Tumgik
m12gatsu · 2 days
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 川の詩人
彼女はお喋りだ
そのくせだれかが話しかけようとすると
もう先へ行ってしまっている
自分でもよく分からない
一体どこまで自分でどこから自分じゃないのか
仕方ないじゃない、と彼女は云う
立ち止まったとたんに
わたしはわたしでなくなってしまうんだもの
変転と移動だけの人生って
傍で見ているほど気楽じゃないのよ
彼女の背後で
雨雲がぴかぴか光っている
いつか永遠に己を解き放つ瞬間が訪れるだろうか
孕んでも孕んでも
彼女のお腹はほっそりしている
 石の詩人
雲に憧れる気持ちがまったくないといえば
やっぱり嘘になりますね
いや、月になりたいとは思いません
大きさこそ違え
僕らは本質的に同じですから
(雨が、あがって、風が吹く。
  雲が、流れる、月かくす。)
地上にありながら
深みを予感することが僕の仕事です
(そして夜になると重たい地球は沈んでゆく
 星々の隙間を抜けて孤独にむかって)
その日の彼は
なぜか珍しく饒舌だった
モグラは相槌を打とうとしたが
なんだか恥ずかしくなってまた土にもぐった
 木の詩人
いつ死んだっていい
ずっとそう思いながら生きてきたような気がする
ふと、あたりを見回せば
いつの間にか自分が一番歳をとってた
誰にも言っていないが
彼はいまや歩くことができた
それが特別な祝福であるとも思わなかったが
夜、村はずれの一軒家の垣根越しに
ラジオの声を盗み聴くことの
あの後ろめたい歓びを手放すつもりも
毛頭なかった
 ラッパの詩人
その内実において
彼は洞だった
丸く開かれたロのなかの
限りなく滑らかな漏斗の表面を
空や、媒煙や、少年の震える睫毛や希望は
流れ落ちていった
その外観において
彼は畸形の口吻だった
それは中断された吐息を思わせた
だがその鋭利な外縁からは
鉱石や、水や、骨や、稀に羽虫を封じた琥珀が
迸った
午睡から覚めてバルコンに立つと
夕陽が彼を金に染めた
誰ひとり彼の地声を聴いたものはなかった
 アホの詩人
崩れかけた塀の向こうの
物置小屋の庇の下に座りこんで
洟垂れ小僧どもに恐々と覗かれながら
えへらえへらしている
垢と泥にまみれた裸に
透明なビニールシートだけを纏って
風の舞う早春の丘の斜面を
駈け降りてくる
どろりと濁った片眼の端から
笑う女の
歯茎を盗み見ている
アホの詩人は
しどろもどろのうちに真理の炎に焼かれ
また我知らず詩をお漏らしした
 雨の詩人
この世の森羅万象に触れることが
彼の野望だった
人前ではそんなそぶりは露ほども見せずに
俳句を捻ったりしていたが
一粒の砂をどんなに見つめても
世界はおろか砂漠だって見えなかったが
一滴の雨の雫には
たしかに全てが映っていた
屋根屋根と森と
小川と虻の羽音と鉄橋と
かなたにけぶるひとすじの海と
貨物船も
空の高みに生まれて
地面に叩きつけられるまでの時間を
測るようにして生きてきた
その最後の衝撃は雨粒ほどの音もたてなかったが
それともあれは上昇だったのだろうか
この世の一切合財を同時に感受しようとして
眩量に襲われることだけが
彼の才覚だった
-四元康祐『詩人たちよ!』
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m12gatsu · 2 days
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定型詩はつくられないのですか
恋人の名前を織り込んだ折句をつくってな、手紙に添えたことがあります。しかも文語で、口語訳まで載せて。風雅ですね。考えるの楽しかったです。
俳句つくりたい。つくってないけど。そのうち急に捻り出したら読んでください。結社誌に投句してた爺様の遺品から拝借した季寄せを持っています。時々ぱらぱらめくってみてるんです���面白いです。「コレラ」は夏の季語だとか、「猫の恋」は春の季語だとか。短歌は、鑑賞するのは好きだけど、自分でつくろうとは思いません。
定型が嫌なわけではないけれど、小説含む散文や広義の自由詩の中に再現性のない韻律を見つける方が好きです、ずっと昔から、うまくいえないんだけど。読むときも書くときも。
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m12gatsu · 6 days
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しあわせだったころしたように
