リル・シスターは大丈夫(後編)
はじめに
こんにちは、ミタヒツヒトです。昨日公開したこちらの短編の後編になります。未読の方はぜひ前編から読まれることをお勧めいたします。
今回はちょっと長くなりすぎてしまいましたが、書いていて楽しかったので、また何かの拍子にこうやって(でももうちょっと短いやつを)書いてみたいなぁ。それではどうぞ。
神父さまのお部屋のドアを見つめて、どれくらいの時間が経ったでしょうか。
床は氷でできてるんじゃないかというほど冷たくて、座り込んだ最初は後悔しこそすれ、今は感覚もなくなって何も感じません。
べ、べつにお話の内容を盗み聞きしようとか、そういうことはありません。そもそも、神父様のお部屋のドアはとびきり分厚いので、耳をぴったりくっつけたとしても中の音が聞こえるかどうかは、ちょっとわかりません。
わたしは廊下を挟んだドアの反対側の壁に背中を預けて、床に腰を降ろしていました。
床は氷でできてるんじゃないかというほど冷たくて、座り込んだ最初は後悔しこそすれ、今は感覚もなくなって冷たいとも感じなくなりました。
わたしがなぜこうしているかというと、それには理由があります。パシフィカさんの帰りのご案内です。神父さまのお部屋は教会の中でも奥まったところにあるので、いまパシフィカさんが教会と仲直りをしておうちへ帰る時にも道案内が必要でしょう。わたしがいなければ、神父さまが道案内をすることになります。神父さまはお優しいので嫌な顔ひとつせず案内なさるでしょうが、神父さまより暇なわたしがそれを引き受ければ、きっと訳に立てるんじゃないかなって、そう思ったのです。
わたしでも、神父さまの、お役に。
誰もいない廊下に、ひゅう、と風が吹き抜けて、わたしは思わず身をちぢめます。お二人は、何をお話ししているのでしょうか。もうずいぶんと長い時間が経った気がします。脱いだ帽子を胸の前でぎゅっと抱えて、目を閉じました。
そのまま、ちょっと眠ってしまったのかもしれません。
ばん、という大きな音に、わたしは飛び上がりました。「あんた、絶対に後悔することになるわよ!」パシフィカさんの声。何がなんだかわからなくて混乱しながら立ち上がると、後ろ手に神父さまの部屋のドアを閉めたパシフィカさんが、怒りの形相で立っています。
「出口ってこっち!?」パシフィカさんが叫ぶみたいに私にたずねます。
「いえ、逆です、こっちです」
「あっそう!」
わたしの前を横切ってつかつかと歩いてゆくパシフィカさんの背中、それから閉まったきりの扉、そのふたつを交互に眺めて、そうだ、と、わたしは自分の目的を思い出しました。早足で歩くパシフィカさんに、走って追いつきます。
「何よ!? あんたらはまだなんか文句あるっていうの!?」
「ち、ちがいます」
ああ、このひとは怒っているんだな、と改めて思いました。へんな言い方なんですけど、新鮮だったのです。
「じゃあなに」
教会の関係者のみなさんは、みんな優しくていつも笑顔なので、こうして怒りをぶつけるような場面は、あまり見ないから。
「出口までご案内します」
「あっそう」
ご案内するとは言ったものの、パシフィカさんはだいたい道を覚えているみたいで、迷いなくどんどん歩いてゆきます。
「あんな頭おかしいボスについていこうって、あなたはどんな神経してるわけ」
パシフィカさんのほとんどつぶやくみたいな低いことばが、わたしに向けられたものだと気付くのに、少し時間がかかりました。
「……神父さまは、聡明な方です」
「じゃああんたも頭がおかしいのよ」
「神父さまの何がいけないっていうんですか!」
わたしの前を歩いていたパシフィカさんが、くるりとこちらを向きました。
「新入りの子に会わせてすらくれないのよ? そんなに新しい信徒が欲しいってわけ? 教会の中しか見せないであることないこと吹き込んで洗脳する気まんまんじゃない! ケガでもしてないでしょうね!?」
「すみません、何をおっしゃってるのか、クラーラはわかりません」
パシフィカさんが、ぽかん、と口を開けて、すこしの間がありました。
「……知らないの? 本当に知らないのよね? 新しい幽霊。どこかに隠れてたとか閉じ込められてたんじゃない、よそからやってきたんだか新しく生まれたんだか分からないけど……聞かされてないのね?」
そんなお話は知りません。幽霊の数は決まりきっていて、それが増えるなんてこと考えたことすらありませんでした。少しびっくりしたけれど、わたしはぜんぜん大丈夫です。だって、
