Tumgik
celerydiary · 3 years
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ホワイト・レディ
東京を発つ前、最後に飲んだカクテルがホワイト・レディだった。ドライ・ジン、ホワイトキュラソー、フレッシュレモンジュースから作られるシンプルなショートカクテルである。気持ちのいい風が吹いている春の夜、行きつけのバーで大好きな友人とそれを飲んだ。カクテルグラスの華奢な足に持ち上げられた60mlほどの液体は淡く白濁し、独特な光を放っていた。上質なキュラソーがよく冷えているサインである。ひとくち飲むと、レモンの酸味が口を飛び越え身体中に広がった。酸味は味覚の中でも、味が伝わる速度と範囲において特別なもののように思われる。その時の酸味を、私は新境地に旅立つ自分の背中を押してくれる存在として受け取った。
私たちの頼んだカクテルは違う名前だったがよく似ていた。その日もいつもと同じように、店内には0.75倍速の時間が流れていた。きっと今も流れているんだろう。
Haruka iwami 2021.5.21 1:12
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celerydiary · 4 years
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打ちあがらない花火の広場
待ち合わせ場所はいつも打ちあがらないタイプの花火の広場だ。この場所は吉祥寺では定番の待ち合わせ場所である。アトレの1Fにある吹き抜けのスペースで、中心にはチープな煉瓦で覆われた太い柱がある。それを囲むように椅子や等身大のマネキンが配置されている。ここに置かれるものは季節に応じてカスタマイズされるが、それが絶妙にダサい。クリスマスのフォトブースや6月の無料レンタル傘などは突っ込みどころ満載であった。しかしなぜか、人を待つにはとてもいい場所だ。広場のどの方向から待ち人が来るのか知れない小さな緊張感と、入り口近くにある花屋の花やユニクロの広告が、日常の中で人を待つという代えがたい体験をきちんと作り出してくれている。
Haruka Iwami 2020.08.20 0:43 
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celerydiary · 4 years
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あまりにもいい風
あまりにもいい風が吹いている。カーテンがはためいて、外に呼ばれているような気持になる。最近は、梅雨に入る直前の時期だが、とてつもなくゆっくりと夜が来る。空の色はとても丁寧に昼から夜へ、青の種類を変えている。青の種類を変えた後、透き通った青のレイヤーは幾重にも重なっていく。そうしてできた完璧な夜空はとても深く、目の奥の部分にしみ込んでいくような素敵な色だ。 
 Haruka Iwami 2020.06.08 19:26
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celerydiary · 4 years
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ボタン状のものをプッシュすることについて
私はピアノを弾くよりもPCのキーボード��たたく方が得意だ。今のところ。
これはかなり不思議なことである。
私がピアノを習い始めたのは5-6歳の頃で、練習に不真面目すぎてやめたのは13歳くらいの時だった。約8年はピアノの鍵盤をたたいていたことになる。一方PCのキーボードをたたき始めたのは2016年のことでまだ4年も経っていないのではないだろうか。ピアノは鍵盤を見ないと弾けなかったのに、PCはキーボードを見ずとも文字を打つことができる。もしもキーボードの形のピアノがあったなら、私は上手に弾けていたんだろうか。
いや、きっと暇なんだな。
Haruka Iwami 2020/04/09/00:50
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celerydiary · 4 years
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コアラヘルシー
赤羽の飲み屋街にはごみ袋に入った生肉が置いてあるし、居酒屋にいると流しが来て最高の歌を歌ってくれた。駅前の信号を渡った人は皆イトーヨーカドーに吸い込まれていくし、6Fのわいわいランドでは老人たちがニコリともせず麻雀をに夢中になっていた。クリーニング店の看板は黒ずんで解読不可能だし、自動販売機のジュースが安すぎる。東京にはまだわたしが知らない場所がたくさんあると思った。
Haruka Iwami 2019.12.30
