Tumgik
recordsthing · 2 years
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RSA暗号遊び
素因数分解とかRSA暗号とかよくわかんないって思われがちなので推しカプで遊んでみました。 一ノ瀬志希をn(p×q),結城晴をeとして定義する。 この時の暗号をc=47/127/58/91/51とした時、元の文章は? ただし、条件は以下のとおりとする。 pq=nである。 m(p-1)(q-1)≡-1(mod e)となる最小の自然数を用意すると d=(m(p-1)(q-1)+1)/e である。 暗号文cはそれぞれ c^d≡M(暗号文)(mod n)より、元の文章を数字に変換した文が得られる。 誕生日より志希=5×30=150,晴=7×17=119 n=150,e=119として m×4×29≡-1(mod 119) -3m≡-1(mod 119) m=40 d=39(代入のみ) よって 47^39≡83(mod 150) 127^39≡13(mod 150) 58^39≡22(mod 150) 191^39≡61(mod 150) 57^39≡93(mod 150) 元の暗号文は 83/13/22/61/93 50音で子音を1~10,母音を1~5として (前者は1~あ、2~か、3~さ…後者は1~あ、2~い、3~う…) ゆうきはる 反省点 modが小さすぎてローマ字表記が不可能だった。 (ほんとはyuukiharukawaiiにしようとした、ただyu=2521で置換するとゆ=83と比べてとんでもないことになる) 発見点 一ノ瀬志希と結城晴の誕生日で最初のdの値がさらさらっと出た時美しすぎた(nとeの値が逆転する等、整合性がないとうまくいかない) modの計算大変すぎる……本当はプログラム書くのが早いんだろうけど…… 参考 modの計算に使用 https://ja.wolframalpha.com/examples/mathematics/algebra/equation-solving 着想元(サマーウォーズの暗号を手で解くやつ、すごすぎ) https://www.youtube.com/watch?v=kvC55N4k9ng
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recordsthing · 2 years
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ろくでもない志希晴続き(R18)
 大きなバスルームから脱衣所に戻って、身体を拭いている。志希に頼みごとをされ、その通りの処理を一通りしてきたが嫌な予感しかしない。要は身体を綺麗にしといてほしいって話だったのだが、なにもこんなとこまで……という所も洗うことになってしまった。あんまりこの後のことを想像したくはないが、それでも、このまま飛鳥に負けたままなのは癪だ。ある程度水滴を拭き取ったら。身体に大きなバスタオルを巻いて、志希のいる寝室へと足を運ぶ。ゆっくりゆっくりと進むにつれて感じる重圧は、ライブのステージの階段みたいだ。
「やっほ、待ってたよ晴ちゃん」
 ベッドの枕とは正反対の方向に、大きなプロジェクターが映し出されている。前に寝そべりながら映画とか観たいよね~、だからベッドルームとシアタールームを一緒にしちゃった♪と言っていたが、これのことだろうか。
「ささ、お隣どうぞ♪」
 ぽんぽんと隣のスペースに手招きされる。完全なアウェーを感じながらも、そこに身体を入れ込む。肩や太ももが布団に擦れるのがなんだか慣れないし、志希が使っているだけあって匂いが濃くて、頭がくらくらする。
「はい、ここからはナイショの時間だよ」
 いつの間にか志希が黒いハンカチを取り出して、オレの目を覆い隠したと思ったら後頭部の部分に結んだ感触がした。
「ハズしちゃダメだよ?それがきっとお互いのためだから♪
「……ああ」
 絞りだした声が震えている。どうなってしまうのか全然わからないが、多少なりともこういうことは経験した。大丈夫、オレなら耐えきれる、いや、耐えるしかないんだ。ゆっくり深呼吸をして、心臓の高鳴りを抑える。志希の恋人なら、他の誰より志希を受け止めてみせる。
「晴ちゃん、バンザイしよっか♪」
 両腕を頭の上にあげると、カチャ、という音と共に手首になにかがひっかかった。腕を動かそうとしても、離れない。冷たい鉄の感触に自由を奪われる。
「……手錠か?」
「ピンポーン、正解!あんまり力入れちゃうと跡になるから気をつけてね?」
 視界も動きも制限され、抵抗する術がどんどん失われる。完全なるアウェイで、自分がここにいることすらどこか夢見心地で震えてくる。
「さてさて、晴ちゃんはこれからどうなってしまうのでしょーか。とはいえ、なにもわからないのはフェアじゃないからかるーくだけ教えてあげるね♪」
 ピッ、という電子音と共に先ほどスクリーンのあった位置から機械が動いてる音がする。きっとなにか上映する気なのだろう。しかし、今の自分では聴くことでしか状況を把握できない。知りたい、という気持ちより何が起きるんだ、という恐怖の方がこみあげてくる。
『やめっ……もうやめてくれっ!!志希!!』
「飛鳥……!!?」
「おーさすが!そうだよ、これは飛鳥ちゃんとの記録だからね♪しっかり聴いて予習しとくといいよっ」
 振動音と絶え間なく喘ぐ飛鳥の声が、部屋に響き渡っている。いつから喘がされているのだろうか、ガラガラで泣いているようなそれでいて喜んでいるような、おかしくなってしまいそうな声だ。普段の落ち着いてる様子からは想像もできないような甘い声が、耳から頭に流れ込んでくる。 
『ダメ……もうイってるから!!本当にダメなんだ!!し……ぬっ!!』
『大丈夫だよ、そんなヘマはしないから♪おかしくなっちゃえ!』
『あ゙あ゙あ゙っ!!』
 聞いたことのない悲鳴があがる。その後は薄い呼吸音と無機質な機械が震える音しかしなくなってしまった。
「これで飛鳥ちゃん気絶しちゃったんだよねー、もちろん無理矢理起こして第二ラウンド始めちゃったけど♪」
「は……?」
 血の気がさっと引いた。あんな状態になるまで責められて、その後も続きがある?恥ずかしいとか緊張とか、そういうものが全部恐怖と絶望に塗り替えられていく。布団に支えられているのに、身体がどこまでも落ちていくみたいだ。
「ねえ、お願いだから」
 志希が耳元で囁く。その声色はとても優しくて、
「あんまり早く壊れないでね?」
 悪魔的だった。
「はあっ……はあっ……!」
 志希はずっとオレの身体を弄ぶように撫でたり舐めたり、あるいは抱きついてきて肌を擦り合わせたりしてきている。腕から肩、背中や臍、太ももから尻を撫でまわし、不意に指や首を舐めてくる。かと思えば抱き枕みたいに密着して、耳元で囁いてくる。
「愛してるよ、晴ちゃん」
「~~っ……!」
 恥ずかしさと嬉しさと、もどかしい快楽で冷めていた興奮が徐々に熱を取り戻してくる。それでも、志希は肝心な所を責めようとしない。あくまでギリギリなところを、ずっとずっと時間をかけて愛でてくる。お互いの汗が重なり合って、匂いが混じる。視界が閉じられているせいか、いつもよりしっかり感じる志希の匂いに、指と舌の感触に溺れていく。頭がフラついて何も考えられない。幸せなのか不幸なのかもわからなくなっていく。
「晴ちゃん気づ��てる?」
「なにが……だよっ……」
「さっきからずーっと触ってほしいって言ってるよ、ココとか」
「うあっ……!?」
 胸の先端を指の平で優しくなぞられる。ただそれだけなのに、身体が勝手に跳ねてしまう。電流が流れたみたいに、全身がびくびくと震え出した。頭の中でなにかが爆発して、狂いそうだ。
「ココもグショグショだよー♪」
 足と足の間に滑り込んだ手が、溢れる体液をすくい取った。
「あっ……っぅ……!!」
「なになにー、触れるか触れないかのとこを指でなぞっただけだよ?あっ、もしかして期待してた?ごめんね、まだまだ時間をかけたいから。でも待たせたお詫びに……いただきます♪」
「んあっ!!」
 右胸の辺りに唇の感触がして、敏感になってるところをゆっくり舌が這いずりまわる。いやらしい動きなのに、どこか優しさのようなものを感じる動きで、痛さや不快感なんてものが全部快楽として感じる。ずるい。どうせこれから酷い目にあわせてくるくせに、どうして今はこんなに優しく気持ちよくしようとするんだ。
「しき……ぃ……」
「ん、晴ちゃんはこの動きが好きだよね♪」
 舌でぐりぐりと先端を押し潰される。だけど決して乱暴じゃなくて、心地よさのようなものさえ感じてしまう。こんな身体のクセ、志希以外誰も知らない。志希以外知ってちゃいけない。そんな関係性すら示してくれてるようで、嬉しさと恥ずかしさで苦しくなってしまう。
「アタシの唾液で綺麗にピンクに光ってるよ」
「言わなくて……いいからっ……!」
「やっぱり晴ちゃんって綺麗だよねー、改めてちゃんと見たくなっちゃった♪」
 そういうと、両方の足首に革製のベルトのような物が巻かれた。強引に引っ張られて固定されて、足が八の字のような体勢に開かれる。
「んーいい眺め♪さっきより溢れてきてるし、前……というか真下から見る晴ちゃんも良いねっ」
「あんま見んな……っ!」
「それは……“やめてほしい”って解釈でいーい?」
「……っずりぃ……っ!!」
「アタシはいつ止めてもいいから、無理はしないでね。ここからはちょっとハードル上がるから♪」
 少し志希がベッドから離れて、なにやら探しているようだ。まるで飼い主を待つ子猫のように、震えて待つしかない。この後のことを考えると不安しかない。
「晴ちゃんの身体って白くて綺麗なキャンバスみたいだよね」
「な、なんだよ急に……」
「だから」
 なにかの液体が太ももに落ちた。その瞬間、熱がその液体から伝わってきて身体が反射的に暴れた。
「あっつっ!!!……!?なんだこれっ……!?」
 ただ、動かそうにも腕も足も固定されていて、手首と足首に鈍い痛みが加わっただけで、ほとんど動かない。
「ん?これは低温蝋燭だから、そんなに熱くないよ?」
「な、なんでそんなものを……」
「だって、この真っ赤な蝋で晴ちゃんを染め上げたい……から、かな」
 なんだその理由、めちゃくちゃすぎる。
「大丈夫、やけどなんてしないよ。……本当にいつでもやめていいからね?」
「ああっ!!」
 優しい言葉とは裏腹に二滴目が投下される。今度は胸の真ん中に落ちた。
「ちなみに、どんどん溶けていくからペースは加速していくよ♪」
「っぐぅ……!!」
 次は臍の下辺りに落ちた。やけどなんてしないって言ったけど、神経や感覚が敏感になってるときにこれは辛い。耐えたい気持ちが、浴びる熱で次第に溶けていくみたいだ。
「いいっ……!!?」
「どうしたの?ちょっとポタポタ落ちただけだよ?」
 連続で腹のあたりに熱の雫が落ちてくる。やばい、このままじゃ本当に挫ける。せめて自分の声を聞きたくない一心で、それが近くにあったことを思い出して、次の熱が降り注ぐ前にそれを噛んだ。
「うーっ……!!!」
「あ、そういえば剥ぎ取ったバスタオルそのままだったね」
 思ったより噛んでると楽になって、苦痛も声が出てたときより抑えられる。後どれだけ蝋が残っているかわからないが、これならギリギリもつかもしれない。
「ねえ、なんで?」
「……?」
「どうしてそんなに頑張るの?」
 ふっ、と息を吐いた音がする。蝋燭の火を消してしまったのだろうか。
「だ、だって……っ!?」
 声を上げようと咥えていたバスタオルを離したとき、首に手のひらがぶつかってそのまま絞めてくる。呼吸が難しくなって、頭がふわふわしてくる。元から過呼吸気味だった身体が、余計に苦しくなる。苦しさで意識が薄れる前に、絞まる力が弱まって肺が酸素を求めて動く。
「がはっ……はあっ……!」
「酸欠の瞬間ってふわふわして気持ちいいけど、どう?」
「は……なに……いって……」
「よかったでしょ?」
「んなわけないだろ……っ!」
「……そっか、じゃあ次は気持ちよくしてあげるね」
「んんっ……!」
 強引なキスから舌が侵入してくる。拒む理由もなくそのまま受け入れて、全部持っていかれるような勢いで口の中を荒らされる。さっきまでの余裕や優しさはなく、ただただ奪う様に求めてるみたいだ。
 しばらくすると、満足したのか口が離れていった。少しの名残惜しさを感じていると、志希の吐息が秘所に当たる。舌がそのまま入ってきて、いやらしい水音がたってしまう。これだけ散々焦らされたせいか、どんな小さな動きでも気持ちよくて声が出てしまう。
「あっ!……そこ、きもちぃ……っ!」
「しっかり熟れてるねー、なかなか進めないや」
 あくまで表面から溢れる蜜を舐めとるように、責めを弱く浅くしてくる。おかげで達することができないまま、身体に熱だけが籠っていってしまう。
「こっちは初めてだったよね」
「な……どこ……触って……!!」
 尻の間に志希の長い指が入り込んでくる。
「ちゃんと綺麗にしてるよね?」
 事前にちゃんと洗う様に言われたのはこの為か……。嫌な予感、いや確信が頭によぎる。
「大丈夫、きちんと手順は踏む方だから♪」
 割れ目のところをマッサージするみたいに、ぐにぐに押される。味わったことのない感触は、腹の中を下から上に押し出されてるみたいで少し気持ちが悪くなる。不快感と恥ずかしさが交わって、頭が重くなる。
「やっぱ最初は慣れないよねー、でもこれがあれば大丈夫だよ」
「んんっ……!?」
 もう片方の手が口内にねじ込まれて、小さな球体を落としていった。苺味のソレは、昔のままだった。
「志希ちゃん特性惚れ薬~!今回は即効性でちょっぴり危険だよ♪」
「なっ……あっ!?」
「お~いい声♪」
 さっきまでの変な感覚が全部気持ちよくなってくる。いや、なんだか身体に触れる全部が気持ちいい。腕の手錠も、足のベルトも、背中のシーツも擦れるだけでイってしまいそうになる。頭がチカチカして、全身に力が入らない。
「しきぃ……もう……イキた……っ」
「いいよ、でもね……今日の晴ちゃんはこっちでイくの♪」
「うわああっ!!?な……っ!!?」
 ぐり、と穴に球体がねじ込まれる。なにも入ってこなかった場所に、無理矢理なにかが押し込まれてるのに、それが快楽に置き換えられてるようで、頭がおかしくなりそうだ。
「耐えてるみたいだけど、これは挿れる時より抜く時のほうが気持ちいいんだよねー♪」
「なぁ……あああっ!!!!」
 疑問が口から漏れる前に、喘ぎで塗りつぶされる。引き抜かれるのと同時に頭が真っ白になって、快感の波が痙攣になって現れる。息もできなくなるような絶頂で、疲労感が半端ない。
「今のは後ろだけだったけど……こっちも追加したらどうなるかにゃ~?」
 前の割れ目に指を添えられる。初めての快感でさえあんな風になってしまったのに、すっかり志希に馴染んでしまったそこを同時に責められたらどうなってしまうかわからない。
「しき、まっ……」
「待てませ~ん」
「んんんっ!!」
 今度は棒状のものがすっかり濡れてしまったそこに挿しこまれる。ゆっくりゆっくり入れられてるだけなのに、気持ち良すぎて息ができない。口は動くのに、息を吸えずに声が出ない。
「やっぱり飲み込みやすくなっちゃったね、えっちな晴ちゃん♪」
 志希の言葉が耳に刺さる。そうしたのは間違いなく志希だが、それを拒んでない時点でオレもそれを望んでるんだから。
「ねえ、晴ちゃん」
 言葉と共に後ろにまた球体のものが入る。
「そろそろ我慢の限界じゃない?やめてもいいんだよ」
 優しい声ともに、一つ、また一つと体の中に異物が入ってくる。
「晴ちゃんのこと、壊したくはないから」
 その言葉で、なぜかギリギリのところで理性が戻ってきた。恥ずかしいし何も考えられないけど、そういうことを言わせちゃいけない気がした。
「なあ……しき……」
 枯れた涙声を絞りだす。
「なぁに?」
「志希のこと……ちゃんと見たいから、これ……外して」
「ん」
 しゅるり、という音と共に視界が広がる。志希はどこか嬉しそうで、どこか寂しそうな表情で、オレなんかより酷い表情をしているように見えた。
「……恥ずかしいし、自分がわけわかんなくなるし……怖かったし、やめたいけどさ……」
「うん」
「でも……負けたくない、飛鳥にも誰にも……志希のこと、好きって気持ちで……まけたくないよ……」
 言葉にしたら、涙がどんどん溢れてきた。こんなに志希のことが好きで、それなのに満たせなくて、ただただ悔しくて情けない自分でも、気持ちが伝わってほしくて。
「……晴ちゃん、ずるいよ。そんなこと言われたらもう……なにもできないや」
「……え?」
「でもね、負けっぱなしは悔しいから」
 志希の両腕がオレに刺さってる物に添えられる。
「晴ちゃんがとっても気持ちよくなって、イくところ見せて♪それでチャラにしてあげる」
「ちょっ……まああああっ!!!」
 後ろのものが引き抜かれて、前は一番苦手なところを突かれてもうぐちゃぐちゃだ。顔がとろけて、身体はもう心臓が壊れそうなほど鳴って、身体のあちこちはべとべとだ。とてつもない疲労感と共に、意識が薄れていく。視界の端に映った志希の瞳からは。少しだけ雫が零れてるように見えた。汗なのか、それともオレから出た何かなのか、それ以外のものなのか判別する前に温かな暗い世界に意識が沈んでしまった。
 目が覚めると、ベッドの上で志希がオレの頭を撫でてくれていた。身体をいたわってくれてるのか、水入りのペットボトルを持ってきてくれてそれを一息で飲み干した。
「そういえば晴ちゃん、どうしてあんな提案したの?」
「そりゃ……オレ以外の人にそういうこと……してほしくないから」
「あれ?でも晴ちゃんと付き合ってからはそういうことしてないよ?」
「へ……?」
 予想外の言葉から変な声が出る。
「じゃ、じゃあ飛鳥とは!?」
「あれは付き合う前の話だよ。あ、もしかして出ていった飛鳥ちゃんとすれ違っちゃった?もちろんちゃんと断ったよ~!だって今は……こんなに可愛くて素敵な恋人がいるんだもん。それで十分だよ」
 優しく頭を撫でてくれる。なん���か気恥ずかしくて、布団に潜り込みたくなって顔を隠す。
「……恥ずかしい」
「今更じゃん、あんな可愛い顔しといて♪」
「それとこれとは話がちげーの!ったく……」
 なんだ、嫉妬なんて元からしなくて良かったんだ。こんなに志希はオレのことを好きなんだから。むしろ疑ってしまった自分が恥ずかしい。
「ん、まてよ……じゃあ最初からオレが勘違いしてるって気づいてたのか?」
「確信はないけど、なーんとなくね」
「じゃあなんで……」
「えー、だって晴ちゃんに激しいプレイするの楽しみだったし……」
 ……少し文句を言いたくなるも、抑え込む。志希にとっくに惚れてる自分と、それに感化されて変態になっていく自分を認めてるみたいで、そっちの方が余計に恥ずかしくなることに気づいてしまったから。
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recordsthing · 2 years
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夢でお告げがきた志希晴
普段と違う匂いと大きな布団の柔らかさを感じながら、瞼に光と熱を浴びて目が覚める。身体を起こすと、布団と肌が擦れてすこしくすぐったい。隣でごろんと寝転んでいる志希は、静かな寝息をたてている。ああ、オレは昨日はあんまり寝れなかったのに気持ちよさそうに寝やがって……。そう思っても、なんとなく何もかも許せてしまうような気になってしまう。空いていた右手で頭を撫でる。こうして見ると、オレより小さい子供みたいだ。 「んぅ……あれ……?」 「あ、悪い。起こしちゃったか?」 「ううん、大丈夫。……白いキャンバスに赤い花弁が散ってるみたいだね、見惚れちゃうな」 「何言って……っ!」  はっ、となって自分の身体を見てみると、あちこちに爪が食い込んだ痕やキスマークなんかが残ってしまっている。昨日は途中からなにがなんだかわからなくなったけど、想像がついてしまった。 「ど、どうすんだよ!こんなに痕つけて!」 「ちゃんと服を着たら見えないようにしてあるし、そんなに強くしてないからすぐ消えちゃうよ♪」 「ったく……」  志希がそう言ってるならそうなんだろう、と心のどこかで信用してしまっている。実際こういうことは何度かあったけど、バレたり問題になったことは一度もない。ただ、着替えたり風呂に入ったりするときは一応気を付けるようにはしっているのだが。 「ねーえ、アタシが今何考えてるかわかる?」  最近、不意にこういう質問をしてくるようになった。食事の時とかアイドルの仕事してる時は、正直わからなくて結構外す。ただ、この時だけはどうすればいいかはわかる。志希の頭を両腕で抱きかかえて、耳元でオレの心音が聞こえるくらい密着させる。 「こうすれば志希の考えてること、わかるよ」 「ほんと?」  考えてることがわからないなら、わかるようにパスを運んでやればいい。今志希が考えてることは一つだって、赤く染まって熱を持ち始めた胸の中の存在が教えてくれる。  今が一番幸せだって。
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recordsthing · 2 years
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年末雑記
ッスウー……年末ですね……なんか年々早くなってる気がします、これが歳をとるということなのでしょうか まぁそんな話は置いておいて、今年は本を作りましたね 実際去年の1月に書いた物なんで今はほぼ2年経っちゃいました、それでも実際に本になるとあーこんなカンジなんだ……へへ……ってなりました 誰にも配ってないので、機会やきっかけがあれば配って回りたいですね ただほとんどpixivに作品上げてないですね……ほとんどTumblrか個人に書いた物だったり、TRPGのシナリオ書いたりはしたけど結局公開していないので…… 好きな気持ちはもちろんあるんですけど、書きたい気持ちと体力が持たないんですよね……特に深夜家に帰ってからなにかの創作ができるかというと…… 就職するとこはちゃんと残業少なめなところにしたい でも最近思ったことがあって、映画とか漫画とかそれこそ小説とかインプット全然してないな~って なんかこれを怠ると書くモチベや知識がごりごり減っていってる気がします、映画は前ちょいちょい見てたけど今年は本当にさっぱりだった…… 動画とかでも結構色々触発されるんですけど…… 最近割と喋りたい欲求高めなんですけど、話すのって結局コミュニケーションなのでなんでもいいから話したい~みたいなノリで話すのって難しいんですよね あ~なんかいろいろ書いちゃう~ これは今更なんですけど、自分の作品がきっかけで興味を持って頂けるの本当に嬉しいんですよね 創作物が良かったからこそ交流をしたいって思ってもらえるんだろうなっていうか……自分の創作に対して肯定的な気持ちになれます……コメント等々ありがたいです…… そういえば小説書いてるからこいつにアドバイスしてやってくれって紹介された方がいらっしゃったんですけど、めっちゃ文体がなろう系でこれなんか言えることあるのか?ってなりました とりあえず…や・は偶数個にすべきとか、段落の字下げや数字や漢数字の一貫性や「」の使い方については教えられたけど、作品の色について言及するのに我手なんですよね 自分の面白いと思ってる物が世間の面白いものとは限らないみたいな、DLsiteゲームのランキングとか見ては絶望してます CG集のようなゲームはCG集でいいだろってなっちゃう…… 自分は割ときっちりした地の文があってストーリーがあってその上で恋愛描写があってあえぎ声とか露骨じゃない方が好きなんですよね、まぁまだまだ表現が未熟ではあるんですけど 今年というか来年の目標はとりあえず生きていたいです あとこれはあれなんですけど、言葉による誤解とかってちゃんと本人と直接話し合いをしないと余計こじれちゃうなって思いました 自分を戒める上で忠告を聞くのとそれが本当に当人の考えてることなのかは別……みたいな これで今年は色々失敗してしまったので、気をつけていきたいと思います 人の真意を聞くのって緊張しちゃうからできるだけ自分で解決したいんですけど、悩んじゃうとマイナスな方にしか思考が行かないんですよね…… あとは自分が意思表明しないせいで誤解されたりとか また別件なのですがいきなりDisordサーバーを抜けたのは前々から言っていたことが普通にスルーされてたからですかね これに関してはひさかさんすまねえって感じです、ルイナちょいちょいやってるけどマスターハンドみたいなやつに苦戦してます まぁでも色々あったけど人の縁って大事ですね、今では疎遠になってしまった方も多いですがそれでもそう感じます 改めて皆さんには今年の感謝を述べさせて頂きます、ありがとうございました 自己肯定感が低くて口下手というか表現があれで筆不精なやつですが、色々頑張るので来年も仲良くして頂けると幸いです 作品書く人としての来年の目標が欲しいんですけど明確な数字を目標にするのはありなのか……ん~…… 暫定的には誰かの記憶に残るようなものを書けたらいいなと思います めっちゃふわっとしてますが自分的にはこれで…… それでは良いお年を 皆さんが幸せな日々を過ごせますように
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recordsthing · 2 years
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晴誕に向けて書いてたやつ