あんたの母校の近くを通りかかった。駅前のロータリーはタクシーの1台もなく静まり返って、日曜の昼なのに、というか、だから、なのか。童夢みたいなでかい団地が囲繞する一帯があったかと思えば、安普請のアパートがいくつも並んでいる路地が不意に現れて、あの陋屋のひとつびとつ、似たり寄ったりのワンルームで、ひと頃の俺やあんたみたいな学生がくすぶっているんだろうと思うと、俺はなんていうか、死にたくなるというか、死ねばよかったって思う、思った。生きててよかった夜、死ねばよかった朝。汚れたスポンジを替えるタイミング、排水溝の髪の毛、隣の部屋の人の気配。尖ったまま折れたかった。透き通ったまま消えたかった。早すぎると気付いた時には遅かった。遅すぎると気付くのが早すぎた。何度かの狂言自殺を繰り返して、俺も、あんたも、10年も歳を取った。年齢も性別もあいまいな掠れた声で、まわりくどい、ただ好意を伝えようとしただけの言葉。閉じていく2人の間柄。雨の予報だったけど、降る前に帰ってきた。窓の外の雨は、地球の裏側で降る雨と本質的に変わらないと思った。
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m12gatsu · 8 days
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どうしてつらくなるのでしょうか
一切皆苦とか生老病死っつって、お釈迦様にいわせれば、生きていくことはすなわち苦しみだそうです。わかるー、と思います。生きていることはつらいし、つらいのは生きているから。「どうしてつらいのか」と問うのは、「どうして生きているのか」と同じで、生きているから生きているし、つらいからつらい。不毛なトートロジーに陥るので不毛です。不毛だから不毛。
何かがつらいときって、何かを期待していたときじゃないですか。こうありたかった自分と、そうじゃなかった自分に引き裂かれている自分がつらい。何を期待していて、何がつらいのか、という問いだったらもう少し探りがいがありそうです。
なんか宗教じみてんね。やめやめ。酒酒。
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m12gatsu · 8 days
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最近の楽しみはなんですか、あとスーパーカー好きですか?
日課の晩酌を控えて夜走ってます。楽しみっていうとなんかちょっと違うけど。夜風が気持ちいいです。あとJリーグの会員なりました。推しは東京ヴェルディ。どっかの個サル行きたい。身体動かすのは好きです。
車じゃなくてバンドの話ですよね、好きですよ。結婚式でcream soda流しました。最近車のCMでstrobolights流れてると思ったらyuiちゃんのカバーなんですってね。車の方は全然興味ないです。運転も好きじゃない、飲酒できないので。飲むから乗らない。乗らないから飲む。
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m12gatsu · 9 days
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はじめまして、こんばんは。早速ではございますが、ご著書の再販予定はありますでしょうか。どうぞよろしくお願いいたします。
ありがとうございます。あれは安部公房の私家版『無名詩集』みたいに暴騰してほしいので、再販はいたしません笑 あしからず。
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書影が良かったよね。またいつか何か作ったら、手に取ってもらえたら嬉しいです。
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m12gatsu · 9 days
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うつろう
炭酸水で休肝日の口渇をなぐさめる。うたかたの歌い方。泡が割れて、あはれ。フローリングに横たわって、成長期に飛び出した左膝の脛骨の丸みを撫でている。痛かった記憶。ワイシャツの袖口から、襟首のよれたヒートテックの袖がのぞいている。未明、中途覚醒すると、羽毛布団を剥いでいる。ここは季節の緩衝地帯で、いま何月なのか、一瞬わからなくなる。誰も気づかないような小雨が降る。太陽も雲も、うとましく思う。足の裏からつむじの天辺まで、自分の体の乾いているところ、湿っているところ、現在形でひとつずつイメージしていく。乾いたところは、つめたくて、かたい。湿ったところは、あたたかくて、やわらかい。