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celerydiary · 6 years
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ゴールデン・クリッパー
今日のショート・ショート・カクテルは「ゴールデン・クリッパー」
ラムをベースにドライジンとピーチブランデー、オレンジジュースをアレンジした黄金色のフルーティーカクテルです。
Hiromi Kimoto 2018.05.30
彼女は大学の同級生で、なぜ友達になったのか今となっては全く覚えがない。いつも一人で講義を受けている僕をみて、声をかけてきてくれたんだと思う。
お互いに同世代の若者がするように大人数でつるむよりも、図書館で本を読んでいる時間の方が好きなタイプだったからなんとなく居心地がよかったのだと記憶している。
僕らは読む本も、好きな作家もてんでばらばらだったけど、時々大学の図書館で会ってはとりとめもなく、最近読んだ本の話をした。
それらはたいていストーリーからはじまって、作者の思想や時代背景の話に至り、彼女の「どうしようもないのよ」という言葉で終わった。
彼女はフランソワーズ・サガンに憧れていて、女流作家特有の奔放さと、それと同時に発生する憂鬱みたいなものに深い尊敬の念があった。
“憂鬱" に尊敬なんておかしな話だけれど、悩んでいる女性が書く文章こそが最も魅力的であるということを繰り返し話しては、自身がその目指すべき憂鬱さを含む文章が書けないことを嘆いていた。
「私にだってそれなりに憂鬱に思うことや理不尽に思うことが人生においてたくさんあるんだけど、それを文章にしたとたんに薄っぺらくなってしまうの。経験が足りないとか、文章力が足りないというより、私という人間がそもそも平坦でつまらないって言われているようなそんな気分になるの。でもそれってどうしようもないのよ。もちろん彼のことも含めて。」
付け足しておくと、彼女には長い間好意を寄せている相手がいてその恋はもう何年も実っていなかった。
憂鬱で魅力的な文章のことも、恋愛のことも、彼女には今はどうしようもできないようだったから、僕らはいつだって好きなように好きな本の話をしては、「またね」といって別れた。
夏休みが終わって僕らは久しぶりのキャンパスで再開した。
彼女は最初それが誰かわからなくなるくらいに髪を短く切っていた。
「夏の間いろいろ考えたんだけど、彼のことは諦めることにしたの。髪を短くしちゃったりなんかしてね。ちょっとサガンみたいでしょ?」
その日僕らは大学を初めて飛び出し、彼女の新しい出発を祝福して夜の街に繰り出した。
ドライジンとラムをベースにピーチブランデー、オレンジジュースをミックスしたオリジナルカクテルを涼しげに口元に運ぶ横顔に吸い込まれそうになる。
ショートカットになった彼女の美しい金色の髪は太陽をたくさん浴びた干草のようで、そのカクテルに名前をつけるなら迷わず「ゴールデン・クリッパー」にしようと思った。
僕が彼女に惹かれてしまうのもまた「どうしようもない」のかもしれない。
glass No.7 ゴールデン・クリッパー 参照:クリッパー(語義)
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celerydiary · 6 years
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X・Y・Z
今日のショート・ショート・カクテルは「X・Y・Z」 無色透明なラムとコアントローに混ぜ合わせるレモンジュースが白濁を生み、甘さと酸味がバランスよく溶け合ったカクテルです。
2018.05.26 Hiromi Kimoto
またあの夢だ。
僕は泥の中に沈んでいて灰色の世界にいる。 あたたくてキメの細かい泥が身体全体を包む。
今が何時で、どこにいるのかまったく分からない。
手を広げてみる。 右手を、そして左手をゆっくりと泥のなかに広げる。 泥は相変わらずあたたかく僕を包む。
左右方向、X軸。オーケー。 上下方向、Y軸。オーケー。 流れに争うよう��両手を回す、左右の腕が泥を切る。 Z軸、オーケー。
僕はその全てが泥に包まれていることを確認する。
そして口に入った泥が鉄っぽさと、不自然な甘ったるさをもたらしていることに気づく。カラカラな喉にはレモンジュースが欲しいのに、舌が感じるのはまるでラムとコアントローを混ぜたような甘さ。
方向感覚と空間感覚を失った僕は舌に残るその甘さで酔いそうになる。
そうしてまた確認する。 X、Y、Z。
いつもそこで目が覚める。 glass No.6 X・Y・Z
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celerydiary · 6 years
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イエス・アンド・ノー