 一年で特別な日ってのは何度かある。正月だったりクリスマスだったり、最近だったら七夕なんかもそうだ。ただ、それでも自分だけの特別な日と言えばこの日しかないだろう。7月17日はオレ、結城晴の誕生日だ。  しかし、今年から変わったことが一つある。それは、オレのことを祝ってくれるのが家族や学校の友達だけじゃなくって、アイドルの皆もプロデューサーも祝ってくれることだ。ただ、プロデューサーから来たメッセージは、 「今日の予定がもし空いてたら、レッスンの前に事務所の方に来てくれないか?荷物を置きたいだろうから来るだろうけど、念のために」 といういたって素っ気ないものだ。でもやっぱり狭い空間に一緒にいるせいか、前日にバースデーケーキのレシートが財布からはみ出てるのが見えたりありすや小春が当日の飾りつけをどうするべきか、という話を給湯室でしているのを聞いてしまったりとサプライズの割にバレバレなのだ。それでもわざわざ気づいてることを言うほど無粋ではない。知らないふりをして、了解の返事をして事務所に急ぐ。  会社の中に入って、事務所の前につくとなんとなく中に人の気配がする。それも一人や二人じゃない。……開けた瞬間にコーラとかかけられたりしないよな?一応何があっても、というか気を落ち着けるために大きく深呼吸をする。すぅー、はぁー、と体の中の空気を入れ替えると浮き足立った気持ちが少し落ち着いた。  ドアを開けた瞬間に、部屋のあちこちからクラッカーが鳴って紙吹雪とテープが降りかかってくる。 「「「「誕生日おめでとー!!」」」」  プロデューサーとアイドルの皆が言葉をそろえて祝ってくれる。レッスンの予定があった梨沙やありす、千枝はまだしも、特に用事がない小春やほたる、桃華にみりあまで来ている。 「お、おう……ありがと」  部屋の壁には折り紙で作ったリングが飾ってあって、どこから運んできたのか足の部分が長い机の上にはホールケーキが乗っかっている。ここからじゃ良く見えないけど、めっちゃフルーツが乗っているタイプのショートケーキだ。窓際には大きな白いプレートに『晴ちゃん、誕生日おめでとう!』と書かれてある。ここまで大掛かりに祝われると……なんつーか、やっぱ恥ずい。 「ここにいない方も来たかったそうですが、どうしてもお仕事の都合でこれなかったそうです~」 「そっか、それじゃ仕方ないな」  アイドルである以上、どうしてもスケジュールが合わないことはある。 「大丈夫ですよ!それぞれ皆さんからお祝いのメッセージを書いてもらいましたから読んでくださいね」  ありすから何枚かのメモ用紙を渡される。文字を見なくても、誰がどのメモなのかわかるくらいには特徴的だ。……オレもそういうの持ち歩いた方がいいのかもな。 「わ、私……別の事務所だけれど……その、ウェディングドレスの撮影の時にお世話になったから……お礼を言いに来ちゃいました。迷惑だったでしょうか……?」 「なんだよ、ここ結構出入り自由だからさ。そんなこと気にしなくていいって、ほたる」 「ありがとう���晴ちゃん」 「そうだ、別の事務所といえば……志希は?」 「さあね、今日はまだ見てないわね」 「わりぃ!ちょっと外出てきていいか?」 「志希ちゃん呼んでくるの?いいよ!こっちは誕生会の準備しておくね~!」  みりあから見送られて、一旦部屋を出る。……とりあえず、向こうの事務所にいっていなかったら倉庫の実験室に行ってみるか。廊下を進んで角を曲がる途中で後ろから再度事務所のドアが開いた音がした。多分給湯室から皿とかフォークとか持ってくるのだろう、と思って振り向かずにそのまま目当ての場所へと向かうことにした。  もし、このときオレが振り向けたとしたらもっと簡単に、楽になれたのだろうか。
 事務所では出席している場所の確認のためインジケーター?というものを使っている。そんな大したものじゃなくて、細長いメーターみたいな棒には事務所とかレッスン室とか自宅とか場所が書いてある。それを事務所の扉の前に貼ってあって、上の矢印を手動で動かしてどこにそのアイドルがいるのか簡単にわかるようになっている。とはいえ、結構扱いは雑で出席にしたまま帰ってしまうアイドルもいるのだとか。志希のものを確認してみると、出席になっている。確か昨日見た時は自宅になっていたはずだから、どこかにいるはずだ。一応事務所の中を顔だけ出して確認したが、志希の姿は確認できなかった。  となると、もう実験室しかないだろう。倉庫に向かうことにして、来た道を引き返す。第3芸能課の前を通り過ぎようとすると、ちょうど出てきた桃華とばったり会った。 「あら、志希さんは見つかりませんでしたの?」 「あと一か所アテがあるからそこ見てくるよ、他の皆はどうしてるんだ?」 「皆様自分が用意したプレゼントとか食器とか用意していると思いますわ、プロデューサーはちひろさんに呼ばれて書類の不備を直しているかと」 「まったくなにやってんだよ……なるほどな、サンキュー!」  まだ忙しいようだから、志希を呼ぶ余裕くらいはあるだろう。本当に、ただなんとなくだけど志希にも祝われたい……って言うとちょっと良くないかもしれないけど、誕生日くらい一緒にケーキとか食べてみたい。……なんかこれじゃ誕生日にかこつけて志希を誘いたいみたいだな。頭を横に振って不意にうまれた変な考えを吹っ飛ばす。そう、友達を誕生会に招待するみたいなもんで、別に何でもないことのはずだ。……やっぱ違う、心臓が何倍もうるさい。なんでこんなに緊張しなきゃいけないんだ。  そうこうしてるうちに、倉庫の前までたどり着いてしまった。ドアを開ける前にもう一回深呼吸をしてから、ドアノブに手をかけた。 「志希ー、いるかー?」  声をかけてみるも返事はない。やっぱり給湯室とかにいるのか?でもそれなら、準備してるやつと顔を合わせるはずだから代わりに伝えといてくれるだろう。諦めてその場を後にする。まだ少し時間がありそうだったので、会社の中をぶらついてはみたものの志希の姿はどこにもなかった。一体どこでなにをやってるんだか。  そろそろ丁度いい時間だろうか。あてもなくブラつかせていた足を、事務所の方向へと向かわせる。  向かっている途中で音楽が聞こえてきた。だれかがBGMでも流しているのだろうか。にしえは、まだ距離があるうちから聞こえてくるのは、音量が大きすぎるかドアが開けっぱなしになっているか、またはその両方かだ。少し不用心……というか迷惑になっていないだろうか。不安からか、足を急がせて第3芸能課に急ぐ。  案の定ドアは開けっぱなしになっていた。ただ、そこで見たものはそんなことがどうでもよくなるくらいに悲惨だった。  床に散らばるワイングラスの破片、一人一つに切り分けられたケーキは逆さまに落とされている。床に転がって零れたワインとジュースが混ざり合って、アルコールのせいか酷い匂いがする。かかっている大音量のクラシックが、この状況とあまりにミスマッチしすぎていて苦しい。なんだ?なにが起きている?アイドルの皆は?誰がこんなことを?視界がぐるぐるして頭が落ち着かない。  不意に廊下から視線を感じて見てみると、そこには無表情の志希が立っていた。普段のふざけた感じじゃない、興味が失せてしまって何を考えているかわからない志希だ。 「なあ、志希……一体これは……」  志希は何も言わずに走ってどこかへ行こうとしている。 「あ、おいっ!待ってくれよ!」  慌てて後を追ったものの、すぐに見失ってしまった。一体どうしたってんだ。いや、今はそれよりやるべきことがある。  荒れ果てた部屋に戻って、床に落ちているガラスの破片を回収する。一応危ないからテイッシュで受け止めながら回収する。怒りなのか悲しみなのかわからない感情が胸の中で渦巻いてしまって、手を動かすことでしか気がまぎれない。  複数人の足音がすると思ったら皆が戻ってきたが、何も言わずに黙々と片づけている。あまりに空気が重々しくて、事情なんて聞けなかった。誰が、どうして、こんなことをするのか誰も検討がつかないのかもしれない。  ……それなら志希はどうだろう。なぜこんなところにいたのか、何も言ってくれないのか。事情を知っているからじゃないのか?  そう考えていると、一緒に皿の破片を集めている梨沙がぽつりと呟いた。 「……もしかしたら、犯人はアタシたちの誰かじゃなくて他の誰か、ここによく来る別のアイドルかもね」 「なっ……!」  そんなわけないだろ!という言葉が出かかって、寸前で止まる。そうじゃない!と言い切ることができない自分が嫌で聞かなかったことにして、作業を再開する。  志希がやったのか?だとしたらなんで?答えの出ない解答に時間切れはなかった。
 一通り片づけが終わった後、皆に何をしていたか聞いてみた。ただ、皆食器を運んだりケーキを切ったり、BGMの用意をしていただけでどうしてこんなことになったのかは誰も知らないようだった。桃華に会った時のことを聞いてみると食器や飲み物が用意されていて、なにか音楽をかけようとしたもののオーディオの調子が悪くて調整に手間取ってしまったらしい。そこで、プロデューサーかちひろさんを探しに行こうとしたところでありすと合流したらしい。プロデューサーが仕事を終えて、千枝と小春は給湯室でお湯をわかしていて、帰る時にたまたま一緒になったのだとか。みりあと梨沙はそろそろ支度が終わるから、オレを探していてくれたそうだ。ほたるは部屋の飾りつけや物の位置を調整していたときに、急に仕事の連絡が入って来てずっと対応していたらしい。これに関しては玄関前で話しているのを何人かが見ていたそうだ。  ただ、一つ気になるのが誰も志希とすれ違っていなかったことだった。事務所の周りには少なからず皆がいたはずなのに、そのうちの誰とも会わずにオレとだけあの場所で会えたのだろうか。  そもそも志希はなんであの場所にいたのだろうか。誕生日を祝うためなら最初から合流して入ればいいことだし、遅れてきたにしては荒らされたタイミングがあまりにも良すぎる。それに、祝うにしても何かをするにしても、志希があんな表情をするのはほとんど見たことがない。少なくともオレといるときに関しては。  志希にどうしてあんな場所に居たのか聞くべきなのか?だとしてもそれは志希を疑っていることに他ならない。違う。志希とはまだそんなに長い付き合いじゃないけど、こんなことをするようなやつじゃない。  だとしたら誰がやったというんだ。アイドルでもなく、プロデューサーでもなく、ただの事故だというならどうしてこんなに手掛かりがないんだろう。窓は閉まっているし、割れた時の状況を誰もたまたま見たことがない。  疑心暗鬼が折り重なって落ち着かない。散らかった部屋を処理をした後は、また今度仕切りなおそうということで、いったん解散になった。それぞれ思うところがあって、疲れてもいるだろうし混乱もしているだろう。一度帰って休むほうがいいというプロデューサーの提案だった。誰もその提案を断らなかった。  オレも酷く疲れていたので、荷物をまとめて帰ることにした。帰り間際に、プロデューサーからこんな不手際を起こしてごめんな、と謝られたが別に誰も悪くないのはわかってるから、と答えて振り返らずそのまま外に出た。空模様は今にも雨が降りそうで、普段使わないタクシーを使って帰ることにした。そうでもしないと、足が動いてくれそうになくて家に帰ることができなかった。雨の時は傘がないと外を歩き回れないように。
 夕食には手をつけずに、自分のベッドでふて寝をしてしまった。身体を起こすとお気に入りの毛布が体からすり抜けて落ちていく。闇夜に慣れた目が、枕元の目覚まし時計の時刻を呼んだ。もう日付が変わろうとしている。二度寝しようとすると、頭にホイッスルがかかった。ダメだ、このまま明日になったらきっと後悔する。こんなに酷い誕生日を迎えたことを、記憶に残したくなんてない。  ……こんな時間でも志希は起きているだろうか。明日が仕事じゃないだろうか。なあに、もし出なかったらそれまで。仮に出たとしても志希が見たことを聞くだけだ。そう、別に疑ってるわけじゃない。本当に、ただ何を見たのかが気になるだけだか���。声のトーンもあれだ、そんな深刻じゃないようにしないとな。  頭の中で誰かに言い訳をするように、心の準備をする。電話がかからないことに少しだけ期待をしながらかけると、数回nコールの後に繋がった。 「ぁ~いもしもし~」 「志希、こんな夜遅くにごめん」 「ふぁれ?その声は晴ちゃん?この時間帯に電話してくるのはプロデューサーかフレちゃんか飛鳥ちゃんくらいだと思ってた、どうしたの?」 「あ、いや、その。大した用事じゃないんだけど……今日第3芸能課の部屋の前でぼーっと立ってただろ?もしよかったら、その時のことを聞きたいなって」 「なるほどね、つまり晴ちゃんはあたしのことを疑っているわけだ」 「違うっ!」 思わず大きな声が出る。あまり大きな声を出すとアニキ達に聞こえてしまうから、慌てて毛布を被り声が響かないようにする。 「わあ!急に大きな声」 「志希のことも、誰の事も疑ってない……だけど、全然わからないんだ。どうしてこんなことになってしまったのか、誰も教えてくれないんだ……」 「ふんふん、それであたしを頼ってきたってわけだ」 志希の声色が少しだけ明るくなる。 「じゃあ志希探偵が簡単に推理を……いや、推測かな。あってるかどうかなんて誰もわかんないから、あたしが知ってることと思ったことを話すね」 「……おう」 「どこから話そうかな~。あ、少なくとも私が見た時にはあの惨状になってたよ。まずは……晴ちゃんはどこまで気づいてる?」 「どこまでって……なんにも……」 「オーケーオーケー、まず現場の状況だけど不自然だなと思ったのは零れたケーキ。一つだけ少し離れた位置に落ちていたこと、そしてそのうち一枚だけお皿にクリームが付いていたこと。これからわかるのは、ケーキは一つだけお皿の上に乗っていたということ。誰かが気をきかせて切ったケーキを乗せようと思ったけどテーブルが小さかった、もしくはお皿が足りないことに気づいたのかな。お皿の山の上に一つケーキが乗っかっちゃった状態になったんだろうね。ここまではいい?」 「……ああ」 「さて、そんなテーブルがいっぱいの状況の中でワインの瓶なんて置けないよね。床に置くしかなかったのを誰かが端によけといてくれたと思う。ただ近くにはコンセントがあったはずだから、何かのコードが繋がっていたとしても不思議じゃないよね。」 「コードに引っかけて、誰かがワインの瓶が倒したってことか?」 「そうそう。もっと言うなら誰かがワインの瓶を開けっぱなしにしてたけど、上から封をしてたんじゃないかな。それに気づかないで下に置いて倒しちゃったんじゃない?台車を動かすときにコードに絡んじゃうことはよくあるからね」 「で、でもじゃあ他のはどうなるんだよ」 「さてさて、オーディオの調子が悪かったことがここで関係してきます。音っていうのは振動だから、ある程度大きすぎると物は揺れちゃうんだよね。だから調整してるときに、もしくは放置しちゃったときに不安定なお皿がぐらついちゃって落ちちゃうことは不思議、というより自然なことの気がするな~」 「……じゃあなんで、誰もそのことを言ってくれないんだ……」  自然とでた小さな声に、志希は声の調子を変えずに答えてくれる。 「だってお皿にケーキを乗っけた人とか、瓶をどけた人とか、コードをずらしちゃった人、オーディオを調整してくれた人、そもそもワインなんてもって来たのは……まぁ多分プロデューサーかな、食器をテーブルに並べちゃった人、もっと大きいテーブルに載せずに台車を使った人、全員自分のせいかなとは思ってる。だけど、自分がやったことは決定的とは言えなくて変に疑われてしまうのも怖い。重なり合う事故と要因が綺麗に繋がっただけだよ」 「……志希は最初からわかってたんじゃないのか、皆悩んでてオレも苦しんでること」 「うん、晴ちゃんから疑われて犯人扱いされるならそれでもいいかなって――」 「それは……違うよ、オレは志希のこと……疑ってなんか、これっぽっちも……なかったよ……」 「ん……そっか、ごめんね」 「いいよ、……いいから……」  オレが泣いてる間、志希はただただ相槌を打ってくれた。結局通話中に泣き疲れて寝落ちして、翌朝は目が真っ赤になってしまった。
 誕生会は別日に改めてやることになった。他のアイドルの誕生日と一緒に合わせてオレの分もやってくれることになった。それはそうとして、今は志希のラボでショートケーキのホールを二人で向かい合わせて見つめている。……布団の上に段ボールを机代わりにして、 「二人で食べるにはさすがに大きすぎないか?」 「残った分は持って帰っていいよ~♪どうせなら晴ちゃんに食べてもらいたいし」  志希が綺麗にケーキを切り分けていく。もう皿に取り分けることなんてしなくて、フォークで端の部分を切ってこちらに差し出してくる。 「食べて♪」 「ん」  口を開けて、志希からケーキが入れられるのを待つ。甘くて優しいクリームの甘さとイチゴの甘酸っぱさが、二人だけの空間と混ざって心地良い。
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recordsthing · 3 years
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世界の果てで
 いつもと同じ日常と、アイドル生活はずっと続くものだと思っていた。そんな幻想は爆発音と聴きなれないサイレン、怒号と悲鳴によってかき消された。 「皆さん早く避難してください!誘導は私たちがしますから!」  ちひろさんが叫んで、レッスン室にいたオレ達は状況を理解しきれないまま誘導に従って外に出た。外は人と車が溢れていてまともに動けそうにない。警察なんかも案内をしているようだが、人の数が多すぎて抑えきれていない。多くの人が転んだ人間を踏みつけてでも、逃げ出している。呆然と立ち尽くしていると、会社の中から急いで出てきた人に押し出されるようにしてオレだけはぐれてしまった。体勢を整えるので精いっぱいで、皆がいた場所に戻ることはできなさそうだ。 避難する人たちからどうにか抜け出して元の場所に戻れないか振り返ってみると、人の流れとは反対向きに走ってくる人影が見えた。混乱している人の間を起用にすり抜けてこちらに向かってくる。そんな器用な真似ができて、自分の元に向かってくれるアイドルは一人しか知らない。 「はぁ……ようやく着いた~、無事なようでなにより」 「志希!!」  こんな状況でも、いつもの声のトーンが変わらないのは普段の生活、いや生まれもっての賜物なのだろうか。服の皺と額からにじみ出ている汗がここに来るまでの苦労がわかる。 「助けに来たよ!さっ早く行こ」  オレの手を取って、皆が向かう方向とは反対の方に駆けだした。 「待てよ!避難場所はあっちじゃないのか?」 「アタシにいいアテがあるんだ、皆とは合流できないかもしれないけど晴ちゃんを助けるためだから信じて」  この時、なんとなく嫌なことを察してしまった。もう二度と他の皆とは会えないかもしれない。それでも、志希は自分のことを助けたく思ってる。一瞬悩んだものの、志希の気持ちを無駄にしたくはなかった。その気持ちを伝えるために、握っている手の力を強めて返事の代わりにした。後はただただ置いて行かれないように、足を一生懸命に動かした。  足の動きがにぶってきた所で、志希は不意に止まった。町から少し離れたそこは、小さな倉庫だった。赤いトタンの屋根にコンクリートの壁、木製のドアが酷く無機質で冷たい印象を受ける。この場所は確か志希が必要な実験の薬品取ってくるために、事務所から一緒に機材を運んだことが一度か二度あったような気がする。中は本当に薬品やら機材やらがごちゃごちゃ入ってて、こんな雑に扱ってて大丈夫なのか?と思ったほどだ。 「ここに避難するのか?」 「まっさかー、こんな小さな屋根じゃ銃弾だって防げないよ♪こっちこっち」  倉庫の裏手に回ろうとする志希の後をついていくと、不意に茂みの中でしゃがみ込んだ。すると、急に地面から蓋のようなものが開いて、梯子が下にむかってかかっている穴が開いた。 「すげえな……これ……」 「志希ちゃん特製地下シェルター!ささ、扉を閉めるから入って」  梯子に手足を引っかけて、ゆっくり下へと降りていく。底がぎりぎり見えるか見えないかの高さで、怖くなって思わず身震いしてしまう。 「あんまり下みない方がいいよー」  アドバイスを聞いてできるだけ正面を向いて梯子を降りる。しばらくすると床が近くなってきたので、飛び降りた。目の前には蛍光灯の明かりに照らされた真っ白な長い廊下が続いていた。 「よっと、さっ行こうか」  志希が先導してくれるのを、後ろからついていく。カツン、カツンとオレと志希の足音だけが響いている。しかし、大きな爆発音と激しい揺れがやってきて足を取られそうになる。 「あっちゃー、いよいよヤバいね。少し急ごうか」  スタスタと駆け出した志希に置いて行かれないようについていく。少し先に進むと機械のパネルでロックされたドアがあって、志希がパスワードを打ち込んだ。ガシャン、という音と共に扉がスライドして開いていく。まるでテレビや映画でよく見るSFの実験室みたいだ。  中は広い空洞になっていて、両脇の棚には食料や生活必需品なんかが揃っている。真正面には大きな円柱の水槽があって上が空洞になっている。上から物を入れるためなのか、これまた大きな梯子がかかっている。水槽には大きな電子パネルがついてあって、志希がなにやら操作している。 「ん~ちゃんと動いてくれるかな……確かこうだったと思うけど……」  不安そうな呟きとは裏腹に、ものすごい速度で操作をしている。次々に現れる表示を捌きながらせわしなく動いている。まるで敵のディフェンダーをリフティングだけで捌いてるような動きだ。  ピーっ、という電子音と共に壁から液体が水槽へと注がれていく。 「良かった……こっちに来て、晴ちゃん」  志希はそういうと梯子を上り始めた。水槽に水が流れ込んでるせいか少し震えていて、さっきの降りているときよりか数段怖い。それでも、上を��っている志希を見ると安心してゆっくり慎重に昇ることができた。先に昇っていた志希は水槽の淵に座り込んでオレの到着を待ってくれている。すぐに追いついて、落ちないように隣に座り込んだ。 「これはね、コールドスリープのための装置なの。世の中が安全になるまでここで時間を過ごせるようにするための装置。使う機会なんてこないと思ってたんだけどね」  コールドスリープ……聞いたことがあるけど、どんなものかはよく知らない。 「晴ちゃんはここに入って生き延びるの、皆の分までね」 「ちょっと待てよ!それってどういう……うわっ!」  再度大きな爆発音がして、揺れが発生する。その時に体勢を崩してしまって、そのまま水槽に向かって落ちてしまった。水の中に落ちると、なにかの溶液のせいなのか酷くぬるぬるしていて、身体が徐々に沈んでいく。  志希がこちらを見てなにかを言っている。必死に手を伸ばして足をばたつかせてみても、一向に水面には届かない。  おそらく志希のことだから、���こにいれば安全というのは嘘ではないと思う。それでも違う、違うんだ志希。皆の分まで生きてくなんて耐えられない。誰もいない一人の世界なんて想像できないから。  水を飲んで意識を失う直前に、白い泡が立っているのが見えた。ああ、志希だ。伸ばしていた手を握り返して志希が笑っている。この後のことなんてどうなるかはわからない。でも、二人ならどんな世界でもやっていける。手の平の確かな感触をしっかり受け止めながら、身体の感覚と意識が遠のいていった。
 目が覚めると、周囲はもう廃墟のようだった。壁も入っていた水槽もところどころ崩壊しているし、床はもう草が生い茂っている。棚に入っていた食料や生活必需品はすっかりなくなっている。身体を動かそうとすると、酷く強張っていて上手く動かない。そりゃそうか、どれくらい自分の体を動かしていないか見当さえつかない。歩くのがやっとな身体を引きずるようにして、水槽に空いた穴から外へ出る。ただ、周りを見渡しても志希の姿はどこにもなかった。  不安になって辺りを見回してみると、入り口の近くにぼろぼろのメモ用紙が貼ってあるのと、なにかがそばに積まれてあるのがわかった。駆け寄ってみると、独特な筆跡の伝言が書かれてあった。 「ハロー、晴ちゃん。先に目覚めちゃったから一足早く世界を見回してみるよ!良かったらそれを着て来てね」  積まれていたものは、菜の花畑の撮影の時につかったブルーミングエリアの衣装だった。一体どこからこんなものを入手してきたのだろうか。上に乗っかっている泥やほこりからして、相当時間が経っているはずだ。それでも志希の伝言を無視するわけにはいかなくて、手で汚れを払って着なおしてみる。撮影の時は三つ編みだったから、それも合わせることにした。鏡がないから出来栄えはわからないが、多分合っているはずだ。  意を決してドアを開けてみると、そこは別世界だった。広がっていたのは長い廊下ではなく、一面の緑世界とでも言えばいいのだろうか。崩壊した高層マンションや建物に木や草が生い茂っていて、花があちこちに咲いている。それにつられた蝶が辺りを飛び回っていて、人の姿はどこにも見えない。 「志希ー!どこだー!?」 声を上げると、植物がざわざわしてある方角に傾いている。まるでこっちに来いと言わんばかりの動きだ。酷く奇妙で不可解だが、どこか懐かしい印象を受ける。なんとなくこの方角に行けば志希に会えるんだろ思う。それでも、なにか嫌な予感がする。オレの記憶が正しければ、植物たちが向いている方向は事務所があった場所だから。  荒れた土地を草木を踏まないようにゆっくり進んでいくと、元々事務所があった場所にたどり着いた。建物はすっかり崩れてしまっているが、紫色の花が両脇に通っている場所があって道を示しているみたいだ。通りなれた道と酷似しているその道を通って中に入ると、自然の色とは似つかわしくない紫色と肌色が目に入った。光が左側にしかあたっていなくて見づらいが、そのシルエットに見覚えがないわけがない。 「志希!」  ようやく会えたことを喜んだのも束の間、駆け寄ってみるとそれはもうほとんど志希では、いや人の姿ではなかった。 「し……き……?」  右側の目の部分には大きな花が咲いており、首周りには草と花が生えている。身体を這う根が妙に痛々しい。しかし、一番気になるのは開いてある左側の目だ。綺麗で好きだった志希の濃い青の瞳が、黄緑色の毒々しい色になってしまっている。それでも肌の色はそのままで、まだ生きているのか死んでいるのかよくわからない。 「あ……はる、ちゃ……」  志希の唇が微かに動いて、オレの名前を呼んでくれる。 「それ……きてくれて……ありがと……」 「志希!!どうして……どうしてこんな……」  すがりつくように抱きしめる。身体はすっかり冷たくなってしまっていて、人の時の体温ではなかった。 「……耐えきれなかったの、だから……こうなっちゃった……ごめんね……」  オレがいない間、志希に一体なにがあったのだろうか。一人ぼっちで何を考えて、何を感じてこうなってしまったのか、もう聞ける時間はないだろう。それがあまりに悲しくて辛くて、大粒の涙をこぼすことでしか応えることができない。  少しだけ身体を離して、動かなくなりそうな唇に自分の唇を重ねる。唇の温度も冷え切ってしまっていて、まるで死んだ人とキスをしているみたいだ。 「……もう、あたしはダメだから、離れてほしいな……」  自分の体に志希の首から生えていた蔓が巻きついてくる。それでも志希の体に回していた両腕を離したくはなかった。 「ずっと一緒にいるよ、志希」  足の方から根が伝ってくるのがわかる。あまりの激痛に腕を離しそうになってしまうが、なんとか堪えて強く抱きしめる。もう志希を一人にしたくなかった。どうせこんな世界では自分だけでは生きていけないのがわかっていたから。  花がオレと志希を包んでいく。それと同時に意識がまたなくなっていく。それでも、コールドスリープの時より怖くはなかった。だってもう眠っている間も目覚めたとしてもずっと大好きな人と一緒なのだから。