「神父さまがわたしに聞かせないというご判断をしたのなら、きっとそれには理由があるはずですから」
わたしの考えと、神父さまの考え、どちらが大切かといったら、それはもう決まり切っています。
「それであんたがいいなら、いいわ」
パシフィカさんは薄く笑って言いました。わかってもらえてわたしも安心です。パシフィカさんは表情とはうらはらに、不機嫌そうな、いえ、頭痛を我慢するときみたいに低く唸って、それからわたしに背を向けて歩き出します。うん、ちゃんと出口の方です。その後をついてわたしも歩きます。だって、わたしは道案内をすると決めたのですから。
「これは私だけの問題じゃないの」
歩きながら、パシフィカさんが話します。まだ怒っているのかと思って思わず身を縮めたわたしですが、どうやら怒ってはいないようです。一体、何の問題なんでしょう。わからなくて、わたしは言葉に詰まってしまいます。
「あの部屋から出てきてくれたあの子に、せっかくひとつでもなにかあげられると思ったのに」わたしの返事を待たずに、パシフィカさんは続けます。そう、こういうのは知っています。こういうとき、人はただ話を聞いて欲しいのです。誰かの悩みや打ち明けられない感情をただ受け止めるのもシスターのつとめですから、わたしは黙って聞き入ります。
「あの子は笑ってくれたの、がんばろうって思ったの」
あの子、というのが誰なのかわからないけれど、パシフィカさんはそのひとのために頑張っていたのだということがわかります。教会の外の方でも、そういう感情を抱くことはあるみたいでした。
「あの子よりこの場所の方が、よっぽど臭い」
パシフィカさんが話し終えたときには、わたしたちは礼拝堂の片隅に出てきていて、道案内はもう必要なさそうでした。
「案内ありがとうね、あと神父に死ねって伝えて」
「そ、そんなこと言えません!」
「そうよね。じゃあ、ご機嫌よう」
去って行くパシフィカさんの背中。いろんなことが一度にあった混乱と、それが終わった安心とで、信徒席に腰掛けて、ふうとひとつ息を吐きました。すると、耳慣れたいつもの機械音が、「先生」の音がします。
「や、やややあ、クラーラ、大丈夫だだだったかい!? ら、ららららららんぼうなことは」
「……大丈夫です。先生。先生は、新しい幽霊の話、ごぞんじでしたか」
先生の頭の機械が、ひときわ大きな音を上げます。
「し、知っていたとも」
「なぜ、神父さまは、パシフィカさんに会わせてあげなかったんでしょうか」
「それははわわからないよ、ききっとま、守っているんだとおおおもう、わ悪い影響をう、う受けないように」
そっか。そういうことだったんだ。
神父さまはその新しい幽霊さんを守ろうとしているんです。流石はお優しい神父さまです。きっと優しすぎてパシフィカさんからも守ろうとしてしまったに違いありません。誰がそれを責めることができるでしょうか。
「すごいです! 先生ってすごい! 本当にすごい!」
さすがは「先生」と呼ばれているだけあって、この人はほんとうに賢いんだ、そんな人が身近にいて嬉しいな、という気持ちで胸がいっぱいになります。
「でも先生、パシフィカさんは本気で、誰かのために頑張っていたみたいなんです。神父さまは賢いのに、それはわからなかったんでしょうか」
「う、うう、うん、それは、難しいな、ち直接きいて、みるしかない」
「神父さまに?」
先生が「そう」と答えるその声に半分くらにかぶって、
「私が、どうかしたかね」
低く威厳のある、落ち着いた声がしました。
顔が、喉の奥が、かっと熱くなります。
さきほどパシフィカさんと一緒に出てきた通用口から、歩いてくる長身の男性。
神父さま。
その言葉をわたしは心の中で言ったのか、ほんとうに口で言ったのか、わたしにはわかりませんでした。
どうした、クラーラ。何か問題でもあったのかな。
神父さまの声に、わたしは我に返ります。
「倉庫の巡回、ありがとう。何か、欠けている備品でもあったのか……それとも、先生が何か?」
「いえ、問題があるわけじゃないんです……ただ、」
「ち、ちち違います神父さま、わたくしは、なななにも……ただこの子がき、教会に疑いの、疑問を、ぎぎぎ、ぎ」
先生の頭の機械はこの上なく激しく音を立てます。ランプの点滅ももう見えないほどに早くて、ほとんどつきっぱなしに近い状態です。
「そうなのかい、クラーラ」
