Tumgik
#李朝の茶入
avalla-chang · 2 years
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Passage number 4, Day 3.
 あれは火曜の朝のことだった。
 通勤電車に乗って,ぼさっと窓の外を眺めていた。ひとつ目のでかい川( 多分江戸川 )を越えて,次の停車駅のホームに差し掛かった時,物凄く見覚えのある顔が目に入った。昔,交際していたおじさんだった。とりあえず,そこから滅茶苦茶動揺しながら職場へ向かった。動揺を隠しきれなかったため,とりあえず大学の同期に連絡した。いや,同期はわたしのおかんか…?
 今年2番目くらいに動揺した話である。こんなことで動揺すんのかお前さんは,というお話だが,こんなことで動揺してしまったのだ。
 という話を,今日職場の同期にもした。同期と遊んだので。いや,同期はわたしのおかんなのか…?
今日の曲
水とテクノクラート / キリンジ
 良い音源が無かった良い曲シリーズ。
 「 あ〜〜〜,なんかすっごいキリンジの曲っぽいなぁ〜〜〜なんだこの底抜けに明るくて恰好良い曲は 」と思いながら聴いていたら,本当に堀込兄弟時代のキリンジの曲だった。 「 肩透かしのカタストロフィ 」という詞の元祖は多分この曲である。" 耳をうずめて "ではない。 
 仕事やプライベートで,血が滲むくらい理不尽なことがあったり,憤死しそうになる程ムカつく出来事があった時も,この曲を聴けばなんとなくやり過ごせそうな気がする。「 合間縫う腑に落ちないミュージック,止めて〜イェイ 」というくらいなので。" 冬のオルカ "・" 双子座グラフィティ "," 風を撃て "ぐらいのテンポと明るさの曲である。
我愛你 / Cody Lee ( 李 )
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 仕事やプライベートで,血が滲むくらい理不尽なことがあったり,憤死しそうになる程ムカつく出来事があった時も,この曲を聴けばなんとなくやり過ごせそうな気がするシリーズ。
 休職直前の,様々なことに対してヤケクソになっていた時期にめちゃくちゃ聴いていた曲だから,間違いないと思う。「 バイトなんかもうしてらんない 」という歌詞を聴きながら,「 それなそれな。仕事なんてもうしてらんないわクソがよ。」 と思っていた。
※ この曲はラブソングであるため,そういうヤケクソ的な意味で仕事( バイト )してらんない,ということではないのだが。
 ギターソロが恰好良い。
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bearbench-tokaido · 2 months
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二篇 上 その二
それから、二人はしばらく歩いて兜石というところに着いた。 この兜石には源頼朝が兜を置いたと言う由来がある。 そこで、弥次郎兵衛が一首詠む。
誰がここに 脱ぎ捨ておきし かぶと石 この難所にて 降参したのか
さて、二人は、更にその先に歩いて行って、山中という小さな町につく。 ここは道の両側に茶屋が軒をならべている。 「休んでいきなされ。関西から持って来た名物もたくさんあります。 それ、餅をあがりなさい。それ、一膳飯をあがりなさい。 休んでいきなされ。休んでいきなされ。」
その声につられるように、弥次郎兵衛が、 「北八、ちょっと休んで行こうか。」 と、一軒の茶店へ入る。
この家の庭の衝立てで囲ってあるかまどの前に、かごかきの人足たちがたむろしている。 布団を体にまいた者もあり、つないだ渋紙やあるいはござをまとった者、合羽を看た者などが、寄り集まって火にあたっている。 かごかきの人足たちは、普通一年中、殆どふんどし一本の裸で暮らしているだが、どういう訳か、ここの人足たちは、めいめいいろいろなものをまとっていて、珍しい。
すると表の方から竹の煙管をくわえた人足がずいっと入り込み、 「まったく、手におえねえ馬鹿野郎だ。 赤熊とどぶ八の奴等、峠まで長持(六百文)で客をのせたそうだ。」 それを聞いた別の人足が、 「ほう、それなら、酒代に、四十か五十文ぐらいふんだくろう。」 と、言うと、また別の一人の人足。 「おお、そりゃいい。それより、こいつを見ろ。 どうだい、このオシャレぶりは。紋付ときたもんだ。」 と、指差す方をみれば、そこには、なにやら、紋の入った菰をまとっている人足がいる。
「なあに、昨日、小田原の甲州屋でな、やっとのことで筵を一枚もらって着たんだ。 でも、あんまり裾が長くて、まるで、お医者さまのようだとみんなが言いいやがる。」 と、頭をかきかき照れくさそうに答える。
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<二五の三文> そんな様子を見ていた、弥次郎兵衛と北八は、この連中の話を面白く聞いていた。 やがてここを立ち出て街道を行くと、長坂、大時雨と言うところのあたりから、旅人が一人、後になり先になりして行きだした。 その旅人は、紺の木綿の合羽を着て、風呂敷包と柳行李を振り分けに肩に引っ掛けて、旅なれた様子だ。 この男の名は十吉という。 その旅人の十吉がつい話し掛けてくる。 「あなた方は、どこから来たのでございます。」 弥次郎兵衛は、その丁寧な物腰に、 「私ら、江戸でございます。」 と、言うと、十吉は、嬉しそうに、 「私も江戸でございます。で、あなた江戸のどの辺でございます。」 「神田でございます。」 と、聞くと、十吉は、また嬉しそうに、 「神田には私もおりましたが、なんだかあなた方を見かけたことがあるような気がする。 神田はどのあたりでございます。」 というのを、弥次郎兵衛、生来のいたずら心がおきてきて、 「神田は、八丁堀で、私の家は栃面屋弥次郎兵衛と言って、間口が二十五坪に裏庭が四十坪、土蔵づくりで、かなり大きな屋敷でございます。」 「ははあ、その店の裏でございますか。」 「いやいや、裏には、店はない。 私が商っていて、そこに住んでいます。」 十吉は、うすうす嘘だということに気がついたらしく、 「へえ、そんなら、例の土地家屋の売買に必要な証文には、いくらと買いてあります。」 「ええと、たしか千八百両だったと。」 十吉は、驚いたように、 「では、お前様は、それを売る仲介でもしているのですか。 それなら、私も売る手伝いをするので、手数料は、折半と言うことにしましょうか。」 「なんだ。お前は、何を言ってるんだ。」 と、弥次郎兵衛が戸惑っていると、 「いえ、私は、土地の売買のお話かと思いまして。」 と、十吉は、答える。
弥次郎兵衛は、顔の前で手を振ると、 「俺が言いたいのは、そんなことじゃねえ。まあ、いいや。 俺らが、旅に出るときは、本来なら、供の五人や十人は連れて歩くんだが、 それじゃ、気が休まらないんで、今回は、この男一人連れて、物好きのにも、二人旅人としゃれ込んだんだ。」 それを聞いていた十吉は、ぽんと手を打って、 「そういえば、 あなた様のおふくろ様をお見掛けしたと思いますが、あれは、たしか、浅草だったと思いますが、何やら、包を下げて杖にすがって歩いていた。」 「ははあ、それは、大方、寺参りにでも行った時の事だろう。 で、お前さんは、何か言葉をかけたのかね。」 弥次郎兵衛は、とまどいながらも、答えると、 「わたくしが、声をかける前に、見つけて、駆け寄ってこられまして、はて、どうしたのかと思っていると、一文おくれと��いわれたんです。」 と、十吉は、すまなそうに答えた。
その様子を黙って見ていた北八が、大笑いする。 「ハハハ。」 弥次郎兵衛もつられて笑うと、 「いや、お前さん、なかなか冗談がうまい。」 「面白い。どうだ、今夜俺たちといっしょに泊まらないか。」 と、北八がさそう。 十吉に、不満があるはずもなく 「いいですよ。」 と、すっかり気が合って、それからは道すがら、互いに洒落冗談を言い合い、やがて、国沢に着いた。
つづく。
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iseilio-blog · 2 months
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iseilio 大系
018-2021 目次
音樂  etc
12/18    劉鉅渭教授音樂導聆      浸淫古典
01/19 港邊惜別     Arnold Schoenberg   二戰剛結束後的日本
03/19  愛のバラード
04/19  台語歌曲口白
06/19 小さな喫茶店   紅い 花
07/19  生命如花籃   追 求 美 好
09/19  秋櫻    星の流れに  11/19  涼山情歌
12/19  給喜愛音樂的朋友
01/20    世界名畫家畫作總覽    夢境 05/20 歌謠集粹
03/20     Music Note    悲情城市 06/20   日本風情
07/20     人生海海      台灣古典音樂記      鄉村很重要
10/20     巴哈之前的音樂家  突破前衛音樂 パヒュームを残せない
11/20      Erik Satie’s Gymnopédies 台 灣 情 熱
12/20     台語歌曲(一) 歌謠集粹    台語歌曲(二)
美學藝術(一)
01/21     美 學 藝 術(二) 琴藝
03/21  遊覽車主唱   春寒賜浴群星池  馬 勒
04/21     攝影必學  黃昏的故鄉
05/21     Langley 最高點
06/21     Bartok    蒐藏(一)(二)(三)
古典音樂有什麼好聽
03/21 Yorkson Creek 08/21 滯洪池、蘋果樹
09/21    Cycling Route 96Ave 麗澤大學
07/21     蒐藏(四)      蕭邦的音樂       飲食篇
08/21   創造者になる   火 鍋 由 簡 入 繁     滯洪池、蘋果樹
台灣的藝術世界     秋 意       西 索 米      古典音樂有什麼好聽 ?
09/21    赤瀨川原平 江户川乱步 這叫教養 野生動物
父親的眼淚和我的眼淚
10/21    遊 冥 河    台 灣 畫 家
11/21    孫悟空   Whisky 廣告
12/21    Stradivarius 1713        Beethoven: Symphony No. 9
蚵仔煎、蛋餅、潤餅皮
08/22 台北登山步道 台灣盛夏冰品 12/22 登 山
政治
11/18  蔡英文 所代表的意義
12/18      台灣人們自我防衛的決心
01/19      政治現象顯影    一場喜宴談外省人的內心世界
消失的篇章 壓力有兩種
02/19     喜樂島聯盟    天朝中國
03/19    種族歧視人類天性
04/19    不能讓中國共產黨垮臺      高科技救不了中國
司徒文教授的一席話        林毅夫、張維迎 之辯論
05/19     太平島與南海    維持現狀辨難      嚇一跳
06/19     誰在挺茶黨與川普       竄黨奪權
健康的自由經濟是在彼此競爭中互惠分享
07/19    中共政治「制度化」的背景脈絡和其影響分析
香港政治鳥瞰    不要插隊
08/19    台灣與中國的經貿理論探析
09/19     不朽文明+馬列思想      叛亂的二二八與無辜的六四
11/19    資訊戰對台灣的影響      蔡英文之役
12/19    土豆(馬鈴署)燒熟了
01/20     民進黨的勝利與未來的困境      奉天承運 太平有象
留言基進
02/20     中國經濟最大風險      韓國、沖繩或台灣
中華民國考 對阿輝伯之我見
03/20     浪子 的 心情      從千人計畫談起      搞定內外矛盾
中國原教旨主義
04/20      橋水避險基金      極左環球時報       站不穩的巨人
05/20     聯合國無權定義台灣      談季辛吉     時空錯亂
06/20    中美衝突無緩衝      民主、理性越成熟越不會被情緒綁架
美軍重返高雄港時機成熟        加入國際組織可以提可以不提
07/20     老黨崩解恐非台灣民主之福     蔡英文的“維持現狀”
說得很爽      德意志的中國迷思        再會李登輝總統
08/20     中華民國台灣台獨華獨
09/20   世界的心臟    選邊. 叔本華
10/20    利益與精神的忠誠分裂
11/20     末日狂花 01/21   大國迴圈
03/21     首戰 即 終戰      必勝的企圖心      中國可能 的 演化
04/21     改變的開始     松田教授、深宮怨嘆 引领我们前进的旗帜
05/21     美國民主基本文獻      金馬撤守與友軍入台
06/21     一舉拿下      老實說笑話     總統的性格有四種
07/21     台灣民意調查基金會 的 趨勢圖       全世界在搶疫苗
如果中共打台灣      強龍翻滾 百病叢生
08/21     台海風雲之前哨戰       剿共檄文 不是誤會
09/21     Freewill 兄    台灣大炸炮     中國有戰略     三十年前的呆胞
美國不聽沒辦法      中國影響力令西方糾結     傳 真 對 談
評中國的【宏觀調控】      論 李光耀 與 新加坡
與 H 對談 【外電】 台美中關係   以德報怨是對的還是以直報怨 ?
仇日成病 LP事件以外 – 討論 台灣虧欠到中國投資的台商嗎 ? 
金援無法改變貧窮 阿扁總統的大豪賭
10/21      陽春白雪 與 下里巴人      中美關係已經回不去了     內地
四個堅持 沒有美國的支持台灣能維持現況嗎 ?
馬克思主義 的 中國實踐
11/21   沒有安全感的強國     看華洋爭鬥、談林毅夫   不容易對話
李弘祺教授專訪 H教授
經濟
04/20  國際專家怎麼看中國經貿?
05/20     台灣問題關乎國運      大銀行的罪與罰      
06/20     中國式的經濟成長      地理形勢 與 攻守之勢
產經新聞訪問 陳水扁 台灣產業的經驗
09/20  世界 的 心臟
05/21 經濟與山難
07/21     直球對決下的文化激盪     台獨不是台灣人自己可以決定 ?
美國金融機構的危機處理(一) (二)
08/21    「日澳縱軸」下台灣的角色
翻譯
11/18     薪 能 (たきぎ のう) 日 本 概 略 1 2、3
日 本 大 勢 三 轉 考 井本雄男 參謀
日本製造到底出了什麼問題     無言的情狀
美麗 的 Patorio (一)   詩仙堂 詩 三 首
02/19    何謂“意識”(一) 春の畫の館
03/19  燈台鬼    戀牛賦
03/19 木(三) 04/20  木(二) 11/20  木(一)
04/19     寂聽的文學與愛情       魔界都市 京都      釘師 サブやん
京都 真正在地 的味道
06/19     批 評 學 - 給 佐佐木茂索
08/19     濹東綺譚      低成長的幸福      老想向誰說的雜學
 日本企業 的 罪與罰     IBM 產業間諜事件
夜晚酒場 的 歌手(九)  保加利亞 的 黑瞳(十)
Manhattan 的 雪(十一)  布拉格 的 街角(十三)
Munch 裡面的少女(二三)
01/20     美人      我的京都修業      祇園精舍      Bruegel 之旅
02/20     滿州中央銀行  香港 的 兩個側影(十九)
03/20   夏日女孩 蜜雪兒(十七)
04/20    史迪威參謀長    關 於 雪 國  木(二)
唱出人生冷暖 的 演歌世界
05/20    奇襲珍珠港     完美的攻擊     錯失戰略之說     神風特攻隊
特殊潛航艇的參戰    超越攻擊終結點   人間魚雷  逃 出 平 壤(二)
大銀行 的 罪與罰  記憶底邊 的 女人
07/20 Lewis Thomas(一) -- (二十)
09/20     探討單位的世界
10/20      想見到的中國人   “劇的”とは    日漸稀少的專家
裸體寫真 寂聽的文學與情愛
パヒュームを残せない
11/20      日本語的論理      知的生產技術      サブやん      木(一)
12/20      我的京都 小說之旅
01/21      個人 的 體 驗     恐懼 的 原型      追求真正的自己
Hans Speidel 中將     納 粹 德 國     George CatlettMarshall, Jr.      