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recordsthing · 3 years
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志希が晴に出会う前のお話
 あたしはずっと笑うのが好きだった。辛い境遇にいる自分を現実逃避したかったというよりは、そっちの方が楽しかったのだ。幸いなことに神様から貰ったプレゼントは、笑顔でいることを他の人より簡単にさせてくれた。子供の時から勉強にも、身体的にも困ることなんてなかったし家族は裕福な方だった。唯一悲しかったのは、ママが重い病気になっちゃったことかな。それでも、未だに大切に覚えている言葉がある。 「ほら、そんなに悲しい顔しないの。笑ってる顔を見せてほしいな。私が一番好きな顔だもの」  崩れそうな顔を無理矢理整えて、作り笑いをした。今思うと小さい子供になんて酷な事を強いるものだと思わなくもない。  それ以来、あたしは常に笑顔でいるようにした。興味が持たなかったり、つまらない時も別の事を考えたり自分の世界に当てはめたりして調整して自分の機嫌を守ってきた。  とはいえ、その姿勢は他の人にずいぶん不気味に見えていたようだ。怒られているときも実験が上手くいかないときも表情を変えなかったのは、感性が壊れているとかそのうち天才だから何考えてるかわからないとか、適当な噂が流れて勝手に解釈された。多少は気になったものの、そんなことを気にして笑うことを止めてしまったら、それこそ面白くない。  ……あれ?どうして日本に帰ってきたんだっけ。笑うために必要なものがここにあると思ったから?パパから離れたかったから?生物は初めての地で、最初にたどり着いたところを根城にしやすい。そんな心理があたしにもあるのだろうか。  けれども、どれもそれもどうでも良かった。日本でぶらぶらするのは目新しくて楽しかったし、必要な場所を与えてくれるプロデューサーと知り合えて今確かに笑えてる。  そう、どうでもいいんだ。たとえ笑うこと以外できなくても。あたしは充分に楽しいのだから。
 最初にグループのメンバーを聞かされた時は、とりあえず実力のあるメンバーを並べたのかな~なんて考えていた。美嘉ちゃんと奏ちゃんが真面目枠でシューコちゃんとフレちゃん志希ちゃんがおふざけ枠ってやつ?性格と個性を考えたら、適度にバランスはいいし誰一人として劣ってる人はいないものの実力はみんな高い水準でもっている。  あたしことシューコちゃんは、どのグループにもそんなに肩入れする気はないし、今回も奏ちゃんをリーダーにして裏から頑張ろっかなー、程度にしか考えていなかった。一応弁明しておくけど、どうでもいいってわけじゃなくて、そのユニットだろうが仲間だろうがそれぞれに頑張る意味があって、特別視している相手がいないだけ。……いや、それでもプロデューサーさんは結構大事かな。  いやいや、そんな話はどうでも良くて。それに気づいたのは、ソファに座ってぼーっとお菓子を食べながらのんびりしていた時だ。あたし以外の皆がわちゃわちゃと雑談しているのを、遠目に眺めていた。  その中でただ一人、志希ちゃんだけ異様なカンジがした。どんなにつまらない話題や些細な会話でもずーっと笑っている。気遣いのできる奏ちゃんや美嘉ちゃんでも、そりゃ長話をくるくる話題を変えながらやっていたら、一つや二つ愛想笑いをする場面が出る。  そんな中、志希ちゃんはどんな話題でもずーっと笑っている。初めは話をそもそも聞いていなくて、適当に自分の中でオチをつけているのかとも思ったけど、不意に話題を振ってもちゃんと答えている。それに、心の中で何かよくないものを抱えながら笑っているようにも見えない。そういうのが敏感な環境が嫌で抜け出してきたあたしにはよくわかる。 「……世話役が必要とは聞いてたけどさー、こういうのは違う気がするなー」  ぼやきと共に思考がぼろぼろと崩れ落ちていく。こういうのは一人でやっても上手くいかないのは、短いながらに波乱の人生が証明してくれる。
 ある日、楽屋にポツンと赤い手帳が置き忘れさられていた。Note④というタイトルが表紙に大きく書かれている。誰のだろう、と思って何の気なしに中身をパラパラとめくってみて中身を確認した。
【喜ばしい】 黄色かオレンジ、しょっぱさを感じる 手で口を抑える、目が丸くなって見開く 【怒り】 赤が多い、鼻につんとくる辛み 眉を顰める、ため息をつく、声の調子が狂う 【悲しい】 薄い青、苦いような甘いようなカカオに近い 目を背ける、唇を噛む。涙を流す 【楽しい】 濃いピンク、甘くとろけるような匂い 笑うこと、目を細めたり口角が上がる 声のトーンを上げる 派手な動きをする
 感情に対して、色と匂い、そして動きが設定されていた。次のページをめくって確認してみる。
【城ケ崎美嘉】 薄いピンク 【速水奏】 海の色、濃い青 【宮本フレデリカ】 淡い黄色 【塩見周子】 無色
 こんどはアタシ達に色が設定されていた。名前がないことと独特な字から、持ち主は志希ちゃんであることがわかるがこのメモは一体何なのだろう。  疑問に思っていると、メッセージの通知がスマホに届いた。内容は『塩見周子が新しいグループにあなたを招待しています』という通知だった。なんか連絡しないといけないことがあったっけ、と思いつつも招待を受理した。そこにはアタシと周子ちゃんとフレちゃんがいた。あれ?奏と志希ちゃんは?……もしかして、未だにユニットに馴染めてないから何か言いたいことがあったらここで、みたいな?  特に理由を思いつかないでいると、周子ちゃんからメッセージが届いた。 「どうも皆さん、つかぬことをお聞きしますが志希ちゃんのことを教えてくれたまへ~」  口調は軽��が、どことなく重い雰囲気なのは普段使っている絵文字がないせいだ。手帳を元にあった場所に戻し、見つけた内容を書き込む。すると、今度はフレちゃんからメッセージか届いた。 「あちゃー、二人とも気づいちゃったか。志希ちゃんは楽しいことが好きで、それ以外のことは嫌いなんだよね~」 「ふんふん、つまり?」 「えーっとね、笑うこと以外はしたくないって感じかな?でも、楽しくなくても笑わないといけないからどうすればいいか、他人はどうやったらそうなるのかを観察してるんじゃないかな~、フレちゃん博士の予測だけどね」  ……話だけ聞いてもよくわからない。無理して笑ってても楽しくないことだっていっぱいあるだろうし、笑う余裕がないときだってあるだろう。ずっと笑い続けるのは、喜んだり落ち込んだりするより何倍も大変なはずなのに。 「あ~、要は笑うこと以外で感情表現したくないってこと?」 「そういうことだね~」  二人は納得がいったみたいだが、まだもやもやしたままだ。 「……アタシ達がなにかできることってないのかな?」 「ふんふ~ん、それならフレちゃんに名案があるよ~♪」  なんとなくこういう時のフレちゃんは頼もしくてありがたい。しっかりと話を聞いて、思ってた以上に大変な志希ちゃんの扱いを自分なりに考えることにした。
 はいは~い、フレちゃんだよ~。周子ちゃんからいきなり招待が来たときはびっくりしたよね~。美嘉ちゃんが志希ちゃんの事情を知った時もびっくりしちゃったけど、やっぱり志希ちゃんの笑顔にずっと付き合ってるときに比べたらそんなでもなかったかな?アタシも結構笑うのは好きだけど、志希ちゃんのは特別だよね。  とはいえ一人ではどうすることもできなかったから、できるだけ愛想笑いじゃなく笑えるように楽しめるようにするのがせいいっぱいだったから、周子ちゃんが相談してくれたのも美嘉ちゃんが心配してくれたのも嬉しかったなー。  それはさておき!志希ちゃんは感情表現が苦手ならば、表情を作らずにすむ場でお話をしようということになりました!ただ、お電話だと声色とか作っちゃいそうで交換日記をすることにしました!  奏ちゃんは皆のことを知りたいからってやってくれることになったし、志希ちゃんももちろん乗ってくれたよ!、あ、本心ではどうだったかはわからないよ?  とりあえず第一関門は突破したんだけどね、そっからが大変だったなー。思ったことを書いていいよって言ったけど、志希ちゃん自分の専門分野に絡めて話すから皆で辞書片手に解読しながらコメントするの!助かったのは全部日本語だったことかな~、さすがにネイティブの英語はナマりもあるから大変だもんね!  そんなこんなで日々を過ごしてると、変化は徐々に出てくれたよ!レッスンがきつい時は少し眉を顰めて辛そうにしてるし、ぐでーってなったりするし、歌が上手く歌えなかったりすると慌てて皆の顔をちらちら見たりとか、不安なところを見せてくれるようになったんだ!  笑顔の時の志希ちゃんはずっと可愛かったけど、今の志希ちゃんは本当に苦難を共にする仲間って感じだったね!  そして迎えたライブ当日、特に問題もなく演出もステージもカンペキだったね!みんなえらい!  でも、一番驚いたのは志希ちゃんがいきなり泣き出しちゃった!おかしいよね、嬉しいのに涙が出るの、って。もーみんな感極まって志希ちゃんに抱きついてもみくちゃになっちゃった。衣装は借り物だったから皺になるぞー、って注意してきたプロデューサーも半分……ほとんど涙声だったもんねー。  こうして、LiPPS特別計画「志希ちゃんを感情豊かな女の子にしよう!」作戦は見事に成功したのでした!ちゃんちゃん。
 ライブが終わってプロデューサーさんをからかっていたら、一冊のノートを見つけた。まるで、それは最後のピースを私が埋めるために置かれてあった。表紙の題名にはNote⑤と書かれていた。中身を最初からめくってみる。
 みんな優しいけど、世話を焼かれるのはなんか違うんだよねー。  でもあれにどんな意味があるのかわかんないけど、ある程度合わせないと面倒だにゃー。  別に欠陥があるわけでもないし放っておいてくれればいいのにー。  これもアイドル修行だと思ってやらなきゃいけないのかな?  ビジュアルレッスンみたいなものだし頑張ってみようかにゃー。
 震える指先でページをめくる。
 感嘆符は多めの方がテンションが高く見える!  落ち込んでるように見せて、立ち直って笑顔の方がよく見える。  相手の笑顔を真似するんじゃなくて、それぞれに笑い方を変化させた方が新鮮?  自分の専門的な分野は突っ込まれずらいから楽だにゃー。  たまにはアイドル活動や皆の事を書くと人間味が増すっぽい?
 いたたまれなくなってページを閉じる。結局志希にとって、私たちの努力は無駄で余計なものだった。  なら一体どうすれば志希は感情を取り戻せるのだろうか。  もし志希にとって理想の人間が同じことをしたらどうだっただろうか。周子のように察しがよくて、美嘉のように世話を焼くことができて、フレちゃんのように明るくて元気で、志希を飽きさせないことができて、私のように志希のことを引っ張ることもできて、プロデューサーのように支えることができる。 「そんな人が……果たしてこの世にいるのかしらね」
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recordsthing · 3 years
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星が流れるということ
 7月7日、七夕というのは織姫と彦星様が……なんていう話は聞いたことがあるが、世間ではすっかり短冊に願い事を書いて竹に吊るす日になっている。普段と違って嬉しいのは、給食のデザートにゼリーが付いてくることぐらいか。結構美味いんだよな、学校の給食で出てくるせいってのもあるだろうけど。  その願い事を短冊に書くというのは事務所内でも例外ではない。アイドルの皆もそれぞれ思い思いのことを書いている。大体がトップアイドルを目指す、という内容で書いているのだが立派で素敵な大人なアイドルになりたいとか、トップアイドルになって総理大臣になりたいとか、立派にはならなくていいから炎上しないで!とか方向性はばらばらだ。……いや、最後のは違うか。何にせよそれぞれが思い描いている未来に願いをかけている。  オレが願うのは一つだけだ。近くにあったテーブルの上の「ご自由にお使いください」と書いてある箱から青の短冊に黒のペンで願い事を書き込む。できるだけ目立つように上の方につけたい……が、自分の身長では背伸びをしても竹の真ん中ほどにしか届かない。おとなしく諦めて、垂れている枝の一つに紐付きの短冊を括り付ける。  サッカー選手とトップアイドルになれますように! アイドルを始めた当初は自分がこんな目標を書くとは思わなかった。それでも、今の夢は間違いなくこれしかない。一見不可能な二足の草鞋だが、叶えたい夢というものに制限なんて考えるのは勿体無いと思う。可能性の塊であるオレ達アイドルが夢を見なければ、追ってくれているファンも夢を失ってしまうだろうから。  そういえば、背伸びをしたときに志希の名前が書いた短冊があった。オレからすると志希がそういうことをするのはなんか意外だ。どちらかというと願い事は他力本願じゃなくて自力で叶えるものでしょー?とか言いそうなものだ。そんな志希は一体どんな願い事を書いたのだろうか。気になってしまって、先ほど見つけたあたりの短冊を探してみると黄色の短冊に志希の名前があった。  ただ、願い事を書くための短冊には言葉ではなくイラストが描かれてあった。大きな星の上にデフォルメされた志希が乗っていて、嬉しそうにしている。どういうことだろうか。 ……「とんでいっちゃいたいの」ってことか?不意にそんなことが頭をよぎる。しかし、それならどこに飛んでいくかも描けばいいものを、それらしい場所は見当たらない。こういう思わせぶりなことを志希はよくやる。まぁ、それがいいところでもある……のか?  本当に、ただなんとなく何を意図して描いたのか知りたくなって志希を探すことにした。とはいえ、心当たりは第3芸能課とよく待ち合わせに使う倉庫の中の実験室しかないのだが。第3芸能課にいないことを確認して、倉庫のある廊下を進んでいく。七夕で多少飾り付けられた室内がどんどん地味になっていって、最終的には無くなったところにちょうど倉庫への入り口がある。まるで、志希が通ってきたのを暗示しているかのようだ。  ドアノブに手をかけると、少しだけ温かさが残っている。もしかすると志希が中にいるのかもしれない。掴んだ手を回すと鍵がかかっていなかったのか、そのままドアは開いた。相変わらず明かりは切れかかっているのか、いつも通りぼんやりとしていて薄暗い。しかし、実験室がある方向を見てみるとなにやら見慣れないものが置いてある。近づかなくてもわかるが、さすがにこの位置では見えないものがある。ある種の確信と共に寄ってみると、一本の竹がぽつんと立ってあって、一枚の短冊が飾られている。  志希は、床のベッドの中で静かな寝息を立てて横になっている。最初は簡易なマットと毛布だけだったのが、今では敷布団の下にマットを敷いて身体が痛くならないようにしてるし、毛布も布団もより良いものになっている。もっとも、自分がここで仮眠をするときに軽く寝づらい……と言ったら志希が改善してくれたのだが。  短冊は絵じゃなくて、文字がちゃんと書かれてあった。
 晴ちゃんとずっと一緒にいられますように
 ……わざわざここに笹を用意したのはこういうことか。人前に出したくなくて、それでも願いたくて、こうするしかなかったのだろう。  そうなると、あの絵の説明もなんとなくつく気がする。七夕の伝承のように相手の元に行きたいのだろう。その相手はきっと。 「来たよ、志希」  寝ている志希から返事はない。近くに予備の短冊はなかったので、ペンだけ取り出して志希が飾った短冊に訂正をするように書き込んで一緒の布団に潜り込む。
 晴ちゃんとずっと一緒にいられますように       ずっと一緒にいるよ、志希
 お互いにお互いを思う密かな気持ちしかない。けれども、多分それでいいんだって目の前の存在が教えてくれる。そういうのが恋人なのかもしれない。全部のことを捨てて相手の事だけを欲しがった織姫と彦星のことが少しだけわかった気がした。
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recordsthing · 3 years
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ぬいぐるみを取ろう!
晴ちゃんがぬいぐるみを取るために頑張る話 欲しいものというのが、手に入らない距離にあるならあきらめは簡単につく。しかし、手を伸ばしたら届く位置にそれを置かれて、手に入らないのはもどかしいというよりかは絶対に取りたいという意識を煽られてるようで必死にならざるをえない。しかし、アイドルのぬいぐるみを手に入れるのにクレーンゲームを経由しないといけないのはいかがなものか。事務所の休憩室には簡易なゲームセンターがあって、そこには各種さまざまなゲームがあるのだが、一角にはクレーンゲームのコーナーがあって、そこでは試供品なのかアイドルのぬいぐるみが取れるようになっている。お金でも受けつけてはいるが、ここには特別に使えるメダルのようなものがあってそれを大体みんな使っている。レッスンで上手くいったりとか、営業で褒められたときにプロデューサーが渡してくれたりする。言わば頑張ったボーナスみたいなものだ。ちなみに、費用はプロデューサー持ちらしい。  オレがなんでこんなゲームをやっているかというと、別に自分が欲しいわけじゃない。ぬいぐるみなんて持ってても仕方ないし、しかもそれが同じアイドルのぬいぐるみなら見つかったら何を言われるかわからない。ただ、一緒にレッスンをしていたありすが 「総選挙ぬいぐるみフェアで文香さんのぬいぐるみが入荷したんです!でも、全然取れなくて……お小遣い全部使ったのに……」 と落ち込んでいたから、貯めこんでいたメダルの消費のついでにやってるだけだ。台の上に積まれたメダルを投入して、再度クレーンを動かす。なんとなく狙った位置にはいけるのだが、どこにクレーンを落とせばいいかわからない。頭を掴もうとすると力が足りないのか落ちてしまうし、一回倒してしまうと掴���辛くて難易度が上がってしまう。横に滑らすようにすれば動いてはいるものの、数センチずつしか移動しないためオレのメダルの方が尽きてしまうだろう。 「あーっ!なんでぬいぐるみをわざわざクレーンで取らなきゃいけないんだよ!メダルと交換してくれりゃいいのに……」  意味のない愚痴と共にため息が零れる。こういう細かいの苦手なんだよな…… 「あれ?晴ちゃんなにしてるのー?」  振り向くと、制服を着た志希が後ろに立っていた。その恰好が本当にゲーセンにいる女子高生みたいで、妙に馴染んで見える。そういえば、噂によると志希はちょいちょいここに来ては1プレイでずっとそのゲームをやり続けて台を独占してしまう、みたいなことを聞いたっけか。 「なに……って、ぬいぐるみを取りたいんだけどさ、上手くいかなくて」 「ふむ、どれどれ~」  ずい、とオレの左側から顔を寄せてクレーンとぬいぐるみの位置をまじまじと見つめている。 「これ……実力機じゃなかったっけ?でもなんか改造されてるっぽい……かな?ちょっとやらせてみてよ♪」 「おう」  その場からどいて、志希のプレイを後ろから見守ることにした。こういうのは志希の方が得意だろうし、なにか参考になるところはないか見たかったからだ。志希はメダルではなくわざわざポケットの小銭入れから百円玉を入れた。軽快な音と共にクレーンが動くようになる。そして志希はクレーンを操作しだした……のだが、ぬいぐるみの位置から思いっきり右側にズラしている。あれじゃあ開いたクレーンの爪すら当たらないんじゃないのか?そう不審がっていると、クレーンは奥の方へと進んでいく。そして、移動限界に達したのか急停止したクレーンは下に降りだした。 「よし!後はお祈りするだけ!」  降りたクレーンは奥に積まれてあった他のぬいぐるみの真ん中に突っ込まれて、爪を開いた。当然その力で積まれてあったぬいぐるみは崩れ出してしまい、手前の方に転がってきた。それが元々あったぬいぐるみの上に積み重なって、後は横に押すだけで落とせそうだ。しかし 「……なあ、これズルなんじゃねーの?」  奥に座らせていたぬいぐるみを狙うのは本来想定されている動きではないはずだ。だが、志希は悪びれる様子もなく 「えー?クレーン動かすのにお金を払ってるんだから、中にあるものは取っていいんだよ!そもそも取っちゃダメならそこまで届かないようにするとか、商品をそもそも置かないとかあるじゃん?」 「そりゃまぁ……そうだけど」  志希が再び百円を入れて、クレーンを動かしだした。今度はちゃんと取るみたいで、重なったぬいぐるみのやや右めからクレーンを落として、取り出し口の段差を上から飛び越えるようにしてぬいぐるみはあっさり落ちた。 「はい♪取ってあげたよ晴ちゃん!」  取り出し口からぬいぐるみを出して、オレの身体に押し付けるようにぽんと置かれておもわず抱きかかえる。 「お、おう。ありがとな」 「あたしだと思って大事にしてね♪じゃあねー」  志希はすたすたとどこかに行ってしまった。なにはともあれ、これでありすは喜ぶだろう。志希がいてくれて助かった、と今度は安堵のため息をついて人形を見てみる。  そこにいたのは、文香ではなく。くせっ毛と青くてまるまるとした綺麗な目、猫みたいな口が特徴的なぬいぐるみだった。……あたしだと思って、というのはこういうことか。 「や、やられた……結局自分で取んなきゃいけないのかよ」  志希のぬいぐるみを小脇に抱えて、再度クレーンゲームにコインを入れる。それと同時に、荒れ果ててしまった惨状から文香のぬいぐるみを探す。 「……あれ?」  よく見てみると、取り出し口の段差に頭が乗っかっている状態になっていた。これなら足の方を持ち上げたら、勢いで落ちてくれるんじゃないか?ものは試しだ、と思って狙いをつけてクレーンを降ろす。 「頼むぞ……」  足がもちあげられた文香のぬいぐるみは、段差を滑って取り出し口に落下してくれた。 「よっしゃあ!これでゴールだ!へへっ」  取り出し口から出して、抱えていなかった右の脇に抱える。確かここではカウンターの近くに景品用の大きな袋があったはずだ。それを取りに行こうとしたら、たまたまカウンターで作業しているちひろさんと目が合った。 「あ!晴ちゃんダメですよ!ぬいぐるみは一人一個までって書いてあったじゃないですか!」 「え、そうでしたっけ!?すみません!」  そういえば、奥のぬいぐるみが並んでるところにそれっぽいことが書いてあったっけ。二つ以上オレが取れるなんて思ってなかったし、志希が途中でぬいぐるみを倒してしまって何を書いてるかちゃんと読んでなかった。 「でもこれ一つは志希に取ってもらったんですけど、ダメですか?」 「うーん、その言葉を信用してあげたいところなんですけど、一度許してしまうと皆そう言いだしてしまうんですよね……使うのにかかったクレジットはコインで返してあげるので、どちらか返してもらってもいいですか?」 「それなら……」  志希の方を、って言いかけたところで声を強引に止めた。あたしだと思って大事にしてほしい、と言われてもらったものをオレがありすにいいカッコしたいっていうのを優先して渡すのは良くない気がする。例え自分にとって必要がなかったとしても、人から好意をこめてもらったものを返品するのは気が引ける。それに……ここのぬいぐるみはよくできてる。なんだか自分の身を守るために志希を差し出しているような気がして心苦しい。ぬいぐるみの瞳もどこか見捨てないでほしい、と訴えかけてくるようだ。  でも、だからといってここで文香のぬいぐるみを渡したら二度と取れないだろう。おそらく元の場所に戻され、クレーンは奥のぬいぐるみには当たらないようにされるだろうからあの手は使えない。 「それで、どっちにするんですか?」 「あ、えーと、その……」  しどろもどろとしてしまい慌てていると、 「あれ?結城さん。何しているんですか?」 「橘!ちょうど良かった!これ!」 「えっえっ!?これ文香さんのぬいぐるみ……」 「ああ、なんかたまたまやったら取れたから、オレにはいらねーし欲しがってたなと思ってさ」 「ありがとうございます!!さっそく文香さんに見せてきますね!」  たまたま……いや、おそらく同じようにぬいぐるみを取りにきたありすが来てくれた。これで一応一人一個になった……はずだ。 「……本来プレイしてない人に持ってもらうのも良くないんですけど、今回は見逃しましょう」  そう言って、ちひろさんは作業しにカウンターへ戻っていった。左腕に持っていた志希のぬいぐるみを両腕で抱える。そんなはずはないのだが、表情がさっきより喜んでいるように見える。 「結構……かわいくできてるよな……これ」  こんなかわいいものを持っていたら、からかわれるのは目に見えている。袋の奥の方へ入れて外から見えないようにして、ぬいぐるみの重さに志希の気持ちを感じながら家に帰るのは、なんだか一緒に帰ってるみたいで気恥ずかしい。
