幻覚は、はげしく舞踊と結びつくと運動性の不安――すなわち飛行感覚を喚起する。睡眠への堕落、性的興奮、飛行感覚は、こうして各成分の作用の時差によって交互に複雑に出没する消長を遂げるものにちがいない。
使用法は、右のアルカロイド抽出物の混合液を煮つめたものに、新生児の血や脂、煤などを加えて軟膏状にこしらえたものを、太腿の内側、肩の窪み、女陰のまわりなどにすり込むのである。さて、細工は流々、はたして所期の効果が得られるであろうか。
現代の学者で魔女の塗膏を実際に当時の処方通りに造って人体実験をしてみた人がいる。自然魔術と汎知論、あるいはパラケルスス研究やシュレジア地方の伝説採集の研究で高名な民俗学者ウィルーエーリッヒ・ポイケルト教授である。一九六〇年、ポイケルトと知人のある法律家は、十七世紀の魔女の塗膏を処方通りに復元して、こころみに自分の額と肩の窪みにすり込んでみた。成分はベラドンナ、ヒヨス、朝鮮朝顔、その他の毒性植物を混合したものであった。まもなく二人はけだるい疲労に襲われ、ついで一種の陶酔状態で朦朧となり、それから深い昏睡状態に陥った。目がさめたのようやく二十四時間後で、かなりの頭痛を覚え、口腔からからに渇き切っていた。二人はそれから、時を移さずにぞれぞれ別個に「体験」を記述した。結果はほとんど口裏を合わせたように一致し、しかも、三百年前、異端審問官の拷問によって無理矢理吐き出させられた魔女たちの告白とおどろくべき一致を示したのである。
「私たちの長時間睡眠のなかで体験されたものは、無限の空間へのファンタスティックな飛翔、顔というよりはいやらしい醜面をぶら下げている、さまざまな生き物囲まれたグロテスクな祭り、原始的な地獄めぐり、深い失墜、悪魔の冒険などであった。」(ポイケルト『部屋のなかの悪魔の亡霊』)
してみると十六、七世紀の魔女たちの証言はかならずしも根も葉もない虚構ではなかったのである。一五二五年に『異端審問書』を書いたバルトロメウス・デ・スピナは、当時の有名な医者ぺルガモのアウグストゥス・デ・トゥレが、その家の女中が部屋のなかで素裸になり意識を失って死んだように床に倒れているのを発見した委細を記録している。翌朝、正気に戻ったところを尋ねてみると、彼女は「旅に出ていた」と答えたという。どうやら塗膏を使用したのである。ルネッサンス・イタリアの自然科学学者ヒエロニムス・カルダーヌス(カルダーノ)も旅の幻覚を伴う塗膏の話を書いている。
「それは、おどろくべき事物の数々を見させる効力と作用を有しているとされ……大部分は快楽の家、縁なす行楽地、素晴らしい大宴会、種々様々のきらびやかな衣装を着飾った美しい若者たち、王侯、貴顕の士、要するに人の心を呪縛し魅するありとあらゆるものを目に見させ、ために人びとはてっきりこれらの気晴らしや快楽を享楽し娯しんでいると錯覚さえする。彼らはしかし、一方では、悪魔、鳥、牢獄、荒野だの、絞首吏や拷問刑吏の醜怪な姿だの、とかをも眼にするのであって……そのため非常に遠い奇妙な国を旅行したような気がするほどである。」
おそらく現代の幻覚剤による「旅(トリップ)」と同じような、未知の空間への旅行が体験されたのであろう。ヒエロニムス・ボッシュの「千年王国」の天国と地獄を一またぎするような、至福と恐怖がこもごも登場するその旅の旅行の体験の内実は、「ビート族のベヨーテ生活」の至福共同体が「ある敷居を境に苦痛の闇へと転落し、そこからヒップスター生活が犯罪の世界へ繋っていく」(ワイリー・サイファー)ところまで、現代の幻覚剤体験そっくりだったようだ。
 幻覚剤文明が現代の特産物ではないように、魔女の塗膏もキリスト教的中世独特の薬物ではなかった。それは古代ローマにも、それ以前の蒼古たる地中海文明的なかにも、明らかに存在していた。ただ、またしてもその意味が違っていたのだ。キリスト教的中世の魔女の塗膏が忌むべき禁止の対象であったのにひきかえ、そこでは同じものが驚異の対象だったからである。
もっとも著名な例は、アプレイウスの『黄金の驢馬』の主人公ルキウスが魔女めいた小婢フォティスの導き屋根裏の小部屋の扉の隙間ごしに覗き見るパンフォレエの変身であろう。ミロオの妻パンフォレエは人眼に隠されて塗膏を身体中に塗り、鳥に変身して夜な夜な恋する男のもとへの飛んでゆく。
「見るとパンフォレエは最初にすっかり着ていた着物を脱いでしまうと、とある筐(はこ)を開いて中からいくつもの小箱を取り出し、その一つの蓋を取り去って、その中に入った塗膏をつまみ取ると、長いこと掌でこねつけておりましたが、そのうち爪先から頭髪のさままでからだじゅうにそれを塗りたくりました。そいでいろいろ何かこそこそ燭台に向ってつぶやいてから、手足を小刻みにぶるぶると震わせるのでした。すると、体のゆるやかに揺れうごくにつれて柔かい軟毛(にこげ)がだんだんと生え出し、しっかりした二つの翼までが延び出て、鼻は曲って硬くなり、爪はみな鉤状に変わって、パンフォレエは木菟(みみずく)になり変わったのです。
そうして低い啼き声を立てると、まず様子を吟味するように少しずつ地面から飛び上がるうち、次第に高く上がってゆくと見るまに、いっぱい羽根をひろげて、外へ飛んでってしまいました。」(呉茂一訳)
この場合にもパンフォレエの羽化登仙的な至福感は事の一面を物語っているにすぎない。同じ塗膏をフォティスから手に入れたルキウスは、同じようにそれを身体中に塗りたくりながら鳥とは似もつかぬ鈍重な驢馬に変身してしまう。それは天上的なものの失墜した果ての、道化た、暗い、醜悪な実相である。以後、彼はヒエロニムス・カルダーヌスのいわゆる「非常に遠い奇妙な国」の間をさまざまの魔物や物の怪に囲まれながらさまよいつづけなくてはならない。天上の飛翔は、一転、暗い冥府の旅に変るのである。
さて、このように両極的な作用を及ぼす『黄金の驢馬』の魔女の塗膏の成分は、一体どのようなものだったのであろうか。フォティスはこれらの驚異が「小さな、つまらない野草のおかげで」成就すると説明している。「茴香(ういきょう)をちょっぴり桂の葉をそえ、泉の水に浸したものを身に浴びるとか、飲むとかするだけ」でよく、また変身の解毒剤には「薔薇の花」を食べればよい。これ以上の説明がないので詳細は不明であるが、塗膏が茴香や桂の葉を含むいくつかの野草から合成されたことだけはたしかである。
ローマ文学史上、アプレイウス(一二三頃~一九〇年?)が登場するのは白銀時代も終焉してからのことであった。すでにこの頃、オリエントの異教はローマに流入して熱病のような猛威をふるっていた。しかし魔女の薬草はこれより早く、すでに黄金時代から重要な文学的トポスとしてしばしば詩文学の上に登場している。さいわい、ゲオルク・ルックという学者が黄金時代の四人の詩人に焦点をしぼって、『ローマ文学における魔女と魔法』について論じているので、これを参照しながらローマにおける魔女の塗膏の繁昌とその源泉をしばらく訪ねてみよう。
アプレイウスのパンフォレエが「恋いこがれた男」のもとに飛んでいくために鳥に変身したように、塗膏の効果の主たる目的の一つは明らかに愛の魔法であった。正確にはむしろ愛の錬金術というべきかもしれない。なぜから塗膏は、別れた男女をふたたび合一させたり、げんに夫婦である男女を分離させてその一方をよこしまにも他の男や女に結びつけようとする、分離と結合のための触媒の役を果たしたからだ。それゆえに塗膏の使い手反しばしばローマの悪場所である売淫の街区スブーラに巣食う百戦錬磨の取り持ち女たちであった。
盛期黄金時代の詩人ウェルギリウス(前七十~十九年)の『牧歌』第八に、ダフニスに恋をして捨てられた女が魔法で男を呼び返そうと逸話が見える。ふつうから職業的な魔女の家を訪うべきところであるが、この女(そもそも『牧歌』第八のこの箇所は、牧人ダモンとアルフェシボエウスが歌くらべをして、アルフェシボエウスが魔法を実演してみせるためにその女にじかになり変わり、彼女の声、言葉、状態を直接に演じているので、女は無名である)は女奴隷のアマリリスを助手に使い、かつて大妖術使いのモエリスから伝授された霊薬の製法を駆使して、みずから愛の魔法を演じてみせる。はじめに彼女はアマリリスを呼び寄せてつぎのように命じる。
「水を持ってきて、そこの祭壇をやわらかい紐でお結び。それから強い野草と匂いのきつい乳香を燃やすのだよ、そうすれば情夫(あのひと)の狂った気持を魔法の供物(くもつ)で惑わしてやれるのだから。足りたいのはあと魔法の呪文だけ。――街から家へ、私の呪文よ、ダフニスを連れ戻しておくれ。」
祭壇に結び紐、野草、呪文といった魔法が早くもあらわれている。「やわらかい紐」はおそらく羊毛の紐で、羊毛の紐には霊的呪縛力があると信じられていた。紐の結び方は、まず不実な相手の肖像画の首のすわりにそれぞれ三色(黒、白、赤)に彩った三本の紐をかけ、この画を祭壇のまわりに三度めぐらせる。「三つの異なる色を三つの結び目でひとつに結ぶかいい、アマリリス、結びつけさえすればいいのだよ、アマリリス、そしてお言い、〈私の愛の絆(きずな)を結ぶ〉と。」
三の数がしきりに重用されるのは、「神は奇数をおよろこびになる」からである。したがって「愛の絆」云々の畳句(ルフラン)も三x三の九回唱えられる。紐の三色のうち黒は冥府の色で、赤と白は悪を予防する保護色であり、黒を中心にしていわば施術者を庇護してくれる。こうして呪縛――結合(katadesis)が完了し、ダフニスは空間を立ち越えて施術者につながれてしまう。しかし魔法はこれで終わりではない。無気味な呪いの人形の焚刑がこれにつづく。
「粘土が火で固くなるように、蠟が同じ火にあった溶けるように、ダフニスは愛のために私のところにやってくる。供物の碾(ひ)き粉を徹き、もろい月桂樹を瀝青で燃やすがいい。悪いダフニスが私を燃やし、私はこの月桂樹の枝と私のダフニスを燃やす。」
呪いの人形はホスティウスの『諷刺詩篇』第一巻八「魔女とかかし」にも登場するが、ここでは魔女は「毛制と蠟制の二つの像をもっていた」(鈴木一郎訳)とあって、はっきり人体を模している。しかしウェルギリウスでは粘土や蠟をダフニスの姿に似せて捏ねておく必要はなかった。男の名前や不実を意味する符号が粘土や蠟に刻み込まれていたかもしれないが、顔形を模造するまでもなく、施術者の女がこれこれの呪物によってダフニスを意味し、それが相手だと考えればよかったのである。粘土は火のなかで固くなり、蠟は軟らかくなる。ゲオルク・ルックの注解によると、粘土は女の(相手にたいして硬化する)��悪の固さをあらわし、蠟は彼女にたいしてふたたび軟化するであろう男の気持をあらわしている。異解で���、粘土が固くなるのは、彼女から離れて他の情婦に移ったダフニスの気持を憎むべきコイ恋仇にたいして固くさせるの意である。同時に投げ込まれる月桂樹は願いの筋の吉凶を知らせてくれる。月桂樹がバチバチ爆(は)ぜて燃えれば願いはかない、燃えつきが悪ければさらに瀝青を注いで火を熾(おこ)らせるのである。
だが、つぎつぎにおこなわれる魔法にもかかわらず吉兆は一向にあらわれない。そこで女は、ダフニスが「担保」としてのこしていった衣服を閾(しきい)の下に埋めて地下の神々の裁きを乞う。「ダフニスは私にこの担保の借りがあるのだ」と。事態はこれでも好転しないので、女はアマリリスに先程燃えていた火の冷めた灰を河に持っていって投げ捨てるように命じる。その場合、灰を運んだらそれを「頭越しに」河に捨て、そちらの方を見ないで帰ってこなくてはならない。そうしないと悪霊がかえって施術者の側に憑(つ)いてしまうおそれがあるからである。かくて灰は流れに運ばれて「ダフニスを襲うであろう」。
この箇所では、女はダフニスへ呪縛をひとたび放棄して、呪いの灰で彼を襲うためにふたたび相手から分離している。「結合(カタデシス)の後にかりそめの「分離(アポリシス)」がつづくのである。この分離は恒久的なものではない。最後の結合手段として効果甚大な薬草(野草)が控えているのを女は知っている。しかしその力はあまりにも強大で、まかりまちがえば周囲に致命的な影響を及ぼす。そのために、一瞬、女は最後の切札を出すべきかどうかを逡巡する。するとこの瞬間、一度冷たくなった灰がふたたびめらめらと燃え上って祭壇を焦がしはじめる。
「これは吉兆だ!明らかにこれは何事かを意味している。――これを信じるべきなのか。それとも恋する女が魔法の夢にまどわされているのか。止まれ、わが呪文よ、止まれ。ダフニスはすでに都(みやこ)から帰りつつある。」
強烈な薬草を用いるまでもなく愛の魔法は成就する。しかし抜かずに終わった伝家の宝刀を彼女は依然として持ってはいるのである。それほどのようなものか。
「黒海沿岸で採集されたこの薬草と毒草は、モエリスがみずから私にくれたもので――それは黒海地方に多生している、しばしば私は、モエリスがこれを使って狼に変身して森のなかに姿を隠したり、深い墓穴から霊魂を喚び戻したり、穀物をよその土地に移したりするのを見た。」