疼女兒 的 哥哥 軍首腦部軍閥化     參 謀
在日美軍司令部(一)(二)
02/21 在日美軍司令部(三)(四) 浪人軍學者
獨創技術 的 發想法(一)(二)(三)
03/21   精神分析入門(一)(二)(三)(四)(五)
星星 的 話 一個人 的 世界(十一、十三 )
一個人 的 世界(十八) 一個人 的 世界(二十、二二、二四)
世界經濟 的 未來版圖(一)
04/21  真品與膺品 木(四) 世界經濟的未來版圖(二)(三)
05/21  一個人 的 世界(一、二、三)
巴塞隆納 的 大和撫子(二)  紅與藍 的 勃露絲(三)
黑色手腕 白色絲帶(五)
06/21   波斯 的 胡姬(四) 青桐 的 院子(六)
BYCAR號 的 一夜(七) 謎樣 的 世界之影(八)
在 Segel 的 青春(十二) 布拉格 的 街角(十三)
漢堡 的 陶器店(十四) 暗黑運河 的 流淌(十五)
如同荒野 的 街道(十六) Tivoli的 一夜(十八)
英國 的 Kay(二十) Tuluk 夏天 的 一夜(二一)
在大溪地海邊(二二) 細節之愛  千利 休 無言的前衛(一)
07/21      獄 門 島 現在日本的��性與解說(二四)
7.8.9.10.11./21  小孩 與 自然
12/21  焦慮的本質 與 解除
雜文
11/18    台灣海產大酒樓 薪 能 黃昏清兵衛
人口數 = 成長 or 蕭條 和風生活小札 我的上海情结
日本自由行    居合道    詩 三 首 日本龐大的國債
口付けについて 一個古老文明的新美學 收 藏、儀 式、尊 囑
Life is difficult — S ﹒Freud 鄭 得 福 先生
世界反尿布組織(WAO)規約     台語流行歌曲
移民政策   我的宗教觀     異化的無奈 與 背叛的艱難
閒話加國 BC 省
隨時保持理智 凡事三思而後行 檳榔媽祖機車三太子     H教授
圖瓦魯挺台灣    就 是 愛 跳 舞 命好      我看「大江大海 一九四九」
全球聲援台灣加入 UN      隨時保持三思而後行     快樂的安養人生
日本製造出了什麼問題 曹長青演講秘訣、戰略學筆記
白 狐 新舞台    溫 泉 鄉
理療一番  あなたへ      中國文化 與 霸權意識 架上矯正器
柴契爾夫人    I love sushi    詩仙堂    青春悲喜曲 給十五歲的自己
無理心中強迫情死 四個不可超越的自然極限     台灣需要甩掉CP值
員工晨訓       父親 的 掛軸 蔡英文所代表的意義
日 本 陶 瓷 遼尉臣筆記 現場目擊
12/18     共厝的中華民國與台灣
01/20  話拳   01/19 酸醋魚 etc
05/19     台北大稻埕美食 06/19   少年吔 !安啦
07/19      林泉山水     台 灣 官 紳 年 鑑     空 話 泡 茶
10/19     女性主義      弔辭      啟蒙的時代      先來後到台灣人
11/19     終場     有關馬來西亞華人   涼 山 情 歌
12/19     無法令人幸福的日本系統      日文與牛排
1/20    奉天承運 太平有象   夢境
02/20     Canada自由行郵輪     話語權     詩與你之間     媽祖保佑
03/20      台灣造型      時中現象      加入WHO
04/20     關於雪國      春日北投早晨      斑斕燦爛
05/20     神話還是詩 07/20   鄉村很重要 08/20   自立
09/20     夢之堂奧   生之繭 生命的困頓
10/20    貧乏性 擺書陣
11/20    歷史無法假設     台灣情熱      宇宙光      重機世界     旅情
12/20     第九水門      複雜、開放的社會更強韌      延平北路慈聖宮
02/21     說 道 理      啟蒙運動       啟蒙運動 與 東方文化
03/21     創造性與自我認同的關係      初老男 的 迷航
04/21    生與死 老與少
5/21 山難救助 Langley 最高點
07/21    台灣的三大山門
08/21 網路長城-臉書 秋意 台灣 的 藝術世界
滯洪池、gala apple 樹
09/21     體制、機制 世界第一 野 生 動 物
Cycling Route 96Ave
10/21   台灣儀隊制服土氣 賴沈激辯 中國造島
時間的蟲洞 遊冥河 台灣畫家
11/21   小 張  沒有安全感的強國
12/21    強大 的 心理素質     劍俠、公主 嚇 一 跳
犬儒的真理堅持與詩學浪漫 從敕使街道到華燈初上
正能量的存在
諸子百家
11/18     我的上海情節     祖谷溫泉 平家物語       讀新聞的方法
田園散記 認同的重量      道家房中術     看書歲月     台灣之命運
台灣教育還停留在舊經濟時代       
12/19      卡繆荒謬哲學      兆豐銀行紐約分行      啟蒙運動
04/20   冰島漁夫
07/20  Lewis Thomas(一)(二)(三)(四)
德意志 的 中國迷思
08/20 Lewis Thomas(五)----(十二)
09/20  氣候  人  歷史  哲學 的 樂趣  理性 的 掙扎
10/20  精神分析入門 12/20 Sophies World
01/21   焦慮的意義 黨國之子
02/21     中 國青銅時代     萬 曆 十 五 年(一)(二) 飛 鷹 戰 士
獨創技術 的 發想法(一)(二)(三) 中國古史 的 傳說時代
歐洲中世紀教會如何塑造了當今的「西方思想」
03/21    馬勒 精神分析入門(一)(二)(三)(四)(五)
05/21    美國民主基本文獻  實踐、異化 和 人性(一)(二)(三)
蘇馬利亞、古 埃 及、巴 比 倫 希臘的興起
07/21 獄門島 異域 現在日本的女性
美國金融機構的危機處理(一)(二) 蘇馬利亞、古 埃 及、巴 比
希臘 的 興起  耶穌 出現
09/21 捉 狐
10/21  狐嫁女   董 生   汾 州 狐 祝 翁   胡 四 姐   酒 友
11/21  林四娘、汾 州 狐 全方位 的 無限(一) (二)(三)
Infinite in All Direction Freeman J . Dyson 孫悟空
12/21     自己 的 房間 紅樓夢 各家談
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etanchan · 8 months
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ビールを理解したい
導入
「とりあえずビール」。言ったことありますか?お酒が飲めない人にもこのフレーズはお馴染みですよね。これは筆者がビールを理解したいなという気持ちを綴った散文です。ラブレターみたいなものです。
はじめに
私は成人して8年が経つ人間、絵李咲ちゃん(エリサチャン)と申します。お酒が好きで、かつかなり飲めるタイプの人間です。幾つになっても記憶や財布や自尊心をお酒によって失くし続けている学びのないしょうもない人間です。そんな自分がすき。
まずはじめに私とビールの出合いから記したいと思います。19歳の時に居酒屋のキッチンでバイトをしていました。そこで1番最初に覚えた仕事が、生ビールを注ぐという仕事でした。注ぐと言っても、ジョッキをセットしてボタンを押すと勝手に全部やってくれる機械が導入されていたので、私が教わったのは注ぎ方ではなく、機械の扱い方でした。
働いたことがなくても、居酒屋に行ったことがある方は察しがついているとは思いますが、居酒屋は忙しい時は本当に狂ったように忙しく、全員が些細なことに静かにキレ散らかしながら業務をこなす脳汁ドバドバ環境なのです。そこで最もキレ頻度の高い事象のひとつに「乾杯がビールじゃない」というのがあります。
誰が決めたなんのルールなのか知りませんが、なぜかこの国では全員揃ってから乾杯をして飲み食いをスタートするという文化があります。それに倣い客の満足度を引き上げる為にドリンクのファーストオーダーは爆速で出さなければならないという十字架を我々は背負っていました。4、5人なら大丈夫です。10人を超える宴会となると、その量のドリンクを作って運ぶというのは重労働です。そんな時に「乾杯がビールじゃない」とどうなるでしょうか。そう、時間がかかります。色んなもん計って混ぜて作る酒は大変なんです。それが全員ビールだとどうなるかというと、空のグラスと瓶ビールやピッチャーに注いだビールなどをドンと出すだけで済むのです。あぁなんて楽なんだろう。ジョッキに注いで出す場合もありますが、計ったり混ぜたりする手間がないのでそれはそれは爆速でファーストドリンクの提供を終了できます。消える泡と戦うことはありますが、それでもこんなに楽なことはありません。「とりあえずビール」は神様です。
ビールは楽ちんで、一旦最初に飲んでおくもので、大体みんな飲むもの。乾杯の為の飲み物。それが私のビールの第一印象でした。
ビールとの距離
居酒屋バイト経験後に成人した私は、すぐに一般的な居酒屋にある酒を一通り飲みます。焼酎サワー、ウイスキーハイボール、果実酒、カクテル、ワイン、日本酒。甘くて飲みやすいとされているものから挑戦し、徐々に度数や量を増やし、自らの嗜好を探った結果自分はハイボールがお気に入りだというところに落ち着きました。ハイボールはいくらでも飲める。数年かけてその結論に至った私は、居酒屋では最初から最後まで一貫してハイボールのみを頼むようになります。その頃には居酒屋のバイトは店長と喧嘩して辞めていましたし、バイトで覚えたことは全て忘れていましたので、ビールを頼むと店員が楽という知見も発揮されませんでした。ビールを飲もうと思ったことすらありませんでした。苦いし美味さが分からないし、なんか太るらしいし、プリン体?が気になる。痛風?になるんでしょ?ビールは大量に飲めない。健康を損なうから。ビール���おじさんが飲むもの。若い人は乾杯の1杯だけ仕方なく付き合うもの。よく知りもせずそんなイメージばかりがありました。気づくと、「お酒は好きなのにビールは飲めなあいんですう」みたいな人間になっていました。反吐が出るぜ。
それから更に数年、様々な人付き合いを経て、色んな場所で色んなお酒を飲みました。それに伴い、「なににする?ビールでいい?」と聞かれるお年頃がやってきます。大体25歳ぐらいです。「お酒好きでめちゃめちゃ飲むんですぅ」などという触れ込みで飲みに行くと、勝手にビールが飲める人カテゴリに入ってしまうらしい。ただそこまでビールが嫌い、飲めないというわけではないので、そう聞かれると「あ、じゃあビールで」と言えるぐらいには大人になっていました。「とりあえずビール」に加担する大人に。まぁ、美味いと思わなくても別に飲める。コミュニケーションの為に来ているのだから、とりあえず長いものには巻かれようみたいな社交術が身に付いていました。ただ一度たりともビールを美味しいと思った事はありませんでした。ビールは近くて遠い存在でした。
コーヒーの台頭
その翌年の夏です。昔からの友人が突然「アイスコーヒー飲める人ってかっこよくね?」と言い出します。確かに。確かにそうだ。我々は圧倒的にアイスティー側の人間でした。なんならアイスロイヤルミルクティー側の人間でした。30歳という大台に向かっていく我々。���つまで甘ったるいお紅茶を飲み続けるのか。いや、例え最終的にお紅茶派だったとしても、アイスコーヒーがなんなのかを理解してからお紅茶を飲むべきではないだろうか。夏の飲み物に対して関心が高まる時期がありました。我々はその夏、ありとあらゆるアイスコーヒーを飲みました。まずは大手コンビニで手軽に買えるアイコ。次にカフェチェーン店で飲めるアイコ。たまにはちょっといい喫茶店のアイコ。コーヒー専門店のアイコ。飲んだアイコは全て感想を言い合い共有しました(因みにローソンが1番好きという結果になった)。
夏も終わりかけたある日、私はいつものように飲み会に行きました。そこで「とりあえずビール」に巻かれた時、気づきました。いつもと苦味の感じ方が違う。あれ?と思って二口目を確かめるように飲むと、やっぱりいつもより美味しく感じました。好きかも。そう思って飲んだ三口目は、苦味が口にずっと残って、やっぱりビールはビールだなとがっかりました。でもどこかで聞いたことがある。ビールはひと口目が1番美味い。よく知らないけど、なるほどこれがそれか!とすぐにピンときました。きたつもりになりました。ここで私のビールへの評価が1段階上がります。ビール、悪くないやん。進んで飲みはしないけど、もう「ビール飲めないんですう」は辞めようと思った。反吐が出るしね。
アイスコーヒーが飲めるとかっこいいと思ったから色々飲んだら、副産物的にビールが飲めるようになった。そんな功績を得て私の26歳は幕を閉じました。
お酒の飲み方
大学時代就活でバチクソに病んで人生の歩みを止めていた時期があったため、同級生よりも社会に出るのが1年少々遅かった私も、流石に27歳ともなるとそのコンプレックスもなくなるほどには社会に順応し始めました。会社では一人前扱いを受け、後輩ができ、人に物を教えたり、指示を出したり、今までとは違う頑張り方を求められるようになりました。やり甲斐はあったものの、同じぐらいストレスを感じるようにもなりました。そこで私はその発散の為かなりお酒に頼るようになります。人とコミュニケーションを取るためのツール、という側面の飲酒行為は、全体の2割3割程度まで減少し、飲酒行為の大半を1人で自宅で無茶苦茶な飲み方をすることに費やすことになりました。コンビニで買ったストロングゼロを飲んでインターネットで誰も聞いていない自分語りをする。最終的に家の中で記憶を無くしたり、誰にも飲まされてないのに吐くまで飲むなどしておりました。コスメが入った引き出しに吐いて、朝起きてメイクをしようと引き出しを開けたらゲロまみれだった事があります。そんな自分がすき。
そのよくない飲み方を助長する出来事が起きます。引っ越しです。出戻り実家子供部屋おばさんを卒業したいと思い、駅チカに部屋を借りました。寂しいので様々な友人をガンガン呼んでホームパーティーという名の宅飲みをしまくりました。が、予定のない休みの日というのは訪れました。予定がないと、家ですることは掃除か飲酒の2択でした。というか、掃除をして達成感を得ると自然とお酒を飲みたくなるので、掃除をしてお酒を飲むか、掃除をしないでお酒を飲むかの2択でした。寝る前に枕元にお酒を置いて、起床した直後から飲酒を開始したり、日曜日の朝8時からひとりでテキーラを飲んだりしている様子をインスタグラムのストーリーにあげていたら、同じくアル中の友人達から大変にウケてしまい、私が無茶苦茶な飲み方をするのは一種の身内エンタメコンテンツになってしまいました。私はこれをインターネットタトゥー自傷行為と呼んでいます。
セブンイレブンの豚ラーメンとストロングゼロ、度数の高い小さいお酒と岩塩、この組み合わせの反復横跳びをするだけが人生なのだ。働く為に飲んでいるのか、飲む為に働いているのか、まるで分からないけど生きていてえらい!そんな日々でした。
ビールへの目覚め
ある予定のない日曜日、私はいつものように部屋の掃除を終わらせました。休日にも起きる時間を変えない派の私は、9時ごろには全ての家事を終わらせていることが常でした。予定がないんだから9時に起きてから家事すれば暇を持て余す必要もないのにね。
9時というと微妙な時間です。飲食店と近所のスーパーはまだ開いてない。コンビニに行くか、家にある酒を飲むか。その日の私は掃除を念入りに行ったせいで大変に気分がよかったのです。ふと駅に成城石井がある事を思い出しました。いい気分だし、いつも行かない方のスーパーに行っていつもとは違うものを飲み食いしよう。私は成城石井が開店するのを待ってから家を出ました。道中、何か特別いいことがあったわけではないのに、いつもより少しリッチで豊かな発想があった自分を喜びました。そんな自分がすき。成城石井に行けば何でもない日を特別に変えることができます。これはライフハックです。
成城石井の陳列を自分ごととしたのは初めてでした。良さそうすぎてどれが良いのか分からない。色んな棚を見ましたが、私はビールの棚にある小さなポップを読む事にしました。説明されるのがすきなので。それなのに結局パケ買いをしました。緑色でゾウの絵が描かれたタイのchangと、銀色でロゴが大きく書かれたベルギーのRoman Blancheというビールを買いました。
なぜあんだけ見たことがない酒が大量に並ぶ棚の中から、ビールを、しかもこの2つを選んだのかは今もよく分かりません。ただ、それぞれのビールはラガーとエールだということがポップに書いてあった為、なんか違うやつ飲み比べてみようと思い付いたのです。飲み比べるのであればまず飲む前に知識があったほうがいいに決まっている。私はそれぞれのビールをググりました。ラガービールであるchangはタイのポピュラーなビールで、現地では氷を入れて飲むこともあるらしい。とか、エールビールであるRoman Blancheはハーブの香りがするとか。その程度のうっすらとした情報だけを頭に入れて、とにかく飲んでみた。充実した休日ごっこがしたいだけの私が、ビールに目覚める瞬間でした。
後悔と欲望
とにかくびっくりした。これがビールなのかと。
changは甘みを感じました。ビールなのに甘い。衝撃的だった。全ての外国に縁と興味がないけれど、あっついタイで飲んだらもっと美味いんだろうなと思わず思いを馳せてしまった。
Roman Blancheは軽かった。ランチの時のお茶を全部これに変えたいと思った。こんなにいい香りなのにビールなんだと。衝撃的だった。
どちらも、今までおじさんが飲んでるくさくて苦い飲料と同じだとは思えなかった。後悔しました。こんな美味いものをイメージで避け続けていたなんて。もっと早く気づくべきだった。ビールというものの美味しさに。ビールの多様さに。
呆然としながら、ラガーとエールってなんやねんと思いググりながらノートにメモを取りました。学生の時以来の板書。
原材料表示を確認し、恐らくこれはポピュラーなビールの材料ではないだろうと思い、ググるとやはり普通は米やハーブを入れたりはしないらしい。というか、配合を変えると日本では「ビール」を名乗れないとのこと。ついでなので酒税法について学んでしまった。今飲んだこのビールの事を知りたいだけなのに、作り方だの酒税法だの寄り道が多すぎる。ビールを理解するのは大変だなと思いました。元より学がない為、説明文中にある単語の意味をググりながらの作業は、まるで外国語の勉強のようでした。君たちこれを理解した上で「とりあえずビール」なんて言ってた?そんなに浅い飲み物じゃねえぞビールは。などと思ったりした。少し調べただけでこの有様なら、ビールを完全に理解するのはとても大変な事になりそうだと察した。でも、知りたい。まるで恋だった。知りたいという欲望を抑えられなくなった私は、翌日の仕事終わりにスーパーのビール売り場へ行った。