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recordsthing · 3 years
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ろくでもない志希晴(仮)
R-18になる予定(今回はちょうどその手前まで)���タイトルも仮決定だしどうしようか悩んでる
「もういい!晴ちゃんのわからず屋!」  そう言い切って、志希はレッスン室から飛び出して行ってしまった。咄嗟にどうしていいかわからずに立ち尽くしているオレに、一緒に自主レッスンしていた梨沙がゆっくりと歩み寄ってきた。 「アンタ、また何か言ったの?」 「ちげぇって!よくわかんねーけど、話してる途中で急に不機嫌になってビビってたらああなって……」  梨沙は眉をひそめて、深くて重いため息を一つついた。 「なんとなく原因は察してるけど……一応聞かせて、何の話をしたの?」  先ほどまでしていた話をそのまま繰り返して、梨沙に聞いてもらう。最近の仕事の事、それで知り合ったアイドルやどう感じたか、MVの撮影中や歌うときのパフォーマンスを相談して上手くいったことや、打ち上げでどこにいったとか、アイドル同士でよくする他愛のない話だ。梨沙はそれを聞いて、肩を落として露骨に嫌そうな顔をする。 「……悪いことは言わないから謝りに行った方がいいわよ、それ」 「な、なんでだよ?別に変な話じゃねーだろ?」  梨沙の瞳に少しだけ力が宿ってこちらを睨んでくる。 「あのね、アンタがムードメーカーで他の娘思いなのはよく知ってるわ。だからこそ、そういうことを話すときは『志希がいてくれたらもっと楽しかったのになー』とか『撮影の間会えなくて寂しかった』とか一言フォローいれてあげなさい。それだけで結構嬉しいものなのよ、女の子っていうのは」 「……?どういうことだよ?」 「例えば志希が飛鳥と一緒にライブやった話とか聞かされたらどう思う?」 「そりゃ、一緒のステージに立ちたいなって思うかな」 「多分それの百倍くらい嫉んでるわよ、彼女そういう子供っぽい独占欲があるのよ」  そんなもんなのか、と思うと同時になんで梨沙がそんなこと知ってるんだよという気になってしまう。だがその疑問はすぐに払拭された。そうだ、こいつ一度志希と同じ仕事したことがあるんだった。しかも結構でかめの舞台で。そういうところで、自分の知らない志希を知ったのかもしれない。アイドル仲間としてちゃんと楽曲を持っていることと、単純な知識不足を思い知らされて、悔しいようなむず痒いような寂しさが身体にまとわりつくようだ。 「でもよー、こういう時どうすればいいかわかんねえし……」 「そんなの、アンタが菓子折りの一つでも持って志希に会いに行けば一発よ。そういうことをわざわざしてくれる!ってのは嬉しいはずよ、アンタたちの関係なら猶更ね」  少しだけ納得がいかないことがあるけど、レッスン終わりに志希に会いに行こう。今日は事務所では特に予定がないと言っていたから、多分自宅に帰っているはずだ。合鍵は貰っているし、買っていくものは……前に生クリームの乗ったプリンを美味そうに食べてたっけ。途中のコンビニにでも寄っていけばいいか。  特にもう問題はないはずである。しかし、胸の中にかかる黒い雲が少しずつ大きくなっている。言いようのない不安と予感は、まるでオレから零れた雲のせいで降り始めた雨の音によって鈍くなっていった。
 レッスンが終わってから外に出ると、すっかり雨は本降りになってしまっていた。少しだけ雨の勢いが収まるのを待つかどうか悩んだが、こういうことは早めに済ませておかないと気持ちが悪い。折りたたみ傘を取り出して、志希の家にたどり着く前にあるコンビニへと向かう。少し風があるせいか、身体に少し雨があたって寒い。それならばと、濡れてもいいから走って向かうことにした。濡れた服が体に張り付いてしまうが、後で志希にタオルでも借りよう。  目当てのコンビニは夕方という時間帯のせいか人が少なく、商品が補充前なのか食料品のある棚には空きが目立つ。それでも、志希が前に食べていた高そうなプリンは一つだけ残っていて安心した。……結構いい値段するな、これ。まぁ、志希の機嫌が直るんなら安い買い物なのだけれども。  引っ越しが多くて転々としているため、そう言っていいかわからないが……志希の自宅、マンションの入り口はインターフォンで部屋番号を入れてドアを開けてもらう必要がある。志希の部屋番号を入れようとした瞬間、ドアが開いた。俯きながら出てきた人物は、顔は髪で隠れて見えないがその特徴的なシルエットには覚えがある。Dimension-3で志希とユニットを組んでる二宮飛鳥だ。  自分も一緒に仕事をしたことがあるため、声をかけようかとも思ったが纏う空気があまりにも重く沈んでいて、ためらってしまった。志希となにかあったのかもしれないし、そっとしておこう。開いたドアが閉まる前に入口に入り込んで、エレベーターで12階のボタンを押す。そういえば、一ノ瀬と二宮だからこの階にしたとか言ってたっけ。……少しだけ、志希の気持ちがわかったような気がする。  エレベーターはすぐに12階へと到着し、廊下に出た。志希の部屋番号は……1203だったか。少しだけ自分の記憶力が不安だが、一ノ瀬、というネームプレートがかかっているのを確認できたので良かった。チャイムを鳴らしてみたが、どうやら開く気配がない。さっき飛鳥が来ていたのだから、おそらく志希の部屋にだろうと思っていたが違うのかもしれない。念のために予め貰っていた合鍵を差し込むと、鍵がかかっていなかった。不用心だな、と思いつつも扉を開く。  玄関から漂ってきたのは甘い香りだった。志希の匂い……ってのは結構独特だからわかるけど、それを濃くした上になにかが混じってるようなきつめの匂いだ。少しだけむせ返りそうになりながら、靴を脱いでお邪魔する。廊下にも部屋にも電気はついていなくて、薄暗い廊下をゆっくり進んでいく。 「志希ー、いないのか?」  荷物をあまり持たない主義の志希のこだわりである、殺風景なキッチンにもリビングにもいない。となるともう寝室しかない。リビングから繋がる扉を開けると、匂いが一層濃くなった。  結論から言うと、志希はダブルベッドの真ん中でぐっすり眠っていた。近くに置かれた小さな机の上にはアロマキャンドルに火がついてあって、おそらくこれが香りの原因だろうということが一目でわかる。志希に近寄ってみると、見ちゃいけないものを見てしまった。  まず気づいたのは志希が服を身に着けていないこと。しかしこれは、そういう主義の人もいる、とどこかで聞いたことがあるためそこまで問題じゃない。問題なのは、赤くて長い髪が数本ベッドに散らかっている。少なくとも、オレも志希もそんな髪はしていない。  持っていたコンビニの袋をその場に落として、跳ね上がった身体は自然と志希に馬乗りになるような体勢になって両腕は加減できないほどに肩を掴んで揺さぶった! 「志希!!どういうことだよこれは!!」 「んん……もうちょい寝かせてよ、ってあれ?晴ちゃん……?飛鳥ちゃんは……先に帰ったのかな」  その言葉で疑念が確信へと変わる。志希と飛鳥はこのベッドで一緒に寝ていた。その意味がわかってしまうのは、志希から得た知識のおかげ……いや、そのせいだ。 「なんでっ……!!飛鳥とそういうこと……っ!!」  怒りなのか悲しみなのかわからない感情が、言葉に乗ってこぼれる。そんなに喋ってないのに、息切れを起こしてしまって苦しい。 「なんでって……逆に聞くけど、なんで飛鳥ちゃんとそういうことしちゃダメなの?」 「オレと志希は付き合ってるからだろ!!」 「付き合ってるよ、でもさ、それがセックスをしない理由にはならないでしょ?」 「は……?」  あまりにも違う考え方に触れて、一瞬脳が止まる。 「だって、晴ちゃんはまだ小学生でしょ?そんなときからあたしといちゃいちゃしてたらねじ曲がっちゃうよ?」 「それなら飛鳥だって!!」 「飛鳥ちゃんはあたしと似通ってるから、歪まないようになってるんだよ。晴ちゃんは純粋で真っすぐだから、すぐ壊れちゃうかもしれない。それが嫌なの」  目を真っすぐ見てくる志希は嘘をついてるようには思えない。それでも、それでも 「そんなの……ずるいっ、ずるいよ……しき……」  今の志希を言い負かす言葉なんて湧いてこない。そんなのは正しくないって心が叫んでるのに、志希の様子を見ているとどう話していいかわからない。壊したくないとかいうわりにオレはこんなに傷ついてる。許せるようで、許したくない。わかりたいのに、わからなさすぎて苦しい。悲鳴の代わりに、目から感情が零れ落ちる。 「志希に……オレ以外に……そういうことしてほしくない……そう思うのは悪いことなのかよ……?恋人として……願っちゃいけないのかよ……?」   俯いて傾いた身体を抱きしめられる。怒りと悲しみで震えているオレの頭を優しく撫でてくれる。 「……ごめんね、こういうことで悲しませるとは思わなかった」  志希の声色は細くて儚くて、消え入りそうだ。本当にそうは思っていなかったんだろう。 「でも、どうしていいかわかんない。だって、こういう生き方しかしてこなかったから」  それを聞いて、本当に思ったことが口から出た。誤魔化しとかそういうのは一切なしで、ただただそうして欲しいって気持ちが。 「じゃあ、そうしてみるね。本当に辛かったり嫌だったらすぐ言ってね?」  オレからの提案、それは飛鳥にしたことを全部受け止めても純粋で真っすぐいるから飛鳥や他の人にそういうことはしないでほしいということだった。
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recordsthing · 3 years
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白無垢に幸福を
 その仕事がたまたま私の目に映らなければ、きっと魔法使いさんは断っていたと思う。だって、それはあまりにも辛い現実を想起させることになってしまうから。それでも、私がこの仕事を引き受けたいと志願したのは、きっと自分自身を変えたかったから。
 問題はそのことについて、私がなんにも知らないということ。百聞は一見に如かず、百見は一触に如かずとはよく言ったものだ。……もちろん、触れてみて飽きちゃうというか、辞めてしまうことだってたくさんあるのだけれども。どうしたものか、と考えているとスケジュールの中にfleeting bouquetのお仕事がたまたま入っていた。あの二人は確か前にあの仕事を受けていたはずだ。運命と偶然が折り重なって、まるでこの仕事が最初から私に受けるように催促をしているみたいだ。魅了する側の自分が選ばせるのではなく、選ばれたのはこれで二回目だ。一回目の事なんて、もう思い出したくはないけれど。
 fleeting bouquetの楽屋で、志希ちゃんと晴ちゃんが私に向かいあう形で一緒のソファに座っている。私と千夜ちゃんって感じではないけど二人は特別に仲が良さそうに見える。どこかお互いがお互いを遠慮しあってる私たちみたいじゃなくて、信頼しあってるようで少し妬けてしまう。
「ねえ、二人とも。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいーい?」
「どうしたんだ?」
「んー?ちとせちゃんから……お仕事の相談かな?もちろんいーよ♪」
「ありがと♪聞きたかったのはね……二人はウェディングドレスを着た仕事があったんでしょ?その時のことを聞きたいと思って♪」
 その言葉を聞いて、二人の顔が露骨に曇る。晴ちゃんは照れながらも気まずそうにしているし、志希ちゃんは嫌なことを思い出しているのか、苦虫を嚙み潰したようなそれでいて切ない顔をしている。……もしかしたら、地雷ってやつを踏んでしまったのかもしれない。
「だ、大丈夫?無理に聞きたいわけじゃないから、答えづらかったらいいよ」
「いや、なんつーかさ……ケッコンってやつもよくわかんねーのに、なんでオレが花嫁衣裳?ってなったよ。ウェディングならドレスよりケーキのほうがまだ興味あったしな……でも、キチョーなケイケンだったと思うし、その後のそれっぽいステージ衣装も結構良かったな。……ああ、ほたるが自身なさげにしてたから、励ましたりもしたっけ」
 晴ちゃんが頭を右手で掻きながら、バツが悪そうにしながらも答えてくれる。
「なるほどねー、それで晴ちゃんはそれ以来結婚に夢見る乙女になったと」
「んなわけないだろっ!」
「でも、その仕事はいい経験になったんだね……そっか」
 自分の仕事に思いを馳せる。こんな小さい子が、自分の領域じゃないところで頑張っているのを知っちゃうと少しだけ眩しすぎる。名前である晴、という文字は私には天敵すぎる。愛憎ってこんな気持ちなのかな、と少しだけ悲しくなる。
「あたしも結婚には興味ないんだよねー、ウェディングモデルなんて真反対の世界だったし。普通の女の子が愛しいと思えるようなことはあたしにとって無味乾燥すぎちゃって。それでも、研究対象としては面白かったけどね♪」
「そう……じゃあ志希ちゃんは、白いドレスに身を包んでどう思ったの?」
「んー、王子様とかを待ってるのは退屈で面白くない!白いドレスを汚しても走り出したいし、ガラスの靴も放り投げてブーケは全部エキスに変えちゃって、あたしが居るべき場所じゃないって感じちゃったかな?」
「そっか、ありがと♪参考にさせてもらうね」
「いえいえー♪」
 言葉は軽いものの、少しだけ普段と調子が違う。志希ちゃんに合わせて言うなら、匂いが違うってやつだ。きっとこれ以上深く行くとロクなことにはならないと思わされる。くわばらくわばら。
「なあ、なんでそんなこと聞くんだよ」
 晴ちゃんの疑問ももっともだ。私が仕事の相談を他人にするのは珍しいし、わざわざこのユニットの二人から聞きたかったのはちゃんとした理由がある。
「実は私も白無垢を着ることになってね、せっかくだから二人が着た時にどんなことを考えたか知ってたらもっといい仕事になるかなって」
「ふーん、ちとせならきっと似合うと思うぜ!その……綺麗だし」
「おやおや、あたしの前で口説いちゃうの?せめて二人きりの場所でしたらー♪」
「ばっ……そんなんじゃねえよ!」
「良かったら二人も見学に来てくれると嬉しいな♪場所の案内はまたメールしとくけど、ここで撮影するの」
「お!綺麗な教会じゃん!」
「…………」
 晴ちゃんは大体予想通りだったけど、志希ちゃんはさっきの言葉で少しだけ顰めた顔が改めて場所を見て、こちらを睨むような憐れむようなそんな視線を向ける。察しがいい……くらいだったら気が利く、だけれども察しが良すぎるのは勘弁してほしい。
 自分のスケジュールに空きがあるのを確認して、ちとせの仕事を見学しにメールされた場所へと向かう。その教会は町はずれにあって、少しだけ移動が不便だ。そのことをちとせに話したら、当日いきなり貸切のタクシーが現れてオレと志希を案内してくれた。料金は既にちとせが払ってくれているみたいで、どれだけお金持ちなのか驚かされる。いや、もっというならそこまでしてオレと志希を自分の仕事の現場へと連れていきたいという気持ちがあまり理解できなかった。オレなんて、恥ずかしいから他のアイドルにも見られたくないってのに。
 隣の座席の志希はずっと不貞腐れている。本当に行くの?と聞かれて、ここまでされて行かないわけにもいかないだろ?と返してからずっと無言で、窓の外を眺めている。こういう静かな時の志希は、綺麗で美しくて……どこか儚げだ。ふと目を話したらいなくなってしまいそうな、そんな雰囲気さえある。
「では、私はここでお待ちしていますので」
「あぁ、ありがとうございます……」
 志希に見とれていたら、いつの間にか現場に着いてしまった。タクシーから降りると、白くて綺麗な教会の側には他の店とか家はなくて、道路と森に囲まれていて、あるのは駐車場ぐらいだ。他のスタッフさんの車が数台あって、うちの事務所の車もある。随分と不便な場所に建てたな……と思いつつも、こういう幻想的な場所に建てたがる理由もわかるほど空気は澄み切っている。
「……行こうか、晴ちゃん」
 景色とかを楽しむこともなく、志希はずかずかと教会の方へと向かって行った。置いてかれないように、その後を追った。少しだけ普段より急ぎ足で、不愛想な志希のことが気にはなったが、それよりちとせの仕事の方が気になってしまった。
 志希が教会の半開きになった門をくぐって、立ちつくしている。撮影の邪魔にならないように、人の隙間を通り抜けながら静かに入る。
 それはあまりにも現実離れしていて、美しいというにはあまりにも切なくて、どう表現していいかわからなかった。ウェディングドレスというには、飾り建てされていない白い衣装に身を包んだちとせが、教会の窓から入る光に照らされながら寝ている。ただ、その光景があまりにも異様だったのが、寝ている場所だ。中央の誓いの言葉を述べるための場所で、棺桶に入ったちとせは白い花で埋め尽くされている。こんなのは結婚式じゃない。これじゃあまるで……。
 粛々とした撮影はそのまま終わった。こちらに気づいたちとせは、着替えることもなく向かってきた。
「どうだった?私の撮影」
「……いや、なんていうか……言葉じゃ表現できないくらいだった」
「ほんと?それなら良かった♪」
「それよりさ、これは何の撮影だったんだ?」
「あはっ、それ聞いちゃう?でもいいよ、せっかく来てくれたんだし♪これはね……死装束の撮影だよ」
 やっぱりそうだ。前に一度だけ葬式には出たことはあるけど、雰囲気があまりにもそれに近かった。それでも、なんでわざわざちとせがそんな仕事を?頭が混乱して追いつかなくなってしまう。
「私ね……身体が弱くて、いつ死ぬかもわからないようなそんな人生なの。だから、せめてその予行練習をしておこうかと思って」
「それで……なんであたしと晴ちゃんを呼んだの?わざわざ相談までして……」
志希の声が震えている。悲しいからなのか、怒っているのか、それともその両方なのか区別がつかない。
「ほら、ウェディングドレスってそれまでの人生を清算するまでのものでしょう?だから、今までの弱い自分を捨て去りたかったの。死ぬことに怯えて、なんでも手を出してふらふらするような生き方をやめたかった。千夜ちゃんにも、他のアイドルにも迷惑をかけちゃうし、なにより……私が辛いっていうワガママなんだけどね」
「じゃあ、あたしたちを呼んだのはそんな気持ちを共有してもらいたかったから?」
「うん、もちろんそれもあるけど、二人は結婚……もとい、こういうことは考えてこなかったでしょ?だから、私の今回の仕事で少しでも意識してほしいなって。もちろん私のことも」
「……そっか」
 二人の会話を聞きながら、なんとなくオレがここにいる理由がわかった気がした。この中の誰か二人抜きだしても、fleeting bouquetにはならない。オレ達には白く包んでくれる衣装が必要なんだ。美しい花束に白いラッピングがなければ、ほどけてバラバラになってしまうように。
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recordsthing · 3 years
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鎖を花に 縄を糸に
 何もしてないのに、全部が解決してハッピーエンドで永遠に。そんな日が来ないことは重々承知していた。だからこそ、緩慢で怠惰で堕落した生活を受け入れようとしていたんだ。  いつものように同じベッドの上、二人で寝ようとしていたある日、晴ちゃんが少し悲しそうに、でも何かを決心したような強い瞳でこちらを見てきた。 「頼みがあるんだ」 「……なーに?」  一瞬だけ返事をためらってしまう。晴ちゃんはこの生活の中でずっと怯えているのか、話しかけてくるときはあたしの名前を呼んでから話すようにしていた。それなのに、どうして今日は呼んでくれないのだろう。こちらの様子を窺う余裕もないくらい、いや、窺う必要がないくらいに決めたことがあるのだろうか。  ある程度ついている予測と嫌な予感を交えながら、晴ちゃんの口が動くのを待った。 「もう、こんな生活、やめたい……」 「…………そう」 「でも、わかんないんだ……どうしてこんなことになってしまったのか……プロデューサーも……家族も怖くて、ファンの人たちのあたたかった言葉が全部感じ取れなくなって……オレになにがあったのか……オレだけがわからなくて……このままじゃいけないって……わかってるのに……ごめん、ごめん……」  せぐりあげる声で紡がれる謝罪の言葉が、あたしの心も心臓も切り刻んでいくようだ。あんなこと、その場凌ぎでなんの糧にもならないってわかってた。それでも、晴ちゃんにいつものように笑ってほしかった。何もかもが上手くいって、また日常に戻れるはずだという淡い期待が、今あたしも晴ちゃんも傷つけている。 「しきぃ……おしえて……オレ……どうすれば……」  きっと、誤魔化すことだってできる。なんともないよ、あたしがなんとかするからって言ってもいい。でも、その先は?ずっとこのまま一生嘘をついて、地獄の釜で煮られるような苦痛を二人で共にしてていいのだろうか。自分は耐えられる。だって全部自業自得だから。でも、目の前の愛しい���人は一体なにをしたというのだろうか。酷い目に遭わされて、記憶を無理やり封じてしまってまた苦しんで、今もこうして震えてる。  ……大丈夫、細心の注意を払おう。できることさえちゃんとしてれば、きっとなんとかなるはずだ。 「あのね、晴ちゃん。前に交通事故にあったって言ったじゃん?」 「うん……?」 「あれはね、全部嘘。晴ちゃんが傷つかないように、またいつもの日常に戻れるようについたんだ。ごめんね」 「……そっか」  初めて話したはずなのに、さほど驚いた様子がない。きっと薄々察してはいたのだろう。 「だから、これから本当のことを話すね?ずっとずっと残酷で、悲しい話をするけどいい?」  言葉の代わりに、ゆっくり頷いてくれた。  落ち着いて、できるだけマイルドに。変な表現を使いすぎないように。そのせいか、思考のために酸素を使ってしまって、声が上手く出ない。話をする度に晴ちゃんの顔がどんどん青ざめる。あたしに向けられたものじゃないってわかってるのに、胸が締めつけられるように痛い。 「あたしが助けられたら良かったんだよね……ごめんね……」  そんな言葉で強引に話を打ち切った。話が終わって様子を見ると、両腕で自分を抱きしめるようにして震えている。  特になにかを考えたわけじゃないけど、その震えを包み込むようにして抱きしめる。 「……思いだした……」  ぽつりと零れたその言葉に少しだけ解放された気になる。 「ウソだろ……なんで、アイツが…………アイツがぁっ!!?」 「っ!!!」  想像したくはなかった。晴ちゃんがこんなに傷ついてる理由。  晴ちゃんを襲ってナイフで傷つけた犯人は、晴ちゃんが知ってる人だったということ。
 晴ちゃんが机の上に立っている。危ないよ、と駆け出そうとした足が動かない。天井から長いものがぶら下がっている。太くて長いソレは、人がぶら下がったとしても切れることはないだろう。  嘘だよね?声を出そうとしているのに、口が開いたり閉まったりするだけで音が出ない。目の前の恋人の身長が少し伸びる。そして、少しだけ宙に浮かんだままになって空中で重力を失ったかのようにぶらん、と横に上下に揺れる。ぎし、ぎしと言う音が痛々しすぎる。まだ間に合う。まだ応急処置をすれば間に合うはずだから、動いてよ、ねえ。 「晴ちゃん!」  はっ、となって目が覚める。今まで見た夢の中で間違いなく最悪の夢だ。背中も手も冷や汗が伝って、びしょびしょだ。両腕で包んでいたぬくもりはまだ確かにそこにあって、大きな息とともに安堵を覚える。ただし、その顔には涙の跡がしっかり残っていて、悲しい気持ちに襲われる。  あの後、ひたすら晴ちゃんを落ち着けさせようと背中を一定のリズムで叩いてかけられる慰めの言葉をずっとかけていた。夜が明けてもずっとそうやって必死に声を出したせいか、喉が少し痛い。アイドル失格だな、なんてもう辞めてしまった世界のことに少しだけ思いを馳せる。  でも、起きた晴ちゃんになんて声をかければいいんだろう。結局二度晴ちゃんを傷つけただけで、これからのことなんて何も考えられない。すぅ、すぅという寝息がなんとも愛おしくて今はこれだけでもいい。  今のあたしにできることは、夢が現実にならないように、強く抱きしめて離さないことだった。