薬草は単純な野草ではなく、特に「黒海地方に多生する」と明示されている。ホラティウスも初期の『エポーディ』のなかで、「毒薬の国イオルコスとヒべリアからきた毒薬」について語っている。ヒべリアは現代のグルジア共和国で、黒海地方に属する。黒海という地方は当然コルキス生まれの大魔女メデアを連想させるにちがいない。実際、詩人たちが邪悪な薬物の出所として念頭に浮かべているのはメデアその人なのである。メデアの壮大な魔法を活写した『転身物語』のオウィディウスはいうまでもなくティブルスも、「キルケ―か持ち、メデアが持っているあらゆる毒薬、デッサリアの地に生れたあらゆる薬草、欲情にたける雌馬の女陰からしたたる粘液」(『『哀歌』』と列挙する。オウィディウスのメデアは龍に打ちまたがってデッサリアに飛び、そこから薬草を採ってくる。すなわち薬草の特産地として、黒海沿岸とデッサリアといういずれ劣らぬ不気味な地方がいちじるしく強調されるのだが、これが何を意味するかについてはのちに述べたいと思う。
さて、ウェルギスウスの述べているモエリスの薬草の三つの応用例のうち、一は人狼変身、二は死者を喚起する降霊術(ネクロマンシ―)、三は穀物の生殖力の転移にそれぞれ関わる。人狼変身の話は後代(紀元一世紀)の『サテュリコン』の「トリマルキオーの饗宴」にも出てくるが、人狼信仰はおそらく神話時代に遡る起源を有している。ところがで、ロイナー教授は神話学者ランケ・グレイヴスらの説を援用して、オリュムボス神の飲食物たるアルブロジア(神々の食物)やネクタール(神々の美酒)が右のごとき幻覚性の薬物そのものではなかったとしても、そのエッセンス多量に混じていたにちがいないと推定する。ディオニュソス祭儀のメーナードたちの狂乱もこれと無関係ではない。
アルブロジアややネクタールを飲食する権限を独占している神々は、おそらく有史以前の聖なる王や女王たち(その前身はシャーマンであろう)であった。彼らの王朝が没落した後、それは、閉鎖的結社的なエレウシス密議やオルフェウス密議の秘密の要素となり、ディオニュソス祭儀とも結びついだ。密議の参加者たちは密議の席で共食した飲物や食物を絶対に口外してはならなかった。そうすることによって忘れ難い一連のヴィジョンが体験され、その類推的延長の上に超越的世界における不死と永生が約束されたからである。
ディオニュソス祭儀のメーナードたちの狂乱は、内的には飛翔感覚や性的興奮を伴い、外面的にはさながら狼のような凶暴を示したものにちがいない。彼女たちは髪をふり乱しながら国中を進行し、家畜や子供をずたずたに引き裂き、酒や薬物入りのピールに酔って「インドに旅行してきた」ことをひけらかした。してみると、見知らぬ士兵や妖術使いの人狼変身は、密議的な幻覚共同体が崩壊した後、秘密から疎外された個人や小集団が犯罪の形で表出せざるを得なかった聖なる薬物体験であったとおぼしいのである。
メーナードの末裔のように残酷な魔女たちは、先にふれたホラティウスの『エポーディ』にも登場してくる。数人の魔女が良家の子供を誘拐してきて、地面に首だけが出るように生き埋めにし、御馳走が山盛りの血を眼の前において(口元まで皿がきていても手が使えないので食べられないのだ)凄まじい飢えの修羅場をながながとたのしみ、はては生きたままの身体から骨髄と生き肝をちぎりとり、これを煮つめて媚薬をつくる。
「髪に、さてはまた蓬髪乱れる頭に、小さな蝮どもを絡ませながら、カニディアはコルキスの焔のなかにつぎのものを投ぜよと命じた。墓場から引き抜いてきた野生のいちじくの樹、死者の樹なる糸杉の木材、いやらしい蟇の血に塗られた卵、夜鳥ストリックスの羽根、毒草の国イオルコスとヒべリアからきた野草、飢えた牝犬の口からもぎとってきた骨を。」
これに子供の生き巻肝を加えれば魔女の霊薬は完成する。怖ろしい魔女カニディアのつくる媚薬は、ウェルギリウス作品の場合と同様、ある不実な男を呪縛するためである。しかし不思議なことに、カニディアの媚薬は予期したような効果を発揮しない。男の名はヴァールス、「老いぼれの漁色家」である。いましも彼は「私の手がこれ以上完璧には調和することのない塗膏(ポマード)を塗られ」て、魔窟スプーラの犬に吠えつかれ、人びとの物笑いの種になっているはずであるのに、これはどうしたことであろう。彼はこともなげに街をうろついて夜の冒険に出かけている。やがてカニディアは「(自分より)さらに秘密に通じた魔女」が彼の背後にいて、その呪文が自分の塗膏の効果を台なしにしていることをさとる。「もっと強力な薬を、そのもっと強力なやつをお前から取り上げてやる」。こうして毒物と解毒剤が互いにきそいながら老ヴァールスを板はさみにしてしまうわけた。
それはちょうど、十八世紀毒殺魔ド・ブランヴィリエ侯爵夫人が夫の侯爵を亡き者にしようと毒を盛ると、度重なる毒殺の発覚をおそれた相棒のサント・クロアが解毒剤をあたえ、毒と解毒のシーソーゲームのなかで中途半端な廃人となった侯爵が、宙ぶらりんな生かさず殺さずの、世にも恐ろしい余生を送ったのとそっくりであった。
ヴァールスというのが誰をモデルにした人物ではっきりしない。しかしホラティウスの知人であることはたしかで、詩人ははっきりとヴァールスの肩を持ち、かつカニディアを憎んでいる。一方カニディアは、詩人の庇護者マェーケーナスがローマの無縁墓地エスクィリーナエの丘を自分の庭園に造りなおした際、この旧墓地に出没した魔女である。ホラティウスは「汝、マドロスや旅商人どもにあまた愛された女」と侮蔑しているので、前身は港町の娼婦かいかがわしい取り持ち女の類であろう。一説には、本名をグラティディアと称してナポリで美顔用塗膏を商っていた実在の女であるともいう。
ホラティウスは何故かこの女を心底から憎悪していた。開明的なエピキュリアンであったホラティウスはむろん魔法を真に受けていたわけではないが、不倶戴天の敵カニティアの脅威は身をもって知っていたらしい。カニディアは詩人に執拗に呪いをかけた。『エポーディ』前半ではカニディアを揶揄していた詩人も、第十七歌あたりではさすかに音(ね)を上げて魔女に降参してしまう(「やめろ、やめてくれ!私は効き目のある術に降服する!」)カニディアとホラティウスの間には直接の色情的怨恨はないのに、何故こうも執拗に呪詛し憎悪し合うのであろう。目下の論題から離れるので無用の詮索ではあるが、講和主義として敗北してから「黄金の中庸」を看板に韜晦してきたホラティウスの、政敵にたいする潜在的な不安が魔女カニディアの姿に結実したのだとすれば含意は深長である。
ところで、先に私は、老ヴァールスがより秘密に通じた別の魔女から対抗秘薬を調達し、カニディアの塗膏から身を護った経緯を述べたが、正確にはこれは逆である。漁色家ヴァールスは老いかけた精力を挽回するために(別の)魔女に催淫剤を依頼し、そのお蔭で老齢にもかかわらず夜な夜なスプーラに出没することができたのであった。一方、カニディアの塗膏は通常の媚薬とに逆に、この好色な遊び人を性的不能に陥らせる麻痺的な減退剤であったにちがいない。なぜなら「老漁色家がスプーラに犬に吠えつかれ、人びとの物笑いの種になる」効果を狙った薬物は、相手を色街における無用の徒である不能者に仕立てるための、底意地の悪い精力減退の薬にほかならないだろうからである。この不能不毛化させる魔法は、ウェルギリウスのいう「第三の魔法」である穀物の生殖力の転移盗奪の法にも通じている。
ローマ最古の法文書である十二銅表律は、隣人の耕地の収穫物を荒廃させる災いの魔法を重罰をもって禁じている。罰は犯罪を前提としているので、すでに当時から他人の畑の生産力を涸渇させ、(あまつさえ)これを我田引水しておのが腹を肥やす魔法が実践されていたのであった。本来神と自然の摂理のみが按配すべき穀物の作不作が人為の魔法によって操作されるのなら、同じことは人間的自然である肉体の活力の、特に性的エネルギーの増減についても通用するはずである。
ホラティウスがカニディアに蒙ったの呪い魔法は、老ヴァールスのような精力衰弱のそれぞれではなかったが、肉体のすみやかな老化という脅威であった。彼の髪は急速に白くなり、仕事は日々困難になりまさり、一瞬として息を吐くひまもなくなるであろうというのが、カニディアの呪いに籠めた脅迫であった。事実、ホラティウスは年齢より早く白髪が目立ち始めていたが、それがカニディアの魔法のたまものという証拠はなく、むしろ詩人は生来の病身にもかかわらず健康を維持し、日々の仕事も快適に楽しんでいた。彼はカニディアの悪意を感得してはいたが、魔法そのものはそれほど本気で信じていたわけではなかった。
ウェルギリウスやホラティウスの同時代の詩人プロベルティウス(前四十八?~十九年)も魔女の呪いを蒙ったことがある。プロベルティウスの受けた呪いは、まさに彼の男性としての能力の荒廃の脅威であった。敵なる魔女はその名もアカンティスといい、魔法をあやつると同時にやはり男女の仲を斡旋する取り持ち女でもあった。そもそもおらゆる種類の自然と蔑視してその正常な運行を人為的に左右しようとするプロメテウス的瀆神行為である魔法を、とりわけ肉体のの領域において一手に引き受けていたのは、先にも述べたように、当時スブーラに巣食っていた卑賤な薬草売りの魔女やあやしげな取り持ち女だった。ホラティウスの『エポーディ』のいちじるしい影響下にある『哀歌』のなかで、プロペルティウスはほとんどホラティウスをそのまま踏襲しながら唱っている。
「彼女(アカンティス)はつれないヒッポリュトスをアプロディーテーにたいして和ませるすべをすら心得ているのだ、水入らずの愛の絆にたいする最悪の災いの鳥であるこの女性。彼女はベネローベをさえ、その夫の知らせなどおかまいなしに、淫蕩なアンティノースとめあわせることだろう。彼女がその気になれば、磁石はもはや鉄を牽引せず、鳥はその小鳥たちの巣のなかで継母(ままはは)となる。すなわち彼女がポルタ・コリナの野草を掘り出したならば、固く結ばれていたものはすべて流れる水に溶け去るのだ。彼女は大胆にも月に呪文をかけ、月をおのが掟に従わせ、夜な夜なその肉体を狼の姿に隠す。醒めている夫の眼を環形でくらませるために、彼女は処女の雌鳥どもの眼を爪でくり抜く。彼女は魔女たちと結託して私の男性の��力を去勢させようとし、私に害をあたえようものと子持ちの雌馬の欲情の愛液を集めた。」
アカンティスはエロチックな引力(共感)と斥力(反感)の結合(カタデシス)と分離(アポリシス)の両極原理を基盤とする錬金術的性愛術を自在に操るのである。思うがままに貞淑ペネローペを淫蕩なアンティノース靡かせ、冷たいヒッポリュトスにアプロディーテーにたいする熱烈な情欲をかきたてる。彼女は自然の法則を嘲笑し、リビトーの流れをあちらからこちらへと変えたり、涸らしたり、増量させたりすることさえできる。共夫の女をよこしまな道楽者に取り持つように頼まれれば、不運な男の眼を鳥の眼をくり抜くようにくらませ、あまつさえ他人の畑の作物を枯らすようにしてそのリビドーを荒廃させ、不能の夫から強壮薬で男性的魅力をいやが上に引き立たせられた道楽者の方へと女の浮いた心を誘導していく。共感の法則をたくみに使い分けて、愛し合う男女を別れさせたり、嫌われた相手を手元にたぐり寄せたりするのである。
もっとも、このときにこそ魔女アカンティスを憎々しげた呪詛しているプロベルティウスであるが、彼自身、若年の頃は靡かぬ片恋の人「キンティア情(なさけ)を買うために「キタイアの女の魔法の呪文によって星辰や河の軌道を転ずることができ」、「わが主なる女(ひと)の心を変えて、彼女の貌(かんばせ)を私のそれよりも蒼ざめさせる」魔女の性愛術に帰依したことがあったのである。
アカンティスの魔法の中心にあるのも「ボルタ・コリナの野草」である。黒海やコーカサス地方の野草ではなく、市郊外の入手しやすい野草に頼ったのは輸入品が高価だったからであろう。いずれにせよ、この野草を投ずることによって、星の運行、河川の流れ、男女の情愛、磁力や母子愛まで、自然の正常な摂理は突然ばらばらに分解し、崩壊した積木の神殿を魔女の家に組み立てなおすように、別種の構成原理の手に委ねられる。
端的にいえば、この瞬間に世界は昼の側から夜の側に逆転し、世界原理の主宰者が神と宗教から悪魔(もしくは魔霊(デーモン)と魔法に交替する。あるいは天地創造の原活力たる火が神の手からプロメテウスに簒奪される、といってもいい。このように、あらゆる魔法使いは自然の法則を嘲笑するプロメテウスにほかならないのである。
「宗教的人間の態度は、祈る人、懺悔する人の態度であり、魔法使いの態度は主人と支配者の態度である。信仰篤い人間は祈りのなかで彼の神々に自分の優位を感じさせ、呪文によって神々を屈服させる。ある意味で魔法使いは神々の上に立っている。なぜなら彼は、神々がそれに従わなければならないと呼びかけと誓言とを知っており、かつ服従させられた神々の怒りから身を護る予防策に精通しているからである。」(ゲオルタ・ルック)
ローマの詩人たちは宗教詩人というよりはむしろ世故に通じたエピキュリアンであった。彼らは神々の側に立って魔法使いや魔女をきびしく紏弾したわけではない。そうかといって、あまたの魔女の姿を描いたにもせよ、彼らは悪魔崇拝に首までどっぷりと浸って秘教的な暗黒詩を書いたのでもない。