無知、焦り、そして愛
今までビールを深く味わおうとしてこなかった私がビール弱者であるのは明らかだった。この味の感想を語れるほどビールを知らない。成城石井で購入した2本のビールはどちらも外国のビールだった為、余計に焦りが出た。日本で好んで飲まれているポピュラーな味を知らないからだ。
私はビール売り場で愕然とした。あまりにも種類が多かったからだ。そして、どれも見覚えのあるパッケージなのにも関わらず、飲んだ記憶がないからだ。知っているのに知らない。景色として捉えていたものが突然自分ごとになる。世界が一変していました。これが恋じゃなければなんなのだ。今まで「とりあえず」で飲んできたビールはこの中にあるのか。思い出しても思い出せるわけもないので、とにかく各社が出しているビールを片っ端から買いました。取っ掛かりがないと淡々と飲むだけになってしまうと思ったので、職場の同僚達に「1番好きなビール」を聞いて回って、これはあの人の推しビールだなんてことを考えながら飲みまくった。私がまず知るべきなのは日本で愛されているビールの味だ。
きちんと味わいたい為、1日2本までというルールを設けた。吐くまでテキーラ飲んでいた人間とは思えない程健全な飲み方だ。これは飲酒ではない、デートなのだ。せっかくなら記録を取ろうと思い、本来なら映画やドラマの感想を書く為のアプリに、ビールの味の感想をメモしました。
そうして数ヶ月ビールとの逢瀬を楽しみました。そしてスーパーに並ぶ一般的なビールを網羅した頃、私はまた後悔します。「クラフトビール」に出会うからです。クラフトて。クラフトすな。その種類と味わいの多様性について触れた時、私はこの世の全てのビールを飲む事はできないんだと悟りました。絶望でした。80歳まで生きたとして、週に3回、1日2本のペースで飲み続けたとしても私が残りの人生で飲めるビールはあと16,224本しかない。ビールは世界中で作られている。古くから伝わる製法を取っているところもあれば、新しいビールの形を今まさに模索しているところもある。技術の発達で作られなくなってしまったビールもある。全部なんて飲めるわけがない。こんなにも好きなのに、全てを愛することができないなんて。悲しい。愚かだった。今まで飲んだハイボールが脳裏をよぎった。けどハイボールは悪くなかった。私が愚かだっただけでした。でもそんな自分がすき。もう止められない。私はこの気持ちを胸にさらにビールを飲み続けることしかできないのです。たとえ全てを知ることができなくても、理解をし続ける事が愛情の表現になると思うから。
おわりに
という出来事が起きたのは2023年の3月でした。5ヶ月後にあたる執筆時2023年8月現在、私が飲んだビールの種類は85種類。今年中にひとまず100種類と思っていましたが、まぁまぁ良いペースで飲めています。とにかく種類を飲みたいので同じビールは2度飲まないようにしています。が、それを破ってまで飲んでしまうお気に入りビールにも出会えました。好きな傾向を掴めたので、あとは貪り飲むだけです。あとなぜかビールを貰うことが増えました。旅行のお土産とかで。気の利く友人達ありがとう。この世の中にあるビールを思うがまま手に入るまま、味わって理解を深めていく作業。これが私の人生で、私の気持ちです。今後とも宜しくお願い致します。
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kasayoichi · 1 year
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美しき故国②
 朝明と己煥を乗せ福州を発った船は、行きのような荒天に見舞われることもなく順調に帰路をたどっていた。
「加子たちに聞いたが、あと二日もあれば港に着くそうだ」
 朝から船の表を見回り様子見をした朝明は、薄暗く湿った空気が立ち込める船室に戻ってきた。それを聞いた己煥は相変わらずその顔を白くさせながらも、伏していた瞼を持ち上げ、普段は切れ長で冷やかに見えがちな目元を緩ませる。
「一昨日出たから……五日か」
 冬と違って風を待つ必要がない夏は、大風さえなければ本来一週間ほどで帰国できるのだ。もうすぐ小さくも美しい母国の港に入り家族が待つ屋敷に帰れるのだと思うと、だいぶ気が楽である。さすがに一日中この密閉された船室で寝ているわけにもいかず、己煥は横たえた体を起こしてみる。
 ちょうどそのとき、船室の下からなにかが崩れ落ちるような物音がした。ふたりで梯子から下を覗き込むと、己煥らと同じ年の頃の小柄な青年が、「待て」だの「こらっ」だの声を上げながら暗い船底でなにかを追いかけまわしている。
「なにをやっているんだ聡伴」
 聡伴―――梅永繁こと永波間筑登之親雲上は朝明同様、書記の副官としてこの船に乗っている中流士族の子息である。
 朝明が船底に降りてみると、大小の行李や木箱がごった返すなか聡伴が尻餅をついており、その足元では金の両目を光らせた茶色の毛玉がちょこまかと動き回っている。 なにか獲物でも仕留めたあとなのか、口の周りを丁寧に舐めまわしていた。その隙をつき、静かにしゃがみ込んで持ち上げてみると、これまで暴れまわっていたとは思えないほど腕のなかで大人しく丸まった。
「私がいた船室からここまで散々逃げ回った癖に……朝明様の腕のなかではすっかり借りてきたなんとやら、ですね……城下の娘たち同様に人を見る目がある 」
「一応此奴は雄のようだぞ」
「選り取り見取りでよろしいじゃないですか。それより己煥様の体調はいかがです?従人の林宗信とやらが福州の商人からやたらに薬を仕入れていたので船酔いに効きそうなものを少し分けてくれと頼んだんですがね、さっぱり断られまして。もしかすると怪しげな仙薬でも手に入れて独り占めでもするつもりですかね��
 聡伴が猫を抱えて突っ立っている朝明を横に、崩れ落ちた行李や周りに散らばった細々とした積荷をてきぱきと積み上げなおしていると、上で休んでいた己煥が降りてきた。
「眉唾物の仙薬は不要だが……だいぶ治まってきたし、あと二日もすれば港に着く……かたじけない」
「とんでもございません己煥様!大事に至らず安心しました。旅役のあいだお二人にはずっと助けられっぱなしでしたから、私もお力になれたらと思ったのですが……」
「次に期待しておこう」
「ははっ、まったく朝明様は誠に無理難題をおっしゃいますねぇ。”次”があるように功績か運を上げられれば、の話ですね。さて……今日のぶんのお水、取って参りますよ、己煥様。あぁ朝明様、此奴の面倒もう少し見てていただけますか?」
 猫の処遇を朝明に丸投げした聡伴は、あっという間に水を汲みに船の最後尾へと消えていった。
 しばらくすると、大人しくしていた猫は両の後ろ足をばたつかせ、ぬめるように朝明の腕を抜け出して地面に着地すると、今度は積荷の間からはみ出している組紐とじゃれはじめた。
「待て!」
「このっ……」
 申し訳ないと思いつつも、体調が万全ではない己煥は壁に寄りかかり見守ることに徹していた。
 紐とのじゃれ合いは加速し、結局朝明も聡伴のようにつかみどころのない柔らかい身体を捕らえるのに苦戦することになり、  あたりの床はすっかり小箱やら紙やらで元通りに散らかっている。 ふたりが散乱した積荷を片付けはじめる頃には、 事の元凶は動き疲れたのか、口に赤い組紐を咥えたまま床に転がってぐるぐると喉を鳴らしていた。
 なんらかの封の役割をしていたであろう組紐の先を、ふと目で追ってみると、大きな積荷の隙間に蓋のずれた朱漆の小箱が落ちていた。己煥が箱を拾い上げ蓋を取ると、艶やかな薄桃色の切り身が三切れ、窮屈そうに――― 先程の大乱闘の犠牲になったのであろう―――箱の端に収まっている。
「へぇ、肉か?旨そうだな」
 それなりの厚みがあるにもかかわらず蜻蛉の羽のように透きとおり、目が眩むような光を放つその一枚一枚にはすこぶる脂が乗っていることがわかる。船旅で削がれた食欲が戻ってくるような気すらした。 いっぽうで、あまりにも活きの良さげなその様は、口に入れるにはいささか恐縮で躊躇われる。それでも不思議と湧いてくる食欲を唾液と一緒に喉へ追いやった。
「いや、肉にしては……」
「なあ己煥、腹が減ったな」
 この船に積み込まれた荷物は、ほとんどが大陸の皇帝に謁見した礼として下賜されたものだが、己煥らをはじめ使節たちが現地で私的に買い入れた物品も含まれている。公的に取引された品々は清冊―――物品一覧に記載されて事細かに確認されるが、私貿易についてはその限りではない。
「らしくもないことを考えるな朝明」
 少しくらい積荷が減っていたとしても、
「出航から何日経っているかわかるだろう?」
 慌ただしく福州を発った我々は、
「煮てもいないし塩に漬けてすらいないんだ」
 たかが小さな箱ひとつになんか、構ってはいられない。
「朝明、おそらくこれは肉ではない」
 清冊に書かれていない箱の中身なんて、誰も知らない。
「たったの三切れでは、腹も満たされまい」
 出航から三日も経てば誰がなにを船に持ち込んだかなど、きっともう誰にもわかりやしないのだ。 立ち尽くす己煥が手に持つ箱から切り身のひとつをつまみ上げ、宙にかざしてみる。日の入らない船底で、薄桃色の肉は美しくその身を七つの色に光らせていた。
「朝明……!」
 
 なあ己煥―――腹が減らないか?
 傍らの猫がなにかの味を思い出したかのように、舌なめずりをはじめた。
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来週からさすがに資格の勉強再開しないとまずいんですが今がのってるんですよねぇ……脂が?
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minatokucarpet · 1 year
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chishiru61 · 1 year
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2022年に見た展覧会
0102 民藝の100年+MOMATコレクション@MOMAT 0108 ハリーポッターと魔法の歴史@TSG ★0108 白井晟一入門 第二部@渋谷区立松濤美術館 0108 ザ・フィンランドデザイン展―自然が宿るライフスタイル 0110 大英博物館ミイラ展@国立科学博物館 ☆0116 大・立石タイガー展 世界を描きつくせ!@うらわ美術館 ☆0116 大・立石タイガー展 世界を描きつくせ!@MOMAS 0116 梅津庸一展 ポリネーター@ワタリウム美術館 ★0122 久保田成子展 Viva Video!@MOT ★0122 クリスチャン・マークレー トランスレーティング/翻訳する@MOT ☆0122 ユージーン・スタジオ 新しい海@MOT 0128 ミケロ・バルセロ展@東京オペラシティアートギャラリー 0129 矢萩喜從郎 新しく世界に関与する方法@神奈川県立近代美術館 葉山 0129 フィリア―今道子@神奈川県立近代美術館 鎌倉別館 0206 松岡コレクションの神髄@松岡美術館 0206 奇想のモード@東京都庭園美術館 ★0213 ミロ展 日本を夢見て@Bunkamura ザ・ミュージアム 0213 メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年 0227 グランマ・モーゼス展+ART/MUSIC@世田谷美術館 0305 木村伊兵衛と画家たちが見たパリ 色とりどり@目黒区立美術館 0306 ドレスデン国立古典絵画所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展 0306 特別展 ポンペイ@東京国立博物館 0312 建部凌岱展 その生涯、酔たるか醒たるか@板橋区立美術館 0325 兵馬俑と古代中国~秦漢文明の遺産~@京都市京セラ美術館 0325 挑む浮世絵 国芳から芳年へ@京都文化博物館 0326 ゴッホ展 響きあう魂 ヘレーネとフィンセント@名古屋市美術館 0327 GILBERT & GEORGE CLASS WAR, MILITANT, GATEWAY SELECTED WORK FROM THE COLLECTION@エスパス ルイ・ヴィトン東京 0401 はじまりから、いま。1952-2022@アーティゾン美術館 0415 上野リチ ウィーンから来たデザイン・ファンタジー展@三菱一号館美術館 0416 生誕100年 朝倉摂展@神奈川県立近代美術館 葉山 0416 山口蓬春と四季の移ろい@山口蓬春記念館 0416 山口勝弘展―『日記』(1945-1955)に見る@神奈川県立近代美術館 鎌倉別館 0417 日本画トライアングル 画家たちの大阪・京都・東京@泉屋博古館 東京別館 0417 ダミアン・ハースト 桜@国立新美術館 0423 Chim↑Pom展:ハッピースプリング@森美術館 0423 2121年 Futures In-Sight展@21_21 DESIGN SIGHT 0425 Chim↑Pom展:ハッピースプリング ミュージアム+アーティスト共同プロジェクト・スペース 0430 アール・デコの貴重書@東京都庭園美術館 0430 東京の猫たち@目黒区立美術館 ☆0501 カラーフィールド 色の海を泳ぐ@DIC川村記念美術館 0502 没後50年 鏑木清方展+MOMATコレクション@MOMAT ☆0503 ふつうの系譜 京の絵画と敦賀コレクション@府中市美術館 0504 SHIBUYAで仏教美術@渋谷区立松涛美術館 ★0504 カナイフ���キ 個展 『ゆっくりと届く祈り』@GALLERY X 0507 空也上人と六波羅蜜寺@東京国立博物館 0508 燕子花図屏風の茶会 昭和12年5月の取り合わせ@根津美術館 0515 シダネルとマルタン展@SOMPO美術館 ★0522 特別展 モディリアーニ―愛と創作に捧げた35年―@中之島美術館 0522 森村泰昌:ワタシの迷宮劇場@京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ 0529 ボテロ展 ふくよかな魔法@Bunkamura ザ・ミュージアム 0604 吉阪隆正展 ひげから地球へ、パノラみる@MOT 0604 生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展@MOT 0617 特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」@国立科学博物館 0624 スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち 0624 木梨憲武展@上野の森美術館 0625 生誕100年 朝倉摂展@練馬区立美術館 ☆0626 セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策@アーティゾン美術館 0626 Transforamtion 越境から生まれるアート 0630 2022イタリア・ボローニャ国際絵本原画展@板橋区立美術館 0702 牧歌礼讃 / 楽園憧憬 アンドレ・ボーシャン + 藤田龍児@TSG 0702 日本の映画館@国立映画アーカイブ 0707 孤高の高野光正コレクションが語る ただいま やさしき明治@府中市美術館 ☆0713 スイス プチ・パレ美術館展@SOMPO美術館 ☆0715 特別展アリス へんてこりん、へんてこりんな世界@森アーツセンターギャラリー ☆0717 クマのプーさん展@PLAY!MUSEUM ☆0718 蜷川実花 瞬く光の庭@東京都庭園美術館 0718 アヴァンガルド勃興@東京都写真美術館 0718 メメント・モリと写真―死は何を照らし出すのか@東京都写真美術館 0722 ガブリエル・シャネル展 MANIFESTE DE MODE@三菱一号館美術館 0723 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで@NMWA 0725 故宮の世界@東京国立博物館 0727 深堀隆介展 金魚解禁 日本橋@日本橋三越 0803 もしも猫展@名古屋市博物館 0803 国際芸術祭 あいち2022@愛知県美術館 0806 ゲルハルト・リヒター展+MOMATコレクション@MOMAT 0807 津田青楓 図案と、時代と、@渋谷区立松涛美術館 0814 こぐまちゃんとしろくまちゃん 絵本作家・わかやまけんの世界@世田谷美術館 0820 ライアン・ガンダー われらの時代のサイン@東京オペラシティ アートギャラリー 0823 長谷川潔 1891-1980展―日常にひそむ神秘―@町田市立版画美術館 0827 かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと@Bunkamura ザ・ミュージアム 0917 ルートヴィヒ美術館展 20世紀美術の軌跡—市民が創った珠玉のコレクション@国立新美術館 0919 日本美術をひも解く@東京藝術大学大学美術館 0919 芸��×力 ボストン美術館展@東京都美術館 0919 キース・ヴァン・ドンゲン展@パナソニック汐留美術館 ★1002 生誕140年 ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎 @アーティゾン美術館 ★1008 ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展@NMWA 1009 ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで@MOT 1009 MOTアニュアル2022 私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ@MOT 1022 旅と想像/創造 いつかあなたの旅になる@東京都庭園美術館 ★1023 装いの力―異性装の日本史@渋谷区立松濤美術館 1029 イッタラ展@Bunkamura ザ・ミュージアム ☆1029 国立新美術館開館15周年記念 李禹煥@国立新美術館 1029 日本の中のマネ ―出会い、120年のイメージ―@練馬区立美術館 1110 クマのプーさん展@名古屋市美術館 1110 ジブリパークとジブリ展@愛知県美術館 1123 展覧会 岡本太郎@東京都美術館 1124 アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで@府中市美術館 1126 マリー・クワント展@Bunkamura ザ・ミュージアム 1127 国宝 東京国立博物館のすべて@東京国立博物館 1202 つながる琳派スピリット 神坂雪佳展@パナソニック汐留美術館 1204 川内倫子展 M/E@東京オペラシティ アートギャラリー ☆1206 雰囲気のかたち@うらわ美術館 1206 桃源郷通行許可証@MOMAS 1210 響きあう名宝―曜変・琳派のかがやき―@静嘉堂文庫美術館 1217 瞳に映るファンファーレ ―浜口陽三の銅版画と川瀬巴水をはじめとした新版画―@ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション 1217 ヴァロットン 黒と白展@三菱一号館美術館 1218 善本 喜一郎 写真展 東京タイムスリップ 1984 ⇔ 2022@OM SYSTEM GALLERY 1218 おいしいボタニカル・アート@SOMPO美術館