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m12gatsu · 10 days
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m12gatsu · 13 days
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無題
休日出勤。人のいないオフィスで午前中掘った穴を午後埋めるような作業に憂き身を窶した。退勤後、軽装に着替えて家まで走って帰ってみた。我ながら酔狂だと思う。八粁くらい。葉桜混じる川沿いの桜並木を南下して、大きな街道に折れたら後はひたすら真っ直ぐに行けば、やがていつも走っている橋梁に辿り着く。大体1時間半くらいかかって、日が暮れる前に帰って来ることができた。地図で見ただけではわからなかったけれど、坂道のアップダウンが多かった。下りの後には上りがあるし、上りの後には必ず下りがある。示唆に富んでいる。C'est la vieである。最初の下り坂を抜けると大きな池があって、その先に上り坂があった。窪んだ地形が水を湛えていつか池ができたのだと、身をもって理解した。言葉は走るものだから、詩人も走らなくてはならない。
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m12gatsu · 14 days
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春はけだもの
小型犬に吠えられた。万感の春である。中学生くらいの茶髪の女の子が、連れ合いのやはり茶髪の女の子に「〇〇(我が町)最近めっちゃフカしてるやついるらしい」と話しながら、駅前の目抜き通りをがに股で歩いていた。「フカしてる」が何を意味するのかはわからないが、俺のことだったらどうしよう。電車で眠りこけているおばちゃんの足元に小銭が散らばっていた。罠だと思った。後から乗ってきた赤いブルゾンのおばちゃんが親切に起こして教えてあげると、小銭のおばちゃんは赤面してお礼を言っていた。毎朝電車で少しずつ読んでいた、ちくまの漱石全集第1巻『吾輩は猫である』を読み終えた。20代のうちに漱石全部読もうと息巻いて、29歳の誕生日に自分で自分に買った。中絶に中絶を繰り返すうち結局1年経って30代に突入し、全10巻のうちの1巻をようやく読み終えた次第。4月も半ばである。目標は既に下方修正されて、30代のうちに全部読めたらよし。ブックカバー外したら背の上部が擦れてしまっていた。次巻は倫敦塔。
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m12gatsu · 17 days
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有る‼︎
吉祥寺で何度か亀川千代を見かけたことがあった。サンロードからホープ軒に折れる角のところですれ違った。当時の彼女がバイトしてたタワレコにも来たっていってた。井の頭線で目の前に姫カットのおじさんが立ったから亀川千代みたいだと思って、手元のスマホで亀川千代の写真を検索して見比べたらまさに亀川千代その人だった。まなこがほぼ正円で、ツンと尖った鼻筋がくちばしのようで、賢明なふくろうみたいだった。
日課の晩酌を辞めて、夕食後に外へ走りに出た。しかも2日も続けて。偉すぎる。近くの橋梁を3往復する。二粁と五〇〇米余になる。毎日続けようとも思わないし断酒したわけでもないけれど、春の夜風は気持ちよい。裸眼で見上げる橋梁のナトリウム灯がぼやけてきれい。
先に床に就いた家人を起こさないように引き戸を開けて暗い寝室に入り込むと、遮光カーテンが半開きで、磨りガラスの窓が戸外の白い光に明滅していた。規則性があるような、ないような、変拍子みたいな。車のパッシングのようにも見えたけれど、向かいのアパートの共用階段の照明が切れかかっているのだとすぐにわかった。呼吸が歌だ。鼓動がリズムだ。
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m12gatsu · 19 days
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無題
アニエス・ヴァルダみたいな髪型で、アニエス・ヴァルダみたいに鼻筋の綺麗なお婆さんがいた。アニエス・ヴァルダだったのかもしれない。
ベビーカー乗った嬰児が自分の手足をぢっと矯めつ眇めつするみたいに、寝そべって自分の手を見ていたらだんだんゲシュタルト崩壊してきて、指の数多い気がした。なんで5本? 