先生から視線を戻すと、神父さまの青い瞳が私を射貫いていました。神父さまの前で、とても緊張している一方で、とても誇らしい気分で、その落差に頭がくらくらします。そう、きっと裸で雪の降るお外に出て、そこでとびきり熱いシャワーを浴びたらこんな気持ちになるかもしれません。そんな限界まで張り詰めた心地よさの中にわたしはいました。
「あの、パシフィカさんが来て、新しい幽霊さんに会わせるのを、断った、んですよね」
ああ、そのことか。神父さまが軽く微笑みます。
「いいかい、クラーラ」
う。いつもの感覚に、わたしは傍から見たらきっとわからないくらいわずかに内股になります。おなかの下の方からくる感覚に対応するためです。気を抜いたら、その、出てしまいそうで、怖くって。
「彼女は神に仇なす者だ。平気で暴力に訴え、欲望のままに生きるけだものだ。そして何よりも悪いのが、他人を自ら同じ道へ引きずり込もうとすることだ。きっと、心のどこかで罪悪感があるのだと私は思うよ。だから、道連れを欲しがるんだ」
神父さまはわたしの目をしっかり見て、まるで歌うみたいな美しい声で、正しいお考えをわたしに説いてくれます。心の中のもやもやがぜんぶ溶けて消えてしまうような、至福のときです。
「罪をふたたび生み出し、約束の時を永遠に先延ばししてしまうものだ。彼女は彼女のせいで行くべきところへ行けなくなる。それが、彼女にとって幸福かね?」
わたしが感動すればするほど、おなかの感覚は強くなっていきます。足が、がくがくと震え始めるのがわかります。全身がじんわりと汗ばんでくるのがわかります。
その——はっきり言います。わたし、クラーラは神父さまとこうして一対一でお話をすると、うんちがしたくなります。
「その前に手を差し伸べるのは、我々の、いや、私の使命だ。クラーラ、分かってくれるだろう」
「は、はい、神父さま。ありがとうございます。幽霊さんのため、なんですよね」
「そうだ。他に、不安に思うことはあるかな。あればぜひ聞かせてくれ」
少し便意の波が退いて、ほんのちょっと余裕の出たわたしは、せっかくのことなので、ひとつ質問をすることにしました。
「あのひとたちにも、教会の考えの素晴らしさを、教えてあげられたら、いいな、と、思いました」
そうか、それはなぜだろう。神父さまが続きをうながします。
「パシフィカさんが『部屋から出たあの子に、何かあげようと思ったのに』と言っていました。誰かに奉仕する気持ちがあるなら、他の善い行いも教えてあげれば」
「あの女が、そう言ったのか」
「はい、さきほど���ご案内したときに」
少しおとなしくなっていた先生の機械が、ふたたび激しく音を立てました。「あ、」先生が機械を手で押さえますが、音は小さくなりません。
「先生」
「その、は、は、はい」
「どうして先に言わなかった? 報告の必要は無いと考えた、その根拠は」
「そんな、ことき、聞いてなくて、そもそも」
先生の言葉を、神父さまの大声が遮ります。「話していただろう」
「え、ででも」先生の返事をさらに遮って神父さまが「それくらい聞き取ることも出来ないからお前は——!」
「し、神父さま!」
先生の声も、神父さまに負けじと大きくなります。先生の頭の上の機械のランプが青く点滅して、「あ、この色は見たことがないな」と、目の前の光景とぜんぜん関係のないことが頭をよぎりました。
「職務に不誠実なのは変わらないんだな!? え? 責務を果たさず欲望にふけって、お前はこうなったのではなかったか!?」
神父さまの声は低くてよく響くので、礼拝堂全体がびりびりと震えているようでした。
「し、神父さま、ややめて、やめてください、もう、や、やめて」
先生の大きな体が、ばたりと床に倒れます。気を失ってしまったのかと心配になりましたが、どうやら、床につっぷして泣いているようです。大好きな先生が泣いている姿はとても胸が痛んで、でも泣かせたのは神父さまだから、それはきっと正しいはずで。わたしはどうしたらいいのかわからず、ただ立ち尽くすことしかできません。そういえばいつのまにか、便意はすっかり消えています。
「そうか、遂に来るべき時が来たようだな……教えてくれてありがとう、クラーラ」
神父さまは表情を変えずに言いました。懐から携帯電話を取り出して、どこかに電話をかけます。すると、守衛さんがばたばたと礼拝堂に駆け込んできました。
「神父さま、あっしは構いませんが、いつまで厳戒態勢でいりゃいいんで?」