 不意の感触で目が覚めると、晴ちゃんの顔が目の前にあった。柔らかい感触があたしの唇に当たっている。 「起きたか?」  口が放され、少し寂しそうな声でそう聞かれる。 「王子さまはお姫さまのキスで目覚めるのでした、あれ?逆だったっけ?どっちでもいいか♪」  わざとらしく明るい口調でそう言うと、少しだけ微笑んでくれた。晴ちゃんの笑顔が見れたことで、少しだけ安心する。 「……どうすればいいんだろう、オレ」  顔見知りの相手、程度だったらこんな風には思わないだろう。きっと晴ちゃんにとって身近な人間が関係しているのかもしれない。あまりこういう時に名案が閃くタイプじゃないから、とりあえず常識的な返答をすることにした。 「とりあえず……警察に行こうか?」
 旅館でチェックアウトを済ませて、タクシーを呼んで駅へと向かう。荷物は場所を転々としているのもあるけど、必要な時に必要なものだけ買っているので小さなリュック一つに収まる程度だ。できるだけ現場に近い警察署の方がいいだろう、ということで新幹線で晴ちゃんが元々住んでいたあたりまで戻ることにした。切符の買い方……というか乗り方は正直覚えてはいないけど、晴ちゃんがいればなんとかなるだろう、と思った。  なんだかんだベッドの上で時間を使ってしまったせいか、駅に着いたころには日が落ちてしまっていた。ただ、そのおかげか人が少なくて晴ちゃんが怯えずに済みそうで良かった。もちろん、夜というより土地柄のせいもあるのだろうけど。  券売機の前でフリーズしてると、晴ちゃんがさっさと操作してくれて支払い画面になった。金額が表示されて、少しだけ申し訳なさそうにする姿が少し愛らしい。カードを入れて支払いを済ませると、切符が四枚出てくる。晴ちゃんが取って、あたしに二枚渡してくれる。 「これ、ここに二枚同時に入れればいいから」  改札に入れて晴ちゃんがホームの方に向かって行く。同じようにしてついていこうとすると、振り向いた晴ちゃんが目を見開いて驚いた。 「志希!切符取り忘れてるぞ!」 「あれ?持っとかなきゃいかないの?」 「ったく、しっかりしてくれよな……」  なんだか慌てたり焦ったりしてるものの、少しずつ晴ちゃんが元々の話し方とか喋り方に戻ってる気がする。あたしといることでそうなってるなら、たまらなく嬉しいことだ。とっとと戻って改札から出てたそれをポケットにしまって、晴ちゃんの元へと向かう。 「なんか不安だから、オレが持っておくよ……」 「わーお、一蓮托生だねっ!」  ポケットから切符を差し出して、晴ちゃんについていく。全然人がいない構内を進んで、エスカレーターに乗ると目当てのホームにたどり着いた。なんとなく贅沢、というか移動で不満を抱えたくなくてグリーン車の席をとった。夜の新幹線を待つ人はまばらにいるが、わざわざグリーン車に乗るような人はいなさそうだ。待ってる時間にも人が傍にいると、晴ちゃんが不安がってしまいそうなのでありがたい。  十分ほどして、アナウンスが流れる。晴ちゃんが前に出すぎてたあたしを引っ張ってくれて、黄色い線の内側まで戻される。新幹線が目の前を高速で通って行って、髪型と服がたなびく。速度を落ちていって、静止したかと思うと扉が開いた。 「ねえ、本当に大丈夫?乗ったらもう引き返せないよ?」  別にそんなことはない。途中下車したっていいのだから。これは、ただの確認だ。 「大丈夫、だって今度は志希がいるから」  手を繋いで新幹線へと乗り込む。廊下側だと通る人が近いことがあるため窓側の席に座ってもらう。景色を見るのにも丁度いいし、気晴らしになってくれたらいいな、程度のものだ。しかし、晴ちゃんは席について早々眠ってしまった。そりゃそうか、気疲れもあるだろうしいっぱい泣いてたから。  手を繋いであたしは起きておくことにした。しっかり寝ていて眠くないのもあったが、この二人だけの時間を少しでも長く感じていたかったから。
 数時間して、目当ての駅まで来た。晴ちゃんの家まではまだ大分距離があるが、眠そうにしていたため近くのビジネスホテルで一夜を過ごすことにした。さすがに都心に近いせいか、夜中に近い時間だというのに、人がそれなりにいる。人が降りて進んでいくのを見ながら、人ごみにぶつからないように待つ。少しすると、ホームに人っ気が少なくなって進みやすくなった。晴ちゃんの近くに人が来ないように警戒しながら、切符をうけとって改札から出る。  こういう駅の近くには、格安のホテルが複数並んでいることが多い。別にわざわざ安いところを選ぶ理由もなかったが、晴ちゃんを早く寝かせてあげたかったため、とりあえず近場のホテルに駆け込んだ。未成年だからなにかうるさいこと言われないかな、と心配だったが向こうも慣れているのか問題なくチェックインできた。エレベーターに乗って、部屋へと向かう。明日はどうしようかな、シャワーは……明日でいいや。  あたし自身も疲れていたのかもしれない。晴ちゃんを連れて部屋に入った途端に、二人共々ダブルベッドに倒れて意識を失ってしまった。
 目が覚めると、全く同時に起きたのか寝ぼけまなこの晴ちゃんと目が合った。 「おはよ、シャワー浴びよっか」 「うん……」  二人で寝ぼけながら、服を脱いでシャワー室へと向かう。ユニットバスなのが少し嫌だけど、今更そんなことを気にしてもしょうがない。服を脱いで、狭い浴槽で二人重なるようにしてシャワーを浴びる。 「なんか……恥ずかしいんだけど」  晴ちゃんとはずっとこうやって一緒にお風呂に入って、身体を洗ってあげたりしたけど、そんなことを祝てたのは久々だ。恥じらい、という感情が生まれたことが嬉しくもあり寂しくもある。 「まぁまぁ、疲れてるだろうしあたしが洗ってあげるから~♪」 「んぅ……」  体に触れると、確かな体温と反応が伝わってくる。恥ずかしいところを手で隠そうとするのがなんともいじらしくて意地悪したくなっちゃうけど、今はまだ抑えておくことにした。一通りボディーソープで身体を包んで、シャワーで一気に洗い流す。身体から滴り落ちる水と泡が、垢を巻き込んで流してくれる。 「次はオレがやるから」 「そう?じゃあお願い♪」  浴槽に座り込んで、目を閉じて待つ。晴ちゃんの指があたしの髪を掻き分けて、ごしごしと洗ってくれる。髪が長いせいで大変だろうに、しっかり洗ってくれる。こうしているときのあたしの背中は無防備だろうけど、後ろにいる恋人はきっと信頼に応えてくれるって思えるこの時間が心地いい。  そんな時間に浸っていると、シャワーが頭の上から降り注ぐ。しゃあー、という水の音と共に頭が軽くなってスッキリしていくのがわかる。頭を振って目を開けると、晴ちゃんは自分の頭にシャワーを当てていた。  シャワーを元にあった場所に戻して、一緒に浴槽から出る。ホテル特有の大きめのバスタオルが身体を包んでくれる。しっかり拭き残しがないようにして、着替える。朝食をとるには既に時間は過ぎている。今日のやるべきことは決まっているが、さてどうしようか��� 「早く行こうぜ、こういうの後に残しとくと気持ち悪いしな」 「そうだねー」  身支度をして、ホテルをチェックアウトする。向かうべきは、とりあえず警察署だろう。
 途中のハンバーガー屋さんで遅い朝食を取ってから、警察署で事情聴取を受けた。本当はあたしが付き添って上げたかったけど、守秘義務とかなんとかで同席させてもらえなかった。対応してくれたのは優しそうな婦警さんで、ちゃんと話を聞いてくれたらしい。どうやら騒動も知っていたらしく、ずっと心配していたとのことだった。正直そこまでいくと口だけじゃないのかな、って疑ってしまうのはあたしの悪い癖だ。 「それで、どうだったの?」 「うん、心当たりがある人がいるなら捜査しやすいから助かるって……でもやっぱり証拠がないと大変だって……」 「……そうだよね」  あたしが余計なことをしなければもっと捜査が早くなって、意外にあっさりと事件が解決したのかもしれない。自分の身勝手さに嫌になる。 「あのさ、志希」 「なーに?」  あたしの名前をわざわざ呼んだ。なんとなく嫌な予感がする。 「オレ、そいつの家に行きたいんだ。誤解ならいいんだけど、どうしてそんなことをしたのかって……聞かなくちゃ」
 その一軒家はオレの家の近くにある。アニキの友達で、家が近いこともあってかよく遊んでもらっていたんだ。これならプロデューサーの名刺を持っていたことも説明がつく。オレの家に遊びにも来ていたし、名刺を盗んだりこっそりコピーするのもそんなに難しくないだろう。オレが狙われたのも……わからなくもない。ただ、もちろん他人の空似だって可能性がある。その微かな可能性を信じて、呼び鈴を押した。少しして、インターホンがつながる。 「どなたですか?」 「結城……晴です」 「晴ちゃん!?ちょっと待ってね!」  どたどたと音がして、玄関を開けて出てきたのは昔からのアニキの友達で、オレもよく遊んでもらった相手だ。アニキの一つ上だから、大学に入ったばかりだったっけ。髪は茶髪になってるしどことなく遊んでいる雰囲気がある。 「急にどうしたの?まぁいいや、上がって上がって!」 「……っす」  前の印象通り、どちらかというと気のいい兄ちゃんって感じで、とてもオレを襲うようには見えない。家に上がらせてもらおうとすると、靴の様子から一人しかいないことがわかる。 「……一人なんすか?」 「ああ、両親は仕事でね。お茶とお菓子をもってくから先に部屋に行っててよ」  少し古い木材でできた階段を昇って、部屋へと向かう。8畳の狭すぎず広すぎない部屋には、本棚と机とベッドがある。ただ、本当になんとなく机の上の写真立てに目線をやると、そこに映っていたものに驚いて思わず駆け寄ってしまう。 「オレだ……」  そこに入っていた写真は、アイドルをやっているときのオレだ。よく机の上を見てみると、プラスチックの敷台の下にオレが載っている週刊誌の記事や写真が所狭しと敷き詰められている。疑念が確信に変わって、身体に力が入らなくなる。腰が抜けて膝から下の感覚がなくなって、その場に崩れ落ちる。 「あー、見ちゃったか」  振り返ると、そいつは部屋の入口にお茶とお菓子を盆に乗っけてやってきていた。 「せっかくお茶に色々仕込んだのに……無駄骨になっちゃたな」  盆をその場に落として、派手に食器が割れる。お茶とお菓子が飛び散って辺りを汚した。 「なんで……こんなことするんだよ……」  その言葉に口端を歪める。汚い大人のような笑みを浮かべてこちらを見る。 「君と会ったのは、三年くらい前だったね。あの頃は小さい子供……弟みたいな子だと思ったんだよ。失礼かもしれないけど、見分けがつかなくてね。でも、そんな君がアイドルになったっていうじゃないか!驚いたね!サッカー仲間だった君が可愛らしい衣装を着てステージの上に立っていたんだから!その時の興奮といったら……もう言葉じゃ言い表せないほどだった。会って話をするために家にも行ったんだけど、忙しそうな君とは中々会えなかったんだ。そんなときにたまたまあいつの部屋で名刺を見つけてね。もう僕にはそれが天国へのチケットに見えたよ!あとはそういうことに詳しい友達に頼んで君を襲ったってわけさ!」  あまりにも衝撃的な言葉が流れてきて、理解が追いつかない。 「そんな……理由で……オレを……」 「君はもっと自分が魅力的だということと、無防備であることを自覚した方がいいよ。あの時の続き……ここでさせてもらおうか!」  そいつがオレに近づこうとした瞬間、声も出さずにその場に前向きに倒れた。立っていた場所に代わりに立っている人物がいる。 「正義のヒーロー志希ちゃん、ここに参上!……こういうのはキャラじゃないけどね」 「……ありがとな」  こっそり家に入ってくれていた志希はぎりぎりのところで助けてくれた。後少し早かったら証拠が掴めなかったし、遅かったとしたらまた酷い目に遭わされていただろう。もっとも、志希がいるってわかっていたから、後者の状況になることは初めから頭になかったのだけれども。 「ナイスタイミングだったね~♪」  志希がこちらに近づいて、オレのポケットからボイスレコーダーを取り出す。 「これがあれば警察もちゃんと動いてくれるでしょ~♪ささ、通報通報」  確かにボイスレコーダーがあれば、さっきの発言で捕まえることができるだろう。しかし、よくよく考えるとなぜオレのポケットにそんなものが入っているのだろう。録音するなら別に志希が持っててもよくないか?確かにオレが持っていた方がちゃんと録音できるだろうけど、壊されでもしたらどうするつもりだったんだろうか。 「大丈夫、予備のボイスレコーダーを晴ちゃんに仕込んでるから♪」 「……なあ、それ聞いてねーんだけど」  気まずい沈黙が流れる。そのうち、どちらからともなく笑ってしまって、全てが解決したことをお互いに喜び合った。
 あれからアニの友達は逮捕されて、押収されたパソコンからもう一人の共犯者も逮捕された。何日も事情聴取に付き合った後、オレは家族の元へと帰った。両親もアニキ達も一日中泣いて、片っ端から出前をとったり、オレの好きなものばっかりの料理で祝ってくれた。ひたすらに喜んで騒いで、戻ってきたものをひたすらに喜んだ。いや、まだ取り戻してないものがある。それを埋めるため、今オレは志希と共に事務所の前にいる。ある資料を持って。 「晴ちゃんとアタシのアイドル復帰から二人の新ユニット結成と新楽曲!これは沸き立つよね!」  今例の二人逮捕されて、またオレの名前が悪い方向に広まってしまっている。それを全部吹き飛ばすために、二人であれこれ作戦を練った結果これしかない!となった。 「でも上手くいくかな……オレら結構サボってたし」 「ん~?事前に連絡したけど別にいいって!アタシこう見えて優秀だからね~♪」  ちゃっかりしている。でもそのおかげで、緊張とか色々そういうのが抜け落ちてしまった。 「……晴ちゃん、本当にいいの?」 「何がだよ」 「アイドル活動してたら、またああいうことになるかもしれないよ?」 「その時は、志希が守ってくれるんだろ」  返事の代わりに、ウィンクで返される。 「せっかくならさー、付き合ってることも公表しちゃおうよ♪そっちのがやりやすいし」 「……好きにしろよ」 「あれ?否定しないんだ」  当たり前だ。というか二人で失踪して復帰してって時点で、なにかあると勘繰られるのは普通だろう。  だけど、本当の理由はそうじゃない。偶然降り注いだ不幸で鳥籠の中に一緒に縛られるよりか、お互いがお互いを愛し合って思いあって縛りあうように生きていくほうが何倍も何十倍も何百倍もいいから。
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recordsthing · 3 years
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鎖を花に 縄を糸に
 何もしてないのに、全部が解決してハッピーエンドで永遠に。そんな日が来ないことは重々承知していた。だからこそ、緩慢で怠惰で堕落した生活を受け入れようとしていたんだ。
 いつものように同じベッドの上、二人で寝ようとしていたある日、晴ちゃんが少し悲しそうに、でも何かを決心したような強い瞳でこちらを見てきた。
「頼みがあるんだ」
「……なーに?」
 一瞬だけ返事をためらってしまう。晴ちゃんはこの生活の中でずっと怯えているのか、話しかけてくるときはあたしの名前を呼んでから話すようにしていた。それなのに、どうして今日は呼んでくれないのだろう。こちらの様子を窺う余裕もないくらい、いや、窺う必要がないくらいに決めたことがあるのだろうか。
 ある程度ついている予測と嫌な予感を交えながら、晴ちゃんの口が動くのを待った。
「もう、こんな生活、やめたい……」
「…………そう」
「でも、わかんないんだ……どうしてこんなことになってしまったのか……プロデューサーも……家族も怖くて、ファンの人たちのあたたかった言葉が全部感じ取れなくなって……オレになにがあったのか……オレだけがわからなくて……このままじゃいけないって……わかってるのに……ごめん、ごめん……」
 せぐりあげる声で紡がれる謝罪の言葉が、あたしの心も心臓も切り刻んでいくようだ。あんなこと、その場凌ぎでなんの糧にもならないってわかってた。それでも、晴ちゃんにいつものように笑ってほしかった。何もかもが上手くいって、また日常に戻れるはずだという淡い期待が、今あたしも晴ちゃんも傷つけている。
「しきぃ……おしえて……オレ……どうすれば……」
 きっと、誤魔化すことだってできる。なんともないよ、あたしがなんとかするからって言ってもいい。でも、その先は?ずっとこのまま一生嘘をついて、地獄の釜で煮られるような苦痛を二人で共にしてていいのだろうか。自分は耐えられる。だって全部自業自得だから。でも、目の前の愛しい恋人は一体なにをしたというのだろうか。酷い目に遭わされて、記憶を無理やり封じてしまってまた苦しんで、今もこうして震えてる。
 ……大丈夫、細心の注意を払おう。できることさえちゃんとしてれば、きっとなんとかなるはずだ。
「あのね、晴ちゃん。前に交通事故にあったって言ったじゃん?」
「うん……?」
「あれはね、全部嘘。晴ちゃんが傷つかないように、またいつもの日常に戻れるようについたんだ。ごめんね」
「……そっか」
 初めて話したはずなのに、さほど驚いた様子がない。きっと薄々察してはいたのだろう。
「だから、これから本当のことを話すね?ずっとずっと残酷で、悲しい話をするけどいい?」
 言葉の代わりに、ゆっくり頷いてくれた。
 落ち着いて、できるだけマイルドに。変な表現を使いすぎないように。そのせいか、思考のために酸素を使ってしまって、声が上手く出ない。話をする度に晴ちゃんの顔がどんどん青ざめる。あたしに向けられたものじゃないってわかってるのに、胸が締めつけられるように痛い。
「あたしが助けられたら良かったんだよね……ごめんね……」
 そんな言葉で強引に話を打ち切った。話が終わって様子を見ると、両腕で自分を抱きしめるようにして震えている。
 特になにかを考えたわけじゃないけど、その震えを包み込むようにして抱きしめる。
「……思いだした……」
 ぽつりと零れたその言葉に少しだけ解放された気になる。
「ウソだろ……なんで、アイツが…………アイツがぁっ!!?」
「っ!!!」
 想像したくはなかった。晴ちゃんがこんなに傷ついてる理由。
 晴ちゃんを襲ってナイフで傷つけた犯人は、晴ちゃんが知ってる人���ったということ。
 晴ちゃんが机の上に立っている。危ないよ、と駆け出そうとした足が動かない。天井から長いものがぶら下がっている。太くて長いソレは、人がぶら下がったとしても切れることはないだろう。
 嘘だよね?声を出そうとしているのに、口が開いたり閉まったりするだけで音が出ない。目の前の恋人の身長が少し伸びる。そして、少しだけ宙に浮かんだままになって空中で重力を失ったかのようにぶらん、と横に上下に揺れる。ぎし、ぎしと言う音が痛々しすぎる。まだ間に合う。まだ応急処置をすれば間に合うはずだから、動いてよ、ねえ。
「晴ちゃん!」
 はっ、となって目が覚める。今まで見た夢の中で間違いなく最悪の夢だ。背中も手も冷や汗が伝って、びしょびしょだ。両腕で包んでいたぬくもりはまだ確かにそこにあって、大きな息とともに安堵を覚える。ただし、その顔には涙の跡がしっかり残っていて、悲しい気持ちに襲われる。
 あの後、ひたすら晴ちゃんを落ち着けさせようと背中を一定のリズムで叩いてかけられる慰めの言葉をずっとかけていた。夜が明けてもずっとそうやって必死に声を出したせいか、喉が少し痛い。アイドル失格だな、なんてもう辞めてしまった世界のことに少しだけ思いを馳せる。
 でも、起きた晴ちゃんになんて声をかければいいんだろう。結局二度晴ちゃんを傷つけただけで、これからのことなんて何も考えられない。すぅ、すぅという寝息がなんとも愛おしくて今はこれだけでもいい。
 今のあたしにできることは、夢が現実にならないように、強く抱きしめて離さないことだった。
 不意の感触で目が覚めると、晴ちゃんの顔が目の前にあった。柔らかい感触があたしの唇に当たっている。
「起きたか?」
 口が放され、少し寂しそうな声でそう聞かれる。
「王子さまはお姫さまのキスで目覚めるのでした、あれ?逆だったっけ?どっちでもいいか♪」
 わざとらしく明るい口調でそう言うと、少しだけ微笑んでくれた。晴ちゃんの笑顔が見れたことで、少しだけ安心する。
「……どうすればいいんだろう、オレ」
 顔見知りの相手、程度だったらこんな風には思わないだろう。きっと晴ちゃんにとって身近な人間が関係しているのかもしれない。あまりこういう時に名案が閃くタイプじゃないから、とりあえず常識的な返答をすることにした。
「とりあえず……警察に行こうか?」
 旅館でチェックアウトを済ませて、タクシーを呼んで駅へと向かう。荷物は場所を転々としているのもあるけど、必要な時に必要なものだけ買っているので小さなリュック一つに収まる程度だ。できるだけ現場に近い警察署の方がいいだろう、ということで新幹線で晴ちゃんが元々住んでいたあたりまで戻ることにした。切符の買い方……というか乗り方は正直覚えてはいないけど、晴ちゃんがいればなんとかなるだろう、と思った。
 なんだかんだベッドの上で時間を使ってしまったせいか、駅に着いたころには日が落ちてしまっていた。ただ、そのおかげか人が少なくて晴ちゃんが怯えずに済みそうで良かった。もちろん、夜というより土地柄のせいもあるのだろうけど。
 券売機の前でフリーズしてると、晴ちゃんがさっさと操作してくれて支払い画面になった。金額が表示されて、少しだけ申し訳なさそうにする姿が少し愛らしい。カードを入れて支払いを済ませると、切符が四枚出てくる。晴ちゃんが取って、あたしに二枚渡してくれる。
「これ、ここに二枚同時に入れればいいから」
 改札に入れて晴ちゃんがホームの方に向かって行く。同じようにしてついていこうとすると、振り向いた晴ちゃんが目を見開いて驚いた。
「志希!切符取り忘れてるぞ!」
「あれ?持っとかなきゃいかないの?」
「ったく、しっかりしてくれよな……」
 なんだか慌てたり焦ったりしてるものの、少しずつ晴ちゃんが元々の話し方とか喋り方に戻ってる気がする。あたしといることでそうなってるなら、たまらなく嬉しいことだ。とっとと戻って改札から出てたそれをポケットにしまって、晴ちゃんの元へと向かう。
「なんか不安だから、オレが持っておくよ……」
「わーお、一蓮托生だねっ!」
 ポケットから切符を差し出して、晴ちゃんについていく。全然人がいない構内を進んで、エスカレーターに乗ると目当てのホームにたどり着いた。なんとなく贅沢、というか移動で不満を抱えたくなくてグリーン車の席をとった。夜の新幹線を待つ人はまばらにいるが、わざわざグリーン車に乗るような人はいなさそうだ。待ってる時間にも人が傍にいると、晴ちゃんが不安がってしまいそうなのでありがたい。
 十分ほどして、アナウンスが流れる。晴ちゃんが前に出すぎてたあたしを引っ張ってくれて、黄色い線の内側まで戻される。新幹線が目の前を高速で通って行って、髪型と服がたなびく。速度を落ちていって、静止したかと思うと扉が開いた。
「ねえ、本当に大丈夫?乗ったらもう引き返せないよ?」
 別にそんなことはない。途中下車したっていいのだから。これは、ただの確認だ。
「大丈夫、だって今度は志希がいるから」
 手を繋いで新幹線へと乗り込む。廊下側だと通る人が近いことがあるため窓側の席に座ってもらう。景色を見るのにも丁度いいし、気晴らしになってくれたらいいな、程度のものだ。しかし、晴ちゃんは席について早々眠ってしまった。そりゃそうか、気疲れもあるだろうしいっぱい泣いてたから。
 手を繋いであたしは起きておくことにした。しっかり寝ていて眠くないのもあったが、この二人だけの時間を少しでも長く感じていたかったから。
 数時間して、目当ての駅まで来た。晴ちゃんの家まではまだ大分距離があるが、眠そうにしていたため近くのビジネスホテルで一夜を過ごすことにした。さすがに都心に近いせいか、夜中に近い時間だというのに、人がそれなりにいる。人が降りて進んでいくのを見ながら、人ごみにぶつからないように待つ。少しすると、ホームに人っ気が少なくなって進みやすくなった。晴ちゃんの近くに人が来ないように警戒しながら、切符をうけとって改札から出る。
 こういう駅の近くには、格安のホテルが複数並んでいることが多い。別にわざわざ安いところを選ぶ理由もなかったが、晴ちゃんを早く寝かせてあげたかったため、とりあえず近場のホテルに駆け込んだ。未成年だからなにかうるさいこと言われないかな、と心配だったが向こうも慣れているのか問題なくチェックインできた。エレベーターに乗って、部屋へと向かう。明日はどうしようかな、シャワーは……明日でいいや。
 あたし自身も疲れていたのかもしれない。晴ちゃんを連れて部屋に入った途端に、二人共々ダブルベッドに倒れて意識を失ってしまった。
 目が覚めると、全く同時に起きたのか寝ぼけまなこの晴ちゃんと目が合った。
「おはよ、シャワー浴びよっか」
「うん……」
 二人で寝ぼけながら、服を脱いでシャワー室へと向かう。ユニットバスなのが少し嫌だけど、今更そんなことを気にしてもしょうがない。服を脱いで、狭い浴槽で二人重なるようにしてシャワーを浴びる。
「なんか……恥ずかしいんだけど」
 晴ちゃんとはずっとこうやって一緒にお風呂に入って、身体を洗ってあげたりしたけど、そんなことを祝てたのは久々だ。恥じらい、という感情が生まれたことが嬉しくもあり寂しくもある。
「まぁまぁ、疲れてるだろうしあたしが洗ってあげるから~♪」
「んぅ……」