今日のショート・ショート・カクテルは「イエス・アンド・ノー」 ブランデーを包み込むような卵白の舌触りにオレンジ・キュラソーの香りをアクセントに効かせたカクテルです。
2018.05.23 Hiromi Kimoto
僕は一度だけ、人の死体をみたことがある。
その日 いつものバーで1/3ダースのビールを空けた僕は、タバコをふかしながら帰路を急いでいた。 土手の両側には草が覆い茂っていて、時通りメンソールと混じって青い草いきれが強く匂った。
この道沿いにはもう使われなくなった自動販売機が山積みになって置いてあるスペースや誰かが不法投棄した家電がまとまって置いてあるようなスペースが点在していて、それらは常にひんやりとしているのだが、その晩は珍しく明かりのついた車と運転席の窓にもたれる男の姿があることに気付いた。
運転に疲れたドライバーが車を停めて眠っているのだろうか。 そんなことを考えながら僕もまた、暖かなベッドを目指して歩いた。
翌る日の朝、僕は警察に呼び出された。
昨晩の車の男が死んでいたこと、現場付近に落ちていたタバコの吸殻から僕が事件の重要参考人として呼び出されたことなどが手短に伝えられ、取り調べ室の机も目の前の警官の表情も灰色だった。
ー「昨晩 タバコを吸いながら土手を歩いていたのはあなたで間違いありませんか?」
「はい」
ー「道端に停まっていた車の見覚えは?」
「ええ、覚えています。こんなところに車が停まっているなんて珍しいなと思いましたから」
ー「なにか不審な点はありましたか?些細なことでもいいんです、誰かが近くにいる気がしたとか、音がしたとか」
「不審......。 たしかに車の存在は不思議に思いましたけど、目立った特徴はなかったと思います。ただ...そういえばライトが付いていました、車の後部座席のところです。オレンジ色っぽいライトがみえました」
ー「オレンジのライト?後部座席のですか?運転席ではなく? おかしいな............。ところでこの男性の顔に見覚えは?」
警官は胸ポケットを探ってそっと写真を机に置いてみせた。 つり目の下に小さなホクロがある男だった。
「いいえ、知らないです。」
ー「そうですか、わかりました。いいんです、またなにか思い出したら教えてください。」
そんな風にして事情聴衆はあっさり終わった。 僕が予想していたその手の警察ごとはもっと威圧的で、ジメジメとしたものだったからなんだか拍子抜けした気分だった。 そしてなによりあの車の中で一人の人間が死んでいたなんで、僕にはまだ信じられなかった。
その日の夜、僕はまたいつものように土手を通ってバーに出かけた。 例の場所は規制線が引かれていて、警察が書き込んだチョークの痕やらマークやらが残っていたけれど、昨日の車と男はもうすっかりどこかに運ばれてしまっていた。
バーカウンターに座って、僕は昨晩この店を出てから、今ここに座るまでの流れをひとつずつ思い出してみようとした。
知らない男が死に、たまたまそばを通りかかった僕が警察でいくつかの質問に答えたこと、オレンジ色のライトの話をしたこと。
考え込みながらふとカウンターに目をやるとマスターが注ぎ込んだブランデーとキュラソーが照明に反射して、ドラマチックなオレンジ色を発している。
「この色に見覚えはありますか?」ここで昼間のように質問されたら僕はイエスとノーどちらで答えるべきなんだろう。ふとそんなことを思った。
glass No.5 イエス・アンド・ノー
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celerydiary · 6 years
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鬼?のようなものから逃げている。
彼らは、寒いところでしか活動できず、沖縄はこの状況を傍観しているらしい。
僕はこの世界についてよく知らない。
友人らしき男と一緒に逃げている。彼は僕のことをよく知っているらしい。
途中で、先生?に出会う。彼女はお金をもっていて、僕たちをタクシーに乗せて、一緒に逃げてくれるという。
鬼は人に化けられるらしい。この先生も鬼なのではないか。ほら、最初の認識では確かおばあさんだったこの先生も、気づけばきれいな若いお姉さんになって、後部座席で僕の友人の手を取っている。
しかしそのまま、タクシーはただひたすら西へと進んでいく。
僕はふと、隣に座る「運転手」という存在に気がつく。彼はどうやら今まで僕の意識の物語の中に登場していなかったらしい。
だが、密閉された車内という空間の中、彼への警戒も怠るわけにはいかないだろう。僕は彼への意識レベルの振動数を上げる。
ほら、やっぱりだ。気付いた時には、大抵、ちょっと遅い。
彼の左人差し指の爪がきれいな正方形を象っている。これは鬼に似た、トロールという生物の特徴であるという。
彼らも、また、人を食う。
逃げ場はなく、物語は終わりの気配を帯びる。
んー。癪だ。
よし。