詩人たちが魔法にたいしてあいまいな態度をとりつづけたのは、彼ら自身と魔法使いたちとの間に存在した隠微な抗争のためであった。彼らは宗教の側に立って魔法を攻撃することこそあえてしなかったが、彼らなりに魔法を嘲弄もしくは嫉妬していた。なぜなら魔法が万事を解決してしまえば、彼らの持駒である言葉の救済力という白い魔術の出番がなくなってしまうからである。「歌(カルメーン)の原義は「魔法の歌」、「魔術的呪文」であった。「詩作(ポイエーテス)」もまた言葉の自然状態の組み変えというプロメテウス的行為である。それゆえに詩人もまた「傲慢(ヒュブリス)」の罪によってみずからはコーカサスの山巓にさらされながら地上の人びとに慰藉を授ける。プロベルティウスの言葉の医術についての確信は反語的である。
 私は離ればなれにさせられた恋人たちをふたたび合一させることができ、
主(ぬし)なる女(ひと)の抗う扉を開くことができる。
私は他人(ひと)の生々しい悲哀を癒すことができるが、
私の言葉のなかにはいささかの薬剤もない。
 さてウェルギスウスのモエリスが演じた薬草による三つの魔法のうち、まだ死者降霊術のみが言及されていない。死者召喚の秘法に関しては、すでにホメーロスの『オヂュッセイア』第十一巻に「招魂」の章がある。そこでオヂュッセウスに地下に一キュービット四方の穴を掘り、乳、蜜、酒、水、大麦の粉などを播いてから黒い牧羊の喉を切ってその血を穴に注ぎ、死者たちの魂を喚び戻す。古代人にとって死者は存在から消滅するのではなく、冥府や月世界に移行するのであるから、冥府の主であるハーデスやペルセポネイアに祈願して時間を逆流させることができれば、死者は当然地下世界から地上に還帰するはずなのである。地下的なものの秘密の結実である薬草がこの喚び戻しに重要な役割を駆使するのである。オウィディウスはいう。「彼女は黴び朽ちた墓の底から汝の父祖や祖先を引き出し、大いなる祈りによって大地と岩石とを割る。」
死者召喚が発端と終末、死と生と逆転であるとすれば、死から生への大逆流の一環として若返りの魔法が考えられる。老年から幼年への(自然的に不可逆的な)若返りはいわば死者再臨の模型である。オウィディウスは『転身物語』のなかで大魔女メデアがアエソンに施したおどろくべき若返りの秘法を絢爛たる筆にのせて活写している。
しかもここでメデアの魔法の要となっているのも「魔法の霊薬」である。まずメデアは翼のある龍にの首に牽かれた車を呼び出し、これにのり込んでテッサリアの野に飛び、あまたの薬草を採集する。それから奇怪な薬の調合にかかる。
「かの女は、髪の毛をバックスの巫女のようにふりみだして、炎のもえている祭壇のまわりをぐるぐるまわり、こまかに割った炬火(たいまつ)を溝のなかの黒々として血にひたし、ふたつの祭壇の炎でその炬火に火をつけ、こうして火で三度、さらに硫黄で三度老人(アエソン)のからだを清めた。そのあいだに、火にかけた青銅のなかでは、魔法の霊薬が煮えたぎり、白い泡をたててふきこぼれていた。かの女は、ハエモニア(テッサリアの古名)で刈りとってきた草の根や種子や花や激烈な草汁をそのなかに煮こみ、さらに、極東の国からとりよせた 取り寄せた小石や、オケアヌスの引潮に洗われた砂をまぜ、これに満月の夜にあつめた露、鷲木菟(わしみみずく)の肉といまわしいその翼、おのれを狼のすがたに変えることができるといわれる人狼の臓腑をくわえ、その上にキニュプスの流れに住む水蛇のうすい鱗皮と、九代を生きながらえた鴉の嘴と頭を入れてことをわすれなかった。」(田中秀夫・前田敬作訳)
前代の詩人たちの精読者であったオウィディウスは、ここにウェルギリウスやホラティウスやプロペルティウスの伝えた魔女の秘薬のあらゆる要素を投げ入れ、ほとんど完璧なごった煮を調製しているのである。さて、メデアの最後に橄欖樹の枯枝でこの液体をかきまわすと、老いた枯枝はみるみるうちに縁に返って豊かな薬をつけ、ふきこぼれた液がふれた地面はたちまち若やいだ春の地肌に変り、花が咲き、やわらかい草が萌え出た。メデアはすぐさま剣を抜いて老人の喉に孔をあける。流れる出る古い血の後に薬液を注ぎ込むと、瀕死のアエソンの白い鬚や髪はたちまち真黒になり、老醜の皺は消えて四十年前の姿になり変わった。
メデアが龍にのって薬草を探しにいくデッサリア地方は、都の郊外のように手近ではないが、さりとて彼女の故郷の黒海沿岸(コルキス)やコーカサスのような遠方でもない。しかしこころみに地図を広げてみると、エーゲ海から黒海に入るダーダネルス海峡を通じて、薬草の特産地たる黒海東端のコルキス、ヒべリア、コーカサスは水路から意外にも指呼の間にある。事実、アルタゴナウタエたちはテッサリアのパガサエの港からアルゴ号を仕立ててコルキスの金羊毛皮を探しに出立した。テッサリアと黒海沿岸地方に古くから深い関係が成立していたであろうことは、この一事からも容易推測される。ちなみにロイナー教授の野生幻覚剤分布表によると、魔女の塗膏の歴史的原生地は「中央ヨーロッパ全土」とされている。
おそらく中央ヨーロッパ奥地から地中海沿岸地帯にかけて、かつて強大な母神信仰が栄えていたのであった。この地下的(クトーニッシュ)母神崇拝の宗教はやがてアポロン的宗教に打倒され、輝かしいギリシア世界の表面からは駆逐された。とはいえ跡形もなく消滅したわけではなく、勝利を占めた若いアポロン信仰は古い地中海宗教の多くの要素を受け入れた。たとえばデルポイの神託を授けるアポロン神殿の巫女ピュッティアは、大地の裂け目の上にすわって地中からくる母の指示を受信する。ピュティアという名称そのものがすでに前ギリシア的宗教における地下的なものの化身たるピュトンの蛇との関連を暗示している。
若い宗教に征服された前代の宗教は、一転、魔法となるのがつねであった。のが常であった。同様に魔女たちは、かつてこの冥府的な大母神信仰の由緒正しい女司祭若巫女だったのであろう。しばしば魔女が引合いに出すテッサリアやコルキスのような土地は、メデアのような大女司祭が君臨していた聖地だったのであろう。したがってローマの詩人たちがその作品のなかに描いたアカンティスやカニディアのような魔女は、没落した大母神崇拝教団の巫女の、いまは往古の栄えある祭儀に参加するすべもなく孤立して巷をさまよい、賤業に口糊する、頽落したなれの果ての身にちがいない。彼女たちが時折り口にした霊薬の甘味は、プルーストにおけるマドレーヌの喚起的美味とひとしく、それが神餞として共食された往時の、栄光ある、だがいまは沈んで久しい世界の天上的な至福の思い出を、一瞬ざまざと想起させてくれたかもしれない。
魔女の塗膏や霊薬は、それ自体としても、むろん後の悪魔礼拝と切っても切れない密接なつながりがある。しかしそれよりも重要なのは、魔女を女司祭に戴いていた前ギリシア的地中海宗教が若い宗教に敗北したとき、そこにアポロン信仰が定位されたことである。いいかえれば、このとき以来、崇拝の対象は女性神(大母神)から男性神アポロンに変ったのだ。
アポロン的宗教の男性神崇拝は、当然のことながらキリストを受け入れる基礎を用意した。ここからキリストの倒錯像サタンの成立まではわずか一歩である。アポロンとキリストが男性でなかったならば、悪魔もまたついに男性ではなかったであろう。若い男性神に打倒された母神へのなつかしい郷愁は、アポロンやキリストへの憎悪の化身である第二の男性神を必然的に招来せしめた。この怨恨と憎悪に黒々と塗り込められた黒い男は、ときにはサタンとして、ときにはロマンティックな悪魔主義者として、ときには超人や天才として、時代とともに変転する自己表現をとげた。 いみじくも聖侯爵の「悪魔主義」について語りながら、「天才は母の国にではなく、魔女の国に棲む」と語ったのはG・R・ホッケである。私が右に述べてきたのもサタンの棲もう風土たる「魔女の国」のくさぐさの追憶であった。
出自《悪魔礼拝》
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gendaikabuki · 4 years
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第一場  大津三井寺
 湖を望む舞台付の広間
 湖畔の高台にある三井寺の一坊、板張りの大広間。奥一面の欄干の向こうには琵琶湖の眺望。上手側は湖を借景とした広い舞台になっており、芝居道具の大釣鐘が一つ、その中央に置かれている。  下手側、簡素な床の間に掛かった鬼の大津絵でここが近江の三井寺であることを示す。床の間の前には無人の円座が数枚、舞台の観覧席の様に並んでいる。床の間の裏手に伸びる欄干は庫裡へと続く出入口。
  猿楽一座の頭・松阿弥と僧円了、語り合う様子で中央に板付きにて幕開く。やや下がって桐夜叉と梅夜叉、背筋を伸ばして控えている。
 円了 なれば方々は紀伊紀三井寺道成寺より吉野を抜け、この大津三井寺園城寺にまで遥々と、猿楽舞の奉納のみならず、寺の鐘に伝わる物語を聞きに参られたと、そういう事にござりまするか。
松阿弥 はい、左様にござります。我ら女猿楽の一座。他の猿楽、能楽一座の方々と違い、常々、女性〈にょしょう〉ならではの情や念、美を舞って御覧じようと考えてございます。中でも、我ら一番の得意といたしまする猿楽舞の『道成寺』。蛇に成った清姫が安珍を焼き殺したというその物語の御寺の鐘、せめて一度は拝まねばならぬ──との思いから、紀三井寺道成寺に参りましたるところ「鐘と蛇、女人の情念の物語は道成寺だけのものにはあらじ。三井寺の梵鐘の物語も是非学ばれてはいかが」との御住持のお言葉。故にこちら、近江三井の御寺に参ったと、かような次第でございます。
円了 ウム。たしかにその御坊の仰せの通り、この三井寺の梵鐘にも蛇と女人の情念にまつわる話はござりまするが……。
桐夜叉 (少し身を乗り出して)……その情念とは、一体どんなものなのでございましょう? 嫉妬でございます? それとも執着? 
円了 ホウ。何ゆえ左様に思われまするか?
桐夜叉 何故……と仰言いましても、女は嫉妬深いもの、蛇は執念深いもの ── それは現在後醍醐帝の御代になるよりもずっと昔、神武以来の決まり事。(隣の梅夜叉に) ……そうであろうノウ?
梅夜叉 神武以来かどうかは知りませんけれど、我らが猿楽で舞って御覧に入れる女人の相は、たしかに左様なものが多うございますわね。……和尚様。こちらの御寺の梵鐘には、サテ、どんな物語が伝わっているのでございますか?
円了 (笑いながら)残念ながら、方々が思われている情念とは、ちと種類が違いましょうな。
梅夜叉 違うのですか?
円了 左様。三井の梵鐘にまつわる女人の情念とは、コレすなわち捨身の誠。
桐夜叉 しゃしん?
円了 「身を捨つる」と書いて「捨身」。……大切なる者のため、自らの眼を刳り抜いた蛇の女房の物語が、当寺の梵鐘の響きには籠っているのでござります。
   女たち、不思議そうに顔を見合わせる。
 円了は立ち上がって上手舞台、芝居用の釣鐘の前まで進む。しばらくじっと鐘を眺め、そして語り出す。
 円了 その昔、琵琶湖々底の龍宮、龍神の眷属の末に連なる一匹の蛇が、地上の世界、近江源氏の棟梁に恋をしました。美しい女人の姿に変成した蛇は、殿に見初められて奥方となり、玉の様に美しい若君を産みました。……なれど、その襁褓も取れぬうち、蛇は龍神のお召しにて、龍宮へ戻らねばならなくなったのでございます。別れ際、泣き止まぬ我が子に、母は形見と、地上に在っては宝珠となる己の片目を刳り抜いて与えました。その珠を握りしめた若君はようやく泣き止み、そして、蛇は水底、龍宮に帰ったと申します……。
         しばしの間を置いて
 円了 しかしその噂、鎌倉にまで届き、蛇の三つ鱗が紋所、龍神崇める北条殿より宝珠献上のご下命。鎌倉の将軍家はもとより、京の帝の御心さえも脅かす執権殿の御威勢、否と言えるはずもなく……。殿は珠を握りしめる若君の掌を解き、宝珠を六波羅に差し出したのでございます。
松阿弥 サテ、和尚様。鎌倉の将軍様、執権の北条殿、近江源氏の殿様……と申さるるからには、それはさほど昔ではない、当代の物語なのでございましょうか?
円了 左様。その殿というは先代の佐々木の殿様、佐々木宗氏様の事。
松阿弥 ならば、その若君と申さるるは?
円了 現在佐々木のご当主、佐々木高氏道誉様。
松阿弥 なんと。ご当地のお殿様の不思議の物語、この様に気安く話して、サテ、お咎めの恐れはないのでございましょうか?
円了 (穏やかに頷いて)方々もお噂はご存知あるやもしれませぬが、道誉様は少々風変わりなご気性のお方ゆえ、むしろその物語をご自慢なさってございまする。……事実、その出来事がきっかけで佐々木の御家は北条得宗家のご昵懇となり、道誉様は執権高時殿のお小姓として永の寵愛。そして昨年、高時殿ご出家の折には供にご出家。それ故の法号『道誉』をお名乗りなのでございます。
梅夜叉 マァ。近江の国のお殿さまは、お坊様なのでございますか?