無表情の神父さまと、ちょっと混乱した顔の守衛さんを交互に見比べますが、もちろん、何が起きているのか、ぜんぜんわかりません。
「私がよいと言うまでだ」
「……承知しやした」
「ユゼフ、お前に任せる」
「はっ、お任せ下さい。若い衆も呼んでありますんで、人っ子一人、入れやしません」
「早いな。流石の手並みだ」
「へへっ。……ただ、雁首は揃うかと思うんですが。連中は、その、お利口じゃないモンですから、『ごほうび』も、必要だって、こう言うに違いねえかと」
「心得ているさ。必ず用意しておくと伝えておけ」
「ありがてえ!」守衛さんが大声を出すと、先生が、びくり、と反応します。守衛さんは、まじまじと先生の丸まった背中を見つめましたが、神父さまに視線を戻します。
「では、私は仕事がある。問題が起きたら」
「『三コールするだけ、後でかけ直す』でございやすね」
「そうだ」
礼拝堂を出て行く神父さまの背中を、わたしはぽかんと見送ることしかできません。
礼拝堂には、わたしと、守衛さんと、それから泣き崩れる先生だけが残されました。なんだか頭が冷やしたくなって、わたしは教会の外に出て、いつもの町並みをぼうっと眺めます。
わたしの町。大好きな町。
大好きは裏切らない。
「おお、クラーラちゃん、どうしたよ、変な顔して」
急に声をかけられて、「ほえ?」声が出てしまいしました。
「ばっか、それじゃあクラーラちゃんの顔が不細工みたいじゃねえか」
「だはははは、すまんすまん、不細工ってのはこいつみてえな顔��ことを言うんだよ、なぁ?」
「いひひひひ、まぁおれぁ前歯は無いけどなぁ、顔は男前だって評判だぜ?」
たまに教会にやってくる、ちょっと怖い雰囲気の男の人がふたり。どちらも守衛さんと雰囲気が似ていました。たぶん、信徒さんだと思います。
わたしの名前を知ってくれている。そして、こうして親しげに話しかけてくれている。
「あはは、お二人とも、とっても面白い! すてきです!」
いいな、大好きだな、と思いました。
「気をつけろよクラーラちゃん。なんか最近物騒だからなぁ」
「なぁに、俺が守ってやるさ! へへっ」
心の中が、暖かいもので満たされるのを感じます。
しおれてしまっていた勇気が、希望が、もういちど息を吹き返すのを感じました。
わたしにもできることが、きっとあります。神父さまに喜んで頂けるようななにかが。
「クラーラちゃん? だいじょぶか?」
「ええ、ぜんぜん——だいじょうぶです」
大丈夫。わたしはだいじょうぶ。
もう一度、町の景色に目をやります。大好きなわたしの町。そこに含まれるものすべても、きっと大好き。
そう、パシフィカさんも。
その瞬間、いい考えがひらめいて、わたしは走り出しました。
「おーい、どこ行くんだ!?」
もう立ち止まるのももどかしくて、走りながらお返事します。
「パシフィカさんを説得してきます!」
雪に足を取られて何回つまずいても、ぜんぜん気になりません。
途中、道で出会った信徒さんにパシフィカさんのお家を教えてもらって。
そしてわたしはパシフィカさんの家の呼び鈴を鳴らしたのでした。
心の中でつぶやきます。
大丈夫。わたしはだいじょうぶ。
ぜったい。
4 notes
·
View notes
129 風の谷の名無しさん@実況は実況板で [sage] Date:2011/04/09(土) 17:51:50.19 ID:WNrbfMh+O Be:
お前ハム太郎末期とリルぷりっが落ちた理由わかってないだろ
動物が出てくるアニメで一番大切なステータスはマスコットキャラのデザインと魅力で
ハム太郎はハム太郎、リボンちゃん、トラハム兄妹、トンガリ君、かぶる君、
ラピスちゃん、エンジェルちゃん、ひまわりちゃん、オーキニーちゃんしか
魅力的なキャラがいなくなってしまったから末期に子供に見捨てられたんだよ
主に菅良幸と三浦浩児とか言う脚本家が好き勝手やったせいでな
リルぷりっも可愛くもないセイダイリョクじゃ子供は惹きつけられなかっただろうな
プリキュアは今でも可愛い妖精キャラを生み出しているし、
たまごっちは全キャラ可愛いわけじゃないけどオーラがある
とにかくマスコットが可愛くない女児向けアニメは生き残れないから死んだ方が良いよ
132 風の谷の名無しさん@実況は実況板で [sage] Date:2011/04/09(土) 18:15:19.86 ID:WNrbfMh+O Be:
何も知らないハム信者にもう一つ真実教えてやろうか?