意識に次の一文を書き込むこととした。
僕らも、また、鬼を食う。
2018.3.17.朝 Shin Obinata
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celerydiary · 6 years
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ミリオン・ダラー
今日のショート・ショート・カクテルは「ミリオン・ダラー」 ジンをベースにパイナップルジュースときめ細かい卵白の泡が効いた、なめらかな味わいのカクテルです。 2018.03.16 Hiromi Kimoto
その夜 僕はひどく混乱していた。 原因はわかっている、昨日のあいつのせいだ。
その日僕が出会ったのは とある映画の主人公で、土で汚れた白いシャツと日に焼けた肌が似合う二枚目の男だった。
「Forty-niners」というタイトルがついたその映画はゴールドラッシュで沸いた1849年の夏のカルフォルニアが舞台で、幸運に味方されて大金を得た主人公がたちまちにしてギャンブルにのめり込み、あっけなく死んでしまうというストーリーだった。
俗にエリートとよばれる道を着実に歩んできた僕からしてみれば、彼のような生き様はそれ自体が「愚行」にみえたし、もし僕だったら当時富豪たちの間で流行っていた大規模農園(その多くはブラジルのパイナップルプランテーションだったらしい)の買収やら、投資やらで代々続くような資産家になってみせただろうに。なんてことを考えたりした。
この世の中で重要なのは計画性と先見性であり、 それらを上手く操れる奴が成功するようにできているのだ。
でもなぜだろうか。 一夜あけても僕は一向に落ち着くことができなかった。 それはやっぱりあの男のせいで、最期のセリフのせいだった。
「もう十分、楽しんだよ。必要になればまたゴールドを当てるさ。」
全てを使い果たし、ボロボロのベッドで生涯を終えようとした彼がつぶやいた言葉が、僕の生き方を風刺するかのように僕自身を締め付けていた。
彼みたいな生き方なんてうんざりだけど、好きなことに好きなだけ金をつぎ込んで死んでいくような潔さは僕にはない。 計画すること、曲がらずに生きていくことは確かに美徳なのだけど、もしかしたら僕は彼に少しばかり「憧れて」いるんじゃないだろうか?
考えれば考えるほどわからなくなって、家に帰り着くなりすがるように食器棚からステンレスシェイカーを取り出した。 手元にあったドライジン、ベルモット、グレナデンシロップ、レモンジュース、卵白を混ぜる。
アルコールの力を借りたら今夜だけは彼のような自由さと放漫さを得られるような気がして追加のジンボトルに手を伸ばしかけたけれど、 こんな時に限って明日の朝の打ち合わせの存在を思い出してしまった。
ジンを諦めて、フレッシュジュースをシェーカーに注ぎこむ。 皮肉にもジュースは鮮やかなパイナップルフレーバーだった。
やれやれ、これからもきっと僕は堅実な人生を送るんだろう。まるで緻密な設計士が尖ったシャープペンと鋭利に光るコンパスをつかって大きな農園の作付けを設計するように。
口当たりのよさを求めて入れた卵白がカクテルグラスの表面に柔らかな泡を作っている。 僕は夜のキッチンで1人、1849年のカリフォルニアの夏の空と広がる雲を想像した。
glass No.4 ミリオン・ダラー 参照:フォーティナイナーズ(Forty-niners)
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celerydiary · 6 years
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ナイス・ヒューマン
私の夢はナイスなヒューマンになることだ。
今日も街中でそういう人物を見つけてはメモをする。
ジャカルタの空港にて飛行機を待ちながらじっとしていられず、うろうろしている男性を発見。彼のTシャツには「difference is good」とただ一行、胸のあたりに書いてある。そして同じ場所を行ったり来たり、少し立ち止まったりする。ああ、彼のうろうろは世界中の人に勇気を振りまくための重要業務なんだと、私は気づいていたよ。今日も、世界のどこかで誰かに、届いているんだろうか。
Haruka Iwami 2018/03/05 17:57 
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celerydiary · 6 years
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窓際の席
今、自分が空を飛んでいるなんて、風も感じずに思えるはずがなかった。
窓際の席からの眺めはただただ美しく、まだ現実からはとっても遠いような気がしている。
Haruka Iwami 2018/02/28 22:42(Indonesia time!)