  円了、元の位置に戻って座る。
 円了 仏法への深い帰依、得度をなさった ── という意味のご出家。坊主頭に墨衣 ── という訳ではござりませぬよ。……それどころかそのお姿は、まるでそなた方、猿楽舞の役者衆にも負けぬくらいの華やかさ。
���夜叉 エ?
円了 目の醒める様な緋色の襦袢、その上に半身違いの金襴の直垂付けて、舞う様な軽やかな足取りで、西へ東へ、南へ北へ、遊戯神通〈ゆげじんつう〉、神出鬼没の立ち居振る舞い。近頃流行りの婆娑羅とか言う、型にはまらぬその生きざま。
桐夜叉 ばさら……にございますか?
円了 左様。真っ当真っ直ぐではなく、この様にこう(身を傾けて見せ)……傾〈かぶ〉いた生きざま。
松阿弥 ウム。女どもは存じぬやもしれませぬが、確かに、道誉様は当代きっての風流にして聡明な殿様と、我ら猿楽座頭の仲間内にも噂は聞こえておりまする。……しかし、その様な聡いお方が何ゆえ、風変わりな婆娑羅の道に生きられるのか? 円了 サテ。それは拙僧にも判りませぬ。直接お目に掛かり、みずからお尋ねなさるがよろしかろう。 松阿弥 お目にかかれましょうや?
円了 道誉様は連歌、猿楽、能、狂言……風雅な芸能に目のない殿様。方々の三井寺逗留の報告にも、きっとご関心をお持ちのはず。きっと、ほどなく……
   松阿弥と女たち、密かに視線を交わして頷き合う。
 円了が見ている事に気付き、桐夜叉は誤魔化す様に口を開く。
 桐夜叉 ところで和尚様。その片目を失った蛇の女性の物語と御寺の梵鐘には、一体どんな関係があるのでございましょう?
円了  ああ、そうでござった。途中で逸れてしまった話の、続きに戻るといたしましょうか。
桐夜叉 ええ、どうぞお願いいたします。
円了 ウム。エヘン。母の形見、握った宝珠を北条殿に奪われた若君は再び泣き出し、どうあやしても泣き止まぬ日々が続いたそうにございます。ある夜、困り果てた父君は御自ら、せめて母親の近くへと、琵琶湖の湖畔へ若君を抱いてお連れになりました。すると、白い晒を目元に巻いた盲〈めし〉いの女人 ──  再び人の姿に変身した蛇の母君が現れ、あらためて若君に宝珠を授け、それにてようやく、若君は泣き止まれたと申します。
梅夜叉 じゃあ、母君様はもう片方の目も?
円了 左様。愛しい我が子のため、蛇の奥方は自らの両眼を捨てた ── それが、三井の梵鐘にまつわる女人と蛇の物語。
桐夜叉 けど和尚様、そのお話と梵鐘に、一体何の関係があるのでしょう?
円了 サテ、それはここからの物語。
 湖底に戻る前、母君は言い遺したそうでございます。
「盲目の身となった上からは、水底の我はこれから、三井寺の鐘の音のみを導〈しるべ〉に生きてゆかねばならぬ。それゆえ日々 ── 自らの位置を知るため、忘れる事なく時の鐘を鳴らして欲しい。そして年々 ── 我が子の成長を知るため、大晦日に我が子の年と同じ数だけ除夜の鐘を撞いて欲しい。そしてもし、佐々木の御家、天下国家に一大事が起きたなら、夜中〈やちゅう〉続けさまに鐘を叩いて撞き鳴らせば、きっと龍宮の眷属率いて、加護に参上いたすであろう」 ── と。
松阿弥 ホウ。龍神眷属の加護とは心強い。その様な加護があるならこの世に道誉様の敵はなし。北条様の平氏から、佐々木様の源氏の手に、天下経営の権を取り戻すのも思いのまま……ではござりませぬか?
円了 道誉様は執権殿第一のご昵懇。その様な事をせずともご安泰の御身の上。むしろ夜中に鐘を響かせ、謀反叛逆疑われる事をご用心なされ、三井の晩鐘を撞く事を固く禁じておられまする。とりわけ近頃は、先年露見した帝の倒幕の御企てなど、なにやら不穏な世の中ゆえに……。
松阿弥  ホウ。
梅夜叉 もし禁を破って晩鐘を撞いたなら、その者は一体、どんな罰を受けるのでございましょう?
円了 撞いた鐘の数だけなますに斬られ、その上で琵琶湖に沈めらるるが掟。
梅夜叉 マァ……恐ろしい。
  ト、花道に取次の僧登場。七三にひざまづいて
 取次の僧 本坊書院に京極貞満様、御入来になられてござりまする。
円了 左様であるか。……では、そちらに参るといたそう。
取次の僧 いえ、御坊様。京極様は猿楽一座の方々が居られる、こちら舞台の間にお越しになられたいと、その様に仰せでございます。
円了 ホウ、左様か。(一座に微笑み)道誉様は早速方々にご興味を示された���様子。……では、こちらにご案内を。
取次の僧 はっ。
        取次ぎの僧、元に退場。
 松阿弥 京極貞満様……と申さるるは、サテ、いずれのお方にござりましょう?
円了 佐々木のご分家、道誉様の弟君にございます。
  ト、揚幕開いて足音響く。舞台の全員、花道に向き直って頭を垂れる。  花道より京極貞満登場。落ち着いた色の直垂に折烏帽子、一般的な鎌倉武士の姿。舞台へ進んで円了の隣、床の間近くの円座に腰を下ろす。
円了 これはこれは京極様、ようこそお越し下さいました。
貞満 イヤサ御坊、しばらくぶりにござりまするな。お変わりなき様で、何より。
円了 京極様におかれましても、ご機嫌よろしゅう何よりにござりまする。……サテ、本日は何御用ゆえのお出ましにござりましょう?
貞満 ウム。(松阿弥たちを見て)三井寺に逗留し、猿楽舞を奉納する女猿楽一座というのはその方らであるか?
松阿弥 はい。我らがその女猿楽一座、座頭と役者どもにござります。
貞満 左様か。……(円了に向き直り)御坊にはお察しあろう。彼らの来訪が兄上の耳に入り、その珍しき女人の芸能をご覧になられたいとの御仰せ。ご準備あった連歌の会をひとまず置いて、只今すぐ、こちらに参られたいとの事。先駆けて伝えて参れと、マァ、いつもながらの御性分。
円了 (松阿弥に)ソレ、思った通り。
松阿弥 御慧眼畏れ入りましてござりまする……。( 女たちを見遣り)殿様お見えの上からは、サァ、庫裏の楽屋に控える楽人どもに声を掛け、舞台の準備始めねば。
  下手、床の間の裏手に続く欄干(楽屋の方向)に視線を向ける。
 ト、揚幕の内より声。
 声 道誉様、お出でになられてございます。
松阿弥 (驚き)コリャ、こうも早速。
  舞台の全員居住まいを正し、道誉を待って花道に向き直る。
 しばしの沈黙。
 ややあって道誉、花道ではなく下手欄干奥、楽屋側から大きな足音を立てて登場。半身違いの奇異な直垂姿。片手に銀の鱗柄装束(道成寺衣装)を掴み、舞台中央にて堂々たる立ち姿。
  続いて猿楽一座の男二人、道誉を追って登場。道誉の背後に立ち並んで芝居用の竹光握って身構える。
 男一 どこのどいつかは知らねども、我ら一座の大事の衣裳、かっぱらうとは悪い了見。サァ、返せ、返せ。
男二 派手な姿に切れある身ごなし、真っ白顔の色男。こやつ、きっとどこぞの役者に相違ない。(顔を覗き込み)サテ、この顔どこかで見た様な……。わかった! 坂東にて評判の、〇〇一座の△太夫に相違ない!(※実演者に合わせて)そうであろう!
二人  そうであろう!
道誉 (ややあって機嫌良く)ハハハ、これは愉快なる人違い。
  正体を察している松阿弥と女たち、両手を挙げて男たちを制する。円了と貞満、顔を見合わせて苦笑、道誉に向き直って頭を下げる。
 円了 これはこれは道誉様、
貞満 兄上、
円了 ご尊顔を拝し奉り、恐悦至極に存じまする。
男たち え?
  男たち事情を察し、慌てて畏まってうずくまる。
 男一 これはこれはとんだご無礼、
男二 つかまつりましてござりまする。
  道誉、堂々と一座を見渡し
 道誉 いやなに、庫裏の軒先に、この装束が掛かっているのが見えたのだ。……蛇の鱗柄は俺の産着と同じ柄。つい懐かしく思うてな。暫時羽織ってみたくなった……ただそれだけの事。
  ト、装束を肩に掛けて扇を取り出し、上手舞台に進む。鐘の周囲を舞う様にして一周。元に戻って装束を脱ぎ、一座の男にポンと投げ渡す。
 道誉 もう気は済んだ。返して遣わす。
男たち ハハッ。
  男たち装束を持って退場。
 道誉、中央に腰を下ろして松阿弥たち一座と向き合う。
 道誉 サテ、当代めずらしき女猿楽一座というのは、その方らか?
松阿弥 (頭を下げて)左様にござりまする。身どもは座頭の松阿弥、それに控えまするは当一座の二枚看板、桐夜叉と梅夜叉と申す役者どもにござりまする。
  一層深々と頭を下げ
 松阿弥 京と鎌倉を結ぶ要衝、近江の国をご支配なさる佐々木源氏の棟梁、その名も高き道誉様。ご尊顔を拝し奉り、身にとりまして、いかほどか……。
 ト、徐々に言葉に熱がこもって顔を上げる。道誉と松阿弥、じっと視線を交わす。
 道誉 サテ、浮かれ稼業に似合わぬ眼光。いつかどこかで、見た事のある様な……。
  松阿弥、ハッとして頭を下げる。
 桐夜叉 (繕う様に引き受けて)オホホホ。お殿様と同じ様に、我らが殿さま……座頭も、よくどこぞの役者と間違われましてございます。
梅夜叉 ホホホ。何と申す役者でしたでしょう。たしか……
松阿弥 (とぼける)サテ、よく間違えられる何とやら……と申す者とは別人なれど、我ら猿楽舞の楽人の流儀、もし殿様のお許しあらば、ご挨拶代わりの舞を一指 ── 。
道誉 ウム、それは良い。許して使わす。
松阿弥 ハハッ。
  松阿弥、立ち上がって上手舞台に進み、即興風の謡曲を舞う。
 松阿弥 〽︎ 役者とは 是れ皆人なり
人も是れ 皆役者なり
折々の時々の
己が役を
舞いにけり
舞いにけり
  舞い納め、腰を下ろして一礼。円了と貞満、穏やかに拍手。
 道誉は満足げに頷き、立ち上がって返しの舞
 道誉 〽︎ 舞いにけり 舞いにけり
今世一生捨て置いて
只ひたすらに舞いにけり
一生は嘘 舞こそ真〈まこと〉
一生は嘘 舞こそ真
  舞い終わって着座。満座の拍手。
 道誉 (女たちに)美しき白拍子を差し置いての余興の一指し、許してくれよ。
松阿弥 (頭下げて)かようにお見事なる身のこなし、本職の猿楽師でもなかなか出来るものではござりませぬ。それに比べて我が身のつたなさ……。まことに、恐れ入りましてござりまする。
道誉 つたなくはあるまいが、その方、どうやら本職の猿楽師ではない様子……。
  なかば独白の様に言い、道誉はじっと松阿弥を見つめる。 松阿弥、恐れ入る様に一層頭を下げる。
 松阿弥 身どもは表舞台の役者ではなく、一座を率いる座頭に過ぎませぬゆえ。 
道誉 マァ、そう言うのならそれでよい……。
(明るく仕切り直し)シテ、その方ら何方より参ったのだ?
  白拍子たち、揃って指着き
 桐夜叉 我ら京の女猿楽一座、紀伊紀三井寺道成寺の鐘を拝みに参り、
梅夜叉 こちら三井寺の鐘の御噂承り、
桐夜叉 紀ノ川沿いに吉野へ上がって、
梅夜叉 千本桜の名勝と、尊皇の心篤き蔵王権現、修験者の方々にご挨拶、
桐夜叉 大和の道を北に上り、
梅夜叉 この近江三井寺園城寺へと、
二人 着きにけり。着きにけり ── 。
桐夜叉 という次第でござりまする。
道誉 左様か。(貞満に)そういえば先頃、帝倒幕御企ての折、吉野の修験者に化けて諸国遍歴、各地の武士に勅使して捕らえられた公卿がいたが、ハテ、その名を何と申されたかのう?
貞満 日野権中納言資朝〈ひののごんちゅうなごんすけとも〉卿とその従兄弟、日野蔵人俊基〈ひののくらんどとしもと〉卿であったかと。
道誉 シテ、その方々のご処分は?
貞満 確か権中納言殿は佐渡に配流、蔵人殿は帝のたってのご希望あってお咎めなし ── との決着のはず。
道誉 貞満、御坊、その方たちのお顔、存じ上げておるか?
円了  いいえ、
貞満 存じませぬ。……が、何故?
道誉 いいや。修験者と聞いてふと思い出したまで。
  ト、思い入れ
 道誉 ……この道誉の元も、訪ねて下されば良かったものを。
  貞満驚き
 貞満 これは兄上、異な事を申される。我ら佐々木と京極、鎌倉の将軍様にも執権殿にも、御高恩筆頭賜る源氏の一家。兄上には、まさかの叛意……。
  ト、人々に聞かれた用心、皆殺しの覚悟で密かに刀に手を掛ける。
 道誉 ハハハハハ、そうではないのだ弟よ。俺はただ、見てみたいと思ったのだ ──
  ト、思い入れ
 道誉 帝、将軍、公卿、大名……我らは各々、自らの役を勤めて生きている。その普段の役とは別の役を演じ、この世の仕組みを変えようと企む者たち……その命を懸けた芝居とは、一体どの様なものだったのか、俺はただ、見てみたいと思ったのだ。
         しばしの沈黙。
 貞満 ハハ、ハハハハハ。兄上の物好きは筋金入り。酔狂、酔狂。ハハハハハ。
  貞満、ホッとした様子で密かに刀から手を離す。
道誉 (冗談めかして女たちに)……よもやその方ら、猿楽一座に化けた帝の使い ── ではあるまいよな?
