Tumgik
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彼は読書も好きだ。 彼がこの図書館に来たのは、それが興行中の大テントにいちばん近いから。サーカスではきびしい一週間だった。ライオン調教師が癇癪を起こして辞めてしまい、ライオンたちがずっと吠えつづけているからだ。ライオンたちは調教師を恋しく思い、他の誰もライオンたちをかわいがってやることはできない、だって何しろライオンなのだから。図書館にやってきた筋肉男は、ほっとして、そっと息をつく。
— エイミー・ベンダー著/管啓次郎訳「どうかおしずかに」(『燃えるスカートの少女』2003年5月、角川書店)
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『エセー』。 二週間くらい前から、妻は岩波文庫モンテーニュ『エセー』を読んでいる。「面白い。面白い」という。モンテーニュは、過去を振り返らない。先のことを考えない。いまを愉快に生きてゆくのがいいという考え方だという。そこのところが私の書いた『夕べの雲』と同じなのと妻はいう。『夕べの雲』(講談社文芸文庫)と同じとは有難い。
— 庄野潤三著『庭のつるばら』(2023年1月Kindle版、小学館P+D BOOKS)
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両手で支えた単行本に視線を落とし、こちらを向いてくる様子はない。本の重さに引っ張られて、いまにもよろけるのではないかと思ったが、彼女は直立不動を崩さなかった。薄く口が開いて動いているのは、本の内容をたどっているからだと分かる。荘一も読書に没頭するとたまにやる癖で、この熱中ぶりだと、女子はドアが開いたことにすら気づいていないようだった。
— 川崎七音著『完璧な小説ができるまで』(2023年6月Kindle版、メディアワークス文庫)
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ウインストン・チャーチルといえば、第二次大戦中イギリスの首相をつとめ、アメリカのルーズベルト、ソ連のスターリンと並んで三巨頭と称せられた大政治家である。 文筆家としても知られ、一九四八年から一九五四年にかけて執筆した『第二次大戦回顧録』六巻は、一九五三年度にノーベル文学賞を受賞したのだった。(中略) 暖炉の前でコナン・ドイルの作品などを読むのを趣味にした、大の探偵小説の愛好家でもあったのである。
— 山村正夫著『霊界予告殺人』(2019年9月Kindle版、講談社文庫)
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飲み会のない平日夜、用事がない日は、カフェに寄って読書するのが私の楽しみでした。(中略)とにかく何か飲んだり食べたりしながらゆっくり本を読むことは、なんだかんだ癒やされます。
— 三宅香帆著『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(2024年4月Kindle版、集英社e新書)
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ぼくは本を買っても、すぐには読まない。いつかまとまった時間をとれたときにゆっくり読もうと考えて、分厚い人文書や、複数冊で完結する長篇小説をレジにもっていく。 海岸沿いのカフェや、山荘や、海辺のホテル。 これまでの人生を振り返っても、そんなところで本を読んだ経験など一度もないのに、それでも頭のどこかには、そうしたバカンス先で、くつろいで本を開いている自分のイメージがある。
— 島田潤一郎著「団地と雑誌」(『長い読書』2024年4月、みすず書房)
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「僕は帰るさ。いろいろ読みたいものもあるしね。イギリスで出版された本を日本で買うほうが安いなんて変な話だ。それに風呂と便所が一緒になっている生活はやっぱり合わないね」
— 大野露井著「塔のある街」(『塔のない街』2024年2月、河出書房新社)
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July-August 心を落ち着けて、ぼんやりと本を眺める。 何も考えず、ただ風と波の音に耳を澄ます。好きなひと、好きな場所、沢山の好きなものたちを思い浮かべながら、ひとりで過ごす時間。
— 山本アマネ著「物語のはじまり」(『ものよむひと』2020年)
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いえ、わたし、あなたの詩が好きです。素晴らしいと思っています。わたし……いつか、宇宙に散らばったあなたの詩を集めて、詩集を作りたい、それが夢だったんです。あなたの詩には偽物も多く、その真贋を判定できる文学者はほんの数人しかいません。その人たちに師事したくて、無理をして銀河総合大学で学びました。そしてもっと無理をして、中央銀河市の出版社に就職したんです。
— 柴田よしき著『宙の詩を君と謳おう』(2010年3月Kindle版、光文社文庫)
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どうしても必要、というわけではなかった。二条の部屋を整理し、職場のデスクを整理し、また戻ってくる。部屋にあるCDや、読んでいない本を取りにいきたかったし、仕事の書類も整理しておきたかった。
— 中村航著『小森谷くんが決めたこと』(2017年10月Kindle版、小学館eBooks)
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世の中が騒々しく、すさんでいる時にこそ、一人心を落ち着け、戦争や年金や失業や憲法とは遠く離れた物語の世界を、旅したくなる。今、人間社会があれこれと大変なのは分かった。だからせめて夜のひとときくらい、本のページの静けさに心を泳がせる自由を、存分に味わいたいのだと、誰にともなく訴え掛けたくなる。
— 小川洋子著「異界を旅する喜びを味わう──『家守綺譚』」(『博士の本棚』2016年5月Kindle版、新潮文庫)
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二時間ばかりの後、帰宅してから為永春水の『春色梅美婦禰』をおもしろく読み、惜しみ惜しみ栞をはさんで、シャワーを浴びた。寝酒のシェリーもうまくて上機嫌で眠りについた。
— 丸谷才一著『輝く日の宮』(2013年4月Kindle版、講談社文庫)
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閉じた瞼を灼く光の眩しさに、私は眉をひそめて顔を背けた。 何度か細かな瞬きをして明るさに目を慣らし、ゆっくりと窓を見る。 細く開いたカーテンの隙間から真っ白な光が射し込んでいた。ゆうべは一時過ぎまで本を読んでいて電池が切れたようにベッドに入ったので、きちんと閉めきれていなかったらしい。
— 汐���夏衛著『ないものねだりの君に光の花束を』(2020年6月Kindle版、KADOKAWA)
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findareading · 13 days
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区役所通りには、新藤凉子さんという女性詩人がやっていた「トト」というお店があってね。講談社系の水上勉とか中村真一郎という人たちが来ていた。そこにバーテンと称して奥のほうで本ばかり読んでいる男がいてね。それがデビュー前の半村良だな。ママが店を空けるときは彼に任せて、後で営業日誌を書かせるんだけど、一から十までデタラメばかりだったという話だね(笑)。
— 種村季弘著「焼け跡酒豪伝」(『雨の日はソファで散歩』2010年7月、ちくま文庫)
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灰色の夜明けになっても彼女は片腕に頭をのせてまだ本を読んでいる。『ドン・キホーテ』でも、プルーストでも、他のどんな本でも──
— ジャック・ケルアック著/真崎義博訳『地下街の人びと』(平成9年3月、新潮文庫)
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同時に、そんな感覚の自分に不安を感じて、できるだけ一人の時間を増やした……本を開いては、答えを探すつもりで読みふけった。
— 瀬川雅峰著『辰巳センセイの文学教室 下 「こころ」を縛る鎖』(2021年5月Kindle版、宝島社文庫)
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findareading · 16 days
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ふと見ると、男性が座っていた座席に、文庫本が置いたままだった。手に取って確かめると「桐の花」──北原白秋歌集。なんとなく、栞の挟まっているところを開いてみた。
— 瀬川雅峰著『辰巳センセイの文学教室 上 「羅生門」と炎上姫』(2021年5月Kindle版、宝島社文庫)
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