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tori-utsuwa · 2 years
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. 明日から始まるまゆみ窯展、店内の様子ラストは喫茶入り口のコーナー 鎬や象嵌の長方皿、漬け物壺など 全て作品を並べ、花も入れ終えた昨日の夕方、足を捻挫してしまいました 今朝、病院でギブスをつけてもらい一安心 少々頼りない姿で皆さまをお迎えすることになりますが、ご容赦ください 店内、頼もしいうつわがずらりと並んでおります! 眞弓さんご夫婦と共に、初日元気にお待ちしています☺️ どうぞよろしくお願いします_(._.)_ ∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵ まゆみ窯展 2022.9.23~10.2 10-17 OPEN 会期中9/27休み ∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴ #まゆみ窯#眞弓亮司#まゆみ窯展#RenrenSweets#2022秋のもよおし#山口県#下関市#川棚温泉#うつわ好き#手仕事#うつわとくらし桃李 https://www.instagram.com/p/Ciy-E_cP9r_/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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eyes8honpo · 3 years
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四章 重力崩壊
「こっ、のぉ~! 落ちぶれ、貴族のっ、クセに! 生意気だぞ~!」 「そういう、ことは! 我々に! 勝ってから! 言ってもらいましょうか成金貴族!」 「むき~! テニスだったら絶対負けないのに~!」 「姫ちゃん落ち着くんだぜ~! 連携が崩れちゃうんだぜ!」 「今です春川くん! 攻めていきますよ!」 「HaHa~! みんなでバドミントン楽しいな~? 宙はとっても気に入りました!」  なんで、あんなに元気に動き回れるんだろう。  体育館の壁にもたれかかって、両膝を抱え込んだ翠は、目の前で走り回る同級生たちの姿にげっそりと肩を落とした。隙間から吹いてくる風は生ぬるく、湿気を帯びて翠の体力を奪い続ける。今年の梅雨明けは、例年より早い見込みです。連日流れるテレビのニュースに、うそつけ、と悪態をついた。朝から酷い濁り方を見せていた空は、雨こそ降らないものの、翠を心の底から憂鬱にさせた。 「ちょっと~暗い暗い! 暗いよ翠くん! そんなんじゃ幸せ逃げちゃうよ~?」  頭上から降ってきた底抜けに明るい声に、翠はあからさまに眉をひそめた。別に、逃げてもいいし。投げやりに答えると、ひなたは「ふーん」とどうでもよさそうに言って、翠の隣に腰をおろした。一人にしておいてほしかったのに。内心、そうは思ったものの、さすがにこのあと同じコートに立つ相方を邪険にするわけにもいかず、翠は座り込んだひなたのことを恨みがましくじっと見ていた。 「ずいぶん機嫌が悪そうだけど、どうしちゃったのさ。ライブは大成功だったって聞いたけど?」 「……誰にきいたの」 「忍くん。ま、聞いたのは俺じゃなくてゆうたくんだけどね!」 「あ、そう……」  そっけない翠の対応に、ひなたは動じなかった。  すごいお客さんだったらしいね。さっすが流星隊。一年生の子も堂々としてたって、話題になってるみたいだよ――会話するでもなく一方的に話し続けるひなたに、翠は辟易しきっていた。視線の先では、光のスマッシュが決まったのか、桃李と宙が嬉しそうに跳びはね、司だけが悔しそうに唇を曲げていた。  ライブが成功したというのは事実だった。  去年と同じ舞台。  遊園地でのヒーローショウ。  スーパーノヴァの再演。 「やりたいことがあったら、どんどん言ってほしいッス」  鉄虎の言葉に、後輩二人は目を輝かせて即答した。  勢いに圧倒されて、やや仰け反った鉄虎の背中を昨日のことのように思い出せる。実現させるためには、小さなことからコツコツと、ッス。まずはどうしても公園での定期的なヒーローショウとか、ゴミ拾いとか、そういう���ランティア活動がメインになっちゃうッスけど。申し訳なさそうに告げた鉄虎に、二人は「やります」と嬉しそうに笑った。去年度の実績があるとはいえ、抜けた先代の穴は大きい。それを分かってか、望美も環も恐ろしく熱心にレッスンをこなし、どんな小さなライブにも手を抜かなかった。 「自分たちが入ったことで、流星隊の人気が落ちるなんてこと、あっちゃいけませんから」  普段あれほど気弱な環が、毅然とした表情でそう告げたのが、とどめだったように思う。  その日を境に鉄虎はあまり笑わなくなった。  昼休みも放課後も、隙を見ては企画書に赤ペンを引いて唸るような日々が続いた。外部の仕事を拾ってくるのは、翠たち三人が思っていたより遥かに困難だった。プロデュース科に頼ろうにも、あちらはあちらで新入生の育成に手一杯で、去年のように各ユニットのことを���にかけられる状態ではなくなっていた。かろうじて忍が生徒会経由で取ってきた仕事が成功したからよかったものの、鉄虎の表情は沈んだままだった。 ――あのひとは、やっぱりヒーローだったんスね。  ぽつりとこぼれた言葉の意味が、最初、翠には分からなかった。疲れきった鉄虎の右手がスーパーノヴァと書かれた企画書の束を高々と掲げ、一年生が割れんばかりの歓声をあげたその時になって、ようやく理解した。あの真っ赤な背中はいつも、たった一人であちこちを飛び回り、そんな努力の形跡など微塵も見せずに、誰かの願いを叶えていったのだということ。そして、あれと同じ色を背負った重圧から、鉄虎は必死で駆けずり回っていたのだということ―― 「鉄くんはさ」  心臓を掴まれたような悪寒が身体中に走る。 「大丈夫なのかな」  心を読まれたのかと思った。  血の気の引いた指先を握る。  隣を伺えば、ひなたの深いエメラルドの瞳が悩ましげに細められていた。 「……本人は大丈夫って、言ってるけど……」 「うーん。翠くんが相手でもそうか。困ったなあ。俺も友くんも、結構あの手この手で話しかけてるけど、大丈夫の一点張りだし。……なんとかしてあげたいんだけど。鉄くん、ちょっと頑張りすぎ。あんなんじゃそのうち倒れちゃうよね」 「……流石に、倒れるまで無茶しないとは思いたい……あんな分かりやすい反面教師がいたんだし……」 「反面教師がいるのとそれを自分に活かせるかどうかは別物だよ」  冷ややかな視線が、どこか遠くを見つめるように投げ出された。  ゾワ、と背中を嫌なものが駆けていく。 「ていうか、本気でそう思ってるんなら、ちょ~っとおめでたいんじゃないかな〜」  独り言のように呟くと、ひなたは今さっきまでの騒がしさが嘘のように黙ってしまった。  不穏な沈黙が、湿気と混ざり合って、ドロドロと質量を増していく。
「ひなちゃん! 交代な~!」  呼び声がして、翠もひなたも顔をあげた。  黄色い髪をふわふわと揺らしながら、宙が駆け寄ってくる。 「宙くん」  名前を呼び返しながら、ひなたが立ち上がった。ちょっと前までは苦手だと思っていたのに、今この場に限っては声をかけてくれて助かったとさえ思う。隣の不快な重圧が小さくなって消えたのを感じて、翠は身勝手にもほっとしていた。  コートの隅では、勝敗が決まったにも関わらず、桃李と司が睨み合いを続けていた。光の姿はそこにはなかった。代わりに遠くの方で、走るな天満、と教師の怒声が響いていた。 「おつかれ! アンドおめでと~! すっごい接戦だったね!」 「なかなか終わらなくて楽しかったな~? 次のゲームも今みたいにずーっと続いてほしいです! 宙はバドミントンが大好きになりました!」 「あはは、それはよかった。よーしじゃあ俺も頑張ってこよっかな! ぐんぐん勝ち上がって宙くんたちと当たりたいよね! 翠くん!」 「いや、俺に振らないで……ていうか勝手にやる気出されても困る――」  重い腰を上げてようやく立ち上がると、目線の高さに待ち受けていた形相に翠は息を飲んだ。 「ねえねえ、まっさかと思うけどさ~あ?」  この、時折見せる、辛辣な態度。 「鉄くんにも同じこと、言ってないよね」  薄々勘付いていた。だから近寄ってほしくなかった。  去年の今頃苛立ちと共にぶつけられた言葉が脳裏によぎる。俺、そんな子たちと一緒にやるの、嫌だな。オレンジ色の髪だけじゃなくて、きっと中身も似てるんだろう。翠は眉をひそめた。わざわざ嫌がることを分かった上で踏み込んでくる姿があの暑苦しい太陽の背中と重なって見えるところも、翠を不機嫌にさせた。 「……言わないよ」  爛々と見開かれた相貌を、睨み返すように見据えた。どうにも、今日の自分は酷く虫の居所が悪い。いつもだったらこんなことは絶対にしないはずだ。だって、余計に面倒なことになるに決まっている。そう思いながらも、翠は嫌悪感を隠せなかった。 「二人とも、どんより曇り空の灰色な~? 何か嫌なこと、あったんですか?」  肩の辺りで、小動物の耳のような黄色が、フワ、と揺れた。  驚いて見下ろせば、青とも緑ともつかない不思議な色の瞳が、空気の重さを打ち消すように輝いていた。翠が返事に窮した数秒の間に、ひなたは二度まばたきをして、いつもの明るさを取り戻していた。 「ううん! なーんにも!」  そう言って笑い、コートのほうへと駆けるひなたの背中を、翠は険のある表情で見送った。  なんにもないわけないじゃないか。下唇を噛んで、俯きがちに歩き出す。 「みどちゃん」  呼び止められて振り向いた。この子が自分の名前をこうして呼ぶのは、珍しい。なりゆきで何度か一緒に遊んだことはあっても、翠にとって宙は友達の友達で、特別親しい間柄というわけでもなかった。それでも宙の声に含まれる気遣いの色は本物だった。宙のように実際色が見えるわけではないが、それくらいのことは翠にも分かった。 「みどちゃん、大丈夫ですか? もう、ず~っと長い間、みどちゃんのまわりで色が濁って、みどちゃんの色が……よく見えないな?」  ううん、と片目をこすって、宙は不安そうに眉をよせた。 「……俺の色って、どんな、」  すがるようなか細い声だった。あまりの不甲斐なさに、消えてなくなってしまいたい、と思った。誰でもいいから助けてほしいと、心のどこかで考えている自分のことが、嫌で嫌でたまらなかった。同時に、不機嫌の理由を突きつけられたような気がして、翠の心はいっそう濁った。  単なる自己嫌悪じゃないか。  かっこわるい。 「普段のみどちゃんはもっと、お日さまの光をいっぱいに受けたみたいな、淡くて明るい葉っぱの色な~。でも……宙が灰色のぐるぐるじゃない時のみどちゃんを最後に見たの、もう随分前のことです」 「……元々、灰色なんじゃないかな……」 「そんなことはありません! それにみどちゃん、ステージに上がると時々、弾ける花火みたいにとってもカラフルになる瞬間があるな~! きっとモヤモヤに隠れて今は見えないだけです! だから、モヤモヤを吹き飛ばして、宙はまたみどちゃんの色と出会いたいな~? 何かお手伝いできますか?」  真剣に考え込んで小さく唸った宙の、鮮やかな黄色のつむじを見つめて、翠はもう一度唇を噛む。どうして、誰もがみんな、こんなに他人のために一生懸命なんだろう。自分のためにすらろくに動けない自分が、余計に惨めだ。黙ったままの翠の、うつろな視線の先で、ポンと軽快な音が鳴る。驚いて少し仰け反ると、宙はその小さな手のひらに、まっしろい鳩を一羽、乗せていた。  くる、くる。  あっけにとられる翠の顔を見上げて、鳩は小さく鳴いた。  かわいい。  けど、どこから?  呟いた翠に、宙はにっこりと笑った。そしてまたポンと煙を起こして、手の中のものを消してしまった。翠は目を丸くして、からっぽになった宙の、小さな手のひらを見つめていた。 「宙はまだ、ししょ~みたいに魔法が上手く使えません。大ししょ~みたいなマジックも難しいな~? でも願います! みどちゃんの色がキラキラの、本当の色になるように!」  ぱちん、と鳴らした宙の指先に輝くネオンのような光に、翠は目を瞬かせた。  なにかの見間違いかな。  数回のまばたきのあと、その光は跡形もなく消えてしまった。 「みどちゃん」  いってらっしゃい。  見送りの挨拶に、はっと我に返って顔を上げると、コートの向こうでひなたが大きく手招きをしていた。 「うん……ありがとう、春川くん」  駆け出した両足は、不思議と少し軽くなっていた。それが魔法だというのなら、翠は宙のことを立派な魔法使いだと思う。  でも、もし本当に魔法が、あるのなら。 「どーしったのっ? 翠くん。宙くん、手品でも見せてくれた?」  いつも通りの朗らかな笑みを携えて、ひなたがラケットを投げてよこした。  慌てて受け止めながら、うん、とぎこちなく返事をする。 「そっか。……よかった」  穏やかにそう言って、ひなたはコートの中央線をまたいでいった。さっきまでの淀んだ空気は、綺麗さっぱりなくなっていた。不思議だ。ラケットのグリップを握り直しながら、翠も自分の位置についた。  本当に魔法があるのなら。  それをかけてあげたいのは、もっと。  俺なんかじゃなくて。  脳裏にちらつく黒いえりあし。その項垂れた首が、疲弊した背中が、同じように少しでも軽くなればいいのにと、願わずにはいられなかった。ピィ、と吹き鳴らされたスタートの合図に、翠は深々と息を吐き出した。
   ★
「あれっ? 嵐ちゃん先輩なんだぜ?」  教室のドアの前に佇む人影を見て、光が駆け出した。あいつ、元気すぎ。汗だくの桃李がげんなりと眉間にしわを刻む。一ヶ月ほど前までは甲斐甲斐しく注意を飛ばしていた桃李だったが、全く聞く耳を持たないのでとうとう諦めたらしい。 「あらしちゃーんせーんぱーい」  大声で叫びながら手を振る光に、嵐は顔を上げて、あら、と口元を押さえた。 「やァだ、体育だったのねェ。道理で誰もいないはずだわ」 「うん! さっきまでバドミントンしてたんだぜっ! グランドがぐちゃぐちゃだからって、最近ずっと体育館にぎゅうぎゅう詰めで、オレすっごく窮屈だったんだぜ~」 「そうよね、最近雨ばっかりでなかなか外を走れないもの。アタシも思った以上にストレスだわ」 「きっとアドちゃん先輩に聞いてもおんなじこと言うんだぜ! アドちゃん先輩も絶対、広いとこのほうが好きだもん! やっぱり世界は広いほうがいいんだぜっ!」 「ウフフ。また随分と話が大きくなったわねェ。アタシは別に体育館でも言うほど困らないけど……あっ! あらヤダ司ちゃん!」  ぞろぞろと教室へ入っていく集団を、嵐が慌てた様子で呼び止める。ちょうど廊下から教室へと踏み込んだばかりの司が、つんのめって半回転した。邪魔ぁ、と桃李が低く吐き捨てたが、幸い司の耳には届いていないようだった。 「はい、鳴上先輩! 司でしたらこちらに!」 「危ないところだったわァ、司ちゃんに用があったのよアタシ。今日の練習なんだけどね、訳あって押さえてた場所を他に譲ることになったの。申し訳ないんだけど、放課後はスタジオの方に来てくれるかしら?」 「承知致しました、ではそちらへお伺いします。……しかし、わざわざお立ち寄りくださるとは。この程度のこと、Mailして頂ければ結構ですのに……」  不思議そうに小首を傾げる司を、ぼんやりと眺めたあと、嵐は教室のドアからわずかに中を伺って、小さく息をついた。 「……どうかなさいました?」 「鉄虎クン、は……そうね。このクラスじゃないものね」 「ええ。彼はA組です。何かご用でも?」 「用って程でもないんだけど……ちょっとだけ、ね。急に心配になっちゃったの。……思い詰めてるカンジだったらフォローしてあげたかったんだけど」 「そう――でしたか」  ほんの少し、察したように表情を曇らせて、司が相槌を打つ。 「鉄ちゃん、どうかしたの?」  きょとんと目を丸くさせて、光が嵐と司を交互に見た。  言い淀んだ司の横で、嵐は「なんでもないわ」と微笑んだ。 「アタシの杞憂で済むんなら、それに越したことはないのよ」  付け足された祈りのような言葉に、司も静かに頷いた。 「それじゃ司ちゃん、放課後にね」 「……はい。また後ほど!」 「光ちゃんもあんまり変なとこ走っちゃダメよォ? 椚センセに叱られちゃうから」 「ええ~? うーん、分かったんだぜ~……」  光がしぶしぶ返事をすると、嵐は「ホントに分かったのかしら」と困ったように眉尻を下げて笑った。駆け足で教室に戻っていく光と、軽く会釈をした司に、嵐もひらりと右手を振って歩き出す。
