夢
目を開ける前から、違和感には気づいていた。
目を開けるまで、それが夢だと気づかなかった。
たわいもない夢だった。
この春異動してきた同僚に、後ろから抱きかかえられている夢。
初めて顔を合わせてから僅か3週間、書類を渡す時に指先が触れたかどうかすらも覚えていない、そんな希薄な関係性。
なのに、夢の中では彼の体温や腕の硬さ、右耳に少し触れた彼の、顎先にあった髭の剃り残しさえ、いやに生々しく感じられた。
目が覚めて寝床に起き直ったとき、真っ先に考えたのは、どうやって平静を保っていようか、と言うことだった。
もともと「わかりやすい」と言われる性質で、心の中で起こっているはずの動揺が容易に顔面に現れるらしい。今回も、たかが夢であっても、他の人がニヤつきながらどうかした?と聞きに来るであろうほど、心の水面に大きなさざ波を立てていた。
いやしかし、たかが夢だ、隠し通せる、と己に言い聞かせて職場に出た。
おはようございます、と口ごもりながら席に着いた。
おはよう、快活に同僚が返してきた。すると、席を立ち、こちらに歩いて来るではないか。触らなくてもわかるほど耳が熱くなっている。これはいけない、挙動不審になっている自分を俯瞰した。
同僚はそんなことを意に介さないように横を通り、傍の壁に取り付けられたスイッチを押して電気をつけた。
そして私の顔を覗き込んだ。てっきり顔が赤いのを嘲笑われるかと思いきや、「今日どうした?大丈夫か?」と体調を気遣う言葉を口にした。
少し驚いて彼の顔を見上げ、大丈夫と口にしようとしてはたと止まった。
彼の顎の先、やや左寄りの位置にある髭が数本、剃り残されていた。
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A bird in cage
Bird, bird,
You've flown far away,
Though I had an illusion that I caught you in a cage.
I see you in wide, open sky.
You look so free.
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