 体に触れると、確かな体温と反応が伝わってくる。恥ずかしいところを手で隠そうとするのがなんともいじらしくて意地悪したくなっちゃうけど、今はまだ抑えておくことにした。一通りボディーソープで身体を包んで、シャワーで一気に洗い流す。身体から滴り落ちる水と泡が、垢を巻き込んで流してくれる。
「次はオレがやるから」
「そう?じゃあお願い♪」
 浴槽に座り込んで、目を閉じて待つ。晴ちゃんの指があたしの髪を掻き分けて、ごしごしと洗ってくれる。髪が長いせいで大変だろうに、しっかり洗ってくれる。こうしているときのあたしの背中は無防備だろうけど、後ろにいる恋人はきっと信頼に応えてくれるって思えるこの時間が心地いい。
 そんな時間に浸っていると、シャワーが頭の上から降り注ぐ。しゃあー、という水の音と共に頭が軽くなってスッキリしていくのがわかる。頭を振って目を開けると、晴ちゃんは自分の頭にシャワーを当てていた。
 シャワーを元にあった場所に戻して、一緒に浴槽から出る。ホテル特有の大きめのバスタオルが身体を包んでくれる。しっかり拭き残しがないようにして、着替える。朝食をとるには既に時間は過ぎている。今日のやるべきことは決まっているが、さてどうしようか。
「早く行こうぜ、こういうの後に残しとくと気持ち悪いしな」
「そうだねー」
 身支度をして、ホテルをチェックアウトする。向かうべきは、とりあえず警察署だろう。
 途中のハンバーガー屋さんで遅い朝食を取ってから、警察署で事情聴取を受けた。本当はあたしが付き添って上げたかったけど、守秘義務とかなんとかで同席させてもらえなかった。対応してくれたのは優しそうな婦警さんで、ちゃんと話を聞いてくれたらしい。どうやら騒動も知っていたらしく、ずっと心配していたとのことだった。正直そこまでいくと口だけじゃないのかな、って疑ってしまうのはあたしの悪い癖だ。
「それで、どうだったの?」
「うん、心当たりがある人がいるなら捜査しやすいから助かるって……でもやっぱり証拠がないと大変だって……」
「……そうだよね」
 あたしが余計なことをしなければもっと捜査が早くなって、意外にあっさりと事件が解決したのかもしれない。自分の身勝手さに嫌になる。
「あのさ、志希」
「なーに?」
 あたしの名前をわざわざ呼んだ。なんとなく嫌な予感がする。
「オレ、そいつの家に行きたいんだ。誤解ならいいんだけど、どうしてそんなことをしたのかって……聞かなくちゃ」
 その一軒家はオレの家の近くにある。アニキの友達で、家が近いこともあってかよく遊んでもらっていたんだ。これならプロデューサーの名刺を持っていたことも説明がつく。オレの家に遊びにも来ていたし、名刺を盗んだりこっそりコピーするのもそんなに難しくないだろう。オレが狙われたのも……わからなくもない。ただ、もちろん他人の空似だって可能性がある。その微かな可能性を信じて、呼び鈴を押した。少しして、インターホンがつながる。
「どなたですか?」
「結城……晴です」
「晴ちゃん!?ちょっと待ってね!」
 どたどたと音がして、玄関を開けて出てきたのは昔からのアニキの友達で、オレもよく遊んでもらった相手だ。アニキの一つ上だから、大学に入ったばかりだったっけ。髪は茶髪になってるしどことなく遊んでいる雰囲気がある。
「急にどうしたの?まぁいいや、上がって上がって!」
「……っす」
 前の印象通り、どちらかというと気のいい兄ちゃんって感じで、とてもオレを襲うようには見えない。家に上がらせてもらおうとすると、靴の様子から一人しかいないことがわかる。
「……一人なんすか?」
「ああ、両親は仕事でね。お茶とお菓子をもってくから先に部屋に行っててよ」
 少し古い木材でできた階段を昇って、部屋へと向かう。8畳の狭すぎず広すぎない部屋には、本棚と机とベッドがある。ただ、本当になんとなく机の上の写真立てに目線をやると、そこに映っていたものに驚いて思わず駆け寄ってしまう。
「オレだ……」
 そこに入っていた写真は、アイドルをやっているときのオレだ。よく机の上を見てみると、プラスチックの敷台の下にオレが載っている週刊誌の記事や写真が所狭しと敷き詰められている。疑念が確信に変わって、身体に力が入らなくなる。腰が抜けて膝から下の感覚がなくなって、その場に崩れ落ちる。
「あー、見ちゃったか」
 振り返ると、そいつは部屋の入口にお茶とお菓子を盆に乗っけてやってきていた。
「せっかくお茶に色々仕込んだのに……無駄骨になっちゃたな」
 盆をその場に落として、派手に食器が割れる。お茶とお菓子が飛び散って辺りを汚した。
「なんで……こんなことするんだよ……」
 その言葉に口端を歪める。汚い大人のような笑みを浮かべてこちらを見る。
「君と会ったのは、三年くらい前だったね。あの頃は小さい子供……弟みたいな子だと思ったんだよ。失礼かもしれないけど、見分けがつかなくてね。でも、そんな君がアイドルになったっていうじゃないか!驚いたね!サッカー仲間だった君が可愛らしい衣装を着てステージの上に立っていたんだから!その時の興奮といったら……もう言葉じゃ言い表せないほどだった。会って話をするために家にも行ったんだけど、忙しそうな君とは中々会えなかったんだ。そんなときにたまたまあいつの部屋で名刺を見つけてね。もう僕にはそれが天国へのチケットに見えたよ!あとはそういうことに詳しい友達に頼んで君を襲ったってわけさ!」
 あまりにも衝撃的な言葉が流れてきて、理解が追いつかない。
「そんな……理由で……オレを……」
「君はもっと自分が魅力的だということと、無防備であることを自覚した方がいいよ。あの時の続き……ここでさせてもらおうか!」
 そいつがオレに近づこうとした瞬間、声も出さずにその場に前向きに倒れた。立っていた場所に代わりに立っている人物がいる。
「正義のヒーロー志希ちゃん、ここに参上!……こういうのはキャラじゃないけどね」
「……ありがとな」
 こっそり家に入ってくれていた志希はぎりぎりのところで助けてくれた。後少し早かったら証拠が掴めなかったし、遅かったとしたらまた酷い目に遭わされていただろう。もっとも、志希がいるってわかっていたから、後者の状況になることは初めから頭になかったのだけれども。
「ナイスタイミングだったね~♪」
 志希がこちらに近づいて、オレのポケットからボイスレコーダーを取り出す。
「これがあれば警察もちゃんと動いてくれるでしょ~♪ささ、通報通報」
 確かにボイスレコーダーがあれば、さっきの発言で捕まえることができるだろう。しかし、よくよく考えるとなぜオレのポケットにそんなものが入っているのだろう。録音するなら別に志希が持っててもよくないか?確かにオレが持っていた方がちゃんと録音できるだろうけど、壊されでもしたらどうするつもりだったんだろうか。
「大丈夫、予備のボイスレコーダーを晴ちゃんに仕込んでるから♪」
「……なあ、それ聞いてねーんだけど」
 気まずい沈黙が流れる。そのうち、どちらからともなく笑ってしまって、全てが解決したことをお互いに喜び合った。
 あれからアニキの友達は逮捕されて、押収されたパソコンからもう一人の共犯者も逮捕された。何日も事情聴取に付き合った後、オレは家族の元へと帰った。両親もアニキ達も一日中泣いて、片っ端から出前をとったり、オレの好きなものばっかりの料理で祝ってくれた。ひたすらに喜んで騒いで、戻ってきたものをひたすらに喜んだ。いや、まだ取り戻してないものがある。それを埋めるため、今オレは志希と共に事務所の前にいる。ある資料を持って。
「晴ちゃんとアタシのアイドル復帰から二人の新ユニット結成と新楽曲!これは沸き立つよね!」
 今例の二人逮捕されて、またオレの名前が悪い方向に広まってしまっている。それを全部吹き飛ばすために、二人であれこれ作戦を練った結果これしかない!となった。
「でも上手くいくかな……オレら結構サボってたし」
「ん~?事前に連絡したけど別にいいって!アタシこう見えて優秀だからね~♪」
 ちゃっかりしている。でもそのおかげで、緊張とか色々そういうのが抜け落ちてしまった。
「……晴ちゃん、本当にいいの?」
「何がだよ」
「アイドル活動してたら、またああいうことになるかもしれないよ?」
「その時は、志希が守ってくれるんだろ」
 返事の代わりに、ウィンクで返される。
「せっかくならさー、付き合ってることも公表しちゃおうよ♪そっちのがやりやすいし」
「……好きにしろよ」
「あれ?否定しないんだ」
 当たり前だ。というか二人で失踪して復帰してって時点で、なにかあると勘繰られるのは普通だろう。
 だけど、本当の理由はそうじゃない。偶然降り注いだ不幸で鳥籠の中に一緒に縛られるよりか、お互いがお互いを愛し合って思いあって縛りあうように生きていくほうが何倍も何十倍も何百倍もいいから。
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recordsthing · 3 years
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NFY
推しと担当をかけあわせたクロスオーバーみたいなP晴。自分の好みを詰め込んだだけなので人に見せるようなものじゃないけど、せっかく書いたし……的な。Pは男性だけど特にそういう描写があるわけじゃないです。
 アイドルになったとはいえ、オレにとっては同年代の遊び相手が増えただけの話だった。最初にオーディションの面接でオレを合格にしたプロデューサーは有能だったらしく、別の有望なアイドル候補生数人をデビューまで引っ張っているそうで忙しいらしい。そんなオレの担当をわざわざやりたい相手がいるはずもなく、今日もまた他のアイドルと遊んでは一人でサッカーの練習をしている。しかし事務所に来ているとはいえ、レッスンなんてしててもサッカー選手としての能力がつくとは思えないし、アイドルの皆とサッカー練習するよりクラブの皆とやる方が練習にはなるし人数も集まる。オヤジはオレに女の子らしくなってほしいみたいだが、このままだと特に得るものもなく月謝だけ払うハメになる。  そろそろ辞め時なんじゃないだろうか。そんなオレの心理を読みすましたかのように、第三芸能課のドアが開かれる。 「すまない!結城晴くんはいるかね!?」 「オレですけど……どうかしたんですか?」 慌てて入ってきたのは事務所の社長だ。わざわざこんなところに来るのは珍しい。 「キミの担当が決定したんだよ!ささ、入って入って!」  社長がそう言って入ってきたのは大学生くらいの若い男だった。茶髪に灰色の大きな瞳。優しくて大人しそうな整った顔。薄灰色のニットベストに黒いカーディガン。銀色の弾丸のようなものが付いたネックレス。胸元に銀と赤のヘアピンがついている。髪が長いのか後ろでひとまとめにしてある。ひざ下までの黒いカーゴパンツに黒いスニーカー。スーツでもないし、この事務所の社員というより本当にその辺りにいた大学生を連れてきたって感じだ。 「よろしく、僕が君の担当になった…………ええと……」 「どうしたんだ?」 「あー実はね……彼は記憶喪失みたいなんだよ」 「はぁ!?」 驚きのあまりに声が出る。記憶喪失なやつをこんなところに連れてきていいのか? 「気がついたらブランコに乗ってたんですけどよく覚えてないんですよね……そんな時にいきなりこちらの社長から『君!?ぜひうちの事務所に来てくれないか!!』って。話を聞いたらアイドル事務所だって話だったんですけど、ここにはメンズアイドルの枠はないから、とりあえずプロデューサーとして働いてくれないかって」 「大丈夫!彼は優秀だから!私の目に狂いはない!」  一体どういう理屈なのだろうか。というか、連れられてきたコイツは一体どのあたりが優秀そうに見えるのだろうか。採用っていうのは、もっと面接とかやってから決まるもんじゃないのか?。 「なんでコイツがオレの担当になるんだ?」 納得がいく理由が欲しくて問いただしてみることにした。 「それはね……ええと……」 「結城さんは元々アイドルになる予定がなかったんでしょ?だったら、元々プロデューサーになることがなかった僕だったら、ある程度同じ気持ちでやれるんじゃないかなって思ってさ」 言ってることはなんとなくわからなくもないが、適当な人間をあてがわれたようにしか思えない。むしろアイドルをやめさせるためにわざとやってるんじゃないかと思うくらいだ。 「よろしくね、結城さん」  オレの前に手が差し出される。少しイラついて、とっさに手を払いのけてしまう。 「アイドルなんかやらねーからな!バーカ!」 オレのプロデューサーは困ったように笑った。これが最初の出会いだった。多分この事務所の中でも最悪なアイドルとプロデューサーの出会いだろう。
最初にオレ達がやったのはプロデューサーの名前を決めることだった。オレが仕事をするかどうかは置いておいて、さすがに名前がないままでは色々面倒だろう、とのことだった。 「なんか名前の手がかりとかねーのかよ?」 「うーん……なんとか『なえ』って名前を呼ばれていた気はするんだけど……」 なんとか『なえ』、で思いつく名前といったら…… 「早苗、とかか?」 「あ!そんな感じ!でも『さ』じゃなかったような……かな……香苗だ。うん、今度から香苗って呼んでいいよ♪」 「お、おう。じゃあ……香苗……」 「…………」  急に無言になった。というか無表情で俯いたまま何を考えてるかわからない。 「おい、どうしたんだよ」 「いや、ごめん。特別な誰かにそう呼ばれてた気がしてさ……でも結城さんもそうなるかもしれないから、香苗でいいよ」 「……そっか」  急に何を思い出したんだろうか。そもそもなんでこいつは記憶喪失になって、急にプロデューサーになるなんて話を断らなかったんだろうか。しかもわざわざ、事務所の中なら確実に問題児であろうオレなんかのだ。 「とりあえず、今仕事はないんだよね?」 「あるわけねーだろ、オレ一人でどうこうできるもんじゃねーし。フリフリの衣装着てライブなんてできねーって」 「それはよくないね。じゃあ僕は仕事探してくるから今日は終わりにしよっか。あとこれは僕の仕事用のアカウント。さっき作っておいたから、登録しといてねー♪」 「おう、じゃあな」 連絡用の社内ツールのアカウントを教えてもらって、香苗はとっとと出て行ってしまった。しかし、仕事なんてそう簡単に見つかるわけがない。自分にはアイドルとしての経験もなければ、他の会社とのコネもない。アイドルの激戦時代と言われる今、そんな簡単に仕事なんて見つかるものわけがない。どうせすぐに諦めるさ、そうしたらきっとこの場所ともオサラバだ。この時は確かにそう思っていたんだ。
『おはよう、結���さん。仕事の打ち合わせがしたいから学校が終わったら事務所に来てくれない?』  翌日にそのメッセージが飛んできたときには目を疑った。仕事?一日で?もしかしたらアイツ、とんでもないやつなのか?いやいや、まだどんな仕事かわかったもんじゃない。着ぐるみ着てプラカード持ったりとか、ライブ会場の入り口で衣装着て手伝いしたりとか、ジュニアアイドルにまわってくる仕事なんでそんなもんだ。……まぁ、そういう仕事が回ってくるだけでも充分マシな方らしいが。  気乗りはしないものの、事務所に所属している以上勝手にすっぽかすわけにはいかない。放課後に自宅の方向ではなく事務所の方向へと向かう。会社に入ると大人たちがまばらにいるが、第3芸能課の方向に近づくと人通りも少なくなっていく。待ち合わせていた会議室に直接行くと、広い部屋の角で一人机に向かってノートパソコンのキーボードを叩く香苗の姿があった。 「いらっしゃい、結城さん」 「仕事……本当に取ってきたのかよ?」 「もちろん♪しかもサッカーの仕事だよ?」  その言葉があまりにも唐突で、衝撃的で思わず聞き返してしまう。 「サッカーの仕事!?本当か!?」 「うん、でもサッカーの仕事というよりサッカーゲームの仕事だけど……いい?」 「いいに決まってんじゃん!オマエっていいやつだな!」  もちろんそんないい話があるわけがない。うまい話にはなにかしら不都合があるに決まってるということを、12歳のオレはまだわかってなかった。
「なぁ、これはなんなんだよ」 「なにって、サッカーのゲームでしょ?お互いにボールを取り合って、ゴールに入れるゲームだし」 「それだとバスケとかもサッカーになるんじゃねーのか?」  返事の代わりに沈黙が流れる。気まずい空気が立ち込めて、ゲーム音だけが部屋の中に流れる。  もってきたゲームの内容というのが、1~3人のチームでボールをお互いのゴールに入れるというシンプルなものだ。ただし、フィールドを走っているのは人じゃなくて車だし、相手の車とぶつかって破壊しようがおかまいなしのゲームだ。確かにサッカーと言えば近いかもしれないが、少なくとも自分が想像したようなものではなかった。仕事の前に少しでも慣れていた方がいいだろう、とプロデューサーがゲームを二人分買ってきてお互いに対戦して練習している。 「ごめんね、少しでも結城さんが楽しめるような仕事探したんだけど……」  申し訳なさそうな声で謝られる。サッカーのゲームと言ったことに悪気はなく、オレに仕事を合わせることでいっぱいいっぱいだったのかもしれない。 「いや、いいよ……仕事選べる立場じゃねーのに、頑張ってくれたんだからさ。……ありがとな、プロデューサー」  その言葉を聞いて香苗の顔がぱあっと明るくなる。最初の落ち着いた印象とは裏腹に感情が結構態度に乗るタイプなんだな。もちろんその方が楽でいいのだけれども。 「……油断してない?ブーーーン!」  気をとられた隙に加速したプロデューサーの車がオレの車を破壊して、選手不在のゴールにボールがねじ込まれる。 「きったねー!今のは反則だろ!」 「こういうのも大事だよ、アイドルやるなら覚えておいて損はないから」  大人っぽくこちらを気遣ったかと思うと、子供みたいにふざける。というかアイドルやるならって、どの立場から言ってるんだ。  掴みどころのない香苗とやるゲームは、多少の不満はありつつもそれ以上に自分に寄り添おうとしてくれてることが実感できて、初めてアイドルやってて面白いと感じられたことだった。
「お疲れ様、結城さん」 「ああ、お疲れ」  仕事であるゲーム紹介の日が来て、オレ達は練習の甲斐もあってかそつなくこなすことができた。とはいえ、何を喋ったかはあんまり覚えていない。というのも、当日になって実況の手配がつかなくなって番組がポシャりそうになったときに、なぜか香苗が急遽参加することになり、何を思ったか 「どうも、新人アイドルの香苗です」 なんて言ったのだ。明らかに雰囲気の違うオレ達でやったゲームの実況は、スタッフ間で概ね好評だったらしい。香苗は話題のフリや実況が素人とは思えないほど上手く、台本以上にオレがやりやすいように立ちまわってくれた。 「なあ、今日の番組っていつ流れるんだ?」 「うーん、いつかは忘れちゃったけど後日動画で投稿するみたい」 「そっか」  まぁ初めての仕事だし、そんなもんだろ。新人アイドルが初っ端から顔を出して仕事をするなんて時点で話ができすぎているのだから。 「じゃあ、僕は他の人たちに挨拶して回るから結城さんは先に帰ってていいよ」 「うーっす」  そういうのって本来アイドルがやるべき立ち回りじゃないのか?と疑問に思いつつも、門限が近くなりそうなのでそもそも帰らなければならない。次はどんな仕事をとってくるんだろうか、充足感と疲労感で満たされた体には確かな手ごたえを感じていた。
 初仕事が終わってからというもの、仕事はちょくちょく回ってくるようになった。他のアイドルのライブの手伝いとか簡単な営業とか雑多なものから、簡単な企画のワンコーナーにも出させてもらったりした。なんだかんだ仕事がある日が多くなって、忙しくはあるもののなにもやることがない日々よりかは得られるものがあって不満ではない。それにしても、香苗はよくこんなに仕事を取ってこれるものだと感心する。なぜオレに仕事を取ってこれるのか聞いてみたところ、 「だって、結城さんは売り込むのにこっちが頑張らなくても大丈夫だから」  なんて恥ずかしい言葉を返されてしまった。なんとなく納得がいかなくて、他の人にも話を聞いたら香苗は仕事時間外にも界隈の人たちとの交流を欠かさないらしい。どんなスタッフやアイドルにも必ず一声かけるし、オレが事務所にやってきたら他のジュニアアイドルと一緒にだるまさんが転んだなんてやってるくらいだ。かと思えば、高校生くらいの女性アイドルと香水や服のブランドについて話していたりと、話題の幅が広すぎるのだ。広く浅くを信条に付き合っているせいか、名前がどんどん広まっていっていつの間にか仕事を依頼されて……という話だった。  自分のプロデューサーが人気を得ているのは喜ぶべきなのかもしれない。でも、オレはあまり嬉しくはなかった。アイドルとしての自分よりかプロデューサーが魅力的だからという理由で仕事を貰うのは、なんとなく自分が評価されてるわけじゃない、という気持ちにさせられる。一番最初の仕事があまりに自分にとって都合の良いものだったため、あとから聞いたところ元々香苗はあのゲームをやりこんでいて、案件としては香苗に対してきたものをオレに回したという形になっていた。文句の一つも言いたかったが、自分がそういう立場にないのもわかってる。でも、だからこそもどかしくて苦しくてどうしようもない気持ちが育っていった。
 事務所でリフティングをしながらそんなことを考える。考え事をするのにも、気を逸らすにもボールに触れるのが一番効果的だと思っているからだ。そうやって時間を潰していると不意に第3芸能課の扉が開いた。 「おはよう、結城さん……ふわぁ」  香苗は眼をしばしばさせて欠伸をしながら入ってきた。相変わらず緊張感がないというか間の抜けた表情をしている。ただ、いつもと違うのは右腕に大きな……ネコ?のぬいぐるみを抱えている。ぴにゃこら太が胴長になって目を見開いて黒い毛並みになった、みたいなデザインだ。1m以上あるそれは、否応なしに目立つ。 「どうもっす、……そのでかいぬいぐるみはなんなんだよ」 「これ?ぬいぐるみじゃないよ、ロトって言うんだ。記憶喪失の時になぜか持ってて……これがないと落ち着かないんだよね」 「ふーん」  小さい子供が慣れ親しんだ毛布を手放したくなくなる、という話をなんかのテレビで見たことがある気がする。それに近いのだろうか。ぬいぐるみかクッションかわからないそれを、プロデューサーの専用の机の端に寝かせて、置いてあるパソコンの電源を入れてなにやら作業をし始めた。目を擦ったり欠伸をしたりして、どうにも眠そう……というか身に入ってなさそうだ。自分のポケットの中身を確かめて、香苗にそれを突き出す。 「んっ」 「……?」 「ほら、ガムやるよ。眠気覚ましにはちょうどいいだろ?」 「ありがと!結城さんから何か貰うのはこれが初めてだからびっくりしちゃった」  そういえば自分からプロデューサーに何かをする、というのはこれが初めてだった気がする。オレのために一生懸命にやってくれてるのに、余計なことを考えてしまってこういう感謝の気持ちを伝えることを忘れていたかもしれない。香苗はそんな様子のオレを気にしてないのか、静かに受け取ったガムを噛みながらメールを確認している。そして、ある一通のメールを見て目線と手が止まった。 「結城さん!とうとう来たよ!」 「何がだよ?」 「ライブの出演依頼!!そんなに大きなとこじゃないけど、出るアイドルは箔がつくって言われてるアイドルの登竜門みたいな場所だよ!やったね!」 「マジか……」  正直言って喜びよりも驚きの方が大きかった。プロデューサーが自分の事のように喜んでることもそうだが、いつの間に自分はこんな仕事が来るようになったんだ、という感覚の方が強かった。でも、逆に言えばこれは香苗に頼らず自分の力で自分を売り込む機会なのかもしれない。いくら香苗が優れたプロデューサーとはいえ、本番でオレのステージをどうにかできるのはオレしかいないのだから。フィールドの選手たちの争いに直接監督が混ざって競い合えないように。
 それからはひたすらライブの為に調整をしながらレッスンをする日々だった。ダンスは元から体力があるおかげでなんとかなるのだが、歌いながらだと思っていた以上に気力の方が奪われる。気を抜いたら歌の方がおざなりになるし、音程を意識しすぎると体の伸びや溜めが遅れる。かと言って歌って踊ってができたらそれでいいか、といったらそうでもない。気合の入った表情ならまだしも、苦しそうな表情で歌われて気持ちのいいファンなんていないからだ。プロデューサーと一緒に色んなアイドルのライブを見て勉強してはいるが、まだとても追いつきそうにない。 「ここカメラで抜かれることを意識してワザと視線外してるね、腕を上げるタイミングが少し早めなのは上げた状態の自分が一番いいって思ってそう……ここステップわざわざ二回踏んでるのはなんでだろ、そっちの方がかっこいいからなのかな」  ビデオを見ながら香苗はぶつぶつと独り言を喋っている。その中から自分にも取り入れられそうな部分を頭において実践してみる、といったことを繰り返している。にしても、プロデューサーという立場でアイドルを観察しているとはいえ、香苗は細かいことにもよく気づく方だと思う。やれることが増える分だけありがたいのだが。 「もしかしたら、アイドルの方が向いてるんじゃねーか?」 「じゃあちょっと歌ってみようかな」  香苗がビデオで流れている曲をなぞるように歌い始めた。……音程がもうがっつり違う。曲がうろ覚えなせいもあるかもしれないが、へにゃへにゃした歌い方になってしまっている。 「わりぃ、前言撤回する」 「えー!?こうみえても前はボイトレとか通ってたんだよ」 「……オマエ、記憶喪失だったんじゃねーの?」 「んー、なんか思い出せたんだよね。結城さんとのアイドル活動の中で自分にもこういうことあったな、って。もしかしたら結城さんをトップアイドルにするために記憶喪失になったのかもね」 「……気がはええよ」  そう、トップアイドルなんてずっとずっと先のことだ。だからこそ、次のライブは成功させなくちゃいけない。いつの間にかやめたかったアイドルが自分の中で目標になってる。不思議なこともあるものだな、と充足感に包まれながらアイドルの動きを確認する。 「そういえば、衣装はどうなってるんだ?」  今は練習だからレッスン着で歌ったり踊ったりしているが、本番を想定するならステージと衣装を意識した上で練習したい。体操着よりもユニフォームの方が、サッカーやってるって実感が違うように。 「んっ」  香苗がテレビに映っているアイドルを指さす。短いスカートに袖の短い上着、臍が見えるようになってるインナー。露出が多くて可愛らしい、というように思う。 「まさか、これか?」 「うん、これ」  スカート……履くのか。新しい不安と困惑をよそに、香苗は満足そうに笑っていた。