イヤフォン越しでも立体感のある、爆発みたいな、何かが崩壊したようなスケールのでかい音がどよもして、交差点で信号待ちしていた人たちも振り向いた。事故か何かかと思った。清掃員が自販機横のゴミ箱を開けて、ふくれたビニール袋を手繰っている音だった。坂下には桜の名所があって、そこへ行き来する人々が捨てた空き缶やペットボトルの音。空っぽだから大きい音が鳴る。なんかそういう教訓めいた説話がなかったっけ。
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m12gatsu · 21 days
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ね、むり
フリルみたいにひらいた春キャベツとあさりを大蒜で炒めて食べた。火を通したキャベツの黄緑が鮮やか。桜も今まさに満開らしい。ずいぶん日も長くなった。あさりの砂抜きはぬるま湯を張ったボウルに海水と同じくらいの濃度になる塩を入れてやると捗る、と家人に教わったけど、海水と同じくらいの濃度がどんなものかわからん、計るのも億劫で目分量でやる。アルミホイル等で蓋をして遮光してやると、さらに砂を吐くらしい。西向きの窓にテーブルを寄せて食器を並べているとき、何度か同じような光景を見たことあるような気がした。ウィルキンソンタンサンのうたかた。CharaがカバーしてるオフコースのYes-Noの、イントロとサビで八分を刻んでいる乾いたバッキングギターみたいな生活を過ごしたい。でも、一体、どのようにして。
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m12gatsu · 21 days
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無題
水泳教室の待合で、子どもが棒つきの飴を咥えて走り回っているのを見た。注意したろうかと思ったが、しかし、どんな言い方で。保護者を探して窘めるべきか。などと逡巡して結局何もできなかった。わたあめか何かの串が転倒した拍子に軟口蓋を貫いて、脳にまで達して死んだ子どものニュースを、いつか自分も子どもだった頃に見て恐怖したのをずっと覚えている。家人と子どもをつくろうと決めてから、往来の歩き煙草が気になるようになった。今日も歩いて家路を帰っている時に、臭うな、と思って顔を上げたら、前を行く男の頭から紫煙が上っていた。男は頻りに右手を顔の方に運び、やや上を向いて夕方の空へ美味そうに煙を吐いていた。俺もよく缶ビール片手にチルい気分でこの道を歩くので、男の気持ちはよくわかる気がした。男の歩調は俺よりもギアひとつ緩やかで、一歩ずつ距離が縮まっていく。男も俺も単身だった。歩き煙草はやめてほしいと、そんなふうに話しかてみる想像をした。いくら考えても俺が男に話しかける道理は思い当たらなかった。条例違反だから、という以外に俺が男を咎める理由もない。公共の秩序に基づく正義感というより、俺はもっと独善的な気持ちで受動喫煙のリスクを忌避している。男を追い抜く時、イヤフォンしているのが見えた。話しかけたら、当然男はひどく動揺するだろう、場合によっては逆上されるかもしれない、そう思うと、なぜか男を哀れに思った。俺はみじめな気分だった。男を追い抜いてしばらく歩き、道の突き当たりまで来て少し振り返ってみると、既に男の姿はなかった。曲がり角の無い、まっすぐな道で、男の家がそのどこかにあるはずだった。
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m12gatsu · 22 days
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こんにちは。最近丸橋さんの投稿を知って虜になって読みました。私もかれこれ3年ほど毎日iPhoneのメモにスクショで収まるだけの日記を書いてインスタに投稿したりしているけど、なかなか丸橋さんのようなスマートで豊かな文章が書けない、年齢のせいかしら、読んでる本の量かも、もっと人とナラティブすべきですね。
質問です。丸橋さんはたくさんの本を読んでるけど、何冊かを同時進行したりしますか?その場合これはトイレ、あれは通勤電車、それは入浴中とか分けてるんでしょうか、もしくは一冊ずつ完結させたいタイプですか?気になったので教えてくださいませ。
常に同時進行してます。併読っていえばちょっとかっこつきますか。一冊ちゃんと読み終えたいとは思うけど、途中で飽きたりもするし、別の何かに食指が動いたりもするからこの有様。Amazonのボール紙に入ったまましばらく開けないでいることもあります。いまはリビングのサイドテーブルに町屋良平の『生きる演技』が、寝床のヘッドボードに残雪の『黄泥街』が、通勤用の鞄にちくまの漱石全集の第1巻が入ってます。トレイにはマガジンラックがあって、ユリイカとか現代詩手帖とか、文芸雑誌を置いてることが多いです。
最近の共通テストの国語って、大問一つで複数のテクストを読ませて比較させたりするんでしょう。管啓次郎という詩人が、すべての文章は一冊の本という単位におさまらず、つながっている、という主旨のことを書いていました。この考え方が乱読の罪を贖ってくれる。途中で投げ出した本もすべて読みさしだと思えば、人生は常に読書の途中ではありませんか。
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m12gatsu · 24 days