末期のエポック社が出したハムハムぴたりんちゅ!って言う糞玩具が、売れ行き無惨で
ハム太郎関連商品の展開に大打撃を与えたと言うことを。
末期の糞内容の時に出したこの玩具はワゴンで処分され、
トイザらスでは軒並み500円の処分価格になっていた
つまりハムハーの木時代の関連商品があまりにも悲惨な大失敗でそれに伴って
アニメも日本一酷いレベルになって無惨な末路を辿ったと言う
4:3とは言え、再放送のスポンサーになってくれたバンダイに感謝するんだな
まあ最も再放送なんて醜態晒し以外の何者でもないんだが
とにかく俺はハム太郎296話欠かさず見ていて、
ハム太郎が人気出てから落ちぶれるまでのプロセスをお前より全部把握してんの。
わかる?どうせ擁護するんだったらもっと知識をつけてから反論しろよな
0 notes
Lui Hua<interview>
東京都足立区、西新井駅。
俺の地元の駅だ。その駅の階段を降りて直ぐ、小さな交番の前で待っていると赤い髪の彼は現れた。
以前渋谷のVISIONというクラブで、
互いの共通の友人を通して少し挨拶を交わした。
その時は彼のアーティストとしての活動を聞く事は無かったのだが、
後日、ある友人(nkdt)が見せてきたこのMVに、その時の彼が居た。
興味を持ち、直ぐに彼の楽曲を聴き、幾つかのMVを観た。
とてつもなく見覚えのある街が、彼を含むラッパーたちの後ろにあった。
それが今、俺と彼がいる西新井駅の駅前だ。
この赤い髪の彼、Lui Hua (ルイファ)という。
既に10本もの���ックステープ(無料アルバム)を作ったという彼。
そんな彼が去年リリースした渾身の一作「Lui Hua EP」を経て、彼の事は評論家の磯部涼、ECD、そして現在日本のHIP HOPシーン最重要アーティストのKREVAにまで届きだした。
もう発火寸前の灯かもしれない。しかも、この足立区から。
まさに今”旬”とも言える彼にインタビューを行った。
―まず、ラッパーになったきっかけを教えて下さい。
別にラッパーになろうとしてラップし始めた訳じゃないです。
地元足立区にN.G.Cっていう、一応僕がリーダーでやってるクルーがあるんですけど、10代半ば位にまず先にそのクルー自体が出来て、ただ皆で遊んでました。
遊んでる中で、地元の先輩達がやっているクラブイベントに顔を出す様になり、面白そうだから自分達でもやってみよう。何が必要?ラッパー?DJ?ラッパーだったらじゃあラップしてみようって感じで。
ただ単純に遊びの延長で始めましたね。
―そうだったんですね。ではこれまでのキャリアの中で、影響を受けたアーティストとかって居ますか?
SEEDAさんですね。
様々な音楽を経由してSEEDAさんに辿り着いて聴いたんですけど、ラップはめちゃくちゃ上手いし、リリックも刺さるし超かっこいいなって。
―元々はリスナーとしても結構ヘビーだったんですか?