 衣装が届いたので、レッスン室でとりあえず着てみることにしたがやっぱり動きにくい。スカート特有のふとももに布が巻かれていない感触が、今までの感覚とは不慣れだし可愛い寄りの衣装というのがどうも自分には合わないような気がして気後れしてしまう。 「結城さんってスカートダメだったんだね」 「……滅多にはかねーからな、こんなの」 「うーん、下に短パンとか履くのはどうなのかな?ちょっと連絡してみるね」  香苗が一旦どこかに電話をかけて、肩を落とした様子で戻ってくる。 「ごめん、やっぱり衣装にアレンジを加えるのは評価に影響するからダメだって」 「そっか……」  香苗が少し考え込んで、なにかを���いついたように顔を上げた。 「結城さんがどうしてもって言うなら、僕がこの衣装着て出てもいいよ?」 「はぁっ!?」 あまりにも突拍子もない提案に、思わず変な声が出る。どうしてそんな発想になったのだろうか。 「結城さんは子供だし、気を遣わなくてもいいよ。僕は可愛いって言われるのもかっこいいって言われてるのも慣れてるし、せっかくもらった仕事だからね。誰が出てもいいってわけじゃないけど、なんとかなるでしょ」 「なんでそこまでするんだよ……可愛いとか言われても平気なんだよ……男なんだろ?」  女らしく、かわいくなるようにって言われてるオレにはなじみのない考え方だ。実際男とか女とかよくわかんねーけど、かわいいって男が言われても気にしないのは自分にはない感覚だ。 「だって、可愛いもかっこいいも僕の事好きだからこそ言えることじゃない?僕は僕の事を好きでいてくれる人のことが好きだから」  確かにそうかもしれない。オレのことをかわいい、って言ってくる人も悪気があるわけじゃないのもわかってる。それでもどこか恥ずかしいと思ってしまうのだ。 「でも、僕は可愛いって言われ始めてから可愛くなった気がする。結城さんは、まだかわいいって言われるのに慣れてないんだろうね」 「……香苗にも慣れてないときがあったのか?」 「うん、だから結城さんの気持ちはよくわかるんだよ」 「じゃあ、猶更これはオレが着なきゃいけないじゃねーか」 「?」 「プロデューサーがオレの気持ちも経験も知ってるのに、なんでオレはプロデューサーのことを知れないんだよ。やってやるよ!確かにこの衣装は恥ずかしいけど……アンタに甘えっぱなしの方がよっぽど恥ずかしいしな!」  決意の言葉を聞いて、香苗は嬉しそうに微笑んだ。自分の子供の成長を喜ぶ親みたいだ。 「ありがとう、結城さん。僕の気持ちを理解しよう��してくれて」  一瞬だけ、悲しいような物寂しいような、そんな表情になる。自分のことを忘れてしまった香苗は、誰かと理解しあえたような記憶も忘れてしまっているのだろうか。そしてそれを思い出せずに苦しんでいるような、そんな顔つきだった。 「でもこの衣装デザインいいよね、インナーとか着ていいなら僕も欲しいかも」  かと思ったら途端にふざけてるのか本気なのかわからないようなことを言う。振り回されているようで、世話になっているようなプロデューサーとの関係は今のオレにはなくてはならないものだと確かに感じている。  最悪な出会いは、最高の相棒として必要な過程なのかもしれない。
 衣装を着てレッスンを重ねたおかげか、本番前の楽屋でも比較的落ち着けている。それでもやっぱり出番が近づくと不安が押し寄せてきて、すーはー、すーはー、と深呼吸をして高鳴る心臓を落ち着けようとする。香苗はこんな時でも他のアイドルやプロデューサー、スタッフと話をしながら念入りに最終調整をしている。 「結城さん、出番です」  スタッフに呼ばれて、ステージへと向かう。出番の終わったアイドルの反応は様々で、やり切ったと喜んでいる人もいれば、ふさぎ込んで泣いている人もいる。皆ここまで来るまでに色々な努力や経験をしてきて、必死の思いで来たんだろう。果たして自分は他のアイドルと同じように頑張ってきたんだろうか。結局プロデューサーの力で上手くいっただけじゃないのか。元々アイドルなんてなるつもりもなかった自分がこんなところに来ていいのだろうか。  やばい、場の雰囲気に当てられたのか不安と緊張がどんどん湧いてくる。今更考えても仕方ないのに、抑えきれない感情が確かに自分を縛ってきている。ふらついた足取りでステージ脇までやってくると、香苗が待っていてくれた。 「結城さん、調子はどう?」 「どうもなにも……不安でいっぱいだよ」 「そっか、あの廊下を通っちゃったんだね。アイドルの無念と後悔で作られた、別名『挫けの坂』を」  また適当なことを言い出した。廊下なんだから坂になるはずがないだろう。香苗がしゃがんで、オレの目線に合わせてくれる。今まであまり意識したことがなかったが、香苗の身長はアニキと同じくらいだ。 「でも大丈夫。不慣れなステージで不慣れな衣装、そんな中でも頑張る結城さんの姿はきっとかわいくて、かっこよくて、他のどんなアイドルにも負けないくらい輝けるから。僕が保証する」  オレの両手を取って、上から包むような姿勢で祈ってくれる。なんだかその姿があまりにも神秘的で美しくて、悩んでいたことが全部どうでも良くなった。 「しっかりね、結城さん」 「ああ!そっちこそオレのステージ、しっかり見届けろよ!」  前のアイドルの出番が終わり、スポットライトが一斉に当たる。観客のざわめきも、ヘッドセットのマイクも、少し広すぎるステージも、可愛すぎる衣装も、全部手に取るようにわかる。ああ、オレ今集中できてる。きっと、最高のステージになるって確信できる。 「初めましてー!!結城晴です!よろしくお願いします!!!」  右手を突き上げて、観客の歓声に身体が痺れる。これが本番ってやつで、アイドルってやつか!後は熱くたぎる思いをぶつけるだけだ!!そうだよな、プロデューサー!!声にしたい気持ちを押し殺して、流れてきた曲に身体と声が勝手に動く。まるで、どうしたいかをオレじゃなくて身体が勝手に決めてるみたいだ。でも、そういう時が一番いいプレイができるって信じてる。だからこそ、今を精いっぱい楽しむことにした。
「どうだ、プロデューサー!……って、なんだその恰好!」  出番を終えて戻ってくると、香苗はオレの来ていた衣装を着ていた。いや、正確には黒いインナーを着ているしスカートも長いし細かいところで露出が変わっていて男向けっぽくなっている。身長も全然違うため、サイズも調整されてはいるが、間違いなく自分が着ているものだ。 「実はアイドルの子が一人トラブっちゃって、このままだとトリのアイドルが来る前にステージが終わっちゃうんだよね。だから急遽僕が出ることにしたんだ」 「はぁ!?」  相変わらず突拍子もないことを平然とやるやつだ。 「さすがに無理だろ!?」 「それがねー、責任者の人にも聞いたんだけどいいよって。僕なら信用できるって言われちゃった」  どうなってるんだ。信用できるって、コイツの歌を聞いたことがあるのか?それなら猶更止めなきゃダメじゃないのか?いや、そもそもプロデューサーがアイドルのライブで出ていいのか?疑問と疑念が頭の中でぐるぐると回りだす。 「大丈夫、僕も経験ないわけじゃないから」  香苗はそう言って、ステージの方へと駆け出して行ってしまった。観客は明らかに動揺しているものの、一部からは悲鳴のような叫びのような黄色い声が上がる。こっからどうするつもりなんだ! 「メンズアイドル香苗です!今日は急遽ワガママを言って出させてもらいました!精いっぱい歌うので、楽しんでいってください!」  その言葉でバラバラな場所から歓声が上がる。困惑していた大部分の人たちも、その熱狂に押されて落ち着きを取り戻したようだ。  肝心のステージは、ダンスはオレより下手だし、歌も同じくらいのうまさだったと思う。でも、アイドルとしてはなぜかアイツの方が優れているような、そんな気にさえさせられるステージだった。音程が外れていても、ダンスをとちっても、それもライブ感があってむしろ味のあるものになっていた。完璧じゃなくてもいい、人間味を出して観客を沸かせることもアイドルらしさの一つだと教えられるようだった。
 先に楽屋に戻っていると、着替えた香苗がロトを片手に抱えてやってきた。 「どうだった、僕のステージ?久しぶりだから緊張しちゃった」 「ああ、すごかったよ。それより、久しぶりってのは……」 「うん、僕はステージに立ってたんだ。結構色々思い出せたよ」  ステージをやって、記憶も思い出したというのに少し暗い様子だ。やりきって疲れているというより、後悔しているような懺悔しているような、そんな悲しみ方をしている。 「僕の名前は『香る苗』じゃなくて『叶わない』って書いて叶。ロトは多分そこから名前をとったんだと思う。記憶を失う前はメンズアイドルとして活動してた……んじゃないかな。他にも色々してたみたいだけど、そこまでは思い出せない。ただ、ユニットを組んでたんだ。相棒と一緒に。もしかしたら、こうやって活動してれば知り合えるかもしれない」 「なんか、話聞いてると良かったことのように感じるんだけど……」  声も調子もどんどん暗くなっていく。まるで記憶を取り戻したくないみたいだ。 「僕にとってはね。でも、さっき名前の由来を言ったでしょ?」  その言葉と同時にメールが来る。オヤジからだ。 『今日のライブをみたところ、良い感じになってたな!無理やりアイドルをさせてたけど、もういいだろ!事務所には契約しないように言っておくから安心しろ!』 「『夢が叶わない』から『叶』。こうやって人の夢が叶わなくなるから、僕は記憶を失ったんだ。夢を奪った人たちを思い出したくないから」
 ライブが終わった後の家族会議は揉めに揉めた。オレはアイドル活動を続けたいと主張しても、オヤジはあまり乗り気ではないようだ。理由としてはこのままサッカー選手の夢もアイドルとしての夢も両方叶えるのは無理だし、それならどっちか諦めた方がいい、という主張だった。 「それでも、やってみなくちゃわかんねーじゃねーか!」  すると、オフクロもオヤジもバツの悪そうな顔をする。なんとなく、お前の言いたいこともわかるけど、と言いたそうな顔をしている。きっと、オレの夢を絞るべきって話は建前で、話したくない理由がなにかあるんだろう。子供のオレには察することはできないけど、それがある以上解決しないような気がした。 「もういいっ!」  家を飛び出して、向かいたい場所へと向かう。香苗……じゃなくて、叶のいる事務所に。仕事をいっつも夜遅くまでやっているから、まだ日が落ちで間もないこの時間ならいるはずだ。途中でタクシーを拾って、会社の前まで言ってみると大きな手提げカバンを叶が退社するところだった。 「……あれ、結城さん。帰ったんじゃなかったの」 「帰って色々相談したけど、ダメだった。オレ……アイドルまだやりたいよ、オマエと一緒に、夢……叶えたいよ……」  我慢していた感情が目から溢れてくる。掴みかけていた夢のかけらが頬を伝って流れ、冷たいアスファルトの上に落ちていく。 「どうして……夢がかなわないって決めつけるんだよ……あきらめるほうが、ずっとずっと……つらいじゃねえかよ……」 「結城さん」  静かで落ち着いたいつもの声だ。でも、自分のせぐりあげる声のせいで上手く聞こえない。 「一度だけ、叶えてあげる」 「へ……?」  思わず顔を上げる。きっと今のオレは酷い顔をしているだろう。何かを決心したかのように、叶はオレに近づいて優しく抱きしめてくれた。 「本当はメンズアイドルだからこういうのもスキャンダルになるんだけど……大丈夫かな」 「こんな時まで冗談言うなよ……」 「ごめんね、でもこれが最後だから」 「最後って……」  聞き返す前に、叶は何かを呟いた。その言葉を聞いた直後、一瞬だけ意識が飛んだかと思うと叶はいなくなっていた。辺りを見回してもどこにもいない。慌てているオレに、一通のメールが届いた。 『すまん、俺が悪かった。サッカー活動もアイドル活動も続けていいから帰って来てくれ』  問題は解決した。喜ぶべきなんだ。でも、一番一緒に喜んでほしい人が隣にいない。それだけで、胸に穴があいたように感情が流れて行ってしまって、困惑と恐怖と車が通りすぎる音がオレの周りを囲んでいた。
 あのあと呆然としながらも、なんとか家に帰ってオヤジと話をした。どうやらアニキが私立に行くから金銭的に厳しくて悩んでいた、みたいな話をしていたが正直もう何を話されたか覚えていない。次の日に事務所に行ったら、机は綺麗に片づけられていて、プロデューサーは最初に面接でオレを採用してくれた人がなってくれた。前のプロデューサーである叶のことを問いただしても、誰も覚えていなかった。そんな人いたっけ?いたような気もするけど……、といった感じで曖昧に濁されてしまった。  とりあえず、オレはありとあらゆる場所を探して回った。一緒に行ったファミレスから、よく行くと話していた服屋、漫画喫茶、プリクラを取っていたから事務所の近くのゲーセン、アイドル事務所の資料もかたっぱしから読んだけど、叶の手掛かりは見つからなかった。さすがに所属してない、しかもメンズアイドルの情報は残っていなかった。  何の成果もなく帰ろうと駅前に向かうオレは、何の気なしにビルのディスプレイに目をやった。そこには『あの奇跡のアイドルユニットが復活!?』と書いてあった。ある種の核心に近いそれがあり、見つめていると叶と白髪赤目の二枚目が映った。 「今回はどうしてアイドルユニットを復活することにしたんですか?」  復活と共に、新しいCDを出した二人に対するインタビュー映像のようだ。 「あー、俺はどっちでもよかったんすけど、叶が復活させたいって言いだして」 「それはまたどうして?」 「僕の名前は『叶わない��ってことが由来だったんですけど、夢が叶う瞬間ってやっぱりいいものじゃないですか。だから、僕の夢は叶わなくても、誰かの夢に僕らがなれたらいいなって改めて思いました」  ああ、そうだ。アイドルは夢を与える仕事だって誰かが言ってたっけ。なら、今オレは確かにアンタから夢を貰ったことになる。宣言するように、強く握った右手をモニターに突き出す。  いつか同じステージに立って、こう言ってやるんだ。アンタの夢を叶えにきたって。夢を与えて与えられて、それこそがアイドルとプロデューサーだろって。
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recordsthing · 3 years
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志希晴拘束えっち
久々のR-18 えっちな描写に全振りしました tumblrって官能小説OKなんですね  イベント後の楽屋に残ってしまっているのは、疲れているせいとかこの後に打ち合わせがあるとかじゃない。ソファーに座っているのだが、後ろからしっかりと抱きつかれていて、身動きがとれなくなってしまっているのだ。 「なあ、どうしたんだよ?」 「…………」  さっきからずっとこの調子だ。同じユニットの皆は既に解散してしまって、オレが残っていたところに志希がやってきた。ソファーに座って帰り支度をしていたのだが、挨拶もせずに抱きついてきてから、不機嫌な様子のまま何も言わない。とはいえこのままでは埒が明かない。どうにかこうにか志希が不機嫌な理由を考えていはいるが、これといった理由を思い出せない。確かにお互い仕事が忙しかったが、廊下ですれ違う時は挨拶したし、撮影の合間に会いに来てくれてちゃんと放したりしてたはずだ。 「なにかやなことでもあったのか?」 「…………違う」 「じゃあなんで不機嫌なんだよ……話してくれなきゃわかんねぇよ……」  つい語気が荒くなってしまう。しかし、怒っているわけではないのだ。どちらかというと不安な方が強くて、どうにかできないか悩んでいる。そんな様子を察してくれたのか、ゆっくりと志希が話し始めてくれた。 「だって……二人きりじゃなかったじゃん」 「……え?」 「あたしと晴ちゃん以外にプロデューサーやスタッフさんがいたり、他のアイドルの娘たちが必ずいたりしたじゃん……。だからこうやってぎゅーってしたり、色んなお話したりができなかった。せっかく晴ちゃんが傍にいるのにやりたいことや話したいことが全然できなくて、もどかしくて、寂しくて、辛かった」  抱きしめる力がより一層強くなる。志希の香りが鼻をくすぐって、ああ確かにこんな風に時間を過ごすことはなかったな、と思い出す。 「そっか、じゃあ今日はこれからずっと志希に付き合うよ。それならいいだろ?」 「ほんと!?ありがと晴ちゃん♪」  志希の喋り方が明るくなる。なにはともあれ、機嫌が直ったようで良かった。この時に一つ誤算があったとすれば、志希がやりたいことっていうことが自分が想像したこともないようなことで、それに付き合わされる破目になってしまったことだった。
 志希につれられて、倉庫の中のラボまでやってきた。今はもうほとんど使用されてないせいか、少し埃っぽいここは滅多に人が来なくて確かに二人きりになるにはもってこいの場所だ。なぜか志希はここの合鍵を持っていて、念入りに鍵までする。過去にどうやら一度間違って入って来てしまった人がいるらしく、その際に自分の実験道具で怪我をさせてしまうかもしれなかった、とのことだった。  棚と棚の間の実験スペースは、様々な薬品を扱うせいかある程度清潔に保たれている。ただし、大きな実験机の上は資料やら機材やらでごちゃごちゃしてるし、床に敷かれている布団は折りたたまれることなく乱雑に放置されてある。いつものように上に掛かってある布団をどかして二人でそこに座り込む。椅子もあることはあるのだが、机を使わないとき以外は基本使わない。布団の上の方が気楽な姿勢でいられるし、横になったりもできるからだ。いつもとは違う感触がするような気がして、目線を布団の下に向けてみるとオレが前に来た時にはなかったマットが敷いてあった。志希なりに気を使ってくれたのかな、と思うと自然と頬が緩んでしまう。  普段通りになにか話すのかな、と顔を向けた途端に志希の綺麗な顔が目の前に映っていた。あまりに一瞬の事で驚いていると、口に触れる感覚からようやく状況を理解する、 (あ……キスされてる……)  ここ一ヵ月近くこういうことをしていなかった気がする。どことなく懐かしい感触を覚えながら、ゆっくりと目を閉じる。わずかな部分に触れているだけ、それでも確かに感じる相手の愛情を長く深く受け止めあう。今までの時間を取り戻すかのように、お互いに離れようとはしなかった。  この時間がずっと続くと思っていたけど、不意に志希がオレの肩を掴んで引き離した。 「あれ……?」  目を開けると、志希はこちらをじっと見つめていた。普段の何倍も真剣な様子なのに、恥ずかしいのかほんのり顔が赤く染まっている。 「ごめん、晴ちゃん。もう抑えきれないかも」  優しくゆっくりと押し倒される。志希が望んでいることがわかるし、これから恥ずかしい目にあわされるっていうのもわかるのに、少しも嫌な気持ちにはならない。多分オレもそれを望んでいるんだろう。ああ、もうどうにでもなれ。好きな相手から求められるのは嬉しいって思ってしまうから。 「脱がせていーい?」 「……一々聞くなよ、イヤって言っても……その……」 「うん♪でもやっぱり晴ちゃんの口から聞きたいなーって」 「…………」 「んーやっぱり我慢できないっ!」 「うわあっ!」  返事を待たずに押し倒されて、着ていた服を脱がされる。あっという間に下着だけにされて、まじまじと見つめられる。 「あんまり見んなよ……」  今着てるのは無地のブラとショーツが一緒に売られてるやつだ。服は基本おさがりだし気にしないのだけれど、こうやってじっくり観察されるとちゃんとしたもの着てくれば良かった、と思ってしまう。 「ん~、今度一緒に下着買いに行かない?それかプレゼントしてあげるっ♪」 「なんかそういうの選んでもらうの、すっげぇ恥ずかしいんだけど……」 「え~?もう気にしてないでしょ?今だってわざわざ脱がせやすい体勢でいてくれたし♪」 「~~っ!?」  本当か?いやでも確かに抵抗するよりか、志希に脱がされるのが当たり前になってて、手間取らないようにそうしている……気がする。志希のなすがままになっているどころか受け入れてる自分が急に恥ずかしくなって、膝と肘を折り曲げて身体の前に持ってきて、志希の真正面から離れるように姿勢を横にする、 「ねえ、晴ちゃん。ついでにもう一個だけお願いしていい?」 「……なんだよ」 「こういうこと♪」  志希の両手がオレの手首を包み込んだかと、いつの間にかバンドのようなものが巻かれている、両手首を一つの輪っかが縛っていて、自力では外せなさそうだ。両腕を開こうとしてみるものの、手首に食い込んでいるそれは充分な強度をもっていて外れる気配さえない。なんとなく、嫌な予感がする。 「なあこれ、外れねーんだけど……」 「次は足だね♪ほら暴れなーい」  絶対にマズいことになる。しかし、抵抗しようにも腕は自由にならない上に体格の差もあるし、志希の方が自由になるポジションにいる。結局抵抗らしい抵抗さえできずに、足首に細長いロープが巻かれて近くの棚の脚と結びつけられる。そのせいで、足が開かれたまま閉じることができない。縛られたせいで、身体は仰向けの状態に引き戻され横を向くこともできない。 「な、なぁ志希、もういいだろ?このカッコすっげー恥ずかしいし……」  今まで着せられてきたどんな衣装よりよっぽど恥ずかしい。自分の身が自由にならないことがこんなに恐怖を感じるとは思わなかった。身体が熱くなって、少しずつ汗が湧いてくる。 「うん、これで最後だから安心して♪」  志希の両腕がオレの頭の後ろに回ったかと思うと、視界が深紅に包まれる。ふわりとした感触からハンカチが巻かれているのだと察する。厚手なせいか、全く前が見えなくなったかと思うと後ろできつく結ばれる。 「これでよしっ!どう?」 「どうって……動けねえし前は見えねえし……不安だよ、志希」 「大丈夫、ちゃんと気持ちよくしてあげるから♪」 「そういう問題じゃ……っ!?」  頬に柔らかくて細い感触がした。志希の指だろうか。予想がつかなかったせいか、驚いて身体が跳ねてしまう。頬から首へと伝う感触がいつもよりしっかり感じられてしまうせいで、こそばゆくてしょうがない。手で止めようにも自由にならないこの視界と両腕じゃどうしようもない。 「どう?いつもよりしっかりと……あたしを感じられるでしょ?」 「あっ……」  耳元でそう囁かれる。志希の綺麗な声も、いい匂いも、やわらかで繊細な指の感触も、全部全部強く感じられて心臓の高鳴りが抑えきれない。どうしようもなく不安なのに、この状況に興奮してしまっている自分がいる。  体をなぞる指が首から鎖骨へと降りてきて、胸の中心から下へと辿っていく。その位置から下着が上へとズラされて、胸が外気に晒される。自分の呼吸がいやに大きく聞こえて、身体が息に合わせて上下する。 「ねえ、晴ちゃんからは何も見えないだろうけど……すっごくいやらしいよ、今の晴ちゃん♪」 「~~っ!!」 「晴ちゃんも……どきどきしてくれてるかな?」  追い打ちのような言葉で余計に羞恥心が煽られる。思考が一瞬止まった隙に、志希の指が離れたかと思うとショーツの締めつけが緩くなって、代わりに小さな固い感触が腰の両側に当たる。 「志希、まっ……て!!」 「ここで待ってもいいけど、もっと恥ずかしくなるだけだよ?待たないんだけどね♪」 「あ、あぁ……!」  ゆっくりゆっくりと下着が下ろされていく。動かせない両足ではどうやったって抵抗なんて手出来ない。じわじわと痛めつけられるような辱められるような行為に、頭も心臓も熱くなってどうにかなってしまいそうだ。下着が膝まで下ろされて、外気が触れていた部分が入れ替わる。一番恥ずかしくて見られてほしくない場所を晒しているのに、少しも隠すことができないどころか、どうなっているかすらわからない。羞恥と恐怖と興奮で頭がぐちゃぐちゃになって、なぜか涙が出てきた。 「うっ…くっ、しき……ぃ」 「あれ……やりすぎちゃったかな?……でも、こっちは喜んでくれてるみたい♪」 「うあっ!!?」  身体に快楽の電流が流れる。足と足の間に滑り込ませた指から秘所へと与えられた刺激が、この状況によって増幅されて全身に巡る。今まで経験したことのない衝撃に体が震えて、勝手に声が出る。 「ここ、すっごいぐしょぐしょだね……晴ちゃんもすっかりえっちになっちゃったね♪」 「なっ……!?そんなんじゃ……」  指の動きが止まって、おそらく反対側の手で頭を撫でられる。 「違わないでしょ?もうあたしと変わらないぐらいえっちだって♪言ってみて、ほらっ」 「う……��  こんなのずるい。卑怯だ。恥ずかしくてどうしようもないセリフのはずなのに、頭を撫でられて、志希からおねだりされてしまうとなんでもしてしまいたくなる。それで気が済むなら、喜んでくれるなら、少しくらい恥ずかしくてもいいって思わせられる。もう十分すぎるほど恥ずかしい目にあわされてるはずなのに。 