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celerydiary · 6 years
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君の文字はホームラン
「文字は、打たないと、飛ばないんだよ!」
ちょうど10歳下のいとこが生意気盛りに声を張る。
あ、そうか。文字はいつのまにか、打つものに変わっていたのか。そういえば、トンとペンで文字を「書いて」いないような。
なるほど、文字から聞こえてくる音は、シャッシャッ、から、カタカタ、に変わっている。いとこが言うには、カッキーン!らしい。打つ、から野球をイメージしているのだ。君はいつもいい当たりの文字を打つのだなあ。
Shin Obinata 2018/02/28
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celerydiary · 6 years
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ミント・ジュレップ
今日のショート・ショート・カクテルは「ミント・ジュレップ」 バーボンにミントを加えた爽やかなロングカクテルです。
2017.02.18 Hiromi Kimoto
その日僕はシンガポールのカフェ・バーで思いがけない人物に出会った。 それは大学の同級生で、たしか経済史の授業が一緒だったと記憶している。
彼はいつも緑色のくたびれたセーターを着ていて、困り気味の眉と頰の上のそばかすが印象的な、なんていうか気の弱いPEANUTSのペパーミント・パティーみたいな子だった。(ペパー・ミントパティーが女の子だったと知ったのはそれからずいぶん後になってからのことだ。) 僕が彼をペパーミント・パティー呼ばわりしていたのは他にも理由があって、それはあまりにも経済史の試験の点数が悪いという節からだった。
「こんなところで、久しぶり。まさかシンガポールで会うとはね。」
僕らはアメリカの大学に通っていたからこの再開は本当に、その「まさか」だったわけだが、それ以上に僕が驚いたのは彼の着ていた緑のセーターがアイロンの行き届いた白いシャツに変わっていたことと、まるで落第点とは無関係な人生を送ってきたかのような立派なビジネスマンにイメージチェンジしていたことだった。
やられたよ、ペパーミント・パティー。 テストの点数が悪い、君はどこにいっちゃったんだ?