「あっ、あの」  それは予想外のことだったのだと思う。  呼び止められた嵐は、訝しげな表情でゆっくりと振り向いた。  そして声の主を捉えると、納得したように「あぁ」と頷いた。さほど面識があるわけではなかったが、顔くらいは覚えられていたのだろう。どうも、と首をすくめて、翠は胃のあたりで両手を組んだ。 「その、鉄虎くん……何か言ってました、か――」 ――やっぱりやめておけばよかった。  みるみるうちに後悔したのは、嵐の長いまつげがぴんと伸びて、次第に怒りを滲ませ始めたからだった。 「あのねェ」  凄みの利いた低��が、翠の鼓膜をふるわせる。  飲み込んだ息が、ヒ、と悲鳴のように鳴った。 「聞きたいのはアタシの方だわ。あの子、一体どうしちゃったっていうの? ちょっと見ない間にこわァい顔になっちゃって……似合わないったらないわ。眉間にシワの寄ったアイドルなんて泉ちゃんだけで充分よ、全く」  一歩、また一歩と嵐が詰め寄ってきて、翠は大きく後ずさった。捲し立てられた言葉が、ぐるぐると頭の中を駆けめぐる。ぎゅっと握った体操服の裾。廊下の隅に落ちた視線。嵐はくの字に折れた翠の体を一瞥して、ため息まじりに前髪をかきあげた。 「アナタ、同じユニットでしょうに。アタシに声をかけるだけの勇気があるんならね、ちゃんと本人を気にかけてあげなさいな」  冷ややかな声だった。  勇気を出したつもりで、一番肝心なところから逃げた卑怯者。そうなじられたようで、ぐわん、と頭の後ろが痛んだ。やっぱりやめておけばよかった。再び後悔がわいてきて、目頭に滲む。  いつもこうじゃないか。  中途半端になにかして、なにかした気になって、安心したいだけ。  本当にやるべきことは、別にあるのに。  分かっているのに。 「……ごめんなさい。流石にちょっと、言い過ぎだわ」  顔を上げてくれる?  ほんの少しやわらいだ口調に、翠は恐る恐る、目だけを向けた。絡んだ視線の先、淡い紫の瞳。何度かの瞬きのあと、悔やむように眉をさげて、嵐は息を吐き出した。 「あぁ、やだ、これじゃただの弱い者いじめじゃない。カッコ悪い。そうよね、自分の不甲斐なさを棚に上げて、偉そうなこと言えた義理じゃないわよね。でもどうしても見過ごせなかったのよ、アタシ。アナタには分からないかもしれないけど……人がボロボロに崩れ落ちる瞬間なんて、本当にあっという間なんだから」  渋い表情のまま一息にそう言うと、嵐は目を細め、ぼんやりと虚空を見つめた。 「崩れ落ちたあと、元に戻る保障もないのにね。……残酷な世界よねェ」  ゾ、と背筋が凍る。  粟立った両腕を、反射的にさすった。  嵐は、頬に片手を添えて大きくため息を落とした。 「そろそろ、着替えないといけないわよね。授業が始まっちゃう。……鉄虎クンには、アタシからも声をかけてみるわ。お互い勇気を出しましょ、“翠クン”」  え、と弾かれたように顔を上げる。名前。翠がそう呟くと、嵐はやわらかく微笑んだ。 「あの子がそう呼ぶから、ついね。イヤだったかしら?」  いえ、別に。ゆっくりと首を横に振ると、嵐は満足そうにもう一度笑って、じゃあね、と身を翻した。翠はしばらくそこに立ち尽くしていた。翠クン。翠くん。頭の中で、呼ぶ声を思い出そうとして、急に恐ろしくなった。一緒になって浮かんでくる表情の中に、笑顔が見つからない。翠くん。みどりくん。最近、呼んでくれることさえ少なくなった。行きと帰りの重たい沈黙。また明日。呟くとき、頬に落ちる、暗い陰。 「高峯くん」 「ひっ」  大きく肩を震わせて振り向くと、そこにはぎょっと目を見開いた司が立っていた。  胸元にはきちんと結ばれた、青のネクタイ。 「す、すみません。驚かせてしまったようで」 「いや、俺も、すごい声出しちゃって……びっくりしたよね……?」 「ふふ。少々驚きましたが、お気になさらず。それより高峯くん、ご無事でしたか?」 「ぶ、無事って、何が……」 「いえ……鳴上先輩は、普段はお優しい方なのですが、ひとたびお怒りになるとそれはそれは恐ろしい形相でこちらへ詰め寄っていらっしゃいますので……」  我が身のことのようにぞっとする司の表情に、翠は少し驚いた。 「……朱桜くんが怒られることなんかあるの」  この品行方正で、完璧にも思える小さな王様が。  不思議に思って尋ねると、司は普段の凛々しさから一転して、恥ずかしそうに頬をかいた。 「私もPerfectではありませんから。人としても、Leaderとしても、まだまだ未熟者です。ご指導頂くことの方が多いですよ。……意外でしたか?」  うん、と素直に頷いた翠に、司はもう一度照れたように笑った。先日も、後輩と激しい口論になって、先輩方に叱られたばかりでして。続く言葉に、ぽかんと口が開く。 「誰しも、Perfectな人間にはなれないものですね。……私も認められるようになったのは、つい最近のことですが。叱られて、Supportして頂いて、それが悪いことではないのだと思えてからは随分楽になりました。なにせ先代がああですから私の失態など可愛いものです。あそこまでFreedomに生きるのは命じられても困難というもの……ああいえ、すみません、これは余計な話でした」  照れ隠しなのか、ただの愚痴なのか、司は一息にそう言うと、口元に手をやって咳払いした。  なんだか、ただの同級生みたいだ。  間抜けな感想を抱きながら、翠はまばたきを繰り返した。  戦場で戦う背中しか知らなかった。遠い世界の人間だと勝手に思い込んでいた。完璧な人間なんかいない。いつかの赤い炎が、目の奥によみがえる。  それでいいんだと、あんたも言っていたっけ―― 「……彼も、あまり思い詰めないといいのですが」  は、と我に返る。見下ろした司は浮かない表情で眉をひそめていた。胸のあたりがぞわぞわしてきて、翠はきつく両手を組み直す。戻��ましょう。司が促したちょうどその時、チャイムが響いた。少しして入ってきた教師は、体操着のままの翠を見て意外そうな顔をしていた。あと一時間。掛け時計の短針を静かに見つめながら、翠は小さく身を縮ませていた。
   ★
「それじゃあ俺、鍵取りに行ってくるッス――」  教室から勢いよく飛び出してきた鉄虎は、廊下へ降り立ってぴたりと動きを止めた。  むぎゅ。忍がぶつかったのか、後方で潰れたような悲鳴があがる。 「お、お疲れ……」  かすれた声で言って、翠は鞄のひもを握り締めた。お疲れッス。返事をしながらも、鉄虎の目は不思議なものを見つめるようにきょとんとしていた。 「あれっ? どうしたんでござるか? 今日部活でござろう」 「うん、今から行く……けど……」  鉄虎の肩の向こうから、背伸びした忍のまるい頭がのぞく。煮え切らない語尾に、鉄虎はゆっくりと眉をひそめた。部活、遅れるッスよ。生真面目な、硬い声が飛んでくる。うん、とまたひとつ頷き返して、翠は縮こまった。忍は不安そうに、翠と鉄虎の表情を伺っていた。 「な、鳴上先輩が」  呻くような、苦しい声だった。鉄虎は少し目を見開いた。 「心配、してた。……鉄虎くんのこと……」  また。逃げる。  頭のうしろが、ズキ、と痛んだ。  数秒の沈黙があった。拙者、鍵、取ってくるね。囁くように忍が言って、そうっと鉄虎の背中に触れる。鉄虎が返事をする前に、忍は音もなく廊下を駆けていった。ぼう、とその背中を見送りながら、鉄虎も静かに呟いた。鳴上先輩。 「……いつの話ッスか?」 「さっき……五限のあと、たまたま会って」 「先輩、なんて」 「……最近。顔がこわい、って」  かお。  繰り返して、ぺたり、と頬に手をやる。  自覚すらなかったのかと、再び悪寒が走った。アタシに話しかける勇気があるのなら。よみがえった叱咤の言葉に、強く、強く両手を握りしめる。 「てっ……鉄虎くんは、その……大丈夫なの?」  絞り出したそれが、翠にとっての精一杯だった。ばくばくと鳴る心臓を必死で押さえつけながら、沈黙に耐える。なにか、誰か、何か言って。祈るように一度目をつぶり、思い切って顔を上げた瞬間、翠はまた静かに後悔するのだった。 「大丈夫ってなんスか」  低い声。  寄せられた眉。  不服そうに曲げられた唇。 「な、んで怒るの……」 「別に怒ってないッス」 「だから、顔、怖いんだって……」 「元々こういう顔ッスよ。で、何が大丈夫じゃないんスか」 「そうは言ってないじゃん……ただ、その……ちょっと頑張りすぎなんじゃないかって、思っただけで……」  一時間前、体育館で聞いた台詞をなぞり返す。  言いたいことはもっとある。このところ減った口数のこと。目の下のなくならない隈。 「大丈夫ッスよ」  それを誤魔化そうとする、不自然なほどの明るい声。 「俺、頑丈ッスからね! ちょっと頑張りすぎるくらいがちょうどいいッス!」 「頑丈なのは、まあ、そうかもしれないけどさ……あんまり根詰めすぎてもよくないっていうか……照明案、帰ったあともやってるんでしょ?」 「だって、やんなきゃ終わんないッスから。さっさとやっつけて、一日も早くレッスンに入らないと。間に合わないッス。去年なんか散々だったじゃないッスか。あんなのは御免ッスよ、もう」  鋭い声で言い放った鉄虎の瞳は、去年の今頃のようにわずかに血走っていた。ステージ上での成功よりも、練習の出鼻をくじかれた苦い記憶のほうが強いのだろう。 「今年こそ、ちゃんと成功させるッス。休んでる暇なんかないんスよ」  あの時感じた焦燥と危うさだ。  とめなきゃ。 「でも……でもさぁ。それでもし、鉄虎くんが倒れちゃったりでもしたら俺たち」 「倒れないッスよ!」  翠の言葉を遮って力の限りに吼えると、鉄虎ははっと顔をあげて息を飲んだ。 「……ごめん。ごめんね。大声なんか出して。びっくりさせちゃって……翠くん、もうそろそろ、行かないとじゃないッスか? 部活、ちゃんと出ないと、ダメッスよ」  ぎこちない笑顔で笑いかけてくる鉄虎に、翠はもう何も言えなかった。  振り絞った勇気は粉々に散ってしまった。これ以上は、踏み込めない。 「俺、忍くんと、待ってるから。……また、あとでね」  無言で頷き返すと、鉄虎は申し訳なさそうに眉尻をさげたまま、廊下を駆けていった。翠も萎縮した体をなんとか動かして歩き出す。鉛のように重たい足だった。本当はもう何もする気にならなかったし、このまま家に帰って寝てしまいたかった。けれど、頭の中でガンガンと鳴り響く鉄虎の声が、翠を立ち止まらせてはくれなかった。待ってるから。その言葉を置き去りにして帰るなんて、できない。滑り落ちてくる涙を手の甲でぬぐいながら、翠は歩き続けた。  遅れて体育館に入ってきた翠を見て、真緒は驚いたように目を見開いた。  そしてすぐに真剣な表情になって、声を潜めた。 「今日は帰るか? 高峯」  問いかけに、帰れません、と首を振る。  渋い顔をした真緒は、分かった、とだけ言って翠の肩をぽんと叩いた。翠の動きはいつも以上に酷い有り様だった。それでも翠は懸命にボールを追った。途中、とげのある声で叱咤を飛ばしていたスバルも、次第にその必死さに口をつぐんだようだった。気付けば時間は過ぎて、真緒が終了の号令をかけていた。 「タカミン、しゃがんで」  その言葉に翠が反応する前に、スバルは器用に背伸びして、翠の頭をぐしゃぐしゃと撫でていった。驚いて固まっていると、「みんな帰るぞ~」と真緒の声がした。荒い呼吸を整えながら時計を見やる。行かなきゃ。大きく深呼吸をして、翠は歩き出した。
 ごめん 先帰る
 着替え終わって携帯を開くと、予想もしなかった一文が液晶の上部に浮かんでいた。受信したのは一時間ほど前のこと。一体、何が。戸惑いながら画面をなぞると、その数分後にもう一通、メッセージが送られていた。
 部活が終わり次第、至急AV室に来られたし。
 いつもはかわいいと感じるカエルのユーザーアイコンが、今日ばかりは不吉なものに見えて仕方なかった。いま行く。返信を打ちながら、慌てて部室を飛び出した。 「おっ、おいっ! どうした高峯!」  尋ねた真緒の声は、翠の耳には届かなかった。
   ★
「し、忍くんっ……」   飛び込んだ視聴覚室で、ぽつんと座る忍は、翠の顔を見るなり椅子から飛び上がった。 「翠くんっ! おつかれでござる!」 「うんお疲れ、鉄虎くんは――」  ぜえぜえと短く息を吐きながら、翠は部屋を見渡した。  いない。  携帯の画面を見た時から分かっていたはずなのに、自分の目で確かめてようやく実感が湧いてきた。いない。鉄虎くんがいない。先帰る。頭の中でぐるぐると文字が躍る。不気味なほどに真っ赤な西日が強く目の奥に差し込んで、酔いそうで、気持ち悪い。 「それが……鉄虎くん、一時間くらい前に、なんかぼーっとするって言い出して……熱でもあるんじゃないかって、保健室に行かせたんでござるけど……」  そのあとすぐ佐賀美先生が来て、先に帰らせるぞって、鞄とか、持っていっちゃったんでござるよ。詳しいことは、拙者にもよく。風邪とかござろうか。心配でござる。やっぱり疲れが溜まってたんでござるな――  説明しながら忍は鞄に荷物を詰め込んで、翠のもとへと駆け寄ってきた。翠は、忍の声を聞きながら呆然としていた。 「……帰る、でござろう? 翠くん」  忍が、不安げに眉を寄せ、翠の腕をつつく。 「――うん」  返事をしながらも、翠はがらんとした視聴覚室を、しばらくじっと見つめていた。  そこから先のことは、あまり覚えがない。気付いたらもう家で、夕飯を食べ終えて、布団の上に横たわっていた。酷く疲れていて、目を閉じればすぐにでも眠ってしまいそうだった。今の翠にとっては都合がよかった。このまま起きていたら、嫌な予感が身体中を埋め尽くして、はち切れてしまいそうだ。ゆっくりと呼吸をして、布団を頭までかぶり直す。どうか、俺のろくでもない予感が、的はずれでありますように――眠る間際の切実な願いは、叶わなかった。  翌朝鉄虎は翠を迎えにこなかった。  次の日も、そのまた次の日も、こなかった。  梅雨はすっかり明けてしまった。晴れ渡る空の下、ひとりきりで歩く商店街はあまりにいつも通りで、翠は途方に暮れてしまった。
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facad · 4 years
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Today’s matcha 安南写の茶碗で濃茶 Camera : Canon EOS 5DsR Lens : Canon EF 50mm F1.2L USM #matcha #greentea #tea_bowl #spring #IGersJP #canon #eos5dsr #ef50mmf12lusm #my_eos_photo #抹茶 #濃茶 #緑水園 #幸の白 #マイケルケリー #安南写 #李朝の茶入 #茶の湯 #侘び寂び https://www.instagram.com/p/CAH9is2AnHF/?igshid=txusipasfi37
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xf-2 · 4 years
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2020年5月8日午後4時50分ごろ、中国海警局所属の巡視船4隻がわが国の領海に侵入したと、海上保安庁第11管区海上保安本部(那覇)が翌9日に発表しました。
 そしてそのうち2隻が、沖縄県八重山郡、尖閣列島所在の魚釣島の西南西約6・5海里において操業中の与那国町漁協所属の漁船(9・7トン)に接近した後、移動する漁船を追尾したと説明しました。中国の巡視船は約2時間後にいったん退去したものの、翌9日午後6時ごろに再びわが国領海に侵入し、10日午後8時20分ごろまでの約26時間にわたり、居座り続けました。
 このような行為は、単に領海を侵犯して、わが国の漁船に危害を加えることだけが目的ではありません。わが国の領域内で警察権を行使しようと試みる、かなり悪質な主権侵害行為で、言うまでもなく重大な国際法違反です。
 日本政府は11日、外交ルートを通じて厳重に抗議を行ったと発表した上で、菅義偉(よしひで)官房長官は「新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向け(中略)中国側の前向きな対応を強く求めていきたい」と述べるにとどまりました。
 それに対して中国の報道官は、わが国の巡視船が違法な妨害を行ったと非難し「日本は尖閣諸島の問題において新たな騒ぎを起こさないよう希望する」と述べ、責任を日本側に転嫁しました。その上で「中日両国は力を集中して感染症と戦うべきだ」と発言しています。
 この両者の言い分を第三国の人が聞けば、どう思うでしょうか。単に「厳重な抗議を行った」と間接的に発表するわが国に対して、中国は具体的にわが国が違法な妨害行為をしたと直接的に非難し、さらに新たな騒ぎを起こすなと盗っ人たけだけしいセリフを吐いています。しかし、世界の人々の大半は、尖閣諸島の存在やその経緯など知りません。
 それらの人々が今回行われた日中両政府の発表を見れば、よくて五分五分、客観的には中国の方が正しいと思うのではないでしょうか。なぜ、わが国は記者会見において、堂々と中国を非難できないのでしょうか。これは今に始まったことではなく、中国が突然尖閣諸島の領有権を主張してから今に至るまで続いています。
 わが国の政府は、尖閣諸島に関して中国が何をしてきても「わが国固有の領土」という呪文を唱えるだけで、国外だけでなく国内に対しても、自国の立場を広報することを怠ってきました。
 この問題に限らず、わが国の対外発信能力が低いことは今回のウイルス対策を見ても分かるように、現政権でも変わりません。このままでは中国のプロパガンダによって、日本がかつてのように悪者にされかねません。まずは内閣府に国内外向けた広報を専門とする部署を設け、諸外国並みに発信力のある報道官がわが国の立場を伝え、官房長官は実務に専念すべきです。
 ここで、日本政府のPR不足を補うために、次の年表で尖閣諸島の歴史をおさらいしておきましょう。
 私も年表を作成していて嫌になったほどですから、読まれた方も不快な思いをされたかと思いますが、こちらに記されている出来事は紛れもない事実です。こうして時系列に並べてみると、中国の明確な侵略の意図が読み取れるかと思います。
 今回の事件に関し、与那国町議会では県や国に警戒監視体制強化と安全操業を求める意見書を5月11日に全会一致で可決しています。さらに15日には石垣市議会も抗議決議を全会一致で可決しています。ですが、地元紙の八重山日報など少数のメディアしか、このことを報じていません。
 わが国の主権が侵害され、地元の議会が怒りの声を上げているにもかかわらず、大手メディアが報じないのは大問題です。マスコミの報道以外に情報源を持たない多くの人たちにとっては、報じられないことはなかったことと同じで、事件そのものも、マスコミが報じないことも知らないままです。
 中国の侵略行為に直面し、一番被害を受けている漁師の声を、国や県、マスコミ、日頃は弱者に寄り添うふりをしている人たちは誰も取り上げません。こんな理不尽なことが許されてよいのかと憤りを感じます。
 私は、中国が尖閣周辺に巡視船を配備するのは大きく分けて二つの理由があると思います。一つは国際社会への実効支配アピールで、巡視船が撮影した映像を利用するなどしてプロパガンダを繰り広げること。もう一つは、わが国の反応をうかがう威力偵察のようなものです。
 改めて年表を見ると、中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めて以来、国内法の整備や実力行使を徐々にレベルアップさせているのに対し、わが国は防戦一方の感があります。なお、中国で最初に国有化を主張した周恩来元首相は、尖閣諸島の領有権を主張し始めた理由として「国連の調査により、周辺海域に油田があることを知ったから」と述べています。
