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#ヒュパティア 後期ローマ帝国の女性知識人
misasmemorandum · 2 years
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『ヒュパティア 後期ローマ帝国の女性知識人』 エドワード・J・ワッツ 中西恭子 訳
原題は "HYPATIA The Life and Legend of an Ancient Philosopher"
邦題を「女性」知識人とせねばならないのは、日本におけるヒュパティアの知名度のためか、知識人イコール男性、後期ローマの著名人イコール男性という固定観念のためか。おそらくは、こういう風に考える事を促す意味もあるか。
Twitterで見て、後期ローマ帝国に女性の知識人がいたのか!とオロロいて図書館で借りて読んでみた。
ヒュパティアは355年頃生まれで、父親テオンが哲学者で数学者で史料がちゃんと残っている知識人。この時代は、子ども達の教育は、良い教師選びも含めて、母親がするものだったそうだ。かねがね我が母が、子どもの教育を決めるのは母親と言っているのだが、これ、歴史的にもグローバルな考え方なようだ。(p32)
この時代のエリート教育は、幼児期は乳母により「適切な言葉遣いの手ほどき」と「しかるべきふるまいの教訓となる覚えやすい物語の分析」が教えられて、「特権階級の女児は七歳になると、たいていは語学とエリートの一員と目されるにふさわしい基本的な礼儀作法を習いはじめた」そうだ。で、思春期には文法学を勉強して、「雄弁に自信の考えを主張する技術を培い、古代のもっとも有名な文学作品の基本的内容を身につける訓練に集中」。これが重要だった理由は、当時使われていたギリシア語は、書き言葉は古典期のギリシア語とほとんど変わらなかったが、アクセントの種類や発音が大きく変わっていたから。古文を勉強しないと文献が読めなかったって事だね。(以上p33)その後、修辞学の勉強。男子の場合は20歳くらいまで勉強できたけど、女子は10代のうちに終えることが多かった模様(p34)。そして、エリート教育の最高段階、正式な哲学の教程に行くと、天文学、幾何学、算術などやアリストテレスとプラトンの作品を修める。(p34)でも、女性には行政食などへの就業の機会はない(p37)。ま、そりゃそうやわな、と思ったり。
で、このヒュパティアはなんと惨殺されるんだけど、それが390年からキリスト教が台頭して来て、既存の多神教の信者であるヒュパティアが犠牲になった模様。この為にヒュパティアは有名なんだそうだ。
ちょっと戻って、ヒュパティアは教師として哲学と数学を教えていて、この時代の生徒は男子なので性的なことが問題視されたりしたみたいだが、ヒュパティア自身は独身生活を選び、いっさいの性的関係を忌避したそうだ。多くの哲学者にとって「性的関係は快楽を保証するものではなく、子どもを授かるためのものとして理解いていた」そうで、結婚してても子どもが生まれて家族が揃った後は夫婦であっても性的関係を持たなかったんだって(p100)。オロロき。だからギリシャの彫刻とか男子の性器が子どものもののように小さいんだなと思った。それが男子の理想像だと習ったが、こういうことだったんだな。
ヒュパティアを前後して女性の知識人で史実として残ってる人もいるんだって。面倒なのでここには名前を書き写しはしませんが(ははは)。で、ヒュパティア同様、公的な場所で男子に数学を教えていた人もいたそうだ。この女性と男性が混じるのが問題とされるのは、「女性は男性よりも情欲に敏感であるという古代の偏見があったため」なんだって。だから女性教師は「独身を顕示することが男性よりもはるかに重要」だったそうだ(p137)。女性に対する偏見、いつでもあるよな。
さて、訳者の後書きがとても良かった。
 資質に恵まれていても、傑出した家門の出身であっても、女性には男性と同じように公的な職務を担うことが許されなかった時代のことである。男性の著作家たちはしばしば、厳しい家父長制社会の制約と規範の下に生きる女性達を「記録に値する」傑出した存在とみなせば理想化して賞賛し、そぐわない存在とみれば軽蔑のまなざしをなにはばかることなく注ぎ、矮小化し、戯画化すらした。読者は、記録を残す立場にある自信と使命感をこめて往時の男性著作家が開陳する女性への毀誉褒貶のなかに、読者は二十一世紀の人からみれば受け入れがたい偏見を見いして慄然とすることもあれば、自身の内なる偏見と共振する感情を見いだすこともあるだろう(p210 一つ不必要な「読者は」があるね)。
そして、
 現代ではとうてい受け入れがたい偏見が史料を覆うとき、歴史家はどのようにふるまうべきなのか。理想化された人物像は、象徴して生きる道を選んだ人のありのままの姿としてうけとめることができるだろうか。史料の毀誉褒貶をそのままに再話して理想化された偶像や矮小化された人物像を描くのではなく、等身大の歴史上の女性をその釈迦の実相とともに描き出すためにはなにが必要なのか。現代の歴史家に課された倫理的課題に、「古代の女性たち」シリーズは果敢に挑み、本書も帝政後期ローマの社会における「知の歴史」と政治がきりむすぶ複雑な諸関係を継続的な研究課題としてきた研究者の視点から、みごとに答えている(pp210−211)。
これ本当難しいだろうな。この本の著者は男性なのだけれど、訳者が知るところの男性特有の女性に対する偏見を持った書き方を全くしていないと書いている。私はこういう本は特に後書を先に読むので、本文を読んで同意した。
全部を興味深く読めた訳ではないが、古代ローマの一般的か教育と、女子の教育についてなどを知れて良かった。以上
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nancy-sy · 2 years
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2022年1月のご案内
2022年1月のご案内 #今月のおすすめ本 #賄賂のある暮らし #福祉国家 #ナチ・ドイツの終焉1944-45 #ヒュパティア #ノブレス・オブリージュ #スターリン #中国ファクターの政治社会学
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jushosaku · 2 years
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