「オレは……志希と同じくらい……えっち、です……」 「……晴ちゃんさー、あたしのことを信用してくれるのは嬉しいんだけど、信用しすぎなのもどうかと思うよ?♪」  小さな音と共に耳の近くに何かが置かれる。すると、少ししてからさっき言ったセリフがオレの声で再生された。 「志希ぃっ!!けっ、消せ!!」 「え~、せっかく晴ちゃんからのあたしだけが聞けるメッセージなのに……」 「ふざけんなっ!!」 「はいはい、じゃあ消してくるから待っててね♪」  耳元に置かれていたものを拾い上げるような音がしたと思うと、足音が遠ざかっていく。 「お、おい!待てって!置いていくなよ!」 「すぐ戻ってくるよ♪」 「う、嘘だろ……からかうなよ、志希……志希?」  声が返ってこない。まさか本当に置いていかれたのだろうか。熱くてどうしようもなかった身体が、急速に熱を失っていく。いつ帰ってくるのかもわからないのに、ここに人が入ってこないとも限らない。そうなったらお終いだ。それをわからないはずがないのに、どうして行ってしまったのだろうか。焼ききれそうだった脳が、ぐるぐると不安が巡り始める。 「嫌だよ、行かないで……志希……っ」  歯を食いしばって、目頭が熱くなる。早く、早く。それ以外にはなにも考えられない。 「だから、信用しすぎちゃダメだって」 「え、あ……」  頬に温かくて柔らかい感触がする、涙と汗が混じって流れた通路を舐めとって、猫が子猫をあやしてるみたいだ。 「ごめんね、不安にさせちゃって。数分ぶりの志希ちゃんだよ♪」  はらりと目の前を覆っていたものが取り除かれて、志希の姿が視界に映る。あんなに酷いことを二回もされたのに、この笑顔を見ると安心して全部許してしまいたくなる。  抱きしめようとして両腕を伸ばして、縛られていることに気づく。 「なあ、これも外してくれよ」 「それはだめ♪まだ最後にひとつだけ試したいことがあってねー」  今度は志希の手のひらで目を覆われてしまった。手首に香水をつけているのが、匂いが一層濃くなって頭がくらっとなる。 「力抜いてくださーい♪」 「あっ……いっ!?」  下から異物が挿入ってくる。志希の指よりも、冷たくて固くて大きなものが多少は指で慣らされた場所をこじ開けるように侵入しようとしてくる。視界の代わりに他の感覚が補おうとして、体の中に入ってくるそれを深く重く感じてしまう。 「こうした方が落ち着くかな?」  目を覆っていた手が頭の方に移動して撫でてくる。志希は隣に座っていて、可愛がるような目線でこちらを見ていた。 「あ……いいっ!!?」  志希の姿が見えて、一瞬気を落ち着けた瞬間に一気にそれは身体の中に入ってきた。不意の衝撃に身体が反って、まるで身体の中に一本の長い棒が通されたみたいだ。 「あちゃー……やっぱり痛かった?大丈夫、これからはゆっくり気持ちよくなっていくよー♪」 「なっ……あっ!?ひいっ!」  刺さっていたそれが上下に動いて、中を荒らし始める。往復するたびに弱いところと擦れて、感じたことのない快楽の波に溺れてしまいそうだ。 「ああっ!!だめっ……だってぇ!!」 「気持ちいいでしょー、晴ちゃんの弱いところにちゃーんと当たるように改良したからね♪もうイっちゃいそうでしょ?」  興奮と快楽が溜まっていって、今にも吐き出しそうになる。志希の声も、いやらしい水音も、匂いも、今まで感じたことのない痛みと感触も、全部全部身体が受け入れていく。それは同時に限界を呼び寄せることになる。 「……っっ!!!!!」  声ではない音が口から漏れて、気持ちよさに溺れた身体が数回跳ねる。頭の中も身体も愛おしい気持ちも恥ずかしい気持ちも全部溢れ出すみたいにはじけ飛んだ。しかし、余韻に浸ろうとした身体はまだ動いてるそれによって再び起こされる。 「イっ……たのに、なんでっ!?」 「んっ♪」  志希が両手を開いてこちらに見せる。何も触ってないのに、中にあるそれは確かにまだ動き続けている。快楽を受けて崩壊した身体に再び波が押し寄せる。 「早く……抜いてぇっ……」 「うん、あたしが満足したらね♪」  満足したら。それは一体いつなのだろうか。快楽によって薄れゆく意識と共に、終わったら絶対に一言文句を言ってやる、と誓うことでしか抵抗なんてできなかった。
「ねー晴ちゃーん、機嫌直してよー、やりすぎたのは謝るからさー」 「………………」  結局あの後は晴ちゃんが気絶するまでしちゃっていた。さすがにやりすぎたことを反省して、すぐさま後処理をすることにした。縛っていた手はまだしも足首は少し赤くなっていて、とりあえず軽い応急処置だけしておいた。汗と涙と愛液に濡れた身体を拭いて、布団に寝かせてあげた。ただ、起きてからというもの自分の服を体育座りで抱え込んで、ずっとそっぽを向いている。 「ほら、さすがにそろそろ帰らないといけないし、服とか着ちゃったら?」 「……むこう向いてろよな」 「うん、あと一応身体は拭いておいたけど、もし使いたいなら机の上のタオルを自由に使ってね」  そう言った途端に、後頭部に柔らかいけど勢いのある感触が飛んできた。自由に使って、とはそういう意味じゃなかったんだけど、これも仕方ないだろう。 「……もういいよ」  振り返ると、晴ちゃんがもう身支度を済ませて靴を履こうとしていた。……やばい、めっちゃ怒ってる。でもしょうがない、お預けされてた分を取り返すにはあれくらいしないと気が済まなかった。それでこうやって怒らせているのだから、元も子もないのだけれど。  あたしの横を通り過ぎたかと思うと、すぐにぴたりと立ち止まった。あれ?と思っていると、右手が後ろ向きに差し出される。 「……送ってってくれるんだろ?遅くなっちまったし……」 「うん!」  左手でそれを受け取って、前へと歩き出す。晴ちゃんを引っ張るようにして、出口へと向かう。 「志希……」 「はい、なんでしょう」  ……あれ?やっぱり許してもらえてない? 「今日みたいなこと、すっげえ恥ずかしかったし、怖かったし、痛かった」 「う……ごめん……」 「でも……いいから」 「え?」 「志希がしたいなら、その……また……っっ!なんでもねえ!はやく行くぞ!!」 「は~い♪」  駆け出した晴ちゃんに置いてかれないように、一緒に走る。次があるなら今回のようなことではきっと満足できなくなってるだろうけど、晴ちゃんは許してくれるだろうか?  ボイスレコーダーと棚に仕込んでおいたビデオカメラのメモリーカードは、確かにポケットの中にある。しばらくはこれで満足できるだろうと思っていたけれど、さっきのセリフを録音してないことを後悔した。  でも、本当に大事なことは記録やデータには残らないことをよく知っている。だからこそ、今はただこの愛しい恋人との二人三脚のような走りを楽しむことにした。
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recordsthing · 3 years
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限りなく桎梏に近い辛苦
晴ちゃんが酷い目にあうお話。普段と作品の毛色が違うから一応閲覧注意で。 
 決して油断していたわけでも慢心していたわけでもなかった。ただ災害というものは、唐突かつ無作為に起こるものだということを起こってから思い知らされる。たとえそれが人災であったとしても。  今になって思えばその兆候は初めからあったのかもしれない。ランドセルの右側つけている防犯ブザーはキーホルダーなんかも一緒についていて、とっさに右手じゃ触れない。それに、普段から仕事で大人と交流があるせいかそういうことに関して危機感が薄い。明朗快活な性格は裏を返せば無防備であるということだ。 「最近防犯ブザーの誤作動報告が多くてさー、いざという時に大事なんだからそういうことされるの困るよな」 あれは誤作動なんかじゃなくて、防犯ブザーが鳴らされたとしても関心を沸かさないようにするためだ。せめてその話が出たときに言っておくべきだった。いや、そういうことは毎回毎回言っていたはずだ。ただその度にあの眩しい笑顔で、心配しすぎだって!って返されていた覚えがある。 後悔はしてもしきれない。だからこそ、未来のことを考えなければならないとわかっているのにあまりにも深く痛く刻み込まれた傷口が許してくれない。傍観者の自分ですらこれなのに、当人はいったいどれだけの痛みを背負ってしまったのだろう。許されるのであれば、自分が全部肩代わりをしたいのに運命というのはあまりにも無情だ。  深夜の病院の廊下はあまりにも静かだ。手術が終わったのは夕方と夜の間だったはずだが、ずっとここから動けないでいる。目の前の病室は個室用で、新しい表札には「結城 晴」と書かれている。ただただそれを眺め続けて、起きてしまったことがどれ程重いことなのかを実感する。色んなアイドルや関係者が言葉をかけてきたものの、何を言われたかも覚えていない。彼女の家族の怒声と泣き声混じりの声も、彼女と一緒に仕事をしていたアイドルの絞りだす祈りのような言葉すらどうでも良かった。ただ医者の言った言葉だけは覚えている。 「手術は上手くいきました。しかし……受けてしまった傷は身体より精神的なものの方が大きいです。こればっかりはどうしようもありません……」  そんなことはわかってる。わかってるから、わざわざ言わないでくれ。手術が終わって、病室で眠っている様子を確認したが頭や腕に巻かれた包帯があまりにも痛々しくて見ていられなかった。願うことなら、ずっとこのまま眠ってすべてを忘れていてほしい。起きた彼女になんて声をかけていいのか見当もつかないから。  どうにかなりそうな気持ちを抑えたいのか発散したいのかもわからないままでいると、不意に足音が聞こえた。目線だけ足音がする廊下の方に向けると、白い白衣の人物が歩いてくる。一瞬だけここの医者か?と思ったが、こんな時間に巡回する医者などいない。医者でもないのに白衣を着てこんな夜中に来る人物の心当たりなど、一人しかいない。 「……容体は?」  一ノ瀬志希……最初に晴が仕事した相手で、良くも悪くもアイドルとして初めて関係築いた相手ともいえる。しかし、わざわざこんなところに見舞いに来るのは意外だ。自分以外に興味がないタイプだと思っていた。 「頭に七針、腕と足に三針ずつ縫って今は眠ってるよ。ケガ自体はなんとかなるらしいが……」 「わかってる、だからあたしが来たの」 「……?」 「あたしがどうにかするから、邪魔しないで」  こちらが静止する前に、晴のいる病室に入っていってしまった。面会謝絶の札も気にしない彼女は、いつもと違う冷えた表情をしていた。薄暗い廊下で顔は見えなかったのにそう言い切れるのは、彼女の言葉があまりにも冷え切っていたからだ。  いや、それだけじゃない。どうにかするから、という言葉にすがっている自分がいる。できることなら、こんなことが起こる前の結城晴に帰ってきてほしいのだ。ガラにもなく、両手を組んでその場に跪く。  神でも悪魔でもなんでもいい。また彼女の笑顔を見せてくれ。
 第3芸能課の小学生アイドル、結城晴が学校の帰り道に襲われたというニュースは瞬く間に広まった。事件の概要はこうである。学校からの帰り道で、友達と別れて一人になったところを20代後半のスーツの男から話しかけられた。この時に、俺の名刺を取り出せたことで信用を得たらしい。その後は仕事の打ち合わせとかで近くの喫茶店まで案内されたそうだが、途中で遠いから車でどう?と誘われた。そこで怪しいと感づいて逃げたが、待ち伏せしていた別の仲間に取り押さえられた。その後、必死に抵抗した晴は男が服を裂くように用意していたナイフで傷つけられた。ただ、斬りつけられた悲鳴を聞いた通行人に発見され、男たちは晴を置いて逃走したとのことだ。通行人は誤解されることか拘束されることが嫌だったのか、警察と救急車だけ呼んでどこか行ってしまったらしい。現場にかけつけた警察から話を聞いたが、服はズタズタにされ、出血した個所を抑えながら小さく震えていたとのことだった。アイドルが襲われたというこれ以上ない事件にマスコミや報道は好き勝手に囃し立て、事務所のアイドルや家族に強引な取材を行っている。数少ない救いなのが、この騒動を晴が知らないということと病院までは騒がしくないことだ。  ただ、今の自分にはそんなことは二の次三の次だった。夜が明けて朝になって昼過ぎになっても、一向に志希は病室から出てこない。防音になっているせいか、何をしゃべっているのかも聞き取れない。  もうすぐ医者か看護士がくるぞ……、と思った直後に病室のドアが開いた。そこには疲弊しきった一ノ瀬志希と病院患者用の青いガウンを着た結城晴が立っていた。 「よお、プロデューサー……って死にそうな顔してるぞ!?大丈夫か!?」 「あ、ああ……いや、俺のことはいいんだ。晴……お前、その……」 「オレ?いや、どうもここ数日の記憶がなくってさ……志希が言うには交通事故に巻き込まれて気絶してたって……」  志希に目線を移すと、小さく頷いている。口裏を合わせろということだろう。 「そう、だが……大丈夫か?本当に?」 「心配かけて悪かったって、でもすぐ退院してアイドル活動とサッカー活動すっから楽しみにしとけよ!」  握手をしようと晴が手を伸ばしてくる。良かった、本当に良かった。これでまた元通りの日常が帰ってくるんだ。眩しい笑顔はいつもの晴だ。晴からさし伸ばされた手を掴もうとこちらも手を伸ばした。しかし、その手は握り返されることなく、晴は小さな悲鳴と共にドアの裏側まで引っ込んだ。 「あ、あれ?おかしいな……なんか怖くて、調子悪いのかな……悪ぃ、もう一回寝る」  そのままそそくさとベッドまで戻っていってしまった。志希が後ろ手にドアを閉めたのを確認して問い詰める。 「どういうことだよ……」 「どうもこうも、あれが限界。なんとか事件の記憶は無くせたけど、身体が辛いことを覚えちゃってるんだろうね」 「なんとかならない……のか?」  俺が手を伸ばして拒否をしたものの、志希の側にはいた。無自覚な男性恐怖症とでも言うのだろうか。それならアイドル活動もサッカー活動も絶望的だ。 「無理じゃないけど、記憶を消すのって相当重いことなの。これ以上やったら大事な記憶が消えて、晴ちゃんの人格すら危ういかもしれない」 「なんで、そんなっ……!」  わかってる。これだけでも充分ありがたいことだって。完璧なことなんてありはしないって。それでも、一瞬だけ見えた光明がすぐに塗りつぶされるのはきついものがある。 「……あたしはもう疲れちゃったから帰るけど、アフターケアは任せるよ。もし事件のこと思い出したら、今度こそどうなるかわかんないから」 「ああ、……ありがとう」  志希は人にぶつかりそうになりながらもふらふらと廊下を進んでいった。何をしていたのかはわからないけど不眠不休でここまで晴のことを回復させてくれた彼女には感謝の気持ちしかわかない。  今の自分には晴のためにできることがある。それがどれだけ嬉しいだろう。この先どうすればいいかを考えながら、一度事務所に戻って相談することにした。
 
 あれから二か月が過ぎた。世間の関心もその頃にはすっかり収まって、対応に追われることはなくなった。ただ、晴の男性恐怖症はどんどん酷くなっていった。本人からの強い希望で、サッカークラブへの復帰は一時中断しているものの、アイドル活動は続けてくれることになっていた。しかし、レッスンはまだしも営業は身体が震えて出来ないし、ライブも歌い終わると視線を意識してしまいその場に蹲ってしまう。 「大丈夫……大丈夫なのに、なんだよこれ……」  そう呟く言葉が痛々しすぎて、聞いていられなかった。何度も止めるように説得したが、原因がわかんないからやるしかないだろ!と言われたら言えることがなくなってしまう。  晴は今家族と離れて暮らして女子寮にいる。男所帯の家族ですら拒否反応が起こってしまうらしい。それを考えると、もし晴がここでアイドル活動をやめてしまったら、なにが彼女の支えになるんだろうか。彼女の世間との繋がりは全く何もなくなってしまう。しかし、このまま無理して活動を続けさせるとこうなってしまった原因を思い出すのは時間の問題だ。  どうしたものか、と一緒に事務所の廊下を晴と歩いていると……いや、3メートルも離れている状況を一緒に言っていいのだろうか。それはそうとして、反対側から歩いてきたアイドルはあの時晴のことを助けてくれた一ノ瀬志希だった。 「……どう?」 「どうもなにも、ずっと酷くなってる」 「そう、じゃああたしに任せて」  俺の横を通り過ぎて、晴を抱え上げる。お姫様だっこのような体勢でそのまま歩いて去ろうとする。 「どこに行くんだ?」 「どこか遠いところ、晴ちゃんが落ち着くまでね」 「待てよ!そんな身勝手が……」 「許される。だって、あたし以外にこれ以上任せておけないから」  その言葉はあまりにも響いた。色々サポートしたとはいえ、結局誰も一ノ瀬志希以上の成果を挙げられた人なんていない。この俺も含めて。誰よりも結城晴を救った彼女を、一体誰が止められるというのだろう。二人が去っていくのを、歩き方を忘れたかのようにその場で立ち尽くすしかなかった。
 あたしはなんにもなくて退屈な地元に戻ってきた。二度と戻ってくることはないと思っていたけど、ここより静かで優しい場所を他に知らなかった。実家はとっくの昔に売り払ってしまったため、旅館とホテルを転々としながら二人で住める場所を探している。  できるだけ静かな場所がいいかな、と思って探してはみるけどやはり何かと不便で結局山奥の静かな旅館で今日も気ままに過ごしている。二人ともアイドルを止めちゃったから、仕方なしに新しい論文を書いたりアイデアや特許を提供したりして収入を得ている。 「なあ、志希」 「な~に?」 「サッカーしたい……」 「ん♪これが終わるまで待っててね~」  ノートパソコンで実験の依頼するメールを素早く打ち込んで畳む。晴ちゃんからの要望であれば、何があっても優先するのが一緒に暮らすために決めた自分なりの最低限のルールだ。  旅館から外に出ると、歩いて五分で公園にたどり着く。公園といっても遊具もなければトイレもない。ただただ芝生が広がってるだけの土地だ。そのお陰か人が全然いなくて、二人でこうやって遊ぶにはちょうどいいのだけれども。  サッカーなんてほとんどやってこなかったけど、晴ちゃんとやってるうちに上達してしまって今ではすっかりあたしが教える側だ。晴ちゃんは悔しそうにしてたけど、PK戦でわざと負けてあげるとすぐ機嫌が直るのがかわいいところだ。  一通り遊んだ後は、旅館に戻って一緒に部屋の温泉につかる。最初はあたしが晴ちゃんの頭や身体を洗おうとしたらすっごい恥ずかしそうにしてたけど、今では頭を洗う時は任せてくれるようになった。……身体は未だに抵抗されてしまうけど。  お風呂でさっぱりした後は、一緒のベッドにはいってなんでもない会話をする。この生活をしてからというものの、一日が酷く長く感じられる。晴ちゃんといられるから決してつまんないわけじゃないんだけど。 「なあ、志希」 「うん?」 「どうしてこんなにオレに優しくしてくれるんだ?今のオレはもうアイドルじゃないし、二度と一緒のステージには立てないのに……」 「……モノは壊れるから美しい。でも、壊れない美の方が、当然、上なわけ」 「だったら!」 「そう思ってたんだけどね、晴ちゃんの美しさがまた見たいと思っちゃった。それっぽく言うなら生きる理由……人生賭けてもいいくらい証明したい実験なの。だから気に病まなくていいよっ♪」 「そっか、じゃあ一緒だな!オレも志希が生きる理由だからさ!」  そう答えてくれることはなによりも嬉しいのだけれど、同時に罪悪感もわいてくる。はたして自分は本当に晴ちゃんが元通りになってほしいと思っているのだろうか。今のような生活がずっと続いても構わない自分を、少しも否定することができない。両手で包み込める温かさを捨ててしまうことなどできないから。  返事の代わりに触れるだけの優しいキスをする。それと同時に翼をもがれた天使と一緒の鳥籠はこんなにも心地いいものなのか、と思ってしまう。
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recordsthing · 3 years
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晴のかわいいについて
 U-149の先読みで晴ちゃんが泣いていました。普段から担当の供給が欲しいとは常日頃から考えてはいたけど、さすがにこういう展開は苦しい。  おそらく先読みの話をするので、ネタバレ回避したい人は読まない方がいいです。おそらく、と表記しているのは筆者はまだ先読みを読んでいないため実際あってるかどうかわからないからです。(読んだ人の意見を参考にしております)
 泣いた原因はどうやら両親とトラブルがあったようです。無理やりスカートを履かせるとか履かせないとかで、家にいたくなくなった晴は夕方にも関わらず事務所に残ってしまいます。周りのアイドルの反応についても若干気になりますがここでは一度割愛します。  なんかこのくだり見たことあるな?という既視感があるのは多少仕方ありません。一話完結型のストーリー展開は時系列が全部一緒にしないと話が矛盾しますから。それでもなお結構モバとデレで相違があるのはもうライターによる差とかあると思うので、いろいろ解釈して誤魔化してます。(お願いだからwith光の話はやめてくれ)  本題としては晴にスカートなどのかわいい恰好させるのはどうなの?本人が嫌がってることをするなよっていうことです。  ただこの話って割と前提がごっちゃになってる気がするので、まずそこから言及していきたいと思います。  結城晴はそもそもアイドル志望ではなく、父親から勝手にオーディションに送り込まれます。そのせいか、最初はアイドルとしてのやる気がありませんでした。なんで採用したんだ……?  そのせいか、プロデューサーとの関係は仕事相手というよりかは遊び相手に近いところがあります。仕事のスタンスもどちらかというと、アイドルとしてではなくアンタに頼まれたらしょーがねーな、的なノリで付き合ってくれます。  また、本人が言うにはカワイイ服なんか着なくてもいい、事務所にはカワイイ女の子がいっぱいいる、スカートは動きづらくてスースーして落ち着かない、カッコイイアイドルの方がいい、と言っていました。  ただ結城晴R+ではカワイイ恰好をすると応援してもらえるのは嬉しいと言っているし、喋り方では女の子らしい口調について疑問に思いつつも習得しようとしています。フレッシュセレクトではカワイイヤツつかってる方がファンは喜ぶと思っているし、ブルーミングエリア+では視線を奪ってフェイントをかましてきたり、アイドルとして、というよりは結城晴として自分のかわいさを上手く使っているように見えます。  ただ、クラシカルフィールドではフリフリのメイドとかキャラじゃないし、違和感すげー、と感じているようです。この違いは一体なんなのでしょうか。  ここで、前述したように結城晴はおそらくですが自分なりの可愛さを習得しています。それはきっとファンやプロデューサーのことを考えた結果だと考えています。  理由としては、結城晴が自分の可愛さについて言及するとき、ファンやプロデューサーがどう感じるかについて述べているからです。自分には可愛い恰好は似合わないけれども、その中で相手のことを考えてアイドル活動をしているのでしょうか。そういうところ、大好きだぞ晴。 ここで問題なのがじゃあなんで揉めるんだよという話です。 自分なりの解釈ですが、自分なりの可愛さややり方があるのにある種の可愛さに矯正がかけられるのが嫌なのかな、と考えています。 これはある種の妄信に近いですが、結城晴はかわいいです。それは彼女には可能性がつまっているからです。12歳という年齢もそうですが、人は歳をとるたびに可能性や夢、あるいは心身が削られながらそれでも成長していくものですが、結城晴はまっさらに純粋にやりたいこともやりたくないことも頑張って夢を叶えようとしています。  確かにサッカー選手とトップアイドルの両立はかなり難しく見えますが、それでも可能性を追い求める彼女を応援したくなります。  話が逸れましたが、結城晴は自分なりの芯の強さとかわいさがあります。だから、両親や仕事などで不本意なかわいさやこうあるべき、というのを押し付けられるのはとても嫌なことなんじゃないしょうか。  ブルーミングエリアの時、落ち着かないと言及しつつも特別な景色を見られて良かった、と言っています。この特別な景色にはどこか晴の恰好さえ含まれているような気がします。  結城晴はオンオフがしっかりしているように見えます。どんな不本意な仕事でもやる時はやってくれるし、仕事をしてないときでも気をつかったりサポート役をしっかりしてくれます。  そんな彼女だからこそ、仕事以外で……ファンやプロデューサーのいないところまでもかわいくあるべきことを強制されるのが辛いんじゃないのでしょうか。  結局かわいい恰好=似合わないから嫌!っていう図式や結城晴に可愛い恰好させるのはどうなの?っていうのはこのあたりの問題な気がします。可愛い恰好が嫌なことというより、オフに強制されてしまうことなのかなと。  今後この問題がどう転ぶかわかりませんが、結城晴が自分なりのかわいさをもってることが伝わってくれればな、と思います。実際の仕事の様子を見せて立派にアイドルやってますよとか。
 最後になりますが自分なりの考えというか伝えたいこととしては、かわいいって言われるのが嫌なのは、可愛い恰好をさせられてるからで自分から可愛い恰好をしてかわいいって言わせるのはかっこいいことなんじゃない?ってことです。かわいいぞ、晴。
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