  しばしの間あって
 桐夜叉 ホホホホホ。殿様が左様な芝居をご所望なれば、我ら芝居が本分の役者ども。即興にて演じてご覧に入れましょう。ネ(背筋を正して松阿弥に)……日野蔵人、俊基さま。
  松阿弥ハッと呑み込んで
 松阿弥 ウム。左様なれば。……勅定である。
  ト、一座の者姿勢を正す。松阿弥立ち上がって取り出した懐紙を綸旨に見立て、高く目の前に掲げる。道誉は居住まいを正し、懐紙に向かって頭を下げる。貞満と円了、呆然と様子を眺める。
 柝、一打ち。
 松阿弥、懐紙を広げて勅命を読み上げる心。
 松阿弥 臣下たる執権北条一門が将軍家の実を握る逆さま事、そのまま鎌倉が朝廷を軽んずる逆さま事と相成りて、世の秩序、大いに乱る。その乱れ糺さんと、先年兵を募りしが、口惜しきかな、下臈の口より漏洩頓挫、時宜を得ず事成らず。なれどこの逆さま事、このまま続くを糺さざれば、天下太平程遠く、人心の荒廃せしをえとどめず。しからばこの度、朕と志ともにする有意の臣を再び募り、誤りの世を真の世に、天命を革むるの号令を、我が直臣、日野蔵人俊基をして各地各国の大名諸卿に、ここに勅定、申し伝えるべきものなり。
  松阿弥、読み上げた体の懐紙の内側を道誉に差し向ける。道誉、畏まる様に頭を下げる。
 ややあって道誉、肩を揺すって笑い出す。
 道誉 ハハハハハハ。(松阿弥を見上げ)俊基卿、そなたは芝居の俊基卿か?  それとも真の俊基卿か?
松阿弥 (元の猿楽師の様子に戻ってひざまづき)ハハッ。芝居の俊基卿……と申し上げますれば、道誉様にはいかな御言葉下さりましょう。
道誉 ウム。上使の役は、マァまずまずの出来。なれど、勧進帳の空読み、弁慶の様な役には、まだまだ勉強が必要だな。
松阿弥 (頭下げ)畏れ多きご指導、誠にありがとうございます。なれば……
         すっくと立ち上がり、上臈の見得
 松阿弥 猿楽師とは世を忍ぶかりそめの姿、麿こそは真の日野蔵人俊基……と申さば、道誉殿、そなたは如何いたしまするか。
  ト、柝打って引っ張りの見得。
 道誉 しからば俊基卿、その勅定に従えば、身どもには如何なる得がありましょう?
松阿弥 本領の安堵と加増、官位栄達。義に従って行動せば恩賞褒美は思いのまま。
道誉 我が本領、我が地位は今で充分。その様なもの、殊更欲しいとは思いませぬ。
松阿弥 ならば大義に従った忠臣 ── との、末代、未来の家名の誉れ。
道誉 そんなものは尚更要らぬ。むしろ北条殿の世が続けば、その未来の忠臣とやらはただの未来の謀反人。
松阿弥 なれば道誉殿、そなたは何をもって得と考え、何をもって進む道を決められまするか?
道誉 面白くもなきこの浮き世、ただひと時でも面白く、思いのままに楽しむ事 ── それこそが身どもにとって何よりの喜び。それこそが、身どもが進む婆娑羅の道。 松阿弥 面白くもなきこの浮き世を、ただひと時でも面白く、思いのままに楽しむ事……。
  しばしの間。
 ややあって梅夜叉おもむろに
 梅夜叉 それは、我ら役者が生きる芝居の世界……まさにそうではございませんか?
  道誉、対勅使の芝居を終える。
 道誉 ハハハハ。そうかもしれぬ。所詮は嘘に過ぎぬものを真〈まこと〉と崇める浮き世より、嘘こそ真の芝居の方が、俺にとってはよっぽど真。
  ト、立ち上がって上手舞台に進む。
 道誉  なれど、たかだか三間四方、この小さな舞台の上だけでは、俺はもう満足はできぬのだ。浮き世すべてを舞台にして、己が命を賭けた芝居 ── その一生を生きる事こそ俺の望み。それこそが近江源氏の棟梁、この道誉が進む婆娑羅の道。
  ト、揚幕開いて再び取次の僧登場。早足で七三まで進んで注進。
 取次の僧 御坊様に申し上げまする。六波羅探題詮議方、長崎高教様、糟屋二郎様。佐々木道誉様をお尋ねあって、書院の方にお見えになってござりまする。
  取次の僧、舞台に進んで下手に控える。
 円了 ハテ、六波羅の侍衆が、何の御用?(道誉に向かって)道誉様、六波羅の方々がお見えとの事でござりまするが……。
  猿楽一座の者ども、用心する様に顔を見合わせ、道誉を見上げる。
 道誉 連歌の会の約束を放り出して、俺は役者たちに会いに来た。さだめし、館で待つのにしびれを切らして俺を追って来たのであろう……。皆で出迎えこちらに案内、彼らも共に芝居を見物すると致そうか。
  貞満と視線交わして頷き合い、松阿弥に顔向けて微笑む。
 道誉 客を出迎えに参る間、ご準備のほど頼みまするぞ。俊基、卿。
  道誉花道より退場。貞満、円了、取次の僧、後に従う。
 揚幕が閉じるのを見計らい、女たち松阿弥のもとに駆け寄る。
 桐夜叉 殿さま、
梅夜叉 俊基さま。
俊基(松阿弥) せっかく道誉殿に近づけたというのに、厄介な事になってしまった。
桐夜叉 その六波羅の者どもは、殿さまのお顔を存じ上げているのでしょうか?
俊基 ああ、宮中出入りの目付衆、もとより顔は見知った仲。
         女たち、うろたえた様子で顔を見合わせ
 梅夜叉 なれば我ら二人が舞いまする間、殿さまはひとまず先に、次なる目当ての越前へ。
俊基 なれど、さすればそなたたちは……。
桐夜叉 舞い納めれば、我らも急ぎ後を追い……。大津の浜の葦原にでも、隠れてお待ち下さいませ。
  女たち頷き合って俊基を立たせ、下手欄干奥へと導いて退場。  裏方たちと楽人たち替わって登場。裏方たちは舞台の準備、楽人たちは舞台上手に並んで着座、囃子の準備を整える。円了、道誉、長崎、糟屋、貞満、花道より列を成して登場。下手の円座にそれぞれの座を占める。
 ややあって楽人たち前奏を始める。
 衣裳を整えた桐夜叉と梅夜叉、欄干を橋掛かりの様にして登場。舞台中央に座して一礼。
 桐夜叉 これに控えまするは女猿楽の二人、桐夜叉と梅夜叉。
梅夜叉 お目に掛けまするは我らが十八番〈おはこ〉、二人勤めの道成寺。
桐夜叉 ご覧なされて、
梅夜叉 下さりませ。
糟屋 ……待て。猿楽の口上は座頭が勤める慣例。どうしたのだ、その方らの座頭は?                                    
桐夜叉 畏れながら、これが我が一座の流儀なれば……。
長崎 (糟屋をなだめて)マァ待て、糟屋。それなる女役者がこの一座の座頭 ── と、そういう事ではないのかの?
  桐夜叉、思わぬ助け舟 ── と、ホッとして頭を下げる。
 ト、道誉おもむろに声を上げる。
 道誉 サテ、俊基卿はどこへ行かれたのかのう?
糟屋 ナニ?
長崎 道誉殿、俊基卿とは、サテ、それはどちらの俊基卿にござりましょうかの?
道誉 俊基卿と申せば、ソレ、日野蔵人俊基卿にござりましょう。
糟屋 何と? 無罪放免を良い事に、まさか、再び帝の密使を?
長崎 道誉殿、それは一体、どういう事にござりまするかな?
道誉 ナニ、この一座が吉野から来たという話から、先ごろ修験者に身をやつしての諸国遍歴、かの密使の公家になぞらえた座頭の芝居、最前まで楽しんでいただけの事。
長崎 ほう。芝居、にござりまするか?
道誉 左様、芝居にござります。 長崎 ハハハハハ。道誉殿の相変わらずのご酔狂、げに面白き婆娑羅なお人よ。
糟屋 (なお承服しかねる様子で女に)ではその座頭は、一体どこに?
  答えられずうつむき続ける女たち。ややあって道誉
 道誉 オオ、そう言えば、次なる舞の奉納先に一足先の出立とやら、オオ、確かその様に申しておった。……ノウ、そうではなかったか?
梅夜叉 (咄嗟に辞儀し)ハイ、左様にございます。
  道誉ひそかに思い入れる(梅夜叉の反応に、松阿弥の正体を確信する)。元に戻って長崎たちに向き直り
 道誉 見逃してとりたてて惜しい役者 ── という訳でもござらぬ。ご両所もそう気になさらず、女どもの猿楽舞を楽しまれるがよろしゅうこざろう。……サァ、始めるが良い、女ども。
  女たち頷き合い、あらためて頭を下げる。
 楽人たち演奏を始める。女たち立ち上がり、鐘の前で舞を始める。しばしの舞。ほど良くして盆回る。
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6.秀吉による朝鮮侵攻
問い5:李氏朝鮮中期の状況について>6.秀吉による朝鮮侵攻
目次は こちら
6.秀吉による朝鮮侵攻
 豊臣秀吉は日本を統一した後、自信過剰になり中国の明を制圧する妄想に取りつかれました。その時、日本の武将たちはそれがどれだけ無謀であるか分かっても、表面的には誰も反対できませんでした。反対することは自分の城と領域を奪われ殺される危険があったからです。
 また、662年の百済の白村江の戦いで、唐と新羅の連合軍に倭国軍が大敗した930年前の記憶は、秀吉には伝わっていなかったものと思われます。
 以下、『韓国の歴史教科書』の83~84ページの「倭軍の侵入を撃退する」に従って、その要点を引用します。
【日本では豊臣秀吉が100年余りに渡る戦国時代の混乱を収拾し、統一を成し遂げた。その勢いに乗り、日本は20万の兵を動員して朝鮮を侵略した(1592・壬辰倭乱)。戦争にあらかじめ備えられなかった朝鮮は、戦争初期に日本軍を効果的に防げなかった。宣祖は義州に避難して明に援軍を要請した。日本軍は北上し続けて平壌を占領し、咸鏡道地方まで侵略した。
 しかし、義兵が起こり、李舜臣が導く水軍が勝利を繰り返して南海の制海権を掌握した。これにより全羅道の穀倉地帯を守り、日本軍の補給路を断つことができた。
 全国各地で起こった義兵は自分の故郷の地形に明るい点を利用し、日本軍に大きな打撃を与えた。戦乱が長期化すると、官軍は戦列を再整備して義兵部隊を官軍に編入させ、組織化した。明の援軍も戦争に加わり、様相が変わった。朝明連合軍は平壌城を奪還し、官軍と民衆が一致して幸州山城などで日本軍をはね除けた。
 慶尚道の海岸地方に押し出された日本は休戦を提案した。朝鮮は訓練都監を設置して束五法を実施するなど戦列を整えた。火砲を改良し、鳥銃も造って武器の弱点を補完した。
 日本は休戦交渉が決裂すると再び攻撃を始めた(1597・丁酉再乱)。朝鮮と明の連合軍は稗山で日本軍の北上を防いで南に押し出し、李舜臣は鳴梁海戦で大きな勝利をおさめた。戦況が不利になった倭軍は、豊臣秀吉が死ぬと日本に撤収した。】
 以上が日本の朝鮮侵略の様子ですが、日本軍が初戦で無人の野を行くように進軍できたのは、火縄銃を持っており、朝鮮側にはその武器がなかったのが大きな理由だと言われています。
 しかし、援軍の明軍は火縄銃より火力が優れ直ぐに射撃できるポルトガル砲を持っており、日本軍を圧倒しました。朝鮮の李舜臣の水軍が日本の水軍に百戦百勝したのは、板屋船と言われる優れた戦船と射程距離の長い火砲を持っており、日本の水軍に遠くから攻撃を加えて日本に反撃する隙を与えなかったからであることが知られています。16世紀にはすでに銃や砲や戦艦の優劣が戦いの帰結を左右していたのです。
 続いて『韓国の歴史教科書』の84~85ページより引用します。
【壬辰倭乱は国内外に多くの変化をもたらした。朝鮮は日本の侵略を防ぐのに成功したが、長期間の戦争により多くの人々が殺され、飢饉や病気によって人口が大きく減った。土地台帳や戸籍のかなりの部分がなくなって国家財政が窮乏し、農村が荒廃して食料も不足した。倭軍の略奪や放火により仏国寺をはじめ多くの文化財が失われ、数万人が日本に捕虜として連行された。
 (中略)
 日本でも戦争を起こした豊臣政権が崩れて新しく江戸幕府が開かれた。しかし、日本は戦争中に朝鮮から略奪した様々な書籍や活字、絵画などを通じて性理学をはじめ学問や文化、芸術で発展を遂げることができた。特に朝鮮から連行してきた陶工により、陶磁器の技術を大きく発展させた。】
 上の『韓国の歴史教科書』の「倭軍の侵入を撃退する」の記述は、ほぼ史実に従って記されており、他の歴史書と対比しても特に誤りや隠蔽はなく、簡潔に要点を記しています。)
 また、江戸幕府を開いた徳川家康は、大軍を率いて九州まで出向いて朝鮮出兵の準備はしていましたが、朝鮮侵略軍には加わっていませんでした。このことは、その後に日本の覇者になり、朝鮮との関係修復に役立ったと思われます。)
 さらに、前掲書に記されているように、萩焼・有田焼・薩摩焼など西日本各地の焼物の多くは、朝鮮人陶工が始めたものであるとされています。)
 しかし、日本の焼き物の開始年代を調べてみると、『日本歴史・第1巻』の「日本列島の成立と狩猟採集の社会」の45ページには、次のように記しています。
[古本州島では青森県大平山元Ⅰ遺跡の無文土器を最古例として世界最古級の土器(1万6000~1万5000年前)が出現し、それ以降連綿と土器文化が継続するため、この段階から縄文時代に移行することになる。東アジア各地では、中国南部や南シベリア・極東等の一部の地域で、更新世末のこの時期に相互に独立して最古級の土器が出現するが、これら東アジアの土器文化はそれらの地で継続した痕跡が確認できないのに対して、古本州だけが土器文化の継続性を有している点で注目される。]