そうですね、最初はRIP SLYMEとかから聴き始めましたけど、その後は日本語ラップにどっぷりって感じで。今でも家に昔聴いてた日本語ラップのCDとか700枚位ありますね。(笑)
―ルイファ君の作品に関して、俺は「Lui Hua EP」を初めて聴いた時に、その孤独なたたずまいがどうしても音に現れるような感覚を覚えたんですね。海外だとケンドリック・ラマーっぽいな、とも思ったんですけど。
ケンドリックは…濃すぎてそんなに聴いてないので影響はほとんど受けてないと思います。(笑)勿論かっこ良いとは思いますけど。
「Lui Hua EP」を作ってた時は、本当に自分の音楽のことしか考えてなかったんですよ。
だから孤立している感じが少し楽曲にも表れているんだと思います。
―「Lui Hua EP」の制作中、良く聴いていた音楽とかありますか?
色々な音楽を常時聴いているんですが…
一つ挙げるとしたら、Bryson Tillerの「T R A P S O U L」ですかね。流行っているトラップの中でもこのアルバムのトラップは一際目立ってかっこ良いと思ったので、その空気感等は作品に取り込んだ要素の一つですね。歌物のトラップっていう点もBryson Tillerを聴くまでそんなに知らなかったので、かなりフレッシュだなと思い、良く聴いていましたね。
―その「歌物のトラップ」とありますが、トラップの流行と同時に現在はヤング・サグをはじめ、様々なタイプのUSのラッパーが現れましたけど、その中でのフェイバリットとかありますか?
フェイバリットに絞るのは難しいですね…(笑)
基本的にはずっとリル・ウェインが好きですが、あとまぁ最近はトラヴィス・スコットですかね��プロデュースも含めて超強引だなって(笑)。
良い意味でバカっぽいっていうか。トラップって本当にノリじゃないですか。
もっとそういう感じでやりたいんですよね。日本とか、結構リリックに凝っちゃう気がします。
―日本人は職人の国だもんね。そういう意味では、USのあのすぐババッってノリで作っちゃう感じってのは結構難しいのかも。
あとは、070ってクルーは結構好きですね。リーダー?みたいな女の人、070 Shakeっていうんですけど、この人のセンスはすごく好きです。
070自体も彼らのノリとか、あとは考えて作ってる所とか、そこらへんのバランス超良い感じで好きです。
―あと、他の作品に関してだけど、俺はこの前ルイファ君がACE COOL君とやった「HONDA」もすごく好きなんだけど、あの曲で「Big Seanみたいに儲ける」ってラップしてるじゃない?他にも「EKJ」では、「Lunv Loyalの肩の埃叩く 叩く」ってヴァースがある。あの個人名とかをバンって出すのは何か狙いがあるの?
個人名出すと、分かり易いし面白いじゃないですか。
あとは相手へのリスペクトであり自分への自信だし、チャレンジですね。
「HONDA」でもかなりそこは意識しました。
「MIYACHI, KOHH, Cz TIGER, ゆるふわギャング 世界基準 負けずLui Hua今日もフローする」って、そこに僕を並べることで、KOHHさんはじめとして皆戦ってるフィールドは同じ世界基準だよっていう。
まあ、見栄を張っている部分もあるかもしれないですけど、別に僕を並べることで、リスペクトしている人達のレベルを下げている訳じゃないんです。
反対にリリックの中で自分のレベルを上げてるんです。
でも、そういうのも自分のスキルに自信が無かったらこんな事出来ないです。
―俺は足立区に住んでるから、ルイファ君が同じ足立区のラッパーだっていう事がすごく嬉しくて。
この足立区を、まぁクサい言葉だけどレペゼンしてるってとこある?