具体的な行動を起こし、報道を通じて自分たちの意思を表明する中国は、日本国内の世論を注視しています。そして、世論が弱いと見るや強い手段に出て、強いと見るや対応を緩和することで、じわじわと侵略のペースを進めてきています。
 2012年にわが国が尖閣諸島の三つの島を国有化すると、中国は大騒ぎして哨戒艦による領海侵犯を常態化させました。ですが、本当は彼らこそ、その20年も前の1992年に国内法で尖閣諸島の領有を明記、つまり国有化を表明しているのです。
 92年当時の日本政府はこのような重大な主権侵害を問題にしなかったばかりか、マスコミも大きく報じなかったため、多くの国民がこれを知らないまま約30年が経過してしまいました。
 そして日本が尖閣諸島を国有化した12年当時、92年の国有化表明について知っている人間が少なくなっていたせいもあってか、一部の人を除いて、誰もこのことを指摘しませんでした。さらに当時の野田佳彦政権は反論するどころか、国有化直前に北京に特使を派遣してお伺いを立てるありさまでした。
 日本の国有化発表後、わが国のマスコミは連日のように、中国での官製反日デモの映像を背景に北京の代弁者のようなコメンテーターたちを使いました。そして「当時の石原慎太郎東京都知事が買い取り宣言したのが原因だ」と事実に反したコメントをさせ、まるで日本が悪いことをしたかのように報じ続けたのです。こうして日本の反中世論を封じた結果、日本国民による中国バッシングが起こらず、今日の事態を招いています。
 これと同様のことが、現在のウイルス禍においても行われています。わが国のマスコミの大半は本来の原因者である中国を非難せず、自国の政府を一方的に叩き、マスコミの情報だけを見聞きしていると、いつの間にか中国ではなく日本が悪者になってしまったような印象を受けます。このままでは、日本国内において中国に対する非難の声を上げることは難しくなるでしょう。
 いまさら言っても仕方のないことですが、92年当時の日中の国力の差に鑑みれば、彼らが国有化したことを理由に本格的な灯台の建設を行い、ヘリポートを復活させて公務員を常駐させるなどしていれば、今日のような事態になることはありませんでした。日本政府は公式発言として否定していますが、実際は鄧小平氏の棚上げ論にだまされ、彼らが国力をつけるまでの時間稼ぎをさせられただけでなく、政府開発援助(ODA)などにより官民挙げて技術や資金援助も行ったのです。
 結果、今や空母を保有するほどの海軍を育て上げてしまった揚げ句、その見返りとして自国の領土領海を脅かされているのです。棚上げ論と言えば聞こえはよいですが、要は結論の先延ばし、嫌なことから逃げるだけのことです。嫌なことは借金と同じで、先送りにするにつれて利息が膨らみ続けるように、問題はより大きく、解決は一層困難になるのです。
 中国が場当たり的ではなく、計画性を持ちながら一貫してわが国の領土を侵略しようとしていることは、共同通信の記事(2019年12月30日付)からも読み取れます。記事によると、東シナ海を管轄する海監東海総隊の副総隊長が、中国公船が初めてわが国の領海を侵犯した08年12月8日の出来事を「日本の実効支配打破を目的に、06年から準備していた」と証言しています。
 この証言の意味は、1978年4月に中国の武装漁船百数十隻が尖閣諸島海域に領海侵犯したときから今日に至るまで、中国指導部による計画された侵略行為が行われ続けているということです。
 間抜けなのは、日本の政官財マスコミがその間、せっせと彼らに技術や資金の支援を行うだけでなく、日中友好とばかりにほほ笑んでくる相手を疑うこともせずにこぞって友好的態度をとり続けてきたことです。一方、彼らは嘘で塗り固めた反日教育を徹底的に行ってきたというおまけ付きで、こんな間抜けな話はめったにあるものではなく、日本政府、特に外務省にお勤めであった方々には猛省していただきたいものです。
 かように中国は一貫してわが国の領土を狙っているというのに、いまだに中国を擁護する人々が政官財やマスコミに少なくないのは底知れぬ闇を見るようです。
 「中国が意図的に侵略している」というのは周知の事実です。しかし、共同通信の記事を通じ、中国側が当時の高官にあえてインタビューという形で発表させた理由について考えてみると、一つの仮説が浮かびます。あくまで私の臆測ですが、このインタビューは中国指導部が尖閣侵略のレベルをワンステップ上げるための観測気球ではないかということです。
 こう言うと、インタビュー記事の4カ月後には、習近平国家主席の国賓訪日が予定されていたので、「中国側がそんなことをするはずがない」という声も聞こえてきそうです。しかし、それに対する反論として、2010年にわが国で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の直前に起こった出来事を挙げたいと思います。
 同年9月7日、尖閣諸島沖のわが国領海内で中国漁船が海上保安庁の巡視船に故意に体当たりする事件が発生し、海上保安庁は漁船の船長を逮捕しました。
 一方、中国は国内にいる日本人を拘束し、レアアース禁輸などの手段でわが国に圧力をかけた結果、日本政府は同船長を処分保留で釈放しました。実質的には無罪放免です。
 法と証拠に基づけば、容疑者を釈放する理由など一つも無いのに、なぜそれが行われたのでしょうか。後に政府高官が自民党の丸山和也参院議員(当時)に語ったところによると「起訴すればAPECが吹っ飛ぶ」、つまり当時の胡錦濤国家主席が来なくなるというものでした。この成功体験により、彼らは国家主席の訪問が日本に対して強力な外交カードとなることを学んだのではないでしょうか。
事実、今回の新型コロナの感染拡大の際においても、習主席の国賓訪日中止が発表されるまで中国全土からの入国制限を行わないなど、日本政府は公式に認めてはいませんが、中国に対する過剰な配慮が感じられました。それは国賓訪日を成功させたいという思惑以外には考えられません。
 もし今回の新型コロナ騒動がなければ、共同通信の記事に無反応な日本の世論を見て、中国は今回の領海侵犯よりも一層大きな仕掛けをしてきたかもしれません。
 仮にそうした状況が発生した際、中国は日本の対応次第で「春節中、訪日旅行を禁止する」「国家主席は日本に行かない」などと言うかもしれません。そのとき、わが国が毅然(きぜん)とした対応が取れたのかというと怪しいものです。
 ただ、中国が口だけではなく実際の行動に移した今、彼らが尖閣侵略のレベルを上げたことに疑いの余地はありません。
 問題なのは、自覚のあるなしを問わず、彼らのプロパガンダにわが国のマスコミが加担していることです。彼らは中国のプロパガンダを報じる一方で、一部メディアを除き中国の度重なる領海侵犯を報じません。
 国民が関心を持たないから報じないのか、マスコミが報じないから国民が関心を持たないのか、因果の順序は分かりません。ですが今や日本国民は、12年12月に杜文竜大佐が言ったように「中国の領海侵犯に慣れてしまった」感があります。
 中国はそれを感じ取り、米中経済戦争でにっちもさっちもいかなくなった状況を打破しようと日本に助けを乞う前段として、今回の領海侵犯事件を仕掛けてきたのかもしれません。
 いずれにせよ、われわれ日本人は、千年恨む隣国かの隣国と違い忘れやすい民族です。北朝鮮による日本人拉致問題にしても、02年の小泉純一郎首相の訪朝後はあれほど盛り上がったのにもかかわらず、現在はどうでしょうか。今やマスコミで取り上げられるのは、家族が亡くなられたときだけです。
 尖閣の問題にしても、東京都が買い取り資金を募ったときにかなりの金額が集まったにもかかわらず、今はその募金の使い道を論ずることすらしません。今回の事件も大して騒がずにスルーしてしまえば、彼らはますます図に乗ることでしょう。
 それでも、ほとんどのマスコミは沈黙し続け、国会で取り上げられることもありません。あまり知られていませんが、今年3月30日には鹿児島県屋久島の西約650キロにある東シナ海の公海上で、海上自衛隊の護衛艦と中国漁船が衝突する事件が起きています。
 本件もこの事件のように、多くの国民が知らないまま、うやむやな形(自衛隊に対しては形式通りの捜査は行われているでしょうが、中国漁船に対しては恐らく何もしていないと思われます)で終わりかねません。せめて政府は海上保安庁が撮影した動画を公表するなり、あの海域で何が起こっているのかを国民に知らせるべきです。
 今回の件で問題なのは「中国の哨戒艦が漁船を追尾したということ」、そして「わが国の領海に中国の巡視船が26時間も居座ったということ」です。漁船の追尾に関しては詳細が分かりませんので省きますが、昔ならいざ知らず、21世紀にもなって他国の領海で26時間も武装巡視船が居座って領有権を主張するなど、私は寡聞にして知りません。
 仮にあったとすれば、それは既に武力衝突のレベルです。では、何ゆえに今回そのような事態が起こったのかというと、中国側から見て「わが国が何もしないから」です。おそらく現場の海保の巡視船は、無線や拡声器、電光掲示板などで領海からの退去を要請したと思います。しかし、ただ「待て」と言われて、素直に待つ泥棒がいないのと同じで、彼らは何の痛痒(つうよう)も感じなかったことでしょう。
 他国であれば警告射撃してもおかしくないのですが、わが国は憲法により武力による威嚇すら禁じられています。ですから、厳格に法令を順守すれば、相手が国家機関である今回の場合、それも適いません。外交ルートによる抗議も同様に、何らかの制裁を伴わなければ単に抗議したという記録を残すだけで、何の効力も生じません。
何しろ相手は国際常設仲裁裁判所の判決を「ただの紙切れだ」と言って無視する国です。今回は滞在したのが26時間だったからよいようなものの、もし365日、彼らが領海に居座ればどうなるでしょうか。
 その場合、尖閣の領有権をあきらめるか、物理的に排除するかの2択しかありません。一部の人は「話し合えば分かる」などと言いますが、相手は何十年もの先を見据えて計画的に侵略しに来ています。その相手が乗ってくる話となると、わが国が大幅に譲歩するような場合だけです。そもそも元々存在しない「領土問題」をわが国が話し合う理由がありません。
 さらに問題は、多くの国民がこの事実を知らない、もしくは薄々感じていても認めたくないので見て見ぬふりをしていることです。マスコミも、一部の専門家以外は警鐘を鳴らす人はおりません。国権の最高機関に至ってはここ数年茶番劇が続き、いたずらに時間を浪費するだけでこの問題に対して議論すらしません。
 民主主義国家であるわが国においては、国民世論が盛り上がることが重要です。中国もそれを恐れているからこそ、マスコミに圧力をかけて自分たちに不利な報道をさせないようにしているだけでなく、パンダなどを使うさまざまな方法により、日本国民が中国に好感を持つような工作活動も行っています。そのため、今回のウイルス騒動に関しても、公式声明で中国を非難する政治家はほとんど見受けられず、マスコミの大半も中国責任論を報じません。
 それどころかウイルス対策において、欧米と比較して桁違いに被害の少ない結果を出しているわが国の政府を叩いてばかりいます。ですから、他国とは違って、中国に対する訴訟が起こることもありません。さらに会員制交流サイト(SNS)上で中国を非難すれば、差別という話にすり���えられて逆に糾弾されるほどです(一時はユーチューブでも、中国への非難コメントが削除されていると問題になりましたが、後にこれはシステムの不具合とされました)。
 このまま私たち日本国民が声を上げなければ、彼らは組み易しと思い、より一層侵略の度合いを上げてくるでしょう。それだけでなく、欧米各国がウイルス問題で対中非難を強める今、自由主義社会の結束を切り崩すために、中国がアメとムチを使ってわが国を取り込みにくることにも警戒が必要です。この期に及んで国家主席の国賓訪日を蒸し返すなど、安易に中国に加担することは現に慎まなければなりません。
 1989年の天安門事件後、わが国は世界中から非難を受けていた中国の国際社会復帰を、他国に先駆けて後押ししました。その大失態を再び繰り返してはなりません。
 ただ中国に対して、わが国が無為無策であるかというと、そういうわけではありませんので、公平に、ここ最近の日本の動きも紹介しておきましょう。
海上保安庁および警察の動き 16年:石垣島海上保安部に巡視船を増強し、大型巡視船12隻による「尖閣領海警備専従体制」を確立    :宮古島海上保安署を保安部に昇格 19年:宮古海上保安部に小型巡視船9隻からなる「尖閣漁船対応体制」を確立。那覇航空基地に新型ジェット機を3機配備して空からの監視体制を整備 20年:尖閣諸島をはじめとする離島警備にあたるため、沖縄県警に151人の隊員を擁する「国境離島警備隊」を発足
自衛隊における動き
16年:沖縄県与那国島に陸上自衛隊の部隊を新設
19年:海上自衛隊が今後10年規模で12隻の哨戒艦を建造し、哨戒艦部隊を新設していくことを表明
20年:宮古島駐屯地に、地対空および地対艦ミサイル部隊を配備
 ただこれらは、いずれも「盾」を増強しているだけで、中国に脅威を与えるまでには至りません。ゆえに彼らは、日本がいくら部隊を増強しようが自分たちのエリアまで攻めてこないことが分かっています。ですから、守りのことは一切考えず、日本が増やした以上に部隊を増強してくると思われます。
 実際中国は、今年1月から1万トン級巡視船の建造を始めています。つまり、わが国がこのような対応策をとっている限り、決して中国は侵略の野望を捨て去ることはなく、部隊増強のイタチごっこが続きます。
 安倍政権は、現行法上可能な範囲内で懸命にやっているとはいえ、憲法に一言も書かれていない「専守防衛」という言葉に縛られている以上、この現状を打破することは難しいでしょう。
日本には「『矛』がないのか」と問われれば、「ある」と自信をもって答えたいところです。しかし、情けないことに米国頼みが実情です。その米国の動きを見てみると、今年の年初にライアン・マッカーシー陸軍長官が具体的な配備場所には触れなかったものの、中国の脅威に対抗し、次世代の戦争に備えるために太平洋地域で新たな特別部隊を配備する計画を明らかにしました。
 4月にはフィリップ・デービッドソンインド太平洋軍司令官が、沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ、いわゆる第1列島線への部隊増強を国防総省に訴えていることが明らかになるなど、対中戦略の見直しを実行に移し始めています。
 特筆すべきは米太平洋空軍が、4月29日に行われた諸外国とのテレビ会談で台湾を加えたことです。この会議は中国周辺19カ国の空軍参謀総長や指揮官を集め、新型コロナウイルスの感染状況や対応について意見交換を行いました。
 台湾軍関係者は会議後のインタビューで、これまでも米国とのテレビ会議や軍事交流を実施してきたことを明らかにしています。これらの動きを見る限り、今のところ米国は中国に一歩も引かない構えであると言ってもよいでしょう。
 しかし、ここで強調しておくべきは、当たり前のことですが米国は日本を守るために戦うのではありません。あくまで「自国の国益のために戦う」のであって、自国を守るためであれば「平気で日本を見捨てる」ということです。
 仮に、今秋の大統領選で現職のドナルド・トランプ大統領が敗北すれば、方針が大転換されることは容易に予測できます。ゆえに、今後も対中戦略が維持される保障はありません。今回中国が攻勢に出てきたのも、米国の航空母艦が新型コロナによる感染症で航行不能に陥っていることと無縁ではないでしょう。
 そのためわが国は、いつ米国に見捨てられても大丈夫なよう、法令的にも物理的にも、迫りくる侵略に備えなければならないのです。
 それには憲法改正を含め、国策の大きな転換を図らなければなりませんが、わが国は民主主義国家であるため、それは国民世論の後押しがなければ不可能です。ゆえに、一人でも多くの国民に、わが国の危機的な状況を認識してもらう必要があります。
 例えば、海上保安庁の大型巡視船に各マスコミの記者を同乗させた上で、尖閣諸島や竹島、北方領土のほか国境離島の取材をさせて多くの国民に国境を意識させるという方法があります。日本国民に対してわが国の危機的状況を広く周知するだけでなく、日本の正当性と隣国の傍若無人な振る舞いを世界に向けてアピールすることにもつながり、検討してみる価値はあると思います。
 今の日本には、国民一人ひとりに領土問題や国防について考えるきっかけを与えていく地道な作業が必要です。しかし、それを日本を敵視する国が手をこまねいて待ってくれるはずもありません。地道な作業は続けていくとして、今すぐにでも実現可能なことも考え、実行するべきです。
 中でも一番効果的なのが、かつて自民党が選挙公約で掲げたにもかかわらず、いまだ実現に至っていない次の政策です。
・尖閣諸島への公務員常駐 ・漁業従事者向けの携帯電話基地局の設置 ・付近航行船舶のための、本格的な灯台および気象観測所の設置
 これらについて、日本国内で正面切って反対することは難しいでしょう。それに、憲法や法令を改正する必要もありません。さらには外交手段として、台湾に領有権の主張を取り下げてもらうことも検討すべきでしょう。実現はかなり難しいと思いますが、李登輝元総統がおっしゃっていたことを信じれば、漁業面で大幅に譲歩すれば可能性はゼロではありません。
 いずれにしても、中国が今回、侵略のレベルを一段上げてきた以上、わが国も悠長なことを言っておくわけにはいきません。それなのに、多くの国民はそのことを理解しておらず、マスコミの扇動に乗って騒ぐ一部の人たちに引きずられ、本来の国難から目をそらすように些末なことで大騒ぎしています。ただ、私たち国民の一人ひとりが声を上げることも大事ですが、最終的に対応するのは政府です。ゆえに、日本政府は中国関係で何かあったときのための体制を整えておくべきです。
 もしそれが難しいのであれば、政府は国民をより信頼し、正直に何もできない現状を伝えた上で、具体的な政策を説明して理解を求めるべきです。「国を守るためには、憲法をはじめとする法令を変えなければならない」と政府が持っている資料を使って説明すれば、普通の感覚を持った日本人であれば反対しません。今こそわが国は、政府国民が一体となってウイルス、そして中国の侵略にも立ち向かって行かねばならないのです。
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nanndemonai · 4 years
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沈恩敬、張震主演日本攝影大師上田義彦導演處女作《椿の庭》新劇照曝光!