 すなわち、日本列島では1万5000年前頃から、土器が継続して連綿と出土しているのですが、満州や朝鮮や中国を含んだ地域においは、そうではないのです。
 一方、『概説韓国考古学』の「第3章 新石器時代」の43ページには、次のように、記しています。
[韓半島の新石器時代のはじまりを土器の登場とともに定義するならば、済州島高山里遺跡であり、紀元前6300年頃日本で噴火した火山灰より下の最下層から、東北アジア新石器時代草創期の特徴を示す土器と石器が発見されているのが注目される。(中略)しかし、このような遺物は済州島のみで発見されており、旧石器時代の終息から紀元前5000年ころまでの長い時間に存在する確実な資料は、ほとんど何も知られていない。]
 また、前掲書の45ページには、韓半島における土器に関して、次のように記しています。
[韓半島を含む東北アジアの新石器時代の土器は、表面に沈線文で装飾した土器が登場し流行する紀元前4千年紀中頃を基準に、大きく二時期に分かれる。韓半島の新石器時代もやはり、紀元前3500年頃に沈線文土器が拡散する以前と以後の段階に分けることができる]]
 朝鮮半島で土器が出現するのは紀元前4000年以降であり、日本列島各地で造られ使われていた時期から見て、1万年ほど朝鮮半島での土器の生産・使用開始が遅れていたことが分かります。
 以上のことから、土を捏ねて壺形にし、これを焼いて器を作る技術は朝鮮半島から伝達されたものでないことは確実にいえます。
 また、https://jpn-wabisabi.com/jp/japan-tougei/には、日本の焼き物に関して、次の記述があります。
[弥生土器:弥生時代(紀元前10世紀頃-紀元後3世紀中頃)には、弥生土器と呼ばれる、薄くて堅い土器がつくられるようになりました。 須恵器(すえき):古墳時代(3世紀中頃-7世紀頃)中頃から平安時代(794年-1185年)にかけて、須恵器(すえき)と呼ばれる、陶質の土器がつくられるようになりました。別名、祝部土器。渡来人からもたらされた技術で、穴窯を用いて1200度くらいの高温で焼くのが特徴です。青黒色をしています。ろくろを用いて制作することもありました。
 奈良三彩(ならさんさい):奈良時代(710年-794年)から平安時代にかけて、中国(当時の唐)で作られていた「唐三彩」を模した、奈良三彩と呼ばれる焼き物が制作されました。正倉院に残されている「正倉院三彩」は、奈良三彩の代表的な作品です。]
 日本の弥生時代は、朝鮮半島では古朝鮮の時代から漢帝国による直接統治の時代です。その時代から日本には弥生土器といわれる薄くて堅い土器がつくられていました。
 また、日本の古墳時代は4~7世紀で、韓半島では新羅が弁韓諸国を併合するために攻撃を仕掛けている時期に当たります。その時に新羅の攻撃を逃れて日本へ渡来した弁韓などの人々の集団の中に、陶工が居たものと推測され、それ以降日本で須恵器が造られるようになったものと思われます。彼らは韓半島を追われて、あるいは自らの意志で日本列島へ渡り、そこで安住の地を見つけて、現在の日本人の一部となったのです。
 さらに、「日本は朝鮮から略奪した様々な書籍や活字、絵画などを通じて性理学をはじめ学問や文化、芸術で発展を遂げることができた」との記述が『韓国の歴史教科書』にあり、その通りの面があるといえますが、日本の学問や文化の発展は、それだけの影響ではないと思います。
 例えば、『倭国伝』の「倭人」の条には、240年に倭の女王卑弥呼が魏の明帝から倭王に任命され、黄金・白絹・錦・毛織物・刀・鏡を賜り物としてもらった時、倭王は使いに託して上奏文を奉ってお礼を言っていることが記されています。このことは240年時点で、倭国には漢文で上奏文を書ける人がいたことを示しています。
 また、中国の正史である『宋書』の「巻九十七・夷蛮」の倭国の条には、425年に宋の太祖文帝に、倭王の賛が使者を遣わして上奏文を奉り、倭の産物を献上したことが記されています。日本では引き続いて五世紀に漢文の上奏文を書ける人が存在していたのです。
 さらに、秀吉の朝鮮侵略の900年以上も前から、遣隋使や遣唐使として、先進国である隋や唐の先進技術や文化を求めて、600年頃から894年のおよそ300年間、計23回に渡り日本から遣わされて、たくさんの若者が海を渡って唐から学んでいます。日本からの遣唐使には、留学生や学問僧なども加わり、多いときには約500人におよぶ人々が4隻の船に乗って渡海しました。遣唐使たちは、多くの書籍やすぐれた織物や銀器・陶器・楽器などを数多く持ち帰り、また、唐の先進的な政治制度や国際色豊富な文化を持ち帰り、当時の日本に多大な影響を与えました。中でも知識・情報に対する貪欲さはすさまじく、皇帝から下賜された品々を売り払って、その代価ですべて書籍を購入して積み帰ったと唐の正史に記されるほどでした。
 例えば、政治制度では、日本の律令制として唐の制度を見倣って近江令が668年ごろ制定され、飛鳥浄御原令が689年に制定され、本格的な律令法典として大宝律令701年制定されています。一方、朝鮮の統治体制を法制化した『経国大典』は1470年に公布されており、法治国家としては日本が朝鮮よりも769年も早く体制を整えています。
 文字に関しては、漢字を表音文字として使い、日本語の文字表記ができる万葉仮名は、652年以前の出土した木簡に記されており、書籍としては712年に記された『古事記』や720年に完成された『日本書紀』や『万葉集』に使われています。この万葉仮名はその後「ひらがな」と「カタカナ」に変化して発展し、両者とも現在まで使われています。
 一方、朝鮮には自国の言葉を表記する文字がなく、朝鮮語は文字表記できませんでした。朝鮮の文字は漢文がそのまま使われていたのです。ようやく1446年になって、朝鮮語を表記するハングル文字を李氏朝鮮の第4代国王の世宗が「訓民正音」の名で公布したとされています。自国の言葉を表記する文字を持ったのは、朝鮮は日本の約790年も後になります。
 上に記したように、朝鮮から教えられたものがあることを否定はしませんが、文字や法体系のように日本が唐などから導入し、朝鮮よりも約700年も早期に、それを基礎にして自ら発展させたものも有ることは事実です。また、朝鮮は漢文のように中国から導入したものをそのまま使用していたようですが、日本は必要に応じて実情に合わせて、改変して採用していました。また、日本では性理学は広がりませんでした。
 その意味で、『韓国の歴史教科書』に「日本は戦争中に朝鮮から略奪した様々な書籍や活字、絵画などを通じて性理学をはじめ学問や文化、芸術で発展を遂げることができた」と記されているのは、それ以前に日本に存在していた多くの焼き物を含む日本文化や芸術や政治制度および文字などの歴史を、韓国の教科書編纂者が知らないのかもしれません。
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groyanderson · 4 years
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ひとみに映る影 第五話「金剛を斬れ!」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 段落とか誤字とか色々とグッチャグチャなのでご了承下さい。 書籍版では戦闘シーンとかゴアシーンとかマシマシで挿絵も書いたから買ってえええぇぇ!!! →→→☆ここから買おう☆←←← (※全部内容は一緒です。) pixiv版
◆◆◆
 ポーポーポポポーポポポー…
 「こちらは、熱海町広報です。五時になりました。 よい子の皆さん、気をつけてお家に帰りましょう…」
 冬は日が沈むのが早い。すっかり暗くなった石筵霊山では、 防災無線から地元の小学生の声と、童謡『ザトウムシ』の電子リコーダー音だけが空しく響いている。 一方、霊山中腹に建つ廃工場ガレージで、私は…
 「ピ��ィェェェーーーーッ!!!」  「紅さん、落ち着いて下さい!」  「うっちゃあしぃゃあぁあーーー!!こいつがあ!鼻クソッ!殺人鬼のクソ!私の口、口にッ! お前も間接クソ舐めろゲスメド野郎おぉぉ!!こねぁごんばやろがあぁぁあああああああ!! キエェェーーーーッ!!」
 その時私は言葉にならない奇声を上げながら、皮を剥かれた即身仏ミイラに向かって、半狂乱で錆びついたグルカナイフを振り回していた。 そこそこ大柄な譲司さんや、ガタイの良いアメリカ半魚人男性の霊を憑依したイナちゃんに取り押さえられていたにも関わらず、 どこから出ているかわからない力で、ミイラをジャーキーになるまで切り刻もうと試みていた。
 そのまま体感二分ほど暴れ、多少ヒスが冷却してきた頃か。 突然ガレージ外からオリベちゃんがツカツカと近寄ってきて、
 「!」
 私の顎を強引に掴み上げた。 ラメ入りグロスを厚く塗られた彼女の唇が、私の唇に男らしく押し当てられる。
 「んっむ…オ…オリベちゃん…!?」  <同じライスクッカーからゴハンを食べる、それが日本流の友情の証だそうね> 同じ釜の飯を食う?まさか、彼女も見てたのか。あの衝撃的なサイコメトリー回想を。 それでいてなお…私の汚い口に、キスを…?  <それが何?子育てしてたら鼻吸いぐらいよくやる事よ。 だぶか(『逆に』を意味するヘブライ語のスラング)、これであなたも私のベイビー達の鼻水と間接キスしちゃったわね!> 嘘つき。今時医療機器エンジニアが、だぶか鼻吸い器も使わずに育児するわけがない! 私の思っている事を読み取った彼女が、テレパシーで優しい嘘をつきながら私を抱きしめてくれたんだ。  「お…お母さぁん…!」 これが人妻の魅力か。さりげなくナイフは没収されていた。
 <ほらジャック、あんたもよ!>  「は!?」 次にオリベちゃんは、イナちゃんの肉体からジャックさんを引っ剥がして私に宛がった。 互いの唇が触れ合っている間、ジャックさんのコワモテ顔がみるみる紅潮していく。  「ぶはッ!」 唇が離れると、ジャックさんは実体を持たない霊魂にも関わらず、息を吸う音を立てた。 そして赤面したままそっぽを向いてしまった。  「や…やべえ、俺芸能人とキスしちまった…!」 たぶん彼は例のサイコメトリーを見ていないんだろう。ちょっと悪い事をした気分だ。
 しかしオリベちゃんは既に譲司さんまでも羽交い絞めにしていた。  <コラ怖気づくんじゃないわよ!> 譲司さんは必死に抵抗している。  「そうやなくて!さすがに俺がやるとスキャンダルとかがあかんし…」  <男でしょおおおおおおぉぉぉ!!?>  「ハイイィィィィ!!!」 次の瞬間、譲司さんはとても申し訳なさそうに私と接吻を交わした。 そのまま何故か勢いでリナやポメちゃんともチューしちゃった。
 全員が茫然としていると、いつの間にか意識を取り戻していたイナちゃんが私を背後から押し倒した。  「きゃっ!イナちゃん!?」  「みんなだけズルい!私もチューするヨ!」 そ、それはまずい!私はプロレスの手四つみたいな姿勢でイナちゃんを押し返そうとする。  「違うのイナちゃん!これにはわけが…うわーっ!!」 しかしなす術なく床ドンされ、グラデーションリップを精巧に塗られた彼女の唇が、私の唇に男らしく押し当てられる。
 互いの唇が離れるのを感じて私は薄目を開けると、 目の前ではイナちゃんが『E』『十』の手相を持つ両手の平を広げていた。  「これ。ロックサビヒリュのシンボル」 肋楔の緋龍。さっきサイコメトリー内で、肉襦袢の不気味な如来が言っていた言葉だ。 どうして彼女がそれを?  「…見てたの?」  「意識飛んで、暗いトンネルでヒトミちゃんとヘラガモ先生追いかけた。 そしたらアイワズが、赤ちゃんのヒトミちゃんに悪さしてた」 アイワズ?もしかして、あの肉襦袢の事?イナちゃんは何か知っているのか…。
 すると突然ポメラー子ちゃんが「わぅ!」と小さく鳴き、動物的霊感で床に散らばった半紙の一枚を選んで口に咥えた。 そのまま彼女はそれを私達の足元に置く。半紙には『愛輪珠』と書かれていた。  「これ、小さい頃私が書いたやつ…!」  「愛輪珠如来(あいわずにょらい)…」 譲司さんが呟いた。その語感は、忘れ去っていた私の記憶の断片とカチリと噛みあった気がした。