目の前ではバーの店員がミント、シュガーシロップ、そしてバーボンソーダを手際よくかき混ぜている。氷がタンブラーいっぱいに追加されて涼しげな音が鳴った。 突然の再開と、暑いシンガポールの夜にはミントを効かせたカクテルがよく似合う。 今度から彼を呼ぶ時はミント・ジュレップなんてどうだろう? 悔しいけれどそんなことを思ったりした。
glass No.3 ミント・ジュレップ 参照:PEANUTS ペパー・ミントパティー
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celerydiary · 6 years
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偶然のピンク
街を歩いていて、偶然ピンク色が視界にダイブしてくることがある。するとなんだか、とっても幸せな気持ちになる。いいものに出会えたぞ、というような。ピンクという色はいつも心をやわらかく解きほぐしてくれる。今日はやわらかな、淡い桜色だった。濃密な青空を見つめて春を待ちわびているよう。
でもこの空とピンク、彩度が違いすぎる。鮮やかさへの憧れを抱きながら青を見つめている。だけどあなたのその淡さが心にとっても優しいよ、と言ってあげたい日曜の昼下がりでした。
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celerydiary · 6 years
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ザザ
今日のショート・ショート・カクテルは「ザザ」 ドライ・ジン、デュボネにアンゴスチュラ・ビターズ加え、赤くほろ苦いビターなカクテルです。 2018.02.17 Hiromi Kimoto
7歳の時、僕はテネシー州の祖父の家でひと夏を過ごしたことがある。 その夏、両親は仕事で目が回るように忙しくて、長い休みの間 半ば強制的に預けられることになったのだ。
広い道路を挟んだ祖父の向かいの家には黒い毛むくじゃらの犬がいて僕はその犬を密かにザザと呼んでいた。
祖父は近所付き合いもよくなかったから、その犬の名前の本当のところは最後までわからなかったけど、とにかく僕は彼をザザと呼び、彼もそれを気に入っているようだった。
ザザはペンキが剥がれかけた赤い屋根の犬小屋からいつもこちらを伺っていて、たまにふと思いついたようにワンワンと1,2回こちらにむかって吠えた。 僕らは結構仲が良くて、それなりにいい関係だったように思う。 たまにこっそりピクルスを抜いたサンドウィッチを持って行って一緒に食べたこともあった。
とはいえ僕とザザの思い出はこれくらいで、一緒に遠くへ行っただとか、広い場所で走り回ったという記憶は一���にない。 だってザザは他人の家の犬だったし、それからすぐに祖父が死んでしまってからというもの僕がテネシーにいくべき理由は長い間一つもなかったのだ。 だから僕がザザと過ごしたのは結局のところ、とある夏の1ヶ月とすこしの間だけだったということになる。
あれから16年が経って僕は23歳になった。 でも、不思議なことに、僕はいまでもあの犬のことを思い出す。
いつもくちゃくちゃで毛が絡まっている小さな黒い犬 7歳の夏、僕の唯一の友達だったザザ。
彼のちょっとゴワゴワした手触りを思い出しながら 今夜は少しビターなテイストを味わいたくて ミキシング・グラスに、ドライ・ジン、アンゴスチュラ・ビターズを入れてかき混ぜてみた。
最後にデュボネをいれたら思いがけずザザの屋根の色みたいになった。 glass No.2 ザザ
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celerydiary · 6 years
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スカーレット・レディ
このショート・ショート・カクテルシリーズは実在するカクテルの名前を元に、場所、登場人物、シーンなどを書き加えストーリー仕立てにしたものです。 世の中には数多くのカクテルがあって、それぞれにすてきな名前がついています。それらが生まれた背景にはどんな人達がいて、どんな夜があったのでしょうか。 このショート・ショートを読んで、いつも飲んでいるお酒がちょっぴり違った味に感じてもらえれば嬉しいです。 2018.02.16  Hiromi Kimoto 
AM1:30 
客がまばらになってきたマイルズ・バーに滑り込むように入ってきた彼女は目が覚めるような真っ赤なワンピースを着ていて
ハイスツールに腰掛けるなりちょっと照れくさそうに 「マスター、オレンジジュースを1つ。とびきり冷たい氷をたくさんいれてね。」と囁いた。
マスターが割り入れた氷をストローごしにつつく指先はよくみるとワンピースと同じ赤色で、まるで生まれた時からずっと指の上にのっているようにごく自然に存在していた。
「わたし、今日は飲みすぎちゃったの。だめね、もう大人なのに飲みすぎちゃうなんて。だからオレンジジュース。」
そんな言い訳をしながらバーの照明に照らされた彼女の真っ赤なワンピースは 店に来た時の印象とは一変、少し黄色がかってみえた気がした。
そうだ、この色はスカーレットだ。 風にゆれるポピーみたいな、暖かい匂いまで運んでくるような、そんな色だ。
ちょっぴりまだ大人になりきれない お茶目なスカーレット・レディ。
グリニッジの街で出会った彼女と、彼女のワンピースを思い出して今日もホワイト・ラム、カンパリ、マンダリン・リキュール、レモン・ジュース、マラスキーノ・リキュールをシェークしよう。 最後にオレンジの果皮のトッピングも忘れずにね。
glass No.1 スカーレット・レディ
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