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《椿の庭》|上田義彦|2020|日本
韓國影人近年來的氣勢銳不可檔,不管是在電影、戲劇亦或是流行音樂上的表現都不斷的在突破自我。同時間,他們也以發展成熟的娛樂產業在國際上發光發熱,並且締造歷史。
韓國影人除了今年《寄生上流》成為美國「奧斯卡金像獎」史上第一部拿下最佳影片的外語片之外,在鄰國日本中同樣打破了歷史紀錄。在今年有著「日本奧斯卡」美名的日本電影學院獎上,韓國女演員「沈恩敬」以主演的日本電影《新聞記者》拿下了「最優秀女主角」,擊敗資深影后吉永小百合與宮澤理惠(宮沢りえ)等人。而沈恩敬也因此成為史上第一位以外國演員身分拿下最優秀演技類獎項的演員。不過沈恩敬並不是第一位角逐日本電影學院獎的外國演員,在 2010 年時,同為韓國女演員的「裴斗娜」就曾以《空氣人形》獲得「優秀女主角獎」,可惜當年輸給了《維榮之妻:櫻桃與蒲公英》的松隆子(松たか子),沒能順利登上最優秀女主角。
▼ 《新聞記者》電影劇照
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如今,沈恩敬接棒學姊裴斗娜成為了日本影后,今年在日本電影學院獎獲獎時更激動的落淚感謝學院的肯定以及《新聞記者》幕前幕後的工作人員們。事實上,童星出道的沈恩敬並非巧合而輾轉到日本發展,他曾在日本的訪談中表示,他在國中時期深受岩井俊二以及是枝裕和等日本導演的作品影響,且從小就著迷於日本文化,以至於他一直相當憧憬能夠前往日本從事演藝工作。而到了 2017 年,因緣際會下和現在日本的經紀公司 humanitè(ユマニテ)接洽,才讓他終於實現了到日本發展的願望,並且相繼演出了日本版《每個好男孩都該得恩寵》的舞台劇和主演了兩部電影《清晨天空無限藍》和《新聞記者》,更立馬以第二部主演的日本電影《新聞記者》登上了日本影壇最高榮譽的影后,他的日本演藝之路可說是一片光明。
有趣的是,曾公開表示崇拜是枝裕和導演的沈恩敬和導演也有著相當多的機緣。不只前輩裴斗娜就是以是枝裕和執導的《空氣人形》成為了第一位獲得日本電影學院獎演技類獎項的外國演員。而沈恩敬今年以《新聞記者》獲得的最優秀女演員前一屆得獎者即是演出是枝裕和拿下坎城影展高榮譽金棕櫚獎《小偷家族》的「安藤櫻(安藤サクラ)」,且他同樣所屬 humanitè 經紀公司。此外,在《新聞記者》上映前就搶先欣賞過電影的是枝裕和更曾公開讚賞過這部電影。在多重的巧合之下,沈恩敬和是枝裕和導演的合作想必是指日可待的了。
而在達成與偶像是枝裕和導演合作的願望之前,沈恩敬也依然馬不停蹄的繼續他的演藝事業。近來他也睽違 6 年的重回了韓國小螢幕,和高洙及李聖旻主演了 tvN 的電視劇《金錢遊戲》。在日本電影方面,目前手上則有兩部作品尚未公開,分別是電視劇《架空OL日記》的同名劇場版電影,他演出了劇場版所新加入的角色,也是他和夏帆繼《清晨天空無限藍》後的二度合作。除此之外則還有另一部名為《椿の庭》的電影將在今年七月正式上映,也即是接下來要詳細為大家介紹的電影新片。
▼ 《清晨天空無限藍》電影劇照 
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《椿の庭》為日本知名廣告攝影大師「上田義彦」首次執導的電影長片,理所當然的也親自編寫了劇本且同時擔任攝影。上田義彦獨特的美學早已享譽國際,不管是動態的廣告攝影或是靜態的圖像寫真都深受日本國內外的推崇,而這次他則執起了導演筒將帶來他人生第一部的導演作品。
據悉《椿の庭》是導演上田義彦構想長達 10 數年才終於完成的作品。故事是如此述說的:曾經與夫君漫談並且養育著子女們成長的這個家,如今由女主人「絹子」和他的孫女「渚」一同住著。剛送走老伴的春之朝,平常照顧的金魚也離開了,她們用椿之花(山茶花)包覆著小小的身軀將牠歸於塵土。稱之為生命的事物終將化為腐朽。打理著家中與庭院的大小事,絹子也陷入了曾經在此的日日回憶之中,直到一通電話響起。
《椿の庭》以一對祖孫為主角,他們住在一個綻放著引以為傲的椿之花的大宅中,電影描寫著在一年之間不時上門拜訪的客人與她們之間的互動。並且同時刻劃著這對祖孫在四季中感受著庭院裡生長著的花草樹木,以及疼惜著身邊還陪伴著的家人們。
▼ 《椿の庭》電影劇照 
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早在廣告與靜態攝影中與無數大明星合作過的導演上田義彦這回當然也找來了星度十足的演員陣容助陣。其中女主角「絹子」即由日本的資深傳奇影后「富司純子」飾演。對台灣觀眾來說,富司純子曾經替動畫電影《夏日大作戰》中的老奶奶「陣內榮」的配音應是最為耳熟能詳的了。而他同時也是知名女演員「寺島忍(寺島しのぶ)」的母親,《椿の庭》將是曾由母女第一次合演的電影《待合室 -Notebook of Life-》睽違 14 年後讓富司純子再次擔綱女主角的電影。至於在電影當中的孫女「渚」則是由本編文章的女主角,也��是沈恩敬所演出。
除此之外,還有其他實力堅強的演員們也都參與了《椿の庭》的演出。包括曾經以日劇《華麗一族 豪門世家生死鬥》等作品聞名的「鈴木京香」飾演渚的叔母「陶子」;《夢想起飛:菜鳥空姐的處女航》男演員「田辺誠一」飾演拜訪祖孫家中的男子「戸倉」;曾演出經典日劇《一個屋簷下》的資深男演員「清水紘治」則飾演絹子逝去丈夫的舊友「幸三」。
▼ 《椿の庭》電影劇照 
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最後,我們台灣享譽國際影壇的「張震」也在《椿の庭》尬上了一角,在劇中飾演和戸倉一同拜訪祖孫的「黃先生」。觸角早就伸至日韓影壇的張震事實上並非和導演上田義彦首次合作。在 2010 年時,張震演出了一支日本三得利烏龍茶的廣告,在短短 30 秒中張震大啖雞腿又吮指的帥氣臉龐就是由上田義彦所捕捉,導演也一直是三得利烏龍茶該系列廣告的御用攝影師,其作品享譽國際,包括范冰冰和孫儷也都曾演出。而在最新公開的《椿の庭》消息也指出,張震表示這次在電影中因為日文的劇本和台詞而特別研讀了日文,也為了這部電影觀賞了多部由富司純子主演的電影作品。此外更特別讚賞沈恩敬,被她的演技所驚艷。
《椿の庭》目前處於後製階段,預計於 7 月在日本正式上映,由 BittersEnd(ビターズ・エンド)負責發行。值得一提的是,致力於獨立與藝術電影發行的 BittersEnd 也正是《寄生上流》、《清晨天空無限藍》以及 2017 年《牯嶺街少年殺人事件》日本重映的發行商。而從目前的檔期看來,期望《椿の庭》有機會能夠在坎城影展中首映。 
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iseilio-blog · 3 months
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01/24 柴寮偶記
《 #習近平 :統一 #台灣 是歷史必然! #中共 加重介選力道!棄柯"保賴"戰"保侯"!》【年代向錢看】2024.01.01 @ChenTalkShow #賴清德 #侯友宜 #蔡英文 (youtube.com) 歷代來台移民,大多是逃離中國。原因可以是福建的荒涼,謀生不易,或者政治。
《延續#蔡英文 路線!傳承交棒#賴清德 #蕭美琴!》【年代向錢看】2024.01.03 @ChenTalkShow #趙少康 #侯友宜 #柯文哲 - YouTube 我們的本質就是 “正派”。
[SUB]菲律賓不買F16南海龜縮?中國大陸掌控CIA北京窩點? 新聞大白話@tvbstalk 20231228 (字幕版) - YouTube 時代不同了,等死吧。
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台灣史上最美橋梁為何被肢解?明治橋與台灣神社的故事|明治橋|中山橋|台灣神社|凌宗魁|建築| - YouTube 記憶中 60多年前,在下方有一座早已報廢,相當大而舊式的巨砲。
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嗆"完全打臉趙少康"! 中共發射衛星飛越台灣西南空域 徐嶔煌曝"蔡英文路線才是正確路線" 解放軍發射衛星歷史三次! 于北辰曝國防秘辛|王偊菁 主持|【前進新台灣 完整版】20240109|三立新聞台 (youtube.com) 選後稅收仍在國民黨手裡。
反共中國人第一次體驗台灣🇹🇼總統大選選前之夜造勢! 2024.1.12 板橋 - YouTube 阿堯,趕快去申請公民!!
(2) 日台交流広場(台湾と日本) | Facebook 日本有事 就是中國有事;台灣有事 就是中國有事。
台湾总统大选 专访赖清德竞选办公室发言人赵怡翔(戴忠仁/赵怡翔)| 亚洲很想聊 - YouTube 日後的外交部長。
《#美國 #日本 祝賀#賴清德 當選!#習近平 :壯大#台灣 愛國統一力量!》【年代向錢看】2024.01.16@ChenTalkShow#賴清德 #侯友宜 #柯文哲 - YouTube 不支持台獨的同時,也確立了一體兩面的中華民國,於是對與中華民國一體兩面的台灣全力支援。
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イチからわかる台湾総統選“まるでフェス”お祭り騒ぎ…若者つかむ?「選挙ダンス」【スーパーJチャンネル】(2024年1月12日) (youtube.com) 中國との間に主權問題丈ではなく,台灣內部自體 "國家認同" 纏まらない故,盛り上る程,おもしろくない感情が激しいものです
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ge90 · 5 years
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lะ՞♔՞ะ)੭ु⁾⁾久しぶりに来たよぉ🙀💧 油田の #さかなや工房海鮮蔵 さん . 入るなり 「今日サカナ居らんよ‼︎ ぜんめつ‼︎ 今朝市場行ったら時化とって全滅‼︎ 」😱💧🙀💦 . いえいえ こんだけ出していただければ充分す (ะ՞♔՞ะ)b✨😽💕 . 今日のチョイスは #海鮮蔵 ランチの盆と正月メヌー #もてなし御膳 刺身と天ぷらの良いとこどり どちらも捨てがたい優柔不断さんにばっちんこ‼︎ ( ゚Д゚)ノω 💢 . さらに ゴハンヲヲモリの呪文で茶碗飯が #中落ち丼 に変身しちゃうのは海鮮蔵ミラクル (∩^o^)⊃━☆。.・*。・。🍚😽💕 . 「ご自由にどうぞ」の煮付け 山盛り持ってくおぢさん時々居るよねー あれ、肝心の料理が食べられなくなるんぢゃないかと他人事ながら心配してみたり🤣🤣🤣💦 . ( ะ`人´ะ) ゴチサゥサマデシタ また平日お休みできた日にきます それにしても、佐武カフェさんに李白さん...etc..etc 平日しかランチ提供してない魅力的なお店が沢山あって困るわぁ~💦 #砺波市 #油田 #平日限定ランチ #きときと #わての和定 (海鮮蔵) https://www.instagram.com/ge90/p/BvTeUcfhUgw/?utm_source=ig_tumblr_share&igshid=1vyzc2viesgoa
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um0707 · 5 years
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君と映画
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・あのこが唐突にプレゼントしてくれた浅野いにお短編集を読破した。TEMPESTが一番のお気に入り。老害や少子化なんかの現代における問題を題材にしたあたりがすごく良かった。最後、かなしかったけれど。安楽死って悪いことじゃないよなとおもったよ。あと、もっと未来を担う若い人を大切にという面ではこどもがもっと生きやすいような国になるといいよなあ。妊婦税というものがあると今朝のニュースで知った。今年の四月から発足されたものらしかった。医療者なのにしらなかった。こんなもの作ってほんと、誰がこどもうむの?って感じだよなあ。
・ユニゾンのニューシングルが届いた♡歌詞カードの文字のびっちりさに毎度圧倒されてしまう。ツアー当たるといいな。たのしみだな
・美容院に行った。カラーとパーマとカットのフルコース。茶髪に飽きたし冬が来るのでトーンを落としてピンク系をいれてもらった。似合うかどうかは別にして可愛い♡ほんとうはアッシュがいいなあと思っていたけれどやっぱりもって三週間くらいらしい。ので、保留。美容院からの帰り、あのこは新しいわたしを見て何て言うかなあなんて考えてしまった。なんであのこが出てくるんですかね。はせじゃないんだねわたし。
・相変わらずあのこから毎日電話が来て話している。明日は会うのか分からないけれど明後日は一緒に映画を見る約束をしている。ホラーか政治かディズニーか松坂桃李くんか。あのこはどの映画を借りてくるのだろうか。松坂桃李くんは無いな、と思いつつ候補にいれて送信しておいた。わたし、ほんとうはきみとプーさんの映画を観に行きたかったよ。他の女といってしまったけどさ。もう遅いんだ。
♡2018/11/09/01:44
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yrkhang · 5 years
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「あなたの眼差しが"光"であること」について
書きたい事も、書かなきゃいけないことも色々あるんだけどなあ。
そいでも、書かねばなるまい。
ミュージカル『SMOKE』は、実に緻密な作品であったと私は思う。その事について少しだけ。
やあ、human. 我々は、我々でしかない。
ここに私は、私の理解し得る、その物語の話をしよう。
まず、第一に、<超>の話。
彼が何処までを知っていたのかということは、とても難しい。それは、それを演じる役者によってその理解性が異なっていたようにも思われるからである。
第二のメロディ。超と海とのハーモニイ。
先ず第一義として理解されるべきは、<海>という人物の少年性であり、その少年性が「従順である」という形で表出していた事である。
そして第二義に、(これは第一義に基づいてではあるが)、<超>という人物が<海>の人間性を理解したうえで、彼を誘導しようとした形跡が観られる、という事である。
ハーモニクスは重合であり重奏である。第二のメロディにおけるそれは、<超>のリードに<海>が追従するという形式であった。そうしてそれは彼ら各々の心理面での在り方をも表している。「大人」に素直に従う<海>。であるからこそ「大人」として強く振る舞う<超>の姿がそこでは表現されていた。超の声が強く響き、その響きに引きずられるようにして海の声が木霊する。それは海にしてみれば「自身が思っていた筈の未来」を想起する過程であり、同時にそれをリードする超の立場から見てみれば、「そのように彼を誘導する」という意思の表明でもあった。 重合としてのハーモニクス「秘密は秘密として知られないように」は彼らが互いに向き合って歌われる。それは、リードされた海にしてみれば自らの願いそのものであり、同時にそれをリードした超にしてみれば<そのように彼を仕向けることこそ己が目的>という想いを隠そうとする犯人のそれである。
超のそれが<それ>であると捉える理由は単純である。彼が「知っている事」と「知ったうえで行っていた事」を捉えれば理解可能な事であるだろう。
超は海に「何があっても彼女のいう事に耳を貸すな」と念を押したうえで海の前を去る。物語上、この後海はその言葉を裏切ることになるが、更にその後。「彼女」たる紅との会話の中で浮かび上がってくるのは、「超が海に嘘をつき、彼の前を辞した後も彼の動向を窺っていた事」である。何故彼はそのようなことをしたのか。それはその後に語られる事ではあるが、その前段として理解されることは、「彼の目的」が、「海が紅の言葉に耳を貸さない事」<ではなかった>ということであるだろう。彼は、海と紅が顔を合わせればあのような結末に至ることを既に知っていた。そのうえで、海に対して「そうするな」と念を押したのである。
何故か。
本件に対する私の理解は単純である。「そのようになること」を承知の上で、「そうするな」という言葉をかける。超は、海が葛藤することを望んだのであろう。そのように考えれば全ての辻褄が合う。超があらかじめ念を押したこと。そのように振る舞った彼自身が、海と紅が顔を合わせればそうすることが出来ないであろうことを想像し得たこと。<嘘>をついて出ていった彼にとって、それを止めることは容易であった事。にも拘らず、そうはしなかったこと。すべてに辻褄が合う。
彼は、海を苦しませたかったのだ。
海と紅との関係を知れば、その苦しみは海にとって、「己の行為の源泉」に対する葛藤として表出するだろうことが予想できる(し、実際に彼はそのような葛藤に苦しむことになる)。彼はそのような状況に海を追い込む必要があった。だからこそ、彼にとって紅は「サイゴのチケット」だったのである。
超の人物像について考える。そのうえで需要になるのが、彼のシーンの前段となる本作開幕、<牢獄に囚われた作家>の姿であるだろう。
開幕のその人は、超という人物の姿をしていた。本作の冒頭では、彼自身の苦しみと嘆きが描かれる。
本作終盤に描かれるそれは、これとは異なる。人物自身が異なっている。だけれども、その関係性において<超>の置かれた立場は冒頭のそれに他ならない。
李箱という作家。その嘆きと苦しみこそが本作のメインテーマであるという事は本作を観劇したあらゆる人に共通の感想であるだろうと想像する。そのうえで。その嘆きと苦しみを一身に背負っていたのが「超」という人物であった。
本作終盤で解き明かされるそれ。一人の人間の中の様々な姿。その中で、最後に託され、任されてきたのが李箱自身の作家としての理想像たる「超」である。だからこそ、彼はその描いてきた作品に対する声に苦しむことにもなったし、その上で尚<書かねばならぬ>という葛藤にも苦しめられてきたのだろうと想像する。少なくとも、彼を苦しめてきたのは「そうあろう」とする理想と「それはできない」という現実に他ならないものだっただろう。それはどうすることもできない。だからこそ彼自身も苦しん���のではないか。
そんな彼は、もうひとりの自分に目を落とす。<海>と呼ばれたその人は、彼の知る苦しみも嘆きも知らず、ただ<隠れて>いる人間だった。幼い己の姿こそ、その隠れ蓑に他ならない。あらゆる苦しみに背を向け己の<楽しみ>たる夢にだけ目を向ける彼を、超がどんな眼差しで観たのかという事は私には想像しかねる。芝居としてそれを観ても、その想いは測りかねる。同じ自分でありながら、一方ではその現実と闘い続けて来た自分。もう一方ではそんな自分に全てを押し付け背を向けてきた自分。<彼>に、<彼>はどんなふうに見えたのだろう。