 イナちゃんも、別の半紙を一枚拾い上げる。あの『E』『十』が書かれた半紙を。  「私、悪いものヒキヨセするから、 子供の頃から、韓国で色んな人見てもらってた。 お寺、シャーマン、だめ。気功行った、教会で洗礼もした。だめだった。 でも幾つかの霊能者先生、みんな同じ事言うの…コンゴウの呪いは誰にも治せないて」 私と譲司さんが同時にはっとする。 金剛…愛輪珠如来に続いて、またイナちゃんの口からサイコメトリーと合致するキーワードが飛び出した。
 「まえ、気功の先生こっそり教えてくれた。地面の下はコンゴウの楽園あって、強い霊能者死ぬとそこ連れて行く。 アジアでは偉い仏様なアイワズが仕事してて、才能ある人間見つけると、 その人死ぬまでにいっぱい強くなるように、呪いかけていっぱい霊能力使わせる。 私のロックサビヒリュもそれで付けられた。 それ以上は私あまり知らない。たぶん誰もよく知らないこと思う」 地底に金剛の楽園?まるで都市伝説みたいだ。 でも、その説明を当てはめれば、愛輪珠如来と赤僧衣がしていた会話の意味が、なんとなく理解できる。
 「なんだそりゃ。じゃあお前の引き寄せ体質は、呪いとやらのせいだったのか?」 ジャックさんの眉間に微かな怒りのこもった皺が寄った。  「うん。私、本当は悪い気をよける力使いヨ。でも心が弱ると、ヒリュが悪さするんだ!」 イナちゃんは悪霊を引き寄せた時と同じように、両手をぎゅっと固く握り合った。 今の私達はもう、この動作の意味を理解できる。 これはキリスト教的なお祈りのポーズじゃなくて、両掌に刻まれた呪いを霊力で抑えこんでいたんだ。
 「…ねえアナタ」 突然リナがイナちゃんに問いかける。  「高校生ぐらいよね?年はいくつ?」  「オモ?十六歳だヨ」  「1994年生まれ?」  「そだヨ」
 リナは暫く神妙な顔つきで何か考え、やがて口を開いた。  「どうやら、アナタにも…いいえ。 もうこの際、この場に集まった全員に知る権利があるわね」 そして顔を上げ、私達全員に対して表明した。  「紅一美と即身仏、そして倶利伽羅龍王について。アタシが知ってる事洗いざらい話すから、よく聞きなさい」
◆◆◆
 1994年、時期は今と同じく十一月頃。アタシは紅一美という少女によって生み出された。 いや、正確には、アタシは石筵霊山に漂う動物霊の残骸をアップサイクルした人工妖精だ。 当時はまだ、リナという名前も人間じみた知性も持っていなかった。
 アタシは与えられた本能に従って、自分を本物の鳥だと信じて過ごしていた。 そんなある日、金色の炎を纏った大きな赤い蛇に襲われて、食べられそうになった。 アタシはソイツを天敵だと見なして、無我夢中で抵抗した。
 結論を言うと、ソイツはこっちが情けなくなるぐらい弱っちかった。 というより、戦う前から手負いだったみたい。 返り討ちされたソイツは、アタシを説得するために知能を与えて、こう語りだした。
 「俺様は金剛の魂を金剛の楽園へ導く緋龍、その名も金剛倶利伽羅龍王だ。 本来ならお前如き軽くヒネってやれるが、今の俺様は裏切り者に大事な法具を盗まれ、満身創痍なのだ。 お前を生み出した者の家から金剛の赤子の肋骨を持ってきてくれるなら、お前の望みを一つ叶えてやるぞ」 そこでアタシは、そのクリカラナントカと名乗ってきたソイツに、人間になりたいと祈った。 知能を授かって、自分が人工の魂だと知ったとき、自分も霊魂を創って生み出してみたいと思ったからだ。 でもクリカラは、「今の俺にそこまでする力はない」と言って、アタシの顔だけを人間に変えた。
 アタシは肋骨を取り返しに行く前に、まず人里に降りる事にした。 一刻も早く人間の世界を知りたかったから。それに、人間の顔をみんなに自慢したかったからだ。 ところが霊感のある人間達は、みんなアタシを見ると笑った。クリカラはアタシに適当な顔を着けたのだと、その時初めて知った。 だからアタシは腹いせに、クリカラの目論見を全て『裏切り者』にチクってやろうと考えた。
 改めて自分が生み出されたガレージに戻ると、アタシは��めて内部に仕組まれたトリックアートに気付いた。 そのガレージ内は、なまじ霊感の強い人間が見ると、まるでチベットの立派な寺院みたいに見える幻影結界が張られていたの。 緑のトタン壁や積み上がった段ボールは、極楽絵図で彩られた赤壁とマニ車に。 黄ばんだ新聞紙の上に砂だらけの毛布が敷かれただけの床は、虎と麒麟があしらわれた絨毯に。 中央に置かれた不気味なミイラは、木彫りの立派な観音菩薩像に。 人間の霊能者並の知性と霊感を得たアタシにも、それは見えるようになっていた。
 すると、漆塗りのローテーブル、もとい、ベニヤ板を乗せたビールケースの上で物書きをしていた小さい子が、元気よく立ち上がった。頭は丸坊主だけど女の子だ。 その子に…一美によって生み出されたアタシには、女の子だとわかった。  「書けた!和尚様、書けましたぁ!」 幼い一美は墨がついた手で半紙を掲げる。そこに書かれているのは少なくとも日本語じゃない、未知の模様だ。 すると観音像から白い気体が浮かび上がり、とたんに人間形の霊魂になった。
 「あぁ…!」 思わず感嘆の息が漏れた。その霊魂は、結界内の何よりも美しかったのだ。 赤い僧衣に包まれた、陶器のような滑らかで白い肌。 まるで生まれつき毛根すらなかったかのような、凹凸や皺一つない卵型の頭部。 どの角度から見ても左右対称の整った顔。 細くしなやかで、かつ力強さをも感じ取れる四肢…。 これこそ真の『美しい人』だと、アタシはその時思い知った。 和尚、と呼ばれたその美しい人は、天女が奏でる二胡のような優雅な声で一美と会話したのち、アタシに気付いて会釈をした。
 一美が昼寝を始めた後、その美しい人はアタシに色々な事を語った。 その人の名前は金剛観世音菩薩(こんごうかんぜおんぼさつ)、生前は違う名を持つチベット人の僧侶だったらしい。 金剛観世音…(ああ、面倒ったらしいわ!次から観音和尚でいいわね!)は生前、 瞑想中に金剛愛輪珠如来と名乗る高次霊体と邂逅した。 その時、如来に自分の没後全身の皮膚を献上するという契約を交わし、悟りを開いて菩薩になった。 皮膚を献上するのは、死体に残留した霊力を外道者に奪われなくするためだと聞かされて。 だけど、実際はその如来や、如来を送りこんできた金剛の楽園こそ、とんでもない外道だったの。
 イナちゃんが話していた通り、愛輪珠如来はアジア各地の霊能者に、苦行という名の呪いや霊能力、特殊脳力を植えつけていた。 しかも金剛の者達は、素質のある人間は善人か悪人かなんてお構い無しに楽園へ迎え入れる方針だった。 それこそ、あの殺人鬼サミュエル・ミラーだって対象者だった。 そして、サミュエル・ミラーが水家曽良となって日本に送られてくると、 金剛の楽園で水家の担当者は愛輪珠如来になった。
 だけど、愛輪珠如来と幽体離脱した観音和尚が水家の様子を検めた時、水家はNICの医師達によって、既に脳力や霊能力を物理的に剥奪されていた。 そこで如来は、水家と同じ病院で生まれた一美に、水家の霊能力を無理やり引き継がせたの。 それだけじゃ飽き足らず、一美の肋骨を一本奪って、それを媒介に、呪いの管理者である肋楔の緋龍を生み出すよう観音和尚に指示した。 観音和尚はここで遂に、偽りの仏や楽園に反逆する決意をしたのよ。
 彼は如来の指示に従い、石英を彫って、緋龍の器となる倶利伽羅龍王像を作った。 但し、一美の代わりに自分の肋骨を自ら抜き取って、それを媒介に埋め込んだ。 この工作が死後金剛の者達に気付かれないように、彼はわざわざ脇腹の低い所を切って、そこから自分の体内に腕を潜らせて肋骨を折ったの。 そして一美の肋骨は、入れ替わりに自分の体内に隠した。
 観音和尚は脇腹から血を流したまま七日七晩観音経を唱え続けた後、事切れて即身仏となった。 すると即座に生死者入り混じった金剛の者達が現れ、契約通り彼の遺体から生皮を剥いでいった。 霊力を失い、金剛の楽園にとって価値がなくなった遺体は、心霊スポットとして名高い怪人屋敷のガレージに遺棄されたわ。
 一方何も知らないクリカラは、一美のもとへ向かっていた。 そして一美に重篤な呪いをかけようとしたその瞬間…突然力を失った! クリカラが自分の肋骨は一美のものではないと気付いた時にはもう遅かったわ。 仕方なくクリカラは、一美を呪う事を一時断念して、金剛の楽園へ退散した。
 観音和尚はアタシに以上の事を打ち明けると、穏やかな顔で眠る一美の頬をそっと撫でて、続きを語った。
 没後、裏切り者として金剛の楽園から見放された観音和尚は、怪人屋敷に集う霊魂や人工精霊達に仏の教えを説いて過ごしていた。 そして四年の歳月が流れた1994年、彼のもとに、不動明王に導かれし影法師の女神、萩姫が現れた。
 「どういうわけか、金剛倶利伽羅龍王が復活しました。 龍王は県内各地のパワースポットを占拠して力を得ています。 一美は私達影法師にとって大切な継承者ですが、磐梯熱海温泉を守る立場の私は龍王に逆らえません。 どうか彼女を救うのを手伝って下さい」
 これはアタシの想像だけど…クリカラは同時期韓国で、新たな金剛のターゲット、イナちゃんから力を奪ったんじゃないかしら。 萩姫に導かれ、観音和尚が猪苗代の紅家に向かうと、一美の胸元には確かに緋龍のシンボルが浮かび上がっていた。
 観音和尚と一美の家族は協力してクリカラを退けたが、少ない霊力を酷使し続けた彼の魂はもう風前の灯火だった。 クリカラが完全に滅びていない以上、一美がいつまた危険に晒されるかわからない。 だからアナタの両親は、アナタを一人前の霊能者にするために、観音和尚に預けたのよ…。
◆◆◆
 「以上、これがアタシの知っている事全て」 リナは事の顛末を語り終えると、改めて全員と一人ずつ目を合わせた。 私をさっきまで苦しめていた色んな感情…不安や悲しみ、怒りは、潮が引くように治まってきていた。  「この話、本当なら、アナタが二十歳になった時にご両親が話す予定だったの。…ていうか、明後日じゃないの。アナタの誕生日。 はっきり言って、観音和尚はアナタの友達が猪苗代湖で騒ぎを起こした頃には既に限界だったわ。 だから彼は最後に、アタシを猪苗代へ遣わせたの。 それっきりよ。以来、二度と彼を見ていないわ…」
 数秒の沈黙があった後、私は口を開いた。  「リナにとって…観音寺や和尚様は、美しかったんだよね?」 物理脳を持つ人間と違い、霊魂は殆ど記憶を保てない。 だから彼らは自分にちなんだ場所や友人、お墓、依代といった物の残留思念を常に読み取り、 そこから自分の自我目線の思念だけを抽出して、記憶として認識する。 リナがこの観音寺を美しいと表現したのは、単に私の記憶を鏡のように反射しただけなのか、それとも…。  「少なくとも、この場から思い出せる景色を見て、今アタシは美しいと感じたわよ」  「…そうなんだね」
 お蕎麦屋さんの予約時間はもうとっくに過ぎているだろう。 けど、私は皆に一つお願いをした。  「すいません。十分…ううん、五分でいいんです。 ちゃんと心を落ち着かせたいので、少しだけ瞑想をしてもいいですか?」 皆は黙ったまま、視線で許してくれた。  「わぅ」 構へんよ。と、ポメラー子ちゃんが代表して答えた。
 影法師使いの瞑想は、一般的な仏教や密教のやり方とは少し異なる。 まず姿勢よく座禅を組み、頭にシンギングボウルという真鍮の器を乗せる。 次に両手の親指と人差し指の間に、ティンシャという、紐の両端に小さなシンバルのような楽器がついた法具をぶら下げる。 その両手を向かい合わせて親指と小指だけを重ね、観音様の印相、つまりハンドサインを作れば準備完了だ。
 瞑想を始める。目を瞑り、心に自分を取り囲む十三仏を思い描く。 仏様を一名ずつ数えるように精神世界でゆっくりと自転しながら、じっくり十三拍かけて息を吸う。  「スーーーーーー…………ッフーーーー…………」 吐く時も十三拍で、反対回���に仏様と対面していく。 ちなみに一拍は約一.五秒。久しぶりにやったけど、相当きつい。肺活量の衰えを感じる。 でも暫くすると…。
 …ウヮンゥンゥンゥン…ヮンゥンゥンゥン…
 <何?何の音!?>  「この1/f揺らぎは…ああっ!紅さんや!」 私の頭上のシンギングボウルが一人でに揺らぎ音を奏ではじめ、皆がどよめいた。 実はこれは、影法師を操るエロプティックエネルギーという特殊な念力によるものだ。
 …ワンゥンゥンゥン…ヮンゥンゥンゥン… テャァーーーーーン…!
 息苦しさと過度の集中力が私の体に痙攣を引き起こし、時折自然とティンシャが鳴る。 波のように揺らぎ、重なり合った響きが、辺り一帯を荘厳な雰囲気で包み込む。 その揺らぎを感じて、私も精神世界で変化自在な影になり、万華鏡のように休みなく各仏様の姿に変形し続けている。 私は影、私は影法師そのものだ。完全黒体になれ。 そして心まで無我の境地に達した時、この身に当たる全ての光を吸収し…放出する!
 テャァーーーーーン…!