ありますよ。
足立区というよりも特に自分はアップタウンじゃなくダウンタウン、下町の人間なんだなって様々な場面で常々思います。
だけどそれが嫌とかじゃないです。自分には自分や地元の友達しか分からない価値観があって、それがすごく深い絆になってて。
特にダウンタウンって土地や家賃が安いから、その分色んな人が集まるし、結果的に不良も多い。
独特な縦社会もあるし、そこから抜け出したい、何かを変えたい、不自由な部分を少しでも改善させたいと思う気持ちが生まれる。
そういう部分等から、地元の友達とは価値観が一緒だし、冗談を言っても通じ合える。
地元の友達を好きになる=地元を好きになる=地元をレペゼンする、だと思います。
…でも、まぁ特にダウンタウンでも足立区って「こもって」たと思います。
親も足立区で子供も足立区。そこから出れないみたいな。
僕は小学生の時、綾瀬とか梅島に住んでたんですけど。いつもなんかいやーな事件があったりとかして。
僕が住んでたマンションの別の部屋の住人で、アイスピックで別の部屋の住民の肩を刺した奴が居たとか。誰かが近所の自転車のタイヤの空気全部抜いたとか。
そういうドロッとした悪さ。いたずら。
他にも中学校の駐輪場で、毎晩制裁みたいな暴力があって、顔ボコボコになってて。小学生の時にそういうのをはたから見てて絶対この中学校入りたくないなって思ったり…。
足立区の事件ってかなり色々あると思うし、小菅に東京拘置所がある事も一つの原因だと思うけど、そういう事含めて色んな種類の”悪”があったと思います。
最近なんかは、足立区にも新しいマンションとか沢山建って、街も綺麗になっているけど。でも今までの嫌な環境とかは近くに友達が居たから、ここまで笑って過ごせていますね。
―ゆるふわギャングのRyugo Ishida君だって土浦だし、そういう、都心ではないところの、夢を見る力ってあると思うんだよね。今回共演するELLE TERESAちゃんも静岡の沼津だしね。
そうですね。一概に郊外だからとかとは言えませんが、割と都心じゃない部分の人達の”何かを変えようとする気持ち”と”力”はヒップホップにかなり影響を与えていると思います。
まぁ反骨精神だと思います。
インタビューを終えて、ちょこちょこと撮影をしながら、あるいは、ちょっとした雑談にでも、彼のきさくさと、ラップに対する情熱と、そのチャレンジ精神、野心を感じた。個人名の件について、僕は田中宗一郎の言葉を思いだす。dragon ashが「VIVA LA REVOLUTION」と言うことと、RATMのザック・デ・ラ・ロチャが「ムミアに自由を」ということの違い…。
足立区のゲットーの影を背中に受け、彼が転がしたこのラップゲームは、一体どういう結末を見るのだろうか。どういう景色をみるのだろうか。
そういえば、彼に聞きそびれていたことあった。後日、LINEで質問した。
―Lui Huaってネーミングの由来、聞いてなかった!
Lui Huaって名前は完全に適当です(笑)。 響きと雰囲気で決めました!
僕の音楽は何事も中性的なセンスを軸にしているので、
同じように中性的な名前にしています。
Lui Hua (ルイファ)
神奈川県厚木市生まれ。現在は東京都足立区を拠点に活動する。
ほぼ無名の状態から、'14年に3本のアルバムを立て続けに無料ダウンロードでリリース。独自のキャラクターやスキルフルなラップ、革新的な音楽スタイルが各方面で注目され始める。
'15年にはDJ Ninaと全国の若手アーティストのコンピ的ミックステープ「The Cakewalk Tape」シリーズも始動させる。
また地元東京都足立区のHip Hopクルー、N.G.Cでは中心メンバーとなりクルー名義での楽曲も精力的に制作。
雑誌WOOFIN'による2016's FRESHMANに選ばれる等、全国からの期待が高まる中、'16年には「Lui Hua Presents N.G.C Mixtape」、「Lui Hua & DJ Nina - The Cakewalk Tape Vol.3」そして最後にはソロ作品である「Lui Hua EP」を今まで公開してきたアルバム同様に、全て無料ダウンロードという形でリリース。
今後の活動に目が離せない、現在、業界最注目のヒップホップアーティストである。
1 note
·
View note
[ご紹介][ハロプロ]変なハロプロSONG -コミカルソング特集-(2019-01-27)
◎ハロプロ共通など
<!–.mobile { text-align: center; }
imobile_pid = “48008”; imobile_asid = “749848”; imobile_width = 300; imobile_height = 250;
[ご紹介][ハロプロ]変なハロプロSONG -コミカルソング特集-(2019-01-27)
変なハロプロSONG -コミカルソング特集-
地団駄ダンス Juice=Juice
https://youtu.be/vM2vpDYUsQA
さよなら SEE YOU AGAIN アディオス BYE BYE チャッチャ! モーニング娘。
https://youtu.be/X-EtLa55gaU
アイドルール リルぷりっ スマイレージ
https://youtu.be/wZ3LwYcdAAY
エレガントガール 氷室衣舞(CV…
View On WordPress
0 notes