少なくとも彼は、彼に「自分と同じ立場」に立ってもらう必要があった。それこそが、彼が海に強要した理由であるだろう。そう強くいったところで彼と彼女とが出逢ってしまえばそうすることはできないことは分かり切っている。だからこそ、彼はあのように強い声で彼を諭したのではないか。第二のメロディ、超の強く響く説得するような、それでいて相手には背を向けるような冷たい声が印象的だった。そうして、その声に引きづられるように、それを<己の想い>として観てゆこうとするように立ち上がる海の声が。彼がそうなることが、彼のこの後のことに対して、<彼自身>が望むことについて重要である。
だから、この時の彼の声は強く力強く響いたのだと思う。
第二に、「紅」の話をしなければならない。彼女は一体、何だったのか。
海に対する彼女の表情は、その全てが忘れることを困難としている。目隠しをとられた瞬間の眼差し。その直後。「海の歌」について語って聞かせようとする姿。彼女の全ては、「海」に向けて作用させるような力学的エネルギーそのものであったように思う。だからこそ、それが及ばぬ時の失望があり、それでも尚語って聞かせようとする優しさと強さがある。海が何も知らぬことを知って尚語るその姿。それこそが「鏡」のように私には見受けられた。とても印象的だったのは、第三の歌の中ではっきりと意識して<海>をみつめながら、誰かの話として物語を語っていた事である。それは、それを聴く彼にとっては他人事であっても、それを語る彼女にしてみれば自分自身の物語であったことだろう。だからこそ、彼女は自身よりもそれを聴く<彼>の表情や言葉、その一投一足にあそこまで鮮やかな表情を返し得たのだとも思う。
一方で、この彼女は、彼女自身のことを知らない「人間」でもあった。「人間」だからこそ、変えられる。変わってゆける。相互に。そういう希望が海に対峙した彼女からは感じられる。彼の知らない自身の姿を知っている彼女。だからこその喜怒哀楽がそこには厳然として存在しており、そのことが彼女自身を活き活きとした人間として生かしていたようにも思われる。そのような彼女の感情は、<彼>の想いとは関係がない。関係がないけれども、関連はしている。だから、彼女は消えない。消えたりはしない。それはとても切実な想いであり、ひとつの事実であり、そのようにして訴えるように<彼>自身を見つめるひとつの瞳でもあったように思われてならない。
第三に。「海」の話をしたい。
彼は一体何だったのかと問われると、応えることが難しい。それは、彼の周りの2人の人々に対する彼のそれぞれの反応の中にこそ彼自身が居たようにも思われるからである。
「超」と向き合った時の彼は、子供だった。大人のいう事を素直に聞き従う子供。実際、<彼>が子供であった頃はそれで必要十分だったのではないかとも思う。
「紅」と向き合った時は、その前半後半で様子が異なる。前半は従順でありながら己に迷うようでもあり(それが紅の喜怒哀楽にも繋がっていた)、後半はそこから半歩前進し、己自身の喜びをその過去の在り方の中に問い合わせるような姿に私には見受けられた。
終盤。「海」は豹変し<彼>自身となる。けれどもその過程において、どの時点までが「海」であったのかということを考えようとすることはとても難しいことのように思う。何故ならば「海」もまた、「超」、「紅」と同様に<彼>の一部であり、一部ではあるけれども一部でしかないから他人でもあったからである。
彼は、少なくとも従順な子供であった。それは史実が記録する幼少期の<彼>と合致する。また彼は臆病でもあった。それもまた、史実が記録する<彼>の姿と合致するものだ。少なくとも彼は、<彼>の半身として長年居続けた人物の姿そのものであり、それは文学を志そうとした<彼>の半身そのものでもあり、だから、その帰結としてその「答え」を一身に受けた人物でもあったのかも知れないと思う。
本作は、3人の人物達がそれぞれの立場から<己>を問う物語であった、と個人的には理解している。「超」も、「紅」も、そして「海」もがそうであった。そのそれぞれは何れも<彼>という<己>の一部であり、しかし全てではなく、だからこそ、互いに向き合う相手に対して自らにはない何かを求める様であった。それは、さながら<鏡>にむけて言葉を放ち続けるような人々の姿のように、私には見受けられた。
そのことをとても良く表現していたのが、本作の「演出」であったと私は考える。本作の演出は、極めて特殊なものであったことは疑いようが無い。
まず冒頭。四角形が存在する。四角形は客席であり、鏡であり机であり舞台であった。
光の中に浮かぶ表情は能面のようであり、それは<剥製>になった人間の姿を表わしていた。
鏡。それは硝子で構成され、時には反射し時には透き通るようにその向こうを透かしてみせた。
四角形の舞台であるから、対角があり円弧が存在した。
対角上に演者が並び立つ。その背を見る様な眼差しの先に、鏡を通して反射する、その人自身の姿が見えた。
人の歩みは対角から円弧へ。互いに向き合うようにして回るその方向は、時には時計の針の如く、時にはその反対を歩むが如くであった。
その悉くが、演出であった。
僕は、ここまで緻密に設計され建築された<演出>を見たことはないように思う。それは、その時々の各々の役、人物の置かれた立場を示し、その関係性を示し、その向かおうとする方向性を示し���いたように感じられる。ミュージカルは「芝居」であり「音楽」であり「物語」である。その全てを結び付るのが<演出>であるとするならば、私はここまで優れた<演出>を過去に観たことはないように思う。そこに、その場所に<その人>が立ち、そこで、その場所で<それ>を見る。そのうえでその人がそのように<動く>。その悉くが作品上における<その人自身>の全てを指し示している。極めて緻密に、綿密に設計されたそれは、確かに<彼>が学んだ「建築」の在り様を感じさせる立ち居振る舞いであったように思う。
少なくとも私は、<演出>というものに、その緻密さにここまで心動かされたことはなかった。「ミュージカル」という在り様を踏まえた、極めて緻密な演出であったように思う。それは緻密であるからこそ静かなものであり、静かであるからこそその内側に多大な熱量を秘めたもののように感じられた。大人の、それは"業物"であったように感じている。
3人の人物を通じて。漸く最後に表れてきた人物こそが<彼>だった。
李箱。金海御。詩人、作家にして本作の主人公。多くの優れた作品を遺しながら、多くは語らなかった孤独な人物。<彼>。
漸くその姿が我々の前に表れた。
その姿は、満身創痍のように見受けられた。強い強い葛藤の果て、現実の前にただ立ち竦む一人の人間のように見えた。
李箱、略歴。1910年、京城に生まれる。両親は貧困に喘ぎ、叔父に引き取られてその後の長年を過ごす。1926年、普成高等学校を卒業。学歴は優秀であったとされ、在学中には絵画の才能も発揮した。1929年、京城高等工業学校を卒業。朝鮮総督府建築課技手として勤める。この頃既に結核を患っていたとされる。1932年、雑誌『朝鮮と建築』に『建築無限六面角体』を発表。同年、彼を長年養ってきた叔父が脳溢血で他界。1932年、朝鮮総督府を辞職。療養に努める。この歳に彼は「錦紅」と出会う。彼女と喫茶店を経営しつつ創作活動を行う。1934年、『朝鮮中央日報』に『烏瞰図』を連載するも読者からの抗議により掲載中止となる。1936年、「翼」を発表。翌月に東京へと赴く。1937年、「不逞鮮人」として検挙、西神田署に拘禁されるも結核悪化の為病保釈。東京帝大付属病院に入院する。4月17日死去。最期の言葉は「千疋屋のメロンが食べたい」であったとされている。
本作ミュージカル『SMOKE』は、作家としての李箱、その晩年を描いた作品ということになるだろうと思う。物語に描かれている様々がそのことを物語っている。冒頭と終盤の拘禁の場面もそうであるし、海が紅に噛まれて「痛い!」と叫ぶシーンなども彼の作品の中に遺された彼の人生の中に同様の場面があった事をうかがい知ることが可能である。
歴史から紐解くならば、彼は「不幸な人物」であったと私は思う。彼の代表作「翼」は、朝鮮国内でも多大な評価を受けたとされる。けれども彼はその評価を知ることなく東京へと立っている。彼にとって「近代のメトロポリス」たる東京は憧れの東洋の都であったようだ。けれども彼はそこでも失望を目にすることとなり(その様子は彼の晩年の作品の中に濃密に書きとられている)、その異国の失望の中で人生を終えている。歴史からうかがい知ることのできる彼の人生は、そのようなものである。
本作は、そのような人物を題材とした『作品』である。彼の残した詞は、大きな反響を呼んだ。けれどもその多くは批判的なものであったようだ。「狂人」。「気の狂ったモノ書き」。作中でも彼のことを呼ぶ<外側>からの声はそのようなものであり、それらの声は「もう書くのをやめろ」という形で彼を苦しめることとなった。
本作は、そのような物語である。そのような人物の、恐らくは晩年を象った物語である。そこに見えるのは、その苦しみから逃げたいと願う己であり、逃げようとしつつ逃れられず書くことを望まれ強いられた己であり、また裏腹に書くことを願い、求め、己が「書ける」のだと信じたいと願う己である。その各々は各々自身の固有の姿でもあり、また同様にそれらは各々が<彼>自身の身近に居た人々の姿でもあったように、観劇していた私には思われた。それは、各々が同じでありながら異なるもの、異なりながら等しいもの、だからこそ、その統合たる<彼>自身を苦しめるものでもあったように思われた。
観ていることが、とても苦しかった。恐らく私は、その各々の中に、私自身を投影しても居たのだと思う。
けれども。
本作はそれに終わらなかった。それこそが本作が極めて優れた『作品』であると私が感じた所以である。
本作の冒頭、登場人物たちは異口同音に言った。今の私とは「違う姿」だと。本作の冒頭は、逃避であり変革を求める人々の姿から始まっている。
けれども、本作の終わりはそうではない。
物語の中で其々が各々に突きつけられるもの。それは「現実」というものであったように私は思う。逃れ得ない「現実」それこそは、彼が逃れようとしても終に逃れることの叶わなかった「鏡」そのものではないか。そんなふうに思った。何度も、何度も繰り返される。理想も、現実も、何度も繰り返される。そこにどんな想いがあるのかも、そこにどんな想いがあったのかも、様々な立場から、何度も繰り返される。それは逃れようもない「過去」そのものだった。
本作の冒頭で願われた理想。今の私とは「違う姿」。それを否定して本作は終わる。ではそれは、失望であったのか。
私はそうは思わない。失望は、それこそは「希望」そのものであった。そんなふうに感じる事が出来たからこそ、私はこの作品が極めて優れた『作品』だと思うのである。
本作の中で李箱は何度も現実を突きつけられる。己を突きつけられる。逃げようとしても逃げられない。それを突きつける誰かさえも自身である。それは、恐らく一つの地獄と言ってよいだろう現実だと思う。
何度も。希望さえ、願いさえ失望であり、それがあるからこそ人は罵倒の言葉をも口にする。「出来る」と思うからこそ努力し、努力しても到達できないからこそ失望する。どんなに。どんなに思ってさえ、それを越えることが出来るのは自身の身体だけで他にはないのだとしたら。必死に努力した結果待っていたのが無数の罵倒だとしたら。それでも「出来る」と誰かには願われているのだとしたら。
私には、それは耐えられないと思った。
本作は、���ういう「視聴者」の眼差しを物語の構成の中に的確に織り込んでゆく。冒頭から序盤、中盤に至るまで、私はこういう物語でありながらどこか「安心」して観ていることが出来た。何故なら、それは本作の劇場構成が極めて至近でありながら、その芝居は徹底的に「物語の内側」だけを描くものであったからだ。そこに、それを観劇する己自身の視点は作用しない。本作は極めて贅沢な舞台だったと思う。それは、例えるなら「テレビドラマを間近で観ている」ような贅沢さだった。息の聴こえるような距離に居ながら、テレビの向こうでそれを観るような安心感。これが贅沢以上の何だというのだろうか。
けれども、終盤でその贅沢な時間はふと終わる。
「瞳」
それは、李箱の最も恐れているものだとその物語は言った。
「瞳」
全てを見透かすようなその瞳が恐ろしいのだと、震える声で<彼>は言う。
「瞳」
彼を生かそうとする声も、彼を終わらせようとする声も、
「瞳」
等しくその周りに在るものと同じ、<瞳>なのだと彼は言った。
「瞳」
そのとき彼を見つめていたのは、
「瞳」
安心しきって観劇していた
「瞳」
私自身の瞳そのものであったように
「瞳」
瞬間、思われた。
『SMOKE』という作品は、題材として李箱の詩「第十五号」からインスパイアされた作品であるとされている。その作品は、鏡を題材としたものであった。本作の舞台中にも用いられている鏡。有形無形の様々な「鏡」である。
私は、本作中における最大の「鏡」が、舞台と客席との間に敷かれていたように感じた。それは先にも書いたように、演出としてはぷろせにあむアーチ、その双璧となり得る四隅の<窓>=<鏡>を文字通りの壁として、目に見えない形で客席と舞台とを仕切る「硝子窓」のように私には見えた。それは、硝子の向こうに遠い現実を映すテレビジョンであり、遠いように見えて実は最も身近な私自身を映す鏡でもあったのだ、と思い当たったのは実はこの時であった。けれども、いずれにしてもこの瞬間、その硝子は砕け落ちたように私には感じられた。
その時に感じた、この上なく情けない想いは既に記したとおりである。情けなくて涙が出る。けれど、事実だ。
本作の冒頭で願われた理想。今の私とは「違う姿」。
誰しも、何れは「何処か」へとゆけるに違いないと確信し得る<理想>。
それはいったい何なのか、と問うたのが本作であったように私には思われる。
それがいったいなんであるにせよ、それを否定して本作は終わる。
「もうやめて」
そういう声を何度も聴いた。
色んな立場で、色んな声で、何度も聴いた。
その上で彼が選んだのは、「肯定」であった。
私には忘れることが出来ない。
いつかたどり着く海の色が何色なのかと問うた声。
「くらやみ」と応えるその声が「光」と言っているように聴こえた。
私には忘れることが出来ない。
何度も何度も、絶望の塊を目にして尚希望を説こうとしてきたその声が、
「苦痛であり、絶望であり、死そのものだ」と己を規定する声が、
そこに確かに在る痛みそのものを、
「描いた夢であり、希望であり、命なのだ」と規定した声が。
私には忘れることが出来ない。
「あとどれだけ遠くへ行けば」とくらやみをまなざす声が、
<彼>という己を振り返り「誰も居ない」と静かに語るその声が、
命を懸ける様にして絞り出してきたその言葉を
「煙のようだ」というその声が、
その煙を「捨てようとして棄てることさえできない」とまるで嘆かない声が、
いつかその煙のように立ち上った己がたどり着く海が、
「くらやみ」であることを選んだその声が、
「くらやみならもう一度光を」と願った声が、
変えられない過去の苦痛を「胸いっぱいに抱いて」という夢に変換した声が、
そのわたしたちには翼が無くても「わたしたちの文章には翼をつけてあげよう」と夢見る声が、
それでも飛べなくて落ちたとしても、それでもせめて、「ひとつくらいは」という希望を描いた声が、
だから、
「書いて書いて、書き続けよう」と、ただそれだけを選んだその声が、
それが、
<希望>だとは、私は思わない。それは、ただ。
<彼>が最終的に「そうすること」を決めた。ただそれだけのことだ。
たったそれだけのことに、私は涙してしまう。
冗談めかした「千疋屋のメロン」という声に。
「わたし(≒苦痛であり、絶望であり、死そのものであり、≒描いた夢であり、希望であり、命であるわたし)を抱いて、光を放てるまで書きなさい」と笑う声に。 それをその言葉の流体的作用そのものの如く否定しながら「行くと決めたら最後まで行く」と顔を上げる声に。
私はただ、涙してしまう。
<希望>でも何でもない。
出来るでも出来ないでもない。
それはただの、<決意>だ。
その余りの尊さに、私は涙してしまう。
生きて往けたら。
斯く、強く、生きて往けたらと、心から願う。
それは、テレビビジョンの向こうでもない、鏡のこちら側でもない、他でもない私自身がそう願い、そう生きることを決めるのだ。
「四角の中の四角の中の四角の中の四角 の中の四角。」
「四角な円運動の四角な円運動 の 四角 な 円。」
これは李箱の詩、『建築無限六面角体』の「AU MAGASIN DE NOUVEAUTES」の冒頭である。
本作のおわりから以下引用する。
「四角な箱棚(ケエス)が動き出す。(ムキミナコトダ)」
「ラヂエエタアの近くで昇天するサヨホナラ。」
「外は雨。発光魚類の群集移動。」
以下遡上。
「マルセイユの春を解纜したコテイの香水の迎へた東洋の秋。」
同様に、小説『翼』より冒頭
「「剥製になってしまった天才」を知っているか?僕は愉快だ。こんなとき、恋愛までが愉快だ。」
「肉体がふにゃふにゃになるくらい披露したときにだけ、精神は銀貨のように澄み渡る。ニコチンが僕の回虫腹に染みこむと、頭の中に決まって白紙が準備される。その上に僕はウイットとパラドックスを碁の布石みたいに並べるんだ。これはまさに恐るべき常識の病である。」
ほんとうはまだ続くけれど割愛して、同様に本作おわりから。
「僕は急にわきの下がむず痒くなった。ああ、それは僕の人工の翼が生えていた跡だ。今ではなくなったこの翼、頭の中では希望と野心の抹消されたページが、ディクショナリーが捲られるようにちらついた。」
「僕は歩みを止め、そして、よし一度、こんなふうに叫んでみたかった。」
「翼よ、今一度生えよ。」
「飛ぼう。飛ぼう。飛ぼう。もう一度だけ飛ぼうよ。」
「もう一度だけ飛んでみようよ。」
「始まりには終わりがある」。その美しい造形美を本作は<作品>としてそのまま物語の構造の中に落とし込んでいる。それがまたひとつの箱であり、箱そのものでもある。
私は本作を「李箱の物語」と了解しつつ観劇していた。けれども実際のところ、これは李箱の物語ではない、とも思っている。
これは、「李箱の物語を読む人」の物語である。
彼の人生を、記録からそのまま写し取ったものでは、少なくとも、ない。
彼の物語を、「どのように読むのか」という、読み手に対する問いの物語である、と私は思う。
作中における「過去はもう変えることが出来ない」に照らし合わせるならば、既に故人たる彼の人生は誰にも動かすことは出来ない。そこに彼が遺した作品もまた、同様に変えることは出来ないだろう。
けれども、読み方は。読み方だけは変えることが出来る。そこにどのような景色を建築し、どのような色で、どのような物語をそこに読むのかという事は、ただそれだけは読み手自身たる私であり、あなたに託されている。
その読み手の読み方、その<瞳>は<彼>にとって最も恐ろしいものであったかも知れない。でも、だからこそ、できるだけ丁寧に、そこに書かれていることも、また書かれていないことも、書き手に寄り添うように、また読み手の自由なように、読んでゆくことが出来るのではないか。
私が本作から感じたのは、そのような「本作の読み手」たる<本作の創り手>たちの目であった。それはとてもあたたかで優しく、何より真摯なものであったように、個人的には感じられる。
読み手として、「何をどのように読んでゆくのか」。これまで以上に私自身が問われているように感じられてならない。
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