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読書っていいことだとされているけど、私は本を読みすぎたことで現実とフィクションの境目が分からなくなって(ノンフィクションであっても本になる時点でドラマチックだし)、人間関係が上手くいかないことが多々あります。そのせいでもう何を読んでも、作者の意のままに物語が進んでいってるだけと感じて読書が楽しくなくなりました。同じ理由で映画も上手に観られません。フィクションや創作物と上手く付き合うコツ、意識していること、あるいは気にしていないことはありますか。
人間関係までも。大変だ。
たぶん、作家か、テクストか、という話かと思います。あなたのいう「作者の意のままに物語が進んでいってるだけ」 というのはきっと作家論ですね。作家原理主義って感じ。対して、簡単にいえば、あくまでも文章をそれ自体として作家とは切り離す考え方がテクスト論です。ロラン・バルトって読みましたか。僕は積みました。
どちらの方が作品に対する上手な付き合い方なのか、という議論は僕の手には負えません。ただ、僕がいつも意識しているのは、作品の「語り」であり、その「ナラティブ」です。どういうことかというと、たとえば、「吾輩は猫である」と語るのは漱石ではなく名もなき猫であるはずだし、「メロスは激怒した」と語っているのは決して太宰治ではない、「語り手」と呼ばれるような誰かではありませんか。私小説はどうですか。これも僕の手に負える議論ではないけれど、梶井基次郎の作品の語り手は梶井基次郎なのでしょうか。北町貫太って、根所蜜三郎って、長江古義人って、一体誰なんでしょうか。ウルフは「意識の流れ」という手法で『灯台へ』を書きました。それは果たして作者の意のままに書かれたものなのかしらん。森見登美彦の『熱帯』は、自分が今どこで誰の文章を読んでいるのか、それこそ見当識障害を起こしそうになります。
例を挙げたらキリがないけれど、映画にも同じような仕組みがあるはずだと思っています。ミヒャエル・ハネケみたいな定点の長回しが三人称の語りだとしたら、『桐島、部活やめるってよ』の最後の屋上の乱闘シーンは神木隆之介の手持ちカメラの視座、つまり一人称の語りとして受け取れる。作家性と切り離せないドキュメンタリー映画もたくさんありますね、森達也とか、原一男とか。
大江健三郎の『M/Tとフシギの森』という小説の中で、「僕」が村の伝承に耳を傾ける時、話し手の年寄りたちはこう前置きします。
あったか無かったかは知らねども、昔のことなれば無かった事もあったにして聴かねばならぬ。よいか? 
何度も繰り返されるこの問いかけに対して、「僕」は必ず「うん!」と感嘆符つきで答えます。物語との上手な付き合い方があるのだとすれば、これ以上の態度を僕は知りません。
街裏ピンクとか嫌いでしょう笑 うそつきだから。でも嘘だとわかって笑っている人もいるわけです。長くなりました。こういう話なら酒飲みながら俺ずっとできるよ。とりあえずオッペンハイマー観よう。語りを語ろう。
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m12gatsu · 26 days
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うれしい歌でかき消して
渋谷でKと痛飲。細君の懐妊をことほいだ。8月が予定日らしい。Kと同じ。週末の渋谷はおびただしい人の出で、ちょっとうんざりした。事変かと。暴動かと。もう渋谷で飲み明かす齢でもないのだと、円山町のラブホ街を歩きながら思った。3軒目にミッケラー行ったけどここも立錐の余地ないほど人が溢れ、2、3軒先のロック喫茶にしけ込んだ。隣席のスキンフェードの軽薄そうな男が、水商売風の軽薄そうな女に、満を持した様子で軽薄な愛の言葉を打ち明けていた。Kが何か職責にまつわる苦労をむにゃむにゃと赤い顔でくだまいていたけれど、俺は適当に相槌打ちながら、意識は左耳に集中させていた。笑顔が、すごい、いいなと思ってて、それを、ずっとそばで見てたいなと思って。男ははにかみながらそう囁いた。女の返事は果たしてイエスでもノーでもなく、しかし燥いだ様子で照れ隠しだかなんだか知らないが要領を得ず、いじらしいのだった。俺はゆっくり目を閉じて、充血した瞳がじわっと痛むのを確かめて、ふたたび目を開けてKの赤い顔を見やった。ラフロイグって海の匂いするよな、女性器みたいな味がするよな、とKにきいた。Kはイエスともノーともいわず、軽蔑を隠すように微笑むのだった。俺は昔同じことをKに話したことがあった。レンタカー借りて、北関東の渓谷でバンジージャンプした後に逗留した宿で、同じように痛飲しながら。Kの反応は昔と同じだった。憶えているか、とKにきいた。憶えていない、とKはいった。
虹色のレインコート着たシベリアンハスキーが散歩していて可愛かった。雨催いもよい。ピカピカのリクルートスーツ着てのっぺらぼうみたいな顔した新入社員の集団を、ぶち壊したくありませんか、なりませんか。俺はあれを見ると毎年いつもちょっと加虐的な気持ちになります。その両肩を掴んで揺さぶってやったら、その顔が俺だったりお前だったりする。いつかお前も、若い恋人たちの睦言に聞き耳立てるような三十路に成り果てる。お前や俺の両肩を掴んで、そう叫んでいる俺やお前がいる。
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