 「オモナ…すごい!」 そっと目を開ける。眼前に広がる光景は、もはやガレージ内ではない。  「そうか。ここが…あんたが信じ続けた故郷なんだな」 今ならイナちゃんやジャックさんにも見えるようだ。 懐かしい赤と真鍮のお御堂。窓辺から吹き抜ける爽やかな風。 そのお御堂の中心で、とりわけ澄んだ空気を纏って立つのは、仙姿玉質な金剛観世音菩薩像…和尚様。 そして、頭と両手に法具を置き、和尚様とお揃いの赤い僧衣を纏った私。 ここは、石筵観音寺。私が小さい頃住んでいたお寺だ。
 『よく帰ってきましたね』 和尚様の意思が聞こえた。声でもテレパシーでもない、もっと純粋な波動で。 彼はまだ滅びていなかったんだ。  「あの…私達、申し訳ありません。和尚様の記憶、見ちゃって…それで…」  『一美』
 和尚様は私の両手を取り、彼の胸の中に沈めた。ティンシャが「チリリリ」とくぐもった音をたてた。 心なしか暖かい胸の中で、私の手に棒のようなものがそっと落ちてきた。 両手を引き出してみると、それは細長い小さな骨…赤ん坊の頃に失われた、私の肋骨だった。 顔を上げると、和尚様の優しくも決意に満ちた微笑みが私の網膜に焼きつき、瞑想による幻影はそこで分解霧散した。
 『行くのです』 彼は成仏したんだ。
 次の瞬間、私達を取り巻く光景は薄暗いガレージに戻っていた。 でも、今のはただの幻影じゃない。和尚様のお胸には穿ったような跡が残っている。 私が握っていた肋骨はいつの間にか、何らかの念力によって形を変えていた。  「これは…プルパ」  <プルパ?> オリベちゃんが興味津々に顔を寄せる。  「私知てるヨ。チベットの法具ね。 煩悩、悪い気、甘え、貫く剣だヨ」 イナちゃんが私の代わりに答えてくれた。
 そう、プルパは別名金剛杭とも呼ばれる、観世音菩薩様の怒りの力がこもった密教法具だ。 忍者のクナイに似た形で、柄に馬頭明王(ばとうみょうおう)という怒った容相の観音様が彫刻されている。
 「オム・アムリトドバヴァ・フム・パット…ぐっ!!」 馬頭明王の真言を唱えてみると、プルパは電気を帯びたように私の影を吸いこみ…
 ヴァンッ!…短いレーザービームみたいな音を立てて、刃渡り四十センチ程の漆黒のグルカナイフに変形した。  「フゥ!あんた、最強武器を手に入れたな」 影を引っ張られてプルパを持つ手さえ覚束無い私を、ジャックさんが茶化す。  「武器って、私にこれで何と戦えって言うんですか!?…うわあぁ!」 途端、プルパは一人でに動き、床に落ちていた『金剛愛輪珠』の半紙にドスッと突き立った。  「ウップス…」 ジャックさんも思わず神妙な顔になる。 どうやら、和尚様は…本気で怒っているらしい。 憤怒の観音力で、私に偽りの金剛を叩き斬れと言っているんだ!
◆◆◆
 私達はガレージのシャッターをそっと閉じ、改めて公安警察内のNIC直属部署に通報した。 自分達はひとまず怪人屋敷内で待機。 譲司さんがお蕎麦屋さんにキャンセルの連絡を入れようとした、その時だった。
 カァーン!…カァーン! スピーカーを通した鐘の音。電話だ。譲司さんはスマホをフリックする。 案の定、画面に再びハイセポスさんがあらわれた。  『やあ、ミス・クレナイ。さっきはすまなかったね。 石筵にあんな素晴らしい観音寺があるなんて、僕は知らなかったのさ』  「いえ、こちらこそ取り乱してすみませんでした。 …あの光景、ハイセポスさんも見られてたんですね」  『おっと、幻影への不正アクセスも謝罪しなければいけないかね』 彼はいたずらっぽく笑った。
 『また電話を繋いだのは他でもない。ミス・リナの一連の話を聞き、一つ合点がいった事があってだな… ああ、その前に、アンリウェッサ。蕎麦屋の予約は僕が勝手にキャンセルしちゃったけど、構わないね?』  「え?あ、どーもスイマセン!」 譲司さんはスマホを長財布に立てかけようと四苦八苦しながら、画面に向かってビジネスライクな会釈をした。
 『実は僕には兄がいて、中東支部で彼も殺されたんだ。 だが彼はある時突然、「俺はこいつの脳内で神になってやる」とかなんとか言って、水家の精神世界で失踪してしまった。 それから暫く経ち、僕達NIC職員のタルパが兄を捕獲すると、彼はこう言ったのさ…「俺は龍王の手下に選ばれた、神として生きていく資格があるんだ」とね』  「龍王!?」  「どうして水家の脳内に!?」 私達全員が驚きにどよめいた。
 『そう、お察しの通り。君達の宿敵、金剛倶利伽羅龍王の事だろうさ。 龍王はなんでも、水家の脳内に蠢く『穢れ』を喰らっていたらしい。 そして僕の兄は、穢れを成長させるには沢山の感情が必要だから、あまりタルパを奪い尽くさないでくれとのたまったんだ』  「穢れ?」  『ジョージとオリベは知っているだろう』  「穢れ」譲司さんの額から汗が流れ落ちた。「…自我浸食性悪性脳腫瘍(じがしんしょくせいあくせいのうしゅよう)」 彼の口から恐ろしい言葉が飛び出した。
 自我浸食性悪性脳腫瘍。私も知っている病名だ。 通称タピオカ病とも呼ばれるそれは、脳に黒い粒々の腫瘍ができて、精神がおかしくなってしまう病気だ。 発病者は狂暴になって、自分が一番大切な人を殺したり、物を壊したりするという。 ただでさえ殺人鬼の水家がそれに感染していたとなると…恐ろしいの一言に尽きる。  『その通り、穢れとはタピオカ腫瘍だ。 本来は生きた人間を狂わす脳腫瘍だが、霊魂にそれを感染させれば、そいつは強力な悪霊と化す。 だから龍王は、水家の脳内に閉じ込められたタルパ達を、穢れた腫瘍粒に当てがっていたんだ。 悪霊をたらふく喰って強くなるためにね。兄はその計画にまんまと利用されていたのさ』
 ジャックさんが画面を覗きこむ。  「水家は、安徳森に俺達が救出された時には失踪していたんだよな? まさか、奴は今もどこかで、龍王のエサ牧場としてこっそり生かされ続けてやがるのか!?」  『そこまではわからない。だがこうは考えられないだろうか? 観音和尚の計らいで一たび力を失った龍王は、ミス・パクから霊力を吸収し、更に福島中のパワースポットを乗っ取って復活した。 すると金剛の楽園にとって因縁深い男、水家曽良を見つけ、更に水家の精神世界でタピオカ病という副産物を発見する。 彼は、水家の精神を乗っ取ってタルパを生ませ続ければ、ほぼ無限に悪霊を生み出し喰らえる半永久機関に気づいた。 そして自分が楽園で高い地位を獲得できるほど強大化するその日まで、フリードリンクのタピオカミルクティーを浴びるように飲み続けているのさ!』  「は、半永久にタピオカミルクティーを…アイゴー!」 イナちゃんが身震いする。いや、さ、さすがにそれは飛躍しすぎでは…。 とはいえ、この仮説が正しければえらい事だ。
 「けど…」 譲司さんがおずおずと手を挙げる。  「もし水家の脳内でそんな強い悪霊が育っとったら、霊感を持つ誰かが既に発見しとるのでは? 水家はNICの強力な脳力者捜査官がおる公安部だけやなくて、マル暴にも指名手配されとります。 俺の友人にも、マル暴で殉職した霊がいますが…そんな話聞いたことありません」  <そうね。悪霊説は無理があるわ。 それでもあの殺人鬼は一刻も早く見つけ出さないとだけど> オリベちゃんが同調した。
 私はその時、ふと閃いた。オリベちゃんといえば…  「そういえばオリベちゃん、ここに来た時、怪人屋敷の二階に気配がするって言ってましたよね?」  <え?…ええ。でも、一瞬だけよ。 ファティマンドラのアンダーソンさんを見つけた時には消えていたから、てっきりアンダーソンさんの霊だったんだとばかり…>  『二階?…ああ、でかしたぞオリベ!これは灯台もと暗しだ!』 突然、ハイセポスさんがはっとした顔を画面いっぱいに近寄らせた。  『誰か、そこの階段を上ってごらん。そうすれば大変な事実に気がつくだろう! ああ、僕達は今までどうしてこれを見落としていたんだ!!』
 画面内で心底嬉しそうにくるくる踊るハイセポスさんとは裏腹に、私達の頭上にはハテナマークが浮かんでいる。 とりあえず、私とオリベちゃん、ジャックさんで階段へ向かった。
◆◆◆
 階段脇には館内図ボードがあった。影燈籠で照らしてみると、この工場は三階建てのようだ。 ジャックさんがボードを指さしながら、水家と共通の記憶を辿る。  「そういや、水家が潜伏していたのも二階だったな。 二階はほぼ一階の作業所と吹き抜け構造で、あまり大きな部屋はないんだ。 ええと、更衣室、事務所、細菌検査室…ああ、そうだそうだ!あいつが占拠していたのは応接室だ。」  「じゃあ、二階の応接室に向かいましょう! 影燈籠は光源がない場所では使えないから…」 私とオリベちゃんはそれぞれスマホを懐中電灯モードにした。
 一つ上のフロアに出て、真っ暗な廊下を進む。 幾つかのドアをドアプレートを読みながら素通りしていくと、確かに『応接室』と書かれた部屋があった。 鍵は開いていたから、私達は速やかに入室する。
 室内を見渡すと、端に畳まれたパイプ椅子と長机、それに昔小学校などによく置いてあった、オーバーヘッドプロジェクターが一台見える。  <応接室というより、まるで工場見学に来た子供達向けの教室みたいね>  「水家の私物はもう警察が回収したんでしょうか?それより…」 それより気になる事がある。オリベちゃん、ジャックさんも同じ事を考えていたように頷いた。  「…この部屋、あいつの残留思念や霊がいた気配を全く感じねえ。 あいつが潜伏していたのはここじゃねえみてえだな」  「本当にここが応接室なんでしょうか?ドアプレートは誰でも簡単に付け替えられますよね」  <ええ。それに、さっきの廊下、広かったわよね? 左右どちらにも沢山ドアがあって。どこが吹き抜けだっていうの?>
 私達は改めて階段へ戻った。ここは…三階だ。  「二階が、ない!?」 私はまた階段を下ってみる。一階。上る。三階。 だからといって、一つ分フロアを隔てるほど長い階段じゃない。明らかに次元が歪んでいる!
 イナちゃんや譲司さんも含めて、一階の階段前に全員集合する。 私は外灯が当たる場所に移動し、影の中のリナに呼びかけた。  「あんたはどうだった?私絶対二階がなくなってたと思うんだけど…」  「そうね。アタシ、途中で外に出て壁から入ろうとしたけど、それもダメだった」  <でも、次元が歪むなんて事、本当にあるの? NICは心霊やエスパーの研究でも最先端だけど、人間がテレポーテーションする現象は見た事ないわ> オリベちゃんは欧米的にわざとらしく肩をすくめた。  「現代解明されとる量子テレポーテーションは、SFみたいな瞬間移動とは別物やしな。 だったら、逆の発想や…イナ」  「オモ?」 譲司さんはイナちゃんに、スマホで音楽をかけながら一緒に階段を上るよう指示する。
 『背後からっ絞ーめー殺す、鋼鉄入りのーリーボン♪』 ビクッ!…音楽が鳴り始めるやいなや、私は思わず身構えて、キョロキョロと周囲を伺った。 イナちゃん、よりにもよって、どうしてその曲を選んだんだ。  「あははは!ヒトミあんた、ビビりすぎよ!」  「う…うるさい、リナ!」 休みの日には聴きたくなかった声。 この曲は、私を度々ドッキリで連れ回す極悪アイドル、志多田佳奈さんのヒットソング『童貞を殺す服を着た女を殺す服』だ。タイトル長すぎ!
 『返り血をっさーえーぎーる、黒髪ロングのカーテン♪』  「歌うで、イナ…仕込みカミッソーリー入りの♪」  「「フリフリフリルブラーウス♪」」 二人は階段を上がりながら、暗い廃工場の階段というホラー感満載の場に似つかわしくないアイドルポップを歌う。 しかし、  「「あーあー♪なんて恐るべき、チェ…」」  『…リー!キラー!アサシンだ!』 二人は突然、示し合わせたようなタイミングで歌うのを止めた。 イナちゃんのスマホから、佳奈さんの間抜けな声だけが階下に響く。  「なんだあいつら。歌詞を忘れたのか?」 肩でリズムを取りながら、ジャックさんが見上げた。  <…待って。あの二人、意識がないわ!> オリベちゃんが異変を感知。慌てて彼らを追いかけようとすると、その時!
 「「…リー!キラー!アサシ…ん?」」  『わ・た・し・童貞を殺す服を着た女を…』  「オモナ?もうサビなの?」 彼らはまるで時を止められていたかのように、また突然歌いだした。 スマホから流れる音楽との音ズレに、イナちゃんが困惑する。  「やっぱりそうか。オリベ! 今から…ええと、ひーふーみー…八秒後きっかりに、俺に強めのサイコキネシスをうってくれ!」 何かに気付いている譲司さんは、そう言うと階段を下りはじめた。
 五、六、七…八!  <アクシャーヴ!>ビヤーーーッバババババ!!!  「わぎゃぁばばばばばば!!!死ぬ!死ぬーっ!!」 オリベちゃんの頭が紫色に光るのが傍目から見えるほど強烈なサイコキネシスを受け、譲司さんは時間きっかりに叫び声を上げた。  「げほっ、げほ…あーっ!ほら!行けたで、二階!皆来てみ!!」 少し焼けた声で譲司さんが叫ぶ。  「わ、わきゃんわきゃん!?」 飼い主の危機を察してポメちゃんが階段を駆け上がる。 私達もそれに続くと、途中で全員譲司さんに器用に抱きとめられ、我に返った。  「わきゅ?」  「あれ?」  「俺達、今…」
 「どうやらこの階段には、二階周辺を無意識に飛ばしてまう、催眠結界が張られとるみたいやな。 それならテレポートより幾分か現実的や。 ただ、問題は…これ作ったん誰で、どうやったら開けられるかって事やな…」 譲司さんが目線で、二階入口の鉄扉を指し示した。 そこには、白墨で複雑極まりないシンボルが幾つも丁重にレイアウトされて書かれた、黒い護符が貼ってあった。
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